麻雀天使堕天計画 作:クラリス
ここのところの松実宥は、昼間は麻雀でクレジットを稼ぎ、夜はレイジと体を重ねる毎日を繰り返していた。レイジとの行為は、強制されているわけではない。「来い」と言われて、言われるがまま彼の部屋を訪れていた。こんなことを続けていてはいけない、と思いつつも彼に縋ってしまう自分がいた。何よりも、開発された体は夜な夜な疼き、彼との行為を自然と求めるのだ。
しかし、ここに来て状況は一気に変化する。レイジが宥を拒否し始めたのだ。不審がった宥は、何度も彼の部屋を訪れることになる。
そこで見てしまったのは――
「ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ レイジさん♡ レイジさん♡」
レイジと繋がり、喘ぐ妹の玄だった。
気が付けば、逃げ出していた。自室に戻ってきた宥は、身をベッドに投げ出す。何が彼女をそうさせたのか、彼女自身整理できなかった。京太郎に続いて、レイジまでも――妹に対してそんな感情を抱いたのを、認められなかった。
「やあ、宥ちゃん」
翌朝、何食わぬ顔でレイジは宥の前に現れた。まるで、何もなかったかのように。軽薄そうな見た目通りの言動だった。
「最近会えなくてごめんね。昨日も訊ねてきてくれたんだろ?」
「そう、ですけど……」
彼と目を合わせられない。阿知賀女子学院の制服で包んだ自らの体を、宥はぎゅっと抱き締める。不安な素振りを見せる彼女に向けて、レイジは直球を投げてきた。
「昨日、見たんだろう?」
「!」
「俺と玄ちゃんがセックスしてるところ」
かあ、と宥の顔が真紅に染まる。脳裏に焼き付いた情事は、簡単に拭えない。ふい、と宥はレイジから目を逸らした。
「もしかして、怒ってる?」
「怒ってなんか、いません」
そう、怒る必要などない。レイジと自分は、体だけの関係なのだ。断じて、想いを寄せる相手などではない。
「俺の立場分かってるだろ? これが、俺の仕事なんだよ。分かってくれよ、宥ちゃん」
しかし、レイジはなおも言い訳を続ける。まるで浮気を咎められる男のように。宥が、怒っているという前提で話を進めていく。
「でも、こんなに嫉妬して貰えるなんて嬉しいなあ。いよいよ俺の事、好きになってきてくれたのかな」
「嫉妬なんか、してないです……っ」
か細い声で、宥は思わず反論していた。レイジと目を合わせると、彼はにやりと笑っていた。びくりと宥は肩を震わせる。
「本当に?」
「ほ、本当です……」
「本当にしてないって、言い切れる?」
「は、い……」
歯切れ悪く、宥は返事をする。当然レイジは納得などせず、彼女の両肩に手を置く。
「あ」
「信じられないなあ。仕方ないから、体に聞くとしようか」
「で、でも麻雀が」
「そんなの、俺がどうとでもしてあげるよ。今日は丸一日、俺に付き合うんだ」
宥が了承するよりも早く、レイジは宥の自室へと侵入する。手を引かれる宥は、逃げ出そうとしなかった。
あっという間にベッドに連れ込まれると、既に胸は高鳴っていた。今日はどんな責め方をされるのか、宥は無意識の内に期待していた。
「じっとしててね」
「え、や……」
取り出されたのは、長方形の布。その布を、素早く目元に巻き付けられてしまう。当然、視界は奪われ真っ暗闇に包まれる。恐怖を覚え、寒気さえ感じる宥だったが、背後からレイジに抱き締められるとほっと一息つく。ついてしまう。
「な、なにを、これは……」
「宥ちゃんの本音が聞きたいんだよ」
「ぁんっ♡」
豊かな乳房を、制服の上から揉まれる。開発された性感は、僅かなタッチで敏感に反応してしまう。どこから襲ってくるかも分からないレイジの手に、宥はドキドキしていた。しかし、レイジの責めは宥の想像を超えていた。
ぶうううん、と低い唸り声が聞こえてくる。その正体が何か、視覚を封じられた宥に分かるはずがなかった。――その先端が宥のスカートの中に入り、下着越しに秘所を刺激するまでは。
「ぁううっ♡ や、これ、これえっ♡」
「ふふ、気持ち良いかい?」
スティック型のバイブだった。手とはまた違う、細やかな振動ならではの感触が、宥を責め立てる。
「んんんぅうっ♡ あうっ♡ んっ♡ ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡」
早くも、喘ぎ声を抑えきれなくなる。割れ目をなぞるようにバイブは動いたかと思うと、今度は乳房に押し当てられる。的確に乳首の周辺を周回し、焦らすように刺激を与えてくる。
「ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ や♡ ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ ダメ♡ これ♡ んううっ♡」
かと思えば、またもや股下へとバイブが移動する。陰核を直接狙わず、しかしすぐ近くを、やはり焦らすように刺激してくる。この頃には、下着ははしたないほどにぐっしょりと濡れていた。
「あったかいかい、宥ちゃん」
「はい♡ あったかい♡ あったかいです♡」
がくがくと顎を引き、ハイになった宥は何度も頷く。声には媚びる色が多分に入り混じっていた。さらにレイジは断続的にバイブで責めてくる。次にどこから責めてくるか宥はパターンを読めず、翻弄されるばかりだった。
「はぅうう♡ ぁうううぅっ♡ ……ふ、ふぅ……♡」
もう少しで絶頂を迎える、というところでバイブが離れる。と思ったら、
「ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ や♡ ん、ううっ♡」
別の性感帯を、責められていた。これももうちょっとで気持ち良くなれる、というところで止まってしまう。
「はー♡ はー♡ はー♡ はー♡」
荒々しく呼吸する宥。視界を奪われた分、触覚がさらに働きいつも以上に感じていた。
一方で、一度も絶頂を味わっていなかった。寸止めされていたのだ。レイジがわざとやっているのは、明白だった。
「あ、あのぉ……♡」
「なんだい?」
「そ、そのぉ……♡ れ、レイジさん……♡」
媚びるように、レイジの膝の上で宥は空腰を使う。むっちりとしたお尻が動く様はそれだけで獣欲を満たしてしまいそうだ。それは、何度も宥を犯したレイジとて例外ではなかったが、彼は自制した。
「だから、なんだい?」
「レイジさんの、意地悪……♡」
いつもなら、察してくれるというのに。今日は、とぼけられてしまうばかりだ。レイジがわざとやっているとは気付かず、宥は「レイジさん♡」と名前を呼び続ける。
「何かして欲しかったら、はっきり口にしてもらわないと」
しかしレイジは、甘くなかった。ベッドの上では宥を優しく扱ってきたレイジが用意した、卑劣な罠。これまでの全てが、この時のためにあったといっても過言ではない。
ごくりと宥は生唾を飲み込み、
「い、イかせてくださいぃ……♡ レイジさんに、宥はイかされたいんですぅ……♡」
言った。言い切ってしまった。矜持が崩れ落ちる音を聞きながら、宥は自分を止められなかった。
しかし、レイジは宥のおねだりにもつれない態度をとる。ここからが本番だった。
「イかせて欲しいならさ。認めてよ」
「え……?」
「嫉妬、してたんでしょ?」
宥の体温が、さらに上昇する。認めてはならない、認めてはいけない最後の一線。京太郎が原因ではなく、レイジと玄が繋がっていたからこそ芽生えた感情。即ち、レイジに心が傾いていた証左。認めてしまえば、後は転がり落ちるだけ――そう、宥は心の底で理解していた。だからこそ、認められなかったのだ。
「ねぇ」
「っ♡ ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ ん、う、ふぅ……♡」
僅かにバイブで恥部を刺激され、快楽に染まる。だがそれも一瞬だった。刺激が失われると、後ろ手にレイジの体を縋り求める。
「嫉妬、してたんでしょ?」
「それ、それはあ……♡」
真実であったからこそ、認めてはならない。ならないのに、昂ぶった体が言うことを聞いてくれなかった。
「最後のチャンスだ。嘘をついたら、もう二度とイかせてやらない。――嫉妬、してたんでしょ?」
「~~~っ♡」
もう、限界だった。
「して、ましたぁ♡」
言った瞬間、心が軽くなった。今まで想い人に対して抱えていた罪悪感から、逃れられる気がしたのだ。勿論、決して消える事の無い罪悪感ではあるが。しかし、宥は叫ぶように宣言する。レイジの思うままに、口を開く。
「嫉妬、してましたっ♡ 玄ちゃんとレイジさんが♡ せ、セックスしているところ見てっ♡ すごく、嫉妬してましたあっ♡」
「良い子だ。それで、その後はどうしたんだい?」
「……っ♡ へ、部屋に戻って♡ レイジさんを、レイジさんをっ♡ レイジさんを想って、オナニー、したんですぅっ♡」
今までやらなかった行為。やったとしても、思い浮かべる顔は後輩の彼だった。しかし昨夜の宥は、違った。
この答えはレイジも予想していなかったらしく、実に嬉しそうに笑って、
「よくできました」
「あううぅっ♡」
バイブの動きを激しくする。さらにレイジの空いた手が乳房を揉みしだく。弱点は知り尽くされていた。
「ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ イク♡ 宥イク♡ 宥イっちゃうのっ♡ ぁ♡ ぁ♡ ぁ♡ あ♡ あ♡ あ♡ あ~~~っ♡」
びくびくと体を震わせ、宥はようやっと絶頂した。焦らされた分と、ついに認めてしまったレイジへの想いが過去最高潮のエクスタシーを宥に与えた。
「……はっ、はっ、はっ、はっ♡ あ、ぅう……♡」
目隠しの下で涙さえ浮かべながら、宥は恍惚の表情を浮かべる。与えてくれる快感はどこまでも甘美で、奈落の底にまで落とされる気分だった。
しゅるり、と目隠しが外される。眼前には、レイジの顔。
「んっ――♡」
自ら、宥は彼に口付けていた。
「んじゅ♡ ちゅううっ♡ レイジ、さん♡ んちゅ♡ レイジさぁん……♡」
「ようやく、自分の気持ちに気付いたみたいだね、宥ちゃん」
「ちゅう♡ んちゅ♡ ……ぅ、ぇ、自分の、気持ち……?」
「そう。好きになってくれたんだろ? 俺の事」
直接的に訊ねられ、宥は恥ずかしげに接吻を止めた。未だに残る彼女の迷いを、レイジの舌が打ち崩していく。
「んんむっ♡」
「――ほら。言ってごらん」
「わ、わ、私、は……♡」
靄がかかった思考回路。目の前には、自分を気持ち良くしてくれる相手。自分を、大切にしてくれる人。甘えさせてくれる男。頼れる人間。
「レイジさんが……好き、です……♡」
「本当? 彼の事はどうしたの?」
「須賀君、は……、良いんです。もう、良いんです。私は……レイジさんが、好きになっちゃったの……♡」
これまでいくら責められても超えなかった一線を超え、宥は己の中の感情を認めてしまう。錯覚なのか真実なのかは宥にすら分からないが、問題は認めてしまったという事実だけ。他は、些末な事だった。口に出してしまった事を撤回などできず、後はもう転がるようにその道を進むだけだ。
「よし。じゃあもう麻雀する理由はなくなったね」
「は……はい……」
「それじゃあ、これに署名して」
レイジが取り出したのは、一枚の紙だった。大文字で書かれた書類名は、「敗北宣言書」。穏やかではない名前に、宥は戸惑う。そんな彼女を安心させるように、レイジはあすなろ抱きで彼女の体を抱き締めた。
「これはね、君を守るための宣言書なんだよ」
「私を、守るため……ですか」
「そう。これに署名したら、君は俺のものになる。この城で君に手出しできるのは俺だけになる。このまま麻雀勝負を続けたり、麻雀を放棄したりしたら、待っているのは訳も分からない男達からの陵辱だ。例えば、こんな奴とか」
レイジが見せてきたのは、丸々と太った男の写真だった。それは妹を犯した男の一人、レイジであったが、生理的嫌悪感を抱かせるには充分な外見だった。
「い、嫌です……」
「だろう? あるいは、輪姦されるかも知れない。俺は宥ちゃんにそんな酷い目にあって欲しくないんだ。俺も、宥ちゃんが好きだから。愛してるから」
「あ……♡」
さらに強く抱き締められ、宥の口からは安堵の息が漏れ出る。最早、レイジが心の拠り所だった。
「この敗北宣言書に署名さえすれば、宥ちゃんは俺が守ってやれる。他の奴は手出しできなくなるんだ。だから、書いてくれよ宥ちゃん」
「分かり……ました」
逆らう理由は見つからず、宥はこっくりと頷いた。好きな人に頼まれて、嬉しいくらいだった。ペンを渡され、書類に名前を書こうと立ち上がろうとするが、レイジに足をとられ四つん這いに為れてしまう。
「れ、レイジさん?」
「宥ちゃんは書く事に集中してて。俺は――」
「ん、ふぅ、うぇっ♡」
「宥ちゃんを、気持ち良くしてあげるから」
レイジは後背位で、宥の秘部を貫いた。充分に濡れていたとはいえ、不意打ち気味の性交に宥は目を白黒させる。それも一瞬、宥は眦をとろんとさせていた。これが、ずっと欲しかった。
「はっ♡ はっ♡ はっ♡ はっ♡」
犬のように舌を突き出して、息を荒げる宥。レイジが動かなくとも、挿入れられてるだけでイってしまいそうだった。そんな彼女に、レイジは無慈悲な指示を下していく。
「宣言書の要旨を読み上げてから、署名してね」
「は、はいぃ……♡ んっ♡」
四つん這いになったまま、宥は視線を敗北宣言書に落とす。そこに書かれている無情な文面の内容に思考を回すことなく、本能的に口を開いていた。
「わ、私、松実宥はぁ……♡ んっ♡ 麻雀での勝負とぉ♡ あんっ♡ す、須賀京太郎の救出を永久に放棄してぇ♡ んうっ♡ レイジさんにぃ♡ 身も心もぉ♡ あぅっ♡ 捧げる事を♡ んんうっ♡ ち、誓いますぅっ♡」
時折膣奥をノックされながら、宥は何とか宣言する。そして、震える手で署名欄に自分の名前を綴っていく。途中何度もイきそうになりながら、何とか書き上げた。
「で、できましたぁ……♡」
「ありがとう宥ちゃん。これで君は俺のものだ」
「あ……♡」
支配される暗い喜びに、宥は頬を緩ませる。しかし彼女はまだ気付いていなかった。この宣言書に署名した意味を。もう二度と帰れない道を歩き始めてしまった事を。真に大切な想い人との関係を、自ら断ってしまった事を。
「動くよ」
「あ……ふっ♡」
宣言書を拾い上げ、満足気に頷いたレイジが腰のストロークを始める。途端に宥はその手からペンを落とした。彼とのセックスは、何度味わっても格別だった。そして今、全てのわだかまりから解放された彼女は、一際大きな嬌声を上げる。
「あんっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ これ♡ これ♡ これぇっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡」
「これが、どうしんだい?」
「良いの♡ レイジさんの♡ レイジさんのおちんぽに突かれるの♡ 良いの♡ 宥は♡ 宥は大好きなの♡」
「それだけじゃ、ないよねぇ」
「……ぁう♡」
レイジの言わんとする事は、すぐに分かった。これまで頑なに認めてこなかった気持ちを、認めろというのだ。文面だけでない。宥自身が、自らの意思で言わなくてはならなかった。
「好き、です……♡」
「うん? なんて言ったの?」
「私はぁ……♡ レイジさんがぁ……♡ 好き、ですぅ♡ 大好き、です……♡」
媚びた声で、宥は告白する。しかし腰の動きを止めたレイジは、それでもまだ満足しない。宥の耳元で、悪魔の囁きをした。
「……っ♡」
宥は一瞬戸惑いを見せたものの、言っていた。
「須賀君の事は、もうどうでも良いですっ♡ 私が好きなのは♡ レイジさん♡ レイジさんだけ♡ レイジさん以外どうでも良いの♡ 好き♡ 大好き♡ レイジさん♡」
「嬉しいよ、宥ちゃん。やっと俺の想いが伝わったんだね……!」
「あぅうっ♡」
しがらみから解き放たれた宥は、レイジに突かれる快感を一身に受け止めていた。これまで以上の快楽だった。
「すご、すご♡ だめ♡ だめだめ♡ レイジさん♡ レイジさん♡ レイジさん♡」
「良いよ、宥ちゃん。やっぱり君は最高だ……!」
「あう♡ うぅ♡ レイジさん♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ レイジさん♡ レイジさん♡ レイジさんっ♡ 好き♡ 突かれるのも♡ レイジさんも♡ 大好き♡ あったかい♡ あったかいの♡ レイジさんが一番♡ 一番あったかいの♡」
レイジに開発された体と、彼との相性の良さ。昂ぶりに昂ぶった想いが、解放される。もう、宥を阻むものはなにもなかった。結合部からじゅぶじゅぶと愛液が止めどなく溢れていく。淫猥な光景の中、宥は顔をとろけさせていた。
「だめ♡ もうだめ♡ イク♡ 宥イク♡ レイジさん♡ 宥イっちゃう♡ イっちゃうの♡」
「ああ、イっていいんだよ、俺も出すぞ……!」
「やぁっ♡ 一緒に♡ 宥♡ レイジさんと一緒にイク♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ だめ♡ イク♡ イクイクイク♡ 宥イクうううぅっ♡」
激しく気をやりながら、宥はレイジの精液を受け止める。背中を仰け反らせ、口から唾液がこぼれ落ちる。その後しばらく、中だしアクメの余韻に浸っていた。
「だ……めぇ……♡ あったかいのぉ……♡ ――んちゅ♡」
ベッドに横たわり、恍惚とした表情を浮かべる宥へとレイジが口づけする。悩む間もなく、宥はそれに応えて舌を絡めていた。その日は一日中、宥はレイジと愛し合った。幸福で、暖かな時間だった。間もなくそれが崩れ去るのを、知らずに。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
翌日、目覚めて身を清めた宥は、しばらく呆然としていた。自分が選んだ道。自分が選んだ男。正しいとは言えないのを、彼女は正しく理解していた。しかしながら、今更逃れられるわけではない。
「レイジさん……」
求めるのは、愛する男。危険を犯して麻雀をせずとも、彼が守ってくれる。彼が全てを与えてくれる。ぬくもりも、何もかも。マフラーを巻き直して、レイジの部屋に向かった。
「おはよう、宥ちゃん」
「レイジさん……♡」
チャラ男に対して、宥は微笑みを浮かべて駆け寄る。ぎゅっと抱き締められると、それだけで幸せになれた。
「あの、その、レイジさん、今日も……?」
ちらちらと、期待の眼差しで宥はレイジを見上げる。既に下腹部が疼いていた。レイジは無言で宥の手を引いてベッドに座らせる。どきどきする宥だったが、どういうわけかレイジはテレビの電源を入れた。
「宥ちゃん、これ、覚えてる?」
「あ――」
映った画面は、すぐに目を逸らしたくなるものだった。音声こそ消されているが、悲しい記憶の映像。京太郎と妹の玄が、性交している絵面だった。この映像のせいで、宥は生まれて初めて妹の頬を張った。さらに想い人は美穂子とも愛し合い、彼の不純さを知った。裏切られた、と宥が感じ、優しく接してくれたレイジに傾倒していったのも無理はなかった。
「こ、これが、どうかしたんですか……?」
「ネタ晴らし、しようと思ってね」
「ネタ……晴らし?」
意味が分からず、鸚鵡返しに宥が訊ねる。その内に、画面が切り替わる。
ベッドの上に半裸で倒れ伏せた玄。意識はないようだ。その脇には、それまで交わっていた京太郎が座っていた。ずきん、と胸の傷が痛む宥だったが――驚くのは、そこからだった。
びりり、と京太郎の顔が「剥がれた」。出てきたのは、似ても似つかぬ男の素顔。ぽかん、と宥はしばらく呆けていた。何が起きたのか、理解が追いつかない。
「分かるかい?」
ぽん、とレイジが宥の肩に手を置く。
「あれは、偽者の須賀京太郎君だったわけだ」
「……ぇ……?」
「玄ちゃんも、須賀京太郎君も、君を裏切ってなかった訳だ。むしろ玄ちゃんは被害者だね。なのにお姉ちゃんから引っぱたかれたり、可哀想だな」
「あ……あ……ぁ……」
顔面蒼白になる宥。自分のやってきた事、やってしまった事を思い出す。
そして――始まりの時から、騙されていた事に気付く。
「れ……レイジ、さん」
「なんだい、宥ちゃん」
「貴方は、貴方は……! 私、を……!」
「股を開いたのは、君の方だよ」
明け透けなレイジの物言いと、豹変した空気にひっと宥は声を詰まらせる。
「思ってたよりもチョロくて助かったよ。まあ、その後は体の相性が良すぎたってのもあるだろうけどね」
「レイジ、さん……!」
「怖い顔して、どうしたんだい? 宥ちゃんにそんな顔は似合わないよ。乱れてとろけた顔が君にはお似合いだ」
「ふざけないで、くださ――んんっ♡」
必死に反抗しようとする宥の口を、レイジの唇が塞ぐ。即座に口内へと舌が侵入してくる。噛み切ってやりたい、宥らしからぬ暴力的な思考が生まれた。それほどまでに宥は怒っていた。何もかも、レイジの掌の上だった。騙されて、縋らされて、抱かれていた。自分に対する怒りも、燃え上がる。
「んぅっ♡ んっ♡ んっ♡ んじゅうっ♡ んちゅうっ♡」
だが、レイジとの甘いキスが全てを奪い去っていく。バカにされているというのに、宥は抵抗できなかった。
「んちゅ♡ んじゅるっ♡ ん、ふっ♡ ――ぷは……♡」
「ふふ、相変わらず美味しい口だ」
「レイジ、さん……!」
彼の胸板を突き、距離を取ろうとする宥。だが、力で敵うはずもなかった。
「こんなこと、してる暇はないんです……! 須賀君を、麻雀を……!」
「何を言っているんだい、君は敗北宣言書に署名したんだ」
「ぁ……」
「もう、彼のために戦う権利もないんだよ、君には」
「……う、嘘」
「嘘じゃない。君自身が決めたことだ」
絶望する宥は、なおも抵抗しようとする。レイジの魔手から逃れようとする。しかし、あっという間にベッドに押し倒されてしまった。
「嫌、嫌、やめて、やめてください!」
「今まであれだけ愛し合ってきたのに、酷いなあ宥ちゃん」
「それは、貴方が騙したからで……!」
「でも、喜んでいたのは事実だろ?」
「う、うぅ……」
「まあ良いよ。今日は初めから嫌がる宥ちゃんを犯すつもりでネタ晴らししたからね。その上で、宥ちゃんが俺を愛するようになってもらうから」
残酷な言葉を、あっさりと口にするレイジ。バカな事を、と宥は憤るが、レイジの手がロングスカートの中に侵入すると恐怖で身を震わせる。
「や、やめてください、だめ、だめだからっ」
「止めるわけないでしょ? 宥ちゃんも期待してたんでしょ?」
「してませんっ、やだ、助けて、助けて須賀君!」
「彼は君が見捨てたんだよ」
「や、あ、ん、んううううっ♡」
下着の上から陰核を刺激されて、宥は激しく身悶えた。さらに阿知賀女子学院の上着のボタンを、レイジは器用に外していく。
「おや」
「ん、ふうぅっ♡ だ、めぇっ♡」
「ブラ、してないじゃないか」
「っ♡ そ、それはあ♡ ん、や、そこっ♡」
「初めからやる気満々だったってわけだ」
「ちが、違いま――んうっ♡ や、寒いぃっ♡」
シャツのボタンも外され、立派な乳房がさらけ出される。
「俺が暖めてあげるよ。いつも通りにね」
「い、いや、だめ、だめ――あぅううっ♡」
レイジのざらついた舌が、宥の乳房をはいずりまわる。唾液の温もりがどこまでも不快で、そして心地よかった。気が付けば、宥は熱い吐息を漏らしていた。最低の男に犯されつつあるというのに、体はしっかりと反応していた。
「ん、う、ふうっ♡ や、やめ♡ やめぇ♡ う、んんんっ♡ や、やめて♡ やめてぇ♡ だめ、レイジさん♡」
「甘い声で止めろと言われても止められないな……!」
「あぁ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ やぁ♡ もう♡ もうやぁ♡ あっ♡ あっ♡ だめ♡ レイジさん♡ だめぇ♡」
「ほうら、俺みたいな男にイかされる気分はどうだ?」
「や♡ いや♡ イキたくない♡ イキたくないのに♡ あ、あ、あ♡ 胸も♡ あそこも♡ 気持ち良くて♡ あ♡ あ♡ あ♡ イク♡ イク♡ 宥イクの♡ レイジさんに♡ イカされるの♡」
調教の成果は如実に出ていた。嫌悪しているはずなのに、仕込まれたとおりに絶頂宣言する宥。無意識の内に、口が動いていた。
「はー♡ はー♡ はー♡」
「準備は万端だね」
「や、やめ、もう、嫌……♡ もう、貴方となんか、したくない……♡」
「ここはそう言っていないよ」
脱がされた下着と黒スト。その最奥に秘部を、レイジの指がくぱぁ、と押し開く。どろりと粘度の高い愛液がこぼれ落ちた。
「本当はしたいって思ってるんでしょ?」
「……そ、そんなこと」
思っているわけがない。この男は、最低最悪の人間だ。自分を騙し、妹を辱め、仲違いに導いた。その上で、体を弄ばれた。嫌って嫌って、嫌い尽くしてもお釣りが出てくるだろう。
しかしながら、レイジのペニスが眼前に迫ると。
「ぁ……♡」
宥は、とろんと目尻を下げていた。自分を何度も何度も気持ち良くしてくれた肉棒。本心では、分かっていた。これに、逆らえるわけがない、と。
「挿入れるね、宥ちゃん」
「待……ってっ♡ や、もう、嫌……♡ レイジさんと、したくなんか……♡」
「分かった、じゃあ止めよっか」
「ふぇ……?」
あっさりと引き下がるレイジに、宥はぽかんとする。無理矢理犯すのではなかったのか。自分は助かったのか。しかし、にやにや笑うレイジの顔を見て察した。自分からねだれ、と言っているのだ、この男は。そのような卑劣に負けるわけがない、と宥は思った。が、
「あ、う、ふぅ……♡」
体は疼く。一度達せられた体が、レイジのペニスを求めていた。ここで求めた瞬間、残された宥の矜持は全て瓦解する。分かっていた。分かっていたが、もうどうしようもなかった。
「れ、レイジさん……♡」
「どうしたんだい?」
「お、お願いします……い、入れて、下さい……♡ 寒い、の……♡」
羞恥心も全て打ち捨て、憎い相手に宥は懇願する。最低の気分だった。同時に、最高の気分だった。潜在的な被虐の才覚が、開花する。
しかしながら、レイジはにやにや笑うだけで入れようとしない。
「一度拒否しといてそれ? 都合良すぎじゃない?」
「れ、レイジさんだって、嫌がる私を犯すって、言ったじゃないですか……♡」
「無理矢理とは言っていないよ。俺とは嫌だって思っていながら、それでも耐えきれなくなった宥ちゃんを犯す……ってのもアリだからね」
「う、ううっ♡」
「ほら。色々口上は教えてあげたでしょ。宥ちゃんは頭が良いんだから、どう言ったら一番俺をその気にさせられるのか、考えてみなよ」
涙を零しながら、宥は考える。既に犯されるのが前提になっている事から目を逸らしながら、レイジを喜ばせる内容を考えた。そして、おずおずと口を開く。
「レイジ、さん……♡」
「なんだい?」
「レイジさんに騙されていた私、ですけどぉ……♡ それでも、やっぱり、レイジさんが……レイジさんが、好き♡」
それを口にした事で、宥は理解する。この言葉が、本心であると。好きになってしまった気持ちは、偽りではないと。
「好きなの♡ レイジさん♡ 好き♡ 好き好き♡ ばかな、私ですけどぉ♡ 玄ちゃんを叩いちゃった私ですけどぉ♡ レイジさん♡ レイジさんに愛して貰いたいんですぅ♡」
「それだけかい?」
「……♡ 須賀君は♡ もう忘れます♡ レイジさんだけ♡ レイジさんだけ見てます♡ レイジさん♡ 大好き♡ レイジさんとのセックスも♡ 大好き♡ 須賀君なんか♡ もうどうだっていいの♡」
「ようしよし」
「あうう~~~っ♡」
沈められていくレイジのペニス。その暖かさに癒されながら、宥は、目の前の男と口づけを交わす。もう、妹の姿も想い人の姿も頭の中から消えていた。
「あ♡ あ♡ あ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ レイジさん♡ レイジさん♡ レイジさん♡」
「良いよ、宥ちゃん。良い、良いぞ」
「イク♡ また宥イク♡ 大好きなレイジさんに♡ イカされる♡ 宥イカされるの♡」
いつもより強く突かれながら宥は、絶頂を迎えた。何もかも失った彼女だったが、これだけは逃さぬといわんばかりに、レイジの腰を蟹挟みで固定する。レイジもまた、宥の中へと思う存分注ぎ込んでいた。