まあ、あくまで私的見解なんですが …。
10月25日 トラック諸島
「ふう…日本はもうすぐ冬だが、さすがトラック諸島…気温差で参るな」
「あぁ、赤道に近いからな…先ずは身体を馴らさんとな」
「う~え~…地味に暑い~…干からびちゃう~…海行きたい~…」
朝顔の引き継ぎを終えた松島宮と滝崎はレナータと共にトラック諸島に降り立った。
「まあ、海は目と鼻の先の直ぐそこにあるが…水着がないから、入れないぞ」
苦笑いをうかべながら滝崎は滑走路の先の海を指差す。
「あー、島自体が滑走路なのね」
なお、3人が降り立ったのはトラック諸島を構成する『竹島』である。
「はぁ…遊びに来ている訳ではないぞ」
呆れ気味に呟く松島宮に3人に続いて降りて来た人物が声を掛ける。
「まあまあ、殿下。初めてのトラック諸島です。少し肩の力を抜いても罰は当たりませよ」
そう言ったのは醍醐忠重(だいごただしげ)少将、名字からも解る通り、華族家出身の潜水艦勤務一筋の将官であり、先の観艦式では昭和天皇の侍従武官も勤めた人間である。
なお、史実では大戦を生き延びたものの、戦後の戦犯裁判でオランダの報復目的な裁判の結果、処刑されている。
(なお、史実での少将昇任は11月15日)
「醍醐少将、余りこんな事を言いたくはありませんが、滝崎はいいとして、レナータは油断しますと直ぐに怠け癖が出ますので、お気をつけ下さい」
「むぅ~、松島宮がエーディットみたいになった」
「何を言う? 私は元々真面目な方だ」
「はいはい、終わり終わり。もう、不毛な水掛け論にしかならないし」
レナータのぼやきに松島宮が反論し、滝崎は苦笑いをうかべながらこのやり取りを終わらせた。
数時間後 夏島 海軍司令部
「さて、あのイタリア娘が居なくなった事だし、私と君らの『仕事』について話そうか」
海軍司令部内の『特設潜水戦隊司令部』の札が掛けられた一室で醍醐少将と松島宮、滝崎が集まり、醍醐少将が切り出した。
(なお、レナータは基地航空隊と水上機隊の方へ『あいさつ回り』をしに行った)
「でははじめに、醍醐少将はどこまで聞いておられますか?」
「山本さんや堀長官からは一通り『君の世界の歴史』は聞いている。あと、君らが『連合艦隊司令部付き南方方面特認連絡官』と言う名目でいる事も、だ」
「…無駄に長い名目名称だな」
名称を聞いてうんざりした様に松島宮がぼやく。
「まあ、仕方ないよ。無理矢理でも役職と名目作らないと僕らが動けない訳だし」
「そうだな。私だって、『特設潜水戦隊司令』の役職をもらってここにいる。山本さんや堀長官は君らが動ける様にその名目を作っているのは、『これからに備える為には既存の物では足りない』と判断されたからだ。まあ、それは解っておられますでしょうけど」
「それは重々承知しております、醍醐少将」
「いや、これは要らぬお言葉でしたな、殿下。さて、滝崎君、山本さんや堀長官からは先程言った事以外にも、開戦時の動きとそれに伴う訓練、並びに規定改定も聞いている。無論、それについては納得しているが、一つだけ、山本さんや堀長官に質問したが、『それは滝崎君に訊いた方が解る』と言われた事を答えてほしい」
「御二人が? なんでしょうか?」
「うむ、実は御二人には『対米戦開始後、通商破壊戦を開始しましょうか?』と尋ねたが、『此方が指示するまで哨戒活動に専念せよ』と返答された。その理由を聞き返したら、『滝崎君に返答してもらった方がいい』と」
「んん? おい、どう言う事だ、滝崎? 通商破壊は先の大戦の事例も含め、有効だとお前も言っていたではないか?」
醍醐少将の話に隣で聞いていた松島宮も滝崎に尋ねる。
「すみません、少し説明不足でした。確かに通商破壊は有効です。アメリカ以外には」
「はぁ!? 訳が解らんぞ! ドイツがイギリス相手に実施し、お前の世界では日本の敗因の一つである通商破壊が何故アメリカには効かない!?」
松島宮の問いに滝崎は苦い顔で答える。
「そう、その、『ドイツの成功事例』と『アメリカの成功と日本の敗因』の混同がこの『通商破壊が有効』と言う『幻影』の理由なんだよ」
「……んん?? えー、あー……ダメだ、さっぱり解らん」
滝崎の返答に額に手をおきながら困惑する松島宮。
「ふむ…なんとなくだが、君の言いたい事が解る。だが、それは君の口から聞いた方がいいだろう。答え合わせも兼ねてね」
醍醐少将の言葉に滝崎は話を続ける。
「では、話を続けます。そもそも、『通商破壊の仕方』が違います。確かに潜水艦や航空機、水上艦艇による襲撃、機雷敷設などはドイツもアメリカも、もちろん開戦劈頭時は日本もやりました。ですが、日本の敗因の原因は『南方方面からの資源供給を絶たれた事』です」
「だから、それは『通商破壊をされたから』だろう? 何を訳の解らん事を…」
「いいかい、松島宮。アメリカは魚雷の改良などで1943年には潜水艦による通商補給路破壊を本格的に開始し、その年だけでもかなりの被害を発生させた。だが、実際に敗戦したのは2年後の1945年だ。この時間差はなんだい?」
「いや、それは効果が出るのに時間が掛かったと言う単純な話では…」
「殿下、それなら、我々も同じ事をやれば『同じ結果』になる筈です。確かに彼の世界の我々がへまをやらかした、と言う事があるにしても、我々の持つ酸素魚雷と伊号潜の能力があれば、出来ない事ではありません」
既に僅かな滝崎の言葉から既に言いたい事が的中している事を悟った醍醐少将が自信ありげに言う。
「……滝崎、要らん言い回しはいいから、単刀直入に言ってくれ。その方がスッキリする」
「じゃあ、箇条書き的に言うね。①致命的理由はフィリピン失陥による地形的・物理的通商路途絶。②それまでの被害が『補給路破壊』であり、『生産活動』への被害が少ない。③アメリカ空母機動部隊展開による制海空権損失と暗号解読。これに潜水艦が付属。まあ、ホントに簡単に纏めたら、こんなところかな」
「…なるほど、確かに言われてみれば…だが、それなら、ドイツの潜水艦主体の通商路破壊が何故成功する?」
「それは『潜水艦が活動出来る環境だから』ですな」
腕を組んで納得した様にウンウンと頷きながら醍醐少将が言った。
「…滝崎、解説頼む」
「すっごく簡単に言うなら、レナータが煩かったら、エーディットは隣の部屋に怒鳴り込みに行けばすむ。でも、町内の端に住む人間が反対の端に住む人間に煩いと文句を言う事はまずないでしょう?」
「…あぁ、なるほど、うん、解った。ドイツから見たら、イギリスは目と鼻の先。だが、我が国とアメリカは太平洋を挟んだ端同士…地形・地政学の話だったか、今さら理解出来るのも情けない話だが」
「ドイツのUボートは小型でも本拠地や拠点が近いから、イギリスを包囲する様な活動が出来る。対して我々は本拠地も拠点も互いに遠い…通商破壊戦となりますと、太平洋は広すぎますからな」
「それにね、松島宮。日本は原材料の資源を船で運んで来なければならない。これはイギリスも一緒だ。でも、アメリカは? 彼らは資源はある程度産出出来るし、輸送も別に船を使わなくても、鉄道を使えばいい。だから、戦争継続の為の『生産活動』を『通商破壊によって原材料を断つ』事は出来ない。あくまで出来るのは生産された兵器や物質、或いは人員を断つ『補給路破壊』しか出来ないんだ」
「…どおりで、『通商破壊』と『補給路破壊』を分けて使うと思っていたが、そう言う事か…だから、『通商破壊はアメリカには効かない』か」
「それに、殿下への説明で私の貰いたかった回答が得られた。いや、やはり本人に訊いてみるものだな」
「ご理解頂けて何よりです。ですので、潜水艦部隊には不満だと思いますが…ご容赦を」
「仕方あるまい。それぐらいの大国だと認識しないと勝てないのだろう? アメリカはな」
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