麻雀天使堕天計画 作:クラリス
有珠山高校三年、桧森誓子は所在なさげにベッドに腰を降ろしていた。部屋の外では強い雨が窓を叩き、風が吹き荒んでいた。木々の揺れる音が、彼女の不安を駆り立てる。肩程までに伸ばされた金髪の艶は保たれているが、顔色は良くない。
この古城に連れて来られて、早一週間。誓子は愛する少年を救うため、ひたすら麻雀勝負に取り組んでいた。己の雀力は人並みよりも多少上であると自負しているものの、上には上がいることも彼女はよく知っていた。この夏出場したインターハイで、それを思い知らされた。悔しくはあったが、当時はそこまで深刻に受け止めなかった。
しかし今は、麻雀が全てだ。ここまでかろうじてプラス収支で凌いできたが、今日も上手くいくという保証はない。不安がるのも当然であった。
勿論、悩んでばかりもいられない。選択肢は、麻雀を打つしかないのだ。彼を救うには、それしかない。後輩には負けるものの、女性らしいラインを描く自らの肉体を抱き締める。制服に皺が寄るが、気にする余裕はなかった。
(ユキはやっぱり、来ているのかな)
麻雀部ただ一人の後輩――真屋由暉子の存在に、誓子は思いを馳せる。彼女もまた、同じ相手に想いを寄せているのだ。否、正確には誓子が横恋慕した形なのだが――しかし、恋は順番待ちではない。あの夏に、誓子も確かに恋に落ちたのだ。きちんと、正しい形で彼に選んで貰うことだけが望み。
だからこそ、今の状況を打破しなくてはならない。きっとユキも頑張ってクレジットを稼いでくれているはずだから――と、誓子は恋敵を信じて立ち上がった。
午前九時。対局の時間だった。
対局室に案内される。いつもと同じ部屋。しかし、対戦相手は初めて見る顔だった。
髭をたくわえた壮年の男性だった。おそらくは四十代だろうか。手足はすらりと長く、肌は若々しい。しかしながら、女性受けしそうな甘いマスクには陰が差していた。
「……海道と言います」
髭の男に自己紹介され、誓子はびっくりする。今までそんなことは一度たりともされなかった。慌てて彼女は頭を下げ返した。
「ひ、桧森誓子です。初めまして」
部屋の中には、スーツ姿の男達がまだ何人もいた。しかし彼らは名乗ろうとしない。海道という男だけが特別なようだった。
「今日のルールを説明します」
部屋の中央にいたサングラスの男が、口を開いた。はっと、誓子は彼のほうに向き直る。それは海道も同じであった。
「今回は、四人で卓を囲みますが実質的には海道様と桧森様の一騎打ちです。お二人は対面に座って貰います。他の二人は人数合わせでこちらから出しますが、彼らに渡ったクレジットは今回の勝者が最終的に総取りになります」
サングラスの男は誓子と、それから海道の顔を見つめて言った。
「お二人とも大切な人を助けるため、頑張って下さい」
「えっ、そ、それはどういう意味ですか?」
訊ねたのは誓子だった。昨日までとは、明らかに状況が違う。
「海道様は貴女と同じ立場ということですよ、桧森様。人質を取られた立場――そして、クレジットを必要としているのです。今日は、お二人でクレジットを奪い合うという主旨でございます」
「そ、そんな……!」
誓子は言葉を失う。つまり海道は同じ立場、ともすれば同志とも言える仲なのだ。なのに彼と戦わされるなんて。海道の横顔を窺うと、彼も苦虫を潰した表情をしていた。本意では無い、というのは痛いほど伝わってきた。二人の動揺をよそに、サングラスの男は淡々と続ける。
「それからもう一つ。クレジットを奪われる度、奪った側に対して奉仕してもらいます。まあ、ちょっとした罰ゲームみたいなものです。その内容は無作為に決定しますので、どうかご留意下さい。――なお、今回のゲームも当然拒否権はありませんので、よろしくお願いします。逆らったり、途中で棄権したりは認めません」
それっきり、サングラスの男は黙り込む。
誓子は、卓につくのに躊躇いを見せた。初対面ではあるものの、目の前の男、海道に対する遠慮があった。
海道もまた、悩んでいる様子だった。しかし結局、腹をくくったのか、彼はゆっくりと卓につく。
「お願いするよ、桧森さん」
「……、はい」
誓子もまた、覚悟を決めた。この男性と、戦う覚悟を。海道と想い人を天秤にかければ、結論は一つしかない。
サイコロを回し、対局が始まった。不毛なクレジットの奪い合い、しかし確かに想い人の救出に繋がる勝負。心のどこかでなお躊躇いはあったが、手加減してはならないと誓子は自分に言い聞かせる。食い破られるのは、こちら側かも知れないのだから。
対局は静かな立ち上がりを見せた。三局続けて、誰もテンパイせず流局。爽や由暉子ならもっと早く和了できているのかとも誓子は思うが、ないものねだりしても仕方ない。耐えるべき時は耐えるのだ。
そうすることで、
(感謝しますっ……!)
好配牌、良ツモに恵まれる。
「ろ、ロンですっ」
「っと。……しまったな」
海道から満貫直撃を取る。立場が立場なだけに、素直に喜べない。しかし点棒――クレジットは有り難く受け取っておく。
そのまま流れで次の局に移ってしまいそうだったが、待ったがかかった。最初にルールを説明したサングラスの男が割って入ってきたのだ。
「クレジットの受け渡しがあったので、桧森様に奉仕を行って貰います。海道様、この中から一枚カードを選んで下さい」
男が広げたのは、トランプ大のカードの束だった。誓子は眉を潜める。
「ここに奉仕の内容が書かれています」
「……分かった」
海道はカードを一枚引き、卓に広げて見せた。
誓子はひょいと拾い上げて、目を通す。――すぐに、頬を引き攣らせた。
「お、お尻のマッサージっ?」
イラスト付きの解説書だ。これを今から、さっき知り合ったばかりの人間にされると言うのか。信じられない想いだった。
「君、これはどうしてもやらないといけないのかね」
海道がサングラスの男に訊ねる。当然だ、と言わんばかりに男は首肯した。
「途中棄権は認めないと言ったはずです。どうしてもと言うのなら……人質がどうなるか、お分かりでしょう」
ぎりり、と海道は歯噛みする。しかしそれ以上、抵抗は見せられなかった。
「……すまない、桧森さん」
「あ、う、そ、その……」
何と声をかけていいか分からない。ここで拒絶すれば、海道の人質を救う目はなくなるだろう。クレジットを奪っておいてなんだが、寝覚めが悪い結果になるのは間違いない。それに、ここで誓子が拒否したとしたら、今度は誓子の想い人に危害を加えられるのは目に見えていた。
「では桧森様はそちらのベッドに」
「は、はい」
制服姿のまま、部屋の隅に置かれたベッドにうつぶせに寝転がる。どきどきと心臓が早鐘を打つ。胸の大きさはともかく、腰から下にかけては麻雀部の中でも随一と自負している。
ぎしり、とベッドのスプリングが軋む。海道もベッドの上に上がってきたのだ。彼は誓子の背中を見下ろす形で、ベッドに膝を着く。
「すまない、桧森さん。こんなことになってしまって」
「い、いえ。海道さんが悪いわけじゃありませんし」
「私のようなおじさんにこんなことをされても気持ち悪いだけだろうが……できる限り、優しくするよう努力するよ」
海道はそう宣言し、ピンクのスカートの上から、誓子の臀部を両手で包み込んだ。
「んっ……」
同級生の爽に悪戯でセクハラを受けることはあったが、男の手で触れられたのは初めての経験だった。固く、大きな手。スカートとパンツ越しとは言え、力強い指先がお尻の肉まで沈み込むのが分かった。
「う、ふ、ふぅっ」
何度も何度も、指でお尻を突かれる。その感覚に馴れてきたかと思うと、今度は尻臀から包み込むようにお尻全体を包み込まれる。
「んうっ、あ、ふっ♡」
枕を抱き締め、シーツを噛む。じんじんと、下腹部から脳髄にかけて響く衝撃があった。さらにお尻を揉みしだかれる。性感マッサージ、という単語が今更誓子の脳裏を過ぎるが、海道を窘める言葉は出てこない。
(この人、すっごく上手い……?)
経験のない誓子だったが、あまり時間がかからずに「そうだ」と気付くくらいには海道のテクニックは巧みだった。
「辛くないかい、桧森さん」
「い、いえ」
「なら良かった」
虚を突いて訊ねられ、反射的に誓子は否定してしまう。気をよくしたのか、海道の手はさらに強く、かつ優しく動いていく。
「せめて、嫌な想いはさせたくないから」
「あ、ありがとう、ございます」
お礼まで言ってしまう始末。だが、確かに海道からは気遣う心が感じられた。彼もまた被害者。嫌々ながらやらされているのだ。責める気にはなれなかった。
「そろそろ次の局を始めましょう」
「分かった」
サングラスの男に促され、海道はすぐに手を引っ込めた。さらにベッドから立ち上がる際、誓子の手を取ってくれた。紳士的かつ大人な応対は、同年代の少年には求められないもので、誓子は密かにときめいた。
と言っても、対局で手を抜けるわけではない。仮にもインハイ経験者としての矜持もある。相手を侮るわけではなかったが、簡単に遅れを取るつもりはなかった。
「ツモです」
ばらりと牌を倒す。ほっと一息吐く誓子だったが、ある意味で本番はここからだった。
カードの束から、海道が一枚引いて卓に晒す。またもや誓子は顔を顰めた。今度は、脚のマッサージだった。
「桧森さん」
「あ、謝らなくても良いですから」
椅子に座った誓子のそばに、海道が膝を着いて腰を落とす。反射的にスカートを下げ、中を覗かれないようにするが海道は元より目を背けてくれていた。
もちろん、マッサージ自体を止めるわけにもいかず。
「ふ、うっ」
右の太股に、海道の手が触れた。白いニーソックスの上から、誓子の脚の肉を揉みほぐしていく。
「随分疲れてるみたいだね」
「え……? そ、そうですか?」
「かなり筋肉が強張ってるよ。……マッサージは日頃からやっていて馴れているんだ。悪いようにはしないよ」
そう言って、海道は熱心に誓子の脚を揉んでいく。二の足からつま先まで、余すところなくしっかりとマッサージしてくれた。
「あ、ん、気持ち良いです……」
素直な感想を、誓子は口にする。海道の言うとおり、相当凝り固まっていたようだ。解れていくのを自覚して、お礼を言いたい気分にもなる。
「そうか、良かった」
海道は仕事をこなすように、淡々と左足にも手を添えていく。脚の付け根付近、恥部に近い場所に触れても、下心らしい下心を感じない。あっても上手く隠しているのだろうか――いずれにせよ、誓子は海道に対し、信頼感を芽生えさせていた。
「ふっ、あっ、良い……」
然るべきところで出会えれば、わだかまりなく打ち解けられただろう。年齢差こそあるが、そう思わせてくれる人徳のようなものを感じていた。
「んっ、ふっ、はっ……♡」
徐々に徐々に、体の熱を高められている事実に気付かないまま。
サングラスの男に遮られ、マッサージが終わる。
「は、ふぅー……♡」
長い息を吐いてから、誓子は配牌をツモる。ちらりと対面の海道の様子を窺い見るが、彼はやはり淡々としており、特に心動かされている様子はなかった。少しだけ、胸にちくりと痛みが走った。
「ロンだ」
「あっ」
正体の知れない迷いが生まれたせいか。誓子は初めて、海道に振り込んだ。安手ではあり、まだまだリードはある。
懸念事項は、やはり奉仕ゲームだ。誓子の前に広げられたカードの束は、どうやら海道のそれらとは種類が違うようだ。何をさせられるのか分からない不安が、誓子を苛む。
ただ一点救いがあるとすれば、相手が海道ということだけ。
意を決して、カードを選んで卓上に晒す。誓子は思わず言葉を失った。
「――君」
サングラスの男に異議を唱えたのは、海道だった。
「この部屋でさせるのは、酷じゃないか。いや、そもそもこんなことをさせるなんて――」
「隣の部屋をお使い下さい。やるかどうかを決めるのは、海道様ではなく桧森様です」
「……や、やります」
ここでやらない選択肢はなかった。想い人を助けるため、逃げることは許されない。
海道と共に、扉をくぐり別室に通される。狭い室内で、誓子は海道と向かい合う。
「桧森さん、本当に申し訳ない」
「い、いえ、大丈夫です。海道さんなら」
と言いつつも、誓子は頬を染める。いつまでも向き合っているわけにもいかず、意を決して誓子はスカートの中に手を差し込んだ。
スカートが捲り上がらないように気を付けながら、ゆっくりとパンツを引き下ろす。露わになった赤い下着から両足を抜く。冷たい風がスカートの中に流れ込んできて、心許なさを感じた。
「ど……どうぞ」
脱ぎ立てのパンツを、海道に差し出す。海道は散々迷いを見えた上、それを受け取った。
――対戦相手の見ている前でパンツを脱ぎ、それをプレゼントする。
カードに書かれていた指示通りの行為。恥ずかしさで死にそうだったが、相手が海道なのがせめてもの救いだった。
「なんと、言うべきか。ありがとう……?」
「ちょ、ちょっとそう言われても困ります!」
「す、すまない」
「あ、ああ、いえ、海道さんは悪くありませんから」
流れる雰囲気は気まずい。二人の間に沈黙が降りる。
先に吹き出したのは、誓子だった。釣られて、海道も笑う。戦い合う者同士とは思えない、弛緩した空気が狭い室内を支配した。
「こんな間柄だが……お互い、ベストを尽くそう」
「はい」
誓子は微笑み、先に部屋を出た海道の背を追った。この時には、誓子はすっかり彼を信じるようになっていた。
「ツモだ」
次の局も、和了したのは海道だった。後もう少しで和了できたのに――誓子は悔しがったが、こんなに気持ちの良い麻雀も久しぶりだった。
しかし、奉仕ゲームの時間は容赦なくやってくる。迷った末、誓子は一番端のカードを引いた。海道と二人で内容を確認する。
誓子は「うぅっ」と短い悲鳴を上げた。今度の内容も、かなり酷かった。
「桧森さん」
「やります」
今度は誓子が引っ張る形で、海道を連れ別室に移る。
心臓が痛いくらい高鳴り、目元が熱い。これからの行為を考えれば、当然の反応だった。ふぅ、と深呼吸してから、誓子は海道に向き直った。
「桧森さん――」
「し、静かにしていて下さい。恥ずかしいんですから」
腰元のボタンを外し、襟元に十字をあしらった制服の上着を脱ぐ。その流れでするりとピンクのネクタイも外してしまう。残されたのはシャツ一枚。躊躇いながらも、そのシャツも誓子は脱いでしまう。
上半身は、赤いブラ一枚という有様になってしまう。
だが、誓子は最後の砦のホックに指をかけた。乳頭だけは見えないよう左手で覆い隠しながら、取り去ってしまう。
「受け取って、ください」
「ああ……」
痛ましい表情を浮かべながら、海道は差し出されたブラを掴み取る。今回の奉仕は、ブラを渡すことだった。
誓子は急いで脱いだ制服を着直す。一度意識してしまえば、羞恥心で苛まれるのは分かっていた。
「あんまり、困った顔をしないで下さい。私達は、戦っているんですから」
「……そうだね、すまない」
「次局は負けませんよ」
「私だって」
軽口をたたき合いながら、二人は対局室に戻る。
胸元と股間の心許なさは辛かったが、対局に差し支えるほどではない――対局の監視者達の視線には注意せねばならなかったが。この場にいるのが海道だけならば良かったのに、と誓子は夢想しながら牌を掴む。
「ツモ!」
今度は誓子がやり返す。海道は顔をしかめ、点棒を吐き出した。
次なる奉仕ゲームのカードは――
「膝に座って……む、胸への愛撫?」
誓子はまたもや頬を引き攣らせる。先ほどからする側もされる側も、セクハラばかりの奉仕だ。当然それが狙いなのだろうが、プレイヤー同士にやらせるというのも悪趣味だ、と誓子は不快感を示す。
しかしながら、今は従うしかない。
「お願い、します」
せめて海道の負担にならないよう、誓子から頭を下げて彼の傍に近寄る。海道が何か言い返す前に、彼を椅子に見立ててその膝の上に座った。
「桧森さん……」
「は、早くして下さい」
「分かった」
制服の上から、海道の手が触れる。
「んっ」
お尻を触られた時よりも、はっきりとした男の体温が伝わってくる。ブラが取り払われた分、当然と言えば当然だった。
「海道様、桧森様が満足されるまで愛撫は続けて貰います。彼女を想うなら、速めに終わらせるよう努力することですね」
サングラスの男が忠告し、海道はこくりと頷いた。満足、という言葉の意味を誓子が問うよりも早く、海道の手が忙しなく動き始める。
「ひゃうっ、や、そ、そこっ」
「どこが良いんだい?」
耳元で囁きつつ、海道は挟み込むように両の胸を揉む。
「ん、ん、んっ♡ ――ふぅっ♡」
巨乳というほどではないが、そこそこの大きさと美しい形を併せ持つ誓子の胸が、制服の上から歪められる。
「ふっ♡ ふっ♡ んっ♡ そこ♡ ん♡」
まだまだ固さの抜けていなかった乳房が、あっという間に解される。吐く息がどんどん熱くなっていくのを誓子は自覚していた。心の中では既に快感を認めており、海道の胸元に背中を預けてしまう。
「どうだい、桧森さん」
「んぅ♡ ふ、うっ♡ かい、どうさんっ♡ や、んっ♡」
「君を満足させられるのなら良いんだけど――」
「あ、う、ふ♡ だ、大丈夫、です♡ すごく、良いです、から♡」
「良いって、どういう意味だい?」
制服の上から乳首を刺激しながら、海道は訊ねてくる。意地の悪い質問に、誓子は表情を歪ませながら、しかし答える。
「き、気持ち、良いですっ……♡ は♡ あ♡ これ♡」
「だったら良かった」
「ん♡ んっ♡ んふぅっ♡ ――っ♡ あうっ♡」
あっという間に誓子は上り詰め、海道の腕の中でびくびくと体を震わせる。軽めとは言え、絶頂に達したのは間違いなかった。
「はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡」
「桧森さん、満足してくれたかな」
「は、はい……♡」
自慰行為では得られなかった感覚に、うっとりとしながら誓子は頷いた。海道に支えられながら、誓子は立ち上がる。その力強さに、誓子は安心感を覚えた。
ぶるぶると体を震わせながらも、次の対局が始まる。
視界が霞む。牌が重い。目の前の海道を直視できない。
それでも誓子は、
「ロ、ロンです……」
和了を見逃さなかった。見逃せなかった。
流石にクレジットを失いすぎたためか、海道は悩むように顔を顰めた。だが、奉仕ゲームは容赦なく行われる。
海道はカードを引き、さらに顔を顰めた。それを見た誓子も、うっと声を詰まらせた。
「部屋を変えよう」
海道に手を引かれ、されるがままに誓子は別室に移動する。異論はなかった。海道を信じてもいた。
扉が閉じられ、狭い部屋で三度二人きりになる。海道がソファに座ると、誓子はあまり悩まずに、彼の股の間に腰掛けた。
「心の準備は良いかい?」
「は、はい……」
「本当はこんなことは、きちんとした関係の男女がすべきなんだけれど……」
「あ、か、海道さんなら、その、大丈夫、です」
「……そう言って貰えると、嬉しいよ」
想い人への恋心はこれっぽっちも変わっていない。少なくとも、誓子はそう思っていた。しかし今、海道を困らせたくないのも事実だった。彼の心理的負担を減らしてあげたかった。
そっと、海道の指がスカートの中に入り込む。既に下着は取り除かれた後。――くちゅり、と最初から水音を立てて海道の指が秘所に触れた。
「――っ♡ や、あっ♡」
「ん……もう大分濡れてるね」
「さ、さっきの、胸が、とても良かったですから……」
「ありがとう、桧森さん」
ゆっくりと、ゆっくりと海道の指が未踏の処女地へと沈んでいく。
今回の奉仕は、「秘所への愛撫」であった。女子にしては平均以上の長身の誓子は、しかし海道と比べるとまるで子供。性に関する知識も経験も、それ以上の差があった。
「ふっ♡ ふっ♡ ふっ♡ ふっ♡ あ♡ そこ♡ や♡ か、海道さんっ♡」
指を抜き差しされ、さらに愛液を溢れさせていく。舌が上手く回らず、それ以前に上手く考えを言語化するのも難しくなり、喘ぐか海道の名を呼ぶしかできなくなる。
「ん、ふぅっ♡ あ♡ やぁ♡ んっ♡」
だらしなく口を開け、舌を突き出してしまう誓子。とろんと目元は下がり、歓喜の涙さえ眦に溜めている。
(須賀、くぅん……っ)
これが、想い人相手ならもっと喜べただろうか。彼の名前を内心で呼びながら、顔を思い浮かべようとする。
しかし、そのタイミングで視界に現れたのは、海道の顔だった。
「んんっ――?」
唇を、重ねられる。奉仕にはない内容。目を見開き、誓子は狼狽を禁じ得ない。ばたばたと両手両足を振り乱し、一瞬抵抗の気を見せるが、
「む、ふぅ……♡」
すぐに、腰を落ち着かせた。挿入される舌を受け入れ、送り込まれる唾液を従順に飲み込もうとする。吸い付かれれば、全て差し出すように口を突き出した。
「んちゅ♡ じゅるうぅ♡ ――あふ♡ んっ♡ んっ♡ ふっ♡ ふっ♡ あっ♡ あっ♡ ――んちゅううっ♡」
キスと、秘所への愛撫が断続的に繰り返される。
「んーっ♡ んーっ♡ あん♡ やあっ♡ かい、海道さんっ♡」
最早、先ほど思い浮かべていた彼の顔は海道のそれに書き換えられていた。想像よりも、現実にそばにいる海道のほうが何倍も強かった。
「なにか、なにか来ちゃうんですっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ す、凄い、凄いのがぁっ♡」
「そのまま、私に身を任せてれば良いんだよ」
「はい♡ はい、はいっ♡ あっ♡ あっ♡ あーっ♡ あーっ♡ んちゅうっ♡ じゅるうっ♡」
胸で味わった軽い絶頂が、まるで遊戯のごとく。
「イクときは、ちゃんとイクって言うんだよ」
「んっ♡ うっ♡ んんっ♡ はい♡ イキます♡ 私♡ イキます♡ あ♡ あ♡ イクっ――♡」
強すぎる快感に、誓子は痛いほど背中を反らせた。彼女の体は、優しく海道が抱き締めていた。
絶頂の余韻に、十分以上浸った後、誓子は意識を取り戻す。
悔恨はあった。裏切りの気持ちは強かった。しかし、海道を恨む気にはなれなかった。彼もまた、どうしようもなく被害者。辛い中、精一杯努力してくれていたのだ。
ふと、熱いものがお尻に触れているのを自覚する。誓子はソファからゆっくりと立ち上がり、それを――勃起した海道のペニスを確認した。
「桧森さん……? 終わったから、次に……」
「もう、少しだけ」
自分を気持ち良くしてくれた海道に、お返しをしたかった。くすぐられた母性本能が、誓子を突き動かす。
海道のズボンのジッパーを引き、パンツの中からペニスを探り当てる。
爽に教わった性知識。いつか、想い人の彼にしてあげる日を夢見て勉強だけは欠かさなかった。それを今――彼以外の男に披露する。
「んっ――♡」
「おお……」
口を開けて、海道のペニスを頬張る。ぐちゅぐちゅと唾液を分泌させ、口内で勃起を扱く。拙い動作であったが、だからこそ男の興奮を煽っていく。
「んっ♡ あむっ♡ んうっ♡」
必死で、一途に誓子は口奉仕する。気持ち良くなってもらうために。気持ち良くしてくれたお礼に。
あまりに特殊な状況に身を置かれ、疲弊していた誓子にとって、海道の存在はまさしく清涼剤であった。屈託無く笑い合えたのは、久しぶりだった。信じられる人と会えるとは、思っていなかった。
「んっ♡ ふっ♡ ちゅるっ♡ んぅ♡」
今、自分を見下ろす海道の表情がどんなものか知らないまま。
どれだけ悪辣な顔をしているか知らないまま。
誓子は彼のペニスに、愛情を込めて舌を這わせる。