麦わらとエースは互いに背中を預け、海兵たちと闘う。まるで、そうすることに慣れているかのように。
その様子を見て白ひげ海賊団の隊員たちが歓喜の声をあげる。
マリアは眼下で起こっていることが信じられなかった。
と同時に予感がした。エースは結局、ここで死ぬ運命にある、と。何故そう思ったのかは分からないが、強く感じたのだ。
白ひげ海賊団の隊員たちと、その傘下の海賊団が一斉にエースたちの援護にまわり、逃亡を共にしようとする。
だが、肝心の白ひげ自身は海軍と心中するつもりらしい。
白ひげはエースをはじめとした若い人間たちに後を託し、退去を命じた。白ひげ海賊団と傘下の海賊団の乗組員たちは涙ながらに命令に従う。
それを阻むように、
マリアは思わず悲鳴をあげそうになった口を両手で覆う。
エースの周囲にいる人間たちも呆然と立ち尽くしている。
内臓を焼かれ死期が間近にせまったエースは麦わらの腕の中で、遺志を伝える。強く感じられた気配が急激に弱まっていくのが分かる。
こと切れる瞬間は、この世に未練はないような表情だった。
息を引き取り、マリアにはエースの気配が感じられなくなった。
それと同時に、周囲の人間たちの悲しみに満ちた感情が感じられ、それがマリアの涙となって頬を伝う。エースの思いと麦わらの嘆きはマリアの胸に突き刺さるが、彼らの感情に支配されそうになるのを、何とかこらえる。
その時。
「オヤジ!」
その白ひげへの感情もマリアの涙となる。
麦わらは精神的に耐えられなかったのだろう、意識を失っていた。
それでもこの場に充満している悲しみ・怒り・苦しみ・痛み…あらゆる負の感情がマリアに襲いかかり、彼女の精神も蝕もうとする。
それを回避できたのは、新たな強い気配-赤髪のシャンクス-が近づいているのを感じたからだった。白ひげ同様、四皇である彼はこの争いを止めようとマリンフォードに向かっているのだ。
彼の到着を待つ間、マリアは感情を感じないよう、気配を探った。まずは強くはない気配のローだ。盗聴用の黒電伝虫を使ったのか、麦わらがここにいることを知り、救出することを決めたようだ。
「シャボンディにいた麦わらが、なんでマリンフォードに?!」
シロクマの着ぐるみのようなベポが驚いた声をあげる。
ローがそれに答える。
「そんなの知るか。だが助けておけば、いずれ役に立つさ」
そんな言葉を聞き、マリアは違う気配を探る。
次に大地に飲み込まれた人間だ。だが
マリアは無意識に一番慣れ親しんだ、それ以外(ドフラミンゴ)の気配も探る。彼はエースの死に気付いていないらしく、好き勝手に暴れている。
マリアは、とにかく周囲の人々の負の感情から遠ざかろうと、フラフラになりながら建物を出た。魚人らしき人物が麦わらを小脇に抱え走り去る。彼らの向かうのとは逆方向にマリアは歩を進める。一刻も早く強い感情の渦から逃げ出したかったのだ。
すると、地底から逃れた赤犬が彼らの前に立ちふさがった。再び麦わらにとどめをさす為に。麦わらを守ろうとする魚人らしき人物や、白ひげの残党にも執拗に攻撃する。
(もう、やめて…)
その場に座り込んだマリアが両手で顔を覆った、その時。
攻撃に気付いた人物が怒りを露にしていた。マリアは立ち上がり、強い気配を頼りにその人物の元へと急ぐ。多くの悲しみよりその怒りの方がまだマシだった。
「おのれ!
「蛇姫様!それはなりません!」
ハンコックはマリアに一喝する。
「邪魔だていたすな!!無礼者ッ!!」
一喝されても、そのまま立ちはだかるマリアに、ハンコックは冷たい視線と言葉を浴びせる。
「わらわの邪魔をするのなら、そなたも
両手の平を合わせハート型にして能力を発動させるが、能力を無効化するマリアのウミウミの能力には通用しない。石とならないマリアにハンコックは動揺した。
「何故じゃ?!何故わらわの能力が通じぬのじゃ?!」
「蛇姫様。冷静におなりください。あんな無骨な海軍大将に蛇姫様の魅力が通じるとお思いですか」
マリアは自分のことには一切触れず、ハンコックに話しかけ、巧みに(強引に)目的語をすり替えた。言いくるめられたハンコックも、気付かずマリアの言葉に小さく呟く。
「…。それもそうじゃな。
マリアは首を大きく縦に動かす。
「蛇姫様には、彼を倒すより大切なことがあります」
マリアがそう言うとハンコックは怪訝な表情を浮かべた。
「貴女の麦わらはインペルダウンから、ずっと闘い続け身体は既に限界を超えています」
‘’貴女の麦わら‘’と言う言葉に頬を染めたハンコックだったが、その表情は心配そうなものに変わる。
「幸い…。と言うのもなんですが、近くに『死の外科医』の異名をとる、ハートの海賊団の船長、トラファルガー・ローが潜んでいます。彼なら麦わらのケガは治せるでしょう」
マリアはハンコックの肩に両手を置く。マリアと同じ背丈のハンコックは後ずさろうとしたが、マリアはそのまま真っ直ぐ彼女を見つめる。
「ですが、助けたかった人を目の前で亡くした心の傷までは、ローの力を以てしても治せません」
マリアは一瞬言葉を切り、強い口調で続けた。
「そして、それを慰めるべきはずの麦わらの一味も、彼の付近には今はいません。とすると、それが出来るのは、ただ一人」
マリアは力のこもった眼差しをハンコックに向ける。
「わらわしかおらぬではないか!!」
自分の両手で紅く染まった頬を包みハンコックが少女のように弾んだ声を出した。余りの可愛さにマリアも思わず、微笑みを浮かべ頷く。
「確かに。そなたの言う通り、わらわがすべきことはルフィを助けることじゃ。よくぞ気づかせてくれた。礼を言う」
「蛇姫様。ローは潜水できる船を使っています。海軍の軍艦だと海中探査機器が使えないと…」
マリアの懸念をハンコックは鼻で笑う。
「心配無用じゃ。わらわにはこのサロメがおる。サロメに海中でローとやらの船をつけさせ、わらわはサロメの気配を追えばよい」
そう言ってハンコックは隣に従えている、体長5メートル以上の蛇を見上げた。それから視線をマリアに戻すと言葉を続ける。
「そなた、わらわと一緒にアマゾン・リリーに来ぬか?海軍なぞにはもったいない」
思わぬ言葉にマリアは慌てた。
「わ、私はこんな格好をしていますが、あの…、蛇姫様と同じく七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴの使用人をしておりまして…」
しどろもどろにマリアが説明した途端、ハンコックの顔からスンと感情が消える。マリアがハンコックのことを七武海と知った途端に興味が失せたのと同じ理由だろう。
「そうか。大儀であった」
そう言って身を翻すと、そのまま振り返らず軍艦に向かった。
マリアは、つかの間ハンコックの後ろ姿を見送る。すると再び感情の渦に巻き込まれそうになり、慌てて強い気配を探る。
いつの間にか、ここに姿を現した黒ひげと静かに怒りを浮かべた白ひげが、対峙していた。黒ひげが七武海に入ったのは、インペルダウンに浸入し仲間を募る為で、それが達成された今、除名されようが構わない、と豪語している。しかし、マリアには彼が、まだ何か企んでいるように感じられた。
だが、マリアはそれに集中できなかった。気絶した麦わらをまだ執拗に追う気配を感じたからだ。マリアは再び絶望的になる。
海軍も海賊も同じようにマリアは思えてきた。政府が認める唯一の海賊。ドクロマークをカモメに代えただけ。
エースが命を失った今、処刑という形ではないにしても海軍は目的を果たし、白ひげの生命も既に残りわずかに感じられ、争いを続ける意味はないはずだ。なのに何故。
ふと、マリアと同じように考えている海兵の存在に気付いた。気弱そうな感じの海兵だった(側にいた同僚らしい人物にコビーと呼ばれていた)。マリアは気弱そうだが、人の痛みの分かる彼がこの争いを終わらせるカギを握っていると直感した。
と、その時。
足元が大きく揺らいだ。黒ひげが命と共に奪った白ひげの能力を使ったらしい。マリアは揺れに身体を持っていかれないよう、しばらくの間バランスをとることに集中していたため感情を感じることはなかった。
揺れが収まった時、マリアはコビーという海兵の存在を思い出した。彼は見聞色の覇気に目覚めつつあるようだ。マリアには彼が感じている周囲の人々の声が感じられる。
それなら、マリアが感じている多くの人々の感情も伝えられるかもしれない。マリアは試しに自分の感じている感情を彼と共有させる。この場にいる海軍、海賊、立場に関わらず人々の感情を彼に伝えてみた。すると、その感情の渦に耐えられなかったらしく、大声をあげてメチャクチャに走り出した。その途中、倒れた海兵につまずきコビーが何かを拾い上げ、それを見つめ新たな思いが浮かぶのを、マリアは感じた。
(誰にでも帰りを待つ家族がいるのに…!)
コビーは負の感情から逃げるのではなく、自分の主張を述べるために赤犬に向かって走り出す。
そしてシャンクスがマリンフォードに降り立ち、やはり赤犬の方へ向かってくる気配をマリアは感じた。
赤犬の前に立ったコビーが停戦を懇願する。それをバッサリ切り捨てコビーに制裁をくわえようとした赤犬の動きが止められた。
動きを止めた赤髪のシャンクスがこの戦争の終了を宣言する。
シャンクスは麦わらと知り合いらしい。麦わらとは会いたいが今はその時ではない、と謎なことを言った。その言葉を聞いたマリアは、ふと麦わらの気配を探る。麦わらはジンベエと呼ばれた魚人と共に、クロコダイルの援護で、空中に浮かんでいた上半身だけの赤鼻の男に受け止められていた。ローがその男に二人を渡すよう呼び掛け、海軍の攻撃に恐れをなした男は二人をローの船に投げ入れた。麦わらを受け止めたベポが心配しながら船内へと運ぶ。麦わらの気配はますます弱くなっている。それから悠然とローが船内に入り、海中に潜ったようだ。
しかし海軍の攻撃は続いた。
ハンコックは七武海として麦わらを追う、という口実を設け軍艦の海兵たちに船を出させた。海中にはサロメと言う大蛇がウネウネと泳いでいる。
シャンクスは、麦わらとジンベエを抱えていた上半身だけの赤鼻の男とも知り合いらしく、バギーと呼び漫才の掛け合いのように喋る剽軽な一面がある一方で、無益な戦いを終わらせる威厳のようなものがあった。
異議を唱える海兵たちを抑え、センゴクがシャンクスの言葉を受け入れた。
白ひげ海賊団の隊長たちにはシャンクス本人が直訴し、彼らも白ひげの遺志を思い出し停戦を受け入れた。
マリアは悲しみや怒りなどの感情が薄らぐのを感じた。ふと、思い出しドフラミンゴの気配を探ると、同じ七武海のモリアを殺害しようとしていた。
(サー・クロコダイルのことは諦めたのかしら…?)
ふとそんなことを思ったが、麦わらの生死が気になり気配を探る。麦わらはジンベエとともに手術室に寝かされていた。ローは術衣を着けることなく、メスや鉗子を巧みに使い、オペを同時進行させていた。二人ともかなり深傷を負っていたが、一命はとりとめたようだ。
そしてすぐ側に蛇姫の気配を感じた。マリアは安堵して、深いため息をついた。毛皮をどうすることもできないベポが暑さに根を上げ、船を海面に浮上させている間に蛇姫は海兵たちを石化した。何故か麦わらを援護していた大頭の集団の気配も感じる。
蛇姫がローの船に軽やかに降り立ち、麦わらの容態を尋ねた。しばらくの間、静養が必要だと言うローと話をつけ、彼らを女ヶ島に匿うことを約束した。
普段から近くにいたので、
麦わらとローの安全が保証されたことに安堵していた時。
聞こえた声に硬直した。
「何で、お前がここにいるんだ?マリア」
マリアの思考回路は停止し、何故見つかってはいけなかったのかも思い出せないまま、ギクシャクと声のした方へ顔を向ける。
ニヤニヤ笑ったドフラミンゴがそこにいた。
「随分と趣味の悪い服を着てんじゃねェか。フフフフフ…」
衝撃的な言葉を聞いてようやくマリアの頭が動き始めた。
(若様にだけは言われたくなかったわ…)
そう思ったマリアはその場にへたりこむ。
(サングラスとピンクの羽根のコートもさることながら、青年実業家のような昔とは違い、色柄ともに悪趣味の部類に入る派手な七分丈のパンツを着用しているドフラミンゴには)
時系列が間違ってたらスミマセン。m(_ _)m
笑ってやってください。