第2ラウンド、始め!
次号 新型2隻VS旧型4隻
12月23日 南シナ海海上 戦艦ノースカロライナ艦橋
「異常はないな?」
「はい、今のところ、異常ありません」
そうゴームレー中将は士官に問うと士官も答える。
給油を終え、19日の夕刻にシンガポールから出港したノースカロライナとワシントン。
本来『アメリカ側の想定』としてはこの2隻が加わる事でウェーク島経由でやって来る太平洋艦隊『本隊』到着までフィリピン近海を保持する予定だった。
しかし、その『予定』は色んなところから崩れつつある。
「現在、南沙諸島を抜け、ブスアンガ島の北沖合いです。あと半日あればマニラ近辺に到着します」
「そうか…だが、果たして、それまで日本海軍に見付からないと言う保証はないからな…いや、そもそも、何故現れない? 我々が向かっているのは解っている筈。どうして、ここまで見付からずに来れたのだ? 我々が脅威で無い筈はない…まさか、太平洋艦隊同様、これも罠ではないのか? そう考えれば腑に落ちる事も多い…どうしたものか…」
士官の報告にゴームレー中将は悲観的な言葉を漏らす。
ちなみに史実で彼がガダルカナル島を巡る戦いにおいて更迭された理由がこの悲観主義であったのも一因である。
「敵は快速艦艇を中心とした部隊でルバング島〜バターン半島で封鎖する『西封鎖線』とタヤパス湾を封鎖する『南封鎖線』を形成しております。ここが分岐点ですが…西封鎖線でよろしいですね?」
「うむ…南封鎖線は島が多い。日本側も封鎖した時点で解っている筈だ。彼処なら、潜水艦でも魚雷艇でも、伏兵を配置しやすい。まだ陸地を此方が確保しているとは言え、全てを掌握しているとは言えんしな」
フィリピンの詳細海図を拡げこの後の通行路を決める。
本来なら、大陸沿いを進み、がら空きであろう背後から襲撃する案もあったが、時間が掛かるのと、台湾からの航空哨戒に発見される恐れがあったので断念している。
「提督、アジア艦隊からです。西封鎖線に向かうとの事」
「よし、全速前進で向かう。1秒でも早く接近し、アジア艦隊を…」
「て、敵機接近!!」
ゴームレー中将の言葉を遮った敵機接近の報告。
中将らがそちらに視線を向けると『4機』の水上複葉機が見えた。
「くそ、遂に見付かったか……待て、4機? 2機ではなく、4機だと!? まさか!!」
見付かった事より、機数の多さに疑問視する。
索敵を『2機でペア』で行うならば理解出来る。
だが、『4機でペアを組んで索敵』は普通はしない…が故に思い至った『まさか』の答えは直ぐに『出してくれた』。
「ぜ、前方より発砲光複数!!」
チカチカと複数の発光と共に絶叫にも等しい報告。
そして、数秒して立ち上がる複数の水柱は先頭を進んでいたノースカロライナを一時的に隠す程だった。
「やはり…待ち伏せていたか…!」
苦渋に満ちながら、ゴームレー中将は呟いた。
少し前 長門艦橋
「ブスアンガ島の監視隊より報告! 敵新型戦艦2隻通過確認と報告ありました!!」
その報告に古賀中将以下、艦橋の面々はニヤリと笑う。
ゴームレー中将の『日本の罠』と言うのは『半分』当たっていた。
場所こそ違えど、ウェーク島同様フィリピンの救援と言う至上命題がある以上、ノースカロライナとワシントンはフィリピンに行かざるおえず、時間的制約からも、通行ルートはある程度絞り込めていた為に待ち伏せは容易い事だった。これが『外れた半分』である。
だが、状況を理解しているが故に下手に索敵範囲を拡げ、フィリピン手前で捕捉した場合、諦めて撤退するならまだしも、ルート変更で封鎖線に接近したり、封鎖線を迂回する、あるいは近辺の島々に潜伏し、ゲリラ化する懸念があった。
故に『当たった半分』である『罠』の部分、つまり、『わざと索敵せず、引き返せない地点まで引き寄せて待ち伏せする』と言う策を取った。
その為に両封鎖線に向かう際の分岐点であるブスアンガ・ミンドロ両島の沖合いの島影に隠れ、長門・陸奥・伊勢・日向の4隻から視力に自信のある者を選抜、監視隊を編成し、無線電話を持たせて、ブスアンガ島から接近を監視させていた。
「総員に告ぐ。これより、敵新型戦艦2隻との交戦に入る。数で勝るとは言え、この長門型や加賀型に対抗する為の新型戦艦だ。故にそれに驕れば、足下を掬われる事になりかねん。それは即ち、フィリピン攻略の頓挫を意味し、アメリカに南方通商路を握られたままとなる。これは戦争の行方を、日本の運命をアメリカに握られた事と同意義である」
マイクを手にし、4隻の乗組員へ訓示を述べる古賀中将。
「皆も知っての通り、先日、ウェーク島にてアメリカ太平洋艦隊を撃破した。戦力抽出の為、倍の数の相手に不利を承知で挑んだ中での結果だ。しかも、矢面に立ったのは松島宮殿下である」
『松島宮殿下』の言葉に各艦の空気すら変わる。
「その勝利に泥を塗り、殿下達の努力を無にしてはならん! 戦いに勝利し、陛下と殿下に戦勝を御知らせし、殿下の労に報いる事が、我々がいま為す事である! 総員の奮励努力に期待する!」
訓示中に掲げられたZ旗と共に訓示が終わる。
すると、各艦から大歓声が上がる。
「わかってはいたが、殿下の事を出すと、皆目の色を変え、士気も上がるな」
訓示を終わらせた古賀中将がこの状況に苦笑いを浮かべながら呟く。
「仕方ありません。殿下は自ら偉業を2度も成した御方…兵の中には、殿下は戦勝を呼ぶ戦神と崇める者もいるとか」
「戦勝を呼ぶ戦神、か…殿下が聞いたら、何と言うかな?」
『まあ、間違いなく何とも言えずに困惑するだろうな。あの侍従の青年も苦笑いしかあるまい』と内心で呟く古賀中将。
「…さて、では、我々も始めようか」
……こうして、日米の第2ラウンドが始まった。
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