次号 ドンパチ。
12月7日 午前7時頃(アメリカ東海岸標準時間) ワシントンD.C
日本大使館前
この日のこの時、早朝にも関わらず日本大使館前にはアメリカ内外のラジオ・新聞記者をはじめとした数多くのマスコミ関係者が集まっていた。
それは1時間程前に日本大使館から『マスコミ並びにアメリカ国民へ重大なお知らせがある』と電話で知らされたからだ。
アメリカの『要望』手交以来、互いに沈黙を続け、動向が注視されていた中での当事者からの知らせに各社は大慌てで既存の人員を送り込み、警察が慌て交通整理を行う事態となった。
そんな中、用意されたマイクに今や『日本側の顔』となった白洲大使が立った。
「では、お時間になりましたので、お知らせさせて頂きます。誠に残念ながら、我が大日本帝国はワシントン子午線標準時間及び本日午後1時、日本時間では8日午前3時を以て、アメリカ合衆国への宣戦の布告を致します」
この瞬間、どよめきと連続するシャッター音とシャッター光がその場を支配する事になった。
同時刻 ホワイトハウス 大統領執務室
『我々は午後1時にホワイトハウスへ赴き、宣戦布告の通知を手交する事に…』
「ジャーープ!!!」
執務室でラジオを聞いていたルーズベルトは怒り狂い、そう怒鳴りながら手近にあったペンをラジオに投げつける。
『要望』の公表以降、ただでさえ多かったルーズベルトへの非難は支持率の急下落に反比例するかの様に急増加し、毎日ホワイトハウスの外ではデモ隊がデモ活動をしていた。
これを誤魔化す為、日本側が宣戦布告で『失敗』を犯す事を期待していたが……そんな事をする前に日本側は堂々と公表した。
「太平洋艦隊をはじめとした部隊に伝達しろ! 日本を叩き潰せ! アメリカに歯向かった事を後悔させてやれ!!」
「だ、大統領。お、落ち着いて下さい。もし、外に聞かれたら…」
ハル国務長官が落ち着かせようとするが、落ち着く様子はまったくない。
あ
「ジャップめ! 殺してやる!! シラスもエンペラー・ヒロヒトも全員だ!! 猿は皆殺しだ!!」
怒りを抑えられないルーズベルトはそう叫んだ。
その頃 帝都東京 海軍軍令部(7日 午後9時頃)
「これで『卑怯な奇襲』と言われる事はなくなったな」
ラジオから流れてくる日本大使館からの記者会見に山本総長は安心した様に呟いた。
が、直ぐに真剣な表情に変わる。
(既に『ニイタカヤマノボレ1208』は打った。台湾は霧に包まれているとの連絡もあった…やはり、幕を上げるのは第四艦隊になるか)
そう心中で呟くとあの2人の顔を思い出す。
(…すまんな、2人共。だが、頼むぞ…そして、必ず無事に戻って来い。そうせんと、色々と気まずいからな)
その頃 第四艦隊旗艦 加賀艦橋
「すんもはん(ついに)、開戦もすな」
同じくラジオで記者会見を聞いていた面々の中で神中佐が言った。
「が、あくまで『騙し討ち』を避ける為の『予告』に過ぎん。本当の宣戦布告は未だだ。よって、我々は自衛以外の戦闘は許可されておらんし、まだ『希望』はあるからな」
神中佐の言葉に松島宮が注意するかの様に言った。
なお、史実同様、行動中の全部隊には『米国政府が甲乙案受け入れを申し出た場合、即刻作戦行動を中止し、次の指示を待つ事』と指示も受けていた。
「…まあ、まだ時間はある。今の内に休める人間は交代で休もう…ところで、エーディット、レナータは?」
「レナータなら既に自室のベッドで爆睡している。『いい仕事するには充分な休息からだよ~』とか緩い事を言っていたからな」
一瞬だけ間を開けた滝崎の言葉とそれに合わせた質問。
これにエーディットが答える。
「はぁ…まあ、レナータらしいと言えばらしいな。うん、滝崎の言葉とレナータの精神に倣うか。すまんが休ませてもらう」
「いいよ。神中佐もお先にお休み下さい。自分が預かります」
「じゃっどなー(そうですか)、では、やでっこ(お先に)」
「松田艦長も、出来る限り交代で休息を」
「そうですな。ですが、どうも一眠りと言うのも…」
「では、眠気覚ましのコーヒーはどうですか? 今から食堂に降りて自分用にコーヒーを淹れるつもりだったので…口に合うかは解りませんが、ドイツ人のコーヒーをご馳走しますよ」
松田艦長の言葉に最後に下がろとしたエーディットが言った。
「ほほう、では、中尉のお言葉に甘えましょうかね。すまんが、少し頼む」
「わかりました」
副長に場を預けると松田艦長はエーディットと共に出ていった。
暫くして ハワイ オワフ島(現地時間7日午後1時頃) アメリカ海軍太平洋艦隊司令部
「……わかりました。準備致します」
ワシントンDCから届いた指示にアメリカ太平洋艦隊司令長官ハズバンド・エドワード・キンメル大将はそう言って受話器を置くと…盛大な溜め息を吐いた。
(…あの人はなんて事をしてくれたんだ)
これがキンメルの正真正銘の本音だった。
ちなみにキンメルはルーズベルトが海軍次官だった際に副官だった為に顔見知りで、それ故に『大統領』ではなく、『あの人』と言えたのだ。
(あの人が強引なのは知っていたが…まさか、ホントに戦争を始めるとは…)
両手で顔を覆い、この現状を嘆く。
無論、軍人である以上、大統領からの命令であるからには従わざるを得ない。
が、ハッキリ言ってキンメル大将は今回の『強引』には嫌気が差していた。
(昨年の日本の観艦式以降、ハワイへの太平洋艦隊常駐や、反対した当時の司令長官の解任と私の任命だけでも強引だったのに…まさか、あんな言い掛かりから戦争にもっていくとは…なんて事だ)
実際、キンメル大将自身は反日でも何でもない普通の海軍軍人である。(反日的なのは同期のハルゼー、そして、アーネスト・キング大将)
そんな彼からすれば、アメリカの一般世論同様、一時期の暴走気味な動きから一転して、支那国民党やイギリスと協調態勢を取り、更にはフィンランド出兵とナチスドイツ牽制を行っている事に好印象すら抱いていた。
そして、その矛先が自分達ではなく、ソ連に向いている為、『日本と事をおこす事はない』と思っていたのである。
が、その『安心感』がまさかの自国の顔見知りの大統領によって崩されたのだから、悲観的にもなってしまう。
(しかもだ…強引を通し過ぎて、今や『日本vs大統領』の構図だ…戦争ではなく、個人の喧嘩に国家を巻き込んだ様なものだぞ)
平和だった筈が『大統領の難癖』から始まり、『大統領の傲慢要求』で戦争になったのである。
正に『大統領個人』にアメリカも日本も振り回されているのである。
「……神よ、我らを、合衆国を護りたまえ」
今や『個人』として出来るのは神に祈るしかなかった。
そして……7日午後1時(ワシントンDC時間)、ホワイトハウスにて白洲大使がハル国務長官に宣戦布告を手交。
その様子は白洲大使に同行した報道陣により、手交の一部始終映像記録すら残る程であった。
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