町にもあまり行ったことがない3人にとって、船での生活は初めてのことの連続だった。また、食料も豊富にあり、やせ細っていた3人は、健康的に体重を増やしていった。そして、色々な土地で多様な文化に触れあうチャンスもあった。また、集落では、簡単な読み書きしか教わらなかったが、辞書や事典等を貸し与えられた為、色々な知識も吸収することができた。
その間、マリアは徐々に感情を取り戻していった。最初はモネ、シュガー、ベビー5、デリンジャー位にしか感情を表さなかったが、段々とぎこちない表情から、豊かなものに変化していった。トラウマもあったが、普段の生活の中で現れることはなかった。
ファミリーに入って二年程経って、悪魔の実を3人とも食べたが、マリアだけは幹部にならなかった。
「悪魔の実が手に入った。好きなヤツを取れ」
拾われて二年程たった時、唐突にドフラミンゴが3人を部屋に呼びつけ命令した。
「…。どれが何の実なんでしょうか?」
「ホビホビ、ユキユキ、ウミウミ。だそうだ」
指を指しながら、答える。
「どんな能力なんですか?」
「…。まあ食えば分かる。ウミウミはおまけについてきたから、俺にも分からん」
説明と言うには、あまりにもおおざっぱな言葉に呆れながらマリアが真っ先に手を伸ばした。
「じゃあ、私がそのおまけをもらうわ」
モネが気を使ってクジで決めようとか言い出さないうちに、さっさと一口かじりつき、何とも言えない顔をする。
「…。カメムシユリの球根の味」
ドフラミンゴが怪訝な顔をした。
「カメムシユリ?」
「花の匂いがカメムシを潰したような感じの…。球根もそれなりで…」
何とも言えない顔のままのマリアの横で、一悶着を終えたモネとシュガーが、それぞれ実を取ってやはり口に入れる。
「ビックリリンゴの味がする!」
シュガーがすっとんきょうな声をあげた。
「ん~…。こっちはアキタケの筍の味ね…」
「…。聞いたことねェモンばっかりだな…」
「ビックリリンゴはねー、見た目はリンゴなんだけど、ビックリするくらい不味いの!」
シュガーがニコニコしながら説明する。
「アキタケは秋に筍が生えるんだけど、普通の筍に比べると格段に美味しくないわ」
モネが冷静に言った。
少年の一時期、底辺生活を送ったことのあるドフラミンゴでさえ、聞いたことのないものだった。
「…。ちなみに、お前らが食った中で一番不味かったってなァ、何だ?」
「ミラクルクルミ」
3人が申し合わせたように、言った。
やはり、聞いたことのない名前を耳にしてドフラミンゴは、呆れたように頭を振る。
黙り込んだドフラミンゴを横目に、3人は口々に喋り出した。
「脂肪と栄養は珍しくあるのよね。あれ」
「でもミラクルに不味いし、そのあと1週間は何食べても、あれの味だから、食欲が失せるよね!」
「…。違う場所だったら、ダイエット食になったかも」
「不味いもの談義はもういい。能力を見せてみろ」
「誰から?」
ドフラミンゴが合図をすると、後ろ手に縛られた男が小突かれて入って来た。
「ホビホビの実は誰が食った?」
「あ、あたし!」
シュガーが元気良く手を挙げる。
「そうか。じゃあ、シュガー。こいつに触ってみろ」
ドフラミンゴはそう言うと、先程、入って来た男を指さした。
シュガーが軽く男に触れると、人形に変化した。
しかし、4人には突然、人形が出現したように思えた。
「えっ?!何?この人形!」
いつも冷静なモネが珍しく声を張り上げた。
「かつて人間だったヤツだ。能力で人形になった」
「…。シュガーの能力は人を人形に変化させるのですね…」
「そうだ。しかし、それだけじゃねェ。人形になったヤツに関する記憶は一切なくなる。俺もこいつが誰だったか忘れた」
表情は変わらないが、人形がオタオタしている。
だが、ドフラミンゴの合図で部屋の外に連れ出されていった。
「じゃあ、ユキユキの実はモネだな」
「ええ。若様」
満足気な顔でモネが頷いた。
「どんな能力かは大体、想像つくだろう。やってみろ」
「了解。若様」
そう言うと、モネは部屋一面に雪を降らせた。
マリアは、それを見てはしゃいでいるシュガーの相手をした。
「さて…。問題はお前の能力だ」
ドフラミンゴがマリアの方を見ながら言った。
マリアは途方にくれた表情になった。ウミウミと言われても、何かを生むものなのだろうか。それとも海に関する能力なのだろうか。
困惑しているマリアを見て、シュガーがいたずらっ子のように笑った。
「能力が使えないなら、人形に変えちゃうわよ♪マリア」
それを聞いて、モネが叱りつける。
「シュガーやめて。私、マリアのことを忘れたくなんかないわ」
ムッとした顔をしてシュガーが反論した。
「何よ!本当に人形にしちゃうとでも思ってるの?!」
再び始まった姉妹喧嘩をマリアが止めに割って入る。
「モネ。シュガーの冗談をいちいち真に受けないの。シュガーもタチの悪い冗談、言っちゃダメ。モネは真面目だから、本気にするわ」
マリアはシュガーの腕をつかんでなだめようとした。
と、同時に。
足をもつれさせたシュガーが反射的に、モネの身体に手をついた。
そこに居合わせた四人が顔色を変えた。
が、何も起きなかった。
「え?!何で?何で?」
パニック状態に陥ったシュガーを抱え上げ、ドフラミンゴが呟いた。
「ウミウミ、か…。なるほど」
訳が分からず、混乱している3人を尻目に合点がいったように頷いた。
「マリア。お前の能力は平たく言やァ、『人間海楼石』だ。能力者は海に嫌われる。海で能力を使うことはもちろん、泳ぐことも出来なくなる」
「その海の力…」
マリアは呆然となった。
「俺に触ってみろ」
マリアは少しためらって、ドフラミンゴの腰の辺りに軽く手を置いた。
「
折り曲げた人指し指からは何も起きなかった。
「今度は俺の前に立て」
ドフラミンゴがいきなり前に来たマリアの額に人指し指を突き立てた。
「
指先から銃弾のような糸が出てきたが、マリアの額に当たると同時に消滅した。マリアはまったくの無傷だった。
「やはり、な。俺の糸で海楼石は切れねェ。能力による攻撃は、お前自身が無効化しちまうんだ」
モネが信じられないという顔をした
「能力を無効化する能力なんて、矛盾してるわ…」
「だが実際あるんだから、しょうがねェ」
まだ混乱してドフラミンゴの首にしがみついているシュガーを抱えながら、ため息をつくように言った。
シュガーの頭を軽く撫で、下に下ろすと3人に告げた。
「モネ。お前は幹部だ。シュガー。お前は特別幹部として、トレーボルの下につけ」
「ええ?!イヤよ!!あんなハナタレ…」
慌ててモネとマリアがシュガーの口をふさぐ。
「マリア。お前は幹部には出来ねェ。ファミリーには能力者が多い。それに加えて敵が必ずしも能力者とは限らねェ。ファミリーの戦力を下げる可能性は低い方がいい」
マリアは不安になった。
「ファミリーにも居られなくなるのですか?」
「お前の能力はともかく、見聞色の覇気は使いようがある。戦闘員じゃあ使えねェが、使用人くらいなら使えるだろう」
「よかったわね。マリア」
モネがホッとしたように言った。
「ただし。マリアの能力のことは誰にも言うな。最高幹部にもだ」
ドフラミンゴが脅すように殺気をまとわせて言った。
「誰にも、ですか?」
「そうだ。万が一マリアの能力をファミリーの戦力低下に使おうとする奴等もいるか分からねェ。そんな能力は知られてねェ方がいい」
「シュガー。若様の命令よ。マリアの能力のことは誰にも喋ったらダメよ」
モネは厳しい表情で妹に釘をさした。
シュガーも唇をとがらせながら、姉の言葉に従う。
「は~い」
マリアは思わずシュガーを抱きしめた。
「ごめんね、シュガー。こんな秘密、背負わせて…」
するとシュガーがさらに頬をプクッと膨らます。
「マリア、あたしのこと信用してないでしょ?!失礼ね!あたしだって秘密くらい、ちゃんと守れるんだから」
モネがその言葉に茶々を入れる。
「そうね。あんたのおやつの隠し場所も、ちゃ~んと秘密に出来るものね」
「もうっ!!お姉ちゃんを人形にしちゃうからね!」
モネは駆け足で部屋を逃げ出し、シュガーがそれを追いかける。
マリアはその様子を見ながら、クスクス笑った。そして、ふと思い出したようにドフラミンゴを見上げる。
「そういえば若様。ああいうのは、おまけについてきたとは言いませんよ。世間一般では『強奪する』と言うんです」
その言葉にドフラミンゴは探るようにマリアを見た。
「…。お前の覇気はどれくらいの距離まで使えるんだ?」
マリアは再び困惑した表情をした。
「よく分かりません。ただ、若様の気配だけは集中しなくてもどこにいるのか分かります。他の人は集中しないと探せないのですが…」
先日、一人でフラリと出て行ったドフラミンゴが違う海賊船で悪魔の実の取引をしていたのをマリアは感じた。実を3つ用意出来なかったと説明されたが、それを鵜呑みにするようなドフラミンゴではない。値をつり上げようとしたのか、自分で食べようとしたのか、隠し持っていた実を無理矢理取り上げ、その実の名前を聞き出した後で、その場にいた海賊たちを、あっと言う間に叩きのめし、ついでに船の横腹に穴を開けて帰って来たことも、マリアは感じていた。
「若様の気配は強いと言うか…。とにかく分かりやすいのです」
一番困るのは、ドフラミンゴが最高幹部と秘密の打ち合わせをする時だった。その場合、船を港につけ彼ら以外を全員船から追い出し、マリアに覇気でチェックさせ、マリアも追い出した後で打ち合わせをするのだ。
が、ドフラミンゴの気配は集中しなくても感じてしまうため、マリアは用もなくファミリーの適当な誰かの気配に集中する。大体マリアは幹部たちと一緒に行動しているので、気配を探るのは戦闘員たちだった。
戦闘員たちは酒場に行く以外は、ほぼ売春宿で憂さ晴らししていた。年頃のマリアには刺激が強すぎ、気配を探るのをやめると今度はドフラミンゴたちが打ち合わせしている、胸が悪くなるような内容が頭に飛び込んで来てしまう。マリアがどこにいてもドフラミンゴがいる限り、打ち合わせの内容は筒抜けになるのだ。
言葉で説明しづらい気配の感じ方を、マリアが困っていることと共に、たどたどしくドフラミンゴに伝える。
気配の感じ方の説明を聞いている時は、半信半疑な表情だったドフラミンゴもマリアが困っていることを聞いた時はニヤニヤと笑いを浮かべた。
「そいつァ、悪いことをしたなァ。マリア」
そんなことは、これっぽっちも思っていないと断定できる口調でドフラミンゴが言った。
「今度、俺が売春宿に行ったら、さぞかし面白ェだろうなァ」
既にドフラミンゴのそういう場面に数えきれない程、遭遇してきたマリアは顔を真っ赤にして、うつむいた。
「まあ、今まで打ち合わせの内容が漏れたことがねェってことは、お前が信用できるヤツだってことだ。助かった」
ドフラミンゴはマリアの頭を軽く叩くと部屋から押し出し、扉を閉めた。
(プライバシーの侵害だな…)
ドフラミンゴは頭をかきながら考えた。しかし、マリアも好きでやっている訳ではないので仕方ない。
(諦めるしかねェな…)
しかしドフラミンゴも、何故マリアが自分の気配を集中しなくても感じられるのか、理由を考えていた。
考えられることは、いくつか思い浮かぶが一番納得いくのは、自分が覇王色の覇気の使い手であることだった。他の人間と自分の違うところは、それくらいしか思い浮かばない。もしくは、天竜人であったことも関係しているかもしれない。
「モネ様!幹部の方が食器など運ばないで下さい!」
「様は辞めて。それに幹部だって自分で出来ること位、自分でやるわ」
二十歳位の女性が言い争っている。
「あー…。またやってる。あんたのお姉ちゃんたちなんだから、止めたら?シュガー」
「あれは、お姉ちゃんたちのコミュニケーションの範囲内だから、止めないくて、いいのっ!」
「じゃあ、あたしが止めに行ーこうっと♪」
「止めなくていいって言ってるでしょ!」
賑やかな言い争いが、ローティーンの少女の間でも勃発した。
「イヤだわぁ。モネとマリアを巡る争い。女同士って醜いわねェ~」
一番年下のデリンジャーがからかい半分に言う。
「うるさいわね!デリンジャー!」
ベビー5とシュガーが声を合わせて言った。
その数ヶ月後、マリアはモネに呼び出された。
「私ね、明日の朝早く出かけなきゃならないの。若様の命令で」
マリアは不安そうに尋ねる。
「いつ戻るの?」
「分からないわ。取り敢えず若様に言われたのは、バッファローと一緒にドレスローザって国に行けって…」
「何をしに?」
「そこの王女様の侍女にって…」
「そんなこと、私でもいいのに…」
「ダメよ。バッファローと一緒にって言ったでしょ?」
能力を相殺してしまうマリアは、極力ファミリーの能力者と行動を一緒にしないようにしていた。
「少ししたら、若様から命令があると思うわ。それまで、シュガーをお願いね」
「もちろんよ。モネ」
マリアは力強く、答えた。
不味いもの談義はいいって…。あんたが聞いたんでしょうが。
と、ツッコミ。(笑い)