pixivに投稿しました同名タイトルの同一作品です。
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ゼタは嘆息していた。目の前で縮こまったベアトリクスは相談があると言いながら、いつまでももじもじとして目線を右往左往させて煮え切らず、テーブル上のカップにも底が見え始めている。
「ねえベア。今言う気がないんだったら後でもいい? あたしも別に用事がないってわけじゃないんだけど」
「まっ、待ってくれよ! ご、ごめん……! まだ、勇気が……」
はあっ、とゼタは何度目かわからないため息をした。この昔馴染みの同僚から相談事を受けたのは一度や二度じゃないし、正直ここまで悩むベアトリクスを見るのも慣れたものだ。いざ切り出されるとベアなりに悩む理由があった事は理解できるのだが、「そんなことで悩んでたの!? はあ、まあベアらしいけどさ……」と拍子抜けする割合の方が多かった。
(ベアもそこまで深刻そうな顔してないし、今回もその類でしょうね……)
ベアトリクスは何事かぶつぶつと呟くと「よしっ」と小声で気合いを入れていた。椅子に反り返ってだらけていたゼタも「やっとか」と薄目で眺めていると、ベアトリクスは手でちょいちょいと顔を寄せるようにジェスチャーした。ゼタも仕方なく従う。
「で、なに?」
「その、団長、なんだけど……」
「グランがどうかしたの?」
「ゼタ! 声のトーン下げてっ」
「いや、あんたの方が大きいんだけど……」
ベアトリクスはあからさまに咳払いした後、同じ宿に泊まる団員達を気にしてか自身の口元に手を添える。部屋に2人しかいないのに何警戒してんだか、とゼタが呆れている矢先だった。
「団長って……女癖悪いのか?」
「…………」
ベアトリクスはきりっとしてゼタの返答を待っている。
「ぷっあはははははっ!! あはっはははははははは!!」
「ゼ、ゼタ!?」
ゼタが腹を抱えて前のめりになり、額を机にうちつけてカップをガタンと揺らしたが、それでも笑い声は収まらなかった。
「あはっははっひいっ、はっははっ……な、なにあんったっ、そんな顔して言うことがそれっ!? し、しかもっあの、あのグランがっ、お、女癖って……くくっくあはははっ!」
「なっなんだよおゼタぁっ! そんな笑うことじゃないだろう! おっおいゼタったらあ!」
「くくっははっひっひぃっ」
「うう……なんだよう……け、結構勇気出して言ったのにぃ……」
まさかここまで笑われるとは思っていなかったのだろう、涙目になってしまったベアトリクスを見て、ゼタは何とか腹を落ち着けてベアトリクスの頭をポンポンと叩く。
「ごっごめ……くくっ、だってあんた、よりによってあのグランが、ないない。あの朴念仁が女癖悪いなんてありえないわよ。あんたの思い過ごし」
「で、でも見たんだ! 確かに団長が部屋で、あっ」
ベアトリクスはしまったという表情で声を止め、慌てて自身の口を両手でふさいだ。ゼタもその仕草にただならぬ気配を感じる。
ゼタは途端表情と声色を鋭くし、ベアを詰問した。
「部屋で、なにしているのを見たの?」
ベアトリクスはぶんぶんと顔を振った。言う気がないのはわかったが、先ほどの彼女の相談もあいまって聞き流せない。
「ベア」
ゼタはベアの肩を掴んで微笑む。その笑顔が自分にとって好意的なものではないことをベアトリクスは理解していた。
「言って」
「ひいっ」
(ゼ、ゼタなんで怒ってんだ!?)
だが恐怖でベアトリクスは即時観念し、先日光属性の魔物の討伐に向かった時の事を切り出した。
闇属性を得意とするメンバーでグランの指揮の元依頼を完了し、そのまま街で一泊、朝ベアトリクスはグランへお詫びを言うために、グランの宿泊する部屋の前で待機していた。
(お礼、しとかないとな……)
ベアトリクスは血気に逸って光属性の魔物たちに突撃し、いつも通り数多の魔物に囲まれて窮地に陥った。が、逆にグラン達が外から四方より魔物を攻撃して注意を分散させ、その隙にベアトリクスがクロック・オー・デルタによる自己強化を完成させて一網打尽に成功した。
その場でベアトリクスは自身の失策を悟ったが、グランはむしろベアトリクスを称賛し、他のメンバーもあらかじめそういう作戦だったのかとグランとベアトリクスに関心の目を向けていた。ゼタがいたら絶対怒られていたし、バザラガがいたら小言は避けられなかっただろう。ユーステスなんて想像するだけで身が震える。
「あんたまた無茶して……」
「あっ、いっ言っちゃった!? 今は関係ないだろう!」
「はいはい。後にしてあげるから続けて。で、グランの部屋の前で朝待ってたらどうしたの?」
「えーと」
ベアトリクスは部屋の前で待っていたが、中々出てこない。というのもベアトリクスが「朝一番でお礼をするぞ!」と気合いを入れて早く起きすぎたためだった。廊下で欠伸をする宿の主人に挨拶し、壁にもたれかかって待つ。
「……ぐう」
常在戦場のために身に着けた技術、手持無沙汰だったベアトリクスは一向に気配がない部屋の前で立ったまま寝ていた。ちなみにグランはほどなく部屋を出て、ベアトリクスに微笑ましい視線を向けながら静かに通り過ぎている。
口から涎が垂れそうになったのを自覚して瞬時に顔を上げると、部屋から出てきたヴィーラと目が合った。
「え、あ、あれ!?」
(もしかして、部屋間違えちゃった!?)
ベアトリクスが一人でショックを受けていると、ヴィーラは勝ち誇ったように微笑んでベアトリクスを横目に、
「おはようございます。興味がおありですか? 私と……彼の蜜月について」
と、優雅に去っていった。ベアトリクスはそこまで言われてやっと、グランの部屋が間違っていなかったこと、ヴィーラが朝出てきた理由を悟った。
「ふーん、で?」
「!? でって!? ゼタ、団長の部屋から朝女の人が出てきたんだぞ!」
「はいはい、で、女癖が悪いってのはそれだけ? 後は何もなし?」
「あっそうだ! それでその後グランサイファーに戻ったんだけど……」
あの団長が、団員と関係を持っている。悶々としたまま船に戻ったベアトリクスだったが、グランの様子を見ても特別変わったことはなかった。いつも通りの陽気さ、ラカムやオイゲンからはいじられ、ルリアやイオからは手を引かれ、ウェルダー、ローアインらと肩を組んで阿呆な事をしている、平和な時の団長そのもの。
(いや! でも何かあるはずだ……!)
いうても修羅場を潜ってきたベアトリクス、団長がヴィーラと恋人同士なんて話は聞いたことがない。それ自体はやましいことではないのだから、広まっていないのはきっと何かあるとベアトリクスは踏んでいた。
「それで、団長の部屋の前を見張っていたら……」
夕飯もだいぶ前に終え静かになった船内、他者の往来もなくなり、ベアトリクスは眠気に抗いながら、物陰に隠れてグランの部屋の扉を見つめていた。すると、
(たしか、カタリナ、だったよな)
カタリナはほんのりと赤い顔でグランの扉の前に立ち、少しうつむいて何事か決心したかのように頷くと扉をノックする。すぐにグランが笑顔で出迎え、カタリナは熱に浮かされたような視線をグランに向けながらそそくさと入っていった。
(……まさか)
ベアトリクスはごくりとつばを飲んで、何度か逡巡した。気になる。とても気になる。だが、いくら何でもプライベートに踏み込みすぎやしないかと今更に考えてしまう。
だが正直なところ、知りたいと心が言っていた。あのグランが、自分の想像から剥離した面を持っているのか。それを知る、今唯一の機会なんじゃないか。
(……ここまできたら)
ベアトリクスはドアノブをゆっくりと回す。音もなく隙間を開け、顔を近づけると。
「――!!」
カタリナは全裸で絶頂していた。机に尻を乗せ、大きく広げた足の中心にはグランの指が差し込まれ、獣のような悲鳴をあげながら液体を床へとまき散らす。
「あ……んあっ………! ……ふふっ」
カタリナは色に溺れた笑みを隠そうともせず、指が自身から抜かれると机から下り、グランへ尻を突き出して上半身を机に乗せる。
「来てくれ……」
顔だけ振り向き、涎を垂らし続けるそこを指で広げた。尻の中心で横に押し広がったそこは、ピンク色の肉の穴をまざまざと見せつけ、別の生き物ののようにひくひくと動く。
グランは間をおかず男根を奥まで突き入れ、カタリナに覆いかぶさって乳首をひねり上げる。
「んひぃいいっ!?」
(なに……これ……!?)
ドアの隙間から見える団長とカタリナの情愛について、ベアトリクスの脳は理解を拒んでいた。体が火照り、吐息も荒く上気している。
年下の団長は少年特有の危うさはあるものの、それでもゼタやバザラガが信頼を寄せる理由をベアトリクスは理解していた。未知へと挑戦する意欲と勇気、人を惹きつける明るさ、困難に臆せず立ち向かう不屈の闘志。だが今目の前にしているのは、高潔さが服を着て歩いているカタリナを発情したメスに変えて、散々にいじめぬく男の姿だった。
「もっとっ! もっとはげしっ……いいいあぁっ!?」
カタリナが背をのけ反らせてガクガクと震えると、ひどい水音を立てながら股間から飛沫を放った。グランは歯を食いしばり、大きく2度3度と腰を打ち突ける。ぼたぼたと接合部から白く粘っこい液体が零れ落ち、カタリナは自身の口に差し込まれた指をちゅうちゅうと吸った。
「ちゅぷっ……あっ!? まっ、また大きく……! 底なしだな、君は……!」
カタリナは口から指を離すと恍惚の笑みを浮かべ、振り返りながら大股に広げて片足をグランの肩にかけた。ペニスが肉に包まれている様子が嫌でも露出したかと思うと、グランは交差した股を存分に生かして深々と突き入れる。
「あああぁぁっ!!」
獣のような嬌声がいつまでも響く。甘美でいやらしく、おぞましい光景から、ベアトリクスは目を離すことができなかった。
「…………ア…………ベア……………ベアッ……ベア!!」
「はへっ!?」
「はへっ!? じゃないわよ! 急に黙り込んじゃって、それで、部屋の中を覗いたらどうなってたの?」
「え!? え、えと、その」
(ど、どうしよう!?)
ベアトリクスは事細かに説明できるほど経験は無いし、そもそも思い出すのも恥ずかしすぎてまともな思考ができない。しかしゼタはいつの間にか身を乗り出して聞いているし、ここで終わらせては相談した意味がなくなってしまう。
「え、えーと、あのー」
「はあっ? ここまできて濁すわけ?」
「ち、違うんだよ! その、なんていったらいいか……」
(ど、どうし……あ!!)
ベアトリクスは覗いていた間、部屋内部の雰囲気と自身の感情が、興奮から外れた瞬間があったのを思い出した。抱き合っていたグランとカタリナの腰の動きが止まり、2人の息づかいが小康状態になっていく。カタリナは目を瞑ってグランの胸元に顔を寄せると、グランもカタリナの長い髪をゆっくりと撫でる。カタリナは「ん……」と声と笑顔をこぼし、撫でられるたびにグランへすり寄る。
「ふ」
「ふ?」
「ふ……2人が抱き合って、団長がカタリナの髪を撫でてたんだ……」
沈黙。ゼタはその言葉にしばし呆然としていた。ベアトリクスは顔を赤くして俯いている。
「ふーん……そう……」
(ゼタ……?)
ゼタの声がどこか寂しそうに感じ、ベアトリクスは顔を上げた。だがゼタは気を取り戻したのか顔を引き締めると、張った声を放つ。
「まず一つ目。ヴィーラの事だけど、これはあんたがからかわれただけね」
「え!? からかわれた!?」
「そりゃそうよ」
とゼタがため息をつくと、
「ヴィーラがカタリナ以外眼中にないのは有名な話よ? 別に朝グランの部屋にいたからって、夜も一緒に過ごしたなんて早計過ぎでしょ。部屋で話したいことがあっただけでしょ、普通」
「え、でも私凄い早起きしたんだぞ! 待ってたときには誰も部屋に入っては」
「あんた寝てたじゃない」
「……あ!?」
「そういうこと。立ち寝してるあんたの顔見てからかいたくなったんじゃない? あんたが魔物討伐でやらかした意趣返しだったりしてね」
「……あ……ありうる…………」
ガクンとベアトリクスがうなだれた。ゼタは構わず続ける。
「2つ目。カタリナとグランが抱き合ってたからって、別に恋人同士って決まるわけじゃないわ」
「…………ええええええぇっ!? そうなのかっ!?」
「いや、あんたねえ……。グランとカタリナいくつ年が離れてると思ってんのよ。よくて姉と弟。ルリアと合わせて3人ずっと旅を続けてきたんだから、家族みたいな関係って思う方が自然だわ」
「か……かぞく……!? あれが……!? で、でも、ゼタ2人は……え、えーと、チュウしてたぞ、チュウ!」
ゼタの頬がピクリと震えたが、すぐに平静を装って言葉を紡ぐ。
「チュウしてた場所はどこ?」
「え?」
「場所よ、場所。チュウしてた場所は?」
「え、確か……」
『あっん……まったく……お返しだ、ちゅ』
「グランがカタリナのおでこで、カタリナがグランのほっぺ……」
「ベアがお父さんとお母さんに良くキスされた場所はどこ?」
「それはもちろん、お母様とお父様はよくほっぺとおでこに……ああっ!?」
「そ、唇にしてたらまだしも、おでことほっぺなら親愛の証よ。グランだって確か子供の頃から一人暮らし長かったでしょ。そういうのに飢えてんのよ、きっと」
「う、飢えて……」
『来てくれ……』
「カタリナの方じゃないかなあ……?」
「と・に・か・く」
少々渋っていたベアトリクスをゼタが制するように声を張る。
「ヴィーラはあり得ないし、カタリナは家族みたいなもんってこと。ベアはいちいち気にし過ぎよ。経験ないくせに」
「うえっ!? ぜ、ゼタだって経験ないだろう! なんで偉そうに言ってるんだよ!」
「あんたが恋愛だ夜を過ごしたなんて色眼鏡で見てるからでしょ。グランなんてまだまだ子供なんだから、そんなこと気にするだけ無駄無駄。確かにたらしっぽいとこあるけど、あれは天然よ」
「うう……!」
「だいたいあんた、ストーカーめいたことは控えなさいよ。部屋の前で待ってるならまだしも、部屋覗いたなんて知られたら船下ろされるわよ」
至極もっともな正論にべアトリクスは苦悶の声で縮こまるしかない。
「ま、小言はこれぐらいにしといてあげる。とりあえず、グランが女癖悪いなんてあたしは思えない。てか想像できない。あんたより付き合い長いあたしからすれば、媚薬盛られたら自分であそこ切り落とすぐらいはしそうな奴よ? あんたの気にし過ぎ」
「そ、そう、なのか……」
ベアトリクスは納得できていないようだったが、カタリナとグランの行為のすべてを話していないのだから、ゼタがこういう結論に至ったのも仕方ないと思い直した。ストーカーめいたことはやめろと言われた手前、今更情事をしていたなどと言い直すのもしにくい。
「まだ納得できないの?」
「ああ、え、うん。その、ヴィーラの事はわかったけど、カタリナはやっぱり、グランと恋人なんじゃないかなあって……」
「ありえない」
「え」
ぴしゃりと勢いのあるゼタの言葉に、ベアトリクスは声を失った。
「他になにか聞きたい事は?」
「え、えと、ない、かな」
「そ、じゃあ」
そう言ってゼタは懐から小奇麗な袋を取り出した。近くの市場で買ったのだろう、色とりどりの甘菓子が入っている。
「ちょっときつい口調になっちゃってごめんね。一緒に食べよ」
「えええっ! そんな、私が相談持ちかけたのに」
「いつもの事よ、気にしてないわ。これはベアと一緒に食べるために買ったんだから、さ」
「ゼ、ゼタァ……!」
今度は嬉しさで涙目になる中、ゼタは視線を外した。その瞳には、暗いものが宿っている。
宿の暗い廊下を歩きながら、ゼタは最近のグランの様子を思い返していた。
(ベアが言った事、多分グランとカタリナの事は全部言ってないわね。顔を赤くして言い淀んでいたから、おそらく言った以上の事はしている)
その歩みは次第に早くなる。
(でもキスについては嘘を言ってない。たまたま見てる場面がそうだったってことは考えられるけど……。それにカタリナがグランと恋人なんて、ヴィーラが黙っている訳ないし、それを掻い潜るなんて……)
ゼタが立ち止まり、指を口元にあてて考え込む。
(ヴィーラがグランの部屋を訪れたのは、本当にベアが寝てるところをすり抜けた朝……? グランとヴィーラが夜を本当に過ごした可能性……)
ゼタは微笑むと軽く首を振った。
(それこそありえないわね。ヴィーラとカタリナ、2人に気取られることなく関係を持っている、なんてグランに器用な真似できるわけない。うん、やっぱりヴィーラはベアをからかっただけ。問題は……)
ゼタはグランが宿泊している部屋の前で止まった。ゼタ、ベアトリクス、ケルベロス他を伴って、出立を待機メンバーに伝えるグランを思い出す。
カタリナは特にいつも通りの笑顔で、心配している様子もなかった。
「行ってらっしゃい。ルリアを頼むぞ」
ヴィーラはというと、
「行ってらっしゃい団長さん。さあお姉さま、これから港の市場へ向かいましょう。ここの特産品は……」
「こらあっ! 先輩を引っ張っちゃ駄目っす!」
(うん、特に変わった様子はなかった)
じゃあ、カタリナとグランがうまく隠し通しているということなのだろうか。ゼタは部屋の扉をノックする。
すぐに返事が来たが、少し慌てたような声だった。一瞬、扉の隙間から少し光が漏れた。
(……?)
扉が開く。
「や、グラン……なんでそんな汗かいてんの?」
筋トレをしていたらしい。
(らしいっちゃらしいけど)
「ほどほどにしときなさいよ。ああ、あたしの用はすぐ済むわ」
付近に人の気配はない。ゼタは疑念を解消しようとする理由をはっきりと自覚せぬまま、真っすぐに問いただした。
「あんた、カタリナと付き合ってんの?」
グランの固まった顔が答えだった。
「はあ……」
「はあ……」
「わふぅ……」
三者三様の女子を乗せた馬車が止まっている。ゼタとベアトリクスは物憂げな表情でへりに腰かけ、ケルベロスは中央で寝そべり爆睡していた。
現在商隊の護衛中、なのだがグランは依頼主と共に在庫を持って町の市場へ向かっており、ゼタ達以外の商隊メンバーも手持無沙汰にしていた。
「ねえ、ベア……」
「ん? どうした?」
ゼタは沈んだ声色、それを察してかベアトリクスはすぐにゼタへ向き直った。
「このまえあんたから受けた相談、あれ訂正するわ」
「え、なにかあったのか?」
「グランとカタリナ、あの2人付き合ってる」
「え!? なっ……」
「あいつに直接聞いたの」
「!?……そ、そうか……」
ベアトリクスは一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて受け止めた。だが表情は静かに沈んでいる。
「なにあんた、グランのこと好きだったの?」
「ふぇ!? ば、ばかっそんなことっ」
「言っちゃいなさいよ。ベアとあたしの仲じゃない、誰かに言ったりなんかしないわよ。お菓子たびたびあいつにあげてたの知ってるんだから」
「な!? 見てたのか!?」
「見られたくないなら人気のないところで渡しなさいよ。で、どうなの?」
ゼタはにやついており、軽い雰囲気だった。ベアもそれを見て嘆息し、少しだけ本音を漏らしだす。
「……そりゃあさ、少しはいいな、って思ってたよ。強いしその、信頼してるしさ……」
「でもまだまだ子供じゃない?」
「……初めて会った時は、私もそうかなって思ってたけど……」
ベアトリクスは空を見上げた。青く澄み渡っている。
「ユーステスもバザラガも、その、ゼタもさ。団長の言うことはしっかり聞いて、私も団長と過ごしてるうちに、その訳がだんだんわかってきて……」
ベアトリクスは目を細め、笑みをこぼした。
「私も力はあるけど、信頼を勝ち取るみたいなことは、中々できてないからさ。だからかな、団長に近づきたいし、団長みたいになれたらなって思って……。気付いたら、目で追ってたのかもしれない」
「……」
ゼタは膝を抱え、目をつむった。
「団長がお菓子をもらってくれるたびにすごい笑顔で感謝してくれてさ、料理するのも楽しくて、またあの笑顔が見たくて……」
ベアトリクスの目じりが少し湿っていた。
「はあ、そりゃあ、付き合ってるよな、そりゃあ……。はあ……カタリナかあ……お似合いだなあ……」
ゼタがベアトリクスの背中を軽快な音をたてながらはたいた。ベアトリクスの目から雫がはじけ飛ぶ。
「ぐえっ!? なんだよゼタぁ!?」
「なあに湿っぽくしてんのよ。いつものあんたなら、『私は絶対に負けない!』とか、『ふん、いい逆境だ!』とか言ってるじゃない。色恋になるとすぐあきらめちゃうんだ」
「そ、それとこれとは話が違うだろ! その、団長とカタリナは、大事な仲間だしっ」
「組織の仲間はよく出し抜いてるじゃない」
「ぶっ!? でっでも……」
「恋は戦争ってよく言うじゃない? あんた見た目は悪くないんだし、案外夜に迫ればころっといっちゃうんじゃないの?」
「……そうは、言っても、2人の仲を、引き裂くのは……」
「ああもうまどろっこしい!」
突如立ち上がったゼタに、ベアトリクスの顔は驚きで強張っている。
「単純に二つに一つよ。あんたはグランをあきらめるの? それともどんなに困難な状況でもチャンスを伺って、グランの事を射止めるの? どっち?」
「……!?」
そう言われてしまえば、今までベアトリクスはどう生きてきたのか、自身想起してしまう。
失った境遇、腐らず努力し、成果を出し勝ち得たエムブラスクの剣。ベアトリクスはどんな時でも邁進し、ピンチをチャンスに変えてきた。
笑顔で名を呼んでくれる団長。カタリナと2人並んで歩くその姿を、ベアトリクスは祝福できるだろうか。
(……無理だ)
ベアトリクスに笑顔と覇気が戻った。ベアトリクスも立ち上がり、いつもの猪突猛進の気を存分に出しながら宣言する。
「ありがとうゼタ。私決めた。絶対っ団長、いやグランを振り向かせて見せる!!」
「頑張んなさいよ」
焚きつけたゼタは苦笑していた。単純だが、少しうらやましい。
ゼタは自身の腕で口元を隠しながら肩をつかむ。
『ねえグラン、あたしと一緒に来る気になった?』
(……なんであたしが、貧乏くじ引いてんのよ)
その表情は誰にも窺い知れなかった。
「おーい、すいませーん」
「ん?」
ゼタとベアトリクスへ、手を振っている若者がいる。駆け足でこちらへ着くと、疑問の表情を浮かべる2人を気にせずに話し出す。
「商隊護衛の方ですよね? お二人で構いませんので、ちょっと町の倉庫まで来ていただけませんか? うちの上の人が人手がほしいって……」
「て、行っても……」
「それってうちの団長知ってる?」
「はい」
ゼタとベアトリクスが顔を見合す。断る理由はなさそうだが、ここの馬車と荷物はどうするのだろう。
「二人で行ってくるわんっ」「ここの荷物は見ていてやるわん」
と二匹の犬、ではなくケルベロスが手だけこちらに向けて話していた。
「あ!? あんた今までの話聞いてたの?」
「ちょうど今起きたところだわん」「せっかく惰眠をむさぼってたのに、そっちの青いのがうるさくていい迷惑だわん」
「青いのって私か!?」
「でも寝ている間ここを見ててくれたことは感謝するわん」「恩には報いてやるわん」
「ここはウチらが見といてあげるから、マスターによろしくね♪」
「別にあたしたち休憩しに行くわけじゃないんだけど……まあいいわ、じゃここはお願い。行こベア」
「あっ待ってよ」
2人が案内されたのは町はずれの倉庫だった。付近に人影はなく物寂しい。
「人手がほしいって、まさか荷物持ちじゃないわよね?」
「いえいえ。最近この辺も物騒なので保険ですよ。貴重な物品ですから」
「ふーん。どんな物なんだ?」
「こらベア」
「構いませんよ。こちらはですね……」
薄暗い倉庫に入る3人。内部は多くの荷物が積み重なっており、埃も積もっていない。ベアトリクスが物珍しそうにきょろきょろとする中、「おーい」と外から声が聞こえた。
「ああ、仲間の声ですね。ちょっと待っててください」
「ああわかった」
(……ん?)
怪訝な顔をするゼタ。なにか、嫌な予感がする。
青年が倉庫を出て扉を閉め、次いでガチャリと音がした。そしてパキンと音がすると、そこら中の荷物からピンク色の蒸気が漏れ始める。
「えっななんだ!?」
「!? ベア口抑えて!」
混乱してあたふたするベアトリクスに対し、ゼタは語気を激しくしながらも頭を回転させていた。アルベスの槍の矛先を扉へ向ける。
(どういうつもりか知らないけど、悪い状況なのは理解できるわ。今はさっさと脱出……!?)
「あっ……がっ……!」
同じくエムブラスクの剣を構えていたベアトリクスだったが、震える体に力が入らず、剣を落として膝をついてしまった。漏れる声は苦悶に、頬は赤く染まっていた。
「ベア! 気をしっかり持って……くそっうっぐ……」
そういうゼタも槍を杖にしつつも片膝をついてしまう。息が荒く、力が入らない。だが、体は熱を持ったように熱い。
(さっきのピンク色の奴のせいね……! なんの毒か知らないけど……)
「うっあぐ……くそぉ……なんだよぉ……」
ベアトリクスは地面を這いながらも、落としてしまったエムブラスクの剣へ手を伸ばす。だが、体に浸透し始めた薬品は本来の効能を発揮し始めていた。
「はうんっ!?」
ベアトリクスの体がびくりと震える。それは久しく忘れていた、自身の女の快楽。時折指で慰めたあの感覚が、何も触れず、考えてもいないのに突如暴力的に沸き起こった。
「くっ……下種が……!」
ゼタにも同じ感覚がひた走る。片腕で槍を構えて扉を破ろうとするが、薬の浸透とともに筋力が衰え、重さを支えられずに転んでしまった。
(そういう薬……! なんでアタシたちを……! くっだめだ力が……!)
ゼタはベアと自分がもう戦力にならないと判断し、外に危急を告げる手段はないか思考を巡らせる。だが妙案は浮かばず、ついに槍を手放してしまい、完全に地面へと倒れこんでしまった。
体の筋肉は麻痺、だが女のあの器官は熱を持ったように疼く。そして扉の外から聞こえてきた下卑た笑い声から、ゼタとベアトリクスは自身の運命を予測した。
「ひっ……い……あぁ……」
「く……こ……の……」
絶望に涙を浮かべるベアトリクス、顎を軸にしてなんとか這おうとするゼタ。
外にいる男たちは声からして2、3人どころではなかった。
「おい、まだ開けちゃいけないのかよ」
「バカお前も薬にやられちまうぜ。しかし考えたよな、ここなら無力化、監禁、お楽しみがワンセットでできる」
「ああ早くやりてええ! あんな上玉二人そうそうお目にかかれるもんじゃないぜ!」
「あせんなあせんな。大熊だって一瞬でのしちまう代物だ。排気すりゃそろそろだろう」
「お、そろそろ行けるぜ。一応全員マスクしとけよ」
「おしきた」
扉が開くと、ぞろぞろとマスクをつけた男たちが倉庫に入ってきてゼタとベアトリクスを取り囲んだ。マスクごしだが、着ている装束と仕草から堅気のものではない事はわかる。
「へっへ、いい塩梅だな」
「武器片づけとけ」
「ういっす。うわあっち!?」
一人の男がアルベスの槍を持とうとしたが、すぐに持ち手から発火して地面に落としてしまう。
「ちっ。なんか特殊な武器みてえだな。あっちの剣も触んな。先にこいつらくくりつけんぞ」
「うっす」
「あっ……いや……!」
「さわっんな…………!」
声を絞り出すゼタとベアトリクスだが、ろくに抵抗もできず男たちに抱え上げられ、荷物の裏の柱に2人並んで縄で縛り付けられてしまう。
「うっひょーたまんねえぜ!」
「二人そろっていい胸だなあ。加えてこのすらっとしたスタイル、ドラフだとこうはいかねえ」
「なあ早くやっちまおうぜ! なあなあ!」
「おうさ。お二人さんも待ちかねてるだろう?」
「くそぉ……くそぉ……!!」
「だ……だれが……!!」
「そういう顔も好みだがよ、すぐに自分から腰を振るようになるさ。そらっ!」
おそらくリーダー格の男が、ベアトリクスの胸の谷間にナイフを振った。胸を抑えていたアーマーが左右に分かれ、谷間が完全に露出する。
男たちが口笛を吹きはしゃいだ声を上げる中、ベアトリクスは屈辱と恐怖で涙をこぼし、その雫が顎から谷間へと伝う。
(殺す……!)
ゼタは表情でそう語っていたが、状況は何ら変わらない。ゼタとベアトリクスの体は感情に反して、急速に男を受け入れる体制を整え始めている。
男たちの中にはかちゃかちゃとベルトを外しているものもいる。それを見て憤怒で彩られていたゼタの頭にも、絶望の色が見え始めた。
ベアトリクスは現実を直視できず、目と口を引き絞って救いを求めた。
オダツモッキーの時は反省と後悔、そしてなんとか危機を脱しようという不屈さを持っていたが、目の前にしている現状はあまりに下劣で、女性の尊厳の死に等しかった。だというのに体は性懲りもなく疼き続け、太ももに一筋汗ではない雫が伝う。
それを自覚するとベアトリクスの感情を支配したのは、ただただ目の前の恐怖からの脱却を願う救い、その象徴になったのは一人の男の顔だった。
(グラン……!)
轟音と地鳴りがあたりを支配した。ゼタがベアトリクスではなくあたしを先にしろと男たちを誘惑しようとしていた矢先、男たちは一斉に後ろへ振り向く。扉の外に待機していた別の男達から怒号が聞こえ、金属音と爆音が聞こえ始めていた。
「なんだ!?」
「お前はここで待ってろ。外へ出るぞ!」
「うっうっす!」
ゼタとベアトリクスの傍に一人残し、他の男たちは武器を構えて外へ急行する。すぐに扉の近くで武器のぶつかり合う音と、銃声が鳴り響いた。
(グラン……? グラン……!)
(……何が、起こってっ?)
靄がかかった思考、だが2人を蝕んでいた絶望の色は薄くなってきている。
「なっ何が起こってやがんだよっ」
変わりに2人を見張っている男には戸惑いと恐怖が浮かんでいた。先ほどから聞こえる悲鳴が仲間のものでしかない。
決め手は先ほどのリーダー格の男の声だった。
「おっおい! 早くそこの女を人質にっぎゃあああああっ!!」
それっきり音は止み、扉がゆっくりと開いた。逆光で顔は見えなかったが、ベレー帽にマントの姿はゼタとベアトリクスにとって希望以外の何物でもなかった。
((グラン!))
「ひっ!? まっまてよお前! ここの女がどうなっても」
銃声と共に男の持っていたナイフが砕け散る。男はひいっと悲鳴を上げグランの脇を通ろうとしたが、後頭部に蹴りを食らって外へと吹き飛んでいった。
「あっ……ありが……」
「……よく、ここが……」
グランはすぐにナイフを取り出すと、ベアトリクスとゼタの縄を切って解放した。だが2人とも力が入らないのか手を地面についてしまう。
グランはマントをベアトリクスにかけながら肩をかそうとするが、今度は外が騒がしくなってきた。
「倒れてる奴の手当てをしろ! 絶対に中の奴を逃がすな!」
好意的な相手ではないだろう。ゼタとベアトリクスは完全に足手まといであることを歯噛みするしかない。ゼタは自身を見捨てろと言いたかったが、碌に口も回らなかった。
グランは待っててと安心するように2人に言うと、弾をリロードし外へ出て扉を閉めた。
ゼタとベアトリクスが正常な思考ができるようになるには、それなりの時間を要した。筋力が戻り始め、なんとか這うようにしてそれぞれの武器を手に取る。まだ扉の外では激しい音が止まない。
「ベア……あんた、どれくらい動ける……?」
「力は、出せるけど……加減が……」
(くっ……そうよね)
すでに体の自由は戻りつつある。だが問題は増幅し続けている性欲だった。もし今部屋で一人ならば即座に武器を放り出して指でほじくりまわしていただろう。下着からは粘度を帯びた液があふれ、布がすれるだけで軽く気をやってしまっていた。
(今出て行っても、足を引っ張るだけね。広範囲に攻撃できても、これじゃあグランを巻き込んじゃう……せめて)
ゼタの視線は、自身の股間に向く。
(くそっ本当最悪っ。これさえ収まれば……!)
なにより先ほどまで理由もなく湧き上がっていた性欲が、理由を得てしまっていた。絶体絶命に颯爽と現れた男、絶対の信頼を向けるあの男。
ゼタの脳内では、グランとのピンク色の妄想があふれて止まらない。
(なんでこんなっ今こんなことを考えてる場合じゃ……!)
「あっんあっふあっんんっあぁんっ」
「!?」
だがベアトリクスはそれどころじゃなかった。剣を放り出し、ペタンと地面に座りグランから与えられたマントを舐めしゃぶりながら、自身の秘部に指を突き入れてくちゅくちゅと音を立てている。
「はぁっグランっ好きっちゅぶっグランぅ」
「ベアあっあんた、なにやって」
ゼタはベアトリクスを指さし羞恥に震えていたが、その瞳はベアが熱心にしゃぶっているマントに注がれていた。
(あれはグランの)
「あっあんた恥ずかしくないのっ。そんなのしゃぶりながら、お、おな」
「んっふっちゅぶんふらんっふらんっふらんふうううううぅんっ!」
そう言ってるさなかに、ベアトリクスは背中を反らしてぴくぴくと震えて絶頂していた。その瞳は歓喜に震えて涙を流し、ベアトリクスの股間の下に水たまりができている。
「はぁっはぁっはぁっそんなっそんなことっ!」
ゼタがベアトリクスへ手を伸ばし、槍が地面とぶつかって乾いた音を立てる。
「そんなことっ独り占めするんじゃないわよっ! はぶっんちゅううう!」
マントの地面へ垂れていた部分を分捕り、ベアトリクスと向かい合うように座ってマントをしゃぶって指を自身の秘部に突き入れる。
(あっこれっやばっ!?)
鼻腔を支配するのは、まぎれもなくグランの香りだった。共に鍛錬した際に並んで歩くとほのかに香ったあの香りが、今はひどく甘く脳髄をがつんと揺さぶるような衝撃をもたらしていた。
指でクレバスをなぞるような生やさしい自慰ではなく、既に硬度をもった淫核をこねくり回し、奥に指を突き入れるとぐちゅぐちゅと出し入れしながら、自身がもっとも感じるスポットを探し天井を抉る。
ゼタとベアトリクスは目の前の親友を認識する余裕すらなく、ただ今味覚と嗅覚を支配する一人の男を思いながら自慰にふける。ベアトリクスが二度目の絶頂を迎える中、ゼタは自身の淫核を痛みを伴うギリギリまでひねって盛大に潮を吹きながら絶頂した。
「「んふむぅんんんんっ!!」」
ガクガクと脚が笑い、互いの愛液の水たまりが混ざって一つの泉と化す。既に外の音が止んでいたことなど気にするはずもなかった。
グランは最後に立っていた男を銃撃で昏倒させ、扉を背もたれになんとか呼吸を整えようとしていた。
厳しい戦いだった。中の2人がおそらく神経毒で動けない上、ルリアもたまたま不在でビィに呼びに行かせたケルベロス他助けも来ない。
結局何人倒したか数える暇もなく、ただただ襲い掛かる暴漢を銃とナイフで無力化していくしかなかった。荒い息と汗が中々収まらず、アドレナリンがあふれて自身がケガしているかどうかもわからない。
グランはそのまま振り返り、自身の肩に刺さっていた矢が扉にぶつかった。目をつむり、痛み覚悟で一気に引き抜いたが、血はついてなかった。肩当で止まっていたようだ。それが判別できぬほどグランに余裕はなかった。
だが少なくとも周りに立っている敵はいない。意識が飛びそうになるのを自身の舌を噛んで覚醒させ、扉を押し開く。大分時間はたったが、まだ2人が動けないなら担いでここを離れなくてはならない。
だがグランの目に飛び込んできたのは予想外すぎる事態だった。
「あっグラン……!」
「あっ本物……!」
女のあの匂い、極部を露出した2つの痴態、艶やかに湿った2つの唇、色情に彩られこちらを見つめる4つの瞳。
そんな、バカな、とグランが思ったそのとき、グランの隣に積み重なっていた荷物から、最後の出し残しの蒸気が側頭部に吹き付けた。勢いで帽子が落ちる。
グランの目の色が変わり、銃がガタリと音を立てて地面へ落ちる。しゅるりとグランが外衣を放り出すにつれ、ゼタとベアトリクスが歓喜でグランの名を呼んだ。
扉はパタリと閉まった。
貪欲さは極まっていた。グランがあらゆる鎧とベルトを外し服も半脱ぎになったところで、ゼタとベアトリクスはグランに飛び込んで唇を押し付けた。
「はむっんんちゅっんんん」
「あふっんんちゅんぶつんむっんんうぅ!」
ゼタとベアトリクスがぴったり隣合ってグランに抱き着き、尖らせた唇もグランの口を少しでも味わおうと隣接しながらキスをする。
グランの唇は4つの肉の感触を味わいながら、徐々に横にずらして一つずつ味わうことに決めた。理由はなかったが、最初はゼタだった。
「んむっ!? んふうー、んちゅうれろっ」
「あっずるいゼタっんちゅつれろ」
グランは2人の尻を撫で、後ろから指を突き入れるようにして秘部の筋をなぞった。ゼタの舌先を口内に吸い、甘噛みしながらちろちろとこちらの舌でくすぐる。ゼタは最初に正面からキスしてもらった余裕を忘れ、グランの口内の愛撫と指の愛撫にびくびくと痙攣した。
ベアトリクスはうらやまし気にゼタを見つめながら、グランの頬を一生懸命に吸って、痕をつけながらぺろぺろと舌で本物の味を堪能していく。
「あふっんんっぐらっだめんっんんふぅん!」
激しいキスにゼタとグランの口の隙間から唾液の泡が立ち始め、指も秘部を撫でるのでなく強制的に絶頂へ押しやるような攻撃的なものに変わる。
「はぁっんちゅううう」
ベアトリクスがゼタとグランの接合部の唾液を味わおうと、一度舌で舐めあげ、次にすぼめた口を張り合わせて吸引していく。
(いくっいくっイクぅうう!!)
ゼタの膝ががくがくと震えたのを見据え、グランはゼタの舌を一層吸い上げるとともに、クレバスに突き入れた指をスポットめがけて抉りあげた。
「んくううううぅぅぅんっ!!」
ゼタの嬌声がキスの間から漏れ、ベアトリクスの吸引も伴ってくぐもった高い妙な声が響く。ゼタの股間はぼたぼたと愛液を落としながら、自身に収まるグランの指をきゅうきゅうと締め付ける。
「なっなあ……グランっ私にもっ……」
「ちゅぷ……はぁん…………」
ベアトリクスが縋るようにグランの頬にキスをすると、グランは脱力したゼタの口を離し、ベアトリクスの期待通り正面からキスをする。
「んむっはむっれろっちゅぱあふっ」
ベアトリクスは喜びでグランに体をこすりつけながらも、舌でイニシアチブをとろうと一生懸命グランの口内を舐めまわした。グランはそんなベアトリクスの仕草に興奮の中でも愛おしさを感じ、ベアトリクスの舌を外から包むようにして愛撫に応える。
だがそんな甘い空気を、ゼタは許さなかった。ゆがんだ笑みを浮かべながら、ベアトリクスの耳へ口を向かわせる。
「ねえベア、随分とアタシとグランのキス吸ってくれたわねえ」
「んむっ!?」
「お礼をしてあげる……ちゅぶっ」
ゼタの唇がベアトリクスの耳穴を包むと、内部に舌が一気に侵入した。それだけでなく、後ろからグランの指を突き入れられいじくられていた秘部が、今度前からゼタの指が侵入する。グランとゼタがアイコンタクトして、ベアトリクスの内部を押し広げながら指で別々の個所をかき回す。
「んひぐぅんんんんっ!?」
ベアトリクスがグランとキスをしながら途端目を上向かせ、味わったことがない快楽に混乱と絶頂で思考が麻痺する。
好意を自覚したばっかりの男性に舌で舌を包まれ、耳からはちゅぶちゅぶと未知の音と感覚に脳髄がしびれる。
とどめは滝のように液を噴出し続ける秘部。絶頂の最中だというのに、内部はグランの指とゼタの指が不規則に、ときに合わせたように抉って掻いてこすりあげる。
既にベアトリクスの流す涙の意味が変わり、壊れた蛇口になってしまった股間はもたらされる快楽に耐え切れず、膝から力が抜けてしまう。グランとゼタも指を引き抜き愛撫をやめ、乾いた呼吸を繰り返すベアトリクスをゆっくりと横たえた。
「……ちょっと、やりすぎちゃったわね……」
「ひゅー……ひゅー…………」
ベアトリクスの膣から弧を描く雫は止む気配がない。ゼタはベアトリクスの横に寝そべりながら、既に臨戦態勢となっているグランのペニスを見て吐息を漏らす。
「ねえ、はやくっ……」
グランはゼタに覆いかぶさり、亀頭を既に濡れそぼっているゼタの入口に押し当てる。ゼタはグランの首に腕を回しながら、グランの表情が一瞬曇ったのを見逃さなかった。すかさずグランの唇に触れるだけのキスをして、グランの瞳をのぞき込む。
「いまさら罪悪感なんて覚えてんじゃないわよ……。アタシが相手してあげてんだから、もっと、喜びなさい……」
ゼタはグランを自身へ抱き寄せ、耳元へ口を寄せる。
「アタシは……喜ん……でるわよ……あんたは……?」
グランとゼタが再び見つめ合い、今度はゆっくりと唇を触れ合い、舌を味わい合うように絡ませる。唇と舌でゼタの力が抜けたのを見計らって、グランは一気に突き入れた。
「んっく!? んんんっんんむっはぁっんんっ」
薬の影響だろうか、痛みは一瞬で、すぐに目の前の男への恋慕と、体を駆け巡る快感に支配される。足でグランの腰をがっちりとつかみ、がつがつと抉ってくるペニスの律動を悦んで楽しむ。
グランも我慢ができる状況じゃなかった。いつものゼタを見てきたならなおさら。
いつも余裕気な笑みを持ち、絶大な力を持ちながらその身にまとう空気は軽く親しみやすく、からかうように体を寄せてきては頬をつついてくる女性が、今自身を求めるがために手足を強く強く絡めつかせて、膣内もペニスへの圧力と液の分泌をやめない。
子宮口を押し上げるたびにキスから離れたゼタの嬌声が響き、これ以上はないと思っていたグランの目の血走りが濃さを増す。
「あぁんっはぁっ好きっぐらんっ好きぃっ出してっ出してぇ!!」
甘い言葉に鈴口から我慢汁がとめどなくあふれ、暴発しそうになるのを丹田に力を込めて耐える。こういう状況になった以上、せめてゼタを気持ちよくさせてあげたい。
グランのそんな想いを、ゼタもわかっていた。なんども「グランっすきっすきい」と嬌声の合間にもらして、唇、頬へとキスして、腰を上下左右に揺らしてアクセントをつける。豊満な胸と固くなった乳首をグランの胸板にこすりつける。
ゼタの声も、匂いも、体も、すべてグランを絶頂に導くために使役され、膣穴が今か今かと脈動し、グランの我慢をずたずたに引き裂いていく。
「ひぃああっもうっだめっいくっいくぅイっちゃううぅっ!」
ゼタの嬌声に余裕がなくなってくるのと同時だった。ゼタの膣内が波打って一気にしめつけ、子宮口をペニスの先端が押しあげた途端、
びゅるるるるるるるるるっびゅるるるっつびゅるるるるるるびゅるるるる……
「あああぁぁああああっっ!!」
びくびくびくびく!
ぷしゃああああ…………
ゼタは条件反射でグランを精一杯抱きしめ、グランの首に頬を押し付けながら絶頂した。体に電流がはしったようにぴくぴくと震え、膣内がペニスをさらに奥へ奥へと脈動する。
「あっ……あっ……あふっ……ちゅる……んっ……」
絶頂の波に浸りながらキスをする。穏やかなキスで、今感じている感覚にいつまでも浸っていたい、そう互いに思っているゆえの優しいキスだった。
どくどくと子宮を精液で満たしつつ、グランとゼタの互いの体の押し付けは力を緩やかにしていく。
「んんっー……んんんっ……」
ゼタは唇を尖らせてグランの唾液を吸い取りながら、射精が弱まったペニスを膣できゅっとしめて離すのを繰り返し一気に搾り取った。グランの力が抜けて体重がかかり、優越感に浸りながら背中を撫でる。
(さて、そろそろ)
「ちゅる、はぁ。グラン横見て、って回復早!?」
起き上がったベアトリクスがものほしそうな顔でグランを見ていたので、ゼタはグランをベアトリクスへ注意を向けさせたかったのだが、その過程でグランが即時硬度を取り戻したので素に戻ってしまった。
「うう……グラン、私も、その、大丈夫か……?」
「安心してベア、こいつ無尽蔵よ」
グランがずるりと引き抜くと、ゼタの愛液に濡れたペニスがご立派に鎮座していた。とても一度出したものとは思えない。グランも活力満タンだった。
「グラン、わ、わたしも、その……」
ベアトリクスはもじもじとして視線を逸らしながら、それでもグランに喜んでもらおうと言葉を選ぶ。
「お前で、その……嬉しいというか、その、ああもう!」
そういうとベアトリクスは、表情を引きしめ、極部がグランによく見えるように体を寝そべらせる。
「……好きだ……。だから、来てくれ……」
秘部を指で押し広げ、真正面からグランへ思いを告げる。横に押し広げられたそこは糸を引いた液が無数に見え、少し視線を上げると豊かな双丘とそそり立つ乳首、そして恥ずかし気ながらも意思を持った瞳で微笑みかけるベアトリクスの顔があった。
ゼタは思わず、あまりにも色を持った仕草とベアトリクスの感情が細部まで理解できて、同性でありながらつばを飲み込んでしまう。ベクトルを向けられたグランなど、魅了されるに造作もなかった。
……ずぷっ!
「あああぁぁっ!!」
グランはベアトリクスの腰をつかみ、一切の容赦なく一息に最深部まで貫いた。ベアトリクスは電流を受けたかのように背中を反らせ、ぷしゃりとグランの下腹を濡らす。
「いっいきっ……!?……いあああっ!?」
グランは歯を食いしばり、欲望のままにベアトリクスの膣内を抉り続ける。肉がぶつかる音が激しく響き、その度にびちゃびちゃとベアトリクスの潮があたりにまき散らされ、2人ひどい淫臭にまみれていく。
「いっああっいくのっとまらなっ!? とまらないよぉっ!? ひぃぁああああ!!」
ベアトリクスの体が絶え間なくガクガクと震え、自身の頭部を両手でつかんでいやいやと顔を振る。常時ではありえない絶頂の波に喜びよりも混乱をきたしてしまう。
「んふっ!? ちゅっんんっんんっちゅうう」
それを察したグランがすぐさまベアトリクスの唇を奪い、腰の動きを緩やかにしてベアトリクスの頭を撫でた。絶頂が引かないなかベアトリクスの思考にも少しだけ余裕ができ、グランの温もりに身を任せながら、ゆっくりとグランを抱きしめる。
「んっくっんんっ……」
ベアトリクスは目をつむり、グランの舌を唇でしごいて唾液をごくごくと飲みながら、また少し余裕ができると足首をグランの足に絡ませて腰を前後に動かした。グランも応じ、徐々に腰の動きを速めていく。
「ちゅふ、はぁ、グランっきもちっいいかっ?」
グランがうなずいて肯定すると、ベアトリクスは顔を綻ばせてグランの鼻に自身の鼻をすり寄せる。次いでちゅっとキスをすると、
「もう、大丈夫だっ……。いっぱい、気持ちよく、してっ」
グランはベアトリクスの口内に舌を突き入れると、きつく抱きしめて腰の運動を自身が求めるままに変えていく。
「あっひいっ!? ああっはぶっちゅうっんちゅううううう!!」
ベアトリクスが耐えるように、そしてグランからもたらされる刺激を細部まで感じるために、口も体も膣もきつく密着していく。想像していたよりも官能的で、期待していたよりも暴力的だった。だが体が快楽に毛先まで染まっていくにつれて、心も頭もグランへの愛で満ち満ちていく。
その愛と快楽が許容量を超え、ベアトリクスの全てが高まり切って切れるその時に、グランはごりゅと音を立てて天へ導いた。
「っっっっ!!!!!」
びくびくびくびくびくびくびくびく!! きゅうぅぅ……………
ぷしゅっぷしゅっぷしゃあああああああ…………ちょろろろ………
びゅるるるるるっびゅるるるるっびゅるるる………
(あっひっあっ)
ベアトリクスもグランも、なにも思考をできなかった。気遣いもなにも。気持ちいい。気持ちよすぎる。
快楽が押し寄せていつまでも引かず、どっぷりはまって抜け出せない。脳内麻薬があふれ、体が尋常ではない勢いで震え続け、互いの液体の混合液が上から下からあふれて止まらない。
もう、止まらなかった。グランはまたメスのにおいを嗅ぎ付け、痙攣してお漏らし続けるベアトリクスから自身を引き抜く。その視線と勃起したペニスは、夢中で自身を慰めているゼタに向けられていた。
「んっんっんっんっんん、あっ……」
ベアトリクスとグランの交合にあてられて、夢中になって指を出し入れさせていたゼタはグランを見て固まったが、すぐに余裕の笑みを浮かべると自身のそこを指で広げて見せつけ、
「ふふっまだしたりないでしょ? あたしが一緒でよかったね、グラン?」
誘ったと同時に、即座に刺し貫かれてベアトリクスと同じ運命をたどった。
「んひぎぃいいっ!?」
ゼタが液を放出すると、グランも濃い塊のような精液を即座に子宮へ叩きこむ。互いの沸点がこわれ、グランも本能のままに腰を動かし続ける。
「ほむっんむっあむっんむうっ!」
ゼタも餌にむしゃぶりつくようにグランの唇と舌を吸い、絶頂のまま腰を動かし続ける。後ろではゆらりとベアトリクスが起き上がり、グランに後ろから抱き着いて首に舌を這わせる。
「もっと、いっぱいぃグランぅう……」
「あむっいっくぅうううんんっあひぃあああっ!!」
びくびくびくびくびく! びゅるるるるるびゅるるる……
ずるり……
「あっ……次は、私だな……ん!」
ずぷっ
「ああああああっ!!」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……グラン、ベアにしたらまた、ね……?」
ゼタを抱けばベアトリクスが絡みつき、ベアトリクスをいじめぬけばゼタが腕を抱いて催促する。
終わらない快楽の輪廻が作り出した水たまりの上で、びちゃびちゃと3人は踊り続ける。
外が騒がしくなり始めると、ゼタとベアトリクスはグランのものを口であやしながら武器を放り投げ、扉の前で×字を作るように突き刺す。アルベスの槍で鉄製のカギ部分が焼かれて溶接され、本能が消えゆくまで情欲に湿気る視線を交わらせて離さなかった。
「んーえへへー♪」
「んー……ふふ♪」
「わふぅ……」
商隊護衛を乗せて馬車は行く。ケルベロスは日向ぼっこでまどろんで、グランは両手に赤と青。
両腕胸に挟まれて、頬には唇寄せられる。ルリアは「つーん」とそっぽを向いたあと体から出てこない。
顛末聞いたは夢のあと、ケルベロス他ルリアとビィは悪党一味の数に手を焼いて、倉庫に来たならドア開かない。
結局ゼタとベアトリクスがしっぽり満足するまで倉庫は開かず、出迎えたのは興味深げに3人を眺めるケルベロスと、頬を膨らませて嫉妬するルリア、事態を察せぬビィ他数人。商隊から悪党に情報を流した裏切者も捕縛され、依頼主からは追加で多額の謝礼をもらったがこれは余談。
ともかくグランにとって、これほどグランサイファーが断頭台に見える日もなかった。グランは抱えている事情をすべて話していたが、ゼタとベアトリクスはそれでも腕を抱いて一向に離さず、「ねえ、今夜はあたしと2人でどう?」とか「だ、だめだ! あの時ゼタが先だったんだから、今度は私が先だ!」と声のトーンも抑えない。近くの若い商隊員が馬車を殴りすぎて穴を開けそうだった。
「だめです!」
と、今度はグランの膝の上が輝くと、ルリアが対面で抱き着くように座ってゼタとベアトリクスを牽制する。
「えールリアちゃんは、いつもグランとしてたんでしょ。依頼の間はあたしたちに譲ってよ」
「そうだそうだっ」
「むうーだめですっ。4人で一緒なら構いませんけど、2人きりは許しません!」
馬車にガツンと大穴が開いた。ルリアがプンスコと怒りながらもグランにキスをしていく。
「4人で一緒って……!? 男ってそんなことできるのかゼタ!?」
「普通そんなわけないでしょ……。でも驚いたわ、女癖悪いどころじゃないわねグラン。結局手籠めにしたのは全部で何人?」
「ヴィーラと、リーシャもいいんだから……私たちがダメって理由はないよなっ」
グランも色々と言いたいことはあったが、誰も擁護しないことが分かり切っていたのでもう何も言わなかった。
傍から見ているビィはケルベロスの横で器用に体育座りをし、達観したように死んだ目をしていた。
「なあ……相棒とルリアがどこか遠くに行っちまったように見えるんだけど、オイラの気のせいかな……?」
「人生色んなことがあるわん」「時には見なかったことにするのも大切だわん」
「今回のマスターも特に気が多いねえ。騎士とどっちが凄いのかなあ?」
騎空士乗せて馬車は行く。グランの背には嫌な汗、だが自身を抱く温もりは好意的なものに違いなく、3方から来る唇の感触に、しばし思考を忘れて浸っていた。