※この作品はR-18です。

麻雀天使堕天計画   作:クラリス

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松実宥-01(変則脱衣麻雀の罠)

 阿知賀女子学院と言えば、今夏のインターハイで奇跡の大躍進を見せたお嬢様女子校である。地元奈良で無類の強さを誇る晩成高校を破り、十年前乗り越えられなかった準決勝を突破し、決勝でも大活躍を見せたのだ。

 そこで先鋒・次鋒のラインを形成していたのが松実玄と松実宥、通称松実姉妹である。妹の玄と姉の宥は、まとう雰囲気こそ正反対だが、いずれも見目麗しい美少女であった。また、二人とも抜群のプロポーションを誇っていた。まさかのノーマークの登場に、少女達の体を視て愉しむ人間達は歓喜に打ち震えた。

 そして、その姉妹二人ともが、「例の彼」に思いを寄せているという事実が、彼女達を古城へと誘った。

 

「おはよう、おねーちゃん。起きて」

「ん……おはよう、玄ちゃん」

 

 ――数多くの少女達は、単独でこの城に拐かされた。しかしこの姉妹は例外で、二人一組で攫われ、同じ部屋で寝泊まりをしている。並の精神力の少女なら緊張の糸が切れて倒れ込んでいるであろう状況に、二人は互いが互いを励まし合いながら何とか乗り切っていた。

 姉である松実宥は、てきぱきと朝の準備をする妹の玄を眺めながら、立ち上がる。人よりも弱い自分を、いつも守ってくれるのは彼女だった。姉として、多少なりとも返せたものがあるとすれば、麻雀だった。

 この状況も、鍵を握るのは麻雀である。賭け麻雀でこの城での通貨「クレジット」を稼ぎ、囚われている想い人を救うのが宥達の目的だ。決して得意と鼻に掛けるわけではないが、それでも麻雀という土俵でなら人並み以上に戦える自信が宥にはあった。

 事実、この三日間、玄と協力しながらではあるものの、大黒字を出していた。大量のクレジットを彼の救出に使用しても、二人分の生活用品を買う余裕があった。ローテーション用の制服もそれぞれ二着――何故か阿知賀女子の制服しかなかった――に加え、宥用の厚着も仕入れることができた。

 

「今日も頑張ろうね、玄ちゃん」

「了解ですのだ!」

 

 ぴしり、と敬礼を決める玄。そこに一切の影は無い。

 同じ少年を、二人は好きになってしまった。本来なら悩む場面なのだろうが、宥はむしろそれが嬉しかった。玄で無ければ、こんな気持ちにならなかっただろう。こうして何の奇を衒う必要もなく、共に彼の救出に望めるのが唯一の希望だった。

 案内人に連れられて、部屋を出る。四日目ともなると、城内の構造も見慣れてきて――少なくとも自室の周辺は――歩き慣れたものだ。

 ただ、今日は一点様子が違った。

 

「松実宥様」

「は、はい?」

 

 案内人と思しきスーツ服の男が、もう一人現れる。

 

「本日は、宥様は別室に移動して貰います」

「えっ、それじゃあ対局は――」

「詳細なルールは後に説明致します。少なくとも今日は二人一組の麻雀ではありません」

 

 宥は、心配げに玄の横顔を覗き込む。これまで二人だったのが、急に一人になるなんて、不安しかない。あったかくない。けれども妹は、にっこり笑って答えてくれた。

 

「私は一人でも大丈夫だよ、お姉ちゃん!」

「玄ちゃん……」

 

 妹にこうまで言われてしまうと、宥は何も言えなくなる。ここで姉である自分が怯むわけにはいかなかった。

 

「気を付けてね」

「お姉ちゃんこそ」

 

 頷き合い、姉妹は路を二手に分かれる。こうしている間にも、案内人の男達から注がれる視線にいやらしいものを宥は感じていた。――ここは、そう言う場所なのだ。決して、気を抜いてはならない。

 案内された部屋に、宥は深呼吸を一つしてから入った。

 ――そこは、今までと違う部屋だった。まるでビジネスホテルのように狭く、麻雀卓はない。代わりにあるのは、シングルベッドと、薄型テレビが一台、それから三脚に備え付けられたビデオカメラだけだった。

 

「ここは……?」

「ようこそ~、松実宥ちゃん」

 

 戸惑う宥を招くのは、金髪の、実に軽薄そうだ男だ。年齢は宥と大して変わらないだろう、大学生風の出で立ちに、女子校育ちであまり男性に免疫の無い宥は鼻白む。

 

「あの、貴方は……?」

「うんうん、宥ちゃんの疑問は分かるよ。でもいつまでも突っ立ったら疲れるでしょ? こっち来て座りなよ」

 

 男はベッドに腰掛けると、その隣をぽん、と掌で叩く。宥は躊躇いを覚えたが、この城で下手に逆らうのは悪手だと知っていた。

 

「し、失礼します」

 

 若干の距離を取りつつ、宥は男の隣に腰掛ける。目の前にあるビデオカメラから視線が注がれているようで、宥は胸元を隠すように身を捩った。

 

「あの、それで今日は……? 麻雀は……?」

「ああ、今日は宥ちゃんには休んで貰うんだ。打つのは妹の玄ちゃん。オーケー?」

 

 一々大袈裟なリアクションを伴って大学生風の男は解説する。珍しく宥は苛立ちながら、

 

「じゃあ、私は何をすれば良いんですか? 何もしないなら、玄ちゃんのところに――」

「ああ、ダメダメ。玄ちゃんには一人で打って貰うのが今日の主旨。で、彼女の応援をしながら君は俺の質問に答えて貰おうって感じの流れで。オーケー?」

「質問、ですか?」

「そうそう。俺、インハイから宥ちゃんのファンでさあ。色々訊いてみたかったんだよね」

「ファ、ファンですか?」

「そう、超ファンなんだよねー!」

 

 男は、決して宥との距離を詰めようとしない。なのに、宥は不気味さしか覚えなかった。

 

「っと、玄ちゃんのほうは対局が始まったみたいだね」

 

 男の言葉に、宥はテレビに視線をやる。そこでは確かに、三人の男と共に卓を囲んでいた。昨日まで、散々見た光景だった。

 

「玄ちゃん、頑張って」

 

 届かないと分かっていながら、宥は小さな声で応援する。そんな彼女の横顔を、男は実に愉快そうに見つめていた。

 

「じゃあ、こっちも始めようか。なあに、何も賭けない気軽な質問さ。それどころか全部答えてくれたらクレジット50000、プレゼントしちゃうぜ」

「ほ、本当ですか!」

「ああ。俺は嘘は吐かない主義なんだ」

 

 宥は、一度押し黙る。――ただ質問に答えるだけだ。今モニターの向こう側で戦っている玄は、下手をすれば性的な嫌がらせを受ける可能性だってあるのだ。それを思えば、軽いものだろう。

 

「分かりました。こ、答えます」

「良いね良いね~、宥ちゃん良いよ~。怯えながらも卓では涼しげな顔を作って頑張ろうとする姿に俺やられちゃったんだよね」

 

 そんな褒め言葉も、全然嬉しくなかった。愛しの彼に言われたのならともかく、得体の知れない相手なのだ。

 

「それじゃあさ――まず一つ目。今宥ちゃんが助けようとしてる彼なんだけどさ。やっぱり好きなんだよね?」

 

 直球な質問に、かあああああ、と宥は頬を染め上げる。ぷい、と顔を背けて、しかし答えないわけにはいかなかった。

 

「……す、好きです」

「あー超羨ましいぜそいつ。でもま、今宥ちゃんと二人きりでいるのは俺だからいっか。じゃあ、次の質問。そいつとの馴れ初めは?」

「……インハイで、風に飛ばされた私のマフラーを拾ってくれたんです。それから連絡先を交換して、話してる内に……」

「へー、青春って奴だねぇ」

 

 もうこんな恥ずかしい質問は止めて欲しい、と宥は願った。

 それが叶ったのか、

 

「じゃあ次は趣向を変えよう」

 

 男はそう言った。期待して宥が顔を上げると、

 

「宥ちゃんのスリーサイズを教えて欲しいなぁ」

「スッ……!」

 

 今度もまた、直球である。しかも最低なセクハラだ。しかし答えないわけにはいかず――モニターの向こうで玄が和了した――宥は口を開こうとする。

 

「あ、ちょっとまって。その前のビデオカメラに向かって答えてね」

「えっ」

「それでちゃんとこの様子を録画してるから。できるだけ笑顔を作って。さん、はい」

 

 さん、はいと言われても。

 宥は、凝り固まった首を曲げる。ぎぎぎ、と鈍い音が響くようであった。この、カメラの前で答えなければならない。今までも、答えていた。羞恥心に宥は顔が真っ赤になる。自分の上昇した体温であったかくないのが、唯一の幸運だった。

 

(逃げちゃ、だめ)

 

 すぅ、と宥は深い深呼吸し、玄と彼を思う。

 俯かせていた顔を上げ、ビデオカメラに向けて微笑んだ。

 

「……上から、94、56、83です」

「うっひょー、やっぱり良い体つきしてるね。本当に十代なの?」

「そ、そうです……」

 

 なおも微笑みを作ったまま、宥は答える。生まれて初めての、辛い笑みだった。

 

「じゃあ次。経験人数は?」

 

 躊躇えば躊躇うほど、この男を喜ばせる。分かっていながら、宥は言葉を詰まらせた。

 

「経験人数だよ、宥ちゃん。セックスした相手の数って言い換えれば分かるかな?」

「ぜ、ゼロです……」

「良かった、処女だったんだね。嬉しいよ」

 

 何が嬉しいのか、聞いてしまうのが怖かった。もう宥は心を凍り付かせる。

 

「週に何回オナニーするの?」

「…………さ、三回くらい、です」

「結構やるんだあ。えっちだなあ。でもこの城に来てからずっと玄ちゃんと同じ部屋でしょ? ちゃんとオナニーしてる? 欲求不満なんじゃない?」

「べ、別に……」

「別にじゃなくてさあ。むらむらってなるかどうか答えてよ」

「……ちょっと、します……」

「ははは、健康な女子高生だね宥ちゃんは!」

 

 何だこれは、と宥は泣きたくなった。麻雀でもなく、何をさせられているのだろう。ビデオカメラのレンズが、宥の心を射貫いていく。

 

「オカズは彼なのかな?」

「そう、です」

「どういう風にオナニーするの? 触る場所は?」

「胸と、あそこを……触るだけ、です」

 

 ふぅん、そうなんだ、とにやにや笑いで男は宥の全身を舐め回すように見つめる。その視線から逃れるように、宥はビデオカメラに集中する。

 それからも、セクハラ質問は続いた。この録画された動画が、どういう風に使われるかなんて考えたくも無かった。

 

「じゃ、50000クレジット」

「あ――」

 

 じゃらじゃらと、クレジットとなるチップが宥の胸元に零される。泣きそうになりながら、宥はそれを全て受け取った。

 

「っと、質問タイム短すぎたね。まだまだ玄ちゃん頑張ってるよ」

「な、なら――」

 

 宥は逃げるように腰を浮かしかけるが、

 

「おっと、玄ちゃんが対局を終えるまではここにいてもらうよ」

 

 男に肩を掴まれ、無理矢理座らされる。男の手の感覚が、たまらなく嫌だった。

 

「――それじゃあ、もう一つゲームをしよう」

「げ、ゲーム?」

「そう。今ここで俺達が見守ってる玄ちゃんの賭け麻雀。これを使って、俺達もゲームをするんだ」

 

 まるで玄をおもちゃにするような扱いに、宥は憤りを覚えた。感情表現が苦手な彼女はそれを口にすることはなかったが、既にこの時点で彼女はかき乱されていた。

 

「宥ちゃんは、玄ちゃんの勝利を信じてる?」

「も、もちろんです……!」

「ならさ。玄ちゃんの結果次第で、宥ちゃんがその服を脱ぐっていうのはどうだい?」

「えっ」

 

 言葉を詰まらせる宥をよそに、男はルールを説明する。

 

「玄ちゃんが振り込んだら二枚。玄ちゃん以外がツモ和了したら一枚宥ちゃんが脱ぐんだ、ビデオカメラの前で。ゲームは玄ちゃんの対局が終わるまでか、宥ちゃんがこれ以上脱げないって言うまで。ただし脱衣拒否した場合か、脱げる服がなくなったときはペナルティだ」

「……そんなことをして、私に何の得があるんですか」

「玄ちゃんが手に入れるクレジットを、百倍にしてあげよう」

「!」

 

 それは、とんでもない額になる。さっきの50000クレジットなどはした金で、一気に彼の救出が近くなる。なによりも、これはある意味で玄との協力だ。ここで手をこまねいて玄の様子を見ているよりも、充分有意義だった。

 それに――この相手に、玄が大負けするわけがない。妹への強い信頼が、彼女にはあった。

 

「受けます」

「良い答えだよ、宥ちゃん。そういうところに俺は惚れたんだ。それじゃ行こうか、姉妹愛の、変則脱衣麻雀だ」

 

 ときめきもなにも感じなかった。

 宥は、食い入るようにテレビ画面を見つめる。玄は既に、持ち前のドラ麻雀による火力で他を圧倒していた。

 

(玄ちゃんが、負けるはずが無い)

 

 確信を持って、笑みさえも宥は零す。

 だが、変化は次の局に訪れた。

 

「えっ!」

 

 玄が、振り込んだのだ。テレビからは音声は伝わってこない。しかし確かに玄は、素直に点棒を支払っている。間違いなかった。

 

「よぉし、宥ちゃん二枚お願いね。なんでも良いよ」

「……く、靴とマフラー、で良いですか?」

「良い良い、他の娘ならマフラー認めないところだけどね、宥ちゃんのトレードマークだもん、認めちゃう。――ほら、ちゃんとカメラを向いて脱ぐんだよ」

「は、はい」

 

 言われたとおりに、カメラを向く。靴とマフラーだけ。大したことはない――はずだが、どうしても嫌な気分だった。

 綺麗に脱いだ靴を揃え、ベッドの上にマフラーを畳む。一気に寒くなった気がした。そう言えば、空調が効きすぎている気がする。宥にとっては、辛い状況だった。

 

「あの、エアコンの温度、上げて貰えませんか?」

「え? やだよ」

 

 宥の願いは、一蹴された。

 

「俺、暑いの苦手だから。この部屋俺のだよ?」

「……はい」

 

 気の弱い宥は言い返せず、再びベッドに座る。

 今度こそ、と宥は念を送って画面を見つめる。だが次は、他のプレイヤーにツモ上がりされてしまった。

 不自然な流れは――なかったはずだ。相手が格下とはいえ、玄も毎局和了できるわけではない。だが、宥は僅かな違和感を感じていた。

 

「さ、早く脱いでね」

 

 男に促され、宥はベッドを立つ。

 ゆっくりと、ピンクのベストを脱ぎ去る。下のシャツは薄く、桃色のブラが透けて見えた。その事実に気付いていた宥は、頬を朱に染めた。

 またベッドに座ろうとし、しかし、

 

「待って、宥ちゃん」

 

 男に制止される。宥は、モニターを見上げた。そこにあったのは、再び振り込んだ玄の姿だった。

 どうして急に、こんなことが――宥の頭は混迷を極める。しかし、男は残酷に続ける。

 

「二枚、脱いで」

「……っ!」

 

 この男の前で、これ以上裸体を晒すのは嫌だった。だが、一度受けた勝負から逃げ出すことが許されるとは到底思えなかった。

 ロングスカートをまくり上げ、パンツは見えないように、黒ストッキングを脱ぐ。その動作が、男達を喜ばせるとは知らずに。

 

「ほら、次はどれかな? スカートかな、パンツかな、それともブラを先に?」

「……、シャツを、脱ぎます」

 

 そして、宥はシャツのボタンに指を掛ける。ぷつ、ぷつ、ぷつ、と外れていくボタンは、しかし一定のペースではない。指先が震えるのは、寒さと恐怖両方からだった。

 ふわりと、シャツが床に落ちる。拾い上げる余裕はなかった。はっきりと、桃色のブラに包まれた宥の豊満な乳房が露わになる。

 

「カメラの前で、笑ってみせてね。そのくらいのサービス精神見せてよ」

「……! は、はい」

 

 その要求に、わけもわからず宥は応えた。誰にサービスしなくてはならないのだろうか。両手で胸を隠すが、背中と足先の寒さは拭えない。

 

(あったかく、ない……!)

 

 涙が零れそうだった。だが、泣いたら敗北を認めるようで宥は我慢した。

 だが、ここからきっと玄は持ち直してくれる、と宥は信じていた。妹への信頼は、何よりも勝っていた。

 だと、言うのに。

 

「う、嘘……」

「あーあ。また玄ちゃん振り込んじゃったよ。じゃあ、脱いでね。もう残り少ないけど、どうする?」

「……う、うう……」

 

 限界、であった。

 羞恥心も。冷えた体も。気のせいではなく、どんどん部屋の気温が下がっていた。

 

「もう、脱げません……!」

 

 上下の下着とスカートを残したまま、宥はギブアップする。この先にどんな罰ゲームが待ち受けているか、考える余裕もなかった。

 

「割と早かったねー、まあ宥ちゃん寒いの苦手だもんね、仕方ないよ」

「う、ううう……」

 

 服を着ようとする宥だったが、その手を止められる。

 

「ちょっと何してるんだい、脱いだ服はそのままだよ」

「えっ」

「それもペナルティの一部だから」

 

 男はそのまま、宥の体を背後から抱きすくめる。途端に宥は悲鳴を上げた。

 

「い、いやっ」

「おいおい、そんなに嫌がらないでくれよ。あっためてあげるんだからさ」

「そんなの要りませんっ!」

「これがペナルティだよ。宥ちゃんの肌で、今夜一晩俺を暖めてくれよ。宥ちゃんにとっても嬉しいだろ? そんな姿で眠ったら、宥ちゃん凍え死ぬよ」

 

 その可能性は、冗談ではなく、本当にあった。確かに、男の肌は暖かい。だが、そのまま身を寄せられるわけがなかった。強い嫌悪感が、宥を躊躇わせた。

 

「それにしても、玄ちゃん、下手打ったねぇ。姉にこんな姿させちゃってさ。今もコレ、録画されてるんだぜ」

「く、玄ちゃんは悪くない、です。麻雀はそういうゲーム、なんだから、んんっ」

 

 もぞもぞとお尻をまさぐられ、宥は短い悲鳴を上げる。男はさらに嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「果たして、そうかな?」

「え、えっ? どういうこと、ですか? ――やだ、お尻触らないでっ」

「暴れるなよ、宥ちゃん。――実はな、玄ちゃんはこっちの部屋で宥ちゃんがこんな目に遭ってるって、知らされてたんだ」

「……っ?」

 

 言葉の意味が分からず、宥は男の体の中で首を捻る。その隙に、ブラの上から乳房を掴まれた。

 

「やんっ」

「でね。宥ちゃんが俺とのゲームに負かすことができれば、玄ちゃんには特典が入るって寸法だったんだ」

「と、特典っ? あ、やだそこ、止めてっ」

「止めない止めない。――特典ってのはね、君達の愛しの彼に会えるって話さ」

 

 男の手から逃れようと、もがいていた宥の体がぴたりと止まる。「え……?」という疑問符と共に、潤んだ目で男を見つめる。

 

「つまりさ。宥ちゃんは、玄ちゃんに裏切られたってわけ。男と一目会うため、君を売ったんだ」

「う、嘘……」

「嘘なもんか。今の対局の牌譜が見られぜ、完全にわざと振り込んでるよこの子」

 

 画面が切り替わり、男の言葉通り牌譜が表示された。麻雀を深く理解している宥だからこそ、一目で分かった。ツモ見逃しに、テンパイ崩し、その他、エトセトラ、エトセトラ。全て、他の男達を和了させるように動いていた。

 

(玄、ちゃん……)

 

 涙が一滴、ベッドの上に零れる。

 ふっと、宥の体から抵抗の力が失われた。男はこれ幸いと、彼女の体をベッドに押し倒した。

 

「これから明日の朝までずっと一緒だぜ、宥ちゃん。安心してくれ、体を暖め合うだけだ。君の大切な処女をこんな簡単に奪ったりしないぜ。――ま、他は色々させてもらうけどな」

「んんっ」

 

 スカートを捲り上げられ、下着の上から指を這わされる。さらに男は、

 

「んんんーっ!」

 

 強引に、宥の唇を奪った。こればっかりには目を見開き、宥はもがく。だが、男の力には到底敵わない。強引に舌で唇を割られ、ちゅうちゅうと吸い上げられる。

 一度男は口を離すと、

 

「舌、絡めろ」

 

 と短く命令した。

 再び、男は宥の口を塞ぐ。最初、宥はそんな命令に従わなかった。だが、男は五分、十分と、たまに呼吸を挟みながら、何も言わずに接吻を続けた。舌で宥の唇をなぞり、歯をなぞり、宥の舌をつつく。

 

「あっ――」

 

 たまに口が離れると、宥の口から甘い声が漏れ出た。唾液の橋が、二人の口を結ぶ。じゅるる、とそれを飲み込みながら男はさらにキスを続けた。

 キスが、一時間を超えた頃。

 

「や、ん♡」

 

 無自覚に、宥は相手の舌技に応じ始めていた。こうするほうがあったかい。こうするほうが気持ち良い。裏切られた心は、本能に抗えなかった。

 

「良いぞ、宥ちゃん。その調子だ」

 

 そこで男はようやく、久しぶりに声を上げた。心細さを感じていた宥は、ほっと一息吐く。嫌悪感しかなかった男に、僅かながらも安心を覚えた。――覚えてしまった事実が、宥を更に苛んだ。

 キス責めを一旦止めた男は、宥の体を起こす。対面座位の形で、男は宥の体を抱き締めた。男の両手が、スカートの上から宥のお尻を鷲掴みにする。

 

「ゃんっ♡」

 

 キスで出来上がっていた宥の体は、たやすく反応した。思わず発した嬌声が、今まで発したことのない類のもので、宥は自分自身が信じられなかった。

 

「良い声だぜ。もっともっと、あったかくしてやるからな」

 

 完全に調子乗っている男の唇が、

 

「な、やあっ!」

 

 ブラを押し退け、宥の左の乳首に触れた。ちゅうちゅうと吸いつかれ、右の乳首は指先でこりこり転がされる。

 

「ぁ♡ ぁ♡ ん♡」

 

 短くか細い喘ぎが、断続的に続く。男の性技は、完全に宥の経験を上回っていた。自慰では得られない感覚に、もはや宥は逆らえない。寒さからも逃れるように、男の背中に腕を回す。

 

「のってきたね、宥ちゃん。良いよ、嬉しいよ、やっと俺の気持ちが分かってくれたんだね。――んぷっ」

「ちが♡ 違うの♡ あったかくない、だけだから♡ だめ、お尻だめ♡ 胸も、やだ♡」

 

 否定の声は、全て甘ったるく、誰が聞いても信じられなかったろう。両の乳首は唾液まみれになり、再び男の口は宥の口へと移動する。

 今度は何のタイムラグもなく、宥は舌を絡めていた。

 

「んちゅ、じゅる、んんんん、ゃ♡ これ♡ やだ♡」

「――ぷはっ、良いぜ、好きだぜ、宥ちゃん……!」

 

 髪を撫でられ。肌に舌を這わされ。体のあらゆる場所にキス痕を刻まれ。

 宥の性感は、着実に開発されつつあった。

 

(あった……かい……須賀、君……)

 

 宥の思考には、暖かさと彼の顔しか思い浮かばない。温もりの正体は、逃避するかのごとく、考えなかった。

 




次回も松実姉妹編を予定しています。

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