---ヴェネラナ・グレモリー---
魔王の間から息子が帰って来たのだが、片腕が無くなっていた。今後、ルシファーを名乗ることを禁じられ、魔王職を解かれ、悪魔王に格下げられていた。
「サーゼクス、何があったのだ?」
亭主が、息子に、事情を訊いた。
「ケンカを売ってはいけない勢力に、ケンカを売ってしまったようだ。そのケンカを収める為に、色々と失ったんだよ」
息子の目に生気をあまり感じない。最強の魔王と呼ばれていたのに、簡単に右腕を消されたそうだ。
「どこの勢力にケンカを売ったのだ?」
「ファントムドラグーンって言っていた」
「…」
言い伝えにある騎士団である。鬼畜と呼ばれる者が団長を務め、気に入った女、子供を攫い、男は迷わず瞬殺するらしい。
「実在したのか…」
力無く椅子に腰を下ろした亭主。
「父上…ヨハネ家って、なんだ?」
「ヨハネ家だと…あそこにも、ケンカを売ったのか?」
驚いた表情をしている亭主。
「ヨハネ家には手を出すな。全勢力から粛清指定を受けて、今も尚、生き延びているんだ…」
「どんな家系なんだ?」
「神を超える能力を持つと言われている。だから、天界、教会、堕天使、悪魔が手を組んで粛清をして来たのだ」
「神を超える?」
「あぁ、後、真実を見る能力だ。偽りの歴史を破壊出来る。真なる歴史が明らかになれば、天界、教会、堕天使、悪魔の存在理由も揺らぐ」
「真なる歴史ってなんだ?」
「お前は知らなくて良い。私達、古き良き時代を生きた悪魔達が、墓場まで持って逝く歴史だ」
私も知りたい。どうして、彼らは粛清対象に?
「ねぇ、あなた…どうして兵藤家も粛清対象なの?」
私の言葉で、顔色が変わった亭主。
「何を言っているんだ?粛清対象な訳有るか…誠殿と一香殿は古くからの友人だぞ…」
亭主が息子を睨んだ。
「まさか、お前達の世代で、行ったのか?」
「父上、脅威だろ?人間が悪魔に勝つなんて。だから、兵藤一誠は粛清対象なんだ。誠殿、一香殿は巻き添えになっただけだ」
まさか、一誠君を護る為に…あの二人は…
「なんて、愚かなマネを…彼らは脅威にならない。寧ろ、ファントムドラグーンに対抗する勢力だったのに…」
顔を伏せて、号泣している亭主。悪魔は愚かで醜い心を持つ生き物なのよ…ごめんなさい、一誠君…
---リアス・グレモリー---
お兄様が魔王で無くなったそうだ。サーゼクス・グレモリーと名前を戻し、グレモリー家の当主になるそうだ。それに伴い、お父様は隠居することを決めたそうだ。その煽りは、私にも及んだ。次期当主だったはずが、その地位は甥のミリキャスに移ったそうだ。
もう…私はグレモリー家では必要無くなったらしい…万が一、ミリキャスが魔王になった時に、ミリキャスに子供が居なければ、私が次期当主になるらしいが、結婚をしたら、その権利も消えるそうだ。酷い…今までの苦労は何?必死に眷属捜しをしていたのに…
『悪魔って、そんな者だよ。打算的で、家族すら駒の1つだ』
脳裏に聞こえる知らない者の声…何者だ?
『僕か?チンケな存在だよ。お前ら、愚か者に比べればな』
愚か者…私も愚か者なのだろうか…名家の子女らしく、潔く消えるべきなのだろうか?
『ヴェネラナの部屋へ行け。そこで、お前を苦しみから解放してやる』
お母様の部屋…声に導かれ、部屋を移動した。
「リアス…どうしたのですか?」
私を見て、驚くお母様。私は醜い顔ですか?愚か者に見えますか?
『じゃ、お前を苦しみから解放してやる』
声が再び聞こえ、脳裏に今まで生きた人生が、走馬燈のように浮かんでは消えていった。
---ヴェネラナ・グレモリー---
目の前で、心安らかな表情になった娘が、光の粒子に分解されて行き、消えてしまった。どうして…なんで?
「なんで?お前は、娘の覚悟が見て取れなかったのか?」
知らない男性と、凜々しいリアスが目の前に現れた。
「どういうこと?!」
「お前の娘は、自らの滅の力で、消えようとしていたんだ。僕的には、もうこれ以上の苦しみは与えたく無いから、弟子に同化吸収をして貰ったのだよ」
同化吸収…
「あぁ、このリアスは、お前の娘では無い。グレモリー卿に殺され、グレモリー家から追放されたリアスだ」
殺された?生きているじゃない…
「生き返らせた。そして、改心させて、優しくて強い魔王に、なってくれたんだよ」
まさか…サーゼクスの腕をロストさせたのは…
「正解だ。存在が化け物であるサーゼクスは、努力と無縁だったろうな。その点、このリアスは、絶え間ない努力をして、強さを手に入れたんだよ。どちらが、強いかは、一目瞭然だろ?」
「私の娘は?」
「弟子の心の中で生きているよ。まぁ、反省の無い悪魔は、もっと苦しめばよい」
そう言い残すと、目の前から消えた二人…リアスは自殺に追い込まれたのか…サーゼクスの愚行の末に…リアスの次期当主の座は消えたから。そこにはミリキャスが入った。リアスの今までの努力は、無に還ったのであろう。いや、そう考えたのだ。そして、自らの力で消えようとした。そういう事なのだろう。
誠殿と一香殿が存命であれば、リアスの身の振り方を相談出来たのに…これも、サーゼクスの愚行の為に、出来なくなっていた。
『いつだって、グレモリー家は問題を起こす』
脳裏で誰かの声が響いた。彼は誰だろうか?まさか、総てを見る能力…ヨハネ家の生き残りか?
グレイフィアを伴い、シトリー邸へと向かう。
「どうされました?」
シトリー卿が、怪訝な表情を浮かべて、応対してくれた。
「ヨハネ家の者にお会いしたい。お願いします」
応接間に通されて、セーラと言う少女が現れた。
「何の用ですか?」
目の前で起きた事を説明した。驚いたのはグレイフィアだけで、セーラは表情を変えない。
「で、どうしろって言うんですか?」
「彼は何者なの?」
「私の父様ですけど…」
「アナタはヨハネ家なの?」
「名乗ってはいませんけど。私はヨハネの血は薄いようですから」
血が薄い?
「ヨハネ家の能力は発現していないんです。シトリー家だからね」
「ヨハネ家って何?」
「悪魔は知らない方が良いですよ。父様には悪魔は勝てませんから」
それはそういう存在ってことなのか?それは、聖属性の者ってことだ。
「前にも言いましたが、私はグレモリー家は嫌いです。ですのでお帰りください」
目の前の少女は目に涙を溜め、何かをガマンしているようだ。
「もう、ソレくらいにしてください」
イッセー君が現れた。
「あなたは、ここでセーラさんを問い詰める時間は無いでしょ?リアスを弔うことが優先ではありませんか?」
「えっ!リアスが…奥様、リアスはどうしたんですか?」
グレイフィアは取り乱している。私に泣きすがり、私を揺り動かしている。
「シトリー家では有り得ないことですよ」
イッセー君の言葉は的確である。でも…
「私は、リアスが死んだと思っていないのですよ」
「安楽死では無く、苦しんで死ねば良かったのですか?」
安楽死…そうね、そうだったと思う。あんな安らかな表情で消えたんだもの。
「もし、生き返っても、グレモリー家には帰しません」
生き返る…そんな能力があるのか…
「僕の姉として、ヨハネ家の者として、生きて貰います」
「ヨハネ家の血って何ですか?」
「マリア・ヨハネの能力を継ぐ者です。セーラさんは能力を継げ無かった。だから、ヨハネを名乗れないのです。名乗れるのは、影武者として、僕達のような養子だけですよ」
セーラって少女は、ヨハネの家名を継げなかったのか…
「お帰りください」
次の瞬間、私とグレイフィアは、私の部屋に飛ばされていた。
◇
グレモリー邸内は静まり返っていた。亭主が隠居をし、引っ越しの準備を淡々としている。サーゼクスは、遠くを見つめるような視線で、ぼぉ~っとしている。もう、魔王として前線へ向かうことは無いから。グレイフィアは、ミリキャスに次期当主の為の勉強方法を教えて居た。誰も、リアスがいなくなったことに、気を回せていない。私を除いて…
「ヴェネラナ、引っ越したら、二人だけの生活だ。のんびりしようでは無いか」
リアスは?なんで、リアスのことを話題にしないの?
「父さん、たまに、家族で遊びに行きますよ」
って、サーゼクス。グレイフィアは時折り、私を見つめている。リアスのことを知りたいようだ。だけど、ミリキャスのことで手が一杯のようだった。
そして、引っ越しの準備が整うと、亭主と二人で馬車に乗り、辺境にある城へと旅立った。
---イッセー・ヨハネ---
蘇生作業を終え、リアス・ヨハネの身体が、ミカエルさんの家に届いたそうだ。再起動する為に、セーラさん、ヴァーリと3人で向かった。
透明のカプセル内で眠るリアス。その表情は穏やかである。生前と同じ能力を持つが、自殺防止の装置が埋め込まれているそうだ。
「じゃ、再起動するよ」
セーラさんが、羊皮紙に描かれた魔法陣を発動すると、リアスの胸が上下に動き始めた。
「父様からの手紙によると、アレも、生前と同じようにしてあるって」
流石、エロ神様だ。アレについての情報を、注意書きの一番上に書くとは…魔王リアスさんに同化吸収したと見せかけて、魂だけを捕獲したそうだ。
しばらくすると、リアスが目覚めた。
「ここは?」
「僕達の家だ」
「なんで?」
「お前は自殺したからだ」
実際は自殺する前に、魂を捕獲した。自殺をすると、シュウさんの能力では蘇生が出来なくなるから。
「あぁ、そうだった。そんな気がする。イッセーが助けてくれたの?」
「僕達の師匠だ。で、リアスはリアス・ヨハネとして生き返った。意味、わかるよね?」
「悪魔では無くなったの?」
視点の定まらない視線のリアス。まだ、完全に覚醒はしていないようだ。
「転生ドラゴンだよ。ヨハネ家の養子は皆…」
「養子?イッセーも?」
「そうだよ。セーラさんだけだよ。実子はねぇ」
「そうなんだ…彼女はどうして、グレモリー家が嫌いなの?」
「リアス・グレモリーを愛する者に、首を折られて殺されたからよ!」
セーラさんが答えた。
「父様の多大な恩を受けて、生きながらえていて、私を殺すって、どういう了見よ!」
「ごめんなさい…記憶に無いけど…本当にゴメンなさい」
リアスの目尻から涙が流れ出していく。
「言葉じゃ無く、行動で示しなさいよ!」
リアスの手を握りしめ、激励するかの如く、声を掛けるセーラさん。シュウさんと同じで、人情に脆い一面がある。
「うん…がんばるわ…」
そう言い残し、寝息を立て始めたリアス。
「このリアスは、優しさを感じる。転生天使にして貰おうかな。ヒーラーにすれば、大成しそうよ」
セーラさんが、リアスの微弱なオーラを分析したようだ。
「セーラが言うなら、そうするか」
シュウさんが現れて、リアスに手を翳した。すると、リアスの纏うオーラの質が変わった。
「セーラ、また来るよ」
「はい、父様」
その時、シュウさんが何かを、やらかしていたことを、僕達はまだ知らなかった。