「起きてるのか?」
扉を開けたローが低い声で聞く。返事がなかったので、明かりを消した直後に声がした。
「ローか」
ドフラミンゴだった。
「起きてたのか」
起こしたか、とは言わない。ドフラミンゴに揚げ足を取らせる気など、更々なかったからだ。が、ドフラミンゴはローの思考を読んだように答える。
「ああ。ウトウトしてたが、今のお前の声で起きた」
「それは悪い事をしたな。熟睡してるのかと思ったんでな。…何か用か?」
ローは極力ドフラミンゴに弱みを見せないように心掛けた。
「ああ。だが
「…俺に命令するな」
文句を言いつつローはベッドに近づく。ローが椅子に腰を掛けたのを見て、ドフラミンゴが口を開いた。
「マリアは記憶を取り戻せるのか?」
「俺の専門は外科だ。精神科は専門外だ」
ローは冷ややかに答える。だが、ドフラミンゴはニヤリと笑って続けた。
「しかし医者の家系に育ったお前だ。家には色々な分野の本があったはずだし、お前のことだ。手当たり次第に読み散らかしてたんじゃねェのか?」
確かに子供の頃、医者だった父に憧れ自分も立派な医者を目指し、家にある本を読み漁っていたが、精神科の本の内容は当時のローには難解で、外科や内科などの勉強を優先していた。
「…。外科や内科みてェにこの治療をすれば治るって正解は精神科にはねェ。言えるのはそれだけだ」
「フフフフフ…。お前でも不得意な分野があったんだな」
嘲るようにドフラミンゴが言ったのに対し、ローはカチンときた。だが、それを気付かれないように、ふと思い浮かんだことを口にする。
「専門家でも記憶が戻るかどうかは、分からねェだろう。記憶を操る能力者なら、確実に戻すことは可能だとは思うが…、あいにく俺はそんな能力者は、知らねェ」
「なるほど…。能力者か。だが、マリアに能力は通用しねェ。専門家の方が可能性はあるな」
独り言のようにドフラミンゴは呟いた。そしてローに話しかける。
「まぁ、コイツのことは後で考えるが。…ロー。お前はコラソンの復讐を目的ではなく手段にしたようだな」
ローは眉をひそめてドフラミンゴに問い掛けた。
「どういうことだ」
「コラソンを殺されたお前は俺に復讐を誓ったはずだ。が、麦わらと手を組んだのに、ドレスローザでは俺にとどめを刺さなかった」
ドフラミンゴは疲れたようにため息をつく。さすがのドフラミンゴも重傷を負い、意識不明の状態で数日経過すると、体力が落ちるらしい。
「お前は俺を倒した後を考えて行動してるとしか思えねェ」
ニヤリと笑うとドフラミンゴは続ける。
「テメェがとった行動の結果だけじゃなく、その後のことも考えろ、とお前がガキの頃、俺が教えた通りにな」
ローがあからさまにイヤそうな表情をした時、ドフラミンゴのタオルケットの中でマリアがモゾモゾしながら声をあげた。
「ん~…」
くぐもった声の後、ドフラミンゴの肩下からニョキっとマリアの右腕が生えたように見え、ローはギョッとした。
ドフラミンゴはため息をつき、独り言を言うように文句を言う。
「お前なぁ…。暑いなら隣のベッドに行け」
「ふにゃ~~…」
猫の鳴き声みたいな抗議の声が聞こえた。右腕がドフラミンゴの首の下から右肩に回り、今までマリアの顔の下にあったらしい左腕がドフラミンゴの胸板に回り、抱きついたようにみえる。
ドフラミンゴは再びため息をつき、マリアの動きを無視してローに話し続けた。
「お前の狙いはカイドウだな?」
「…。だとしたら何だ?」
肯定も否定もせず、ローはドフラミンゴを冷ややかに見据える。
「お前らがカイドウをどうしようが構わねェ。が、ジャックは俺に寄越せ。アイツが殺したファミリーの敵をとってやる」
怒りに満ちた声だった。
ローはドフラミンゴと手を組むことに対する危険性も考え、慎重に答える。
「俺の獲物のことは、ともかく。俺は麦わら屋と同盟を結んでる。だが麦わら屋はここにはいねェ。麦わら屋の意見を聞かずに判断はできねェ」
マリアの言うことが万が一間違っていて、ファミリーが生存していたらジャックに対する復讐心はなくなりローと麦わらを裏切るだろうと考えたのだ。
「…。確か麦わらの一部がこの船に乗ってるはずだ。そいつらと話しをさせろ」
ローは内心、舌打ちをした。マリアがドフラミンゴに教えたに違いない。
「過去はどうでも、今はお前は俺の患者だ。治療に専念しろ」
「…。フフフフフ。この俺に向かって、随分エラそうな口をきくじゃねェか。ロー」
こめかみに青筋を浮かべたドフラミンゴと冷ややかなローの視線の間で、火花が見えそうになった時。
「んむぅ~…。うゆしゃいぃえしよ、若しゃま…」
多分『うるさいですよ、若様』と言いたかったのだろう、マリアのくぐもった舌足らずの寝言で二人は脱力した。
ローより一瞬早く我に返ったドフラミンゴは、ギプスで固められた腕でマリアの身体をあやすように軽く叩く。
「悪かったな。もう寝る」
と言った後、ローに目を向けた。
「俺が動けるようになったら、麦わらの一味に会わせろ。いいな」
「動けるようになったらだ。それまでは大人しくしてろ」
ローは念を押して部屋を後にしようとする。
そこにドフラミンゴの声が後を追ってきた。
「もしマリアに新聞をねだられたら、ねェと言っとけ。今がいつで何が起こったかマリアが知ったら混乱する」
「…。俺に命令するな」
呟くように言ってローは麦わらの一味たちの部屋に向かった。
「よぉ。トラ男。何か用か?」
部屋のドアを誰が開けたのか、最初に気付いたウソップが声をかける。ゾロは相変わらず大口を開けていびきをかいていて、ロビンは本を読んでいる。フランキーはサムライたちと話していた。
「…。ドフラミンゴの意識が戻った」
ローのその一言で部屋の中に緊張が走った。
「マリアは?記憶は戻ったのか?」
ウソップが尋ねる。
「あの女に変化はねェ。が一時的に思い出したことがあるらしい。そのことで報告だ」
複雑そうな表情の一味にローは続けた。
「お前らがここにいることは、あの女のせいでドフラミンゴにバレてる。ヤツは俺たちの狙いがカイドウだと理解した。その上で俺たちと手を組みたいと言ってきた」
ローは部屋の中にいる一味たちの顔を見回す。
「はあ~~~っ?!」
「ドフラミンゴはカイドウの傘下にいたでしょ?それなのに、どうして…」
ウソップが信じられないと言うように素っ頓狂な声をあげ、ロビンは冷静に質問した。
「あの女の断片的な記憶ではドフラミンゴ・ファミリーの幹部は、ジャックに抹殺されたらしい」
ファミリーが全滅させられたらしいことをドフラミンゴに伝えたマリアは、意識を失った後、再び記憶も失った。それを一味にローは言った。
「ファミリーの復讐を実行するために手を組みてェようだ。お前らが何とかドフラミンゴか麦わら屋を説得しろ」
「ドフラミンゴもルフィも説得できるワケねェだろう!」
ウソップは頭を抱えて絶叫したが、他の麦わらの一味は、揃って冷ややかな視線をローに向ける。
「トラ男。パンクハザード、ドレスローザ、ゾウでルフィと行動して、何も学んでねェな」
いつの間にか目を覚ましたゾロがローに言った。
「ルフィは俺たちが何を言おうが自分のしたいことしかしねェ。例え、それがかつての敵を仲間にすることであっても、な」
そう言ってチラリとロビンを見る。
クスリと笑ってロビンは付け加えた。
「バロック・ワークスがなくなって、行き場を失った私に声をかけたのは、ルフィだったわ」
「俺たちは当時、ロビンをよくは思ってなかった」
「ま、女好きのアホコックは別だったがな」
ウソップの言葉にゾロが茶々を入れる。当時を知らないフランキーとサムライたちも耳をすまして聞いていた。
「バロック・ワークスの標的だったアラバスタ王国の王…王家の関係者が当時、俺たちの仲間にいた。そいつを苦しめていたヤツらの一員を何で…って思った」
「だが、ロビンも俺たちに迷惑を掛けたくないと思ってた」
再びゾロが話を引き取り、エニエス・ロビーでのCP9との闘いの話を語る。
途中から関わっていたフランキーも口を開いた。
「ルフィの意思は変えられねェ。例えアニキの意見でもな」
サボ(エース)の存在自体が麦わらの意思を変えることはできるかもしれない。が、彼(ら)が言うことには耳を傾けないだろう。
何しろ二人とも『コイツには手を焼く』と時は違えど口を揃えて言ったのだ。
だが麦わらの性格と行動を知ったとしても、ドフラミンゴは食い下がるだろうとローは思った。
「なら、それをドフラミンゴに言え。俺が説明しても、納得するはずがねェ」
「お前ェが言えよ!!」
青筋を浮かべて凄むゾロにローは冷ややかに答える。
「言ったろう。俺が説明しても納得するはずがねェ」
二人のやり取りを聞いていたロビンは肩をすくめた。
「同じ船にいるんだもの。遅かれ早かれ、顔を合わせることになるでしょうね。それならさっさと用件を済ませた方がいいわ」
「ワノ国までミンゴをベッドに縛りつけておけよ…」
トホホという感じでウソップは呟いたが、不可能だと承知しているのだろう。盛大なため息で話を終わらせた。
かつて、
と言うより、自分は七武海を利用し、四皇を後ろ盾にすることしか思いつかなかったが、ローはそれをはるかに越えていた。
いや、ローが手を組むべき相手として選んだ、麦わらが自分をはるかに越えていたのだろう。
そう思うと、ドフラミンゴはローや麦わらより自分のスケールが小さく感じられ、ムカムカし何かに八つ当たりしたくなる。
ふと自分の胸の上で穏やかな寝息を立てているマリアに気付いた。
マリアは夢うつつの中、何かが自分の身体を這い回っているのを感じた。口の中にも何かが侵入し、蹂躙される。
「ん…。」
彼女にのしかかる身体が自分を快楽へ誘う行為に我知らず、反応してしまう。
が、頭の中に警報のようなものが響きパッと目を開いた。
いつの間にか仰向けになって両腕を頭の上に押さえられた自分に、ドフラミンゴが覆い被さっている。
仰天したマリアは声をあげる。
「何してるんですか!若様!!」
「ん?フフフフフ…。ヒマつぶしだ」
気付くと服も下着も脱がされていて、ドフラミンゴの長い舌が徐々に首から下に移動する。
身体をよじって抵抗しようとするが、傷に障るかもしれないと思うと下手に動けない。
ドフラミンゴの舌が、そのジレンマに陥った彼女自身に入り込み、小刻みに動く。
「んっっ!!」
マリアが絶頂に達したのをドフラミンゴは舌で感じた。麻酔が切れて、しばらたったからか、痛み止めの効果も弱まってきたが、ドフラミンゴはそんな様子を見せず、自分のいきり立った箇所を、ついさっきまで舌を入れていた部分に捩込み、マリアを更に快楽に導こうとする。
「若様!やめてください!」
何度も彼女を突く行為を止めようと、マリアはドフラミンゴにしがみつき、自分の脚をドフラミンゴのそれに絡ませた。
ドフラミンゴは舌で絶頂に達したマリアが彼を拒絶し始めたことに苛立ちを感じた。が、マリアが次に発した言葉に動きを止める。
「身体をそんなに激しく動かしては、傷口が開くじゃありませんか!!それだけ治りが遅くなるのが分からないのですか?!」
少しハナを垂らし、ポロポロと涙を流すマリアから離れ、軽く舌打ちして仰向けに戻る。
「…。後はお前がどうにかしろ。俺は疲れた」
マリアが己の感情ではなく、
口を歪ませ、子供のように手の甲で目を擦り、垂れたハナはドフラミンゴの枕元に置いてあったタオルで拭いたマリアは、しゃくりあげつつ、今まで自分を突いていた箇所に口づける。
その部分を愛おしそうに見つめた後、
既に一度、彼女自身の体内に放出した欲望は、意識不明の間に溜め込められていたらしい。マリアが大量のそれを飲み込むために一旦、離れてもまだまだだ、とばかりに長い腕でマリアの頭を押さえつけ、何度も繰り返させた。
ようやく、落ち着いたドフラミンゴは大きくため息をつき、身体の力を抜いた。
「無茶なことをしてはいけませんよ。若様」
力尽くのドフラミンゴの行為から解放され、下着と服を身に着けたマリアは、彼の二の腕の辺りに置いてある椅子に腰掛け、囁くように言った。それから再び自分の腕とドフラミンゴの胸板を枕代わりに眠りにつく。さっきのようにベッドの中に潜り込んでこなかったのは、またドフラミンゴが
それなら、空いているベッドで寝ればいいものを、と思ったが、何故マリアが自分から離れたがらないのか考えられる可能性を探る。
ジャックに幹部たちが呼ばれた時、マリアはそこにいなかった。そして、自分を皮切りにドフラミンゴ・ファミリーの惨殺が始まったのだろう。それを違う場所にいたマリアは、見聞色の覇気で感じてしまった。
次々と消えていく幹部たちの気配をたった一人で。
それによって壊れそうになった
そして、それを思い出しそうになる覇気を使うことを無意識に避けるのだろう。
マリアの寝顔を見たドフラミンゴは、ふと母親のことを思い出した。体を壊しベッドから出られなくなっても、自分のことより夫と息子たちの心配をしていた。
幼い頃は、そんな両親に苛立ちに覚えた。しかし不思議とマリアにはそういった感情は沸かない。何故なのか考えているうちに、トロトロとドフラミンゴは眠りに落ちていった。