部屋をゴソゴソと探すような音でドフラミンゴは目を覚ました。ベッドに一人で横になっているのに気付いた時、下着姿のマリアがベッドに戻ってきた。毛布にくるまりドフラミンゴの隣に横たわると、唇を尖らせて彼を上目遣いで睨みつける。
「若様。私の服はどこに?」
「ん?不快な気配とやらは、もう感じないのか?」
ニヤリと笑ったドフラミンゴにマリアは彼が想像したような表情で唇以上に尖らせた声を出した。
「若様がお側にいれば強い気配以外、感じられません!じゃなくて!質問に答えてください!」
「ああ、あれか。あれは随分、汚れちまったからなァ。海に捨ててやった」
マリアはこめかみに青筋を浮かべる。
「何も捨てることないでしょう!汚れくらい洗えば落ちるのに!」
「シーツを汚しちまったら、怒られると思ってなァ。汚れを最小限に留めてやったと思ったんだが」
『汚れ』の理由に気がついたマリアは怒りと恥ずかしさから、顔を真っ赤にしながらも追求の手を緩めない。
「…!!汚れの原因を作ったのは私なんだから、私が若様を怒る訳ないじゃないですか!!」
「ほお。じゃあ、今とってる態度はなんだ」
ニヤニヤ笑いながら、ドフラミンゴが訊く。
「私が怒ってるのは、勝手な解釈して勝手に行動する若様にです!」
「フフフフフ…。そうきたか。俺はてっきり勝手にお前のものを捨てたんで怒られたんだと思ったが」
忍び笑いをもらすドフラミンゴにマリアの怒りがピークに達した。
「!!分かってるなら、何で捨てるんですかっ!!『汚れたから洗っておけ』で済む話じゃないですか!!」
怒り心頭のマリアを受け流し、ドフラミンゴが話を替える。
「船に戻ってから飯を食ってねェ。腹が減った。何か持って来い」
「!食堂に行って食べればいいでしょう!!」
「腹が減って動けねェ。ガタガタ言わずにさっさと持って来い」
こうなってしまっては、マリアの服の話は強制終了されたも同然だ。マリアは諦めて食堂に向かおうとしたが、自分の部屋へ服を調達しに行く前にシャワーを浴びて、汗もイライラも流そうと思った。
シャワーを浴びているうちにドフラミンゴとの行為を思い出し、マリアはこれまでにないくらい自己嫌悪に陥った。義務感ではなく、不快な気配を感じないようにする為とは言え、行為に没頭し、且つ今までにない快感を感じてしまったことが信じられなかった。と、そこに。扉を開ける音がした。振り返ると、『腹が減って動けねェ』はずのドフラミンゴが姿を現したのだ。
「フフフフフ…。俺の姿が見えねェと不快な気配を感じるんじゃねェか?心配だから来てやったぞ」
しかし、彼の勇ましくそそりたったモノを確認して、マリアは盛大なため息をついた。諦め半分の表情で言葉を発する。
「…。お腹が空いて動けないのでは?」
「フフフフフ…。お前が心配で来てやったんだが、文句があるのか?」
恩着せがましい態度にマリアは再びため息をつく。
「…。もう世界政府から遠ざかったので、大丈夫です」
「そうか。そいつァ良かった。だがせっかく心配して来てやった俺の立場はどうなる?」
そんなの知りません。と言ってもムダなことは言わない。
「自分もシャワーを忘れてた、と素直に言ったらどうです?」
ドフラミンゴが既にシャワーを浴びたことを知らないマリアが言う。
ニヤニヤ笑いながらドフラミンゴは答えた。
「お前はベッドの上では素直で可愛いげがあるのに、それ以外では反抗的で可愛いげがねェな」
ドフラミンゴは洗い場の小さな椅子に腰かけ、恥ずかしさで顔を紅に染めたマリアの腕を引き抱き寄せる。すると。
ぐゅぎゅるるる~
ドフラミンゴの腹が盛大な音をたて、思わずマリアも笑い出す。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ですよ。若様」
そう言いながら、少しだけ形勢が逆転したように感じたマリアはドフラミンゴの脚の間で跪き、そそりたったモノを啄むように口づけた。仏頂面でそっぽを向くドフラミンゴを上目遣いに見上げ、根元まで頬張る。
と、舌でいとおしそうに撫でた後にすぐ開放し、続けて言う。
「これが終わったら、部屋にお戻りくださいね?すぐに食事をお持ち致しますから」
今度は自分の柔らかい胸でそこを包み込み、先端を唇と舌で刺激した。胸も前後に動かしドフラミンゴを絶頂へと誘う。
柔らかく暖かい胸でしごかれ、軟体動物のような舌で刺激され、堪えきれずドフラミンゴは欲望を放った。それを喉を鳴らして飲み込み、舌と自分の唾液で彼自身を拭き取って開放する。
そっぽを向いたままのドフラミンゴにシャワーを浴びせ、バスタオルで丁寧に拭いてやった後、バスローブに袖を通させベルトを緩く結ぶ。そして背中を押し、部屋へ向かわせる。
「ちゃんと暖かくしているんですよ。すぐに何かお持ちしますから」
マリアはそう言って、自分も身体を拭くとバスタオルを巻きつけて部屋で服を着た。それから食堂に向かい、夜番の乗組員たちの為に作り置きしてあったシチューを温め直しながら、ぼんやりと思い出した。ドフラミンゴが世界政府に行く時に叩き起こしたことを。と言うことは昨夜から食べ物を口にしていないのだ。その事実に気付いたマリアは、慌ててシチューを大きめの器に入れ、自分の分はパンだけ皿に乗せ、トレイで部屋へと運ぶ。
ドフラミンゴはベッドに寝転がっていた。部屋着にも着替えず、バスローブのままだった。マリアが言ったように暖かくはしていなかった。
デスクに食事を置こうとするとぶっきらぼうな声が飛んでくる。
「こっちに持って来い」
マリアは言われた通りに持って行く。
「ベッドにこぼしたら、若様が洗ってくださいよ」
口では、そう言いつつマリアはそんな心配を全くしていなかった。
食事をガツガツ食べるファミリーの中で、きちんとカトラリーを使って無駄に上品な食べ方をするドフラミンゴが食べ物をこぼすとは思えないからだ。
今まで彼が何故そんな上品なのか、ずっと疑問に思っていたが元・天竜人だったと聞いてマリアはようやく納得できた。
ノッソリと起き上がったドフラミンゴの前にトレイを置き、自分もベッドに上がり込んだ。二人で向き合い、黙々と食べるのも変なので、マリアが口を開いた。
「若様。ボア・ハンコック様って、どんな方ですか?」
「蛇姫か?」
スプーンを持ち上げかけ、怪訝な表情でドフラミンゴが聞き直す。ハンコックは通常、蛇姫と呼ばれているらしい。マリアは小さく頷いた。
「鼻持ちならねェ高慢ちきな女だ。男嫌いでも有名だな」
そう言うと、思い出したように忍び笑いを漏らす。
「高慢ちき過ぎて面白ェ時がちょくちょくあるがな。フフフフフ…」
ドフラミンゴをして高慢ちきと言わせるくらいなら相当、性格が悪そうだ。
さもありなん、とマリアが一人で納得した様子をドフラミンゴが訝しく感じたらしく、逆に聞いてくる。
「蛇姫がどうかしたのか」
マリアは正直に答える。
「若様と同じような強い気配をお持ちです」
ドフラミンゴはニヤリと笑い、話をつなぐ。
「海軍の軍艦にいる気配でも感じたか」
「どうして若様がそれを?」
マリアが目を丸くしているのをドフラミンゴは面白がるように答えた。
「招集に応じない蛇姫を海軍が徴収しに行ったと世界政府で聞いた。俺も誰かが来なきゃ、口うるさく文句を言われることなく、海軍本部に直接行けたのに、と残念に思ったんでな」
ドフラミンゴの嫌味をマリアは聞いていなかった。気配を探るように、あらぬ方向に目を向ける。
「インペルダウンに寄るようです。そこにも強い気配の人が…」
そう言うと、マリアはいたずらっぽい表情を見せる。
「後、ハンコック様と一緒の人間も」
「海兵か?」
「いいえ。麦わらです。インペルダウンにいるのは…。火拳のエース。この二人も強い気配を感じます」
「麦わら?海軍に捕まったとは聞いてねェが…」
「ハンコック様が匿って軍艦に乗せたようです。最初はこの二人の気配だけでしたが、インペルダウンに近付くにつれてエースの気配も感じられるようになりました」
それを聞いてドフラミンゴは珍しく真面目な表情になる。
「…。お前はどうも覇王色の覇気に反応するようだな」
「覇王色?」
「そうだ。数百万人に一人とも言われる覇気だ。蛇姫はアマゾン・リリーの女帝でな。その国の女たちは全員覇気を使える。そこを統べるヤツが覇王色の使い手でも驚きはしねェ」
ドフラミンゴはシチューを口に運び、飲み込んだ後、再び続ける。
「火拳のエースは過去、七武海に推薦されたことがある。その時に覇王色の使い手だと言う噂を聞いた。麦わらは知らねェが、シャボンディで天竜人をぶん殴って無事に逃げられたなら、覇王色クラスの幸運の持ち主だ。ひょっとしたら潜在的に覇気を使えるのかもしれねェな。フフフフフ…」
忍び笑いをもらした直後、不審そうに続ける。
「しかし…。男嫌いの蛇姫が何でまた麦わらなんか匿ってるんだ?」
ドフラミンゴは眉根を寄せて独り言のように呟く。それを聞いたマリアはクスクス笑い、答えた。
「きっと麦わらのことを好きになったんでしょうね。二人きりの時は、とっても可愛らしいですよ。ハンコック様」
その様子を思い出し、マリアはまた笑う。それに対しドフラミンゴは呆れかえった表情になった。
「蛇姫に最も似つかわしくねェ形容だな」
そう言いながら、シャボンディ諸島のヒューマンショップにいるディスコにつけていた見張りの報告を思い出した。
麦わらの一味は七武海のバーソロミュー・くまによって存在を消された、と。
同じ七武海として、くまの能力を知っていたドフラミンゴは、一味がどこかに飛ばされたことは分かったが、こんな形で麦わらの居場所を知ることになるとは思わなかった。
「インペルダウンに用があるのは、どっちだ?」
マリアは真面目な顔つきで答える。
「麦わらはエースを救うつもりです」
「正気じゃねェな」
呆れ果てた表情をしたドフラミンゴだったが、ニヤリと笑みを浮かべた。
「まあ、すぐに見つかってブチ込まれるのがオチだろうよ」
「見つかってって…。海軍に伝えなくていいんですか?」
「フフフフフ…。何で伝える必要がある?」
マリアは困惑した表情になる。
「何でって…。麦わらはエースを脱獄させようとしているんですよ」
「だから、だ」
相変わらずニヤニヤと笑ったままドフラミンゴは続ける。
「万が一、エースがインペルダウンから脱獄できたら処刑はどうなる?」
「…。中止です」
「処刑が行われなければ、白ひげは?」
「…。海軍本部には来ません」
マリアは言いくるめられている気がする。それを見透かしたようにドフラミンゴは付け加えた。
「白ひげが来なきゃ、海軍との衝突は避けられる。お前の嫌いな人死にが出ねェ。その可能性をわざわざ潰すのか?」
「でも…」
何か言おうとするマリアを遮る。
「どのみち、海軍にはシナリオが出来てるんだ。 エースは処刑。白ひげはエース救出に失敗して捕獲。それがヤツらの筋書だ。俺たち七武海まで巻き込んでな」
食べ終わった噐をマリアに押しつけ、続ける。
「白ひげ海賊団だけじゃねェ。傘下の海賊団も駆けつけるだろう。海軍も総力をぶつけるつもりだ。半端じゃねェ数の怪我人やら死人やらが出るぞ?」
押し黙ったマリアに畳み掛けるように言う。
「ちなみに俺が海軍に麦わらのことを伝えねェのは、ヤツが後のことを考えてねェからだ。仮に牢からエースを出せたとして、問題はその後だ。どうやって逃げる?インペルダウンの回りは獰猛な海獣だらけ。船はねェ。インペルダウンからは出られねェ。結局、麦わらもエースも捕まって海軍のシナリオ通りになる。そう判断したからだ」
闇の世界にも通じているドフラミンゴに反論するのは難しい。そんなことをぼんやりと考えていると、ドフラミンゴが嘲笑うように付け加える。
「お前は麦わらに賭けたらどうだ?エースの処刑も白ひげと海軍との衝突もなくなる方に」
マリアは蛇姫の存在を思い出した。
「…。そうですね。ハンコック様が麦わらをどうにかして海軍から守ると思います」
言葉を切るとニッコリ笑う。
「恋する乙女に敵うものはありません」
そう言うマリアを鼻でせせら笑うようにドフラミンゴが言った。
「海軍のシナリオに逆らえるものなんかねェ。蛇姫も麦わらとの繋がりを探られて七武海を除名されるだろうよ」
「女を侮ってはいけませんよ。若様」
マリアの言葉にドフラミンゴは怪訝な表情を浮かべた。
「女は、本当に大事な人なら世界中を敵に回しても、命に替えても救いたい、と思いますから」
マリアはそう言うと空になった器をトレイに乗せ、意味深な笑顔で部屋をあとにする。
とは言うものの、マリアも麦わらがエースを救えるとは思えなかった。ただドフラミンゴが認める程、性格が悪いというハンコックを豹変させるくらいの人間なら何かしでかしそうな気もする。そんな淡い期待を胸に抱いた。
麦わらが何も考えずに発する言葉を聞かれた海兵たちにフォローしたり、自分の妄想を暴走させたりするハンコックの存在が鍵だとマリアは思った。
マリアは厨房で流しに積まれた皿を洗うと、(料理人は朝早く起きる代わりに寝るのも早かった)自室に戻った。幹部の広間の扉を開けると、何故かドフラミンゴが広間のソファーに座っていた。
「一つ確認だ。海軍からの依頼書はどうする?」
「港に着いて、海軍の方がいらっしゃる前でお渡しします。ご安心を」
マリアはニッコリ微笑むとドフラミンゴは立ち上がった。
「そうか。失くしてたら承知しねェからな」
ドフラミンゴはマリアを睨みつけると自室に引き上げていった。
高慢ちき過ぎて面白い…。勿論、