---イッセー---
団長の来訪から数日後、クリスさんから、次の任務が告げられた。
「次は川神院だ。相手は立ち技最強娘だ。ヴァーリ、リアスと共に、白音さんに体術を習っておけ」
っと。百代かぁ…この世界の百代はどう来るのかな?前回のようには成らないと思うけど。僕だけでなくリアス、ヴァーリも一緒だし。少し安心ではある。
リアスは、団長と遭遇して以来、心を入れ替えたように鍛錬に励み、素直に指示を受け入れるようになった。団長との対戦は、彼女の価値感を壊すのに充分過ぎたようだった。
「魔王なんてならないで良い。イッセーの元で一緒に戦いたい」
って。これはこれで良いのか判断が難しいらしい。リアスは、連れ帰るメンバーではないから。その為、高校に入学する前に、冥界のグレモリー家を訪れる必要があるようだ。冥界ではリアスは死んだ事になっているのだが、高校の理事長はリアスの兄であるサーゼクスさんなので、どうしてリアスが生きているのかを、説明しに行かないといけないそうだ。
まぁ、目先の川神院をこなすことが重要だけど。川神院でのミッションは、百代と知り合いになること、兵藤家の方々と面通しをすることになるようだ。
------
そして、川神院へ鍛錬に向かう日になった。川神家、兵藤家とのヤリトリはアザゼルさんに頼んだ。胡散臭い存在ではあるが、コミュニケーション能力はピカイチだからね。
川神院の門は僕とヴァーリ、リアスの3名でくぐった。
「すみません。修行に来ました」
玄関で声をかける。奥から師範代のルーさんが出て来た。
「おぉ、来たか。3名で1ヶ月くらいだったな。あがってくれ。今日は兵藤家が出稽古に来ているのだ。見学するのも勉強だ」
っと、住み込む部屋にまず案内され、そこで道着に着替え、道場へと向かった。道場では武神こと川神百代が、兵藤家門下生を次々に倒していた。道場の隅に陣取り、百代の動きを観察する。
上席から祖父の兵藤源氏の視線を感じる。この世界の祖父も顔付きが険しい。
「そこの!ちょっと相手をしなさいよ」
って、百代から声がかかった。僕が3人を代表して、百代の前に立った。
「お手柔らかにお願いします。今日は見学だけの予定でしたので…」
って、僕が前口上を述べている途中で、仕掛けてきた百代。突き、蹴りが素早く叩き込まれて来た。僕は、その1つ1つを丁寧に受け流していく。当たらないことで、百代の動きがトリッキーになっていくが、それも1つ1つ丁寧に受け流していく。
当たらない苛立ちと疲れからか、百代の連続攻撃の一瞬の隙が生じ、そのタイミングを逃さず、一本背負いからの逆十字固めを極めた僕。寝技から逃れようとジタバタする百代だったが、あがくほど、極めが深くなっていく。そして…百代の手が僕の足をタップした。
------
出稽古が終わり、奥の座敷に通された僕達は、兵藤家の方々と会うことになった。
「いっくん♪」
「一誠様♪」
叔母達が勢いよく僕に抱きついて来た。
「悠璃さん、楼羅さん、お久しぶりです」
「「覚えていてくれたんだ♪」」
抱きつく腕に力が入ってきた。痛いよ~
「おい、一誠を絞め堕とすなよ」
って、祖父が助け船を出してくれた。抱きつく腕から力が抜けてきて、優しく抱きつかれた。
「色々、一誠に聞きたいことがある。連れの者を紹介してくれるか?」
「はい。仲間のヴァーリ・ルシファーとリアス・グレモリーです」
ヴァーリとリアスを紹介した。二人共、祖父に挨拶をした。
「で、誠と一香はどうしたのじゃ?」
「もう、いません…」
「そうか…」
僕の返事の予想はついていたのか、重苦しい空気が漂う程度ですんだ。
「どこの勢力の者に助けられたのじゃ?仲介には、堕天使のトップが就いてくれたようじゃが」
「この世界を、最悪なシナリオに向かわせない勢力です」
「もう少し詳しく教えてくれんかな?」
う~ん、どこまで言っていいのかな。
「父さんと母さんの意志を継ぐ者です」
嘘では無い程度で誤魔化す。
「そうか…言えないのじゃな。まぁ、良い。お前が生きているんだからな」
その後、祖父はだまりこみ、オバ、祖母との談笑をたっぷりとした。そして、帰る間際に、祖父が僕に耳打ちをした。
「困った時は儂を頼っていいのじゃぞ」
っと。
------
川神院の朝は早い。日の出と共に起き、道場を雑巾がけをする。雑巾がけも鍛錬のうちだし。雑巾を絞る動作、腕の筋肉を鍛錬できる。雑巾がけをする動作、脚、腰の鍛錬ができる。アウロス学園で学んできたことだ。アウロス未経験のリアスは、僕とヴァーリを見て、同じように身体を鍛練していく。
雑巾がけを終えると、庭先で瞑想。空気に溶け込むように、気配を消していき、周囲の状況を頭に感じ取っていく。これは、リアスもベースキャンプで、白音さんから指導を受けので、こなしていた。
「すばらしい…気配をここまで消せるとは」
ルーさんから誉められた。
「おい、一誠、私と手合わせをしろ。今日こそ負けない」
出稽古の日以来、1日2回、朝晩に百代との組手が行われた。彼女はこの世界でも、立ち技最強だと思う。でも、関節技、投げ技に抵抗力がまるでない。隙を逃さない限り、僕に負けはない。いや、僕だけではない。ヴァーリ、リアスにすら勝てない百代。
そして、最終日…
「おい…私も一緒に連れて行ってくれ。私はもっと強くなりたい。お前らの道場で鍛錬をさせてくれ。川神院の当主の許可は取ってある」
と、僕達と共に鍛錬したい意志を表明した百代。ルーさんの方を見ると、
「百代は言い出したら聞かないんだ。連れて行ってくれるか?お前達の道場で鍛えるってことは、川神院にとってもプラスだと思うしな」
そして、僕達と百代は、人目の無い場所で、ベースキャンプへと転移した。
------
ベースキャンプに着いた百代は、カルチャーショックを受けたようだった。純粋な人間は百代だけだし…それの事実だけでも、充分なカルチャーショックを与えたと思う。
「お前ら…人間ではないのか…」
「秘密を知った以上、返さないよ。今後、僕達と行動を共にしてもらうからな」
っと、クリスさんが釘を刺した。
百代の一番のカルチャーショックは、僕とイッセさんの龍化状態での組手だったらしい。
「アイツ…ドラゴンなのか…」
初めて僕の龍化過程を見た百代は、失神してしまった。それほどに、ショックだったらしい。
------
そして、グレモリー家への挨拶に行くことになった。いきなり、行くのは失礼なので、アジュカさんのお城に、僕とシルヴィアさんとリアスの3名で、転移した。アジュカさんに相談するためだ。お城に着いて、挨拶をして、いきなり本題の相談をした。
「そうだな。俺が、サーゼクスに話をすれば良いかな?」
「アジュカさんにおまかせします。リアスがイヤな思いをしないで済む方向でお願いします」
「イッセー…私は覚悟している。ひどいことを、父上、母上、お兄様、お義姉様に言ってしまった。イヤな思いをしても、それは私のせいだから…」
「でも、リアスの哀しそうな顔は見たくないんだ」
リアスを優しく抱きしめる。
「大丈夫…イッセーが一緒なら」
「リアス君、成長したね。良いナイトに巡り合えたようだな」
アジュカさんが、暖かい眼差しで、リアスを見つめていた。それから、会話用の魔法陣を開いて、サーゼクスさんに連絡をしてくれた。
「サーゼクス、君に折り入って相談があるんだ。俺の城まで来てくれないか?君一人でね」
しばらく、待っていると、サーゼクスさんが転移してきた。
「どうしたんだ、アジュカ……えっ…リーア?」
アジュカさんの隣に立っていたリアスを見て、立ち尽くすサーゼクスさん。
「死んだはずだ…なんで?どうして?」
リアスを見て、取り乱すサーゼクスさん。
「生き返らせたんだ。一誠君がね」
「一誠君…」
サーゼクスさんが僕を視野に入れたようだ。
「一誠君、生きていたのかぁ」
僕を抱きしめて喜んでくれているサーゼクスさん。リアスのことはいいのか?
「そうか…君がリーアを…ありがとう…」
落ち着きを取り戻したサーゼクスさんに、アジュカさんが政治的な話をしてくれた。
「リーアを死んだことにしたまま、駒王学園に入学させるのか。難易度が高いなぁ」
顎を手で摩りながら悩むサーゼクスさん。
「理事長権限で行けるだろ?」
「そうだけど…死んだことになっているんだぞ」
「名前を変えれば良いだろ?たとえば、リアス・ヨハネとか。一誠君もイッセー・ヨハネを名乗っているし」
「う~…」
「リアス・ルシファーでも良いと思いますよ」
僕も提案をした。
「ルシファーはまずいだろ?」
サーゼクスさんが難色を示した。
「でも、ヴァーリ・ルシファーも一緒に通うから、姉妹ってことになりませんか?」
「ヴァーリ・ルシファー?何者なんだい?」
ルシファーと聞いて、驚いているサーゼクスさん。
「リゼヴィム・ルシファーの孫です。彼女の両親はリゼヴィム・ルシファーに殺されましたけど…」
「まさか…昔、駒王町であった謎の爆発って…」
ヴァーリの家の爆発を思い出したようだ。
「そうです。リゼヴィム・ルシファーの巨大な魔法陣によるものです。ヴァーリを助けに行ったんですが、オジサンとオバサンは既に…」
僕にも優しかったヴァーリの両親を救えなかった悔しさで、目から涙が零れてきた。そんな僕を、今度はリアスが優しく抱きしめてくれた。
「くやしいんだね、イッセー…」
「それでだ、サーゼクス。どうなんだい?入学は無理か?」
「いや、受け入れる方向にする。しかし、僕だけの判断では、難しいかな。父上、母上、グレイフィアの意見も聞かないと」
「グレイフィアは、旧魔王派と繋がっているんだろ?」
「いや、今は繋がっていない。シルヴィアを失ったショックは彼女にとって大きかったんだよ」
サーゼクスさんがシルヴィアさんを見た。シルヴィアさんは、涙を見せないように俯いたようだ。
「旧魔王派に、リアス君が生きていることを知られるとまずい。もちろん、一誠君もだ」
「そうだな、それは避けないといけないな。俺が先に帰って、家の人払いをしておく。連絡したら、シルヴィア、一誠君とリーアを連れて、転移してほしい。頼めるかな?」
サーゼクスさんがシルヴィアさんに頭を下げた。
「魔王様が私なんかに頭を下げないでください。もったいないです。わかりました。一誠君とリアスと共に転移します」
サーゼクスさんが転移して行った。
------
サーゼクスさんから連絡があり、グレモリー邸に転移した僕達。転移した先は、グレモリー邸のリビングルームだった。
リアスの父ジオティクスさん、母ヴェネラナさん、義姉グレイフィアさんとサーゼクスさんが立っていた。
「一誠君…ありがとう…」
ヴェネラナさんが僕に抱きついて来た。
「いや、僕…別に…何もしていません」
「私達の娘を…ありがとう…」
「お父様、お母様、お義姉様、ごめんなさい。私が身勝手でした」
リアスが、土下座をしていた。床に額を擦りつけている。
「リアス…」
ジオティクスさんが、リアスの両肩を優しく起こした。
「姉さん…」
グレイフィアさんはシルヴィアさんに泣きながら抱きついて居た。三者三様の感動の再会をしている最中、僕はヴェネラナさんに連れられて、彼女の部屋に連れ込まれたようだ。
「ここなら、結界が張ってあるので、話が漏れません。一誠君に聞きたいことが、一杯あるの。ねぇ、教えてくれる?」
なんか、逃げ場を失った気がする。
「どこに住んでいるの?誰と住んでいるの?誠殿と一香殿はどうしているの?」
そうだよ。父さんと母さんと懇意にしていたし、僕のことを実の子供のように可愛がってくれたんだもの…心配を一杯してくれたんだろうな。でも、言っても良いのかな?どうしようか迷っていた僕の隣に転移陣が現れて、クリスさんが転移してきた。クリスさんは、ヴェネラナさんを懐かしい目付きで見ている。でも、
「あなたはどなた?ここには結界が張ってあったはずよ」
「結界は張り直しました。僕は、クリス・グレモリー。別世界で、貴方の息子だった者です。今はイッセーを監督する立場にいます」
クリスさんのカミングアウトで、目を見張るヴェネラナさん。
「私の息子?別世界の?なんで、紅髪でないの?」
「僕の父親はリゼヴィム・ルシファーです。母親はヴェネラナ・バアルと言えば良いですか?」
絶句をしたヴェネラナさん。
「銀髪のグレモリー…まさか、あなたは…先祖還りしているの?」
天使の翼を展開したクリスさん。
「そ、そんな…ごめんなさい…別世界の私は罪深い事を…」
ヨロヨロとした足取りで、クリスさんの傍に行き、優しく抱きしめた。
「僕はグレモリー家の理不尽さを知っています。僕は僕の世界では、リアスの双子の弟でした。この世界のリアスを救いたい。分かってくれますか?」
クリスさんは、ヴェネラナさんに優しい口調で、尋ねた。それに対して彼女は頷いた。
「ありがとう…リアスの為に…一誠君も…ありがとう…」
「先程、イッセーにあなたがされた質問に答えないといけませんね。住んでいる場所は言えません。一緒に住んでいる者は」
クリスさんの隣に転移陣が5つ現れて、メイビスさんとルシファーさん達元魔王4名が現れた。ルシファーさん達を見て、驚きながらも跪くヴェネラナさん。
「生きていらしたんですか?ルシファー様、レヴィアタン様、ベルゼブブ様、アスモデウス様そして、神メイビス様」
「えぇ…クリス君達に救われました。私達を襲った悪神を退治してくれたのです」
「ありがとうございます…神様と魔王様達を助けてくれていたなんて…」
「あと、最後の質問だが、兵藤誠、一香はもういない」
「えっ…」
「僕達は神ではない。全てを護れるほど万能な勢力でないんだ」
「なんで、誠殿と一香殿は…」
「悪神ロキとリリンにとってはジャマな存在だから。他に消される理由が浮かばない」
「そんな…」
「イッセーとリアスは消される対象なんだ。なので、今話した内容は他言せず、貴方の心に置いておいてください。お母さん…リアス達の方も話がついたみたいだ。そろそろ、帰ります。また、お会いしましょう」
「私も一緒に連れて行ってください…リアスと一誠君の傍で生きたい」
「申し訳ありません。それは、今は出来ません。いずれ、機会があれば…」
そして、僕達はベースキャンプに転移した。ベースキャンプに戻り、クリスさんは、ルシファーさんの胸で、泣いていた。本当はヴェネラナさんと暮らしたかったんだろう。
---ヴェネラナ---
リアス、一誠君、クリス…は転移していってしまった。サーゼクスが呼びに来るまで呆然としていた私。別世界の私は、なんと罪深いことをしてしまったのだろうか。天使の翼を持ち、銀髪のグレモリー…彼は冥界を追われたのだろう。
「母上、一誠君となんの話をしていたんですか?」
サーゼクスの声が聞こえる。意味が理解できない。私は、あの子にしてあげたいことが一杯ある。死んだはずの魔王様達と神様すら救い、リアスも…そして、一誠君もだ。彼には、もっと…愛情を…
「母上…」
「サーゼクス…彼らを助けてあげて、お願い…私の命を捧げてもいいから、ねぇ」
「母上、何を聞いたんですか?どうされたんですか?」
言えない…リアスでもなく、一誠君でもなく、クリスを救いたいなんて、言えない。別世界の私が抉った彼の心の傷は深いようだ。
「一誠君のお願いは総て叶えてあげてね、サーゼクス。私も私にできることを考えるから」
「母上、何があったんですか?」
私は…
---サーゼクス---
「母上は一誠君に、何か重大な事を聞いたみたいです」
あんな母上は見た事がない。あんなに取り乱した母上は。
「私からも聞いてみたのだが、頑として教えてくれないんだ。何を聞いたのだろうか」
父上にも話せないことって何だ?
「リアスの変わりようにも驚いたよ。何がリアスを変えたんだろうか?私やヴェネラナ、サーゼクスの言葉すら聞き入れなかったのに」
それは俺も感じた。性根が腐りきっていたリアスが、あんなに素直になるなんて。一誠君が一緒にいる勢力ってなんなんだろうか?魔王なんかちっぽけな存在って、リアスの口から聞くとは思わなかった。
「シルヴィアに聞いても、住んでいる場所、一緒に住んでいる者の詳細も教えてくれなかったし、何者と一緒にいるんだ?」
父上の疑問は俺にも疑問であり、知りたいことであった。たぶん、アジュカは知っているのだろうけど、今は言う時期ではないってことなんだろうか。
「とにかく、駒王学園の件は、了承しようと思います」
「あぁ、一誠君の願いを叶えてあげてくれ。時期が来れば、教えてくれるんだろう。きっと…」