次号 エンタープライズ
12月12日 横須賀 厚木飛行場
冬の晴天の下、厚木飛行場には第二機動艦隊の主要メンバーが揃って待っていた。
「……あと何分ぐらいの予定?」
「予定通りなら…あと約10分程の筈だ。イタリア人が時間通りに来るかどうかは…甚だ怪しいがな」
「大丈夫、大丈夫〜。女性との待ち合わせと、デートには遅れて来ないって!」
「……いや、今日はその何方でもないぞ」
滝崎が時間を訊き、エーディトが真面目に答えながら疑問を言い、レナータがその疑問に答え、松島宮がその応答にツッコミを入れる。
そして、この会話からも解る通り、滝崎ら何時ものメンバーと第二機動艦隊の主要メンバーが待つのは新たに肩を並べ、そして、背中を預けて戦う外国人達、『イタリア空軍義勇航空隊』のパイロット達と整備士達、パイロット達が乗って来る機体を。
「にしても、山本総長も大胆な事をしたね。義勇航空隊を丸ごと第二機動艦隊に預ける…まあ、バラバラにする訳にはいかんしな」
「はい。しかも、全機液冷機体、故に整備員も慣れたイタリア空軍整備員達…よくもまあ、重油提供だけで、こんな太っ腹な事を山本総長は引っ張る事が出来ましたね」
角田中将のボヤキに小田切中佐の返答と山本総長への太っ腹に疑問符を浮かべる。
「あー、多分、それはイタリア国内向けのプロパガンダも兼ねて、かと」
苦笑いを浮かべながら滝崎が答える。
実際、史実と違い第二大戦に参戦していないイタリアは戦争疲弊や弱体化もなく、米英とも比較的友好関係にあり、現状唯一の行動としては独ソ戦線への義勇軍派遣程度であった。
であるが故にムッソリーニとしては『強いイタリア』を見せる場面が余りない。独ソ戦線の義勇軍も装備差と防衛・遅滞にドイツ軍が主眼を置いている為、宣伝出来る要素に欠けている。
対して、『義勇航空隊の派遣』…表向きには『日本・イタリア軍との共同訓練』ならば、宣伝出来る。しかも、航空隊だけでなく、イタリア軍が世界に誇る山岳部隊『アルピーニ』などイタリア陸軍部隊が日本陸軍と現在共同訓練を行なっている。
「政治と外交の結果か…作戦参謀の得意分野だな」
「角田中将、この件に『作戦参謀』は要らないかと」
角田中将の一言に滝崎が反論し、周りが笑う。もう、定例になりつつあるやり取りである。
「ん〜〜…あっ! 来た来た! 来たよ〜!」
裸眼で来る方向を見ていたレナータが叫ぶ。
直ぐに他の者達も双眼鏡でレナータが指差す方向を見る。
すると、まだ機体はハッキリしないが、航空機らしき黒点がポツポツと見え始める。
「さすが、彼女は現役のパイロットだから、目がいいな。ところで…機体は神鷹隊と艶鶴の鍾馗隊の『蒼風』の原型機だったな?」
「はい。陸さんの三式戦『飛燕』です。ヨーロッパ諸国が液冷機体であるから白羽の矢が立ったとの事です。川崎の方から飛んで来る予定ですから」
角田中将の問いに小田切中佐が答えた。
暫くして 滑走路
「義勇航空隊司令のアドリアーノ・ヴィスコンティ少佐です。イタリア義勇航空隊として、日本帝国海軍第二機動艦隊所属で派遣されました。どうぞ、よろしく」
ヴィスコンティ少佐以下予備人員を含めた48名のパイロットとその乗機である三式戦『飛燕』Ⅱ型の艦上機型48機、その整備の為にイタリアから来たイタリア空軍の整備員(+主計将校などの事務・後方支援要員達)が並んでいた。
「第二機動艦隊司令官の角田中将だ。ヴィスコンティ少佐ら義勇隊の来航を歓迎する。貴隊の配属艦はまだ解らないが、よろしく頼む」
そう言って角田中将がヴィスコンティ少佐と握手を交わす。
そして、次は松島宮の番になる…と、空気が明らかに変わった。ヴィスコンティ少佐以下、パイロット達や整備員達らの中でも『お偉いさんの前だから』と形だけの気を付けてをしていた者達が背筋を伸ばし、直立不動となる。当然かも知れない。日本のインペラトーレ(皇帝)の一族にして、フィンランド湾の英雄、教皇猊下とイタリア国王陛下に謁見した高貴な軍人、そして、緒戦でアメリカ太平洋艦隊主力を数的不利を覆して勝利した指揮官…背筋が伸びない筈がない。
「……あー、うん、コホン…あくまで皇族で、指揮官の一人として、挨拶をする。貴君らはムッソリーニ閣下が太鼓判を押すイタリア空軍の精鋭パイロット達として派遣された事だろう。その腕を我が国の為に貸してくれる事に感謝し、来訪を歓迎する。以上」
空気の変化に松島宮は一瞬ビクついたものの、軽く咳払いをして仕切り直し、短い挨拶を終える。
そして、レナータが滝崎を肘で軽く小突いた。
「いいの、あれ? 松島宮に挨拶させたから、ヴィスコンティ少佐達のやる気と名誉心に火を点けたわよ? イタリアの男は名誉が絡むと変わるんだけど」
「『女と自身の名誉にはイタリア人は命を掛ける』と誰かから聞いた様な気はするが…あれ、トリガー引いたのか?」
「なら、普段からそうしてほしいのだがな。特にレナータ、お前はそれに触発されてな」
「え〜、そこで私の事絡める必要あるの?」
「お前みたいなイタリア人を更に大人数抱えるよりマシだ」
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