機種転換は…だって、そこに丁度いい機体がある訳だし…。
次号 まあ、酒の席だから…喧嘩ぐらいは…(ぐらい?)
11月26日 横須賀 厚木飛行場
厚木飛行場、終戦時の小園大佐(当時)の反乱があったこの場がその小園中佐が指揮する特設防空航空戦隊ら、第二機動艦隊麾下の各空母航空戦隊の機種転換が行われている場でもある。
格納庫で機体を整備する整備員を横目に発令所のドアを開ける。
「おはようございます、小園中佐」
「やあ、滝崎大佐。して、今日の『表の名目』と『本来の要件のお願い』どちらから入りますかな?」
小園中佐の意地悪な言い回しに滝崎は苦笑いを浮かべる。
「では…『表の名目』からお願いします」
「はっはっはっ、君も真面目だね。さて、機種転換の件だが、また陸さんの機体だが、鍾馗に負けん機体だよ、三式戦改『蒼風(そうふう)』はね」
史実では液冷エンジンの不足、そして、空冷エンジンを搭載可能な余地ある設計をした土井武夫技師により大戦後期に『五式戦』として採用される機体、それがいま、三式戦『飛燕』と並んで採用され、史実には無かった『蒼風』として、隣接する格納庫で整備員達が整備を行なっていた。
「特に急降下性能はピカイチだ。『飛燕』のエンジンを替えただけで、機体構造は一緒だから、当然と言えば当然だが…しかし、凄いね。我々が南太平洋で戦っている間、海軍は紫電改、陸さんは三式戦…しかも、『飛燕』液冷エンジンはイギリスのグリフィンエンジン搭載のⅡ型を、『蒼風』はドイツのフォッケウルフの空冷エンジンを積んでるものを採用とは…まあ、君が色々と口添えしたんだろうがね」
小園中佐の言葉に再び苦笑いを浮かべた。
そうだ、航空機開発において、一番のネックはエンジンだ。零戦、鍾馗、飛燕、紫電改…世に名の残る機体は日本も設計出来る。が、エンジン開発は自動車産業の兼ね合いもあり、日本は遅れをとっている。ならば、どうするか? イギリスやドイツ等の技術を取り入れるしかない。しかも、史実に比べものにならないくらいに関係性と物流網が確保されているから余計だ。
「実際、史実であれば来年に戦場に姿を現す筈だったF4UコルセアやP38ライトニングが戦況悪化により現れましたからね。ただ、コルセアもライトニングも機体の完成度が未完の状態で投入された為、我々はその出鼻を挫く事が出来ましたが」
「確かに…グリーン諸島で鍾馗と交戦し、神威が不時着水したのを回収したコルセアをいまデータ取りしているそうだが…2000馬力の次期艦上戦闘機候補らしいな。未成熟だったのはよかったが…アレが全力発揮された状態で多数が此方に向かって来るなど、悪夢にしかならん。鍾馗が対応したのは、結果的に正解か」
史実では厚木で空爆に来るB29やF6F、改良されたF4Uコルセア等と対峙する部隊の司令を務めていただけに、只の猪武者系では無く、理解が早い。
「なに、心配するな。神鷹隊も艶鶴の直衛隊も、赤松をはじめ腕と糞度胸は一流だ。海軍広しと言えど『鍾馗や蒼風を操る我らに敵うか?』と一航戦に喧嘩売る奴らがいる限り、空の護りは気にせんでよい」
そうで無ければ困る…が、一航戦に喧嘩はやめてほしい。出来れば。
「でだ。『表の名目』はこれでよいとして…『本来の要件』で『お願い』とは?」
「あはは…実はですね…」
その日の夜 午後6時半頃 横須賀の街中
「はっはっはっ、まさか、『ウチの連中の飲み屋に行きたい』とは…そんな、気恥ずかしそうに言わんでもよいでしょう」
日が暮れ、訓練や勤務を終えたパイロットや搭乗員、更に港街である為、水兵を含んだ船乗り達が『終わりの一杯』の為に街へ繰り出す。
その中に小園中佐は滝崎の背中をバシバシ叩きながら歩いていた。
「いや、なにせ、曲がりなりにも、こんな若輩に大層な階級がございますので…日頃の御礼をしたくても…どうも…」
「なるほど、なるほど…して、後ろのレナータ大尉は?」
滝崎の後ろからひょっこり現れたレナータにニヤニヤしながら小園中佐が訊いてくる。
「……付いて来ただけです」
「だって、マサローが『酒場に行く』って言うからね〜」
「なるほど…大佐はモテていますな」
「んん…行きましょう」
滝崎のわざとらしい咳払いで3人の歩みが進む。
そして、小園中佐の先導で歩き、ある飲み屋の前で止まった。
「ここが、神鷹隊と艶鶴直衛隊の御用達の飲み屋です。さあ、どうぞ」
そう言ってから手慣れた様子で小園中佐は暖簾を潜り、滝崎とレナータを促す。
中では既に神鷹隊と艶鶴直衛隊の面々が酒盛りを始めて…出来上がっていた。
そして、小園中佐が入って来ても反応しなかった彼らも滝崎とレナータが入って来たのには反応した。
「気をつけ!」
叩き上げのベテランである望月特務少尉が飲みながらも警戒していたのか、真っ先に気をつけを掛ける。
そして、その声に反応した神鷹隊と艶鶴直衛隊が立ち上がり敬礼をする。
「あ…お邪魔してすみません…どうぞ、どうぞ」
「休め。ほら、皆。気にせず続けろ」
軽く返礼してから気不味そうに言う滝崎と慣れた様子で続きを促す小園中佐、そして、ニコニコと手を振るマイペースなレナータ。
「…凄い気不味そうです」
「はっはっはっ、なーに、酒盛り騒ぎの場数はあっちが上です。気にせんでも大丈夫ですよ」
唯一空いている隅の席に案内しながら、豪快に笑う。
「で、何にします? それとも、『日頃の御礼』に相乗りして、皆の会計を持つ代わりにお任せにしますか?」
「…そうします」
任せる事にした。
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