試験会場に三人で向かう俺達。トイレで時間を潰したおかげか、他にも武偵校を受けるような人が辺りに見受けられた。左右にはやはり理子とリサのたわわに実る果実が押し付けられている。周りからの目が少し冷たいが、俺も二人も気にしていない。受験届けを一度教務科で受理するために、受ける科がバラバラな俺達も、周りの人々も教務科へ向かっていた。教務科の建物に入る扉を開けると、むわっとした暖房の熱気が目を霞ませる。エントランスホールには結構たくさんの人がいて、雑然とした雰囲気が感じられた。
受理を済ませて建物をでようとした俺達の目に飛び込んできたのは、どこかで見たことがあるような光景だった。
「あっ、あのっ、やめてくださいっ!!」
「いいじゃんよー、連絡先だけでも、な?」
「俺達も試験で急いでっし、早くしよーぜー?」
試験会場まで来てナンパか、と呆れて俺達は通り過ぎようとしたが、ナンパされてる女の子は端的に言って、可愛かった。ぱっちりとした青みがかった黒目に艶やかな黒髪。この場にいるということは受験生、つまり中学三年生のはずだがソレとは思えない絶世のプロポーション。微かな色気を感じさせる困り顔。ナンパ目的のナンパ退治。卑怯だが俺のほうがナンパ男より百倍マシだ。これはもう助けないわけにはいかない。
「理子、教務科の人を誰か呼んできてくれ」
「おっけだよぉー」
「リサは近づかないようにな、それともしもの時は治してくれ」
「かしこまりました♪」
そう言って二人は俺から離れていく。本当に出来た女だ。ここは、俺も甲斐性の一つや二つでも見せないいけないだろう。
「大丈夫か?」
「おいっ!オメー何割り込んでんだ!」
「はっ、はい!ありがとうございます!大丈夫です!」
そう言いつつも少女の脚は震えている。そこの蝿の大声が怖いのだろう。ここは安心させてあげるのが男の務めだ。
「安心しろ。お前は、俺が、必ず守ってみせる」
「あっ…」
こんなキザったらしいセリフを言っても似合うほど今の俺の顔はカッコいい。親に感謝。
「無視すんなよテメェ、何邪魔してくれてんだ!?」
「うるせぇぞ、俺とこの娘の時間だ。お前こそ邪魔すんじゃねえよ」
今俺はこの少女に俺という存在を植え付けている最中なのだ。この少女は絶対に俺の女にするとさっき固く誓ったんだ。
「テメェ女二人連れてた癖に何ほざいてんだ!」
「邪魔すんじゃねぇぞガキ!」
そう言ってナンパ野郎は殴りかかってくる。俺のスカした態度に考えるより先に手が出たようだ。相手の鋭いだけのパンチを軸をずらし躱す。CQCに自信があるわけじゃないが、怒った野郎の直線的なパンチなんて目を瞑っていても避けることができる。こちらから手を出すまでもない以上、反撃をせずにただ避け続けて教務課がくるまでの時間を稼いでいると、いつの間にか周りにはギャラリーが出来て、俺達を囃し立てていた。
「やれ!色男を潰せ!」
「あんな奴殺しちまえ!」
「キャー頑張ってー!」
「豚野郎を倒してー!」
随分過激な応援だ。それにしても応援の男女比が偏っている気がする。俺を応援する声は甲高い声ばかりである。素晴らしいことだ。
「おいっ!そこっ!やめろ!殺すぞっ!」
やっと理子と一緒に教務課の先生方がやってきた。長いポニーテールをたなびかせ走ってくる大女。意外にもその顔は整っている。コイツ、もしかして、香港の「貴蘭會」か。ヤバさを思い出し俺は身震いした。確か名前は蘭ぴょ……
「死ねっ!!」
次の瞬間蘭豹は凄まじい勢いでナンパ男を殴りつけ、壁までふっ飛ばした。その光景のあまりの衝撃にギャラリーは静まり返る。過激すぎる対応をしておきながら、顔色一つ変えない蘭豹。しかも腰にはS&WのM500。『象殺し』として有名な拳銃だ。
「そこの男子、着いてき」
有無を言わせぬ口調で失神した男二人を引きずりながら言われる。俺に拒否権はなかった。
「じゃあ、またいつかな」
「はいっ、ありがとうございました!」
ナンパから助けた少女にに別れを告げ、少し離れていた理子とリサにはマバタキ信号で先に行っているよう伝える。さて、俺も無事に入学するため、誠心誠意謝罪しなければなるまい。