最後に面会した幹部・デリンジャーとの会話を報告するため、マリアはつるの部屋の扉をノックした。
すると。
隣のドフラミンゴの部屋の前に立っている見張りの海兵が声をかけた。
「大参謀でしたら、不在です」
つるがいない時、部外者のマリアは入室を禁じられている。
「有り難うございます。この船にお戻りになるのは…?」
マリアはカマをかけた。
「さあ…。何事もなければ、2~3日中にはお戻りかと」
つるから話を伝えられているものと錯覚した海兵は正直に答えた。
「そうですか」
マリアはにっこり笑って会釈した。
じきにドフラミンゴの夕食の時間だ。
怪しまれずに彼の部屋に入れる。
マリアは夕食をのせたトレイを持ってドフラミンゴの部屋に入った。
ローテーブルにトレイを置く。
「夕食です。先に召し上がりますか?」
ドフラミンゴは怪訝な表情をした。
マリアはさりげなく付け加えた。
「大参謀は2~3日お戻りにならないそうです」
ドフラミンゴが凄絶な笑みを浮かべた。
「腹が減っては戦が出来ねェ、ってなぁ。先に飯だ」
「かしこまりました」
「お前の
世間話でもするかのように、ドフラミンゴが話しかけた。
「試したいことがある。後で手を貸せ」
「かしこまりました。若様」
自分の能力を最大限に利用してきた彼には、何か考えがあるのだろう。
夕食を終えたが、トレイはテーブルに置きっぱなしでマリアはドフラミンゴの側に行く。
「手を貸す、とは?」
「お前は俺やシュガーの能力を俺たちに触れて、封じてみせた。それなら…」
少し言葉を切る。
「この海楼石の
「それは…」
マリアは困惑して言葉を濁す。
「やったことがねェ、か?じゃあ、今すぐやってみせろ」
「やりますけど…。若様のイトで海楼石は…」
「いいから、さっさとやれ」
不機嫌な声でドフラミンゴが命令した。
マリアは慎重な手つきで枷だけに触れる。
「
ドフラミンゴの指先から銃弾のように糸が出てきた。三日月のような残忍な笑みを浮かべながら、満足気な声を出す。
「フフフフフ…。やはりな」
そう言うと、右手の指を盛んに動かし始めた。
マリアは部屋の外にいる見張りの海兵がギクシャクしながら、つるの部屋に入るのを感じた。ドフラミンゴのイトイトの能力、
「鍵はどこだ」
「大参謀のデスクの引き出しに…」
覇気で隣の部屋を探り、どの引き出しなのか、ドフラミンゴに指示を出す。
「うわあ!」
叫び声とともに見張りの海兵が扉を開けた。
と同時に。
マリアが猫のように素早く海兵のもとに行き、足払いをかける。護身用にとラオGに教わった体術だった。
足をすくわれ、倒れ込んだ海兵から鍵を奪い、ドフラミンゴに向かって放り投げた。
そして、あらかじめ手に持っていたハンドタオルを海兵の口に押し込んだ後、制服を剥ぎ取りフェイスタオルで手足を縛りあげる。
強烈な殺気を感じ、マリアは振り返った。足枷を外したドフラミンゴが背後で仁王立ちしている。
「どけ。マリア」
指を海兵に向けたドフラミンゴが冷酷な声で言った。海兵が怯えているのが伝わってくる。
「嫌です。無抵抗な人の命を奪うのは、おやめください」
海兵を背に隠し、必死な口調でマリアは懇願した。
しかし、ドフラミンゴは額に青筋を浮かべ、マリアを睨み付ける。
「俺に逆らうつもりか?」
「若様、時間がありません。こんなことで貴重な時間を潰している場合ではないはずです」
身を呈して海兵を庇うマリア。
「チィッ!」
ドフラミンゴが舌打ちした。
「いいか。甲板で暴れてるからな。とっとと助っ人を寄越せ」
残酷な声で言い捨て、ドフラミンゴは身を翻し、あっという間に消え去った。
マリアは泣きそうな表情を海兵に向けた。
「申し訳ありません」
その言葉とともに非情な肘鉄を彼のみぞおちに食らわせた。
気絶した海兵の制服を着て、マリアは特別幹部たちが収容された階層に急いだ。
「ドフラミンゴが逃げた!」
その声に海兵たちはざわめいた。
「まさか」
「藤虎さんに知らせろ」
「早くヤツを取り押さえろ!甲板にいるぞ!」
声色を使ってマリアは見張りの海兵たちを格子から引き離した。
ディアマンテは大笑いした。
「さすがドフィだ!やってくれるぜ!」
その言葉に水を差す声が響く。
「笑っている場合ではありません。ディアマンテ様」
その声のする方に目を向けると。
帽子を取り、ブロンドの髪を揺るがせているマリアがいた。
その手には鍵束が握られている。
「甲板に行って若様の援護を!」
その時、藤虎は気配を感じ、甲板に向かっていた。
既にドフラミンゴが海兵たちを手玉に取っていた。
藤虎が刀を抜き、ドフラミンゴに近づく。
「どうやって海楼石の足枷を?」
「勿論、鍵を使ったに決まってンだろ」
そう言うと、掛け声とともに両手を降り下ろした。
「
「グアッ!!」
ドフラミンゴの能力による攻撃を避けきれなかった 海兵たちが叫び声をあげた。
「どうする?てめェの能力で、かわいい部下ともども、俺たちを船ごと沈めるか?」
そんな挑発には耳を貸さず、藤虎は気配を探っていた。
マリアが幹部たちを逃がしているのがわかった。
「幹部たちの警備を!!」
だが、時は既に遅かった。
甲高い声とドスのきいた声が響いた。
「そんなワケにはいかねェ!」
「今度こそ、ドフィを守る!」
ピーカとディアマンテだった。
「フフフフフ…。じきに幹部たちが全員、解放される。そうすればこの船は俺たちのものだ」
冷酷な笑みとともにドフラミンゴが宣告した。
「そんな事、許す訳にはいきやせん」
二人の間に火花が散る。
一方。マリアは幹部たちの解放に力を注ぐ。
つるから渡された鍵が、格子と枷の両方を兼ねていると直感し、特別幹部で証明できたマリアは、その鍵を携えて幹部たちのもとへと急いでいた。
「若様は甲板です。戦力を分散させるため、他の場所へ急いでください」
ある幹部以外には、そう言った。幹部たちは海兵から
しかし。
セニョール・ピンクには、違う指示を出した。
「操舵室へ!」
スイスイの実の能力の持ち主である彼に船の監督権を委ねた。
全てを理解した、セニョール・ピンクは言われた通り、操舵室に急いだ。
セニョール・ピンクは、操舵室へ能力で入ると、そこにいた海兵たちを次々と倒していった。
最後の1人を倒し、そこにいた全ての海兵たちを操舵室から押し出すと、艦内放送のマイクを握った。
「この船は、これよりドンキホーテ・ファミリーの指揮下に入る!この船に残りたきゃ、仲間になれ。仲間になりたくなけりゃ、海に飛び込みな」
セニョール・ピンクの渋い声が響く。
その時。
つるとセンゴクが警備する船の裏をかくように、彼らとは逆方向から一隻の見慣れない船が近づいてきた。もう一隻の護衛船が藤虎及び囚人・ドフラミンゴのいる船を守ろうと間に入ったが、砲撃を受けてしまった。
ドフラミンゴをはじめ、戦闘力の高い幹部たちを相手にしている藤虎は、まだその事に気付かない。
一方、操舵室の電伝虫が呼び出し音を発した。
セニョール・ピンクがマイクを取ると、男の声がした。
「ジョーカーか?」
「…の仲間だ。若は今、海軍と遊んでいる」
「こちらは"ジャック"だ。ジョーカー以下、幹部たち全員こちらの船に移れ。迎えのボートを寄越す」
セニョール・ピンクは扉を開け、たまたま近くで暴れていたグラディウスに伝言を頼んだ。
「若に伝えてくれ。"ジャック"から迎えのボートに乗るようにとのことだ」
「わかった。すぐ行く」
そう言うと、瞬く間に姿を消した。
操舵室が乗っ取られた事を知った藤虎以下、海兵たちだが戦いは現在進行形だった。
まだ乱戦が続く中、グラディウスはドフラミンゴを見つけ、伝言を伝えた。
「若!"ジャック"を名乗る人物から迎えのボートを寄越す、と!」
「ジャックが…。どこに行けばいいか、聞いておいてくれ。そっちの指示に従う、と」
「了解」
グラディウスはセニョール・ピンクのもとへ向かった。
「若から伝言だ。ジャックの指示に従う、と」
それを聞いて、セニョール・ピンクは電伝虫に話しかけた。
「至急、迎えを寄越してくれ。我々も若とそちらの指示に従う」
「了解」
不審船からそれなりの装備を備えているような小舟が数隻出てくるのが見えた。
ようやく砲撃を受けた護衛船と、怪しい不審船の存在に気付いた海軍。
「!コイツら逃げるつもりだ!!」
「大参謀たちに連絡を!」
「しかし、操舵室は…」
「藤虎さん!どうしますか?!」
甲板の上は大混乱に陥った。そうしている間にも、小舟はどんどん近づいてくる。
つるとセンゴクの船は丁度、藤虎たちの船を挟んで反対の方向に存在しているため、不審船には気づいていなかった。
捕らえたのに尚、自分たちを翻弄する一人の男に藤虎は歯噛みするしかなかった。
(ここでヤッコさんを取り逃がしたら、またドレスローザのような悲劇が起こりかねない…)
見れば砲撃を受けた護衛船は既に沈みかけ、海兵たちが海に飛び込んだり、救助ボートに乗り込んだりしている。今はドンキホーテ・ファミリーがいるからこちらの船への砲撃は休止しているのだろう。しかし、彼らが小舟に移ったら。
容赦ない攻撃を仕掛けてくるに違いない。軍のメンツなどよりも部下たちの命の方が、遥かに大事だ。
「全員、脱出の準備を…」
「は?!」
「ヤツらをむざむざと見逃すつもりですか?!」
「あの不審船の正体が何であれ、海軍に攻撃を仕掛けてくる以上、敵には間違いござんせん。しかも狙いは世界政府ともつながりのある元・七武海。あっしの単なる勘ですが、不審船の正体は海軍より上の存在につながっているはず。あっしらに手出しはできやせん」
既に乱戦を上手くかわした幹部たち数人はボートに移っている。
「船内には負傷者が、確実にいるはず。彼らを一人残らず、避難させておくんなさい」
藤虎の予想通り、ドンキホーテ・ファミリーが全員ボートに移った途端、退却しながらも、砲撃の手を緩めない不審船。
セニョール・ピンクが、ご丁寧にも操舵室を破壊し操縦と通信、両方とも不能にしていったため、つるとセンゴクが異変を察知し接近していなければ、被害はより甚大なものとなっていたに違いない。
また負傷者の中には、闘魚の血筋をひくデリンジャーに噛みちぎられたりして身体の一部や大量の血液を失い、避難させられない状態の者も多数いて、彼らに心の中で詫びながら船を後にした。
センゴクのいる船に避難した藤虎は謝罪の言葉を口にした。
「申し訳ございやせん。あっしの管理不行き届きで…」
「謝罪の言葉なら言うべき人間を間違っているぞ。藤虎」
センゴクは頭を下げる彼に静かに言った。
「わしはもう、お前の指揮下にある。お前の報告する上司はサカズキしか、おらん」
何も言えない藤虎にセンゴクは続ける。
「もともとマリアはわしと、おつるさんの判断で乗船を許した。お前には許可もとらずにな」
「まさかあんな大人しそうなマリアが、こんな大それた事をするとは思わなかったからな…」
呟くようにセンゴクが言った。
実の弟のロシナンテに「破壊の申し子」と呼ばれ、その存在を危険視されていた残酷なドフラミンゴ。優しい両親から何故、兄のような残虐な人間が生まれたのか分からないと言い、珀鉛病の少年の治療のためオペオペの実を強奪し、生命を落とした優しいロシナンテ。
マリアもまた、シュガーや鍵を奪った見張りの海兵への態度を考える限り、優しく残酷なことは好まないように思われる。その彼女がなぜドフラミンゴのような残酷な人間に愛情を注ぐのか。ひょっとして、彼女は実の弟でさえ知らないドフラミンゴの真実を知った上で、すべてを受け入れたのではないか。
センゴクは淡々と自分の考えを述べた。
会心の笑みを浮かべ、藤虎は言った。
「あの娘さんに関しては、あっしも同じ意見でござんす。ヤッコさんを変えられるとしたら、娘さん以外考えられやせん」
「どうする?マリアのことは
「そんなつもりはござんせん。ドレスローザの件では元帥の先手を打てやしたが、今回は揉み消されちまうこってしょう。不審船は撃破。あっしには極秘でドフラミンゴ確保の命令が下されるはずでござんす。娘さんのことを伝えても、話がややこしくなるだけでござんす」
的確な読みにセンゴクは苦笑し、話題を変える。
「しかし…。幹部たちの鍵はマリアが開けていたんだな?」
「あっしには、そのように感じられましたが…」
「じゃあ、ドフラミンゴの鍵はどうやって開けたんだ?見張りのやつの話だと、鍵を開ける前から既に能力を使えたことになる」
藤虎は少しの間、躊躇したが意を決したように口を開いた。
「…。可能性としちゃあ、娘さんが何かの能力者だったってことじゃあ、ござんせんか?それならヤッコさんが、わざわざ娘さんを呼びつけたのも合点がいきやす」
「なるほど…。わしもおつるさんも、まんまとヤツの目論見に乗っかっちまったということか…」
センゴクは苦虫を潰したような表情をした。
「ひょっとしたら、ヤッコさん自身が無意識に娘さんに救済を求めていたのかもしれやせんか?それなら、その価値は充分にござんす」
妙に説得力のある言葉に、センゴクは再び苦笑する。
「お前も随分マリアの肩を持つな。…まあ、お前だけじゃないだろうが」
マリアに対する海兵たちの評判も、悪いことは聞かなかった。ことにドフラミンゴに操られていた海兵などは、マリアがいなければ自分は殺されていたかもしれない、と崇拝しかねない勢いで語っていた。
センゴクは真面目な表情をして藤虎に言った。
「わしも出来る限りの援助はする。ドフラミンゴとドンキホーテ・ファミリーの鍵を命運を握るマリアを救ってやってくれ」
マリアの能力、ベタでしたかね。(汗)
それにしても、ミンゴも海軍たちもコートの袖を通さずに暴れて、よくコートが飛ばないな、と思うのは私だけでしょうか?