---フィン---
記憶が曖昧である。判っているのは、何故か路上で倒れていて、ディアンケヒト様の医療施設に入院していたことだけだ。何がどうなったんだ?
「先行組は、リヴェリアを隊長として、アイズ、ティオナ、ベート、イッセー、レフィーヤで先行して欲しい。体調の悪い俺は、後続部隊と共に進軍する」
遠征のメンバーを発表した。遠征の出発は明日だ。
「アイズにいいところを見せつけてやる♪」
って、ベートが息巻いている。そのアイズは、イッセーとの会話を楽しみ、ベートをスルーしているようにも見えるが。
「ベート…暴走するなよ」
釘を刺しておく。
「俺は暴走なんかしない♪」
「リヴェリア、頼むぞ」
「あぁ、わかっている」
ロキの部屋にはヘファイストス様がいらしているようだ。今回の遠征で、数名のスミスをお借りすることになっているから。回復師としてアミッドが同行してくれるようだ。だが、薬剤系も大量に持っていく。薬剤の原料を取りに行くのに、薬剤が大量に必要って、効率が悪い気がする。
自分の部屋に戻り、入院するはめになった原因を思い出してみた。イッセーと出かけた気がするのだが、その日イッセーは一人で潜ったいたそうだ。ドロップ品と共に帰宅したと、アイズとリヴェリアが証言している。じゃ、俺はどうしたんだ?
---イッセー---
あの龍の壺での鍛錬は、役立った。49階層までの敵にビビることも無く、対処できたと思う。
「いつのまに…根性が座ったんだ?」
ベートさんが驚いている。あの龍の巣窟に比べたら、余裕で対処出来ると思う。剣技の合間に魔法を放つことも、身体が覚えたし。
「魔法も撃てるのか?それも無詠唱で…」
リヴェリアさんすら驚いていた。でも、僕なんからまだまだだ…結局ゴールする前にマインドロストでのリタイヤだったし。あれをタイムトライヤルで鍛錬するのが間違っているんだと思いたい。
しかし50階層に着くと、桁違いレベル差を見せつけられる事態に遭遇した。
こんな深層に、立派なお屋敷が建っていた。こんなことをするのは、一人しか浮かばない。
「どうやって、こんな場所に建築したんだ?」
リヴェリアさんが驚いている。
「あれ?ハイエロフ様じゃないですか♪」
鬼が現れた…
「え…イッセー君の師匠様…」
アイズさんが声を掛けた。
「おぉ、イッセーの彼女か?あ、イッセーもいるのか」
「なんだと?イッセーの彼女?それは違う!俺の彼女だ!」
ベートさんが鬼に襲い掛かる。
バシッ!
ビンタ一発で、連絡通路まではね飛ばした。100メートルくらいはあるんじゃないか?
「女性たけなら、我が別荘へ招待しよう。あ、イッセーは仲間なので、問題は無いぞ♪」
50階層に別荘?桁が違うチータなシュウさん。別荘の中は、煌びやかな作りであった。豪華そうなシャンデリアが有り、玄関入ってすぐの大広間を明るく照らしていた。
「ここで、何をしているんですか?」
鬼に訊いた僕。
「蘭の基礎トレーニングを兼ねて、他の者にも鍛錬をさせているんだよ。イッセーも体験しただろ?」
龍の壺のタイムトライヤルか…ここが拠点だったのか…蘭さんって言うのは、新しいメンバーだそうで、適正値を確認しながら、基礎トレをしているようだ。
「まさか…イッセーのマインドロストって…」
リヴェリアさんが鬼に確認をするように訊いた。
「あぁ、アレねぇ。そうだよ。ここの上級コースを、イッセーにやらせたんだ。だけど、リタイヤした。マインドロストでな♪」
「どんなトレーニングをしたの?」
「龍の壺に落として、ここまで戻るタイムを競わせているんだ。それに参加させた」
固まるロキ・ファミリアの皆様。龍の壺に自ら落ちるなんて、良い子がしちゃいけないことである。この世界では、その行為を自殺と呼んでいるそうだ。
「はぁ?あの程度で自殺?有り得ないだろ?準備運動程度だよ」
「おい、砲龍の群れ相手で準備運動だと?」
「見てみる?」
鬼とリヴェリアさんの姿が消えた。マジか?
---リヴェリア---
転移術…空間移動系の術だと聞いている。使い手は希だと言うが、彼は使い手のようだ。一瞬にして、龍の壺の底にいた。周囲には殺気だった砲龍の群れ。
「じゃ、僕の背中から、はぐれるなよ。はぐれれば、死を意味するからな」
何を言っているの…すでに死んだも同じではないか?こんなにたくさんの砲龍に囲まれているんだぞ。しかし、すう分後…砲龍は逃げ惑っていた。彼から…鬼畜から逃げ回っている。
「なんだよ?逃げるの?有り得ないだろ?おい!ドラゴンなら来いよ!」
挑発するも逃げ惑う砲龍の群れ。何?この桁違いの戦力は…『エアブーメラン』と言う術だそうだ。剣で空気を斬り断ち、真空状態にしたブーメラン形状の空間を、砲龍の首元に投げ込んでいるんだとか…一投で十数匹を屠っている。
近接する砲龍には『サマエルニードル』と言う術だと言う。ドラゴンにとっての猛毒を針状に固形化し、撃ち込んでいく。1本でも刺されば、ドラゴンには死が訪れるとか…
「まぁ、こうやって、新しい術を開発して、実戦に備えているんだよ♪」
山のように手に入れたドロップ品は、あの別荘へ転移させているそうだ。遠征なんか、意味を為さない。彼らに頼めば、低コストで手に入りそうだ。
「で、ハイエロフ様は開発していいのかな?」
うん?どういうこと?え…押し倒して来た。こんな場所で?
「どんな場所ならいいのかな?」
ピンポイントで、恥ずかしい部分を指で突かれた。気持ちいい…頭がのぼせていく。
---シュウ---
指でソフトタッチで達したリヴェリア。感じ易いにも程がある。虐める前に、それは酷いって。リヴェリアをイッセー達に返した。
「あぁ、団長。あお狼が付けていた装備をモチーフに、装備を作ってみました」
って、フレイ。蘭の装備か。蹴りのインパクト時に属性攻撃用の何かが放出する仕組みのようだ。
「動き易い防具を先に頼む」
「わかりました」
で、狼君は蘭のサンドバッグ状態である。装備無しでの手合わせ。亜人程度なら蘭の方が強いようだ。問題は、打たれ強いパワータイムの亜人だな。ケリを掴まれれば、蘭には死が訪れるだろう。どうするかな…
「お願いがあります。稽古をつけてください」
イッセーの彼女に言われた。
「稽古?付けるまでもない」
危ない危ない…娘枠を食おうとしてしまった。
「イッセーと稽古をしろ」
アイズが、斬り掛かってきた。しょうがないなぁ。『エアスタンプ』で張り飛ばした。地面に全身を強打して、起き上がれないアイズ。ベスが近寄り、回復魔法を掛けている。
僕の戦力を知ったリヴァリアは、文句を言ってこない。アイズが無謀だとわかってしまったから。
「イッセー!お前の彼女はお前が管理しろ。僕だと手加減してもあの様だよ」
「あ、わかりました」
娘枠にエロ系はしたくないからな…
---フィン---
50階層へ着いた…はぁ?なんで、こうなっているんだ?
大きなお屋敷が建っていた。その前では、トレーニングをしている仲間達がいた。何をしているんだ?
アイズ、ティオナがイッセーと激しい打ち合いをしている。リヴァリアはイッセーの師匠に寄り添うっている。レフィーヤは知らないエルフ達と魔法書を見ながら、話し合いをしている。で、ベートは知らない女性にボコられているし…
「リヴェリア…どういうことだ?」
「あ、フィンか…」
俺の傍に近寄って来たリヴェリア。遠くで「撤収」って声が聞こえた。リヴェリアは振り返らずに、寂しげな表情を浮かべていた。
「何が遭ったんだ?」
「見ての通りだ。イッセーの師匠に、トレーニングをしてもらっていた」
リヴァリアから視線を外して、彼らの方を見ると、彼らはもういなかった。あの大きな屋敷も…幻だったのか?
「ベート、何をしていたんだ?」
「あ?見ての通りだよ。一般女性にボコられていた。力は無いが、いいケリだった」
満足そうな顔のベート。
「レフィーヤ、お前はどうしたんだ?」
「え…リトルちゃんとフィアナちゃんと、魔法の勉強です。あ、二人はイッセー君の姉弟子だそうですよ」
フィアナ?どうしてエルフなのに、そんな名前なんだ?それは、俺達小人族に関連する名前であるのだが…
「アイズは?」
「イッセーと鍛錬をしていました。イッセーの師匠に相手をして貰うよう、鍛錬をしていました」
「あれは、桁違いに強いな。私もアイズも、一太刀も入れられなかったし」
「ダメですよ。あの人と戦おうと思っちゃ。手加減出来ないんですかね」
「そうだね。それは痛かった。死ぬかと思ったもの♪」
アイズもティオナも満足げである。ここで何があったんだ?
-------
俺達とのタイムロス…だいたい3日くらいだったらしい。その間、イッセーの師匠達と鍛錬していたそうだ。イッセーの師匠は転移術使いで、好きな階層と行き来が出来、様々な階層で、鍛錬を積めたらしい。
「イッセー君も転移術を使えるんですよ」
って、アイズ。
「でも、僕は僕だけしか転移出来ません。師匠のように複数の者達は無理だし」
魔法使いなのか?イッセーに師匠は…
「リヴェリア…彼は魔法使いなのか?」
「魔導戦士です。魔法も剣も格闘術も総て使えます」
魔導戦士…この街にはいないタイプだな。
「で?あのテントはなんだ?」
大きめのテントが1張り残っていた。
「今回の目的の物です。彼が用意してくれました」
目的の物?走り寄って確認すると、カドモスの泉の水を含む、ドロップ品が、全品目、全量、既に用意されていた。
「彼はお金目当てでは無いからって、それを下さりました」
彼?彼の話をするとき、リヴェリアの表情が嬉しそうである。惚れたのか?
---シュウ---
次の鍛錬先を考える。蘭の欠点はわかった。ケリ一発で倒せない、パワータイプの魔物は苦手のようだ。体術系を仕込めば良いのかな?体術系だと兵藤家か、川神家だが…
イッセーの方は魔法かな。剣術はそこそこだ。そうすると式森家か…
両方を一度にだと、あそこか…う~ん、あそこは連敗中だしなぁ。
イッセーを『強奪』で呼び戻した。
「どうしたんですか?」
きょとんとしているイッセー。
「離脱する。このままだとダメだ。僕の理性が…」
正直に告白をした。リヴェリアに手を掛けてしまいそうだった。
「リヴェリアさんですか?マズいんじゃないですか?既に惚れられていますよ」
「だから、離脱だ。それにお前にはもう、この世界で学ぶ物は無い!」
「え?いや、アイズさんと…」
ふふふ。手遅れだよ。
「もうタイムワープをしているぞ」
「え?!もう?お別れを言ってません」
「一人前になったら、お前の力で、あの時間軸へワープしろよ♪」
「鬼!」
「そうだよ。鬼の子だし♪」
「ひとでなし!」
「うんうん、化け物だからね♪」
こうして、次の鍛錬先へとワープをした。
---イッセー---
気が着くとアパートの1室にいた。ここはどこだ?僕以外に人の気配は無い。ワンルームのアパートのようだ。いや、ロフトがあり、そこにベッドがある。テーブルの上にメモが置いてある。
『蘭は蘭として傍にいて貰うことにしました。なので、蘭の世界へ行って結婚式をしてきます。つきましては、当面一人で生きて下さい』
って…はぁ?ここはどこかが書いていないんですが…ここがどういう世界か知る事も、鍛錬の内なのか?
恐る恐る外で出てみると、青空であった。冥界ではないようだ。ここはどこだ?外へ出て、電柱を見た。住所表記が日本語で書かれている。日本であるのは確かであるようだ。
で、何だの世界だ?
家の中に戻り、地図が無いかを物色。タンスの中に財布があり、当面の生活費はあるようだ。銀行のカードと暗唱番号。これで大金が下ろせるのか?
コンコン!
ドアをノックする音だ。え?誰だ?応対する為にドアへと走った。