麻雀天使堕天計画 作:クラリス
謎の古城に連れて来られて二日、竜華は順調にクレジットを稼いでいた。古城での生活料金と想い人を救い出すのにクレジットを分割支払いしても、なおまだ黒字収支だ。
提示されたこの賭け麻雀、クレジットは条件付きで借り受けることができる。だがその利子率は高く、負債額が百万クレジットを超えると強制的に「麻雀と別の方法」で返済を命じられるのだ。内容は語られなかったが、想像に難くない。
日々の支払いを考えれば、どれだけクレジットがあっても困りはしない。手持ちの額が大きければ大きいほど戦略的にもメンタル的にも戦いやすくなるのだから。
この城に連れて来られているという、他の仲間とはまだ会えていない。きっと、親友も来ているはずだと竜華は確信している。
(気にしすぎてもあかんな)
今日も戦いが始まる。この好調を保たねばならない。ただ、思った以上に罠らしい罠も見当たらない。イカサマでもやってくるかと注意を払っていたが、そんな気配もなかった。あるいは自分の強さが相手の想定を越えていたか。決して楽観視してはいけないが、その可能性だってある。
対局室への案内人に着いていきながら、思考を巡らせる竜華。
ふと、これまでずっと黙っていた案内人が声を発した。
「本日の対局は、対局室に10000クレジットまでしか持ち込めません」
「は?」
寝耳に水の情報に、竜華は困惑の声を上げる。
「10000クレジット全てを失った場合、対局者よりペナルティから課せられますのでご注意下さい」
「聞いてないで、そんなん!」
「言っていませんでしたからね」
けろりと案内人は言う。竜華は肩を戦慄かせ、怒りをぶちまけようとするが、
「初日に情報を手に入れるのに代償が必要でしたでしょう? そのことを考えれば、予想できたはずですよ」
「どこで情報聞けるかも知らへんのにっ……!」
「それもまた、代償を支払わなかった貴女が悪いのです」
ぐっと、竜華は自分を抑える。ここで論争したところで、ルールはひっくり返らないだろう。確かに手がかりはあったのだ。聞かなかった自分の落ち度でもある。問題は、この調子なら相手はいくらでもルールを変更してくるところにある。それを把握するために、支出はどんどん増えるだろう。
とにかく、今はこの対局を乗り切らねばならない。
対局者は、毎日変わるようだった。今日の対戦相手は、痩せぎすの男と、対照的にでっぷり太った男、それから筋者めいた容貌の、サングラスをかけた男。全員竜華を値踏みするような目付きを隠そうとせず、やはり嫌悪感しか感じない。
「調子乗ってるみたいだな、お嬢さん」
太った男が、席に着く竜華に声を掛けてきた。しかし、竜華は無視をした。前二日も、最低限の会話しか竜華は交わしていなかった。
しかし構わず、男は告げる。
「今日はクレジット制限あるみたいだけど、俺たちは大量に持ってるからな。いくらでもむしってくれても良いぜ」
それはどうも、と竜華は心の中だけで答えた。その態度に気にする様子はなく、痩せぎすの男が言葉を引き継いだ。
「クレジットが足りなくなったら、無利子で貸して差し上げますよ。もちろん、条件付きですが」
「条件って、なんなん?」
そこだけは訊ねなければならず、竜華は口を開いた。
「教えて欲しければ、5000クレジット払って貰います」
「……」
「もしくは、そうですねぇ。私たち全員に、熱いキスでもしてもらいましょうか」
下らない要求だった。どちらも応じることなどできない。たった5000点ぽっちでは、まともに戦えない。
「始めよか」
「勇気のあるお嬢さんだ」
かくして、対局は始まった。
東発は、竜華の早上がりが決まった。ただ、稼いだのはたったの1000点(=1000クレジット)。安全圏にはほど遠い。
だが、手応えは感じていた。昨日までの相手と大差はない。これならば全力を使うまでもないだろう、そう予測した、が。
「ツモです」
痩せぎすの男が、和了してしまった。
「裏が乗って、3000・6000です」
「う……」
この親被りは、痛い。半分以上持って行かれた。ここはもう危ない橋を渡れない。振り込まず、逃げ続けてこの対局を切り上げることしか頭になかった。なのに、そんな竜華の思考を読んだかのように痩せぎすの男は冷酷に告げる。
「そうそう。昨日までは貴女が半荘の回数を決められたみたいですが、今日はきっちり半荘五回打って貰いますよ」
次から次へと出てくる後出しルールに、竜華は唖然とする。序盤に一度道を踏み外せば、そこからは嬲られる未来が見えていた。
(こんな奴らに、負けへん!)
それでも気力が削がれなかったのは、インハイ出場経験者と言えよう。単純な力量なら、女子と男子では大きな隔たりがある。
しかし、彼女は気付いていなかった。焦り、戸惑い、挑発的な態度。全てが竜華の判断を狂わせる要素であったことを。さらに潜まされていた大きな罠を。そのこと自体に気付いていないのが、最大の彼女の敗着と言えよう。
「ロン」
「えっ」
普段の彼女ならば、決して見逃していなかっただろうその待ち。それに、あっさりと振り込んでしまった。
「チッチーです。飛びですね、お嬢さん」
東三局で、あっさりと勝負は決まってしまった。クレジットを失った竜華は、ペナルティを払わねばならない。
それが嫌なら――
「私たちからクレジットを借りて、勝負続行しますか?」
竜華は歯噛みする。ペナルティの詳細は明らかに為れていないが、生半可なものではないと理解している。クレジットを借りる条件もまた不透明だったが、最終的に竜華は、
「……貸して、下さい」
頭を下げた。
負けたままでは、引き下がれない。雀士としての矜持が、彼女を勝負に繋ぎ止めた。正しい選択だったかどうかは、彼女には分からなかった。
「条件を聞けば、後には引けませんよ?」
念押ししてくる痩せぎすの男に、唇を震わせながら竜華は頷いた。
「一度に貸し出せるのは持ち込み制限と同様、10000クレジットまでです。そして、担保として――そうですねぇ、まずは貴女の下着を頂きましょうか」
ぎゅっと、竜華は拳を作った。そんな目的だというのは、分かっていた。だがここまで露骨だと、冷静さよりも苛立ちが勝る。
しかし、応じた以上は翻せない。ここで抵抗すれば、危険なのは彼なのだ。
黙ったまま、竜華は一旦部屋を出て行こうとする。
「お待ちなさい。どこに行こうというのです」
「そ、そんなん脱ぐために決まってるやん……って何言わせるんや!」
「文句を言いたいのは私達のほうです。勘違いしないで下さい、対局が終わるまでは部屋を出てはならない。このルールは、最初に提示されていたはずですよ」
「……あんた、まさか」
「ここで脱いで下さい。堂々と、正直にね」
男達のにやにや笑いが、深まる。
(最ッ低やこいつら……!)
しかし、その文句を竜華は口にできない。名門女子校・千里山のセーラー服の内側に、竜華はその手を入れる。できる限りめくり上がらないように気を付けながら、慎重にブラのホックを外した。圧迫感は失われ、注がれる視線から胸部を左手で隠す。
続けて、ミニスカートの中に竜華は指を差し込む。妙な恥じらいを見せればこいつらを喜ばせるだけ、と一気に下着を下ろした。スカートを抑えながら、足を上げ、完全に脱ぎ去る。
「持ってきて下さい」
「……」
竜華が差し出す上下の下着を、痩せぎすの男は遠慮無く掴み取った。代わりに、点棒を卓に放り投げる。
こんな惨めな思いをするのは、初めてだった。彼にだって、こんな姿を見せたことは無い。
「さぁ、続けましょうか」
男は、容赦なく続行を宣言する。この対局は、まだ入口に差し掛かったばかりだった。
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