そして、またオリジナルから変更が…。
少し時系列を戻し 8月9日 大西洋 プラセンティア湾
(カナダ ニューファンドランド州沖)
アメリカ合衆国海軍重巡洋艦オーガスタ 艦内
……史実であれば、この会談の後、『大西洋憲章』が発表される…筈だったのだが……
「…なんと言いましたかな、チャーチル卿?」
意外過ぎる言葉にルーズベルト大統領は思わずチャーチル卿に聞き返した。
「おや、少し言い回しが懲りすぎましたかな? では、ストレートに言いましょう…いま、アメリカの参戦を求めておらんのですよ」
葉巻を燻らせながらチャーチル卿が言った。
「バカな…ヒトラーの勢力拡大を放置するつもりか?」
「ドイツも無傷ではない。ロシアの大地で僅かづつながら消耗している。その間に我々イギリスを含めたヨーロッパの連合国は戦力を回復し、態勢を整えた後、ナチスへの反撃に転じる。その為には無駄な消耗は避けよう、と言っているのですよ、大統領」
穏やかな口調ながら、目と真意はピシャリと『余計な事はするな』と主張する口振り。
「ならば、我が合衆国は武器や資材などの供給だけしていろ、と?」
「それが貴国の世論では? わざわざ、ヨーロッパ方面に関して中立を貫く日本を挑発し、国家間の緊張度を上げて、何をしようと言うのかな?」
「日本はイタリア同様、ナチスドイツと協力関係にありますが?」
「だが、我々イギリスと同盟関係下でもある。イタリアが積極的行動に出ず、ドイツが下手に動けないのは日本の目があり、それを承知しつつもヒトラーが日本との関係を続けるのは、彼らにもその状況に利があると理解しているからですよ。しかも、貴方の言った『疑惑』を真っ先に否定したのは当事者たる日本とドイツではありませんか?」
「………」
チャーチル卿の返答にルーズベルトは苦い顔をしながら押し黙る。
「そもそもだ、『ソ連を援護する為に別戦線を形成し、ドイツの戦力の分散化を狙う』と言いますが、何処に戦線を形成する予定で?」
「そ、それはギリシャで良いでありませんか? 今やヨーロッパ方面で唯一残る連合国であり、ギリシャの地形は守るに容易い。早々簡単にはナチスと言えど…」
「大統領、『守るに容易い』地形は反対に『攻勢には向かない』地形ですよ? ギリシャの山岳地帯の険しさをご存知ですか? 大軍の移動もその補給も、更には必要な車輌機材の移動はどうするのですか? 古代からあの地の険しさは戦史に書かれる程だ。まさか、かのハンニバルがアルプス山脈を戦象を連れて突破した様な感覚で攻勢を仕掛けようと言うのですかな? それとも、あの山脈の地形を変える大工事をアメリカがやってくれるとでも?」
「い、いや…だが、そこに戦力があると言うだけでも…」
「ギリシャが放置されているのはその地形と脅威ではないと言う判断からです。貴方が考える程、ドイツの戦力を引き寄せられませんよ。それこそ、我々としてはそんな余計な事をせず、回復と再編成に力を入れたいのです。それこそ、やるならアメリカ単独でおやり下さい。まあ、貴国世論がヨーロッパへの派兵を許すかどうかは知りませんし、今の貴国にその『大義名分』もありませんがね」
このチャーチル卿の言葉にルーズベルト大統領は沈黙する。
なぜなら、この時点でイギリスからの参戦要請も無く、参入を認められていない以上、ヨーロッパへの派兵への『意義』を世論に対して説明出来ないからだ。
「大統領、ソ連を援護したいと言うのであれば、兵を動かすなどしなくても、日本とソ連を貴国が仲介し、不可侵条約を結ばせればよい。わざわざ日本に難癖を吹っ掛けずとも、何事も穏便に済む問題だ。まあ、仲介した後に不可侵を破れば、その時は経済制裁なり、宣戦布告するなりすればよろしい。それが『仲介国』ですからな」
再び葉巻を燻らせながらチャーチル卿は悪戯小僧の様な笑みをしながら発言する。
ただ、これは遠回しに『日本への一方的な難癖は止めろ』と言っているのであった。
……先に書いた通り、史実であればこの会談の後の8月14日に『大西洋憲章』が発表される…筈だった。
だが、その14日に発表されたのは『アメリカはイギリスを支持する』と言う再確認の様な支持発表。
後に『大西洋会談』と言われるこの会談は『ルーズベルトの1人芝居』と言われる程、イギリスとアメリカの認識格差を示す結果になった。
……なお、この会談の内容はチャーチル卿自身により、駐英日本大使館から日本政府に流れていた。
また、チャーチル卿は吉田茂駐英大使に『狂気持ちなら、理性的に抑制が出来て、話が出来る青年の方がマシだ』と言っていたとか。
8月22日 呉鎮守府 会議室
この日、鎮守府の会議室には山本総長、堀長官を中心に主要な将官(艦隊司令クラス)が集まっていた。
「さて、諸君らも知っての通り、件以降アメリカの態度は変わらん。外交交渉による解決を目指しているが、今のところは絶望的だ」
面々が集まったのを見て、山本総長が切り出した。
「よって、開戦した場合の概要的な指針の確認とその詳細を詰めようと思う」
堀長官がそう言うと集まっていた面々が頷く。
「先ずは…開戦した場合、我々が先ずもって対処しなければならないのはハワイの太平洋艦隊、フィリピンのアジア艦隊、そして、我が勢力圏に隣接するフィリピン、グアム、ウェークの拠点だ」
そう言って堀長官が机に拡げられた地図を指差しながら話す。
なお、地図には拠点に赤丸、艦隊は船型の駒が置かれている。
「フィリピンのアジア艦隊は小勢。抑えの戦力を置いておけば対処は可能です」
第三艦隊司令の南雲中将が自信ありげに言った。
「だが、『陸軍の攻略作戦を支援する』と言うなら、それなりの戦力は割かなければならん」
第三艦隊と南雲中将が指揮下に入る形になる『台湾・フィリピン方面艦隊』司令の古賀中将が釘を刺す。
「グアムは今のところ戦力と言う戦力はありません。アジア艦隊、太平洋艦隊が来襲しなければ、此方で対処可能です」
グアム攻略を担当する第四航空戦隊を率いる角田覚治(かくたかくじ)少将が発言する。
「そうなりますと、現実的な脅威はフィリピンの航空戦力と太平洋艦隊となりますが…塚原さん、そっちの方は?」
「現在錬成中だが、問題ない。後は移動さえ完了すればいつでもやれる。決して、米軍に大きな顔はさせんよ」
第一機動艦隊司令の小沢中将の問いに現地の航空戦力である第十一航空艦隊司令の塚原二四三(つかはらにしぞう)中将は自信ありげに答える。
「ふむ、となると、後はアメリカ太平洋艦隊ですが…」
そう古賀中将がわざとらしく言いながら視線を末席の方に向ける。
そして、居並ぶ面々も古賀中将と同じ方へ視線を向ける。
そこには…『佐官』の筈の松島宮と滝崎、並んで同席する中佐が居た。
「……あのー、山本総長、堀長官。これは公開処刑か何かですか?」
耐えきれなくなった松島宮が双方に視線を向けながら言う。
その発言にニヤニヤしていた山本総長と堀長官、そして、視線を向けていた将官達が笑みを浮かべ、真剣で緊迫と緊張した空気が消える。
「『新たな第四艦隊司令と副官の御披露目』では不服かね?」
「それをこの場でやりますか!?」
山本総長の言葉に松島宮がツッコミを入れ、集まっていた面々が吹き出した。
「でだ、滝崎くん、『真珠湾攻撃』をやらない状況でどう太平洋艦隊を潰すのかね?」
堀長官の言葉に滝崎は苦笑いを浮かべる。
「既に案は滝崎くんがかんげて(考えて)おりもす」
堀長官の質問に半場答える様に滝崎の隣に居る神重徳(かみしげのり)中佐が薩摩弁を交えてニヤリと笑いながら言った。
その発言に更に視線が滝崎に集まる。
「えー、まあ、あくまで素案ですが…」
そして、滝崎はその『素案』を話し始めた。
会議終了後
「まったくもって、お前は話さん奴だな。あの『素案』なぞ私は知らんのに、会議前に会った神中佐には話したんだな? ん?」
「いや、だから、俺だって、神中佐からは『何か策があるか?』と訊かれて、『ある』と答えた…ちょ、ギブ、ギブ、ギブ」
面々が退出した後、何時も通り絞める松島宮と絞められる滝崎、それをニヤニヤしながら見ている山本総長と堀長官、そして、神中佐。
「とまあ、こんな面白いペアの2人だ。色々と損な役割だが、2人を頼むよ、神中佐」
「はっ、微力ながら任を果たしていきもす」
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