3月15日 アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス 大統領執務室
「ふぅ…何とか武器貸与法を通したが…まさか、ここまで荒れて苦戦するとは…」
そう呟きながら、部屋の主であるフランクリン・ルーズベルト大統領は武器貸与法…レンドリース法の可決までの経過を思い出し、溜め息を吐く。
実際、法案自体の提議と内容に関しては支持多数で問題はなかった。
だが、この法案可決がここまで難航した理由は『貸与する場合の敵対対象国』だった。
「ナチスドイツはすんなり通ったが、まさか共和党がソ連を敵対対象国に入れることを提案してくるとは…」
実はこの『敵対対象国』に日本とイタリアが含まれており、それに対して、共和党がソ連を含む事を提案、これをきっかけに泥仕合の様相となり、可決議論が荒れて長引いた。
結局、日本とイタリアの取り下げを条件にソ連の取り下げを共和党が呑んだので、漸く可決された。
「くそ…日本もイタリアも大人しくなりおって…特に日本は…いや、ジャップの奴らめ、あ奴らこそ忌々しい!」
執務室に自分しかいない為、ルーズベルトは感情を爆発させる。
(今頃支援されたチャイナの国民党と泥沼な戦争をやっている筈が…共産党がへまをしたせいで何もかもが滅茶苦茶だ! しかも、今やジャップが自由と民主主義の守護者だと? ふざけるな! 猿がフロンティアたる満州を取り、我々白人のテリトリーにズカズカと入り込みおって! しかも、今やこの大戦のバランサーだ? ふざけるのも大概にしろ!!)
イライラとしながら執務机を指で叩く。
(更に忌々しいのは、あの猿の奴らが利口になった事だ! 西安の件以降、チャイナの国民党やイギリスとの関係を改善している…ふん!
猿は猿らしく、未発達な事を認識し、大人しく我々の見世物になっとればよいものを!!)
色々と思惑が外れ、下手に口外すればとんでもない事を心中で呟くルーズベルト。
「しかも、だ…あ奴らめ! 猿知恵の猿芝居で国民を騙しおって! お得意様の顧客だと? ふざけるな! 猿のはした金に浮かれおって!!」
『猿知恵の猿芝居』とはノモンハン事件や冬戦争などの事なのだが、これに『お得意の顧客』や『猿のはした金』でキレているのには理由がある。
実はこの時、日本では建設ラッシュ等の影響で多量の物(原材料・機械機材・車輌等々)がアメリカ企業へ大量発注されていた。
史実でも、支那事変による供給過多により、アメリカへ原材料等の大量輸入が行われていたのだが、これが当時のアメリカ経済を支えていた。
かのニューディール政策で『アメリカ経済は回復した』と言われているが、実態は『暗黒の木曜日の水準』と言う『最低水準』まで回復しただけであり、そこからレンドリース法・第二次大戦参戦までのアメリカ経済を支えていたのは『日本との交易』だった。
故にアメリカ企業に大量発注してくれる日本は『お得意の顧客様』であり、更に冬戦争参戦での好印象化もあって、史実よりアメリカ国民は日本へ敵愾心を抱いてはいなかった。
更に先に行われた『紀元2600年特別観艦式』ではイギリスやイタリア等の諸外国を招待した事により、印象緩和に繋がっていた。
『日本海軍は空母を中心に戦力を整えつつある。しかし、日本はアメリカに剣先を向ける意思はない。彼らが警戒を向けているのはソ連である』と言うのがアメリカ海軍の批評だった。
「日本の新型戦闘機『ZEKE』の件もそうだ…猿にそんな航空機が作れる訳がない! スウェーデンも我々を嘗め腐りおって!」
その観艦式で公表された新型戦闘機『ZEKE』こと『零式艦上戦闘機』はフィンランド戦の初陣後、アメリカも情報を集めていた。
そんな中、その新型戦闘機をスウェーデンが複数機購入した事を知ったアメリカは情報提供を申し出た。
だが、スウェーデンの回答は『国防に関わる機密事項で有るため、情報提供は出来ない』であり、その名称すら観艦式の公表まで解らなかったのだ。
「……何か新しい手が必要だな」
禍々しい思惑を秘めながら、ルーズベルトは呟いた。
3月16日 トラック諸島 夏島沖合い
「知っているとは言え、2万トン近くとなると、実際乗ると数字より大きく感じるな」
改装が完了した空母『神鷹』にカッターから乗り込み、飛行甲板に出た松島宮は飛行甲板の広さもあってか、周囲を見渡しながら言った。
「はい、排水量だけなら、蒼龍・飛龍に並びます。本来なら、軽空母の部類ではないのですが…ご存知の通り、貨客船からの改造でありますので…」
案内の士官が松島宮の言葉に答える。
「デッキカタパルトは? シーリング等の材料の関係でイギリスからの輸入頼りと聞いたが?」
「飛行甲板艦首端に2基あります。現在、イギリスで製造された部品を日本で組み立て、設置しております」
そう言って士官は飛行甲板艦首端の『窪み』を指差しながら答える。
「小型ですが、艦橋を設置しております。それにあわせ、新装備の電波探信儀も装備致しました。ただ、物が物ですので、中々安定せず、操作員も四苦八苦しております」
「やはり、艦橋は小さくても必要だったか?」
「艦上機の衝突の恐れはありますが、やはり、航空機を運用しながらの操艦となりますと、艦橋は甲板より上にあった方がよい、となりました」
そのまま3人は航空機用エレベーターで下の格納庫甲板へ降りていく。
降りてみると、そこにはガラーンとした空間が拡がる。
「……搭載機はないのか?」
「後日配備と聞いております。甲板の96艦戦などは訓練隊の物で、当分は発着艦訓練に使うとの事です」
「格納庫甲板は密閉型かな?」
「いいえ、悪天候下での運用を考え、4ヶ所を引き戸で開放出来る様にしております。以前より密閉式は換気の面で不安がありましたので、神鷹も改装に伴い開放式が採用されました」
「そうか…しかし、神鷹は搭載機も含めて配備先が解らんとは面妖だな」
「はい…とりあえずは護衛戦隊の訓練支援との事ですが…まあ、他にも先程話しました、訓練飛行隊の発着艦訓練だったりと、色々と押し付けられている気もあります」
困り気味の士官の言葉に松島宮は後で確認する事にした。
「あっ、それと、ご存知かも知れませんが、あのドイツ海軍士官もこのまま残留するとの事です。ドイツ本国から『実際の運用を見聞せよ』と、指示を受けたとか」
「……大変だね、エーディットも」
「まあ、仕方あるまい…」
同情する2人だった。
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