例えば、スーパーリッチが自室に戻り、電気を点けたら部屋の中で当たり前のように立っていて、当たり前のように銃を突き付けていて、当たり前のように引き金を引いたりする。
そうして、当たり前のように帰っていく。
今度も、6人のスペクター達は微塵の迷いも見せずにドームに接近して行っている。一人が壁に張り付くように近づき、前腕に備え付けられている端末からドームのシステムに侵入しハッチのロックを解除させる。魔法のように扉を開けた彼は部内では
ジャックの
それを確認し、ジャックが
「こちらアイティー。
『了解』
L1はLINE1の事で作戦行程の一段階の事を指す。ドーム内に侵入したことをクールに映画みたいにジャックは決めて、後方で待機する。
その様子を肩越しに見て、相棒となる田中とアイコンタクトを交わす。
田中優一郎。元自衛官のスペクターで、知力、体力共に抜きん出た優秀な男だ。一期下の後輩で直接指導をしていた事もある。田中は、自衛官になりたくて自衛官になった男だ。意外かもしれないが、自衛隊には、いや、軍隊という組織には世界共通で純粋になろうと思って入隊する者は数えるほどしかいない。建前として憧れてとか何とか言うけど実際は数多く受けた就職試験で合格したのが自衛隊だったり、奨学金目当てに軍に入隊したに過ぎない。だから覚悟なんてものは微塵もなくて、厳しい規則に対して不満しか漏らさない。田中は、そういう手合いが大っ嫌いで、例え先輩だろうが何だろうがやる気の無い奴には
だからこそ信頼できる。田中はまるで後を追うように入隊後一年でレンジャー資格を取得したし、更に一年後には陸曹になる試験をパスした。それ以降の活躍は知らないんだけど、気付いたら同じスペクターとなっていて、共に世界を股にかけて戦っているんだ。
サーマルビジョンで付近の敵兵を観測しながら、頭の中で効率の良い排除の仕方を考えて、ハンドシグナルで指示を出す。親指を立てて了承の意を示した田中は、サプレッサー付きのカービンライフルを抱えて音もなく走っていく。
ノーマルビジョンに端末へワンタッチで切り替えて、移動を開始する。
今はドームの壁内にいる。例えるなら、卵の殻の部分だ。建設中のビルを囲む足場みたいに複雑に入り組んだパイプ達が通路になったり階段になっていたりする。そこを巡回している兵士が六人。
それぞれ
見たところ八階層となっている足場で、二、四、六の偶数階を回っている。三階に移動し、四階の内の一人に照準を合わせる。田中は七階に陣取りもう一人の方へ銃口を向けている。
『準備よし』
「やれ」
二人同時に引き金を引くと、狙っていた二人の頭が吹き飛んだ。膝から崩折れ、音を立てて骸が倒れるけれど、その時には階下の二人へそれぞれ攻撃を加えている。
落下しながらナイフを抜き放つ。片方が上を見上げ
田中の方を確認すると、同じようなやり方で脅威を排除したようだ。
もう一度サーマルビジョンに切り替えて周囲に敵兵がいないか確かめる。ノーマルビジョンとソナーでも確認し、アイティーに連絡をする。
「アイティー、こちらスカウト。
『了解』
そうするとアイティー他三名がぞろぞろと入ってきた。その他の三人はアイティーがもう一枚の隔壁を開ける様を退屈そうに眺める。
田中と共に合流し、
第一階層よりは人数が多いが、挙動から素人に毛の生えた程度の練度である事が分かる。時間はかかるが、気づかれる事なく皆殺しにするのは難しい事ではない。小学生相手に柔道をするみたいな感じだ。簡単に襟首を掴み、崩し、投げられる。
田中と無線を使い少し会話をする。ガスマスクの中の声が外に漏れる事はない。
「サイレントか、サプライズか」
この問いに逡巡を見せたがサプライズで行きましょうと返してきた。まるでタバコでも行きましょうと言っているみたいに緊張の欠片もない。こういう田中のドライなところがプロフェッショナルらしい。
スカウトは機動性を重視した装備をしている。コンパクト
対しアサルトは敵の殲滅を主としたポジションで各レンジバランスよく装備を整えている。
自動的に田中は再び駆け出して階上へ向かう。敵の目をかいくぐり、最上階へ。
下からと上から、同時に攻めていく戦法か。頃合いを見計らい一番近くの敵バディに接近する。
『準備よし』
「やるぞ」
予測通りのタイミングで田中は合図となる無線を送ってきた。返事をしながら背後から左側の敵兵の右耳の穴にナイフを突き入れる。切っ先は充分に脳まで届いている。隣の仲間の異変に気付いたのかもう一人の方は立ち止まり目を見開いている。どいつもこいつも、驚いた時は同じ顔をする。そんな事を考えながら白眼を向いている憐れな屍からナイフを抜く。抜きながらもう一人へエルボーを食らわし鼻っ柱をへし折ってやる。
ぐひゃっと豚のような悲鳴を上げる家畜兵の喉笛に一閃。パックリと真紅の一筋が描かれ、すぐに止めどなく血が溢れ出した。顔がすぐに真っ青になり、瞳を裏返らせて倒れるけれど、そんな物は確認せずとも手応えで分かっている。
更に上へ。
ここまで来れば流石の素人と言えど非常事態が発生している事に気付くようだ。新たに発見した敵バディの内一人が無線機を取り出して何処かへ連絡を取ろうとしている。厄介な事は無論嫌なので、とりあえずプレストークボタンを押す前にその敵兵の指を狙い射撃。吹き飛ばしておく。
心の中で安堵のため息を吐きつつ即座に頭にも鉛玉を叩き込む。残る兵士が唐突に死んだバディに驚きながらも即座に弾が飛んできたであろう方向へ向き直る。しかし、それと同時に顔面に一つ穴が穿たれる。
三組を一分とかからず排除した。誰か褒めてくれ。
そう思いながら田中の状態を確認する。
四組目だろう。敵バディの真ん中に降り立つと共にそれぞれにナイフを突き立てる。片方は確実に仕留められたが残る一方は肩に刺さるに留まっていた。敵兵は抵抗を試みようとするも、すぐに足を払われ背中を床に強か打ち付けられると同時に心臓に刃を突き入れられた。
目にも止まらぬ速さでそれをやってのける田中は、何を隠そう自衛隊時代に徒手格闘の全国大会で一位に輝いた男だ。相手が悪かったと言わざるを得ない。
アイティーに連絡をし、誘導する。
「アイティー、こちらスカウト。
『了解』
ぞろぞろと四人のスペクターが
合流し、アイティーが扉を開けるのを待つ。
すると突然、
曰く–––。
「ぞくぞくするじゃねぇか。自動車産業が生まれてからずっとその世界を牽引してきた一族なんだろう。トモタっていうターゲットは。それを粉々に吹き飛ばすんだよ。たまらねぇじゃねぇか。背景が濃ければ濃いほど爆発は美しく艶やかになる」
らしい。
何を言っているのか分からないが、ジョンはゴースト内で
「おいジョン。どうせ暇だろ。何故お前がそこまで爆破にこだわるのか、差し支えなかったら教えろよ」
ん、と緩慢な動作でこちらを見たジョンがガスマスクの下で片眉を吊り上げているのが分かるくらい、こいつとは付き合いが長い。だがゴーストの隊員は互いのプライベートには一切関与しない。部隊としても、注意喚起一つ寄越しやしない。それが暗黙のルールかと思えるほどに今まで立ち入った話はしていなかった。この際だ、聞いてやろう。部隊創設初期からいる兵士に物申す程、こいつらも礼儀知らずでは無いだろう。
爆破ねぇ、と懐かしむようにジョンは続けた。
「俺は知っての通り戦争孤児だったんだ。施設で幼少期を過ごした」
と言うがジョンが孤児だったとは初耳だ。ゴーストの中でも知っているのは上層部くらいだろう。
「んで、教会に行くわけだ。毎週日曜日。 俺が孤児たちの中で最年長だった。当時俺の名前はマイケルだったんだがよ」
聖人マイケルか。実際、ジョンのやつは親からもらった本当の名前を知らないに違いない。今のジョン・パトリックだって、
「マイケル君。ちょっとおいで、つって神父が俺を教会裏に連れていくんだよ。何をしてくれたと思うよ」
首を傾げて、先を促す。他のメンバーは果たして本当に聞いていいものなのかと訝しんでいるのが分かる。何もする事は無いんだ。聞いていろ。
「神父はな、ベリアルにそそのかされたソドムとゴモラの末裔だったんだよ」
ディティールは分かった。要は神父は、ショタコンでゲイの変態野郎って事だ。
「その神父は、孤児院に結構な額の寄付をしてくれていたんだそうな。でもそれは、俺の純潔との等価交換だったわけだ」
なんとも、
よくそんな話を、ジョンは平然と他人事のように言えるな、と思う。実際、それが実話か否かは本人しか分からないが、ここで嘘を吐くメリットなど誰にもない。それにジョンには、そういう小細工をする頭脳に、少し劣る。
「神父の娯楽に付き合って、いくつの時間が過ぎたかねぇ。やっぱりそういう悪事は、暴かれるわけだ。かのフレディ・クルーガーのように」
フレディか。相当昔の映画に出てくる殺人鬼だったな。児童性愛でサディスト。数多くの児童を殺したが、精神異常により無罪となったため、遺族に火炙りにされたという設定だったはずだ。
だいたい読めたな。
「もう俺は耐える必要が無くなったから、仕返しに教会を焼いてやったんだ。神父が中にいる時に出口を全部塞いでな」
教会が燃える様を、天を穿つかのような業火の柱が出来たと例えた。ジョンの口からまさかそんな言葉が聞けるとは、驚きだ。
「そして、ブーンってな。吹っ飛んだんだ。教会が。ガスに引火したのか何なのかは知らんが、俺は悟ったよ。問題ってのは物質として存在していて、粉々に砕く事で解決出来るんだってな」
ほう。問題は物資として存在している、か。新鮮な響きだ。確かに、金や酒、ドラッグ。大抵は人間関係か。嫌いな奴が死ねば、その問題は解決する。いや、消えると言った方が適切か。一つの極論に過ぎないが、人々の思想に触れるのは面白い。人が何故生まれ、何故死ぬのか。その答えを知っている人は、もしかしたらいるのかもしれない。何せ、人の命だけは掃いて捨てる程地球には溢れている。
今度から、遠慮なく人の過去を聞いていこう。発見があるかもしれない。
「しかしなジョン。今回もお前の出番はないだろう。派手にドンパチかます時は、こちらの存在が暴露した時だけだ。それまではスマートに行く」
ゴリ押しは未だゴースト内でもやった記憶はない。そう締めくくるとジョンは寂しそうに肩を竦めた。
しかし今までなかったからといって、今回もそうはならないという保証にはならない。昔流行ったという進撃の巨人という作品では、そういった現実の残酷さが上手く描写されていた。
「安心しろジョン。スカウトがヘマをやらかせば、お前の出番になる」
ふん、とジョンは鼻で笑い–––。
「じゃあ今回も俺の出番は無いわけだ」
と不貞腐れてしまった。デカイ図体をしていながら、こと爆破に関しては繊細な心をお持ちのようだ。
「開きましたよ」
ここでアイティーがそう告げた。タイミングを見計らったかのようだ。いい仕事をする。
「了解。先行する」
だからこれから、スカウトもいい所を見せようと張り切って内部に浸入していった。
※ ※ ※
スペクターとなってからの初任務は、日の丸の射撃から始まった。要は踏み絵だ。半分アメリカの血が流れているとはいえ日本で育った人間なわけで、未練が無いか試されたんだ。
だから示してやった。日の丸のど真ん中にNATO弾をこれでもかと叩き込んだ。愛国心。何んだそれ。もともと、日本のためなんかに自衛官になったわけじゃ無い。人が殺したかったんだ。ただそれだけ。
レオン・モンタークっていう野郎は、穴の開いた日の丸を見て少し驚いた様だった。彼はドイツ人で、同じく国旗を撃たされたんだけど、隣の奴が迷う事なく撃ち抜いたものだから焦って引き金を引いたんだ。元GSG-9。ビールをこよなく愛する陽気なジャーマンなんだけど、特殊部隊員ともなれば愛国心は人一倍強い。並の隊員より過酷な訓練をこなしてハードなミッションに挑むのは、ひとえに国のためだからだ。命を捧げた国の象徴を傷つける。ひいては、過去の自分を否定する事にもなる。
このレオンって奴はゴースト内で今は
でもそのレオンがまだ
アメリカがそもそもゴーストを創設した理由だけど、国力を上回る財力を築いてしまったスーパーリッチから主導権を取り返す事にある。いろんな角度から攻めるけれど、ゴーストは荒事担当というわけだ。
新進気鋭のスーパーリッチが磐石の布陣を築くためにある商談を行った。アメリカの議員も力を無くして路頭に迷うからそれを拾おうとするんだ。有力なパイプを持つある議員を引き抜こうとそのスーパーリッチは画策したわけだけど、そのパイプを持つ議員が金持ちの陣営に加わるとスーパーリッチ連盟が出来てしまう恐れがあった。そうなれば、アメリカの威信は地に堕ちる。挽回不可能のゲームオーバーとなるらしいんだ。
難しい話は分からない。アメリカのパワーバランスなんか興味なかった。ただ人が殺したかったんだ。この手で、殺意を持って。
スペクターになる前の訓練で実戦の経験はある。でも万事上手く回ってこの手で人を殺す事は、とうとうなかった。
だからワクワクした。政治家の寝首を掻っ切る時は心臓が口から出そうなくらい高鳴った。高揚感に、体が空に飛んで行きそうだった。
この手で、このナイフで、この政治家の命を終わらせる。この政治家は、自分の未来が安定する事を約束されて安心していたんだろう。妻や愛人や子供に美味い飯でも振る舞っただろうか。枕元に高級ブランデーが空で置いてあって、ニヤついた寝顔をした死人予約者。
想像しただろうか。暗殺されることなんて。想像しただろうか。殺人童貞に殺されることなんて。想像しただろうか。明日の光が、永遠に断たれることを。
色々考えた。これを殺したら、妻だか愛人だかはどう思うだろう。子供は。兄弟は。従兄弟は。親戚は。行きつけのバーのマスターや可愛がられている後輩の政治家達は。
だが所詮は、他人事だ。
みんなが平和に笑っている時も、何処かでは人が死んでるし殺されていた。それに立ち会うか手を下すかの違いは、さして無いものだと思う。
言ってしまえば、これも日常だ。
どこかでは人が産まれてるだろうし、逆に死んでいる。
果たして、命を殺めるのは罪か。神は本当に居て、地獄もあって、殺人を犯したものはそれを償わなければならないのか。それは、捏造だろう。知恵を得た人類は群れを統率する手段として信仰を作ったんだとある学者は言っている。地獄の絵には、動物が描かれない。ならば動物は、死んだら魂はどこへ行くのか。人間の体に取り込まれ、排泄される事が成仏だとすれば、とても可哀想だ。産まれた意味は、ただ人間を養うため。という事になる。
人間の脳の皺の中に、地獄はある。地獄は、人間の妄想に過ぎない。神も天使も、戯言だ。
この世に救いなど無い。救いがあるのだとすれば、この政治家を、この手から、このナイフから、救ってみせろ。
そうやって少しだけ待ってやったけど、結局何も起きなかった。突然政治家が起きるわけでもなく、誰かが部屋に入って来るでもなく、地震も起こらない。
残念だったね。そう呟いて顎下から脳天めがけて刃を突き入れたんだ。顔に微笑を貼り付けたまま、政治家は死んだ。死に顔が笑顔だなんて、素敵じゃないか。棺桶の中に花をたくさん敷いてやれば、天国で健やかに暮らす様が想像出来るだろう。想像に過ぎないだろうがね。
そういえば、銃よりも、ナイフの方で人を殺した方が多いな。スカウトなわけだから、バレるまではサイレントを守る。結構上手くいくから、銃を使う事は少ない。
音もなくターゲットに近づき、音もなく殺し、音もなく帰る。形跡も残さずに。
そんなこんなでスカウトはゴースト内では重宝するようでデカイ顔が出来るようになった。
いい職場だ。この一言に尽きる。
てっきりリア充の仲間入りして、
さぁて今回もここまで。
付き合ってくれてありがとう。
眠いからね。疲れてるんだ。
また頼むよ。
語り部:
第三話を出させてもらいました。
ゴーストの全容が徐々に見えてきたんではないでしょうか。
アサルト、タクティカル、アイティー、ヘヴィー、スカウト、メカニック。あとここに、メディックが居ます。
ベクター君がこれからはそれぞれの過去について聞いて回るようなので、どんな闇を抱えた隊員がいるのか楽しみですね。
ベクター君の求めている答えがあればいいです。
懲りずにお付き合い頂ければ幸いです。
ちなみに、友人から言われたんですが、別に仮面ライダーが好きなわけじゃないです。007も見てません。
パクリじゃ、ありません(=゚ω゚)ノ