麻雀天使堕天計画 作:クラリス
がたんごとん、がたんごとん、とリズム良く電車が揺れる。ラッシュ時でもないが、車内は人で埋め尽くされていた。空調は効いているが、夏場と人の海で室温は高く、蒸れていた。
白糸台高校二年・渋谷尭深も額に汗を浮かべながら、吊革に掴まっていた。目的地である白糸台高校がある最寄り駅まで、今しばらくある。やや所在なさげに、彼女は俯いて到着を待っていた。セーラーワンピースタイプの制服は、実に女性らしいラインを描いている。胸部ははっきりと突き出ており、むっちりとしたお尻はスカートの上からでも隠しようがない。所属する部内チーム・虎姫の中でも一、二を争う肉体は、完全に熟れるのもまだ先だというのに、充分大人の色気を醸しだしている。
同年代の少女よりも成長が早かったという事もあるが、高校に進学してからは別の理由も組み合わさっていた。
それは――
「……っ」
臀部を一瞬掠める、何かが触れる感触。勘違いかも知れない。偶然当たったか、あるいは鞄がぶつかっただけかも知れない。しかし既に尭深は、直感していた。ここ一年以上で、散々経験していた。眼鏡の下で、彼女は辛そうに目尻を下げる。
電車内で現れる、痴漢だった。
「っ」
再び、スカートの上からお尻に触れられる。今度ははっきりと、しっかりと。疑いようなく、男の手だった。分かってしまう。これまでに何度も、触られているから。身を捩って、その場から逃げようとする尭深。だが、人の壁に阻まれてまともに移動できない。
電車が揺れる度に、偶然を装ったように男の手が触れてくる。尭深は声を上げられない。男の悪意に晒され、大人しい彼女は完全に萎縮してしまっていた。悪意の手を払いのける事もできず、吊革を握る手に力を込めるしかできない。
尭深が抵抗しないのに気をよくしたのか、お尻に触れる手は動きをより直接的なものに変貌する。掌で、さわさわ、さわさわ、と撫で上げるのだ。スカートと下着の上からとは言え、しっかりと手の熱が伝わってくる。
「…………んぅっ」
さらに尭深が黙っているのにつけ込んで、さらにお尻を触る手の動きは激しさを増す。撫でるのが主体だったのから、弱い力ながらも尻臀をぎゅっと握られる。びくり、と尭深は肩を震わせたが依然大きな抵抗はしなかった。恐怖に怯える彼女には、もうじっと嵐が過ぎ去るのを待つしかできない。
だが、やはりそれでは痴漢を調子づかせるばかりだ。
一度、痴漢の手がお尻から離れる。止めてくれたのか、と一瞬尭深は期待するが、すぐに勘違いだったと知らされる。
「……ゃっ」
裾下を掬い上げるようにして、痴漢はロングスカートの中に手を突っ込んできたのだ。振り返らなくても、背後の気配と風の流れで分かってしまう。この行為も、既に何度か経験があった。今度は無地の下着の上から、お尻に触れられる。より情熱的に、激しく手が動く。
はぁ、はぁ、という男の熱い息が背後から首筋にかけられる。気持ち悪かった。性的興奮を隠そうともしない態度に、身の毛がよだつ。さらに痴漢は、かぼそい声で尭深の耳元で囁いた。
「抵抗しないの?」
「っ!」
「触って良いって事だね」
あまりに身勝手な解釈だったが、体が縮こまる尭深は否定できない。まともに声一つあげられない。そうしている間に、ぐにゃり、ぐにゃりとお尻の形を歪まされてしまう。最初の窺うような触り方はとうに消え、乙女の純心を蹂躙する獣の指だ。さらに痴漢は、尭深に声をかけてくる。
「君、この線で有名な子だよね。全然抵抗しないって言う眼鏡っ娘」
「!」
「痴漢されるのが、大好きなんだね」
そんな噂が立っている事自体ショックだったし、すぐにでもその勘違いを否定したかった。好きな訳がない。触られる度怖気が走る。恐怖で動けないだけだ。――その主張も、音声にはなりえなかった。
痴漢行為は、さらなるエスカレートを見せる。ゴムを伸ばして無理矢理、パンツの中に手を突っ込まれたのだ。これには尭深も驚いてびくりと体を揺らす。しかし彼女は、左手の人差し指を噛んで声を押し殺すに留めてしまう。
「やっぱり、大好きなんだ」
勝手な解釈をして、痴漢は直接尻臀を鷲掴みにする。吸い付くような肌と柔らかな肉付きを堪能する痴漢は、さらに鼻息を荒くする。
「ここはどうかな」
「っ?」
お尻の割れ目に、指先が侵入する。菊門の周囲をなぞられ、尭深は逃げるように腰を動かす。だがそれを咎めるように、痴漢は尻を握りしめた。実際尭深は抵抗を止め、体を震わせながらその場に留まる。
「はぁ……はぁ……良いよ……君はとても良い……」
変態痴漢がごくりと生唾を飲み込む音を、尭深は聞いた。お尻を責める手が、徐々に前側に回っていく。乙女の処女地への侵攻。さらに、空いたもう片方の手は大きく膨らんだ乳房へと伸びようとしていた。
しかし、それは叶わなかった。
「おいあんた、何してるんだ」
尭深にもたらされる、救いの声。痴漢の動きが、ぴたりと止まる。行為に夢中になっていた痴漢も、「彼」が隣までに近づいてきている事に、気付いていなかった。
あえなく痴漢は御用となり、尭深は救われた。
「大丈夫ですか?」
「は……はい」
これが、尭深が初めて京太郎と出会った日だった。
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そして今、尭深は彼を救うため、陰謀渦巻く古城で戦っていた。大切な想い人をさらわれて、
黙っていられる訳がなかった。
白糸台の夏服に身を包み、今日の対局場に移動する。全国最強校・白糸台高校のチーム虎姫においてもトップクラスの一撃の破壊力を誇る彼女は、ここまで順調にクレジットを積み重ねてきた。単純な実力でも、この城の男達では歯が立たない。
(絶対に彼を、助け出す……)
どちらかと言えばチーム内でも大人しく、意思表示の少ない彼女であったが、こればっかりは譲る気はなかった。
案内人に連れられた対局室で待っていたのは、スーツ姿の男性だった。どうやら、今日の主たる対戦相手らしい。
「こんにちは、渋谷尭深さん。俺は武藤シュウヤ。今日は一勝負、よろしく頼むよ」
「……」
爽やかな挨拶に、違和感を覚えながらも尭深はこっくり頷いて応じる。人当たりは良さそうで、この城で出会っていなかったら「良い人」だところっと騙されていたかも知れない。それにしてもどこかで名前を聞いた覚えがあった。しかし、尭深ははっきりと思い出せなかった。
さっさと卓に着こうと尭深は一歩前へ進むが、それをシュウヤは制する。
「勝負の前に、見て貰いたいものがあるんだ」
「……なんですか?」
訝しげに尭深が首を傾げる。彼女の肉体を頭のてっぺんからつま先まで舐め回すように値踏みしてから、シュウヤはモニターの電源を点けた。
「あっ」
思わず、尭深の口から声が漏れ出ていた。そこに映っていたのは、想い人の少年。そしてそれから――麻雀部の先輩、弘世菫だった。彼女も彼に想いを寄せているのは尭深も薄々気付いていたが、同じくこの城に連れ去られて来ているのはやはりショックだった。
だが、それよりも動画の内容が尭深の心を苛んだ。抱擁する二人。幸せそうに相好を崩す菫。戸惑いながらも、菫を受け入れている様子の彼。そして、
「……あ」
菫が唇を、彼の口元に押し付ける。胸の奥がざわめく。敬愛すべき先輩に対して、嫉妬の感情を覚えていた。
動画が終わると、シュウヤは尭深の前に立ち語りかけてくる。
「――と、言うわけで君の先輩は先に彼と密会していた。君達もここにいる事は知っていたけれど、捨て置いてね」
「だったら、何だって言うんですか」
自分でも思っていた以上に硬質的な声が出て、尭深自身は驚いた。確かに、この状況で先に彼に会っていた菫は羨ましい。だが、だからと言って彼女を恨んだりその足を引っ張ったりする事はない。精一杯の勇気で、尭深はシュウヤを睨み付けた。しかし彼は、何てない事のように肩を竦める。
「何か勘違いしているようだね。俺が訊きたいのは、君も彼に会いたくないかって事さ」
「え……」
「今日の勝負、俺が指定するルールを飲んでくれれば会わせて上げよう」
すぐに尭深は返事をしなかった。慎重に、言葉を選ぶ。
「そのルールは……」
「まずは君が飲むかどうかだ。フェアに言えば、簡単なルールではなくなるのは確かだけどね」
安全策を採るのなら、ここは突っぱねるべきだ。この男は信用してはならない、と直感が警鐘を鳴らしている。しかし同時に、どうしても先ほどの映像がフラッシュバックする。自分も、彼に会いたい。触れ合いたい。
「……分かりました」
半ば衝動的に、尭深は頷いていた。彼を助け出すまでは我慢しなければならない、と思っていたところに与えられた機会。煽られた嫉妬心。冷静さが多少なりとも失われていた事は、確かだった。
「良い返事だ。――場所を変えるよ」
シュウヤに連れられて、再び古城の中を移動する。
さほど歩かず、連れて来られたのは大浴場――その手前、脱衣所だった。
「今日はこの浴場で打って貰うよ」
どうしてわざわざこんなところで、と尭深が疑問を唱えるよりも早く、促されて広い脱衣所の中へと入る。シュウヤ達他の男が突いてくる事なく、最初に入ったのは尭深一人だった。何をさせられるのか、と脱衣所で尭深は所在なさ気に佇むが、突如スピーカーからシュウヤから声が響いた。
『服を全部脱いで、浴場に入るんだ』
「えっ」
『十分後に俺達も入るから、手早くな。脱がなければ、こっちで脱がせてやるから安心してくれ』
「ちょ、ちょっと――」
ぶつり、とスピーカーから音声が途切れる。尭深は焦燥感に駆られながら、迷いを見せる。バスタオルのような、体を隠すものは一切置いていなかった。悩みに悩み、尭深は制服のリボンを抜き取った。脱がせると言った以上、彼らは本気だ。抵抗は無意味であろう。制服を脱ぎ捨て、上下の下着も外し、全裸になって大浴場の扉をくぐる。
広い浴場の中心には、本来こんなところに置かないはずの麻雀卓が鎮座していた。違和感のある光景だが、それよりも今は体を隠すものが欲しかった。
だが、浴場なのに風呂桶一つ見つからない。用意周到にも程があった。もうシュウヤ達が入ってくるまでに、五分もないだろう。彼らに裸身を晒すのには、当然ながらどうしようもない抵抗感があった。諦めずに尭深は浴場を探し続け、そして、一つの手を思いつく。
(これしか、ない)
残り時間、尭深は必死になってその手を実行に移した。ほとんど涙目だった。
「入るよ」
「っ!」
シュウヤを初めとする対戦相手達が、下半身だけタオルで隠した半裸状態で浴場に入ってくる。尭深は慌てて、麻雀卓の席に着いた。
その尭深の姿を見て、シュウヤ達はにやりと笑った。
「ほうほう、やっぱりそう来たか」
尭深の体は、ボディーソープの泡で覆われていた。しかし時間が足りず、背中や腋、腰回りなど完全に隠し切れておらず、さらに薄く脆い泡のすぐ下に女子高生の絹肌がある状況は、どうしようもなく淫靡な空気を醸しだしていた。
彼らの掌の上で踊らされているのは理解していたが、そうせざるを得ない。男達はにやにや笑いながら、尭深を取り囲むように卓に着いた。
「それじゃあ尭深、ルールを説明するよ」
馴れ馴れしく名前を呼ばれ、尭深はむっとしながらも耳を傾ける。
「今回は少し特殊ルールだ。半荘一回の中で、君が一度でも三倍満以上を和了できれば勝ちで、クレジットを進呈しよう。途中の点数移動は最終的な収支には関係なくリセットされるけれど、ハコになったら罰ゲームだから気をつけてね」
本来であれば、圧倒的に尭深が不利と思える条件だ。しかしながら、彼女には「収穫の時」がある。強力な一撃を秘めたこの能力は、条件さえ整えば役満でさえも高確率で和了できる。尭深用に作られたルールと言っても過言ではないだろう。
「……分かりました」
どのみち選択肢はない。尭深は了承し、対局は始まった。
各局の第一打がオーラスの配牌になって帰ってくるという性質上、自分が親の時にはできる限り連荘を狙うのが尭深にとって当然の戦術だ。さらに今回は、途中の収支を気にしなくてもいいため、ハコにさえならなければ他家の連荘も受け入れられる。故に今回の勝負、勝算は充分にあると尭深は考えていた。
しかしながら、彼女には誤算が一つあった。
自らの裸身を覆い隠す泡である。
「う……」
当然連荘を続ければ、時間がかかる。そうしている間に、どんどん泡が自然に流れ落ちていくのだ。さらに男達は、容赦なく、そしてわざとらしく長考する。これでは対局の途中で完全に裸になってしまうのは目に見えていた。
「あ、あの、早く打って……ください……」
「今回制限時間に取り決めはしていないだろう。白糸台のレギュラー相手なんだ、慎重に打たせて貰いたいね」
そう嘯かれると、尭深はそれ以上言い募れなくなる。ただ、体をもじもじさせて、消極的な主張を繰り返すばかりだ。
「何をそんなに焦ってるんだい?」
「そ、その……泡、が……」
「ああ、大変だね」
わざとらしく良いながら、好色そうな視線をシュウヤは隠そうともせずに送ってくる。尭深は胸を腕で隠そうとするが、逆に泡を落としてしまう結果になってしまうのでそれもできない。どきどきと胸を痛めながら、尭深は頬を紅潮させ俯いてしまう。
「あの……もう一度、準備する時間を貰えませんか」
ダメ元で、尭深は切り出した。しかし意外にも、
「うん、良いよ」
あっさりと了承の返答が帰ってきて、拍子抜けさせられてしまう。だが、シュウヤは続けて言った。
「こっちの条件を呑んで貰えるならね」
「条件……ですか?」
「そう。尭深、君はよく電車で痴漢されていたみたいだね」
なぜその事を、と驚き尭深が問いかけるよりも早く、シュウヤは手で制した。
「調査は済んでいる。そうだね、初めて痴漢をされた時の事を話してよ。そしたらまた、泡を作って良いよ」
「…………」
思い出したくもない過去。忘れたい記憶。本来なら、人に語って聞かせるような話だ。だが、今の羞恥地獄から脱せられるのなら――事実上、選択肢はなかった。
「……あれは、私が白糸台に入学して半月ほど経ってからでした」
ぽつぽつと、尭深は語り始める。痴漢が日常になるきっかけの日の事を。
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高校に進学し電車通学に切り替わり、尭深は朝のラッシュアワーに悩まされていた。人口過密な東京の交通事情は承知していたつもりだったが、ぎゅうぎゅう詰めで苦しい。特に成長著しい胸が押し潰されるのが辛かった。新調したばかりのブラが型崩れしてしまう事を気にしながら、尭深は長い通学時間を耐えていた。
その最中、突然腰に何かがぶつかる。尭深はさして気にしなかった。少し電車が揺れるだけで、人とぶつかってしまう状況だ。尭深自身も、何度も他人に鞄をぶつけてしまっている自覚があった。
だが、この日は少し様子がおかしかった。単純に、ぶつかってくるだけではなかった。接触してきた何かが、腰回りを滑るように這っていく。
「っふっ?」
意外な感触に、尭深の口から息が漏れ出る。一瞬、周りの乗車客の視線が尭深に集中し、恥ずかしくなった尭深はそっと俯いた。だが、すぐに乗車客は興味なさそうに尭深から視線を外す。ほっと一息吐いたのも束の間、
「……っ?」
はっきりと分かる人の手で、腰を何度も撫でられる。
(なに、なにをされているの……?)
何が起きているか理解できず、尭深は半ばパニック状態に陥る。この手の主が誰かはさっぱり分からなかったが、伝わってくる悪意は本物だった。尭深が慌てふためいている内に、手は勝手気ままに蠢いていく。
手が腰から徐々に下がっていったかと思うと、今度はスカートの上から、お尻に触れられる。指が一本、突き刺すように尻肉に沈められるのが尭深にも分かった。
「っ、うっ、ふっ」
目立ちたくない、その一心で息を噛み殺す。そうしている間にも、二本目、三本目とどんどん指が突き立てられていく。ついには五指全ての指が尻に沈められたかと思うと、優しくお尻全体を掴まれていた。
(えっ……? えっ……?)
なおも混乱から立ち直れない尭深。尻を掴み取る手に、力が込められる。そのまま右側のお尻をぐにょり、ぐにょりと思い切り揉み込まれる。まるで解きほぐすような動きだった。何度も何度も、繰り返しお尻を揉まれる。ここまで来ると、尭深にもはっきりと分かった。
痴漢だ。
察すると同時に恐怖で、体が動かなくなる。こういう時は声を上げて助けを求めるべきなのだろうが、しかし尭深の喉も動かせない。
そうしている間に、襲い来る痴漢の手はさらなる動きを見せた。スカートの上から強引にパンツをズラしてきたのだ。スカート一枚隔てた状態で、さらにお尻を揉んでくる。お尻のしこりをゆっくりじっくり、揉みほぐすのだ。
「ふっ、ふぅっ……」
経験の浅い尭深には分からなかったが、痴漢の手は巧みだった。お尻に刺激が走る度反応する尭深の様子を窺い、どこが敏感なのか的確に分析していたのだ。初めて遭遇した痴漢が手練れであったのは、尭深にとって不運であったとしか言いようがない。
一度右のお尻から手が離れたかと思うと、今度は左のお尻に触れられる。やはり強引に下着をズラし、スカート越しにお尻を揉まれた。ほとんどパンツはTバック状態で、羞恥心を煽られる。それでもなお、尭深は助けを求められなかった。
「は……ふ……っ♡」
漏れ出る息からは、僅かながら甘い色が混じり始める。じゅん、と濡れてしまうのも自覚した。このままどうなってしまうのか――言い知れない恐怖が尭深を支配する。
『次は、白糸台、白糸台』
はっと、尭深は意識を取り戻す。電車が止まり、人の波が動き出す。尭深はその流れに乗って、車外へと駆けだした。
この時尭深に刻み込まれた記憶は、ずっと彼女を苛む事になる。
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ソープを使って泡で全身を覆い、尭深は卓に着いていた。彼女が痴漢経験を語った後、シュウヤを初めとする男達の視線はさらにいやらしいものになっていた。それを理解しながら、尭深は何も言えずにいた。
「ツモ……です」
オーラス、尭深は見事に役萬を決める。ほっと、尭深は安堵の息を漏らした。これでこの異常な状況から解放される。しかしそれはとんだ思い違いだった。
「じゃあ二回戦、行こうか」
「えっ……お、終わりじゃ」
「誰も半荘一回なんて言ってないでしょ。今日はとことん付き合って貰うからね」
確認しなかった自分が悪いと言えばそこまでだが、明らかにこの状況は狙われている。
対局自体は問題ない。オーラスさえ迎えれば、何度でも三杯満は決められる。憂慮すべきは、この泡が保つかどうかだ。
案の定、二回戦が始まってすぐに肌が晒されそうになる。こんな男達に見られるのはごめんだった。
「あ、あの」
「また泡が欲しいのかい?」
先回って訊ねられ、尭深はこっくりと頷いた。シュウヤは笑い、
「じゃあ、次は痴漢で初めてイった時の事を教えてよ」
「イ――」
「経験あるでしょ? 痴漢がだぁい好きな尭深なら」
何もかも見透かしたシュウヤの視線に射貫かれ、尭深は身を竦ませる。何も言い返せず、彼女は震える唇でぽつりぽつりと語り出した。
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部活帰りの夜の電車で、尭深は退勤ラッシュに巻き込まれていた。人の間に埋もれて、ほとんど爪先立ちになって堪え忍ぶ。しかしそれよりも尭深を苛むのは、背後から密着してくる男の存在だった。姿格好はサラリーマン風で、尭深よりも年上のようだったが、詳しい正体は判別できない。問題は、男の手が尭深のお尻を絶えず撫で上げている事だ。
手で払いのけようとするが、その度軽くかわされてしまう。あるいは尭深の握力では相手の腕を掴み取れたところで固定する事ができない。「この人痴漢です!」と持ち上げることも。
「ん……っ、ん……っ♡」
電車通学を初めて、二ヶ月足らず。既に尭深は、三日に一回は痴漢に辱めを受けるようになっていた。強く出られない尭深は、誰に相談する事もできずに、ただただ痴漢の手を受け入れる毎日を送っていた。
狭い車内を良い事に、痴漢は尭深のお尻を堪能する。黙々と手だけ動かしてくるのが、逆に不気味だ。
スカートが皺になるほど、尻臀を握り込まれる。もう何度こうされただろうか――しかし、いつまで経っても慣れなかった。慣れたくもなかった。自宅の最寄り駅まで、まだしばらくかかる。苦しみに眉を潜めている内に、ふと、お尻に触れる手の感触が消えた。飽きたのか、逃げたのか、ともかくとして尭深はほっとする。
が、現実はそのどちらでもなかった。
「……っ!」
思わず叫びそうになった。叫んでしまえば楽になれるのかも知れないが、その勇気は尭深にはなかった。
痴漢の手が、年齢不相応な尭深の胸に触れたのだ。持ち上げるように、両の下乳を掌が包み込む。お尻を撫でていたときと同じように、さわさわ、と胸も撫で上げられてしまう。制服とブラジャーの上からでも、まるで虫が這いずり回るような感覚が伝わってきた。どうしようもない嫌悪感に気持ち悪くなりながら、
「ぁっ♡」
噛み締めた口端から漏れるのは、どこか甘い色を伴っていた。下着に染みが出来てしまうのを尭深は自覚したが、認めたくなかった。
しばらく下乳を撫で続けていた手だったが、ようやく尭深がその感触に慣れてきた頃、今度はぎゅっと胸を潰すように握りしめてくる。その衝撃でびくりと体を震わせた尭深は、バランスを失ってしまう。そんな彼女を引き寄せる形で、痴漢は尭深を支えた。
だからと言って、痴漢が優しいというわけもない。完全に尭深の巨乳を手中に収めた痴漢は、さらに大胆になって揉みしだき始める。尭深の髪を揺らすほど、痴漢は荒い鼻息をかけてきた。
(この人……凄く、興奮してる……?)
自分の肉体を弄ぶ者の欲求に中てられ、尭深は恐怖で身を縮こまらせた。けれども同時に、どうしようもなくドキドキしていた。男の欲望に晒され、公共の場で勝手気ままに蹂躙される事に対する暗い欲望。
「んっ……♡ だ、だめ……♡」
あまりに強く胸を揉まれた結果、ブラジャーがずれてしまう。制服一枚越しに、乳頭がさらけ出されたのを尭深は察する。そして、痴漢も同じようだった。痴漢は巧みに、制服の上からでも乳首の位置を察すると、指の腹で突いてきたのだ。
「や……♡」
それがまた、尭深にとって甘美な衝撃となって脳髄を貫く。僅か一瞬の出来事、しかし彼女に永久に刻み込まれた悦楽の味。気をよくした痴漢は、乳輪の縁をなぞるように愛撫し始める。
「ん…………♡」
ゆっくりと時間をかけて、何周も、何周も。いくらブラが外れているとは言え、制服の上からである。なのに、痴漢は実に的確に、尭深の弱いところへ良い塩梅で刺激を与えてくるのだ。尭深の知らなかった世界が、どんどん開かれていく。痴漢の手を止めようと、自分の手を持ち上げるがほとんど力を込められない。申し訳程度に痴漢の手に自分の手を重ねるのが関の山だった。
(やだ……乳首、立ってる……)
乳輪への愛撫で、むくむくと乳頭が起き上がったのを尭深は自覚した。それが性感を刺激された結果だという事は疑いようもない。自慰行為自体あまり経験のない尭深だったが、その程度の知識はあった。実践されるのは、初めてであったが。
「ん、ん、ん……んんうっ♡」
しこりきった乳首を、突然きゅっと掴み取られて尭深は顎を上げた。眼鏡がずれて、様々な意味で視界がぼやける。だが、痴漢は責めの手を緩めない。何度も何度も、勃起した乳首を指の腹で擦るように刺激するのだ。
「んんぅ♡ んんっ♡ んーっ♡ んんっ♡」
奥歯を噛み締め、尭深は必死ではしたない声を上げる事だけは耐える。一方で、体の内側から湧き上がってくる恐ろしい衝動に怯えていた。
一通り乳首責めが終わったかと思うと、またもや乳輪をなぞられる。それが終わったと思えば、乳首を抓られる。その繰り返しに翻弄される尭深は、もう何も考えられず、ぼうっと吊革を眺める事しかできなくなっていた。
「んっ、んっ、んっ♡ ふっ、ふぅっ♡」
乳首を責めていた片方の手が、ふっと消える。かと思ったら、またお尻を触られ始めた。右手は乳房、左手は肉尻。どちらも豊かな尭深の肉体を、味わうように弄ぶ。下着の染みは、今すぐに変えたいくらいに濡れていた。
胸とお尻の同時責めは、尭深の許容量を完全に超えていた。先日まで性に初心だった少女に、強制的に連れて来られた非日常の世界を耐えろという方が酷であろう。加えて言えば、今日の痴漢のテクニックは最高峰のものだった。無論、尭深の知ったところではないが。
「っ、ぅ、んっ、んっ、んっ~~~んんんっ♡ ~~~~~っ♡」
同時責めの果て、尭深の視界が真っ白になる。頭のあちこちで電流が走るような感覚。立ったまま、痴漢に体を支えられたまま渋谷尭深は、人生初めてのアクメを経験した。荒ぶる呼吸。こぼれ落ちる涙。痴漢に体を好きにされる屈辱。そして、決して認めはしない、けれども確実にそこにある絶望的なまでの快感。
急ブレーキがかかり、電車が激しく揺れた。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
羞恥の記憶を語り終え、三度全身を泡で覆う尭深。心なしか、息が荒くなっていた。湯船にも浸かっていないというのに、体が熱くなっている気がする。心臓も早鐘を打ち、緊張しているのは確かだった。
無論男達に半裸を見られているというこの状況で、平静を保っていられるわけがない。しかしそれを差っ引いても、自身の変調は著しかった。痴漢の記憶を語る度、ソープで体を泡まみれにする度に、苦悶に表情を歪める事になっていく。
「尭深は一杯痴漢されてきたんだね」
「……っ」
「犯されてはいないよね? 処女のまま色んな事教えられたわけだ。電車の中で」
挑発には耳を貸さないようにするが、痴漢という言葉にはどうしても反応してしまう。相変わらず男達は長考を重ね、その間にどうしても考えてしまうのは過去の経験。なんとか対局にはついていけているが、既に薄氷の上だという事を尭深は気付いていなかった。
「よし、じゃあ次に行こうか」
二回目の半荘を切り抜けたかと思ったら、すぐさま三回戦が始められる。
「あ、あの……」
「なんだい? 休憩したいのかい? 俺達は構わないよ?」
「いえ、休憩は、要らないです……」
時間をかければ泡が消えてしまうだけだ。ここで終わりを申し出たかったが、そんな事は許される空気ではなかった。特にシュウヤの眼光に睨まれてしまうと、何も言えなくなる。彼の纏う空気を、尭深はどこかで知っていた。――とても苦手な、空気だった。
順調に三回戦が始まり、そして順当に泡が消え始める。できる限り引き延ばす尭深だったが、肩と太股が露出し始め、男達を喜ばせるだけの結果に終わった。
「さあ、どうする? 尭深」
「……も、もう一度、泡を、つけさせてください」
「ようし。じゃあ今度は、尭深が一番『凄かった』と思う痴漢の経験を教えてよ」
尭深は目を瞑り、思索する。泡の量は、残り少なかった。
尭深と言えば痴漢という風潮は何故なのか。
痴漢ダメ絶対。