pixivに投稿しました同名タイトルの同一作品です。
既読の方はご注意ください
指先ひとつで、人の感情が推し量れるものだろうか。
ベッドのしわが、少し水気を含んだ打音と共に伸びては縮む。
脳が覚醒していくうちにつれ、目の前の人差し指に、黄色がかったクリーム色の髪が絡んでいることに気付く。
「あっ……ああぁっ!」
誰かの嬌声と共に、水滴が目の前を通り過ぎる。
少し体が重かったが、頭の霧は徐々に晴れてきている。リーシャは横たわった自分の体から、彼から注がれた白濁液が漏れ出していることを自覚すると、今は誰が貫かれているのか、ぼんやりと思い浮かべた。
髪の色合いからゼタかヴィーラか。いや光の加減で明るくなっているだけで、カタリナかソーンかもしれない。
この場所に秩序はなかった。
あるのは肉欲と肉欲の貪りあい。リーシャの眼前の指先が力強くシーツを引っ掛けると、甲高い嬌声の後、力を失って伸びきっていた。
(ヴィーラさん、でしたか)
嬌声と、彼を求める猫撫で声が入り混じって判別はしにくい。それでも絶頂の高ぶった声だけは特徴的だった。
リーシャは瞳を閉じる。今日は誰よりも早く散々に気持ちよくしてもらって、疲れていた。それでも今グランが置かれている状況はわかる。
「あひ……あへぁ……」
バックの態勢で貫かれていたヴィーラは、男根が引き抜かれたと同時に自分の仲間入りをしたことだろう。
「グラン……次は、どうする……? んちゅ、ちゅぅう」
カタリナが彼へ枝垂れかかりながら、期待を込めて彼の顔中にキスをしている。
「ふふ、グランの好きな順番で大丈夫ですよ。まだまだ元気ですから、ちゅうぅ」
ルリアが彼へ横から抱き着いて、カタリナと挟み込むようにしてグランへキスをしている。
「すごい……二回も出したのに、まだ全然元気……!」
「最初のときも思ったが、本当に底なしだな君は……」
ソーンとシルヴァが、ヴィーラの膣内から抜け出したペニスへ口を近づけ、吐息をかけながら感嘆している。
「ん、あっねえ、そろそろ、こっちも一回イかせてよ……! んあぁんっ」
「せ、せつないよぉグランゥ……もっと強くしていいからっあっふあぁあっ!」
ゼタとベアトリクス、それぞれの彼の手で陰部を慰められ、優しさの愛撫から高みへのスパートを懇願する。ほどなくひどい水飛沫が二人から発射され、グランは指を引き抜くと、今度はソーンとシルヴァへ。
「んっこれも好きぃ……いっぱいいじってね、グランっあぁんっ」
「本当に、日に日に君はうまくっ……あぁあ!」
じゃあペニスは誰だろう。ルリアの「あっ」とした声がふさがれ、カタリナが「ふふ」と慈愛のこもった笑みをこぼす。
ずぷんっ。
ルリアの喜びの嬌声が響く。
「あああぁああっ! あっダメっ、こ、こんなのすぐにイっちゃ、カタリナぁ」
「かわいいよルリア…………ちゅっあむっちゅうう」
ルリアは正常位で貫かれ、カタリナはそんなルリアの体に指を滑らせ、グランと三人同時に舌をからめていく。
(正解、かな)
果たしてリーシャは脳内の想像を終えると、目を開けて視線を下に答え合わせをする。
意識が完全に飛んで突っ伏しているヴィーラ。息絶え絶えで横たわるゼタとベアトリクス。
以下省略して、想像の通りだった。
(もう少しお休みして……後二人、ぐらい? そしたら、また彼に抱き着いて……)
体力回復、時間のサイクルを計算して、今夜の計画をたてていく。
これがリーシャの夜の日課。モニカや秩序の騎空団の面々が知ったら卒倒しそうな現実。どっぷりと浸かって抜け出せなくなって、どれほどの日数が経ったのだろう。
この騎空団に入る前までは、男性と交わることですら赤面して想像できなかったというのに。
半開きの口から涎が流れてベッドに染みを作っていたが、リーシャはぬぐおうとも、恥ずかしいとも思わなかった。
興味は再びヴィーラへ。薄目を開けて、彼女の力の失った指先を見る。
幸せそうな余韻、呼吸に合わせて微動していたかと思うと、痺れたように時折跳ね上がる。きっと数分前の自分も、同じようにしていただろう。
「ん……」
ヴィーラの指が跳ねた勢いで、先がリーシャの唇に触れている。
爪が指先から出ないよう、よく手入れされている。リーシャも彼と関係を持ってから、入念にチェックしている。
(皆さん、同じことしてるんですね)
妙な親近感は、不思議と心地よかった。ちゅぷりとヴィーラの指先がリーシャの唇の間に入り込んできたが、リーシャは受け入れて軽く吸った。
ヴィーラに意識はまだないだろう。それまでは、体の回復の余暇に口遊びをさせてもらうことにする。
男だけでなく、うら若き乙女たちとの肉の狂演。どんどんと身体的接触に遠慮がなくなってきていると、リーシャはヴィーラの指を吸いながら思った。
「ガロンゾに着いたら、先の船底の破損個所を最優先に見てもらいましょう。概算は出しましたので、問題がなければ承認をお願いします」
「おお悪いな、助かるぜ。うん、さすがだな。我らの団長もほれ、少しづつ覚えてかねえとな」
リーシャが書類を渡した先、ラカムが素早く目を通して問題がないことを確認すると、隣のグランへと手渡す。
グランは神妙な面持ちで、抜けがないかじっくりと確認している。リーシャが信用されていないわけではなく、グランは依頼と書類の作り方から覚えなければならない。
真剣なグランに、ラカムはわしゃわしゃと嬉しそうに団長の頭を撫でている。
リーシャにとっては慣れたものだった。ラカムとオイゲンが別件で忙しかった為突然の依頼だったが、リーシャはかつて船団長として秩序の騎空団運営に努力してきた。無論、ガロンゾへの修理依頼も直接は多くなかったにしろ、必須の知識として心得ている。
グランはそうではない。だが、
(彼ならすぐに、多くある庶務にも精通するでしょう)
リーシャは自分のことの様に、喜びながら確信していた。機械工学に夢中になっていたかと思うと、最近医療技術も学び始めたグラン。
それでいて武技や魔法は精錬されるばかりなのだから、彼にできないことを探す方が難しいのではないかと、リーシャは思い始めている。
「そんじゃあ俺は定期点検行ってくるから、後はお二人でよろしくな。いい機会だグラン。リーシャに色々教えてもらえ」
「え、あのちょっと」
ラカムが恋のキューピッドを気取ってそそくさと場を離れると、後にはリーシャとグランが残された。
グランはこれ幸いにとリーシャを部屋に誘った。団運営において、リーシャの右に出るものはそうはいないだろう。
「え、これから……ですか!?」
だがグランと二人きりという事実に浮かれていたリーシャは別の意味で受け取ったようで、まだ陽は高いのに、と赤面して大声を出してしまっていた。グランは固まってしまう。
「あ」
だがグランの誘いがいやらしい意味ではないと、リーシャは悟った。
「ご、ごめんなさい。団のこと、ですよね、はい……」
(わ、わたし、なんてはしたない……!)
グランも苦笑いするしかない。そう取られても仕方ないと思った。予定していた依頼が早く終わって滞在に余裕ができた時などは、同行していた”特別な女性”と一日中宿から出てこないこともままあったからだ。
グランは団内において、様々な分野のプロフェッショナルから学ぶ機会が多い。リーシャもわかっていたはずだったが、どうにもグランのこととなると正常な判断ができなくなってきている。
(団長さんは、ちゃんと夜と普段のことはわきまえている。私が浮かれちゃダメ……)
リーシャも頭の切り替えができれば後は集中できる。グランの部屋に行き、同じテーブルについて様々な予定表や試算について彼へ教授し、気付けば高かった陽が空の底へと沈み始めている。
きりのいいところで、グランから休憩を提案した。
「はい、今日はこの辺にしておきましょうか? グランさんも、お忙しいでしょうし……」
リーシャさえよければ是非続けてほしいとグランは微笑み、リーシャも快諾する。リーシャも釣られて微笑みながら、グランが入れてくれた紅茶に口をつけた。
(美味しい……そういえば、あの夜の時も、こんな風に二人で一緒のテーブルで……)
紅茶の色を眺めるリーシャ。ふとした時に訪れる彼との時間が、暖かく心地いい。
彼と特別な関係になって幾日たったのか。素肌を合わせて狂乱に酔うのは、麻薬的な中毒性がある。リーシャ自身、もう彼の女なのだという自覚はあった。
こうして彼と過ごす何げない二人きりの時間も、楽しい。団のことについて話し合い、他愛ない雑談に興じ、お茶や菓子に舌つづみを打つ。
対等で、気心の知れた仲間。しかし今、それ以上のことはしていない。
(彼の恋人、なんですよね。一応、私……)
先日、グランから”特別な女性”達に発露された、平等の恋と現状の維持。ルリアとカタリナ、ヴィーラは快く受け入れていたように見えたし、ゼタはどこかさっぱりと達観しているようでもあった。ソーンとシルヴァは、まだリーシャからはよくわからない。
(彼と、こうして過ごすのは楽しいし、とても暖かい気持ちになれる……けれど)
目の前のグランは、自身で淹れた紅茶の味をじっくりと味わっている。
リーシャに対して、熱視線はない。
(私だけを見てほしい。私だけの恋人になってほしい。……そんな想いは、あきらめなければいけないんでしょうか。他に私みたいに、考えているひとは……)
心当たりはある。ゼタの隣にいた、少し騒がしい女性。だがリーシャは教義につかっていた資料が目に入ると、ふっと息を漏らして頭を切り替えた。
(……もう、何を考えているのやら。彼がまじめに団のために勉強しているのに、私が誘惑に負けてちゃだめですね。まだ、夜の彼ではないのだから……)
そうは頭で思っても、心は違った。今こうしている時間、彼と二人きり。まぐわいとはいかずとも、少しぐらい、恋人らしいことをしたい。
体を触れ合わせたり、軽く抱き合ったり、触れるだけのキスをしたり。リーシャの頭の中で、そんな映像が悶々と浮かんでは消えていく。
リーシャ。
「は、はい?」
浮かない顔をしていたリーシャ。彼女の考えている事、望んでいることを、グランは目ざとく察していた。色恋限定ではなく、他人が望んでいる事、求めていることや悩みを所作から察し、即座に行動に移ることができるのは、グランの天性の才能でもあった。
グランが立ち上がり、椅子を持って近づいてくる。リーシャは動かない。
対面に座っていたのが隣になり、太ももと太ももが横から触れる。
互い言葉はない。グランは能動的に、リーシャは受動的にだが、同じ期待を心に持ち始めていた。
……少し、甘えていい?
「………………はい、私も……」
互いの指が一つ一つ間断なく重なっていくたびに、リーシャの頬に紅がさしていく。
体を少し相手の方へ斜めにして、上半身を傾けておでこを合わせる。
リーシャは瞳を閉じて、グランの体温に浸った。鼻が触れ合うと、グランが片腕をリーシャの背中に回してそっと抱き寄せ、リーシャも抵抗せずにグランの懐へ。
自然、合わさったおでこ同士が上へ動き、唇が下から上がるようにして、互いに触れ合った。
触れたまま止まり、リーシャがグランの唇を吸う。キスの音が一度響き、お互い目を瞑ったまま、徐々に角度を変えて感触を深くしていく。
叩きつけられるような快楽ではない。じんわりと染み込んでいくように、心へ幸福が甘く浸食してくる。
(……好き……)
リーシャの中の葛藤が多幸感に塗りつぶされ、独占欲が満たされていく。乳房を揉みしだかれているわけでも、秘部をまさぐられているわけでもないのに、どうしてこんなに体の奥から熱を伴ってくるのか。
一度唇が離れ、紙一枚ほどの距離が空く。薄く目を開けて視線を交わらせ、再び閉じて二度目のキス。リーシャの腰が少しだけ曲がり、また元に戻る。
離れてはくっつき、角度を変えて水気を含む。舌は出さず、口先だけのキスをいつまでも続ける。
しかし2人の体の間隔は、確実に狭まっていた。服を着たままだが、互いの凹凸がはっきりとわかるほどに。
(グランさん……グラン、さん……)
リーシャが一度グランの唾液を吸い出して離れると、今度はすぐにキスを再開せずに、見上げるように視線をグランの瞳へ向ける。
潤んだ瞳と唇。彼女の火照った吐息が何を求めているのか、グランにはわかっていた。
「……夕ご飯まで、時間があまりないのは、わかっています。本来は、お勉強のための時間なのも、でも……!」
リーシャにそれ以上言わせてはいけない。グランは抱きすくめてリーシャの唇を唇で塞ぎ、次いで彼女の耳元で愛の言葉を囁く。
「ああっ……!」
リーシャの心が震えるような情愛に支配されていく。
グランは座ったままリーシャを抱きかかえて、対面するように自身の膝の上へと導く。ここまでくれば、リーシャもグランも言葉はいらなかった。やりたいことをするために、やるべきことをやる。
パサリとリーシャの下着が机の上へ放られ、グランのズボンのチャックが下ろされ、高まったその場所が外気に晒される。
「ふぅ……はぁ……!」
グランのそれを見降ろすリーシャの尖った唇から、悩まし気な吐息がグランへ振りかかる。
二人上半身は服を着たまま、リーシャはスカートもそのままだった。ただその内部だけが、糸を引いた涎でグランの剣をデコレートしている。
後は鞘に納めるだけ。前戯といえば、視線を交わらせて、抱き合ってキスをしただけ。なのに、狂おしいほどに、
(欲しい)
「はっ……あぁぁああっんんちゅうぅ!」
腰が下ろされ、グランとリーシャは余すところなく密着している。グランの舌はリーシャの口内へ差し込まれ、彼女の下部の口に包まれる分身と同じように、暖かく粘着質な肉で揉みほぐされる。
グランの一握りの理性は冷静に判断していた。時間的に長く激しくはできない。彼女の肉圧も液も、早く、ゆっくりとねっとりとその高みへと向かう。
二人の重みを負った椅子が、浅くゆりかごのように動く。必死に目を引き絞ってグランを痛いほどに抱きしめてくるリーシャ。グランはそんな彼女の頭、背中を撫でながら、リーシャの深く感じるところをコツコツとノックしていく。
リーシャからのアクションは、彼女の無意識だけで十分だった。彼女のキスは暖かく、けれども必死に吸いついて離さない。こんなリーシャを知っているのは自分だけだと、グランは沸々と起こった黒い気持ちに合わせて、彼女を染め上げるべく放出を求めていく。
(もっと……もっと……あっ……)
限界が近づくにつれ、リーシャの瞳が空いていく。昨夜、彼の女性達全てと寝床を共にして貫かれた時と比べ、今のこの交わりは考える余力があることに気付く。
快楽の波に飲み込まれるセックスじゃない。グランにコントロールされている、緩やかで粘り気のある性と性の律動。リーシャはグランに求められた興奮で、ただひたすらなだけだった。
(……私も、学ばないと。彼の様に……)
リーシャの抱きしめる力が弱まり、ぎゅうぎゅうに締まった様な肉の強張りが抜けていく。グランはリーシャの変化に驚いたが、さらに次の彼女の行動には目を見開いた。
「あむっ……れろっ……んちゅ……」
リーシャの舌がねっとりとグランの唇の外周をなぞり、唇を肉厚にすぼませて、男の舌を吸って揉んでいく。
グランに突き上げられるだけだった腰も、楕円を描くようにゆっくり動き始める。リーシャの気持ちのいい場所をグランへ教え、そしてグランの気持ちのいいところを探っていく。
揺らすようなスローテンポの腰つきで、視線を交わらせながら舌と唇で粘ついた音を奏でていく。
神経から快楽の信号が脳へ行くのではなく、脳髄の奥底から快楽が全身へ染みわたっていくような感覚。リーシャとグランは夢中になって相手を舐め、吸いつき、もっともデリケートな部分の境目をなくしていく。
(なんて……いやらしい気分……)
きゅう、きゅうと呼吸をするような感覚で、リーシャの中がグランの物を奥へ奥へと導こうとする。雌の本能を感じたグランもまた、自身の本能にしたがって我慢も遠慮もやめる。
それでも、大きな水音はたたない。ゆっくりと、深く押し付けることをくり返せば、十分だった。
「んんっ……んんぅう……!!」
ドク、ドクンと、リーシャのもっとも深い場所がグランの白い欲望で満たされていく。リーシャも震えて飛沫を漏らし、グランのズボンを汚してしまった。
だが、不思議と大きな嬌声は上がらなかった。
「んぶちゅうぅ……ちゅううぅ……じゅるる……」
二人の高みに至った瞬間行われた、グランの唇を全てのみ込んでしまうかのような、リーシャの大きく深く、すぼめて歪んだ口づけ。グランの唾液が全て吸い込まれたかと思うと、リーシャの泡をもった唾液がなだれ込んでくる。
陶酔し垂れた瞳のリーシャから、グランは目が離せなかった。最初彼女をリードしていたはずなのに、最後には彼女の腹の中に全て収められてしまったかのような、背徳的で腰が抜ける、幸福な脱力感に支配される。
リーシャから送り込まれた甘いジュースを飲み干すと、また彼女からお返しを求められる。クチュクチュと音をたてて送り込むと、こくりと彼女の喉の振動を感じたのち、唇が離れた。
「……はぁ……はぁ……ん……」
リーシャはゆっくりと息を整え、瞳を閉じると頭をグランの肩へ預ける。いつものリーシャなら行為を終えた後、はしたない自分の姿を思い出して身悶えするものだったが、今日はそれがない。
(グランさん……凄く、溶けたような顔をしてた……)
リーシャに刻まれた確かな記憶。
とろんとした瞳でリーシャになすがままになったグランのキス中の顔は、リーシャの心に新しい感覚の喜びをもたらしていた。
夜の交合に比べれば、この一時は極めて短かった。だが、これほどの密度はグランの記憶にも珍しい。
「……ズボン……汚しちゃいましたね……」
今更だった。グランは気にしないでとリーシャの背を撫で、リーシャもグランの手の往復に合わせて体を擦りつける。
体の波が引いてくると、切替は早かった。椅子と体を拭き、グランは下の衣服を変える。
密度は濃かったが、多幸感と行為自体のゆるやかさで、疲労は少ない。
「お勉強、どうしましょう?」
つい先ほどまぐわったその場所で、続きをやるのはどうも気分がきれてしまっていた。二人してくすりと笑ってしまう。
次の島に着くまでは時間があるから、夕ご飯を食べてから考えることにするとグランは伝えた。
「わかりました。急ぐものでもありませんしね……。では、もう少しだけ……」
隣り合って座る中で、リーシャは体を傾けてグランに寄りかかる。グランもまた、気持ちリーシャに体を寄せて目を閉じた。
(せめて、今だけはあなたと私だけで……)
彼の日常の中の非日常を、自分の色に染めることが一度できたと、リーシャはある種の手応えを感じていた。
「ふっ!? えええっつ!? グランを、独り占めしたいかっ、て……」
リーシャからの問いかけにベアトリクスは驚嘆して目を白黒させている。リーシャがあらかじめ自室に呼んでいたため多少の大声に問題はなかったが、ここまでの反応をされるとリーシャも言葉につまった。
グランが女性たちへ伝えた現状維持について、表面上渋い顔をしたのはリーシャと、目の前のベアトリクスだった。
「はい。グランさんはこのままの関係を続けたい。けれど、私や他の方も本心としては、グランさんと一対一でお付き合いしたいのではないか、と思ったんです。ベアトリクスさんは、どう考えていらっしゃいますか?」
「う、うーん……」
ベアトリクスは難しい顔で数秒うなり、絞り出すようにして答える。
「まあ、うん。そりゃあ、グランの一番になりたいし、できるなら私だけを見てほしいって思うけど……。ルリアとかもそうだけど、特にゼタがなあ……。ゼタもあんなにグランのことが好きだったなんて思わなかったし。それに、元々私がグランのことゼタに相談してて、それでゼタが遠慮してグランを好きだってこと我慢してたのなら、申し訳なくってさ……」
(友情と恋愛の板挟み、ということなんでしょうか)
「恋は戦争だっていうけど、グランだし、ゼタも一緒なら、なんかこのままでもいいかも、て思っちゃってる部分は少し、ある……」
ゼタとベアトリクスがグランと体を重ねた経緯は、リーシャも聞いている。
(親しくかつ、麗しい同性と一緒だと、そういう気分になるもの、なんでしょうか……)
リーシャにとっては想像の及ばないところではあるが、理由の一つして理解はできた。そういえば自身も、先の交合でヴィーラの指先を吸っている。
「あと……グランが誰か一人選ぶってなったら、選ばれなかったときに……ちょっと立ち直れないかもしれないし……」
「……」
リーシャとベアトリクスは沈黙する。ちなみにベアトリクスの沈黙の理由は別で、
(あんだけ毎日綺麗な人たちと一緒にくんずほぐれつってやってると、妙に気持ち良くて、どんどん抵抗がなくなってきてるていうのもあるけど……これは言わないでおこう。私はノーマルだからな!)
と、腕を組んでなぜか偉そうにしていた。
リーシャは掲示された情報を整理する過程で、
(そういえば、彼と複数で行為をしているときは、よくルリアさんが私にキスをしたり、色々してくるのが多いような……気をつかわれていた、のかもしれませんね)
と自分でも忘れていた要素を思い出して来た。
「こんなところかなあ。うーん、結局私も、現状維持、なのかなあ……うーん、わかんないっつごめん!」
「いえ、とても貴重なご意見をいただけて、ありがとうございます。早々答えは出せないものだと思いますし、大丈夫ですよ」
体だけの関係と割り切っていれば、リーシャもこうも悩むことはなかったのだろう。
(彼と一緒にいたい。今の状況の許容、行きつく先は……)
島によっては複数の妻をもつ文化もあることは、リーシャも知っている。
(彼と、船上で結婚式……)
新郎一人に、ずらりと並ぶ新婦たち。頭の痛くなる光景だったが、妙にリアリティと説得力があるのは、リーシャ以外の女性達が、隣の大切な同性を見て納得の表情をしているからだった。
ルリアとカタリナ。カタリナとヴィーラ。ゼタとベアトリクス。ソーンとシルヴァ。
それでは、リーシャにとっての――。
定期的に探索しているセフィラ島、その拠点にて。グランはモニカと合流し、島の調査の進捗と今後の予定について会議している。
リーシャも同席していた。会議がひと段落すると、自然、リーシャとモニカは近況について報告しあっていた。
「リーシャも元気そうでなによりだ。しかし、本当に会うたびにあの団長はたくましくなっているな。……いや、本当に……」
(モニカさん……)
グランを見るモニカの瞳に、少し違った色が混じり始めたのも仕方なかった。グランが歩く媚薬と化した存在ということを差し引いても、彼の身体と精神的な成長は、長く付き合いのある人ほど感嘆するものだった。
(ルリアさんのキス。ヴィーラさんの、指。ベアトリクスさんが言っていた……)
心通じ合う女性と共に、同じ男を愛撫する喜びがあるのだろうか。リーシャは知らない。
「モニカさん。以前シェロカルテさんとも相談した、薬品の件を覚えていますか――」
モニカを見つめるリーシャの瞳の色が、少しだけ妖しい。