時間が掛かってすみませんでした。
m(_ _)m
甲板に戻ったドフラミンゴは、人気がないのに気付いた。
「幹部たちはどうした」
見張りの乗組員に声をかける。
「幹部の方たちでしたら、祭に出掛けましたよ。モネさんたちだけじゃ心配だからって」
「そうか。分かった。俺が迎えに行こう。見張りは続けてくれ」
「了解。若」
ヒラリと甲板から港に飛び降り、町の方へ向かった。
笑いながら祭に行く親子連れをどんどん追い越し、会場に着いた。屋台が連なっていて、身長の高いドフラミンゴには視界を遮られる。しかし、探されている方には目についた。
「わ~い。若様だ~」
子供たちが駆け寄ってきた。幹部たちも一緒にやってくる。
「ドフィ、用は済んだのか?」
「ああ。野暮用だ。とっとと済ました」
意外にも、モネとマリアの方が祭に食いついたらしい。少し離れた射的の屋台で、はしゃぎながらマリアの肩を叩くモネが見えた。
「マリア!あの人形、取れそうよ!」
「んもうっ!モネったら言うだけで自分では何もしてないじゃないの。ちょっとは自分でやったら?」
などと言いつつ、年相応の笑顔を浮かべる二人を距離を置いて眺める。
すると明らかにならず者と分かる男が3人、はしゃいでいるモネとマリアに近づいてきた。ドフラミンゴが動こうとした時、声を掛けようとした男たちと二人の間に屈強な男が割って入ってきた。
「失礼ですが、このお嬢さん方のお知り合いで?」
「イヤ…。可愛いから一緒に遊びたいな~…と思って…」
「それなら、お連れさんたちに一言、ことわった方がいいでしょう。ご案内しますが?」
「あ、いや。連れがいるなら、いいんだ」
男たちは割って入った男の威圧するような眼光と体つきを見て、そそくさと逃げるように去った。
ポカンとやりとりを見ていた二人はハッとして男に頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「俺からも礼を言う。助かった」
「若様!!」
二人はハモってドフラミンゴを見上げた。
屈強な男は思いがけず、人の良い笑顔になる。
「ウチのシマで、お客さんに不快な思いをさせるな、と
モネが男を援護するように付け加える。
「お頭さん、いい人なんですよ。トレーボル様にわざわざ、ご挨拶に来られて。クーポン券も頂いたんです」
多分、お頭とやらはドフラミンゴファミリーに
「気を使わせてしまったようだ。お分かりだろうが、ファミリーには年端の行かない子供もいてな。船の中では娯楽もないんで、いい気晴らしになれば、と来させてもらった」
「いえ。今の輩みたいなヤツ以外は、どなたでも大事なお客さんですんで。どうぞ楽しんでらしてください」
男は笑顔を崩さずに答えると、では、と言って見廻りに戻った。
男の後ろ姿を見送り、モネとマリアはドフラミンゴに頭を下げた。
「すみません。若様」
「お前たちは年少者の付き添いとしてここに来たんじゃねェのか」
二人の声がか細くなる。
「申し訳ありません…」
首をすくませる二人にドフラミンゴは、フッと態度をやわらげた。
「まあ、アイツらの面倒を見てきて、たまには羽根をのばしたいってのも分からないではねェ。…楽しかったか?」
互いに顔を見合せた二人は満面の笑みで元気にドフラミンゴに答えた。
「ハイ!!とっても!若様!」
トレーボルたちと合流した時にドフラミンゴが低い声で全員に話しかけた。
「明朝、出航する。獲物の通るルートに向かう」
その場にいる幹部たちの顔にぞっとするような笑みが浮かんだ。着いて来たはずの乗組員たちは祭の会場に来る途中、港の売春宿に姿を消したらしい。
船に戻るとドフラミンゴはミネを船底の密輸品の隠し倉庫に移し、享楽的な宴を子供たちに感づかれないようにした。そして薬の効果が切れるまで乗組員たちの快楽の相手をさせた。武器や略奪品の他、いかがわしい品物(大人の玩具など)も数多く、そこにあった。
「使い方が分からねェと売れねェからな」
ニヤニヤ笑いながら乗組員たちは理由をこじつけ、それらを使ってミネを何度も絶頂に到らせた。
効果が切れる時間が過ぎ、ミネの目に光が戻っているにも関わらず、明け方になってもミネは快楽を貪り続けた。
次の朝、船を降りていた乗組員たちが戻ってくるのを待って港を出た。天上金を運ぶ船はもちろん、ルートなど関わる人間以外が知るはずもないが、ミネの情報は正確だった。
海賊に襲われないよう、漁船を装っていて護衛の軍艦もない。まさかこの船が天上金の輸送船とはとても考えられない。しかし、望遠鏡で船上を見ると、漁船には不釣り合いな眼光の鋭い海兵のような男しかいなかった。明らかに周囲を気にしている。
と、そこに。
いかにも動力を失って漂流している感じの小舟が漁船に近付く。ドフラミンゴが低く笑う。
「フフフフフ…。来たな…」
「ドフィ。あれも天上金狙いじゃねェのか?」
怪訝そうにディアマンテが訊いた。
「大方、ル・パ~ン一味だろうな。それも情報にあった」
小舟に乗っていた面長の男たち3人は武器を持っていた。帽子を目深に被った顎髭男と揉み上げの長い男は銃、ワノ国のサムライのような出で立ちの男は刀を使って(峰打ちで)漁船の男たちを倒していく。全員を縄で縛り上げ、嬉々として天上金を小舟に移す。その作業中に船を近づけた。
積み込みが終わったとみたドフラミンゴが甲板から男たちに話しかける。
「大人しくそれを渡してもらおうか」
「…。誰だ?」
固い声でドフラミンゴに銃の照準を合わせ、揉み上げ男が訊いた。
「トンキホーテ・ドフラミンゴだ。…。いや、それと交換したいモノがある。どうだ?」
「交換~?ふ~ざけんじゃねェ。あの胸クソ悪い天竜人どもから奪ったカネと交換できるモンなんかねェっての」
「おい。ル・パ~ン。多勢に無勢だ。条件を飲んだ方がいい。ファミリーには能力者が多いと聞くぞ」
帽子の男がル・パ~ンを説得しようとする。
「ダイ。な~に言ってやがんだ。せ~っかく手に入れた天上金を渡そうってのかよお」
そこまで押し黙っていたサムライ風の男が口を開いた。
「…。拙者もダイの方が正しいと思う」
「二人とも何言ってやがんだ!こんなヤツらにせっかく奪った獲物を渡せるかって~の!どうせガラクタを押し付けてくるに決まってる」
それを聞いたドフラミンゴは忍び笑いする。
「フフフフフ…。確かに俺には不必要なヤツだがな。お前がどう判断するかは別だ」
ドフラミンゴはそう言うと、ジョーラの服を着せ、海楼石の手枷に猿ぐつわをしたミネを隣に来させた。すると男たちの態度が逆転した。
「ミネ!!」
揉み上げの男は顔色を変えた。が、他の二人はシラケた表情になる。
「やっぱり、ミネが絡んでたか。おい。ル・パ~ン。このまま引き返すぞ。どうせミネのヤツ、ファミリーに
「やはりミネは信用ならん」
顎髭男とワノ国のサムライ風の男が同時に口を開いた。しかし、ル・パ~ンは二人に食ってかかる。
「何言ってんだ!!ミネが一大事なんだぞ!!」
「ム゛~!!ン~!」
言葉にならない声をミネが発する。
「ミネ!!今助けに行くからな!」
「おっと、そこまでだ。助けに来るつもりなら天上金を持って来い」
ドフラミンゴはル・パ~ンの頭部に銃の照準を合わせた。
ダイと呼ばれた顎髭男の言うとおり、人数はファミリーの方が多い。が、天上金を奪いに小舟に移ったら、船はあっと言う間に沈んでしまうだろう。それなら天上金をこちらに運ばせた方がいいとドフラミンゴが判断したのだ。
「分かった。金は持って行く。だからミネには手を出すな」
「おい。ル・パ~ン!」
「う~るせー!!こんなハシタ金でミネが助かるんだ!口出しすんじゃねェ!」
ル・パ~ンはまだダイの手にあった金袋を奪い、船に積んだ金袋と一緒に持ちドフラミンゴに話しかけた。
「俺は能力者なんかじゃねぇ。縄梯子か何かがなけりゃ、そっちのデカイ船には移れない。金が欲しいならどうにかしろ」
ダイは呆れ果てたと言わんばかりに両手の平を肩の横で上に向けた。サムライはあぐらをかいて座り、刀を抱えるように腕を組む。
一味に抵抗するつもりがないと判断したドフラミンゴは、小舟に向かって縄梯子を下ろさせた。脅しに幹部たちを小舟の見えるところに配置する。が、ダイとサムライは抵抗する気配を見せなかった。
ル・パ~ンが猿のように縄梯子を昇り、甲板に姿を現した。
「天上金はこれだ。ミネを解放しろ」
ル・パ~ンが金の入った複数の袋を差し出す。
「…。よし。こちらからこの女を連れて行かせよう。こいつに金を渡せ」
ドフラミンゴはそう言うと、視線をマリアに移した。
抜目なくル・パ~ンが意見する。
「お~っと。なかなかの
「こいつはただの使用人だ。安心しろ」
ドフラミンゴが即答すると、ル・パ~ンが足元に袋を置き手を挙げて、返事をした。
「その
「了解だ。こいつがこっちに戻るまで、こちらも手出しはしねェ」
ドフラミンゴはニヤニヤと笑いながら答える。
マリアに目線でミネと袋を交換するよう促したドフラミンゴの横をすり抜け、ミネの腕をつかみル・パ~ンの方へゆっくりと歩いていく。ル・パ~ンの手が二人に届く距離に入ると、マリアはミネをル・パ~ンの方へ押しだし、自分はしゃがんで(目はル・パ~ン達に向けたまま)金の入った袋を回収した。
「ひどい目に会わされなかったか?ミネ」
猿ぐつわをほどきながら、ル・パ~ンは心配そうに尋ねる。
「ええ。大丈夫よ。ル・パ~ン。あなたなら絶対に助けに来てくれると信じてたわ」
甘えた声でミネが答えるのを聞き、マリアは少しル・パ~ンに同情した。
ミネと乗組員達の享楽的な宴は、ル・パ~ンの言うところの『ひどい目』だろう。が、ミネ自身が違うと言えばそれまでだ。
すべての袋を回収したマリアは、素早くドフラミンゴの元へ戻る。途中、背中からミネの憤慨した声が聞こえた。
「ル・パ~ン!あの子ったら私のこと『おばさん』なんて言ったのよ!!」
「ミ~ネちゃぁん。イイ女はそんなこと気にしないモンだぜぇ」
ル・パ~ンはミネが自分のもとに戻ってきたことに安心したらしく、言いきかせるように肩に手を回し耳元で囁く。
その様子を冷ややかに見ていたドフラミンゴがル・パ~ンに話しかけた。
「これで取り引きは完了だな」
鍵もないのに、いつの間にかミネの外した手枷をファミリーに向かって投げてきたル・パ~ンも短く答える。
「ああ。あばよ」
そして問答無用とばかりにミネと一緒に縄梯子を素早くおりていった。面白くなさそうな表情をしたダイとサムライが待機している小舟に移ると、さっさとファミリーの船から離れた。
「待て待て~~~い!!ル・パ~~~ン!!」
遠くに見える海軍の船からダミ声が聞こえてくる。拡声器を使っているようだ。ル・パ~ンは肩をすくめた。
「やべぇ。とっつぁんたちだ」
ドフラミンゴが望遠鏡で船を見ると、つるが二人の海兵を注意していて、その声も聞こえてきた。
「ゼニ。ガタ。天上金は今はドフラミンゴの船だ。あんた達がどうしてもル・パ~ンを追いかけたいなら、泳ぐか救助艇を使いな」
すると、二人は敬礼してつるに答える。
「かしこまりましたっ!我ら、ル・パ~ンのいるところなら、例え火の中、水の中!」
そう言うと、本当に二人揃って海に飛び込み、ル・パ~ンの船に向かって泳いでいった。
拡声器を手にしたつるが話しかける。
「ドフラミンゴ。話がある。そっちに行ってもいいかい」
「おつるさん一人なら構わねェ」
ドフラミンゴが答えた途端、海軍の方で騒ぎが起きた。
「人質にされたら、どうするんですか!!」
「海軍中将が海賊の船に乗るなど!!」
しかし、つるは彼らを一喝する。
「お黙り!ドフラミンゴはそんなバカなヤツじゃないよ!!」
「
「ベヘヘ…。しょうがないな~。早く済ませろよ~。ドフィ」
最高幹部であるトレーボルを海軍に行かせることで、中将を人質にする意図がないと言う意思表明をしたのだ。
見た目に似合わず、軽やかにトレーボルが海軍の船に飛び移る。それと時を同じくして「おつるさん」と呼ばれた小柄な女性もドフラミンゴの船にひらりと舞い降りた。
ドフラミンゴはニヤリと笑い、彼女を自室にエスコートする。
敵対する海軍とは言え、ドフラミンゴが招いたならば客だ。そう判断したマリアは小走りで厨房に行き、客用の茶の準備をした。
トレイに茶器を乗せ、ドフラミンゴの部屋の扉をノックする。部屋には、もちろんドフラミンゴとつるの二人しかいない。
振り向いたドフラミンゴはニヤリと笑った。
「おつるさんは客じゃねェから茶はいらねェ。おつるさんも海賊の出した茶なんざ飲みたくねェだろうよ」
「かしこまりました」
呟くようにマリアは言うと、持って来た茶器を使わずに部屋を後にした。ホッとしたような残念なような複雑な気持ちだった。