さて、どうなるやら…。
8月12日 朝6時頃 高松宮邸 居間
「なんだ、随分と早いな」
「日にちが日にちだけにゆっくりと寝れずに、早く目が覚めちゃってね…こうしてるの」
この日、自分の行動の全てを問われる日……永田鉄山斬殺を防げるかどうか…….になる滝崎はいつもの起きる時間よりも早く、それこそ朝日が昇る前に起きて、居間で新聞を読んでいた。
ただ、中身の記事より事件の事が気になるらしく、視線はともかく、意識は別の方にいっていた。
「まあ、わからんではないが、先ずは朝食を食べよう。果報は寝て待て、と言うではないか」
「……そうだな。とりあえず、朝食にするか」
朝食後 再び居間
「………………」
グルグルグルグル……
「………………」
「………………」
そわそわそわそわ……
「……お前は落ち着けんのか!?」
「落ち着けないよ!」
黙って部屋をグルグルと回り、止まってもそわそわして落ち着かない滝崎に松島宮がついに声をあげた。
「はあ、やっぱり無理だな……よし、時間は未だ間に合うな。うむ、陸軍省に行くぞ!」
「行くぞ、って…皇族で海軍軍人だからって、簡単に陸軍省に入れる訳が…」
「問題無い。イザと言う時の為、東久邇宮様に一筆書いて頂いた」
そう言って松島宮が見せたのは東久邇宮殿下直筆の『入門許可書』だった。
「……準備いいね」
「先手を取ったまでだ。ほら、行くぞ。何かの拍子に討ち入りが早まったらどうするんだ?」
「それは冗談でも大いに困るな」
そう言って滝崎も動き出した。
2時間後………陸軍省
高松宮殿下に訳を話し、車で陸軍省に向かった松島宮と滝崎。
門では衛兵に(当然だが)止められたが、東久邇宮殿下の『入門許可書』が役に立ち、陸軍士官の案内付きで永田鉄山少将が居る部屋へと案内された。
「軍務局長、お客様です」
「すまない、いま、大事な打ち合わせ中なので、待っていただけるかな?」
案内の陸軍士官がノックの後に入り、松島宮、滝崎の来訪を告げると永田鉄山軍務局長は振り向いてそう言うとこちらに背を向ける。
(確か、あの憲兵隊の腕章は東京憲兵隊の物だったな。軍内の怪しい動きに関して報告されてたら…って皮肉過ぎだよ)
そう内心で呟きながら室内を見渡していると時計が目についた。
時間は……9時45分を指していた。
その時、ドアが開く気配に気付いた滝崎はドアを見た…見た覚えのある顔、相沢少佐が入ってきた瞬間だった。
「危ない!!」
柄に手を伸ばした相沢少佐を見て滝崎は慌て永田少将を押し倒す。
間一髪、相沢少佐の一撃は滝崎の背中で空を切った。
(あ、危なかった…斬撃の勢いと言い、空を切った時の音と言い…マジで危なかった)
「邪魔するな、小僧! そこを…は、離せ!!」
滝崎の行動により初撃を空振りさせられた相沢少佐が怒鳴る。
しかし、待機していた憲兵隊が突入し、たちまち相沢少佐を取り押さえた。
「大丈夫か、滝崎?」
「あぁ、なんとか…物凄く危なかったけど。あっ、永田閣下は!?」
「大丈夫だ、たんこぶぐらいは出来たかもしれないが、重傷ではなかろう」
そう言って打った箇所を摩る永田鉄山少将を見ながら松島宮が言った。
「それより、さっさと引き上げるぞ。下手に海軍士官が長居しては、あとあと変な疑いを持たれるからな」
「あ、あぁ、そうだな」
そして、2人はコソコソと帰っていった。
その日の夕方、夕刊には『永田鉄山少将、皇道派将校に襲われる』の題名と共にデカデカと一面を飾っていた。
2日後 高松宮邸 応接室
「ふむ…なるほど…」
「私の最終戦争論と似通っているのが怖いがな」
事件から2日後、東久邇宮殿下から松島宮の事を聞いた永田少将が石原莞爾大佐を伴って高松宮邸へとやって来た。
事情を聴かれた高松宮殿下が松島宮と滝崎の事を紹介し、これを皮切りに滝崎は永田少将と石原大佐に自分の世界の『未来と歴史』を語った。
「最終戦争論は未だに有名ですからね。アメリカ軍将校でも読んでいる方はおりますので」
「しかし、最終兵器…原子爆弾はそれ程までに強力なのかね?」
「強力なんて話を超克しています。今は戦艦の保有で国家の力と世界的発言力を象徴していますが。未来では原子爆弾をふくめた核兵器の有無がそれにあたります。また、更に高威力化した水爆を下手に使えば1発で日本は死の島に、数発使えば世界が滅びますからね」
「だが、アメリカもソ連も互いに核兵器を手に入れたが為に『使ったら互いに滅びる最終兵器』と化し、互いが使わない様にした結果、第三次大戦は無く、終始睨み合い…冷戦となった訳だな?」
石原大佐の言葉に滝崎は頷いた。
やはり、奇才と呼ばれただけに、冷戦への道筋を理解した様だ。
「なるほど……だが、その為に支那共産党が第三勢力となり、結果、アメリカ、ロシア、支那共産党が世界の混乱を巻き起こす根源になっているんだね?」
「はい。無論、ヨーロッパ諸国にも原因はありますが…ですが、このまま、この状況を放置すれば300万人の同胞が死にます。内民間人は約100万人、原爆死者数は約30万になります」
「………それは大事だ。しかも、シベリア抑留の犠牲を抜いた数字なんだね?」
「えぇ。また、これに韓国・ロシアによる竹島・北方領土の占拠と漁民銃殺、北朝鮮による拉致被害……未だ日本は困らされていますよ」
滝崎の言いように腕を組む永田鉄山、顰め面の石原莞爾。
「君がそこまで言うのなら、何か策があるのだな?」
永田鉄山の言葉に滝崎は頷く。
「まずは陸軍にご協力してもらう事が数多くあります…耳が痛い話もありますよ?」
「私の一件の時点で耳が痛いも何も無いよ。さらに2.26事件はなんとしてでも防がなければならない。いま、内乱の真似事をしても事態は好転するどころか、陛下の信用を失う。それに内部分裂していてはソ連やアメリカの様な大国を相手に戦えない。日露戦役の様に陸海、軍政、官民を越えて協力しなければ君の世界の未来が待っているならね」
「ありがとうございます。では、国内を片付けたあとは支那方面の安定化です。そして、ソ連への対峙、次にアメリカ対峙です」
「支那方面なら、私の範疇だ。共産党を抑えたいのだろう?」
「はい。蒋介石を支那共産党と合作させなければ、こちらが幾分か楽になりますので」
「よし、決まった。ならば今から動かねばな」
そう言って永田鉄山は頷いた。
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