ドレスローザ王宮。
ほぼ瓦礫状態で用をなさない扉を開けた。
「チッ」
「あんなに自称重傷者がいたってのに」
「かくまってた海賊たちがいなくなったら、もぬけの殻だ」
海兵二人が苦々しげに言った。
ズカズカと奥へ進む。
今度は立派な扉の前に立つ。
中からは楽しげな話し声がする。
「マリアという人間はいるか?」
ノックもせずに海兵は扉を開けた。
「何ですか!あなた方は」
招かれざる訪問者にヴィオラは立ち上がる。
「海軍命令だ。ドンキホーテ・ドフラミンゴの身の回りの世話係としてマリアを乗船させる」
ヴィオラは顔色を変えた。
「ドフラミンゴの?彼は囚人でしょ。世話係なんて必要ないはず」
隣にいたリク王が皮肉気に加える。
「元・七武海は特別扱いか」
「陛下、ヴィオラ様。海軍には従いましょう」
瓦礫と化した王宮の一室を、黙々と掃除していた質素なベージュのワンピースにエプロンをした 女性が口を開いた。
「行かせる必要はない。海軍命令だろうが、国王の権限をもって拒否する」
リク王は力強い目で海兵をにらみつける。
火花が散るような空気を、澄んだ声がやわらげた。
「待って。お父様」
ヴィオラは振り返った。
「マリア、あなたはどうしたいの?」
尋ねられた質素な服を着た女性は、腰まである柔らかくウェーブしている、うなじで一つにまとめたブロンドの頭を、深々と下げた。
「ヴィオラ様。ファミリー崩壊後、路頭に迷いかけた私をヴィオラ様付きとして雇ってくださったのに、恩を仇で返すような真似をして申し訳ありません」
「行くつもりなのね」
ヴィオラがため息をつくように言う。
マリアは晴れやかな笑顔を浮かべた。
海兵に連行されるようにマリアは王宮を後にした。
「いいのか。ヴィオラ」
「ええ、お父様。彼女は幹部の中では『ドフラミンゴのお手付き』と暗黙の了解だった子よ」
リク王は眉を上げる。
「あの子がドフラミンゴの前に現れる前は、彼にとって女は征服するか、金で買うか、それだけの存在だったわ。そして飽きたら壊れたオモチャのように捨てる。他の幹部たちと共有したり…。ファミリーには手を出さなかったけど」
ヴィオラは淡々と言った。
「あの子は何の見返りもなく彼を愛した。彼も無自覚だけど彼女を愛していたように見えたの。そう…。あの子を相手にするようになってから他の女に手を出さなくなったわ」
ヴィオラは言葉を続ける。
「あんなに残酷な彼にも心がある。彼女をドフラミンゴが必要としているなら、彼にとって最後のチャンスかもしれないわ。人として生まれ変わる」
マリアは海軍の船の一室の前に立った。
優れた見聞色の覇気の使い手の彼女には扉の向こうに存在感のある人間が二人いること、そして屈強な海兵に見張られている隣の部屋の中にいる″彼″を感じた。
そして、ふと疑問に思った。
(私の
しかし、彼女の能力は最高幹部にすら知らされていない。
ドフラミンゴ以外で知っているのは、最初に彼女の能力に気付いた特別幹部・シュガーだけだった。
彼が最高幹部にすら言わなかったことを、海軍にわざわざ教えるとは思えない。
(ひょっとしたら、若様は脱走するつもりで私を…?)
マリアは寒気を感じた。
マリアとともに来た海兵が扉をノックした。
「失礼します」と言って開けた。
室内で机に向かって座っている、白髪の女性に敬礼をして報告する。
「中将、マリアを連れて来ました!」
「ご苦労だったね。いいよ、下がって」
「はっ」
海兵は再び敬礼し、部屋を出た。
「私は海軍中将のつる。あんたにドフラミンゴの世話を頼みたい」
「おいおい、おつるさん。この子が本当にマリアなのか?」
ものすごいバカンス気分の格好をしたセンゴクが呆れたように言う。
そしてバリバリ音をたててながらマリアに袋を差し出す。
「あ、あんたおかき食うか」
マリアは困った顔をして呟く。
「あ、お気持ちだけ頂戴します…」
「センゴク。あんたの一つ覚えも多少は役に立つ時があるんだね。この子の緊張が少しは解けたようだ」
呆れたようにつるは言って続けた。
「ドフラミンゴは隣の部屋にいる。面通しするよ。いいね」
了解の意思をうなずいて表した。
ドアに向かいながら、つるはぼやく。
「まったく、ドフラミンゴの悪趣味は変わらないね。ビクついてる雑用係を脅して遊んでるんだから」
センゴクも付け加える。
「食事も運ぶヤツがいなくなってな。こっちも未来のある若いモン達を潰したくないし、まさか階級の高いヤツに雑用係の代わりをしろ、とも言えん。そしたら、ヤツの方からあんたに雑用係の代わりをさせろと言ってきたんで、悪いが手伝ってもらおうかと、おつるさんと決めた」
3人は部屋を出て隣の部屋の前に行った。
つるが苦々しげに呟く。
「ったく…。映像電伝虫の許可さえ、おりれば苦労はないってのに…」
そんな言葉を聞かなかったように、扉の前に立っている海兵が敬礼して脇に移動する。