5月10日 英国表敬(フィンランド派遣)艦隊、呉軍港に到着。
同日、同艦隊解散。
翌日 5月11日 呉軍港 連合艦隊旗艦加賀 長官公室
「すまないね。後片付けでゴタゴタしている時に呼び出して」
「いえ、出来る限りの片付けは帰還中にやっていましたので」
堀長官からの呼び出しにやって来た松島宮と滝崎。
「先ずはボフォース40㎜機銃、並びに M2機銃のライセンス生産は確定となった。ボフォースに関しては当分輸入だがね」
「それについては朝顔の乗組員達の手柄、と言う事で」
堀長官の言葉に滝崎が言う。
「そうか…謙遜する事ではないが、君が言うなら、そう言う事にしておこう。さて、次だが…あのイタリアからの研修武官も関わる案件だ」
「と、言いますと?」
「かの研修武官を含めた陸海軍への研修要請、加えて外交面では通商条約等の締結の打診だ。向こうが積極的に動いていてな、詳細は五十六が知ってるが、既に技術交流だなんだの話も出ているらしい」
堀長官の説明に松島宮も滝崎も顔を見合わせる。
「なあ、滝崎。もしかして、私は余計な事をしたか?」
「いや、まあ、そもそも、ムッソリーニ閣下が会談を申し込んでくる事自体がイレギュラー…想定外だったから、これは不可抗力なんだけど…すみません、堀長官、技術交流も視野に入っていると言う話、本当なんですか?」
「うむ、具体的に何かまでは不透明ではあるが、イタリア側からの打診は本当だ。五十六もこの件に関しては君の意見が必要だと言っていたが…その様子だと、何か思い付いたかな?」
「はい。史実のイタリアは確かにパッとはしていません。しかし、特殊部隊の作戦行動についてはドイツに並んで残っています。特に潜水艦から潜水スクーター…和訳すると、小型水中推進機となりますかね? これらを用いた海中からの侵入・爆発物設置、艦船等の破壊活動など、20世紀後半の大規模軍事作戦における『敵への撹乱・破壊工作』定義を作った事でも有名です」
堀長官の問いに滝崎は答える。
それに合点がいった松島宮が口を開く。
「なるほど、それらの技術や技量を何かしらの形で手に入れようと言う訳だな? 特に海軍国家の我々なら、『水中からの侵入・破壊工作』を手段として組み込むのは無駄ではない」
「そうだ。まあ、これは陸軍にも必要と言えますから、イタリアが誇る山岳部隊『アルピーニ』と共に教えを請うべきかと」
「ふむ、それは陸軍との擦り合わせが必要だが、面白い話だ。他には?」
「あと、これは戦後の話ですが、冷戦期からイタリアは西側諸国の海軍艦艇に採用される高性能な速射砲を開発しており、現段階でも艦砲の開発能力は優秀です。実際、今月末就役のヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の38cm砲は射程距離ならば我が方の大和型戦艦の46cm砲と同等です」
「確かにその話は重要だな。陸軍や航空機の活躍で不機嫌気味な砲術科を宥める事にもなる」
堀長官の言葉に滝崎は苦笑を浮かべながら話を続ける。
「また、此方は陸軍関連になりますが、ムッソリーニ閣下はイタリア国内において自国産自動車の啓発活動も行っています。我が国もいずれ国産車を開発する予定ですから、技術提携を行ってもよいかと。実際、戦後にイタリアは優秀な装輪装甲車等の軍用車輌を開発・製造しており、対英仏戦が始まる関係上、ドイツからの購入が先細りになりますから、イタリアから研究・運用試験名目で多数購入してみるのも良いかと…何事も経験でありますから」
「あっはっは、君の提言でなければ、陸軍が怒るだろうな。まあ、それは五十六を通じて陸軍に言ってみよう。でだ、今のところは軍関連が多い。政府や省庁を『表向き』説得するには偏りがあるが、そこについては?」
「それについては…松島宮の行動に同調させていただきます」
「…はあ? なんで、いきなり私なんだ?」
いきなり話を振られて理解出来ない松島宮。
「なるほど…対米、対ソ連、どちらにしても、バチカンを味方にしておく事は有利に動く。そして、お膝元のイタリアを抑えておく事も重要と言う訳か」
「えぇ、バチカンの情報収集能力と影響力は絶大です。また、ムッソリーニとイタリアにとって、ソ連は敵であり、共通の敵がいる以上、味方が多い方がいい。せっかく、松島宮のお陰でイタリアでの日本の株が上がったんですから、それに便乗してしまいましょう」
「…おかしいな、なんだか悪用されてる気がする」
堀長官の納得と滝崎の補足を聞いて微妙な表情をする松島宮。
「うむ、わかった。その件については五十六に言っておこう。次にドイツの話になるが、先方から『既存協定の枠内拡大』の打診があった。多分、冬戦争の結果を見て、対ソ連牽制に使う気だろう。まあ、我々にとっては損にならない話だから、受け入れる予定だがね」
「ドイツ側が…ちなみに、先程のイタリアの件とあわせて、イギリス側に通知は?」
「チャーチル卿にはそれとなく伝えてある。ドイツの件は『直接的脅威にならないなら、日本の判断に任せる』だそうだ。イタリアの件は『イタリアが要らん事をしない様に牽制にもなるからやってくれ』と」
「チャーチル卿らしい回答ですね」
松島宮が苦笑いを浮かべる。
「とまあ、外交関連で話せる事はここまでだ。後は個々の話だが…ドイツ関連で一つ話しておかないといけない事がある」
先程とは違い、別な意味で真剣な表情で話す堀長官。
「…何か問題でも?」
「いま、呉で購入したシャルンホルストの空母改装をやっているのは知ってるな? フィンランドの件で向こうの技術将校や技官と言った連中が来ているが、その中に1人だけ、れっきとした士官が混じっている」
そう言って堀長官は2人に経歴書を差し出す。
「えーと、名前が『エーディト・アウエンミュラー』。階級は中尉、軍規その他違反事項なし、と」
「ふむ、ドイツ東部ユンカー(地方貴族)家出身、父親は資産家か…中流階級と言ったところか」
「「にしても、生真面目さが写真からも出てますね」」
経歴書を見た2人の最後の感想がハモる。
実際、手本とばかりのガチガチな直立不動に『これ、規律にうるさいパターンだな』と2人は認識する。
「それで、わざわざ出してくると言う事は、この士官がスパイであると?」
「我が国の内情を探る為にな。特に君の事が漏れると色々面倒だ。本人自身は本来の任務のシャルンホルスト改装具合の観察で付きっきりだから、近付かなければ大丈夫だが」
「堀長官、実は明日、バルロッティ中尉と共に見に行く事になってまして…」
松島宮の言葉に堀長官は『仕方ないか』と言いたげに納得した様に頷く。
「わかった。2人共、気を付けてくれ」
「どこまで気を付けれるかは解りませんが、了解です」
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