なお、後半が甘いです。ご注意を。
5月13日 岩国~横須賀間 上空
朝顔をドックに入れ、色々と手続きを終えた滝崎と松島宮はレナータ、エーディトの2人と共に機上の人となっていた。
滝崎、松島宮は高松宮邸に戻る為、レナータは到着の報告、エーディトはレポートの提出と言う事で各々の大使館のある帝都に向かう為だ。
本来なら、汽車で2等客車の切符でも買ってのんびり戻るつもりだったのだが、堀長官から『フィンランドとイタリアの件で、特に松島宮殿下の顔が割れてる。下手に要らん連中(文屋等のマスコミ)に見付かると面倒になる』からと、わざわざ4人の為に輸送機を手配してくれたのである。
そして、機内はと言うと……。
「…………」
「…レナータ中尉、エーディト中尉はなんであんなふうなんだ?」
乗る前から魚が死んだ様な目で、乗ってからは絶望顔で顔を伏せているエーディトに滝崎は(知り合いであろう)レナータに訊いた。
「まあ、単純な話で昨日の件が尾を引いてるからね」
(多分)一番の原因である本人は他人事の様に答える。
「…………これでクビになったら、お前を殺して私も死ぬ」
「…あー、うん、気持ちはよーく解るが、それはやめてもらえないかな」
『何処のヤンデレの言葉でございますか?』と滝崎はツッコミを入れたかったが、言っても意味が解らないし、そもそもそんな呑気な空気ではないのでやめておいて、現実的に対応する。
「まあ、知り合いとの痴話喧嘩をわざわざドイツ大使館に報告し、派遣武官を交代させる、なんて無駄で手間な事をする気はさらさらないのだがな」
苦笑いを浮かべながら松島宮が言う。
実際、昨日、事後処理後に堀長官へ報告に出向き、その場の3人で決めた(エーディトへの)今後の方針は『現状のままにして、出来る限り手元で見れる範囲に置く』と言うものだった。
そもそも、昨日の(痴話喧嘩での)やり取りが本当ならば、エーディトはSSこと『(ナチス)親衛隊』であり、『身分を偽って来ている』のはドイツ海軍も承知な事だから、彼女を帰らせたところで、別の『探り者』が来るに決まっている。
ならば、此方は知らないふりをして、情報が漏れていないかを観察した方がマシ…となった訳である。
これは彼女の性格上、報告先の第一候補がドイツ大使館であり、『ゾルゲ事件』の事もあり、ドイツ大使館は監視対象下にある事も、彼女を下手に排除しない要因の一つだった。
「………それを聞けて一安心出来た。だが、目先の一番の問題はその問題児の親戚が近くにいる事だ」
ようやく顔を上げたエーディトは苦々しい視線をレナータに向けながら呟く。
「昨日から気になってたんだが、2人ってどう言う知り合いなんだ? まあ、親戚であるのは解るんだが」
「私のお婆様のお婆様が、エーディトのお爺様のお爺様に嫁いでからの血縁関係よ。まあ、正直、薄いと言えば薄いけど」
「その後も親戚同士で婚姻やらのやり取りがあったであろう…だから、血は薄くとも、繋がりは太い。まあ、同い年だったのもあるが…まさか、こんな翻弄者になるとは思わなかったがな」
滝崎の問いにレナータが答え、呆れながら補足と愚痴を入れるエーディト。
「……まあ、ヨーロッパの王侯貴族の定例と言えば、定例か。あ、いや、日本もそうではあるが…」
「やめておけ、ヨーロッパと日本では個人的意識すら違うからな。それより、2人は各々の用事を済ませたら、私の叔父様の邸宅に来てもらう。今後、帝都に居る間の宿泊は叔父様の邸宅を使える様に取り計らってもらったからな」
「「……えっ?」」
松島宮の言葉に顔を見合わせるエーディトとレナータ。
2人の立場、そして、エーディトの『監視と観察』を考えた結果、『高松宮殿下の邸宅で寝泊まりしてもらう』と、こうなったのである。
まあ、2人はその『叔父様』が高松宮殿下とは知らないのだが。
「…なら、遅く着いたらダメだよね?」
「いや、空路だから、下手な事がなければ大丈夫な筈……まさか、お前…」
レナータの言葉に何かを察したエーディトの表情が固まる。
そんなエーディトを他所にレナータはニコニコ顔で座席から立つとさも当然とばかりに言った。
「じゃあ、ちょっと久々に操縦桿握ってくるね~」
ヒラヒラと手を振りながら操縦室に向かうレナータ、取り残される3人。
「い、いいか! 振り回すな! 絶対に振り回すな!! これは輸送機なんだからな!!!」
「はいはい、ここは日本だし、そこはわきまえてるよ~。まあ、どーんと任せて」
エーディトの絶望顔の『お願い』も軽く受け流すレナータ。
「……そう言えば、発進前に整備員達や操縦士ら搭乗員とレナータ中尉が話してたのを見たけど…実は既にその気だったみたいだね」
「…なんだろう、アウエンミュラー中尉、貴官の気苦労が解った気がするのだが?」
「…あれはまだいい方だ。付き合いが長くなればなるほど、その理由が解るぞ」
…妙な連帯感が3人に生まれた瞬間だった。
その日の夜 高松宮邸
「ふぅ~、極楽、極楽~~」
湯槽に浸かりながら呟く滝崎。
レナータの『安全な操縦(?)』で横須賀に到着後、各々用事を済ませ、高松宮邸で高松宮殿下を2人に紹介(2人は流石に固まった)し、一段落付いた後、久々の家風呂を楽しんでいた。
「……にしても、こんな両手に華、しかも、3束って………やめよう、口に出したら、どっか行きそうだし」
ついつい転生前と比べてしまう滝崎。
そこにゴソゴソと音が聴こえ、引き戸の方に視線を向けると同時に引き戸が開く。
「…えっ? 松島宮!?」
「んん!? た、滝崎!? 入ってたのか!?」
そこには入浴の為にタオル一枚の松島宮がいた。
「あ、いや、き、君こそ先に入ったとばかり…」
「少しのつもりが、読み物を読むのが長引いてしまって…」
「そ、そうか…あー、うん、出るわ」
「あ、あぁ、無理はするな! そのまま浸かれ! 私も浸かるから!」
「わ、わかった、わかった」
出ようとした滝崎を押し留め、掛け湯の後、入る松島宮。
「「…………(は、話がしずらい)」」
さっきの事が事なので、どうも声を掛け難い。
「そ、そう言えば、こうして入るのは初めてだな」
「あ、う、うん、そうだね。さ、流石に…ね」
「あはは……そうだな……」
……………………
((ダメだ! 会話が続かない!))
お互いに気まずい雰囲気に内心自分ツッコミが入る。
「な、なあ、滝崎?」
「ん、な、なんだい?」
「そ、その…私は綺麗か?(…いや、私は何を言っているんだ!?)」
「へっ? あ、いや、綺麗だよ…もちろん(おい、おい、何を訊いてる!? そして、何故答える!)」
「そ、そうか……ありがとう…」
「あ、う、うん…すまん、逆上せそうだから上がるわ」
「あ、あぁ、気を付けてな」
………こうして、2人の短くも気まずい入浴は終わった。
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