「何か雰囲気、良くねェな~」
周囲を見渡してウソップが呟いた。ロビンが頷いて口を開く。
「近い内にレヴェリーが開かれるんですもの。世界政府の加盟国の元首とその警護の為の海軍がマリージョアへ向かっているから元々、治安が良くない国は更に悪くなるでしょうね」
「ってこたァ、ここは元々の治安が良くねェってことだな」
フランキーは声を低めて言うと、再びロビンは頷いた。
「そう言うことね」
「な、な~に。このゴッド・ウソップ様に敵うヤツなんか、居るはずねェよ!」
「フランキーの後ろで何をブツブツと独り言、言ってるの?」
ロビンは周りをキョロキョロ見ているウソップに声をかけるが、返事も待たずスタスタと歩き出す。ウソップの盾のようにされていたフランキーもロビンの後を追う。
「お、おい!待てよ」
ウソップも慌てて二人を追いかけた。
「…。ヘンなモノ売るのね」
ロー指定の医薬品を取り扱っている薬屋や食料品店など数軒、店を回ったロビンの視線の先には衣料品を扱う店があった。ちなみにロビンに「ヘン」と言われても、おかしくないその店頭に『これであなたも七武海!!』と書かれたポップとともに大きな帽子と人の背丈ほどある模造刀や、安そうな生地でできた露出度の高い女性の服などが置いてあった。
そして、その隣には、『これであなたも元・七武海!』という、うたい文句のポップが貼ってあるワゴンがあった。
その中にはロビンが過去に係わっていた組織のボスだったクロコダイルの鈎がコートと一緒に袋詰めされている。
ロビンは店の中に入って行った。
品揃えは女性用も男性用もあり、少ないことはない。その中で少し値の張るものを数点チョイスし、会計場所にそれを運ぶ。
「これ、頂けるかしら」
「ああ」
ぶっきらぼうな言い方の男が奥から出て来た。品物と値段を見比べながら、計算している男にロビンが話しかける。
「あの店先の売れ残り、つけてくれる?」
「売れ残りじゃねェよ。売り物だ!」
鼻息も荒く男がロビンを睨みつけた。
「あら。随分前に作ったけど、売れなかったんじゃないの?新しく加入した人の分はないのに、2年以内に除名された人のはあるもの」
更にロビンが推理する。
「七武海に加入して、すぐに除名されたトラファルガー・ローと、今は四皇になった黒ひげがないところを見ても、そう売れるものじゃなかったようね」
「…七武海は一時期、話題になったからな。客寄せにはいいんだが、売り物としてはなぁ…」
男はため息をついて、ぼやくように言った。
「噂では、今度のレヴェリーで七武海と世界貴族の撤廃が議題になるかもしれないって話よ」
「何だって?!本当か?!」
男は目を剥きロビンに食ってかかる。
「噂よ。本当かどうかはレヴェリーが開かれないと分からないわ」
「よくそんなこと、知ってるな~」
ウソップも感心したようにため息をついた。
ロビンは微笑んで返す。
「ちょっとね。色々とツテがあるから」
今までのやり取りを、しばらく考えたらしく店の男がロビンに(現在、七武海ではないのも含めて)七武海の衣装も、おまけでつけると言った。
「ありがとう。ちょうど、仮装パーティーがあるのよ」
ロビンがサラリとウソをついたが、店の男は、ウソと分かっているのかいないのか、愛想よく返事をする。
「いや、もらってくれるだけでも有り難い」
計算した金額に色をつけ、ロビンは金を出した。
「お釣りはいらないわ」
「毎度~」
笑顔のつもりか、顔を歪ませた男は店の出口まで荷物を持って送る。
「オ~イ!戻ったぞ~!!」
ローの潜水艦が隠れている入り江に着くと、ウソップが叫んだ。少し間が空いた後、水面から潜水艦が浮き上がり、その出入り口からベポが顔を出した。
「あっ!お帰り!」
「ほらよ、荷物だ」
すべての荷物を持っていたフランキーがベポに向かって、放り投げる。ベポはパパッと素早い身のこなしで受け取った。
「キャプテンの薬はあるみたいだな」
小さな袋の中身を確認して、ベポが呟く。そして、かさばる割に軽い袋の中身を見て、ベポは微妙な表情をした。
「こんなの、売ってたんだ…」
ベポは袋からワサワサのピンク色の羽コートと趣味の悪いサングラスを出す。既に甲板に移ったロビンはクスクス笑ってベポの持つ袋から女物の服を出して、持っているベポに見せた。
「これなんか彼女に似合いそうよね」
スタンドカラーでノースリーブ、深いスリットの入っていて柄は似ているものの本物とは違うであろう、いかにも安物の生地でできた蛇姫のドレス(バッタもん)だ。
ベポはもっと微妙な表情になる。
「う、うん…」
「心配すんな。普通の服も買ってあるって」
ベポの肩を叩き、ウソップが苦笑いしながらベポに伝えた。
「んで?ミンゴはまだ、意識不明か?」
フランキーも甲板に移りベポに聞く。ベポは真面目な表情で一味を見回す。
「マリアさんが看てるけど、まだ…」
「そうか…」
ウソップは表情を曇らせて返事をした。
「サングラス、持って来たぞ~!」
ウソップは勢いよくドフラミンゴのいる診察室でマリアに、例の店で入手したピンク色の羽コートを(サングラスと一緒に)掲げて見せた。マリアは思わずプッと吹き出す。
「よくそんなの、売ってましたね」
「ロビンが見つけたんだ。笑えるだろ?」
屈託のないマリアの笑顔にウソップも、つられて笑う。
「ロビンさん…すごいですね」
「別に大したことないわ」
ロビンの謙遜も自慢もしない言い方にマリアは困った表情を浮かべたが、出された次の服を見て顔を赤らめる。
「こんなのは着ねェよな?」
ウソップが見せたのは(バチモンの)蛇姫のドレスだった。
「今のは全部こっちのおまけでついてきたのよ」
ロビンが付け足しながら、正規に買った服を袋から取り出す。
明らかにホッとした顔を見せたマリアにウソップが再び苦笑する。
「いくら何でもいいって言ったって、限度があるもんな」
「い、いえ。何でもいいって言ったのは、私ですから」
慌てて首と手をを振るマリアに、ウソップは珍しくツッコミを入れず助け舟を出した。
「いいよ。無理しなくて」
「わざわざ買ってきたんだ。まさか、ロビンに譲るなんて言わねェよな?」
ギロリとフランキーが睨むが、マリアは微笑みを浮かべる。
「そんな。今まで衣類を貸してくださった、お礼はしたいですが、買って頂いたものでなんて失礼なことはできません」
「ンなら、いいが」
フランキーはマリアを見つめたまま、答えた。そして考える。
自分がドレスローザで闘った男は、他のファミリーと違って悪どいと言うより、一本筋の通った人間だった。
マリアもまた常識のある人間のようだ。彼らが本当にあのファミリーに属していたのか、何か意図があって潜入していたのではないかとフランキーはふと疑いを抱いた。
「若様、ひょっとして、このまま意識が戻らないのかしら…」
フランキーの疑念をよそにマリアが心配そうな表情をする。
人のいいウソップは、マリアを励ますように声を掛けた。
「
「…ですよね。若様は、生命力が強いんですものね」
ウソップの言葉に励まされるように、マリアが呟く。
「んじゃあ俺たちは、部屋に戻るけど何か用があったら、気にせず言ってくれ」
ゾロやローのことも忘れて、ウソップは軽く言った。
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げたマリアに一味は、手を振る。そして一味はきびすを返し、自分たちにあてがわれた部屋に戻った。
「やっぱり、ドフラミンゴだったのね。彼」
部屋に入ったロビンが開口一番に言う。
「あのサングラスがねェと、誰だか分からねェよな」
ウソップも珍しく真面目に答えた。と、そこにフランキーが言葉をはさむ。
「あの姉ちゃんは、ホントにファミリーなのか?」
「…。」
少しの沈黙の後。
ロビンが口を開く。
「どうして、そう思うの?」
「ファミリーのヤツは、ドフラミンゴ同様、良心なんざ持ち合わせてねェって感じだった。だが、あの姉ちゃんは、どうも違う感じがする」
「…そうね。ヴィオラみたいに何か理由があるワケでもなさそうだし」
「幹部じゃなかったからじゃねェの?ドフラミンゴ・ファミリーは幹部だけってワケじゃねェだろ?人数が多けりゃ、変わり者の一人や二人いたっておかしくねェさ」
ウソップが妙にマリアに肩を持つ。
「そりゃ、まあそうだが」
フランキーはあっさり認めた。
「彼女が何者かは、ドフラミンゴの意識が戻らないと、ハッキリしないってことね」
その数日後のことだった。
「ゥ…ン…。」
低く呻くドフラミンゴにマリアが叫ぶ。
「若様!!!」
ドフラミンゴの頭が動いた。サングラスの奥からマリアを見つめる視線が感じられる。その顔と感情には憎悪しかないことがマリアには分かった。
「ジャックはどうした?トレーボルはどこだ?」
マリアは落ち着かせるように静かに言う。
「若様。大丈夫ですよ。そんな人たちは、ここにはいません」
「ジャックがいねェのはともかく!!トレーボルたちはどうした?!」
激昂するドフラミンゴにマリアは困惑した。
「若様。大丈夫です。ここには若様の敵はいませんよ」
マリアがドフラミンゴに言い聞かせている最中、騒ぎを聞きつけたらしいローが部屋のドアを開けた。
「気がついたか」
「ロー!!!若様が変なの!」
マリアはドフラミンゴの機先を制するように口を開く。しかし、ドフラミンゴはマリアに構わず、ローを睨みつけた。
「ここは海軍の船じゃなく、お前の船ってワケだな?」
ドフラミンゴはマリアの存在をないもののように、ローに話しかける。
「ああ。そうだ。あれから、何があった?新聞ではジャックはお前を助け出すのに失敗して死んだことになってるが」
ローはドフラミンゴから情報を聞き出そうとした。ドフラミンゴは顔を歪ませ、吐き捨てるように答える。
「ジャックは俺たちを助けようとしたんじゃねェ。口封じのために海軍を襲ったんだ」
話の見えないマリアは不安気な表情で二人を交互に見る。
ドフラミンゴはローを見て薄笑いを浮かべた。
「フフフフフ…ロー。お前も間抜けなヤツだ。俺なんざ助けなきゃ、お前はロシナンテの敵をとれたし、俺はファミリーの後を追えたってのに」
ローは、助けたくて助けた訳じゃない、と言おうとしたがマリアの言葉の方が早かった。
「そうですか」
冷たい言い方にローとドフラミンゴが思わずマリアを見る。
「命を落としてまで若様をお守りしたファミリーと、どのツラ下げてお会いになるおつもりですか」
「思い出したのか?!」
ローは我知らず大声を出した。ローの言葉とマリアらしからぬ言葉にドフラミンゴが怪訝な表情を浮かべる。
「思い出した?」
爛々と瞳を光らせつつも無表情のマリアは、束の間ドフラミンゴを睨みつけていたが、フッと力が抜けたように崩れ落ちた。
すんでのところでマリアを受け止めたローは、そのまま看護用のベッドに運ぶ。
「どういうことだ?思い出したってのは」
怪訝そうな表情のままドフラミンゴが質問した。
「コイツは今を頂上決戦の直後だと思い込んでる」
ドフラミンゴのベッドの傍らに戻り、ローは腕組みをして立ったままドフラミンゴを見下ろす。
「お前らがどうなったのか、手短に話せ」
ローに命令され、ドフラミンゴは不機嫌そうな表情をしたが、自分が助けられた自覚があるのだろう、言われた通りにした。
「ジャックの船に移ってすぐ、幹部たちと同じ部屋に呼び出された。マリアも俺の世話係で海軍の船に乗ってたから一緒に移ったはずだが、その時はいなかった」
視線を天井に移し、ドフラミンゴは悔しそうに続ける。
「俺もジャックが助けに来たと思っていたが、その部屋でジャックが言いやがった。俺たちが海軍に口を割らないよう、自分たちが始末すると」
腕組みをしたローは無言で聴き続けた。
「もちろん黙って始末されるワケにはいかねェ。反撃したんだがな。ジャックにゃ歯が立たなかった」
ドフラミンゴは疲れたようにため息をつく。ローは改めて自分が立ち向かう相手(カイドウ)の強さを実感した。目の前のドフラミンゴでさえ、麦わらと連携を組んで、どうにか倒した。そのドフラミンゴがカイドウ自身ではなく手下によって、まるで赤子の手をひねるように簡単にやられたのだ。
眉間にシワを寄せているローにドフラミンゴは、ニヤリと笑って話しかけた。
「ジャックが俺の奪還に失敗したって海軍が言えるのは、どうしてか分かるか?」
ローは訝し気な顔でドフラミンゴを見る。
「フフフフフ…。ヤツらには七武海で随分と便宜を図ってもらったからな。礼がわりに『俺』を残してやったのさ」
「?どういうことだ?」
ローがドフラミンゴに聞いた。
「俺の影武者、
ドフラミンゴは自分のイトイトの能力で自分の分身を作ることができる。が、そのことを知らなかったローは覚醒したドフラミンゴの能力者としての力を実感した。
「俺を護送していたヤツらは真実を知ってるが、現実、今インペルダウンにゃ『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』がいるんだ。つまり、ジャックがドフラミンゴファミリーを奪還に失敗したってことだ。だろ?」
ニヤニヤ笑いながら、ドフラミンゴはローの反応を待つ。
「なるほど。世界政府の発表にしちゃあ随分、簡単だと思ったが。そういうことだったんだな」
ドフラミンゴの意に反して驚いた表情も見せず、ローが答えた。が、それはドフラミンゴの想定外だったらしい。ドフラミンゴがローに問いただす。
「…。お前は分かっていたのか」
「いや。ただ、お前を死守したにしちゃあ、あっさりとした記事だったからな」
あえて平静を装ってローはドフラミンゴを見下ろす。
「そういうことか」
ドフラミンゴは納得したように頷いた。そして、ふと思いついたように尋ねる。
「どうして俺を助けた?」
ローは思いついたまま答えるため、マリアのいるベッドに顎をしゃくった。
「あの女に頼まれただけだ。お前だと知っていたワケじゃねェ」
それを聞いたドフラミンゴは嘲笑するように言う。
「お前は頼まれれば何でも言うことを聞いてやるのか」
冷たい視線をドフラミンゴに向け、ローが答えた。
「俺の気が向けば、な」
と、後ろで勢いよく人が起き上がる気配がした。