七武海 その1
「3億4千万か…」
ドフラミンゴは眉をひそめた。隣でトレーボルが笑う。
「箔が着いたと思えば、いいさ~。ドフィ」
「海軍だけに武器が集中しねェように、ちょっと掠め取ってやっただけじゃねェか。ヤツらが正義ってンなら、大量の武器なんざいらねェだろ」
ドフラミンゴは鼻を鳴らした。手には自分の手配書が載っている新聞が握られている。
「金額が上がったところで、賞金首ってことには変わらねェ」
手配書には、いつの間に撮られていたのか自分の写真と金額3億4千万ベリーそしてONLY ALIVE(生け捕りのみ)の文字が記載されていた。ドフラミンゴは小さく舌打ちする。
(どうせ天竜人あたりが奴隷にでもしようってハラなんだろう)
天竜人が、かつて自分たちと同じ地位にあった者を見下そうとするだろうことは、出自上、予想出来た。
そんな彼らの鼻をあかしてやりたくて策を練る。
ドンキホーテ海賊団はノース・ブルーで日に日に勢力を拡大していった。小さな海賊団を傘下に加え、捨てゴマとして利用した。或いは二つの海賊団とそれぞれ裏で手を組んだ後、あることないことそれぞれに吹き込み、ぶつかり合わせお互いが弱ったところを急襲し漁夫の利を得た。
賞金首が何人かいる海賊団は船長の妻や愛人を寝取ったり、ナンバー2の地位にある者を脅したりして船長の弱味を聞き出し、それをネタに無理矢理ドンキホーテ海賊団に加え、やはり捨てゴマとして利用した。
また、裏ではヴィンスモーク家に取り入り最新の武器を手に入れ、他の海賊団にべらぼうな金額で密売していた。そうやって、金と捨てゴマを充分、蓄えたと考えたドフラミンゴは天竜人の鼻をあかしてやるべく、次の行動に移った。
船の舳先から、能力を使って移動しようとした時だった。
不意に手をつかまれた。構わず能力を使って離れようとして出来ないことに気付き振り返った。
手をつかんでいるのは、マリアだった。咎めるような表情をしていた。
「若様。どちらへ?」
ドフラミンゴは小さく舌打ちする。
「俺の行きたい所だ。お前なら、分かるだろ」
「若様のいらっしゃる場所は分かります。けど、そこがどこの国で何という都市なのかは分かりませんし、ましてや若様のお帰りになる日なんか、分かる訳ないじゃないですか!」
どうもドフラミンゴが最高幹部たちに出かける時は行き先と帰る時を教えろ、と言われた時に、マリアに聞けと答えたのを、覇気で察知したらしい。マリアは更に言いつのる。
「大体、デリンジャーやシュガーでさえ遊びに行く時は、行き先と帰る時間をちゃんと言っていくのに、どうして大の大人の若様が出来ないんですかっ!!??」
「うるせェ。プライバシーの侵害しているヤツなんかに文句を言われる筋合いはねェ」
その言い分にカッときたマリアは強い口調で畳み掛けた。
「それとこれとは関係ありません!一般常識の話です!」
他の使用人や乗組員たちが、何事かと遠巻きに見物しだした。
「あれ~。まだ出かけてなかったんだ、ドフィ」
トレーボルまで甲板に出てきた。
「お
「インネンとは何ですか!自分の理不尽さを棚に上げて!」
「ベヘヘ…。理不尽かぁ。その通りだネ~」
マリアの矛先はトレーボルにも及ぶ。
「大体、そのように仕立てたのはトレーボル様たちではありませんか!?今更、若様の尻拭いを私に押し付けないでください!」
少し間を置いてトレーボルがドフラミンゴに目をやった。
「ドフィのせいでこっちにまでとばっちりがきたじゃないか~」
「俺に文句言うな。こっちだって言われたい放題だ」
大の大人の見苦しい言い合いが始まったのを、マリアがピシャリと遮る。
「私に言わせれば、どっちもどっち、五十歩百歩、目クソ鼻クソです!」
見守る見物人たちの息を飲む音の中、ドフラミンゴとトレーボルが同時に言葉を発した。
「五十歩と百歩じゃ、確実に五十歩違うじゃねェか」
「え~!ンネ~。ンネ~。マリア。どっちが目クソでどっちが鼻クソ?まさかドフィが目クソじゃないよねぇ?」
見守っていた見物人たちが(そこ気にするか!!)と心の中でツッコミを入れるがマリアは冷静に説明する。
「トレーボル様。どっちもどっちと申し上げました。お好きな方でどうぞ。若様。生まれてから、どれだけお歩きになりましたか?その中では五十歩くらい、違ううちに入らないでしょう」
見物人が更に(イヤ、そこ説明しなくていいトコだし)と心の中でツッコミを入れていると、クスクス笑いながらモネが近づいてきた。
「若様。お出かけになるなら、急がれた方がいいですよ?」
そう言ってさりげなくマリアの手をドフラミンゴのそれから離す。
そして、ドフラミンゴに問いかける。
「どちらに行かれるのですか?」
ドフラミンゴはニヤリと笑って答えた。
「女の所だ」
言うなり身を翻し、あっという間に空中に飛び出して行った。モネは笑顔をマリアに向ける。
「…。ですって」
「私が聞きたかったのは地名であって、女だろうが、男だろうが、関係ありません!」
ドフラミンゴが居ない以上、怒りの矛先が自分にしか向かないことに、いち早く気づいたトレーボルはその場をそそくさと後にした。
「ベヘヘ~。ンじゃモネ。あとは頼むネ~」
「トレーボル様!」
マリアは彼の後ろ姿に叫んだが、手を振って立ち去る姿を追いかけようとはしなかった。が。
怒りの収まらないマリアはモネにも食ってかかる。
「もうっ!!モネも行き先聞くんなら、ちゃんと聞いてよ!」
「あら、『様』は?」
マリアの顔を覗き込むように顔を近づけてきたモネが、いたずらっぽい笑みを浮かべてマリアの額をつついた。
マリアは形の良い唇をへの字に曲げて恨めしそうな目をして呟く。
「いつもは様はやめて、とか言うクセに…」
「いつものお返しよ」
モネはペロリと舌を出して言った。そして少し伸びをしながら、続ける。
「ねえ。もう掃除、終わったんなら私の部屋で、お茶でも飲まない?」
滅多に怒りを表に出さないマリアは怒り疲れたのか、素直に頷いた。見物人たちも見世物がなくなった途端、三々五々に散って行った。
「全く…。若様ったら、私の覇気を若様探知機に使う気よ。自分がどこに何をしに行って、いつ戻る予定だ、くらい言うの簡単だと思うんだけど…」
マリアはモネに愚痴をこぼす。彼女は自分が意図せず、ドフラミンゴの気配だけで得た情報は本来知り得なかったこととして、口外はしなかった。だから、それを利用されるのは本意ではない。それが分かっているモネはお茶を注ぎながらそれに答える。
「あら、だけど
「あのこたちは、すぐ遊びに夢中になるから仕方ないわ。でも若様は仕事で出かけてるのよ?それに予定は未定だって言うなら、電伝虫を持ち歩けば問題は解決するのに…」
マリアはため息をついた。モネはティーカップをテーブルに置きながら疑問を投げかける。
「マリア、電伝虫を持ち歩いた若様が素直にそれを使うと思う?」
マリアは言葉を失った。やっと出た答えを口にする。
「…。緊急時くらいしか使わなそうね…」
「多分、緊急時にも使わない気がするけどね…」
モネは冷静な判断を口にした。
その時マリアとモネが自分の噂をしているとは露知らず、ドフラミンゴは空を駆けていた。ある場所で待ち合わせしていた人物と約束通りの時間に面会した。ボリュームのある栗毛を風になびかせ、妖艶な女が肉感的な唇から艶のある声で話しかけてきた。
「あら、やっと来たのね。ドフラミンゴ」
「約束は守っただろう?ミネ」
雰囲気のあるバーのカウンターに腰をかけた蠱惑的なスタイルの女性が、スツールから立ち上がり歩く姿はプロモーションビデオのようで、その場の男たちの視線を集めていた。
フッと笑ってミネと呼ばれた女は、個室の方へと移動した。ドフラミンゴもその後を追う。
「全く…。天上金を襲うなんて、正気の沙汰じゃないと思うんだけど、奪ってどうするつもり?ドフラミンゴ。」
個室に入った途端ミネは口を開いた。忍び笑いをもらしたドフラミンゴは返事をする。
「天上金は、あくまで手段だ。それ以外には考えてねェ」
「ま、私は貰えるものさえ貰えれば構わないけど」
ドライな言い方をするミネに、ドフラミンゴは札のつまった鞄を机に置き、中身を見せる。
「約束は1千万ベリーのはずよ。どう見ても500万ってところじゃないの」
ミネは不服そうな声をあげた。
「情報も半分でいいのかしら」
ドフラミンゴはミネの右手をとり、薬指に妖しげに煌めく大きな
「すごいわ!ドフラミンゴ!7~800万は下らないオパールね!」
「1千万は札でもかなりの重さになる。俺はフェミニストだからな。女に重いものを持たせるのは気が引けるが、お前は現ナマが好きだから半分だけ持って来たってワケだ」
「ふふ…。女心をつかむのが上手いわね。ドフラミンゴ。いいわ。天上金の運搬ルートを教えてあげる」
抜け目ない表情のミネが海図を広げ、説明を始めた。
説明を終えると海図をドフラミンゴに渡し、ミネは札の入った鞄を持ち上げながら、ドフラミンゴを上目遣いに見上げる。
「そうだわ。差額分の情報も教えてあげるわね」
ミネはドフラミンゴに密着して座り、耳元に息を吹きかけるように囁いた。普通の男ならミネは押し倒されていただろう。しかし、ドフラミンゴはミネが一筋縄でいかない女であることを知っているので、微動だにしない。
「天上金は他の人間にも狙われているの。ル・パ~ンもその一人よ。出し抜かれないように気をつけてね」
「貴重な情報に感謝する。が、心配は無用だ。誰だろうと俺の邪魔はさせねェ。それだけだ」
ドフラミンゴが店を出ると、海軍が4~5人待ち構えていた。
「ドンキホーテ・ドフラミンゴだな?」
ドフラミンゴの脇を鞄と共にミネが通りすぎる。リーダーらしき海兵がミネに言葉をかけた。
「フジコ・ミネ。通報、感謝する」
ミネがウィンクしてドフラミンゴに話しかける。
「ごめんなさぁい。ドフラミンゴ。貴方の懸賞金も欲しくなっちゃったのよね」
悪びれない言い方にドフラミンゴは冷ややかな笑みを浮かべた。
「この俺を捕まえるのにザコを使うとは、侮辱にも程があるんじゃねェか?ミネ。せめて中将クラスを連れて来い」
ドフラミンゴはそう言うと、両手の指を動かし始める。
「えっ!?何!?」
ミネはリーダーらしき海兵に近付いた。リーダーらしき海兵は驚愕の表情を浮かべながら、ミネの服を引きちぎりその身体に手を回す。ミネは抵抗するどころか、熱く口づけする。
(ン~!!)
声は出せないが、ミネが嫌がっているのは分かる。ミネを押し倒した海兵の身体の一部が変化し始めた。そこをミネに触らせる。これなら
海兵の
「助けて!ドフラミンゴ!悪気はなかったのよ!」
口を開放されたミネが必死の表情で懇願してきた。ドフラミンゴは再び冷笑を浴びせかける。
「フフフフフ…。そうか。悪気はなかったのか。俺も悪気があってこんなことをしてるワケじゃねェ。裏切り者には報復する。ただそれだけだ」
ドフラミンゴはそう言うと、ミネが離した鞄を拾い上げ、その場を立ち去った。海兵たちは全員、ミネで欲望を満たそうと躍起になっていて、ドフラミンゴがいなくなったことに気付かなかった。
自分の鞄を持ち去るドフラミンゴに気付いたものの、押し倒したのとは別の海兵の怒張した箇所がねじ込まれたミネの口は文句を言う術を失っていた。
ミネにやったオパールを7~800万ベリーと言った彼女を思い出し、ドフラミンゴは嘲笑を浮かべた。確かに天然のブラックオパールであの大きさなら、そのくらいはするだろう。しかし、あのオパールは価値の低いホワイトオパールを黒い石に乗せ、接着剤で付けたダブレットオパールと言われる代物だ。100万もしないとドフラミンゴは査定していたのだ。よくよく見れば分かるが、パッと見ではまず分からないだろうと判断し、ミネにやったのだ。
ミネの評判は芳しくなかった。情報の価値は一級品だが、金に目が眩み、手を組んだ仲間も平気で裏切ることがよくあるという噂だったのだ。だからこそ、現金を少なめにし、価値の低いオパールをやったのだ。
そんなことを考えながら、ドフラミンゴは能力を使い、空を駆け船に戻った。
船に戻ったドフラミンゴはトレーボルに命令した。
「一番近くの港につけろ。それから最高幹部の会議を行う」
「べへへ~。分かった。ドフィ。ファミリーに伝えるね~」
「最高幹部以外を下船させた後で、マリアに不審者のチェックをさせろ。会議はその後だ」
近くの港に船をつけ、乗組員たちと幹部たちを港町に追い出した後、マリアはドフラミンゴの命令で不審者がいないか調べた。人の気配がないことを確認して、ドフラミンゴの部屋に報告に行く。
「若様。特に問題はありませんでした」
扉をノックして開け、おずおずと顔だけ覗き込ませたマリアにドフラミンゴは更に命令した。
「ご苦労だった。お前は船に残れ。乗組員や幹部以外の人間が船に近付いて来たら対応しろ。もしお前の手に負えなそうなら、遠慮なくここに来い」
「え…。でも…」
「よく考えたら、見張りもなく会議するのは無用心だ。お前が見張りに残れば不審なヤツの気配をいち早く確認できる」
「確かに。ドフィの言う通りだ」
戸惑った表情のマリアにディアマンテがニヤリと笑いかける。
「甲板で何か飲みながら、気楽~に見張ってくれればいいんじゃないかな~?ンネ~。ドフィ」
「そう言うことだ。まあ、どうしてもモネと一緒がいいなら、残らなくても構わねェ」
冷ややかな言葉にマリアは慌てて首を振る。
「いえ!若様のご命令通りにいたします。失礼します」
頭を下げ、マリアは小走りに甲板へ向かった。
別に峰不二子は嫌いではないのですが…。(汗)次はもっと酷い目に会ってます。