多分、また時間が掛かるかと思いますので期待せずにお待ちください。
m(_ _)m
「天上金をどうするつもりだい?」
マリアが出て行くとつるが口を開いた。
「…なあ、おつるさん。やってることは同じなのに世界貴族がやると『天上金』。俺たちがやると強奪。おまけに懸賞首にされちまう。不公平じゃねェか?」
「…。仕方あるまい。出自が違うんだ」
「ヤツらは何もしてねェ。ヤツらの先祖が特別だったってだけだ」
つるはため息をつき、話を戻す。
「天上金をどうするつもりなんだい?」
ドフラミンゴはニヤリと笑った。
「ヤツらが先祖にあぐらをかいて当然のように金を奪うのは解せねェと思ってる人間がほとんどだろう」
つるをライティングデスクの前に立たせたまま、自分はライティングチェアにそっくり返り、デスクに足を投げ出している。
「ヤツらに奪われた金を返してやったら、俺は英雄扱いされるだろうなぁ」
つるは目を細めてドフラミンゴを睨みつける。
「何が言いたい?」
「金を返せば恩を感じて俺が海軍に捕まりそうになったら、助けてくれると思わねェか?」
「…アンタがボランティアかい?似合わないね」
「フフフフフ…。言うじゃねェか。だが、ボランティアなんかじゃねェ。ギブ&ギブの関係だ」
「そんなこと、出来ると思ってるのかい?」
つるはため息をついて問い掛ける。
「天上人がどれだけ忌み嫌われてるか知らねェってことは、まさかねェよな?」
ニヤニヤ笑いながらも厳しい口調でドフラミンゴが答えた。
つるは無言で次の言葉を待つ。つるが答えないのでドフラミンゴは続ける。
「クズはクズらしく、俺らみてェに生きりゃいい。どうせやってることは同じなんだ」
「世界政府が許すワケがない。例えそう考える人間が大多数であったとしても、世界政府の意思は覆らないよ」
つるも厳しい口調で返す。
「…だろうな。だが、それじゃあ面白くねェ。どうしても金を返してほしかったら、ヤツらが土下座でもすりゃ考えてやってもいいがな。フフフフフ…」
つるは再びため息をついた。
「できっこないことばかり言うなんて、らしくないね。ドフラミンゴ。本当の目的は何なんだい?」
ストレートに問い掛けるつるに対し、ドフラミンゴはデスクに投げ出していた脚を下ろし、身を乗り出してくる。顔には凄惨な笑みが浮かんでいた。
「面白ェ組織があるよなぁ。…王下七武海だったか。俺をメンバーに入れろ。そうすりゃ金は返してやる」
やっとのことでドフラミンゴの本音を聞き出したが、つるの一存で決定できることではない。
「…。少し時間が掛かるよ。センゴクから世界政府に提案させるしかないからね」
「5日以内に回答しろ。でなきゃ金がなくなっちまうぜ。フフフフフ…」
ル・パ~ンから奪った金は隠し部屋に移すよう、ディアマンテに指示しておいた。
顔をしかめたつるにドフラミンゴは嘲笑を浮かべる。
「『可及的速やかに』なんてウソくせェことァ言いっこ無しだぜ」
「アンタみたいに頭が回る人間が、どうしてもっと良い方にそれを使わないかね」
愚痴のようにつるが呟くのをドフラミンゴは鼻で笑う。
「自分の頭をどう使おうと、勝手だろうが。おつるさんだって海賊になりゃ、四皇クラスにはなれるぜ」
「そんなの、こっちから願い下げだね」
鼻を鳴らして答えるつるにドフラミンゴは再び嘲笑した。
「まぁ、俺の要望が通るかどうかだ。それ以外はどうでもいい」
ドフラミンゴは立ち上がり、扉まで歩いていくと開いてつるに出るよう促す。
話は済んだ、と甲板にいる幹部たちに伝えた。つるとトレーボルはそれぞれ自分の船に戻り、仲間に無事を明らかにする。
「いい返事を期待してるぜ。おつるさん。しばらくはこの近辺にいるからな」
眉間にシワを寄せ、プイと向こうを向いたつるだったが、了承の合図に右手を軽く上げた。センゴクにドフラミンゴの要望を伝えなければならないことでつるは憂鬱になる。
何年も前からセンゴクの指示でドフラミンゴを追うようになったが、忌むべき海賊討伐というよりセンゴクの個人的な憎しみを、いつからか感じるようになった。
オペオペの実の受け渡しを阻止すべく、ドフラミンゴを捕らえようとした時、ファミリーに潜入していた部下をドフラミンゴに殺された、と後で聞いた。センゴクがドフラミンゴを目の敵にし始めたのは、それからだったように思う。
しかし、結局センゴクもドフラミンゴの要求を飲まざるを得ないだろう。天上人が天上金を奪われたままにしておくとは思えないからだ。
ため息をつきながら、つるは電伝虫に手を伸ばした。センゴクを呼び出し、ことの詳細を説明する。案の定センゴクは怒り出したが、それでも天上金を返還させるべきだと考えたのだろう、世界政府に話をつけて来ると言って会話は終了した。
ドフラミンゴは一人、自室に戻る。最高幹部たちにも会話の内容は伝えなかった。トレーボルたちも深く追及せず、
「ドフィのやることに間違いはねェからな」
と鷹揚に構えていた。
用意していた茶ではなく酒を持って来い、とドフラミンゴに言われたマリアは、ため息をつきながら準備する。
封の開いていないワインボトルとグラスをトレイに乗せ、ドフラミンゴの部屋の扉をノックした。
「失礼します」
マリアは声をかけて部屋に入る。ライティングデスク以外に机がないので、そこにグラスを置き、その場で封を開けたワインを注ぐ。
その様子を見ながら、ドフラミンゴがマリアに声をかけた。
「シケたツラしてるじゃねェか。モネと喧嘩でもしたか?」
「そんなことありません!!」
強い語気でマリアは否定する。その言葉にニヤリと笑ったドフラミンゴが追い撃ちをかけた。
「なら、天上金のことだな」
「そんなこと…」
ドフラミンゴとつるの会話を覇気で知ってしまったことを、バツが悪く感じ口ごもるマリアにドフラミンゴは嘲笑うように言う。
「お前はウソが下手だな…。いいか、世界政府が天上人を大人しくさせるための手段が天上金だ。金さえやっておきゃぁ、ヤツらは文句は言わねェ」
「…。私は誰が正しいのか分かりません。でも…」
再び言葉を探すマリアにドフラミンゴは目を細める。
「誰かの幸せが違う誰かの不幸の上に築かれたとしたら、それは本当の幸せではないのではないでしょうか…」
ポツリとこぼされたような言葉が、何故かドフラミンゴの胸に刺さり、感情を逆なでする。
「フフフフフ…。いいか。幸せってのは違うヤツらの犠牲の上に成り立ってるんだよ」
ドフラミンゴの言葉にマリアは静かに首を振る。
「いいえ。不作が長年続くまで、私たちのいたところは誰にも迷惑をかけず、普通に暮らしていました」
遠い目のマリアは言葉を続ける。
「不作が続く前、私たちの祖父母は誰かを不幸せにすることなく、平穏に、幸せに暮らして…幸せのうちに亡くなりました」
マリアはボトルをデスクに置き、注ぎ終えたグラスをドフラミンゴは前に移動させる。
「失礼します」
そう言って会釈をしたマリアは部屋を出た。
ドフラミンゴはワインを飲みながら考える。モネもシュガーもファミリーの幹部としてドフラミンゴの期待通りに育った。しかし、マリアは世間の感覚を捨てきれていない。だからと言ってドフラミンゴを危険人物とは考えない。
自分は天竜人にふさわしく、人を人と思わないところがある。だが、かつての家族は違った。なかでも弟のロシナンテは自分を危険視し裏切った。世間一般で言えば、優しい家族だっただろう。
が、ドフラミンゴに言わせれば世間知らずで愚かな人間たちだった。天竜人として生きたくなければ、自分だけマリージョアを出ればよかった。なのにドンキホーテ家ごとマリージョアを後にし、結果家族は天竜人を憎む人々によって筆舌しがたい苦難を味わった。
苦い過去を思い出したドフラミンゴはワインを飲み干し、手酌でボトルをグラスに傾ける。マリアのおかげでまずい酒になった。このグラスからはこれからのことを考える。
七武海になったら、手始めに先祖がいた地を目指そう。
マリージョアにいた幼少の頃、家系図とともにあったドンキホーテ一族が治めていたという地図を確認していた。そこは現在、とある王家が支配していた。
「リク王…。見てろよ…」
ドフラミンゴは残忍な笑みを浮かべ、シナリオを作り始めた。
ドフラミンゴの部屋を出たマリアはミネのことを思い出し、ため息をついた。さらに、この頃モネとシュガーの態度についても、違和感を感じるようになったのが気になった。
自分と話している時は特に感じないのだが、2人が他の幹部で話していると、マリアが眉をひそめるような話でも楽しそうにしていたりすることがあるのだ。以前は見知らぬ人でも、困っているだろうと思えば手を差し伸べる優しさがあったのに、今は捨て置くような冷たさを感じるのだ。
ファミリー以外の人間を顧みなくなってしまったとマリアには思える。それがマリアには哀しかった。
つるから連絡がきたのは、4日後だった。
「明日の新聞を見な」
電伝虫はつるの声でそう告げると、ガチャと言って目を閉じた。
翌日ドフラミンゴが新聞を読むと、自分が七武海に加入したと言う記事が大きく載っていた。加入した経緯はぼやかされていて、七武海の説明が主だった。
「これが目的だったんだ、ンね~。ドフィ」
トレーボルは満足そうに言った。
「よし!今夜は宴だな!」
ディアマンテが不気味に目を光らせた。
その一言で港から色々な人間が呼び集められた。
ジョーラが女子供のことを思いやったのだろう。ドフラミンゴに頃合いを見計らって言葉を発した。
「あんまり夜遅くまで起きているのは、子供たちの成長にも美容にも良くないざます。私たちは、そろそろ休むざます」
「そうだな。世話を焼かせるが、そうしてくれ」
ニヤリと笑ったドフラミンゴがそう言うと、ジョーラと未成年のマリアたちは文句を言う年少者たちを強制的に退出させた。
しばらくすると港に何軒かある売春宿の女が船に集められた。船内の至る所で行為が行われ始める。
早々と眠りに落ちたシュガーたちの耳には、絶頂に至る嬌声は入らなかったがジョーラとモネはその声が聞こえないよう、耳栓をして横になった。
しかし、気配を感じてしまうマリアにとって耳栓など無用の長物でしかなかった。
乗組員たちが売春宿の女たちを連れて来る途中、通りがかった女たちも強引に連れて来られ、負の感情を感じてしまう。
マリアのためだったのかドフラミンゴは以前ほど、女を抱くことがなかった。が、その鬱憤を晴らすかのように、強引に連れて来られた女たちを相手に次々と欲望を放っていた。
船内のあらゆる場所で享楽的な行為が行われている中、マリアは外界の全ての気配や感情を感じないよう、強制的に眠りに落ちる手段を得るため医務室に向かった。
「すみません…。睡眠薬、頂けますか?」
医務室の扉を開けると、そこからも嬌声が聞こえてきた。面白くなさそうなドクターが顔を覗かせた。
「ん?何だ、マリアか。気配を感じちまってるのか」
ぶっきらぼうな言い方に、かえって優しさを感じたマリアは返事をする。
「はい…。あの…寝ようと思っても眠れないので…」
「こんな状況で眠れるヤツの方が、どうかしとる」
馬鹿にしたように、そう言いながら、薬をマリアに手渡す。
「今夜はグッスリ寝て、明日またこき使われりゃいい」
「ありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げるマリアにドクターは追い払うように手を振った。医務室で行われている雰囲気を、少しでも感じさせないように気遣かったのだろう。
マリアは部屋に戻り、薬を飲んでベッドに入った。
頬に鈍い痛みを感じ、マリアは目を開けようとした。が、異様に瞼が重く、うっすら開けるのが精一杯だった。何か聞こえているが頭が働かず、理解できない。再び眠りに落ちようとするマリアを誰かが強引に起こさせ、肩を揺さぶる。また頬に痛みを感じ、ぼんやり目を開けたマリアは、自分の肩を掴み怒りをあらわにしたドフラミンゴを見つめた。
だがすぐに瞼も意識も落ち、マリアは闇に吸い込まれていった。
珍しく取り乱したモネがドフラミンゴの元に現れたのは、日が高く上ってからだった。普段、朝早く起きて仕事をするマリアが一向に起きてこない、と言ってきたのだ。ドフラミンゴがマリアのベッドに向かうと、すやすやと寝息をたてている彼女が目に入った。正しい呼吸に、少しの不安を覚えたドフラミンゴはモネにドクターを呼ぶよう言いつけた。
その間に名前を怒鳴りながらマリアの頬を数回、張った。薄く瞼が開いたが、焦点が合っていない。再び眠りに落ちようとするマリアの肩を掴み、強く揺さぶった。少しの間、目が合ったが、すぐにマリアが深い眠りに落ちていくのを感じた。
ドクターが部屋に入ってきたのは、その時だった。
「おや。マリアはまだ起きんかね」
のんきなドクターの声にドフラミンゴが食ってかかる。ドクターはモネに部屋を出て行けと言うような仕草をした。
「ジジイ、マリアに何をした?!」
「眠れんと言ってきたから薬を出してやっただけじゃ」
飄々と返事をするドクターの胸ぐらを掴み、ドフラミンゴは何とか殴りつけたい感情を抑えた。
「貴様…」
「ついウッカリいつもの量を渡しちまったんだな」
体格のいい乗組員と華奢な未成年のマリアでは、服薬量を調整する必要があったが、普段マリアはあまり薬を飲まないため、ドクターはそれを失念していたと言いたいらしい。
ドクターを掴んでいる手に彼の掌が重なる。いつになく厳しい目でドフラミンゴを睨んだ。
「確かにワシのミスが直接の原因じゃ。しかし、何故マリアが薬を必要としたのか、考えんのか?」
ドフラミンゴは掴んでいた手を緩めた。
「…。悪かったな」
「それはマリアに言ってくれ」
ドフラミンゴの言葉に束の間、人の悪い笑顔を浮かべたドクターだったが、真顔に戻って続ける。
「薬の効果は遅くても今日中には切れる。明日は必ず起きとるよ」
緩んだ拳を軽く叩きながら、励ますように言った。
マリアが目覚めた時、ひどい頭痛に襲われた。マリアは酒は飲まないが、二日酔いとはこんなものではないかと、うつつに感じた。
と、いつも冷静なモネが涙を浮かべて、マリアを覗き込んでいるのに気がついた。
「マリア。気がついたのね!良かった…」
「モネ…?私、何かした…?」
機械的にマリアは聞いた時に思い出した。自分が望んで睡眠薬を飲んだことを。
「ああ。思い出したわ。今、何時?」
「マリア、あなた丸一日寝てたのよ」
「そんなに!?」
驚いて飛び起きたマリアは頭痛のあまり、再びベッドに倒れた。
そこにドフラミンゴが現れた。
「モネ。どうだ?」
「若様!マリアが起きました!」
「そうか。例の話は?」
「今気付いたばかりなので…」
ドフラミンゴは軽く頷くと、立ち上がったモネが直前まで掛けていた椅子に腰を下ろす。
「悪いことをしたな。マリア。すまない」
頭を下げるドフラミンゴにマリアは慌てて起き上がった。目眩がするのを我慢し、ドフラミンゴに言葉をかける。
「頭を上げてください。若様。私が勝手に薬を飲んだだけですから」
顔色の悪いマリアを見たドフラミンゴは、彼女の上体を丁寧に横にさせた。
「今日は一日休んでろ。また後で来る」
ドフラミンゴが出て行くと、モネは再び椅子に座りマリアに話しかける。「何か食べる?」
「頭痛がひどくて…。食欲がないわ」
だるそうに目を閉じるマリアの前髪を、モネが軽く梳かすように触れた。眠りと目覚めを何度か繰り返し、マリアはようやくベッドから起きられるようになった。様子を見に来たドフラミンゴに翌日から仕事をしても良い、と許可を得たマリアはホッとため息をついた。
後日モネに呼び出されたマリアは、『例の話』、つまりモネが情報を探りにドレスローザに単身で潜り込むことを聞かされたのだった。