麻雀天使堕天計画 作:クラリス
古城に連れて来られて三日目、散々な目に遭った清水谷竜華であったが、そこから持ち直していた。情報収集にクレジットをつぎ込み、当初は生活もぎりぎりの綱渡りであったが、今は充分な黒字収支が続いている。
それも全て、
(うちがすぐに助けたげるからな……)
想い人への、ひたむきなまでの献身があってのこと。時に男達のオナペットにもなりながら、あらゆる試練を彼女は乗り越えていた。聞けば、既に処女を散らされ男達に弄ばれている少女もいるという。いつ同じ立場に立たされてもおかしくない。時間はあるようでないのだ。
加えて、今日はまた懸念材料があった。
案内者に誘われて、対局室に向かう。いつもならクレジットを渡せば対局ルールを教えてくれる彼らだが、今回はその賄賂が通じなかった。こういう日は、特に注意を払わねばならないと竜華は経験的に知っていた。
対局室の扉が、開かれる。
既に卓についているのは、いつものように竜華よりも一回りも二回りも年齢が上と思われる中年男性ばかり。
ただ、一人だけ見覚えのある顔があった。丁度対面に座っている、スーツ姿の男。筋骨隆々とした肉体に、ごつごつとした岩のような顔。
「あ、あんたは……! 松谷っ?」
「久しぶりだな、清水谷。先生を呼び捨てとは感心しないな」
「だ、誰があんたなんかを!」
彼は、かつて千里山女子で体育教師を務めていた男だった。しかし、女生徒へのセクハラ問題で、クビになったのだ。竜華も体育の授業の度いやらしい目で見られていたのを自覚していた。親友の怜も、介護にかこつけて体を触られた事があるとぼやいていた。
いずれにせよ、嫌悪感しか覚えない相手――そんな男と、まさかこんなところで再会することになるとは思わなかった。
「お前のおかげで無職になっちまったんだ。あの時のお礼、たっぷりとしてやるからな」
「……あんたが悪いんやろっ……!」
何を隠そう、松谷のセクハラ問題を告発したのは竜華だった。多くの女子生徒の証言と証拠を集め、学校に直訴したのだ。最後に会ったときの、血走った松谷の目を竜華ははっきりと覚えている。
「大体、なんであんたがこんなところにおるん」
「そりゃあ企業秘密さ。まぁ、お前の相手としちゃ丁度良いだろう。――ほら、さっさと卓につけ。今日のルールを説明してやる」
ここで退くという選択肢は、竜華にない。本来ならこんな男と同卓するのさえ嫌悪感を覚えたが、今は従う他なかった。
「ルールと言ってもシンプルなものだ。今日は、親が変わる度にお前にダーツを投げて貰う」
「ダーツ……?」
「そうだ。……もってこい」
松谷の命令で、監視員の男が部屋の奥から、文字通り円形のダーツボードを持ってくる。ただし、点数が書かれた競技用のそれではない。真っ白なそれはゾーンが十六分割され、何やら文字が書き込まれている。
「ダーツで刺さった部分の罰ゲームを、お前には受けて貰う。だが安心しろ。全てが全て罰ゲームというわけではない。『クリア』と書かれている場所にダーツを当てれば30万クレジットをプレゼントして、罰ゲームもなしだ」
「30万……!」
「また、中央に当てたら100万クレジット進呈するぜ。お前にとっても悪い話ばかりじゃないだろう」
「……どうせつまらん罰ゲームさせるんやろ」
「いやいや、とても楽しい罰ゲームさ」
くつくつと松谷が笑う。ちら、と遠く離れたダーツボードを見るが竜華の視力では全て読み取れなかった。だが、性的な罰ゲームをさせられるのは確かだった。やはりこれも、どのみち拒否は出来ない。すぅ、と息を吸い込み、竜華は訊ねた。
「外したら、どうなるんや」
「良い質問だ。お前がダーツを外す度、ダーツボードの中身が変わる。当然、罰ゲームの内容と面積が大きい奴に変えさせて貰うぜ。当たるまで投げて貰うからな。それから、半荘を終える度にもダーツボードは変えさせて貰う」
「……分かったわ」
ダーツなど、少し遊んだ程度の経験しかない。だが、そんな弱みを見せる必要もない。あえて堂々と振る舞う。そうしなければ、麻雀でさえ危うくなるのをこれまでに竜華は思い知らされていた。
「じゃあ、始めようか」
松谷の宣言により、対局が始まる。
もしかすると松谷はかなりの打ち手ではないのか、と危惧したが、これまでの相手とそう大差ないレベルであった。他の二人も同様。あっという間に竜華は出親の連荘を重ねる。
(このまま飛ばしたる……!)
と竜華は決意するが、
「言っておくがな、清水谷。今日の俺達は小遣い一杯貰っててなぁ。クレジットで、500万持ってるんだわ」
「は、はぁっ? なんやそれっ?」
「飛ばすにはちょっと時間かかるかもな。――お、ツモだ」
いくら竜華でも、三対一の状況で連荘し続けられるわけがない。安手で上がられ、親が蹴られてしまう。――親が、変わる。よって、
「さぁ、ダーツを投げて貰うぜ」
「う……」
渡されたダーツを手に取り、竜華は一瞬顔を歪ませる。だが、意を決して立ち上がる。
244センチ先のダーツボードが、監視員の手によって固定される。かつて親友のセーラから教わった投擲方法を思いだし、中央めがけて放り投げる。かつん、とダーツはボードへと突き刺さった。
ここでやったとは喜べない。松谷達がボードを確認するまで、竜華の豊満な胸の下では心臓がうるさいほど高鳴っていた。
「……クリアだな、やるじゃないか」
「……!」
ぎゅっと、拳を握っていた。渡される30万クレジット。
(この調子でいけばっ)
早い段階での京太郎救出も夢では無い。卓に着き直し、機嫌良く竜華は牌を握る。
一方で、松谷達にも余裕があった。
「ロン!」
竜華に和了されても、潤沢なクレジットの前には気にしない。むしろわざと振り込むかのようであった。
二回目のダーツ。先ほどと同じ感覚で、ダーツを投げた。やはり今回も、ボードに突き刺さる。――が。
「罰ゲームだぞ、清水谷」
「なっ」
松谷が告げるのは、残酷な宣言。
「だが、軽いものだ。手コキしてもらうぜ」
「手こ……や、何しとるんやっ!」
松谷がズボンを降ろし、その太い逸物を晒す。思わず目を白黒させる竜華だったが、逃げ場はない。
「今時の女子高生だ、手コキの意味くらい知らんわけがないだろう」
「うぅ……」
「ほら、早く来い。来ないならこちらからいくぞ」
ずずい、とペニスを竜華へと突き出す松谷。ちゃんと洗っているのかと疑いたくなる精臭に、竜華は顔をしかめた。これまでも罰ゲームで性的なさらし者にされてきたが、自分から触れという命令は初めてである。しかも、この嫌悪しか浮かばない相手となると竜華の拒絶感は途方もなく強かった。
「どうした、早くやれ。やらなければ、彼がどうなるか分かってるんだろうな」
「……こ、の……!」
「跪け」
最低な脅迫に、竜華は屈さざるを得ない。言われたとおり、松谷の前に膝をついて、その白い手をペニスへと伸ばす。怜と一緒に読んだ雑誌の記事や、盗み見した父親のアダルトビデオの映像を思い出し、松谷の逸物を扱き始める。
「はっ、良いぞ、清水谷っ……! あの清水谷が俺のち○ぽを扱いてるなんて、夢みたいだぜ……!」
「うぅぅっ」
竜華に奉仕させ喜ぶ松谷であったが、躊躇いがちの手では達するにはいたらない。
「もっと速く手を動かせ」
「こ、こう……?」
竜華としても、この地獄を早く終わらせたかった。命令されるとおりに、しゅっしゅっと手コキのペースを上げていく。
「はぁっ、やはり女子高生にやらせるのは気分が良いな、おら、イクぞっ」
「えっ――いやぁっ」
ぶるぶると松谷のペニスが震えたかと思うと、白濁液が飛び出してくる。竜華は思わず後退るが、手と髪の一部についてしまった。
「な、何するんや! く、くさぁ……」
「その内好きになる」
「阿呆言うなっ」
ティッシュ――このティッシュでもクレジット代がバカにならない――で拭き取り、竜華は逃げるように卓につく。
「つ、次や」
「その威勢の良さ、嫌いじゃ無いぞ」
こんな男に褒められたところで嬉しくともなんともなかった。とにかく、くだらない罰ゲームをさせられるというのなら、稼げるだけ稼いでやるつもりだった。
「ツモや!」
「よーし、またダーツだな」
点数申告さえ聞かず、男達は立ち上がる。麻雀を愚弄したかのような態度に、竜華は苛立ちを覚えた。
三度、ダーツと睨み合う。いつものように投擲したつもりだったが、
「あっ――」
危うく、外れかけた。ぎりぎり端に突き刺さり、竜華はほっと一安心する。
(あかん、これ……)
肝心の麻雀で、心を乱されてしまっている。純粋な実力では敵わないと踏んで、心理戦に持ち込まれているのだ。そして、この罰ゲームダーツで失敗を誘おうという腹だ。気を引き締めなおさなければならない。
「っとぉ、運が良いなぁ清水谷。またクリアだ」
ほぅっと、一安心する竜華。
だが、次の東四局。松谷から倍満を直撃するも、彼はにやにやと笑うだけ。抑えようと思っても、苛立ちは隠せない。
(さっきと、同じように……!)
狙いに向けて、放るダーツ。しか
し、
「あっ」
「おーっと、惜しいな、外れだ」
ついに外してしまう。元々経験の少ない竜華が、当て続ける方が無理というもの。男達に煽られて、ここまで手元が狂わなかったのが不思議なくらいだった。
ダーツボードが新しいものに入れ替わる。明らかに、「クリア」の面積は減っていた。
落ち着け、と自分に言い聞かせ、もう一度竜華はダーツを投げる。今度は的中。――しかし、クリアはならず。松谷が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「罰ゲームは……早着替えだな」
「早着替え……?」
内容の予想がつかない。竜華が戸惑っている内に、監視員達ががらがらとキャスターを引き摺りある物体を持ってきた。
それは、四方を白いカーテンに囲まれた簡易脱衣所だった。丁度、竜華の身長に合わせて作られているようで、ぎりぎり頭頂部と足元だけが見える構成になっている。
「ここで、三十秒以内に俺達の指定する服に着替えて貰う。三十秒後にはカーテンを全部開く。その時点で全部着替えていられなくても、その状態で対局を続けて貰うからな。後、全く着替えてなかったらカーテンなしで着替えて貰うぜ」
「……悪趣味にも程があるやろ」
この城に来てから、何度目か分からない悪態を吐く竜華。しかし松谷は一層楽しく笑うだけ。
「生着替えにしてやらなかった分、有り難く思えよ。――既に中に着替えは用意してる。入った瞬間、カウントを始めるぞ。準備は良いか、清水谷」
「ふん」
松谷とまともに会話をするのも嫌だった竜華は、白いカーテンに指をかける。すぅ、と深呼吸してから、竜華は脱衣所へと入った。
中には小さな机が一つ。その上に置かれていたのは――今竜華が着ている、千里山の制服であった。眉を潜めるが、時間がない。とにかく竜華はそれを手に取り広げた。
「――なんや、これ……!」
一目でその制服のおかしさに気付いた竜華だったが、
「あと二十秒だぞーっ!」
体育の授業を思い起こさせる松谷の声に急かされて、躊躇うわけにはいかなかった。スカートを降ろし、セーラー服を脱ぎ捨てる。微妙にサイズも小さい新たな制服は着づらく、想像以上に手間取った。カーテン一枚向こうで男達がこちらを見ている、という精神的圧力もまた竜華の指を震わせた。
「時間だ!」
「くっ……」
ぎりぎりで竜華が着替え終えたのと同時、カーテンが開かれる。
形状は名門千里山女子の制服。だが、どういう素材か、元は白い部分全てが絹のように薄い。ほとんどシースルー状態で、竜華の柔肌と白いブラが透けて見える。さらにはスカートもおかしい。元々竜華はミニスカートの部類に入るが、それを上回る超ミニである。どう引き下げようとも、パンツを隠しきれない。脱衣麻雀で脱がされた時よりも、ある意味恥ずかしかった。
「良い格好だなぁ、清水谷」
「み、見やんといて……」
「アホか。折角お前のために用意したんだ。くくく、こんなもん学校でも見られなかったからなぁ。眼福だ」
「……!」
右手でスカートを抑え、左手で胸元を隠しながら竜華は卓につく。松谷の言葉など、耳に入れるだけで不快だった。
南場になり、竜華の親。ここで稼ぎまくる。そう決めていたはずが、男達の好奇の視線に晒されて竜華は集中できずにいた。
「可愛いブラをしてるじゃないか」「パンツ丸見えだぜ」「恥ずかしくないのかね」「最近の若い娘はこれだから」
牌をツモる指が、震える。これが男達の常套手段だと、竜華は理解していた。だが、問題なく対応できるかは話が別だった。
(あ――しまった!)
牌を切る順序を間違えたことに、後になって竜華は気付く。とっくに和了っていたはずで、本来の竜華が見逃すはずも無いが、集中力の欠けた今の彼女にはできなかった。
「おっとぉ、悪いな清水谷。ツモだ」
「えっ」
その隙に、松谷が和了してしまう。ここからでも軌道修正できる範囲であったが、不運が重なった。
「親が流れて――さぁ、ダーツだ。早く立て」
「わ、わかっとるわ」
麻雀を打つときは身を縮こませていれば良かったが、ダーツのときはそうはいかない。構える時に、どうしてもその姿を晒してしまう。
「パンモロだ、パンモロ」「竜華ちゃん、がんばってー。すっげぇブラ紐エロいよぉ」「あの尻にむしゃぶりつきてぇよなぁ」
指が震え、息が荒くなる。目を瞑りたくなる衝動に必死に耐え、竜華はダーツを放った。
この状態で、ボードに当たったのは奇跡と言えよう。だが、狙いの「クリア」へと当たるわけもなかった。
「罰ゲームは――強制脱衣だ」
「は、はぁっ? なんやそれっ?」
「俺が一枚、お前の着ている服を脱がせる」
「や、いやぁっ」
ずい、と松谷が竜華へと詰め寄る。悲鳴を無視し、彼女の体を抱きすくめると、背後からシースルーセーラーの中にごつごつとした手を突っ込んだ。
「このブラを頂くぜ」
「や、やめ――」
その太い指とは思えない器用さで、松谷はブラのホックを外す。さらりと抜き取ると、竜華のブラを自らのポケットに突っ込んだ。異常なまでの嫌悪感で、竜華は鳥肌を立たせた。
「か、返して……!」
「こいつはもう俺のもんだ。そういうルールなんだよ」
胸元を隠しながら竜華は懇願するも、松谷は一蹴する。――あの、自分を失脚させた清水谷竜華が自らに請い願っている。黒い欲望を満たしながら、松谷は鬼畜が作る笑顔を見せた。
「さぁ、次だ」
「こ、のぉっ……!」
怒りに任せて、竜華は卓に着く。男達の纏わり付く視線が、どうしようもなく気持ち悪い。一度脱衣麻雀で味わった屈辱を思い出させられ、ますます竜華の頭は混乱する。おそらくそこも、男達の狙いなのだろう。
「……つ、ツモ!」
それでも麻雀ではリカバリーするのは、流石全国ナンバー2の学校で大将を務めただけのことはあった。
「よし!」
「ちっ」
さらにはここで、竜華はダーツを成功させる。流れは確実に竜華に傾いていた。南三局もロン和了し、連続でダーツもクリアする。この日だけで、100万以上のクレジットを荒稼ぎしていた。
そして迎えるオーラス。ここも、竜華は早和了かつ高得点の手を決める。もう、姿格好に拘らずダーツへと集中する。
が、そんな彼女へと松谷は声を掛けてきた。
「清水谷」
「な、なんや。今集中しとるんや」
「園城寺の行方を、知りたくはないか」
「――っ!」
聞き捨てならない台詞だった。彼女もまた、この古城に連れ去られたことについては予想がついていた。だが、どうしても情報が掴めなかったのだ。
「その一投、外せばどこにいるか教えてやらんでもない」
「ほ、ほんまに? ほんまに怜が、ここにおるん?」
「ああ。嘘じゃねぇ。あいつも生意気だったからな、俺が調教してやろうと思ってるんだ」
こいつ、と竜華は掴み掛かりたくなる衝動を抑えた。園城寺怜は、竜華にとって親友であると同時に恋敵。負けたくない相手――だが、幼い頃よりの付き合いは、恋だけでねじ曲げられるものではない。庇護すべき対象なのだ。
「……分かったわ」
竜華は、明後日の方向にダーツを投げる。松谷はにやりと笑い、新たなダーツボードを用意させる。その間、松谷は竜華に語りかけた。
「園城寺については、今日の対局が終わってから教えてやるよ。今は麻雀に集中しとけ」
「……あんたに言われんでもそうするわ」
この男が素直に約束を守るか分からなかったが、今は従うしか無い。
新しいボードは、十六分割された内二面しか「クリア」がなかった。最初は半分がクリアだったことを思えば、難易度は格段にアップしている。さらに罰ゲームの部分は、シールで伏せられていた。
「ここからは、罰ゲームは当たってからのお楽しみだ♪」
「……ほんっま、最低な男やな」
「最低で結構だ。お前がそうやって恥ずかしがる様を見られるんだからな」
松谷の挑発を無視し、竜華はダーツに集中する。当てて良いのは、2/16と中心のみ。祈るようにダーツを投げ――しかし、無情にもシールが貼られた場所に突き刺さる。
「うぅ……」
「残念だったな、清水谷。罰ゲームは――おおう、中々に悪運が強いじゃないか」
シールが剥ぎ取られた先に書かれていた文字は、「早着替え」。先ほどと同じ罰ゲームだった。ほっと、一息吐く。今も酷い格好なのだ。松谷の言うとおり、悪運があったと言えよう。
監視員が、松谷の命令で簡易脱衣所に新たな服を持ち込んでいく。包みに隠されていて、この時点では竜華には中身が何か分からなかった。
「時間制限は先ほどと同じ三十秒だ、いけ」
「言われへんでも」
竜華は脱衣所に飛び込む。机の上に置かれていたのは、白いビキニ水着だった。眉を潜めるが、迷っている時間はない。シースルーセーラーと超ミニのスカート、それから下着を脱ぎ捨てて、水着へと着替える。何か仕掛けられているかと訝しむが、着替えてみたところ何の変哲も無い水着であった。
カーテンが開かれる。今回は、余裕をもって着替え終えられた。ゲスな男達に露出の高い格好を見せるのは甚だ不本意であったが、水着と思えばまだ耐えられる。
「では、次の半荘だ。――おい、ダーツボードを変えろ」
たった一回で、ボードは役目を終える。今度現れたのは、十六分割された内「クリア」は僅か一面の、高難易度のダーツボードだった。回りくどいやり方ながらも、確実に竜華を追い込む策のようだった。
次なる半荘、出親は松谷。蹴り飛ばすだけなら容易。問題は、その先にあるダーツゲーム。躊躇いを覚えないわけではない。だが、彼と怜の顔を思い浮かべれば――戦わないわけにはいかなかった。
「ツモや!」
「威勢が良いなぁ、清水谷。お前のダーツの腕で、狙えるのか?」
「ふん」
鼻を鳴らし、竜華はボードの前に立つ。先ほどと比べて胸を隠さない分、まだやりやすかった。
けれども結果は惜しくも、クリアから僅か数ミリの差で外れてしまう。
「大分狙い撃てるようになったみたいだが、おしかったな」
「……ふん」
松谷の言葉は無視する。肩を竦めて、松谷はボードのシールを剥がした。
「っとぉ、これはまた面白いな」
「今度は、何をさせるんや」
「キスをしろ」
「……は?」
「お前から、俺にキスをするんだ」
かあああ、と竜華の頭に血が上る。そんな屈辱的な真似、できるはずがない。想い人でもない、ましてや最低の部類の人間にキスをするなど。それに、
「ファーストキス、なんだろうなぁ」
「……う、うるさいわ!」
真っ向から否定すれば良いものを、半端に声を荒げるからまた男達に煽られてしまう。純朴な乙女には、辛い仕打ちだった。
さらに松谷は、一枚の紙面を竜華に押し付ける。
「この口上を読み上げてから、やれ」
受け取った紙に目を通し、竜華はぎろりと松谷を睨み付ける。
「…………最低や最低やと思てたけど、ここまでとは思わんかったわ」
「そんな言葉は認めていないぞ、清水谷。ほら、彼らを助けたいんだろう?」
ぎゅうっと、紙を握りしめ、肩を震わせ、竜華は迷いを見せ、しかし最後には覚悟を決める。
「――松谷、先生」
「おう、なんだよ」
二度とこの男に対して使うと思わなかったその尊称をつけ、名前を呼ぶ。
「わ、私の身勝手な行動で、松谷先生を退職に追い込んで、大変申し訳ありませんでした……! 間違っていたのは、私です……松谷先生は、正しい指導をしておられました……っ」
心にも無いことを言わされ、悔しさに竜華は胸を震わせる。
「お詫びに、うちの、き、キスで、松谷先生を慰めさせて下さい……っ」
「おう、いつでも来い」
鷹揚に松谷が頷き、竜華は一歩、前に歩み寄る。水着姿のまま、元体育教師を見上げた。黙っていればそれなりに見られる面をしているというのに、教え子を性欲の対象と見る醜悪さは隠しようもない。
「さぁ」
「うぅっ」
晒した肩を、ごつい手で掴まれて竜華は逃げられなくなった。つま先立ちになり、既に頭を下げていた松谷へと唇を突き出す。他の男達の目線は、もう気にしていられない。
(ごめん、ほんまごめんな、京太郎……!)
想い人に心の中で謝り。ちゅ、と微かに触れ合うキスがなされた。ぞわぞわぞわ、と竜華の背筋に悪寒が走る。しかし、松谷はそれだけで済まさなかった。
「ん――っ!」
狙い澄ましたかのように松谷から唇を押し付けられる。思わず絶叫が漏れ出そうになるが、口を塞がれて音にならない。
「あくっ、やめっ、むちゅうっ」
松谷を押し退けようにも、彼の力は竜華の遙か上を行く。水着で元体育教師に迫るという背徳感ある光景に、松谷自身も興奮していた。
「うぅっ、やぅ、じゅるぅっ」
舌を使い、松谷は竜華の口内を自らのものにしていく。がっしりと腕で頭を固定され、竜華に逃げ場はなかった。臭すぎる煙草の臭い。松谷の唾液が口の中に擦り込まれていく。地獄のような時間は、十分も続いた。
「――ごほっ、かふっ、はぅっ」
ようやく口が離されると、堪らず竜華はその場に崩れ落ちた。乱れた髪から覗く白いうなじに、松谷はにやりと笑う。
二回目の半荘は、まだ始まったばかりだった。
とりあえず竜華セカンドシーズン。彼女はゆっくり攻略していきたい。
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