pixivに投稿しました同名タイトルの同一作品です。
既読の方はご注意ください。
朝目が覚めた時、夜を共にしたはずの彼は既にベッドを抜け出していた。
気だるげに薄目を開け、体を起こさぬまま彼がいたはずの空間を見つめる。
人一人分へこんだベッドのしわ、少し湿った後。窓から日が差し込み、小鳥の声が聞こえてきても、その場所を見れば昨夜なにがあったのかおぼろげに思い出せる。
「……」
何を想うまでもなく、彼がいた場所を指でなぞる。時間的な余裕が後どれ程残っているのか確かめるべきだったが、何故かそんな気にはなれなかった。
瞳を閉じ、仰向けにまた寝転がる。体は昨夜のまま、乳房が掛け布の中で揺れた。目元を片腕で覆うようにすると、まどろんでいた思考が徐々に鮮明になっていく。
依頼は単純なものだった。光属性の魔物の討伐、グランはセオリー通り闇属性を得意とする仲間を誘い、昨日の夕方には依頼主への報告まで全てを完了させた。
珍しい事態だったのは、この誘われた仲間たちの中にカタリナはまだしもルリアもいないことだった。船を離れるときに彼と2人の間は穏やかだったから、計画的に意図されたものなのだろう。カタリナとルリアの絆はまた別に特別だ。
よってこの数日、彼と"特別な関係"を築いていてかつ行動を共にしていたのは、このヴィーラだけだった。
毛布を胸元で抑えながら上体を起こす。背中と臀部の半ばまで露出したが、今は涼しくてちょうどよかった。
鍵を開ける音のあと、ドアが開く。湯気を出すカップを一つ手に持ったグランが、慌てて謝りながらドアを閉めた。
ヴィーラは閉まったドアへ微笑みを向ける。
「かまいませんよ」
ゆっくりとドアが開き、手早く閉められる。シャツとズボンだけを身に纏ったグランは、もう一度謝っておはようと挨拶した。
「おはようございます……ん……」
ヴィーラは手で口元を抑えながら顔を背けた。ヴィーラがあくびを隠している間に、グランがベッド脇の机にカップを置く。
ヴィーラが顔を戻すと、グランに目覚ましにどうぞと言われる。カップは宿から借りたのだろう、領主の頃に用意された趣のあるカップとはほど遠く、無骨だ。
それでもストレートの紅茶は色づきがよく、少年と言って差し支えない彼にしては慣れたもののように見える。香りも花のように心地いい。
ヴィーラは手に取ったカップを口元で止めると、数秒香りを直に量り、軽くキスをするように味を確かめた。
「……」
数秒の沈黙、ヴィーラは瞳を閉じ、傍らに立つグランは少し緊張した面持ち。
「ろく……55点ですね」
手厳しいな、とグランは苦笑した。
「これでも驚いているんですよ。見込みはあると思いますので、また後日いただけると嬉しいですわ」
そう言いながら、ヴィーラは再度口をつける。一つ嘘を言った。驚いてはいない。カタリナを探して船内を歩いていたとき、厨房でヘルエスとノイシュに付き添われて四苦八苦していた彼を見たことがあった。
「この紅茶、誰かに振る舞ったことは?」
グランは首を振った。
(そう。私が、初めて……)
彼から振る舞われた液体を舌で転がしながら思い出されたのは、先日彼の囲いにリーシャを迎えた時だった。
狂乱とも言える5人の交合、だがヴィーラが注視したのは、シーツに残された血の後だった。
(意外でもない……)
嫉妬と言うには、少し違うかもしれない。彼とリーシャがどのように事をなしたのか、お香で経緯は予測できても、彼がリーシャと繋がるにいたった過程は事細かに聞いてはいない。
獣のようにまぐわった、とは違うだろう。ヴィーラの時のように椅子は粉砕されてなかったし、ベッドの上のシーツも常識から外れたような乱れ方はしていなかった。
キスをして、抱き合って、流れるように2人はベッドへ。縮こまるリーシャの体に唇と指をすべらせ、高まりきったところで貫く。
(私との時とは、違ったのでしょうか)
ヴィーラの想像はひどくロマンチックに見え、今思えば、グランを焚き付けて目覚めたリーシャを散々に喘がせたのは、そんな光景が脳内に映し出されたからかもしれない。寝顔を晒すグランにキスをしていたリーシャを見て……。
ヴィーラは紅茶を半ばまで飲むと、カップを机へ置いた。グランはベッドに腰掛けている。
「まだ、時間はありますか?」
グランは肯定で頷き、体を伸ばす。ヴィーラは少し視線を外し、何度かためらうように口を動かしたが、一つ息をつくといつもと変わらぬ微笑みを浮かべる。
「肌を重ねた相手の目覚めに、もう一つ必要なものがあると思いませんか?」
途端グランは顔を固まらせ、何かに気づくと恥ずかしそうに顔を背けた。
(今更何を恥ずかしがってるんだか)
ヴィーラは自分を棚に上げてくすりと笑った。グランは意を決したようにヴィーラを見つめなおし、ヴィーラの頬に手を添える。
「……」
ヴィーラが目を瞑る。唇がゆっくりと触れる。乾いておらず、紅茶の風味があった。グランも飲んでいたのだろう。
触れたまま留まり、息継ぎが苦しくなる前に離れる。数秒互いの顔は至近距離。グランが身を引こうとすると、ヴィーラはグランの肩を軽くつまんだ。
少し前傾姿勢となったヴィーラ、手で抑えられた毛布の下の胸元がこぼれ落ちそうだった。
ヴィーラは口元を尖らせ、小鳥のように囁く。
「まだ時間は、あるんですよね……」
グランはゆっくりと座り直し、瞳を閉じて再びヴィーラへ口づける。ヴィーラは自身の胸元を抑えていた手を離し、グランの腰へ回す。
一度唇を離す。ヴィーラが吐息をグランの首元にかけている間、グランは靴を脱ぎ、ヴィーラの正面へと座った。ヴィーラは毛布から抜け出て全てを晒しながら、グランの両足を跨いで膝立ちになり、見下ろす。
「ん……」
グランが目の前の乳房を双方掴み、片方の乳首を口で吸った。ヴィーラは自身の人差し指を咥えながらぴくりと反応し、片腕でグランの頭を包む。
彼女には珍しく、恍惚の笑みではなく少女のように恥じらう感じ方だった。自然、グランの愛撫も優しくいたわるようなものになる。
「ん……はぁ……ん……」
グランは胸を吸いながら、手をヴィーラの胸から腰、お腹へ滑らしていく。へその回りを親指でなぞり、下腹へ。
「あっ……」
ヴィーラのその場所は触らず、太ももをさする。さするたびにヴィーラの脚が少し位置を変え、か細い嬌声がグランに降りかかる。
グランの頬に、ヴィーラの手のひらが添えられる。導かれるように口を離してヴィーラを見上げると、彼女の薄く空いた唇が落下してきた。
「ん……ちゅる……ちゅぷ……はぁ……ん……」
ヴィーラの舌はグランの唇をノックして、空いたドアから昨夜ぶりにグランの舌と再会する。
しばしグランは愛撫をやめ、ヴィーラの背中を抱きしめた。お互いの体が密着し、ヴィーラとグランの口からこぼれた唾液が、グランの顎を伝ってシャツに消えていく。
ズボンをはいたグランへ、一糸まとわぬヴィーラが腰を落とす。興奮した感触を確かめながら、ヴィーラは体をゆすってこすりつけた。
グランが反射的に一瞬腰を跳ねさせると、ヴィーラはキスを終える。そしてグランを見つめる。
言葉はなかった。潤んだ瞳、湿った唇、甘い吐息。高めあうように言葉遊びした昨夜とは違う、無言の意思表示。
見つめ合ったままヴィーラが腰を引く。空いた空間を使いグランは腰を上げ、ズボンとパンツを下ろす。
「あ……」
ヴィーラは少し視線を下げ、グランの元気な姿を見て笑みを浮かべた。狙いを定める様に体を動かし、自身の場所へと導く。
ゆっくりとヴィーラが腰を下ろすと、ベッドが軋んだ。廊下から誰かの話し声が聞こえた。もうそういう時間だった。
「んん……ふっ……ん……」
ヴィーラとグランは再び口をぴったりと張り合わせ、体を密着させたまま腰を動かす。ヴィーラは前後に揺れ動くように、グランは浅く突き上げる様に。
「んっ……んん……んっ……」
女の嬌声をグランが飲み込む。息継ぎが相手に降りかからないようにする気遣いはできなかった。声を出さぬよう、早く、けれども、深く。
「ん……んんんっ……!」
ヴィーラが少し震えるのを感じ、グランは彼女の臀部を掴んで少し強行にうちつけた。痛がらないよう彼女の反応を唇で測りながら、高みにいくために速度を上げる。
「んっ……ふううんんっ……!」
グランをかき抱くヴィーラの手に、一段と力が込められる。中も同じだった。グランは我慢せず、彼女の舌先を吸う力と反比例するように、全て解き放った。
「んんんっ……!!」
互いの体が一段と震え、手と口とその場所に力を込めて余す所なく密着させる。繋がった場所から水音が出そうなほど深い衝撃だったが、理性で理解する余裕はなかった。
ただ深く甘い心地に、ヴィーラは浸った。震えが収まってくると同時に、唇が離れて額をグランの肩にあずけ、ひたすらだった腕も甘えるような加減になる。
瞳を閉じて深く息を吐くヴィーラの髪を、静かに撫でる。ヴィーラは脱力して体をあずけ、このまま寝息をたてそうな雰囲気だったが、それでもいいかと思ってしまっていた。賢い判断ではないが、2人そうしたいと心から思っていた。
だがヴィーラはグランの横顔が見える様に顔を傾かせ、瞳を開ける。
「……さて、行きましょうか」
グランは少し間を空けて、肯定した。ヴィーラは微笑んだままグランの顔をしばし眺めていたが、頬に口づけると体を起こす。
「体を拭いたら、先に行っててください」
ヴィーラはグランに背を向け、乱れた髪をまとめなおす。グランが退室する前にもう一度キスをして、部屋にはヴィーラ一人。
念入りに体を拭き、いつも通りの服、少し多めに香水をつける。耳を澄まし、廊下に誰もいないことを確認する。
……リーシャがどう、彼と初めてを交わしたか聞く気はない。もう気にする理由もなくなった。
「……ふふ」
カタリナを一人で恋慕した日々ではなく、カタリナと共に時間を過ごす今に浸るように。
思い出すなら、こういう朝の方がいい。ヴィーラはドアを開けた。
「あ」
「え、あ、あれ!?」
部屋の前に一人の女性がいた。今回の依頼で共に戦線を張った、べアトリクスという女性だった。
団長の部屋から朝女性が出てきたのだから、その意味は瞬時に推し量れそうなものだが、どうやら混乱の極みにあるらしい。
ヴィーラは首を傾げ微笑み、べアトリクスを流し目で見つめながら脇を通る。
「おはようございます。興味がおありですか? 私と……彼の蜜月について」
よどみなく平時の心情に戻れるのが心地いい。不思議な優越感があった。