11月1日 トラック諸島
「うーん、予想は出来ていたが、錚々たる顔触れだな」
トラック諸島の夏島にある海軍司令部の一室に『連絡官室』と札が掲げられた室内で滝崎は『特設潜水戦隊人員名簿』を見ながら呟く。
実際、名簿の中には史実で活躍する潜水艦の艦長の名も入っている。
「よく言うな。お前がそうする様にしたんだろう?」
呆れ気味にやかんから麦茶を湯飲みに注ぐ松島宮。
「いや、助言はしたが、実際の選定は人事と山本さんや堀長官なんだけど…」
「その時点でしているんだが…まあ、いくらお前でも、個人の能力を津々浦々と知る訳ではないからな」
溜め息混じりでそう言いながら冷えた麦茶入り湯飲みを渡す松島宮。
「でだ、お前がこの前言っていた『通商破壊』と『補給路破壊』…いや、『通商路破壊』…ん? 『補給破壊』か? あー、まあ、どれでも一緒か」
「あ、うん、概要さえ解ったら、どれでもいいよ。まあ、『路』が入るかどうかで、やる事はそんな変わらないし」
「ふむ、で、話を戻すが、そうなると、もし『史実通り対米戦になった場合』、どう展開するつもりなんだ?」
「あくまで仮定、かつアメリカの動き次第だが、潜水艦部隊は哨戒活動を実施、ハワイ~西海岸への補給路破壊や西海岸襲撃は行わない」
「哨戒活動は解らんでもない。だが、ハワイ以東に手を出さないのはなんでだ?」
「それは前に言ったみたいに、此方の拠点からの距離が遠すぎる。逆にアメリカからは距離が近すぎて、護衛・哨戒戦力を配置しやすい。そんな所に潜水艦を送っても、無駄に損耗するだけだ。それに、アメリカに此方の手の内をワザワザ晒す必要もないだろう」
「伊号潜、並びに此方の実力を把握させない為か」
「あぁ、個人の注意力は置いとくとして、アメリカ側の認識は『日本はアメリカより国力が劣る以上、最初から全力で掛かってくる』と『思い込んでる』。まあ、実際そうだからね。『普通』なら」
「まあ、そうしか戦い様がないからな。あのアメリカである以上、下手な長期戦は出来ない…それは今まで散々話された耳タコ話だろう?」
「故に初動はわざと肩透かしをくらわす。そして、向こうはこう思うだろう。『あぁ、あれだけ警戒していたが、日本側にそれをやる実力はないんだな』と」
「それで油断を誘うつもりか…えげつないな」
「戦争ってそんなもんだろう?」
「あぁ、そうだ、そうだと解っている。だか、それではアメリカの海軍戦力を潰すだけにしかならん。そもそもの構想である斬減作戦から潜水艦を抜いた形にしかならんぞ?」
「なら、此方が動き易い状況を作るまでだ。此方はアメリカのハワイから伸びてくる補給路を襲撃すればいい。長くなれば成る程、輸送とその護衛の負担が増え、補給路末端になれば何れだけ頑張っても綻びが出てくる」
「……なあ、それはお前の世界の日本の失敗ではないか?」
「別にやり返してもいいでしょう? それに負担は平等だ。民主主義を標榜するアメリカには是非体験してもらうべき事だよ」
「…………あぁ、もう、えげつなさ過ぎてたまらん。背中が寒くなりそうだ」
そう言いつつ、呆れ顔で松島宮は自分の湯飲みの麦茶を一気飲みした。
昼頃 夏島 海岸沿い
「ふぅ…暑いな…」
「そうね~、赤道に近いからね~」
昼からレナータと一緒に出歩く滝崎。
名目上、『海軍関係施設付近を巡回し、不具合がないか確認する』と言う、それらしい名目で散歩する二人。
なお、レナータはそう言って谷間近くまでボタンを弛めて、パタパタと団扇替わりに手で扇ぐ。
「そう言えば、最近潜水艦や小型艦の出入りが激しいけど、訓練でもしてるの?」
手近に居る艦艇を指差しながらレナータが滝崎に訊いてくる。
「ん、あぁ、潜水戦隊と同じく設立された護衛戦隊が互いに訓練してるんだよ。潜水艦は潜伏と攻撃、護衛戦隊は索敵・発見と護衛、てな具合にね」
「なるほどね~、まあ、潜水艦に関しては天気と海面・海中の具合によるけど、見付けるのは出来るしね~」
「あはは………え、ちょっと待って、パイロットって目が良いのは知ってるけど、レナータって海中の潜水艦見えるの!?」
思わず足を止めて聞き返す滝崎。
「ほら、私ってイタリア出身でしょう? 地中海とかアドリア海なんてしょっちゅう飛んでたから、海中の魚群とか海上の漁船なんて見付けるのは得意よ」
「……なあ、まさか、最近飛んでる時にもしてるとかは…」
「…えへへ、今度、何か分けてあげるから見逃して?」
「はぁ…まあ、分けるなら松島宮にも分けてくれ。上手いこと言ってやるから。あと、松島宮にも言うから、どうせなら、そのまま対潜水艦索敵名目で飛んでみるか?」
「え、いいの!?」
「あぁ、今の護衛戦隊は水上艦艇だけだが、いずれ航空機による索敵も行われる。護衛するにしろ、前路掃討を行うにしろ、航空機との連携は必須だ。潜水艦側も対航空索敵への対策を取れるしな。君の研修にもなるから、話を通してみる」
「おぉ、私にも利があって、イッセキサントリね!」
「…いや、まあ、元は一石二鳥(ちょう)だから、応用は出来てるんだけど…読み方が違う」
「えー…やっぱり、日本語難しい…」
「いや、一年未満でここまで話せてるのが凄いから」
「ううん…あっ、ちなみに護衛艦艇が小型艦なのは大丈夫なの?」
「まあ、対潜水艦対応なら、下手な大型艦艇より、駆逐艦以下の艦艇が取り回しが利きやすい。まだ計画段階だが、対潜水艦用の量産型護衛艦艇の量産・配備で強化するそうだ」
「ふーん、じゃあ、いま居る艦艇は?」
「あれは千鳥型、並びに鴻型水雷艇だ。小型駆逐艦として整備していたんだが、上層部は機材の関係もあって、水雷艇を対潜水艦用艦艇の試験運用にしたそうだ。まあ、1000t以下の艦艇で艦隊決戦前の戦力削りを外洋でやるのに限界がある、と判断したんだろうね」
…実際は滝崎が『現状の水雷艇ではこの後のアメリカとの戦いでは能力不足です。発展性に限界がある以上、別方向に使う方がまだ発展性があります』と言って、護衛戦隊に転属させていたりする。
「つまり、その運用結果がさっきの量産艦艇に反映される、と」
「まあ、それも近いとは言え、将来的な話だからね」
……なお、千鳥型・鴻型水雷艇は搭載していた12.7㎝連装砲・単装砲を三年式8㎝単装高角砲に、魚雷発射管が全廃され、対潜水艦兵装や機銃が増加配置されている。
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