では、少し早いですが、今年も1年ありがとうございました。
良いお年を。
一応、明日も書けたら、投稿します。
8月6日 ウランバートル ソ連軍司令部
「……やられたか」
『北樺太陥落』の報にジューコフはそう呟いて頭を抱えるしかなかった。
そもそも、石油採掘施設があるとは言え、歴史的に流刑地であり、警備部隊程度の部隊しか配置していない北樺太に本格的進攻を止める戦力などなく、更にモスクワでの外交交渉の場で『日本側が間接的に示唆していた』にも関わらず放置していたのだから、文句など言える筈もない。
それでも進攻された8月1日に『日本軍による労働者への弾圧行為だ』と外交部が抗議したが、そもそも日本側が定例会見の場で示唆した事を公言していた事もあり、諸外国の反応は『そっちが始めたんだから、自業自得だろう?』と冷淡な反応しか返ってこなかった。
そして、この日本側の動きは諸外国も含めて、『国境紛争が戦争になってもいい』と言う事を容認していると言っていいのだ。
(どちらかと言えば、ドイツが再び動き始めた事に対処しなければならない為、『嫌いなアカの事なんてどうでもいい』と放置しているとも言えなくもないが)
「失礼します、同志ジューコフ将軍。モスクワのクレムリンからの返事が来ました」
「そうか、で、なんと?」
「『イエット(否)』…と」
「……だろうな」
状況打開の為の大規模増援要請の返答を士官から聞いて、ジューコフは溜め息を吐きながら納得した。
そう、余りにも状況が悪すぎるのだ。『悪い』から『最悪』に転び落ちた(或いはジョブチェンジした)のである。
「それと….同志プジョンヌイ元帥より、将軍への私信です」
「プジョンヌイ元帥から…見せてくれ」
自分を推挙してくれた上司からの私信を一読したジューコフは士官に指示を出した。
「同志スターリンの代理と言う事での指示だが、私はヨーロッパ方面に異動、後任に任せろ、との事だ。なお、確保したハルハ河東岸を含めた紛争地域からモンゴル軍部隊を含めた全軍を撤退させよ、との指示だ」
「そんな! 奪取した陣地や地域を放棄しろと!?」
「それが敵の戦略だったんだ。最後まで付き合う必要もない。それと、先程も言ったが、『同志スターリンの代理』であるプジョンヌイ元帥の指示だ。つまり、同志スターリンも容認している…後は、わかるな?」
「……わかりました。全部隊に通知します」
ジューコフ元帥の言葉に悔しそうに士官が応え、退室する。
「ドイツに仲介を頼んで、停戦交渉に入る…か。此方の敗北は確定だな」
1人になったジューコフはプジョンヌイ元帥の私信に書いてあった、『幕の下ろし方』を思い出して呟いた。
現状、ソ連軍は『ヨーロッパ方面を無視すれば』反撃は可能であった。
しかし、それが出来ない事は自身がヨーロッパに異動する事、更に『ドイツが仲介に入る』事で察していた。
数時間後 満州 哈爾浜 関東軍司令部
「ほう、『ドイツが間に入る形で停戦交渉をする』と言う事になったか。北樺太を攻略した『外交的意義』も出来た訳だ」
陸軍参謀本部からの通知に小畑中将はニヤリと笑う。
「それにしても、偶然とは怖いものですな。滝崎君は石油資源、小畑さんは戦略の観点から、『北樺太攻略』を考えていたとは」
小畑中将の言葉に石原少将が言った。
「日本の直接的な破滅への要因がアメリカの禁輸政策だったからな。自前の確保も必要だった訳だし、彼も支持してくれたのもあって、私も助かったよ」
『北樺太攻略』について、小畑中将は滝崎に相談をした訳だが、滝崎はオハ油田の確保(と揚陸作戦への経験値稼ぎ)、小畑中将はソ連への揺さぶり(と諸外国に対する正統性への納得)と言う観点から、『理由は違えど、目的は一緒』だった事もあり、すんなりと承認された裏事情もあった。
「さて、ほぼ決着もついた様だし、事務処理を含めた戦後処理に取り掛かろうか。特に戦訓の洗い出しはしっかりせんとな」
「東條さんみたいに上手く出来るかは解りませんが…まあ、やれるだけはやりましょう」
小畑中将の言葉に石原少将は苦笑いを浮かべながら言った。
その日の夜(日本時間) 帝都 とある料亭
「とりあえず、山場は越えましたな」
「はい。後は停戦交渉が纏まれば、滝崎君の世界での『ソ連軍に惨敗した日本軍』の汚名は避けられますな。本当に、滝崎君には感謝しかありませんよ」
山本次官の言葉に永田次長が応える。
「それを言ってしまえば、彼はこう言いますよ。『感謝を言うには早い。我々は試練の一つを達成しただけで、まだまだこれからなんです』とね」
「なるほど、確かに彼なら言いそうだ」
ウンウンと頷きながら、永田次長は山本次官の杯を受ける。
「さて、そうなりますと、『次』についてですが…如何ですかな?」
「陸軍の第一陣は既に…まあ、海軍さんの様にあからさまには無理なので、苦労はしましたがね」
「本来なら、我々が護衛すべきなんですが…まあ、第二陣以降は海軍がしっかり護衛しますので、ご容赦を」
「わかりました。その際はよろしくお願いします。しかし、いよいよ、彼の歴史とは『違う事』をしますね」
「えぇ、本来なら、我々は支那事変で忙しく、とても余裕などなかった。今回のノモンハンもその一例であり、余裕がなくなった一因でもある」
「……さて、後世の歴史家はどう評価しますかな?」
「さあ…それは全て終わってからの話でしょう」
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