---兵藤誠---
ここは、どこだ?ベッドの上に寝かされている。身体中が痛い…そうだ、戦闘中に意識がなくなったんだ。初めて完敗した。目の前の彼は指を鳴らしただけ。それだけで、僕は全身に激痛を感じて、気がついたらここにいるんだ。
「あら、目が覚めたのね」
目の前にメイド姿の女性が現れた。
「どう?生き返った気分は?」
おい、それって、僕は彼に屠られたのか?
「そうです。瞬殺でしたよ。あなたの連れの方もね」
一香も?彼女も瞬殺されたのか…彼らは何者だ?
「シュウさんとヤマトさんは、絶対神様の特務機関の団長と副団長ですよ」
絶対神の特務機関?
「そうです。最高神様でも、解決できない問題を解決する部隊です」
勝てない訳だ。
「たぶん、最強なコンビです。あの方達はね」
「って言うか。僕の心が読める貴女は、どなたですか?」
「私は元神メイビスです。シュウさんの下僕です」
メイビス?5大勢力戦争の時に死んだはずでは?
「死んだことになっていますよ。実際には、シュウさんの下僕として生きています」
目の前の女性は、笑顔で言った。
「それで、一香はどこですか?」
「精神ダメージを喰らって、カウンセリング治療中です。今は会わない方が良いです」
「どうしてですか?」
「彼女の心の弱い部分を、突いてしまったので、プライドがねぇ…」
「そうですか」
天狗になっていたせいで、弱い部分を鍛えるなんてしていなかったからな。
「あぁ、闘いの映像を見ますか?あなた方が負けたことを認識していないと、これからの話に支障が出ますから」
「負けは認めます。僕達の完敗です。でも、映像を見せてください」
目の前に映像が映しだされた。彼らは指を鳴らしただけだった。僕は、シュウという青年の魔法で一撃。一香はヤマトという青年の放った闇のオーラで一撃だった。
僕らは、僕らの世界で強かっただけだったのだ。他の世界の者から見たら、まだ赤子くらいの能力しかなかったようだ。最強コンビと言われていた僕達にとっては、とてもショックな事であった。
「一香さんは、そういう訳でまだ動けませんが、誠さんにはお話があるので、こちらへいらしてください」
僕はメイビスさんに導かれて、リビングルームのような場所に通された。
「少し、ここでお待ちください。もうすぐ、別の任務地から戻ってくると思いますので」
「別の任務地?」
「シュウさん達は、色々な任務地を掛け持ちでこなしているんです。今は、迷宮都市っていう場所で苦戦しているみたいですよ」
メイビスさんがお茶を出してくれた。
「神であったメイビスさんが、メイドなんですか?」
「えぇ、この家では、私が一番非力ですから。あの戦争で死んだとされている、4大魔王も生きていて、シュウさんの部隊で働いていますよ」
え?4大魔王も?たしか、メイビスさんと4大魔王は戦犯として、戦争に介入してきた絶対神の部隊に拘束されて、死刑にされたんじゃ?
「拘束も死刑にもされていませんよ。その介入した部隊って、シュウさんですよ。たった一人で終戦に導いた英雄です」
たった一人で?
「そう。あの当時、無敵と思われていた魔人を、一撃で屠っていましたから、誰も逆らう者などいませんでした」
魔人?兵藤家と式森家の連合軍でないのか?
「あぁ、兵藤家の当主でも本当の歴史は、聞かされていないのですね?」
本当の歴史?
「えぇ。誠さんと一香さんにとっては、重要で重大な事なんです。そのことでシュウさん達はこの世界に来たのですからね」
メイビスさんから、本当の歴史を聞いた。それって、禁忌の理由って…子供は望めないのか?
「望めますよ。シュウさんは、あなた方の子供の成長を、サポートしにみえたんですから」
次に僕らの子供の行末を聞いた。それは避けたいなぁ。
「そのような結末にならないように、シュウさん達が適度に介入するようです」
メイビスさんは何かに反応した。
「ちょっと、お待ちくださいね。帰ってきたみたいです」
部屋をでていったメイビスさん。
しばらくすると、彼らと共に戻ってきた。
「そうか、メイビスが話してくれたのか。ありがとう」
シュウという青年は、メイビスさんの額にキスをした。顔が赤くなるメイビスさん。
「お目覚めはいかがでしたか?」
「初めて身体中が痛かったよ」
「そういうことで、僕の配下になってもらいますよ」
「配下?負けたからか?」
「あの程度で負けたヤツを配下にはしませんよ。転生ドラゴンになってもらうためです。両親が転生ドラゴンであれば、生まれる子供はドラゴンですから、禁忌のようにならないはずです」
「僕らの産まれるであろう子供の為か?」
「そういうことです。理解が早くて助かります。配下にするには、もう少し使えるようになってからかな。僕達流のトレーニングをしてもらいますよ」
そして、僕と一香は、転生ドラゴンになり、子供を授かるまでの短い間、彼らに鍛えられた。
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子供が産まれた。「一誠」と名付けた。僕らと懇意にしている色々な勢力、神格筋に、一誠を見せて回った。来るであろう未来の為に、一誠とも懇意にしてもらえるように。行く先々で一誠は可愛がられ、写真、映像に収まり、記憶に刻んでもらえたと思う。
一誠が幼稚園に通う頃に、駒王町に家を建てた。僕らは仕事で家を留守にすることが多いので、シュウさんがメイドのフィアさんを転属してくれた。僕らの留守中はフィアさんが一誠の面倒を見てくれることになった。元悪魔で、魔王輩出家でメイドをしていた経験があるそうで、今後必須となるであろう冥界のしきたり、悪魔文字なども育児の合間に行ってくれた。
一誠が小学生になると、フィアさんは料理を教え始めたらしいが、一誠には料理の才能があったらしく、一香の料理の腕前を越えてしまった。これには一香の立つ瀬がなくなった。仕事のない日に息子の為に料理をと頑張るのだが、当の息子の料理の方が旨い、いや旨すぎるのだ。母親の威厳がぁ…と嘆いていた。
そして、1つ目の運命イベントの前日、シュウさんが僕らの家に来て、最終的な段取りをチェックしている。
僕らの神器とシュウさんが一誠の為に集めてくれた神器を、熟睡している一誠に譲渡していく。本来、神器を抜くと宿主は死んでしまうのだが、ヤマトさんの能力で死なずに譲渡できた。あと、僕らがある遺跡で見つけた、封印のかかった神器の封印を、シュウさんが解除して、それも一誠に入れていく。
そして、運命の日を迎える。
僕らはその日、お客さんが訪ねて来る予定だ。小学生になった一誠は、朝から友達と遊ぶ為に外出していた。
---イッセー---
僕の名前は『兵藤一誠』、愛称は『イッセー』である。今日は休日だったので、友達の家で遊んでいて、昼寝をして、おやつをごちそうになって、また遊んで、夕方になってしまった。
「じゃ、イリナ。また、明日ねぇ♪」
友達に別れの挨拶をして、家を目指して歩いている。今夜は、普段仕事で家にいない両親が家にいる日なので、夕食を僕が作ろうと思う。お母さんに、料理の腕の上達ぶりを見せなければ。この日の為にフィアさんに色々な料理を更に学んだだもの。
お母さんが僕の作った料理を食べると『また、息子に負けた』って凹む。そんなお母さんの姿を見て、お父さんが苦笑いするんだ。フィアさんに話したら、『料理に勝ち負けはありません。心を込めているか、そうでないかです』って言われた。
あっ、家が見えてきた。玄関に辿りついて、
「ただいま!」
って、言って家の中に入っていった。そして、両親がいるはずのリビングルームに向かう。
あれ?そこにはお父さん達は見当たらずに…カラスの翼を生やした女の人と、蝙蝠の羽を生やした男の人達がいた。
「ガキかよ」
「殺しがいがないわね」
「違うぞ。ヴァン、俺達は神器の所有者を探して、そいつから神器を奪うことだ」
「シャーリ、奪えば死んじゃうんだから、同じ事だわ。持っていないヤツは、口封じに殺すんだしね。」
「それはそうだけどな」
女の人の発言に男の人達は呆れているみたいだけど、それよりもお父さん達はどこだ?リビングルームの見渡すと、アイツラの足元には、血塗れのお父さんとお母さんが横たわっていた。
「お父さん、お母さん…」
僕は、お父さん達に近づいた。そして、身体を揺すって、声をかけたけど、お父さん達は、反応しなかった。
「おい、ガキ!良いことを教えてやる。お前の両親を殺したのは俺達だよ。ははは」
「えっ?」
なんで?
「さてっと、シャーリ」
「おい、このガキもか?ジャガ」
「あぁ」
男の人が僕に近づいて来た。お父さんを、お母さんを…怒りに飲み込まれていく僕。
---ヴァン---
「なんだ、このガキ、尋常でない数の神器を持っているぞ」
ジャガが驚愕の声を上げている。
「ふふふ」
見知らぬ声が聞こえた。声のする方を見ると、見知らぬ青年がいた。
「僕のクライアントが、怒りのオーラに飲み込まれた責任は取ってもらうよ。はぐれ堕天使のヴァン、はぐれ悪魔のシャーリ、ジャガよ」
「貴様、何者だ?」
「僕は『神殺し』シュウ」
次の瞬間、シャーリとジャガはミンチ状態になっていた。
「お前は、連れ帰るよ。潜入捜査官のヴァンさん」
こうして、私の任務は終わった。
二人の遺体を置いて、この家だけを消失させる術式プログラムを発動して、子供と私と彼の三人で転移した。
---兵藤さんの家---
いきなり兵藤さんの家が燃えがった。その火は隣家に延焼することなく、兵藤さんの家だけを灰にしていく。住民であった兵藤誠、一香の死体を除いて。
近所の住民達は119やどこかへ連絡して、数分後には消防や警察、人外なる者が集まってきた。火は数時間後に消火できたが、兵藤さんの家は全焼で全壊になっていた。家のあった場所を捜索すると、不思議なことに傷が1つもない兵藤夫妻の死体が見つかった。だけど、二人の子供である一誠の死体は見つからなかった。警察は行方不明として、現場での一誠の捜索を打ち切った。
---イッセー---
目が覚めると、見覚えのない部屋にいた。
「一誠、目が覚めたか」
お父さんが僕に声をかけてきた。
「うん。悪夢を見ちゃったよ。お父さんとお母さんが殺される夢をさぁ」
「一誠、それ夢でないからね」
お母さんが妙なことを言う。目の前に生きているじゃないの?
「一誠、殺されたのは僕達のダミーだよ。ここにいるシュウさんの能力で、僕達のコピー体を作ってもらって、入れ替わっていたんだ」
「え?」
「あと、ここは一誠のいた世界ではないから」
「え?ここはどこ?」
「僕のいた世界だよ」
シュウさんという人が教えてくれた。
「君の両親は、悪魔と堕天使に殺されたことになっている。実際は生きているんだけど、当分の間、元の世界には戻れない。戻っても、また殺される危険があるからね。イッセー親子にはこの世界で暮らしてもらうよ。イッセーが高校生になったら、元の世界に戻って活動をしてもらう。誠達とはいつでも逢えるようにはしてあげるから、安心してくれ」
「活動?」
「そう、兵藤一誠としてね。それまで、ここの世界の学校、アウロス学園に通ってもらうからね」
「アウロス学園?」
「多種族共存の戦士を育成する学校だよ。イッセーの学費は、僕の妻達が負担していくれるから心配なく通ってくれ」
「ちょっと、シュウさん、妻達って?」
お父さんが質問している。
「アウロス学園の園長のソーナと副園長のシーグヴァイラだよ」
「この世界は一夫多妻制なんですか?」
「彼女にそう教わったけど、違うみたい。僕だけの特例だって。ははは。そうそう、家は村にある住宅を使ってね。ここらだと、翼がないと買い物が不便だからね」
そういうと天使のような翼を広げたシュウさん。
「天使なんですか?」
「僕は鬼と天使のハーフだよ。イッセーと同じ禁忌な組み合わせだ」
「禁忌な組み合わせ?」
「イッセーが、高校生になったら教えて上げる。だから、健やかに育てよ」
そうして、僕達家族の冥界での生活が始まるのであった。