※この作品はR-18です。

Drug prize   作:o-fan

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男主人公(グラン)×ヘルエス

pixivに投稿しました同名タイトルの同一作品です。
既読の方はご注意ください


Distance Breaker

 最初は唇だった。

「ん……ちゅ……」

 ヘルエスの心に残っていた後ろめたさと焦燥が、グランの唇の感触を味わった途端、泡がはじけるように消えていく。

 代わりに、無色透明だった神経に薄桃色のインクが一滴たらされたように、じんわりと確実にヘルエスを蝕み彩っていく。

「……はぁ……」

 ヘルエスの眼下のグランに、意識はない。眠っている。

 この宿の一室を形作っているのは、窓から差し込む陽射、小鳥のさえずり、ルリアとビィの静かな寝息。グランもそれと変わらない。

 ヘルエスだけが、淫蕩かつトロンとした瞳でグランの寝顔を見つめ、今しがた重なった自身の唇を指で撫でている。

 グランは寝返り、ヘルエスは思わず握っていた彼の手を離した。頬は赤に染めたまま、目と口を引き絞り、乳房の間に自身の握った拳を押し付ける。

(……私は、やってしまったのですね……)

 

『姉上、我々がこのアルスター島に滞在するのもあと数日……。これが過ぎれば、また多くの仲間たちと合流し空の旅となります。船に戻れば、団長殿と二人きりの時間を作るのは容易ではありません。この機会、逃すには惜しいと思われますが?』

『……話が見えませんよセルエル。団長殿と二人きりになって、特別何かしたいことがあるのですか?』

『いえ、私には今のところ。ただ姉上にはあるのでは、と思いまして』

『私が? 彼とはこの島に滞在してから毎日顔を合わせていますし、特にこれといったことはありませんが』

『……お主も苦労するの、セルエル』

『恐縮です、スカーサハ様』

『なるほどセルエル様! 確かに団長殿と集中的に鍛錬できるのは難しくなりますね。よし、それではさっそく団長殿を誘いにっ』

『待ちなさいノイシュ……』

『控えろノイシュ……』

『えっ』

 

 ヘルエス自身とぼけてはみたものの、気が利きすぎる弟の言わんとすることはわかった。

 グランを取り巻く女性関係は、明らかに変わり始めている。色恋にそう集中してこなかったヘルエスにも感じられるほどだった。

 先日「少し船離れるね」と言ったゼタとベアトリクスの部屋に入ったグランは、随分と長い”しばしのお別れ”を交わしていたようだし、依頼中グランの数歩後ろを歩くのが常だったカタリナとヴィーラは、今は彼の腕を掴む勢いで並んで歩いている。

 リーシャとシルヴァのグランを見つめる熱っぽい視線は子供でもわかるレベルで、ソーンとルリアは今までただでさえ近かった彼との距離感がほぼ0になってじゃれついている。

(それでいて、彼には明確な線引きがあるように見えますね)

 グランと距離感が縮まっている女性たちに一貫性はないものの、ヘルエスの見立てでは、前述の女性と、それ以外の女性とではグランからの扱いは違う。

 矛盾するようだが、グランが団員たちへむける好意に老若男女大小の差はないだろう。性交までの道のりに慣れた軽薄さをグランが身に着けたわけでもなさそうだった。

 だがまるでルリアを筆頭にした彼女たちが、『私はグランと特別な関係』と、心体から湧き出る幸せを抑えきれていないような、そんな風にヘルエスからは見えるのだ。

(もし)

 ヘルエスの記憶の中、グランが頬を赤く染め、ヘルエスのことを”女”として見てくれた事が一度ある。

(もしバレンタインの時、私が好意を匂わせるのではなく、明確に彼に伝えていたならば)

 彼と特別な関係に、なっていたのだろうか。手をつなぎ抱きしめあうことがあったのだろうか。

 ヘルエスはグランとルリア達が泊っている部屋を開け、その寝顔を見た。

 アルスター島滞在の中、グランは毎日警邏と、とある真龍の力の暴走の余波を受けた魔物の鎮静化に協力している。昨日も夜遅くまで警戒してもらったため、午前中はまるまる休むことになっている。

 とはいえ、昼前となれば揺り起こさねばなるまい。その役割を、ヘルエスは任された。

「……」

 ヘルエスは思わず笑みをこぼした。グランの寝顔は年相応の少年のもので、最近気だるげに見せる色気や、確かな自信に裏打ちされた余裕の笑み、一部の女性達の視線を思わず奪ってしまうような性の色が、今は失われている。

 これほどまでにヘルエスがじっくりとグランを観察できるのは、このアルスター島に滞在しているからに他ならなかった。

(時間が、ゆっくりと流れているようです。あなたの顔を見ていると……)

 ヘルエスはベッドに腰かけ、グランの前髪を手のひらでかき上げる。

 穏やかな時間だった。ヘルエスはずっと駆け抜けてきた。

 父王の愚行により祖国を失い、元皇女として惑う民たちをまとめ導き、アイルストの復興に全てをささげてきた。

 国はかつての隆盛にはいまだ至らず、しかし、民たちは互いに手を携え、自分たちの力で歩み始めている。ヘルエス自身が国を離れたことで、それは彼女の中で確信に変わった。

 ようやく、ヘルエスは自身の幸せや自由というものを意識しはじめた。その橋渡し役になったのは、目の前のこの少年。

 ヘルエスの銀髪が太陽に照らされる。あどけなく眠るグランに慈愛を向けるその姿は、まるで絵画の聖母のよう。

 ヘルエスは目を閉じて、少し体を傾けてグランの顔に寄る。セルエル・ノイシュよりも幼く落ち着きがなく、放っておけない存在。

 だが、彼女の人生にポジティブな風が吹き始めてから、その風に乗るように空へ導いてくれたのはこの少年。

(どうしてあなたと距離が近いと、浮かれてしまうのでしょうね。苦しい時は甘えなさいと言っても、あなたは日に日に強く、たくましくなっていく。あなたを意識してから、こんなに近くで存在を感じることができるのは、初めてのことですね……)

「あら?」

 ヘルエスが目を開けて声をこぼしたのは、ベッドについていたヘルエスの手が、グランに握られたからだった。グランが起きたのかとも思ったが変わらぬ寝顔、狸寝入りには見えない。

「……ふふ」

 間近にあるグランの表情がほぐれた気がして、ヘルエスも手を握り返す。

『この機会、逃すには惜しいと思われますが?』

「……」

 グランの隣には、ルリアとビィがいる。だが、ヘルエスの視界に入っていない。

(彼は、こんな香りがしたのですね。どこか甘く、濃く、これは……)

 ヘルエスの目の色が、ゆっくりと変わっていく。

 グランを取り巻く女性環境の変化に、ヘルエスは遅れている自覚があった。

 例えるなら、彼の心の線の内にいる女性と、外にいる女性。ヘルエスは後者。

 グランに「ヘルエスの事が好きか」と聞けば、迷いなく好きだと答えるだろう。だがその”好き”はきっと、ノイシュ、セルエル、スカーサハに向けるものと同じ。

 ヘルエスに「グランの事が好きか」と聞けば、これもまた同じ、好き以外の答えはない。

(……私が、あなたに向ける”好き”は、きっと……)

 ヘルエスは目をつむり、顔を落としていく。グランの顔に影が差し、その頬に銀髪の髪が一筋――。

「……ふ」

 ヘルエスはグランと顔と顔を触れさせぬまま、距離を取った。

(一回りも年が離れた少年の寝込みに、何をしているのやら。うららかな陽気にやられてしまいましたね。まったくセルエルも余計なことを……)

 気品ある笑みを取り戻したヘルエス。体を起こして、彼に声をかけよう。

 だがそれに抵抗するかのように、ヘルエスを握るグランの力が強まっていく。

(もう、こんな時に甘えなくても。いえ、意識のない相手にそう想う私が、どうかしていますね)

 グランの口が動く。そろそろ起きるだろうか、ヘルエスは予感して態勢をととのえようとする。

 しかし、グランがまどろみのまま発した声は、

「……!」

 ここにいない、線の内側の女性達の名前。

 ヘルエスの瞳が、グランの唇の艶に注がれている。グランからヘルエスに感染し、浸食し始めていた媚のウイルスが、へルエスの全身へ一気に駆け巡る。

(私の、”好き”は)

 衝動的というには情熱的、そしてあまりに素早く確実に、ヘルエスはその唇を、グランの唇へ重ねた。

 

 アイルスト王国郊外。

 付近の森林で魔物が暴れているとの報告を受けて、グランとヘルエス達は現地騎士達と協力して、魔物の鎮静化に成功した。

 その帰り道、ヘルエスの視線の先には、夕日に照らされながら大きく伸びをしているグランがいる。

「団長殿」

 ヘルエスの呼びかけで、グランははっとして丁重な姿勢に戻すが、ヘルエスは微笑みをこぼしながら、

「かまいません。もしよろしければ、これから共に街へ繰り出しませんか、あまりゆっくりとご案内したことはなかったでしょう。もちろん、ルリアさんたちも一緒に」

 と、優雅に銀髪を翻しながら、ビィにも視線を配り、グランとルリアの手を自然に握った。

 喜ぶビィと「わーい!」と無邪気に笑うルリアと対照的に、グランはヘルエスから手を握られたことに驚いていた。記憶が正しければ、こんなことは初めてだった。

 とはいえ、アウギュステでは互い日焼け止めを塗りあった仲。ヘルエスの性格を想えば、グランはいやらしい気持ちにならない。グランも自然に微笑み、ヘルエスの手を握り返す。

 対して、

(あまり、意識はしてくれませんか)

 ヘルエスとしては、実質的にはまだ地位と権力がアイルストにおいて、異性の手を握りながら街を歩くのは軽率というほかない。

 そのことがわかっていながら、ヘルエスはグランの手を握って街へ出発した。

 きっと、これぐらいのアクションとリスクを冒さなければ、ヘルエスとグランの仲は変わらない。ヘルエスの中で、それだけは確信があった。

「おお、ヘルエス様! いつも街のために、ありがとうございます!」

「ヘルエス様ぁ! うちの果物是非もっていってください!」

「ヘルエス様っ」「ヘルエス様!」

「ふふ、みなありがとう。あら、また食べ物をいただけましたね」

 目をきらめかせてリスのようになっているルリア、口元をもう何度もヘルエスに拭かれている。

 ヘルエスが大通りを歩くだけで街の人々には笑顔と活気があふれ、グランもまた街の人から食べ物などお土産をもらった。

 人々がこんな当たり前の日常を過ごすために、ヘルエスはグランと出会う前から粉骨砕身し、人生を捧げてきた。

 グランはそれを想うと、空の夢のことしか考えずに突っ走っている自らを省みて、気恥ずかしくなった。あまりに偉大で気丈、そんな彼女が、今は自分の騎空団の一団員で、当たり前のように手をつないでくれている。

 ばかりか、街に入ってからあまりにヘルエスと距離が近い。手をつなぐだけならまだしも、先ほどから肩、胸がグランへくっつき、顔と吐息も間近で、少し躓けば唇がついてしまいそうだった。

 ヘルエスの女を感じてどぎまぎし始めたグラン、その頬に赤みを帯び始めている。

(ふふ、ここまでやればさすがに意識してくれますね)

「はふぅ……」

 ヘルエスはわざとらしく吐息をグランの耳へ浴びせ、「とても楽しいですね」と、グランだけに聞こえるように囁いた。

 グランも目を見開いてヘルエスを見つめ返し、すぐに視線を外してこくりと頷いた。そんな二人を見たルリアが違った意味で頬を膨らませ、ビィは「やれやれ」と首を振る。

 だがそんなグランの反応に対して、一番リアクションが大きかったのは、しかけたはずのヘルエスだった。

(……!)

 ヘルエスがごくりと喉を鳴らした瞬間、彼女の下腹部が今までになく鼓動した。

(な……これは!?)

 ヘルエスの体が震え、頭の中がグランで埋め尽くされる。グランとの出会い、笑顔、勇ましく闘う姿が走馬灯のように浮かび上がり、次いで彼の素肌の上半身と、まだ見ぬ下半身の映像が脳内を駆け巡る。

「ヘルエスさん?」

 突然足を止めたヘルエスに、グラン、ルリア、ビィが心配そうに声をかけた。

 だがそこはヘルエス、気品のある佇まいを一切乱さず、

「少し、休憩といたしませんか? おすすめのカフェがあります」

 と一言。グランとルリアも了承し、店に入り休憩となった。

「お化粧を直してきますね。先にメニューを選んでいてください」

 はしゃぎながらメニューを眺めるルリアとビィ、グランはヘルエスの様子が少しおかしいと感じ、心配そうに彼女の背中を見つめていた。

(早くっ……!)

 カフェの化粧室に向かうヘルエスは誰の目にも映らなくなった瞬間小走りになり、個室に入るとすぐさまレオタードの留め金をパチンと外して脱ぎ去る。

「……!」

 自分でも驚くべき醜態だった。下半身のクレバスから粘度を帯びた液体があふれ、乳首がピンと張っている。

 ヘルエスの表情は紅潮していながら苦々しい。自身への軽蔑があった。

(この痴女め。団長殿を想い、自らを意識させるだけならまだしも、まるで発情した雌ではありませんか、こんなっ)

 ヘルエスは深く呼吸をして、布巾を手に取り丁寧に濡れた自身の体を撫でていく。

 大丈夫、自分は痴女ではなく淑女。愛する故郷において、心から信頼する友と共に余暇をすごしているというのに、どうして性欲がこんなにも巨大なのか。

(いえ、これは明らかにおかしい。しかし)

 自然体から外れた性欲のきっかけを、ヘルエスは外因に求めた。だが、思い至らない。

 代わりに脳内を埋め尽くすのは、グランの事ばかりだった。

 ヘルエスさん、そう彼が名を呼ぶときは、穏やかな笑顔、または凛々しさと精悍を併せ持った勇ましき男の顔。されど、そのどちらも明るさと愛嬌があり、話しかけられるだけで心が高揚し、言ってしまえば幸せになれるような、そんな感覚がヘルエスにあった。

 あなたの成長が見ていたい。あなたと同じ景色を見ていたい。

 姉のように成長を見守る心と、あなたの特別でありつづけ、そして隣にいたい独占欲。

 それをヘルエスが自覚したのは奇しくも、グランに特別な女性ができてからだった。

「グラン……」

 ヘルエスは個室の中で、「団長殿」ではなく、その名をつぶやく。気づいたときには、布巾は何度もヘルエスの濡れそぼったクレバスを往復していた。

 ヘルエスははっとして指を噛んで漏れ始めていた嬌声を殺し、足を大股に広げる。

(グラン……)

「ん……ぁあ……」

 ヘルエスの中でもっとも尊い彼の姿が浮かぶ。アイルスト王国の霊廟、そこで祈りを捧げるヘルエス。隣を見ると、神に全てを捧げるようなつつましさで、同じように祈りを捧げるグランがいた。

 次の景色は、つい数時間前に彼を起こしに行った時のこと。その唇の感触をヘルエスは思い出してしまった。

「んっ……ふっ……あぁ!」

 

「ヘルエス、やけに遅くねえか?」

「どうしたんでしょう? どこかお体が……」

 ルリアの心配にグランも同調し、様子を見に行こうとした時だった。

「すみません、だいぶお待たせしてしまいましたね」

「あっヘルエスさん! よかったあ、お体よくないのかなあって思っちゃって……」

「ありがとうございますルリアさん。ふふ、あなた方とこうしてゆっくりと過ごせるのは貴重ですから、つい化粧に念を押してしまいました」

 そう言うヘルエスの姿はいつもより艶やかだった。身についた気品はそのままに、女性的な美しさと温度と湿度が増している。

 そんなヘルエスにルリアは「ぽっー……」と魅了されてしまったようで、グランもヘルエスの胸元から首のライン、そして美しすぎるヘルエスの顔を凝視してしまった。ヘルエスはその視線が心地いい。ビィは店員にアップルパイを頼んでいる。

 ヘルエスが席に着いてから、グラン達は紅茶とケーキに舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせる。冒険の事、アイルストの事、新しく入った団員の事。

 時間を忘れる楽しさの中、ヘルエスの口数がどんどん少なくなっていく。代わりに、グランを見つめる時間が増えた。

「ヘルエスさん?」

「え、あ、はい。失礼しました、なんの話でしたでしょうか?」

「おいおい、大丈夫かあ? さっきからぼうっとグランのこと見てばっかりで、心ここにあらず、って感じだぜぇ」

「なっ、これは大変失礼しました。少し、日々の疲れが出ているのかもしれません」

 グランもそれは仕方ないと返した。アルスター島に来るたび、ヘルエスが八面六臂の活躍をしているのは誰もが知っている。

「ですが、心配はご無用です。団長殿、ルリアさん、ビィさんとこうして過ごす時間が、今は何よりも癒しになります。セルエルやノイシュ相手だと、どうしてもいい格好をしたくて気を張ってしまいますから」

「そっかぁ、皇女の姉ちゃんも色々大変だよなぁ」

「ええ。ですがこの大変さ、私は好きでもありますから。ごめんなさい、また、化粧室に……」

 和やかなひと時の反面、どうもヘルエスの調子がおかしいとグランとルリアは悟った。

 ヘルエスはやけに席を立つ頻度が高いと、ビィも訝しんでいる。

 それでいてヘルエスは返って来るたびつやつやとした様子で、グランとルリアは、ありていに言えばエロティックな姿を連想してしまう。最近どうも、見覚えのある女性達の姿と重ねてしまっていた。グランが深く行為を終えた後の、カタリナやヴィーラ等のような……。

 あのヘルエスがありえない、と首を振るグランと対照的に、

(まさか、ですよね)

 ルリアには確度の高い予測があった。今朝、まどろみの中で見たヘルエスとグランの顔の接近。街を歩く中、ヘルエスの過剰なまでのグランへのボディタッチ。

 そして何より、ヘルエスがグランを見て放つ吐息と視線が、ルリアからすれば幾度も見てきたものだった。グランへ行為を迫る、特別な女性たちの発情。

(ヘルエスさん、グランのこと)

 カフェを後にし、また手を繋ぐヘルエス、ルリア、グラン。だが、

「ごめんなさい。緊急の要件をおぉっ、思い出しました。先に、戻っていてくださいっ」

「は、はいぃ……」

 ヘルエスはグランの手を握った瞬間、すぐに離して距離を取り、短く頭を下げて早歩きで去ってしまった。

 いつもの優雅なヘルエスからは想像もできない慌てように、グラン達は茫然と立ち尽くしてしまう。

 なんだ? と顔を見合わせるビィとグラン。

(シェロさんと……あとは、シャオさんですね。宿にいるはずです)

 だがルリアだけは、なんとなくヘルエスの体に起こっていることがわかり始めていた。

 

 グランはセルエル、ノイシュ、スカーサハ、ヘルエスと夕食を共にした。その時のヘルエスには、共に街を巡った時のような異常さは見受けられなかった。

 しかし、どうしてもグランには引っかかる。普段のヘルエス、今日だって朝は優しく手を取って起こしてくれて、依頼を共に行動した際も槍筋に狂いはなかった。

 ヘルエスに異常が感じられたのは、自分と手を握って街を歩き始めたとき。何か原因があるとすれば、自分ではないか。

 何の確証もないが、それでもヘルエスが心配なことに変わりはない。緊急でもないだろうが、少し話をしたかった。

 ヘルエスの部屋の扉の前に来て、ノックする。

「え!?」「はーい、少し待っててくださーい」と続けて中から二人の声がして、扉を開けたは蒼の少女。

 驚いたグランを前にして、ルリアは部屋から出て扉を閉め、きょろきょろと周りを見渡した。

「誰もいませんね。よかったグラン、今呼びに行こうと思ってたんです。ヘルエスさんのこと、心配で様子を見に来たんですよね?」

 うなずくグラン。ルリアは少し迷った表情を見せたが、ふところからクリアハーブと、小袋に入った粉末を取り出した。

「これ、ヘルエスさんに必要だと思って、シェロさんとシャオさんに事情を話したんです。さっきまでシャオさんもいたんですけど……」

はっ? とグランは固まってしまった。この薬はグランも知っている。クリアハーブの効果を高めたもの、それがなぜヘルエスに必要だと?

「えーと、シャオさんからお手紙をもらってますので、読みますね。『団長さん、私の見立てでは、どうもこの皇女様は、件(くだん)の薬を吸ってしまったようですねえ。強靭な精神力で抑え込んでいたようですが、それが体に悪影響を及ぼしています。細かい症状や体の変化なんかは別の文書にまとめてますので、長い前置きはなしにして、ちゃちゃっとやってほしい事が一つ。ヘルエスさんの性欲を解消してください。守秘義務がありますのでこの紙は処分しちゃってくださいね、ではではー』」

 アイルストの街へ繰り出しているシャオが、振り返って笑顔で手をひらひらとさせている気がする。

 グランの頭が真っ白になった。つまり、どういうことだ。

「グラン、あの、私とカタリナに起こったことが、ヘルエスさんにも起こってるんです。でも、どこで吸ってしまったのかわからなくって……」

 深刻な表情をするルリア。グランも落ち着いて、状況を飲み込んだ。

 ヘルエスが例の薬に犯されている。なるほど、そうすればカフェで化粧室に何度も赴いた事も合点がいった。

 問題は2つ。ヘルエスはどこで薬を、そして病状の回復はどう行うか。

 ヘルエスとこれからすること……はとりあえず保留し、ヘルエスがどこで薬を吸ってしまったのか、ルリアと考える。

 依頼、魔物、街中。そのどれを思い出しても思い当たらない。

「とりあえず、グラン。今は、ヘルエスさんを救ってあげて。きっとグランにしか、できないことだから」

 グランは固まった。そう言うルリアの顔が、とても儚くて複雑な感情が入り混じった顔だったから。

 いや、当たり前だとグランは想いなおす。愛する男がこれから別の女を抱きにいくのだ。

 まだ別の方法が、とグランが言いかけたところで、ルリアはグランの胸に手を置き、首を振った。ルリアの体が青白く発光し、グランの中に入っていく。

 ぽつんと、取り残されたグラン。ノイシュ、セルエルはここにはいない。おそらく事情も知らないだろう、ルリアは秘密裏にシャオと接触し、ヘルエス自身のデリケートなプライバシーを守りたかったに違いない。

 ルリアも抗えない薬の効力を知っているから。痴態に染まる心と体の事を。

「ん……あぁっ……!」

 ヘルエスのうめき声が聞こえる。グランが迷えば迷っただけ、ヘルエスは悶々と苦しみ続ける。

 グランは、決意を固めた。

 ヘルエスを抱くことで、彼女を救えるのなら。

 顔を引き締めドアをノックし、ヘルエスの名を呼ぶ。

「ま、待ってください」

 返事はすぐに来た。すぐに開けようと思っていた手を止め、ヘルエスの声を待つ。

「……どうぞ」

 

 カーテンの閉め切られた部屋を、ランプ一つが照らしている。

 ベッドの上、上体を起こしたヘルエスがグランへ微笑みかけ、

「どうぞ、こちらへ。世話をかけてしまいましたね」

 と、ベッド脇の椅子へと促した。

 グランは驚愕している。これが、あの薬に犯されている人間ができる笑顔なのか。グランはもちろん、今まで発情の薬の毒牙にかかった人は例外なく、理性を溶かされて異性の体を貪るしかなかった。

 ならばこのヘルエスの気品はなんだ。いつもと寸分たがわぬ佇まい、きらめく瞳の色に違いはなく、唇も潤いを保ちながらも光沢は均整、いやらしさがなく美しい。

 ある種黒い覚悟を持ってグランは入室したのに、ヘルエスはいつものヘルエスにしか見えない。

 ヘルエスの服装は、いつもの重力に逆らった前張り……ではなく似た形状の白のレオタード。平時ゆえ肩当などの貴金属はなく、ベビードールじみている。

 グランは腰かけ、ルリアから聞いたことを言う。ヘルエスはどこまで知っているのか。

 ヘルエスは微笑んだまま虚空を見つめ、答えない。数秒たった。

「ええ、シェロカルテ殿とシャオ殿が委細教えてくれました。私に起きている病状、薬で抑制はできても、根本的な解決はできないこと。その解決方法は……発症中の体を慣らし、理性を取り戻すこと。それには、あなたが必要なのですね」

 ヘルエスは病人、グランは薬。いわばグランは血清の役割なのだと、シャオからもらった紙に書いてあった。

 ヘルエスの声色は落ち着いている。

 グランは問う。ヘルエスはどこで薬を手に入れ、飲んでしまったのか。

 ヘルエスは首を振った。

「いいえ。私は薬を見たことも聞いたこともありませんでした。ですが、心当たりはあります。……昼前の事です」

 ヘルエスの脳裏に、太陽に照らされたグランの寝顔が浮かぶ。

 ヘルエスは一瞬躊躇したが、時間はかけられないと自戒し、短い言葉を選んだ。

「おそらくきっかけは、私が摂取したあなたの唾液です。今日眠っているあなたに深く口づけし、発症したのでしょう。弁解の余地のない、自業自得の結果です。あなたは何も心病むことなく、私の体を抱きなさい。これは一夜の治療。私も勘違いはいたしません。すでに体は清め、心身共に磨いてきたつもりです。私があなたのお眼鏡に叶わなければ、あなたは横になっているだけで」

 グランは慌ててヘルエスの言葉を止めた。情報を整理しなければならない。ヘルエスがグランへ口づけし、それで発症した? 唾液を摂取したせいで?

 グランは想いだす。最近、女性団員が自分の見る目が変わったということを。自分の体質が変化しはじめていることを。

 もしや自分の体臭がきっかけでヘルエスが発症し、キスが止めとなったのなら、原因は、自分ではないか。自業自得もなにも、ヘルエスはグランによって心を犯された被害者ではないか。

 まさかこれから、ヘルエスのような被害者が団の中から続々と……絶望の色を浮かべたグランの顔を、ヘルエスはそっと手のひらで包む。

「あなたの体のことも、教えていただきました。どうか結論を急ぐ前に、私の言い分も聞いてください」

 グランはヘルエスへ意識を向ける。

 ヘルエスの声は優しくも、少し震えている。

 緊張している。

「本来ならば、愛し愛される者同士が行うこと。あなたにとって、本意でないことと思います。ですが……私にとっては、その限りではありません」

 え、とグランは固まった。それは、つまり、

「あの日、ノイシュを連れたあなたに出会えたことが、私にとってどれだけ幸運で、幸福だったことか。アイルストに安寧をもたらし、セルエルやスカーサハ様と色々な島へ行った日々は、輝かしい思い出としてはっきりと目蓋に浮かびます。私もまるで童心に帰ったころのように、アイルスト元王家ヘルエスとしてではなく一団員として、ただのヘルエスとして、飾ることのないありのままの私で過ごすことができた……。あなたを想うと胸に広がる暖かな感情は、とても言葉で言い表すことができません」

 ヘルエスは自身の胸に手を当て、うつむいている。しかしその表情は伺い知れた。少し恥ずかしそうに、幸せそうに微笑んでいる。

 しかし次いで出る言葉で、微笑が消える。

「気付いていました。あなたに、特別な女性ができたということを。最初はできて当然、機を見て祝福を、などと考えていました。しかしどうやら女性は複数。しかも女性達とあなたの関係を見るに、不義理というわけではない。女性たちの関係に統一感も、あまり感じられない。あきらめようと封印していた好意が、期待を持ち始めていたのです。どうしたらあなたの……線の内側に入れるのか」

 ドラッグにより発生した、グランから性欲対象とされる内側。

「線の内の女性と外の女性。あなたの中で決して好意の大きさに明確な違いはないのでしょう。しかし線を隔てると、好意の色が違う。家族に向ける愛情と、恋人へ向ける愛情が違うように。既に多くの女性達の間で、波紋は広がっているのですよ。どうしたら、あなたの線の内側に入れるのか。あなたから、女性としての愛を向けられるのか……」

 グランとヘルエスはもう、お互いの瞳しか見えていない。

「ルリアさんが教えてくれました。あなたが盗賊の倉庫で初めて薬に犯された時の事。間違いなく言えることは、私が、あなたに特別な熱情を持ち始めたのは、あなたが薬に犯される前です。ですから、私はこの熱情を否定しません。薬によるものではない、純粋な私の気持ちなのだと。この、気持ちを、あえてはっきりと言うならば……」

 グランの魂がピクリと震える。ルリアには、グランが何を想い感じているのか筒抜けだった。

「恋……というべきなのでしょうね」

 ヘルエスの想いを否定して、この部屋に一人残し、後は自慰にふけって解消しろと。

 グランは、そんな選択肢をとれるはずもなかった。かつて、シルヴァとソーンが自分を救ってくれたように。

 ヘルエスの香りは、どんどん強くなっている。湿った音も、彼女の呼吸もグランにはわかっている。

(全部、薬のせいです)

 ルリアの優しい声が脳内に反響する。ヘルエスが目を細め、唇を尖らせ、待っている。

「グラン……私は」

 ヘルエスを救う。グランは何を迷っているのかと自責した。

 治療だとか恋だと性欲解消だとかなんだっていいし、なんならこれらの理由全てぐちゃぐちゃにしていい。

 ただ今は、ヘルエスを、幸せにしてあげたい。

「あ……んんぅ……!」

 ちゅうっと、柔らかな音が響いた。グランの明確な意思が込められたキスを、ヘルエスは目を引き絞り、体を強張らせて受け止める。

「んんむぅぅっんちゅううぅ……」

 グランはヘルエスを強く搔き抱き、征服するかの如く唇をすり合わせていく。

 彼女は華奢な体だった。むき出しの背中は汗で潤いを持ちながらすべすべで、腕に触れた彼女の銀髪がさらさらと流れていく。

 互いの柔らかい唇を堪能したあと、一度唇の距離を空ける。

 細い唾液の糸が橋を作り、逆放物線を作りながらグランの膝の上に落ちて、染みとなって消えた。

「……あむちゅううぅ!」

 今度はヘルエスが、グランの唇へ飛び込む。あふれる愛情と性欲が体現したかのようで、グランはむしろ理性的に受け止めた。ヘルエスの抑えきれない衝動を、全て飲み込むために。

 グランはヘルエスを抱き上げながら靴を脱いでベッドへ座り込み、対面座位の形でヘルエスを抱え込む。その間もヘルエスは「ん、んちゅ」と軽いキスを繰り返し、グランの顔に紅い後をつけていく。

「もう……我慢できません。ご容赦くださいっ」

 ヘルエスは全体重をかけてグランへのしかかってくる。ベッドの上の位置取りを整えたグランは抵抗せずに倒れこみ、ヘルエスの熱烈な舌を受け入れた。

「あぶっんんむっれろっちゅぱっ」

 ヘルエスの舌はぎこちないが精一杯かつ粘り気が強い。唾液を多分に含んだままグランの上唇、歯茎、舌の表面をなぞっては舐め上げ唾液と味を貪り、乳房を固くなった乳首ごとグランの胸板にすりよせて、股間も同様にして硬さと湿り気を確かめる。

 胸と秘部は布越しだったが、ヘルエスの興奮を伝えるには十分だった。抱擁する立場だったグランも、確かな興奮と性欲を自覚し始める。

「ちゅぷはぁ……はぁっ……はぁっ」

 目の前にはよだれを垂らすヘルエス。影を差す表情の中に、抑えきれない衝動が見える。細くした目、潤いを持った唇は尖らせたまま、かすかに笑みを作っている。

 ヘルエスの視線は下へ。グランの怒張は、布越しにヘルエスのへそを押していた。

「私で、こうなってくれたのですね。知識はあります。初めてですが、一生懸命いたしますので……」

 初めて、ヘルエスの言葉がグランの中でぐるぐると回る。ヘルエスは体をグランの下半身を中心にして、彼のズボンを下ろし、パンツを下ろし、そして、

「あっ……」

 ヘルエスの感嘆の吐息が、反り返った裏筋を撫でた。

 興奮するに決まっていた。すれ違う全ての人々の視線を釘付けにするヘルエスが、キスをして、抱きしめて求めてくる。

 グランは彼女をリードすることを忘れて、自身の急所へ震えながら近づいてくる唇に、身をゆだねた。

「ちゅう……ちゅるるる……ちゅうう……んんっんんっんんちゅううう」

 恐る恐るといった口づけは最初だけ、ヘルエスは細かいキスを鈴口に落としながら、すぐにすぼめた唇で亀頭を半ばまで包むと、壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、竿を上下に愛撫する。

「んんむっちゅうっ、不思議な、味ですねちゅう、どんどんあふれてきます……ちゅるるっ」

 グランは身もだえして体をのけぞらせたが、視界だけはヘルエスを捉えて離さなかった。自身の陰部を口に含め、指で柔らかく包んでしごいてくるヘルエスの姿を、ずっと見ていたい。

「あむっちゅる、ちゅうううう!」

 知識はあるといったヘルエスは、繊細かつ段取りが精密だった。徐々に唇を亀頭へ侵攻させ、竿をしごく力は一つずつギアを入れていくように速くなっていく。

 水音、グランの喘ぎ。ヘルエスの体は前傾となってグランのペニスに夢中になり、ストローのように我慢汁を吸い込みながら、唇の形を歪め、淫らに吸い取るために最適化させていく。

(これが殿方の陰茎、そして口淫……おいしいとは言えない味、汚らしくいやらしいのに、あなたにこうして尽くしていると想うと)

 ヘルエスはグランのものをしゃぶりながら、股間からぷしゃりと液体を噴出した。

(どうして、こんなに、愛おしい……!)

 グランの悲鳴のような嬌声。唇だけで甘噛みしていたヘルエスが、竿をしごく手に合わせ、カリ首から鈴口を口でしごき始める。

 舌のシャフト、相乗するヘルエスの両手、絶えず止まらない吸引がグランを襲い、ヘルエスの性欲を肥大化させていく。

(好きっ好きっ好きっグラン、私が、早く、あなたを……!)

 銀髪を振り乱し、グランのペニスのためだけに全神経を集中させるヘルエス。その事実と実際に神経へ伝わってくる快楽が、グランの世界をばちばちと弾けさせていく。

 あのヘルエスが、高貴でロイヤルで美しくてまぶしいヘルエスがっ、ペニスを頬張ってしごき吸い込み全てをっ、

「んぼっっぢゅううううううっ!!」

 ヘルエスが手を放し、ペニスを喉奥まで飲み込み、グランの腰を抱き寄せて吸引した瞬間、

 ブビュウウゥウウウウ!!! ビュウウウウ!! ドビュルルル!!

 グランは多幸感に支配され、体から空気が抜けていくような錯覚の中、欲望をヘルエスの中へ解き放っていた。

「んくっ、ごきゅ、んんくっんんっ」

 グランは不思議な光景から目を離せない。ヘルエスはグランの腰を抱いてペニスを喉まで咥え、必死に精液を飲み干しているのに、優雅さも気品も失われていない。

 ヘルエスの細められた瞳は、まるで粗相をした赤ん坊をあやす母のように優しく、下腹部を見つめながらグランのペニスの律動を阻害しないように口を最適化させている。

「んくっ……んん……ちゅうううっ……!」

(私が、あなたに尽くした愛の証を、もっと……!)

 ヘルエスは舌で細かく裏筋を舐めながら、コクコクと喉を鳴らして白濁液を飲み込んでいく。長く深い射精の中、グランは掴んでいたベッドのシーツを手放し、荒い息をついたままヘルエスの名を呼んだ。

「ちゅるる……ちゅるる……ちゅううう……」

 ちゅぽんとヘルエスは口を離し、グランの腰を抱いていた腕も離し、亀頭に息を吹きかけながらグランと見つめあう。

「はぁ、ようやく、止まりましたね……あっ、ふふ……ちゅる」

 言葉の途中でビュルリとペニスが脈動し彼女の頬を汚したが、ヘルエスは微笑んで指で頬の精液を拭い、口に収める。

 脱力していたグランだったが、次いで視界に映った光景で、そんな暇はないと思いなおした。

 ヘルエスはグランのペニスをまたぎながら膝立ちになり、するすると白い衣服を脱いでいく。

 乳房、つんと立った桜色の乳首、へそ、下腹と晒され、秘部からは滝のような愛液がドバドバとあふれて、ヘルエスの太ももを伝っている。

「はぁっはあぁっあぁん」

 ヘルエスは腰を落とし、濡れそぼったクレバスでグランの萎えたペニスの裏筋を往復する。擦り付けるたび、

「あぁあ、あっ固くなってきましたねっ」

 歓喜の笑みを浮かべながらグランを見下ろし、グランのペニスを使った自慰をいつまでも続けていく。

「はぁっあなたのここをっ、今一度っ、硬度を取り戻そうとしてっいるのに、これでは、私が、先に……!」

 グランも覚醒する。ペニスへ血液が集結する。ヘルエスに入れたい。彼女のドロドロとした入り口に挿入し、この発情した高貴なる雌をさんざんに喘がせ、雄としての使命を完結させたい。

「あぁっぁああんっ」

 ヘルエスは悩ましい声とともにピュッピュと勢いよく愛液を噴出する。軽い絶頂を味わっているヘルエスの腰を、グランはがっちりと掴む。そして、腰を引き

「あっ」

 ズプンっ!

「あぁあっ!? んああああぁああっ!!」

 ヘルエスの体が弓なりに仰け反り、三つ編みの銀髪が跳ね上がる。ヘルエスの目が見開かれ、彼女の涙、よだれ、汗、そして愛液がグランへ降り注ぐ。

 グランも歯を食いしばった。まるでマグマのような熱と、グチュグチュとドロドロに溶かされそうな膣圧、精を搾り取るために特化した攻撃的な快楽。

 このまま速射したい欲望を下腹に圧を込めて食い止め、一度ずんっと突き上げて、弓なりだったヘルエスを前傾姿勢へと押し戻す。

「お、お待ちっなさいっこ、これは、ダメ……!」

 何がダメなものか。グランは知っている。このヘルエスの色に溺れきった表情は、許容しきれない快楽に片足を突っ込んだ雌の顔。

 性器を合わせたら理性はいらない。もっと自分がもたらす快楽に溺れさせて、彼女を溶かしきる。

「あっああっ! そっそんなっもう私っああっんぁっ!」

 少し斜め上に突き上げられるヘルエスは、豊かな乳房を揺らしながらグランに全てを晒す。

 恍惚にゆがむ瞳、垂らされた舌とよだれ、ペニスを掴んで離さない膣壁。

「あっあひっあひぃいあああああっ!!」

 獣のような悲鳴と共に、ヘルエスは潮を吹いた。脱力して倒れこんできヘルエスをグランは抱きとめつつ、そのまま自身も絶頂にいたるためにピストンを継続する。

 バチュバチュバチュバチュバチュ!!

「あっあああぁー……んあぁ!? ひっあひいぃあああっ!」

 一瞬意識を飛ばしたヘルエスが、極大の快楽で現世へ戻される。

 人語を解せないまま、グランに責められるだけの肉人形と化したヘルエス。

 ヘルエスの顔はグランの顔の横に突っ伏している。だが、その瞳は流し目で懸命にグランを見つめ、

(もっと、深く、強く抱きしめてください……!)

 と訴えかけていた。グランも即刻理解する。

「あむっちゅう! ちゅぶんんんっちゅううう!!」

 ヘルエスが一瞬だけ顔を起こした瞬間、グランとヘルエスは唇と唇を合わせて支えとし、舌をお互いに差し込んで固定する。

(腰が、止まりっませんっ! あなたの欲望をっもっと、もっとぉ!!)

 攻められるだけじゃない、グランを攻めたい。気持ちよくさせて、一緒に溶け合いたい。

 ヘルエスは失禁していることにも気づかず、グランの突き上げに合わせて腰を揺らし続ける。

(グランっ愛していますっ! あなたの子種をっわたっくしのっなかに!) 

 本能を呼び起こされた獣が一人、口を離し夜に叫ぶと同時に、グランは限界まで絞り込まれたペニスを解放させた。

「んんっむちゅうぅんんっ!? んあぁあああああっああああああ!!」

 ドビュルルルルル!! ビュルルル!! ドビュウウウウ!!!

 ビクビクビクビクッ! プシャアアアアア!!!

 2人の体が電撃を喰らったかのように痙攣し、互いの意識が白く染まる。

 何も考えられない。することといえば、精液を放つことと、精液を受け止めること。異性の唾液と舌と唇を味わいながら、全身をこすり合わせることだけだった。

「あ……くぅ……はぁ……」

 ぐったりとベッドへ投げ出されていたヘルエスの手が、グランと重なる。二人は指を絡めて、一握りの理性を取り戻していく。

 ドプドプと精液を注がれた子宮は許容量を超え、2人の接合部を白い泡で覆い始めていた。

(もっと、あなたを……)

 もうヘルエスも、常人の性欲の範疇を外れている。グランの口へ差し込んだままだった舌をちゅぷりと引きぬき、ゆっくりと上体を起こす。

 絶頂の波が引いてくると共に呼吸も整い、ヘルエスは上気した頬のまま、温かみのある微笑みをグランへ向けた。

「とても……とてもこの世のものとは思えない、快楽と心地よさでした……。それでいて今日一番、自身の欲望が抑えられているのを感じます。暴力的なものではなく、純粋に、私自身が望むものへと変わっている。これが、あなたに抱かれるということなのですね……」

 ヘルエスとグランは、騎乗位でつながったまま手を握り合う。

(勘違いはいたしません、そう自分で言ったばかりなのに……)

「癖に、なってしまいそうですね。あっんんっ」

 ヘルエスは顔を快楽で歪め、また自ら腰を揺らし始める。

 そうだこれは、治療。ヘルエスは、自分に恋をしているといった。であるならば、なんと残酷な……そうグランに暗い感情が差し込もうとしたとき、視界は未発達のまんこで埋め尽くされた。

「すごいですよねえグランの。次は私もお手伝いします♪ あむっちゅうっ」

「え、あっ!!? ル、ルリアさん!? あっそこはっあぁんっ」

 ルリアはグランの口へ秘部をすりつけながら、巧みにヘルエスの乳首をなめしゃぶりつつ揉みしだく。

 なぜここでルリアが? そう思ったヘルエスだったが、

(これは……そうですか。このように、なし崩し的にルリアさんも交えてしまえば……)

 グランと魂がつながっているルリアの性欲解消、あるいは気遣いを、グランとヘルエスは黙認した。二人の心の隅に残っていた罪悪感が薄れゆき、理性はいらないと思いなおす。

「あんっもうっ……ル、ルリアさんっやけに慣れっ!? あっいけませんっああぁ!」

「んちゅるんっ、ふふ、私、上手くなってきたって評判なんですよぉ。ねぇ、グラン♪ あぁあんっ」 

 グランもルリアの秘部を舐めしゃぶりながら、今度は小気味よく奏でるようにヘルエスと腰をぶつけ合う。

「あぁんっもう、グランまでっ……では、とことん付き合っていただきますねっんんちゅううっ」

 ヘルエスはルリアの柔らかく手慣れたキスに翻弄されながら、グランの精を受け続ける。肉欲を知った元皇女はとっくに正常な思考を取り戻していながら、あえて飛び込んだ快楽の沼に、居心地の良さを感じていた。

 

 飛び立ったグランサイファーの甲板上、手すりに腕を預けたヘルエスの眼下で、アルスター島がどんどん小さくなっていく。

「随分とご機嫌がよろしいようですね。姉上」

 振り返ろうとしたヘルエスは、口元の淫蕩で緩んだ笑みを、高貴なる微笑みに戻してセルエルへ向き直る。

「ええ。此度も実りある帰還でした。民たちの変わらぬ笑顔と日々の歩みを確認できたこと、心よりうれしく思います」

「同感です。ですが、それが全てではないのでは? 個人的に興味がありますが、伺っても?」

 2人の優雅な口調はどこか、いつもよりも芝居がかっている。ヘルエスがグランへ向ける瞳の色が変わったことを、セルエルは察しているようだった。

「無粋というものですよ。乙女心を察して言葉を選びなさい。もういい年齢なのですから、早々に番いを得て周りの者を安心させなければなりません。王族がいつまでも独り身では、民にも無駄な心配をさせてしまいます」

「それは姉上にも……いえ、やめておきましょう」

「賢明です」

 グランの声がする。ルリアの意味深な言葉で、一部の女性から糾弾されているようだった。

「どちらへ?」

「遅れている分を、取り戻さなければいけませんから」

 気品と優雅さをまといながらヘルエスは歩く。ヘルエスの足音を聞いた女性たちは、まるでモーセの海のように自然と分かれる。

 グランの目の前に立ったヘルエスは、さも当然のように彼の手をとった。

 対抗するようにグランへ抱き着いたルリアだったが、ヘルエスの顔を確認し、明るい表情。

(競合相手は多く、どなたも一筋縄ではいかない。けれど……それこそ、掴みがいあるというもの)

 王族という荷を下ろし、ヘルエスの心に宿った新たな炎。

「団長殿……いえ、グラン。アルスター島にてお世話になったお礼がまだでしたね。先に一部だけ……ん」

 各所に火種をばらまき焚きつけるように、ヘルエスはグランの頬に、柔らかい口づけを残した。

 

 女性達へ言い訳にもならない事情説明を終え、ぐったりとグランはベッドに身を投げ出した。

 不機嫌な声を出しながら次々とゼタやベアトリクス、ソーンやらシルヴァやらルリアやらカタリナやらヴィーラやらリーシャやらが体に乗っかってきて、ヘルエスがガチャリと鍵を閉めたような気がするが気にしない。

 気にしないったら気にしない、服が剥ぎ取られていく中思いを馳せるは次の依頼、誰に頼むのかまだ決まっていなかったのだ。

 依頼内容的には少人数がいい。多くて2人、確か、あの日にグランと予定が合いそうだったのは……。




読了ありがとうございました。

活動報告にて、サークル活動についてご案内しております。2019/4/29 COMIC1☆15 N05aにて、グラブルR18小説本を発行予定です。もしご興味ありましたら、一度ご覧ください。
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