また、人を殺した。
そいつは殺される直前、こちらの存在を認め何か喚いていたけれど、構わずに撃ってやった。
サイトの中の
また、人を殺しちゃった。
今殺したのはとんでもない悪党で、殺されて当然のことをしていたんだ。第一次世界大戦の引き金を引いたガヴリロ・プリンツィプや、ビルに航空機を突っ込ませたウサーマ・ビン・ラーディンと同じように世界に混沌を撒き散らす大悪党だったんだ。
そいつを殺す事で、世界の歪みをちょっとだけ治すんだよ。
全てが丸く収まっていた時代もあったと聞いたことがあるけど、だったら今はどう例えられるだろう。
世界情勢は
今こうやって大悪党を殺してやった事で、この地域は少しはマトモになるとしよう。だけど地球全体で見れば、それは極々小さな末端の枝の話であって、決して芯を突いたものではない。この程度では、世界は変わらない。
ならば、この大悪党は無駄死にしたのか。
この手は、無駄に汚れたのか。
いや、そんなことはないと信じよう。
そんなことを考え出せば、まさしくキリがない。
与えられた任務をこなす、機械であればいい。
意思など、何の意味もない。
はるばるやって来て、ここで標的を見つけて、そこで銃を構えて、最後に引き金を引かせたのは、今でも本国でのんびりと暮らしているスーパーリッチたちだ。スーパーリッチ達の悪意か善意だかが、アメリカを動かす動力となり、お偉いさんの一言で兵士を派遣し、この事態を招いた。
兵士の意思など、どうでもいい事なんだ。
実際、意思などあったところで、それは任務に多大な影響を与える弊害でしかない。ストレスとか諸々を感じるのは人の心だ。何人も殺して、殺して、殺してやったけれど、たまにこっちが殺される事もあった。そんな事を繰り返すんだ。兵士に心は必要なくなってきている。心を殺す訓練。今やどこの国の軍隊だって、そういう施術やカウンセリングを取り入れ、運用している。
死んだ魚みたいな乾いた目をした人間が、最新の装備を整え、地球の裏側から人を殺すためにはるばるやって来るんだ。
機械のように正確に人を殺したら、何事も無かったように帰る。
何故帰るのかって。もちろん、家族が、帰る場所があるからに決まっている。
今、こうして大悪党を殺したけれど、頭の中には既に妻や子供へ何を土産にするか考えているんだ。
頑ななほどにドライだと思うよ。でも、仕方のない事なんだ。
今や人の命なんて、そこらへんで転がっている石ころより価値がないんだ。
一つや二つ、無くしたところで、そいつの家族とか、親族が悲しむくらいさ。
とことん、世界は腐りきった。
こんな腐卵臭が生々しく連想できる世界で、何の為に生きてるのか、何のために産まれたのか、最近よく考えるけど、雲を掴むみたいに一向に答えは見つからない。
もっと人を殺せば、あるいは悟りの領域に達するのかも。
あるいは、そうそうに殺されれば、死の直前悟るのかも。
その答えが知りたくて、人殺しを続けている。
愛する人を守るため、愛する国を守るため、そんなヒーローみたいな思想は持ち合わせちゃいないよ。なんてったって殺しは殺しじゃないか。恨みで殺すのも、何かを守るために殺す事も、同じ事さ。大義名分なんて、綺麗事だよ。
軍人は尊敬される仕事だってよく言われるけど、そんなのは間違いだ。ただの殺戮者集団だよ。今殺してやった大悪党と同じ人種さ。将校クラスともなれば、壁や天井がある場所で仰け反って、あーでもないこーでもないって駄々を捏ねてればいいんだ。本国じゃ大企業のCEOなんかとパーティーに参加して一丁前にジェントルマンの仲間入りさ。
下士官以下の軍人はブルーワーカーも同然で、ただの
あぁ、そういえば、軍に入ったのも興味本意だったなと、突然思い出したよ。
人を事故とか不可抗力とかじゃなく、明確な殺意を持って殺すのはどうな感覚なのか試したかったんだ。
なに、大した事ないさ。
童貞の高校生が、女の子の中はどうなってるのか想像して、実際に入れてみれば気持ち良いけれど、終わってみればこんなものかって思うのと、本当によく似てたよ。
所詮は生き物さ。動物と変わらない。
人間だからって、特別な感情なんかなかった。
それは心を殺す訓練のおかげだったのかな。それとも、結局は殺すのは一兵士の意思ではなく、お偉いさんの意思だからかな。夢に殺した奴が出てきた事は一度もない。
板前が、多くの魚を生きたまま
それを
「
『トュームストーン了解』
そんなこんなで、このアフリカの大地ともおさらば出来るのさ。
さぁて、お土産は何にしようかな。
※ ※ ※
少し昔話をしよう。
テーマはそうだね。
あるところに、
彼は日本人の父と、アメリカ人の、つまりは白人の母を持った子なんだけど、その子がいつも言われていた言葉があるんだ。
「死んだ魚みたいな目をしてるね」とか。
「もっと人に興味を持ちなさい」ってね。
前者は稀だけど、後者はよく言われてた。
小学生の時は6人の担任と、6人の副担任から言われて。
中学生の時は3人の担任と、3人の副担任から言われて。
高校生の時は3人の担任と、3人の副担任から言われたっけか。
つまり、孤独を愛してやまない少し痛い子だったんだ。
身長は百八十八センチで、体重は八十五キロ。脚も長くてハーフたがら顔も良い。小さい時から空手と柔道の道場に通っていてガッシリと肩幅はあるし首も太い。余談だけど、アソコも大きい。
頭の方は上の下くらいで、運動神経も抜群。日本語も英語も操れるマルチなイケメンが
非の打ち所がない完璧人間だけど、性格に難があるんだよ。
神は二物を与えないと言われるけども、まさにこれが欠点かと皆が納得するほどに癖のある人間が栗栖ベクターなんだ。
彼には一卵性双生児の弟の栗栖ライアン君がいるけれど、こっちの方は完璧で、ステータスはベクターと一緒なのに、イエスが降臨されたのかと錯覚するほどの人格者だった。
同じ一卵性双生児で、中身だけが対極。それが栗栖兄弟さ。
学校でも注目を集めるのは弟のライアンで、癖のある兄貴は窓辺で1人静かに読書をしている。これが日常だった。
栗栖ベクターは孤独を愛してやまない。
友達の誘いはことごとく断るし、会話らしい会話も普段は交わさない。ただ必要な事をボソッと呟く。その程度しか、ベクターの声を聞く機会は無かった。
つまるところ、ベクターは退屈していたんだ。
同級生と話しても価値のある会話など出来ず、教師だってこんな奴がなぜ教鞭をとっているのかと疑問を抱くほどに幼稚なお子ちゃましかいなかった。
つまるところ、ベクターは孤独を愛してやまない。
他者との関わりが心底面倒くさくて、交友を絶っていたんだ。
ちょうどいい影武者もいたし、入学当初こそちやほやしてくるけど、直ぐに相手はベクターの付き合いの悪さに辟易してノリのいいライアンのところに行くのさ。
人の価値観として、こいつは良い奴悪い奴。可愛い奴可愛くない奴とかあるけど、それは単なる自分の都合でしかないんだ。
自分にとって都合が良ければ可愛いし良い奴になるし、悪ければ逆になる。
明らかな失望の色を浮かばせた目で睨む奴や、怪訝に肩を竦めて「行こうぜー」と取り巻きに言って離れて行く奴らをベクターは冷ややかに見下していたんだ。
どうせ今だけの付き合いだし、何よりこんな薄っぺらい小僧とつるんだところで時間の無駄であると。
今を謳歌する少年達が幼稚に映って仕方が無かったんだ。
何故ベクターはこんなに諦観にも似た視点を持つようになったのかは、幼少期に理由があるんだ。
父親は気の弱い人間で、ことあるごとに愛想笑いで人に媚びを売って顔色を伺うような御仁で、物をハッキリと言えないんだ。だから断りきれずに、ずるずると悪い方向へ物事は転がっていった。
小さかったベクターには、何があったのか詳細は分からない。聞いても、教えてなどくれなかった。
気付けば栗栖家は、途方もない額の借金を抱えていた。
首が回らないとはよく言ったもので、父親の頭は本当にお金の事で一杯になっていたんだ。
兄弟は、働いてお金を稼いで両親を助けようと思った。けれども、そんな子供を雇うところなどあるわけもなく、見ている事しか出来なかった。幼心でも、己の無力さを感じた瞬間だったと思う。
だから強くなりたかった。早く大人になりたかった。兄弟は泣きながら当てもなく家を出て歩き回った。
すると、1人の男が話しかけてきたんだ。
「おい坊主たち。どうしたんだ」ってね。
陽に焼けて、眉間に深い皺を刻んだ壮年の男を見て、兄弟は直感した。この人は強いと。
だから骨髄反射のレベルで同時に言ったんだ。
「強くなりたい」と。
すると男は「ついて来い」と言って二人をある場所に案内するんだ。
案内した男は、
見た目は普通の日本人だったんだけど、小さい頃名前が理由でイジメを受けていて、強くなるために武術を始めたって。
同じく白人の子供を見て、自分に重ね合わせたのかは分からないけど、城寺マイケルは無料で栗栖兄弟に武術を叩き込んだ。
空手に柔道。曜日によってクラスが変わるけど、学ぶ意欲の強い栗栖兄弟はもともと持っていたセンスと相まって瞬く間に強くなっていったんだ。
でも、それで借金が消えるわけじゃ無かった。母親は双子の子供を残して忽然と姿を消して、父親は無理心中を図ってきた。
栗栖ベクターが初めて人を殺すのはこの瞬間だ。
半狂乱になった父親が、ライアンを縛っていた。
そして、次にベクターも縛ろうとした。
「一緒に死のう」って泣きながら言って。
ベクターは嫌だった。父親が嫌いだった。こんなに弱い父親を持って、よくも産んでくれたなと思っていた。
ここで死ぬのだけは嫌だった。
抗った。必死に抗った。無我夢中で暴れた。最中の記憶はないけど、ふと気付けば、血の海に沈む父親が居た。手には血塗れの包丁があった。
ここで栗栖ベクターは死んだ。
栗栖ベクターの、人格が死んだ。
おかしな世界に、魂が迷いこんでしまったんだ。
以降、兄弟は施設に預けられるんだけど、兄のベクターは人との接触を拒み、弟のライアンは人と
そして、学年が上がっていき、中学生になり、高校生になった。
ベクターは父親を殺した。一人、既に人を殺している。でも、それは事故で片付いたし、本人としても何ら責任は感じちゃいなかった。だから、人を殺したいがために自衛隊に入隊した。日本に住んでいたベクターが法に触れる事なく人を殺すには、これしか思い浮かばなかったからだ。
弟のライアンは芸能界に入った。コンビニでライアンが表紙の雑誌が現れるのに、そう時間はかからなった。
弟のライアンは、一気にスターへと変貌した。愛想笑いで作る薄い人との繋がりを大事にして、着々と勝ち組になっていった。
そんな中、兄のベクターは少し自由な囚人みたいな環境で一般人では味わえない非日常を体験していくんだ。
早く教えてあげたいけど、それはまた別の機会にしよう。
みんなは、価値のある人生を送れているのかな。
ないのなら、一緒に価値を見出そう。
また会えるといいね。
語り部:
虐殺器官に多大な影響を受けてしまった某氏。
最近思う所もありますし、ひょんな事から天啓も降りて来たのでプロットを書き殴ってみました。
大きく分けて、ベクターがスペクターになるまでの一部と
スペクターとして活躍する二部と
スペクターとしての役割を終える三部ですかね。
憎悪渦巻く戦場で生々しい感情をぶつけられベクターにどういった変化が現れていくのかとか、人生が終わる時にベクター氏が何を思うのかが注目してほしいところですね。
よろしくお願いします。