次号は戦後処理と帰還。
2月6日 早朝
大田大佐からの指示で陸戦隊は直ぐに、しかし、出来る限り音や反射光を出さない様に戦闘用意を整える。
「でだ、お前の目算は?」
「夜明けまで数時間、夜間でも航空支援があるなら、充分に耐えられる」
松島宮の質問に滝崎は自分の38式歩兵銃を点検しながら答える。
何度も言っている通り、この侵攻攻勢は『足止めされた』ら自壊し、失敗してしまうのである。
そして、今この場に展開している呉鎮守府第6特別陸戦隊は臨時編成であった陸戦隊を『常設』編成にしたからこそ『特別』を名称に入れた、陸戦専門の部隊。
(史実なら盧溝橋事件から繋がる第二次上海事変を契機に編成されるが、そこは滝崎の助言あっての事である)
大田大佐率いる第6特別陸戦隊は銃火器以外に97チハ改2輌、山砲、速射(対戦車)砲、迫撃砲、97式20㎜自動砲、無反動砲を保有している。
特に無反動砲は98式37㎜軽砲の他に、『実地試験』とばかりに新型の100式57㎜軽砲(無反動砲)2門を保有していた。
故に下手な事をしなければ防衛は可能である。
「なるほど…じゃあ、やるしかないな」
そう言って松島宮は100式短機関銃の点検を終えると弾倉を差し込んだ。
少しして
「………」
司令部の哨戒所から大田大佐はじっと前方に視線を向けていた。
既に部隊の戦闘準備は完了している。
上陸作戦を含めた陸戦を専門とする特別陸戦隊は、新編成と言う事で比較的に新装備を導入していた。
小銃は38式歩兵銃と98式騎(兵)銃の半々、サブマシンガンも100式短機関銃とトンプソンM1928マシンガンと銃火器に関しては新しい。(機関銃関係は既存品)
これに上記した装備もあり、『海軍陸戦部隊の骨幹』として大田大佐ら海軍内の陸戦専門家を中心に順次編成されている。
故に今回の防衛戦は海軍陸戦隊の未来すら決めかねない戦闘であった。
だが、大田大佐に何の不安もなかった。
それ特別陸戦隊設立にあたり、『先の事』を聞いているが故のある種の『達観』であるとも言える。
そして、ソ連軍戦列をギリギリまで引き付けると……彼は静かに右手を振り下ろした。
1時間後
「前衛を追っ払ったら、意外と早く本隊が現れたな」
前衛の歩兵部隊の侵攻を撃退し、点検と弾薬補給を終えて暫くすると後退した歩兵部隊と後続の本隊が現れる。
それを松島宮は眺めながら呟く。
「と言っても、彼らがわかっているのは『防衛部隊がいる』と言うだけだ。それ以外は…おぼろ気な数を把握しただけで、わかってはいないさ」
そう呟き滝崎は弾薬の確認をしながら答える。
先程の前衛の撃退に際して、大田大佐は銃火器と擲弾筒以外の火器の発砲を禁止している。
これはソ連側に戦力を悟られない為だ。
(そもそも、前衛に全てを教える必要はない)
「で、この後はどう読む」
「此方が歩兵のみの防衛部隊だと思ってるだろうから、戦車を前に出して、砲列敷いて、正にごり押しの典型をやるだけさ」
そして、この場合、氷上を進む必要上、下手に重量のある重砲は運べない以上、運べて使えるのは野砲までだ。
何度も言う様にこのソ連軍の攻勢は『時間制限がかなりシビア』で有るため、最初から鈍重な物を持ち込んでいない。
「故に『時間稼ぎ』の第一段階は完了だ。後は此れからの本命をどれだけ叩いて、露助を足止めし、諦めてもらうかだ」
滝崎の言葉を繋げる様に大田大佐がやって来て言った。
「大田大佐…何故此方に?」
「将来ある若手の働きぶりを見に来た、ではダメかね?」
「「いえ、別に」」
大田大佐の答えに2人がハモりながら答える。
「それともう一つ、艦隊から航空支援がやって来る。既に勝ちは確定だ」
ニヤリと微笑む大田大佐に2人はこの先が予想出来た。
更に数十分程の時間を掛け、戦車を先頭に戦列と砲列を敷いたソ連軍は収容した先遣隊と現段階で到着していた部隊で前進した。
ソ連軍の思惑としては『歩兵と限られた火器』しかない防衛部隊に対して、戦車を盾にした戦列を前進させ、射撃を開始した防衛部隊に対し、機関銃座やトーチカに野砲のピンポイント射撃を実施し、ある程度沈黙させたところで山砲や迫撃砲と合わせた制圧射撃を実施し、防衛部隊を撃滅、続々とやってくる後続部隊と共に上陸するつもりだった。
どこか消極的な砲撃方針なのは弾薬量が少ないのも然ることながら、やはり不動な土の地面ではない氷結した氷上と言う不安定な要素(射撃衝撃で割れる恐れがある)を避けたかったからだ。
だが、その思惑も陸戦隊が射撃を開始するまでだった。
銃火器と共に隠す必要もなくなった火砲(チハ改の47㎜戦車砲、無反動砲を含む)をソ連軍戦列に向かって撃ち始める。
装甲の薄いBT戦車やT-37水陸両用戦車が撃破・炎上し、後ろの歩兵戦列に山砲や迫撃砲の曲射射撃が降り注ぐ。
この光景を見た部隊指揮官は慌て砲列を指揮する砲兵指揮官にこれに対処する様に命じた。
しかし、砲兵指揮官からすれば擬装隠蔽された火砲を見付けてピンポイント射撃を行うには距離があり、また、予定を変えて制圧射撃を実施するには特に野砲の弾薬量が心配だった。
この為、砲列を前進させる事を選択したが、その命令を下した瞬間、無慈悲が襲い掛かる。
天城、赤城の攻撃隊が到着し、砲列と続々と到着・待機していた後続部隊に銃爆撃を実施した。
砲列が火砲・弾薬・砲兵と共に吹き飛び、後続部隊が薙ぎ倒される。
氷結した氷上では穴を掘る事も出来ない為、伏せるか走り回って逃げるぐらいしかない。
この状況では指揮官の指示など必要なく、ソ連兵達は各々で逃げ始める。
ソ連側からすれば空襲が開始された時点でこの氷上侵攻は失敗であり、継続など不可能であった。
そして、この時点でソ連側のスケジュールでは『ギリギリ間に合う瀬戸際』であり、これ以上の遅延は不可能だった。
故に……ソ連軍の氷上侵攻は『失敗』が確定したのだ。
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