5月27日 横須賀近海 鳳翔
改装終え、史実の姿(有名な大和とのツーショット写真)の様相となった鳳翔。
ただ、外見からは解らないながらも、エレベーターが拡張されていたりなどの他に、一番の違いと言っていい、飛行甲板先端にイギリスより輸入した空母用カタパルトが設置されている。
そして、そんな鳳翔の飛行甲板には滝崎、松島宮、山本次官だけでなく、日本の航空機開発陣、並びにドイツの航空技術者と空母の件で来日している技士や技術将校などの面々が並んでいた。
「そろそろ…の筈ですが」
「順調に飛んでいる筈だからな…まあ、その内、見える筈だ」
腕時計を見ながら『来る筈』の物を待つ滝崎と松島宮。
「大丈夫だ。レナータは空を飛んで遅れた事はほぼない。あったとしても、そこは律儀に連絡を入れてくる」
「…ちなみに、それは経験則かな?」
「…遅れそうだから、と操縦桿を奪ってフルスピードで来た事はある」
エーディトの答えに苦笑いを浮かべる滝崎、松島宮。
そうこうしている内に、2機の零戦が現れる。
「ふむ、やはり時間通りだ」
腕時計を見ながらエーディトが呟く。
2機の零戦は後ろにいた方が先に鳳翔へ着艦し、それに続く形で先頭の零戦が着艦する。
最初に着艦した零戦のキャノピーから出てきたのはレナータで、次に着艦した零戦からはドイツ人男性パイロット…いや、開発者兼テストパイロットもこなす、クルト・タンク博士が降りてくる。
「さて、私も仕事の時間だ」
そう言ってエーディトは苦笑いを浮かべながらクルト・タンク博士に近付き、周りに集まる日本人開発者との通訳を開始する。
「確かに急降下には弱い。しかし、空母で使い、更に広大な航続距離を望むなら、軽量化は仕方ない妥協と言うしかない。だが、フレームに孔をあけるのはやり過ぎとも言える。重量増になるが、外板を厚くするなどの工夫が必要だな」
試乗したクルト・タンク博士の言葉をエーディトの通訳を通じて熱心にメモをとる日本人開発者陣。
その横で別の人間がレナータのコメントを聞いていた。
「私としては、この機体の運動性は好きよ。だって、感覚さえ解ったら、素直に応じてくれるもの。ただ、ちょっと、急降下がね…」
……なお、レナータのコメントはドイツ側の人間が一歩引いたところで熱心に聞いていたりする。
「ふむ、意外な形でドイツの派遣武官とイタリアの研修武官が役に立ったな」
ニヤニヤと笑いながら呟く山本次官とその内容を知る滝崎と松島宮は呆れを含んだ苦笑いを浮かべる。
今回はクルト・タンク博士を含めた航空技術者の招待(第52話参照)の件であり、良い機会とばかりにエーディトとレナータを誘い、それを山本次官に報告したところ、『ついでに空母の件で来てる派遣団も来て貰えばいい』と言われ、更に『出来る限り、外の人間は入れたくないから、その派遣武官に通訳を頼めるか?』、そして、『あのイタリア娘はパイロットなんだろう? もう1機用意するから、ついでに飛んでもらおう』と言った為に再び2人に訊くとレナータは2つ返事で即答、エーディトは派遣団の返答次第と断りの上でオッケーを出した。(結局、派遣団も参加した)
と言う事で、今回エーディトとレナータの2人は仕事をしていた。
「おやおや、これは中々盛況な様で」
そんな中、山本次官や滝崎、松島宮の後ろから中島社長が現れた。
もちろん、中島社長も『表向き』は今回の『ドイツ航空技術団との交流会』の日本側のメンバーとして参加している。
だが、技術者達と違い、艦内に居たのは…中島社長と一緒に居るもう一人の人物、エルンスト・ハインケル博士が理由だ。
「どうかね、中島君? 『良い話し合い』は出来たかね?」
「はい。ハインケル博士と言う、会社のトップ同士の会談ですからな」
山本次官の問いに中島社長、そして、ハインケル博士もニコニコ笑う。
その意味を滝崎も松島宮も知っている…いや、そもそも、この『企業トップ同士の会談』の素案を出したのは滝崎だから、当然と言えば当然なのだ。
そして、この『ハインケル博士の来日』はある意味『棚からぼた餅』だった。ヒトラー総統からゲーリンク元帥への『協定枠内で空軍が出来る事』の一つで、『技術団の中に誰か加えてほしい人間がいるか?』とのドイツ大使館からの問いに、『ならば』と加えてもらったからだ。
また、この『企業トップ同士の会談』には中華民国も絡んだ話であり、そもそも、会談の表向きの理由はその中華民国での案件が理由なのだ。
昼食を挟んで午後からクルト・タンク博士が持ち込んだフォッケウルフFw190の試作機(Vナンバー)、しかも、史実のこの時期には無い筈の艦上機型を鳳翔から飛ばした。
「いやー、良さそうな機体だな」
飛んでいるフォッケウルフを見ながら滝崎が呟く。
「なら、完成予約でBf109と抱き合わせで買うか? 本国にも打診するぞ?」
「あのね、あんな脚細くて、幅間隔も狭いのなんて、何処で使うのよ? ちゃんと既存機種でどうにかなってるのに、変な事しないの」
滝崎の呟きにエーディトの営業トークが出るが、今回はツッコミ役になったレナータがツッコミを入れる。
「…まあ、私も出来ればフォッケウルフだけで…」
「………あっ、うん、ごめん…」
松島宮の静かな否定に親戚のツッコミもあったからか、エーディトは意気消沈気味で謝った。
「にしも、航空機用語もあったのに、ちゃんと通訳してたね。やっぱり、レナータの…影響?」
「ねえ、なんでそこで一拍間が空くの?」
話題変えの為に先程の通訳の件に話を振る滝崎。
なお、レナータのツッコミの理由は『悪影響』と言いかけて止めたからだ。
「あぁ、それは父上の交遊関係だ。父上は違うが、航空機関係と顔馴染みが多いんだ。ちなみに言うと、クルト・タンク博士とも知人だ。そんな中にレナータが居るから、知らん間に解ってしまうんだ」
本人のあっさりなネタばらしに滝崎は苦笑いを浮かべ、再び視線を飛んでいるフォッケウルフに向ける。
「…中島社長と石原次長に頼んでみるか」
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