(順調、だな。順調すぎて恐ろしいくらいに順調だ。こういう時に限って、ろくでもないことが起きる。策や作戦自体は上手く行くが突発で邪魔が入るんだよな)
解除薬と契約書の入手をつつがなく終えた虎太郎は凜子の部屋に戻るまでの最中、救出作戦の進行具合を頭の中で再度確認し直し、一つの危惧を抱いていた。
事が順調に進み過ぎていると不安を覚えるアレである。しかし、大抵の場合は当人の思い込み、悪い記憶が先行した勘違いなのだが――彼に限っては、例外である。何せアルフレッドがいる。記憶違いなら兎も角、記録違いなぞ在り得ない。
彼は実に運が良い男だ。
5歳でふうまを出奔し、その粛清を躱しながら生き残れている時点で、その強運は疑いようがない。
……ないのだが、強運と凶運のバランスが取れていない。しかもその二つが同時に襲ってくる場合もあるのだから、手に負えない。
それを何とか策と知恵と力押しとドライさでどうにかこうにか越えてきたのだから、凄まじい話でもある。
作戦に関しては、最終段階に突入した。
もうコースには乗っている。あとはスタートを切るだけでゴールまで一直線。その上、突発的な
つまり、もう誰の手にも止められないということだ。それがエドウィン・ブラックであれ、不知火を堕落させた“あのお方”とやらが出張ってきても変わりはない。
最低限、ゆきかぜ、凜子、不知火の三名が五車学園に戻れることは今の時点でも確定している。
問題なのは自身の安全であるが、相手が誰であれ、逃げ切れるだけの能力を有している自覚が彼にはあった。
ならば、何故危惧など抱くのか。
作戦の成功はほぼ間違いなく、自身の身にも類は及ばないのであれば、何の問題もあるまい。
その理由は単純だ。また余計な苦労が増えそうだから。楽には程遠い人生に、嘆いているだけなのだ。
「…………」
何時もの癖で気配も足音も、扉を開ける音すら殺して凜子の個室へと足を踏み入れる。そこで見たものは――
「ん……はあ、すん、すんすん……ハァァ……」
――虎太郎の上着、その袖を鼻先に押し付けて匂いを嗅ぎながら、自分自身を慰めている凜子の姿だった。
大抵の人間は驚いて硬直、或いは気を遣い退室をする。極一部の下衆は獣の如く襲い掛かっただろう。
それほどまでに煽情的な姿だ。切なげに眉根を寄せたと思えば、次の瞬間には恍惚に満ちて表情が蕩けていく。
しかし虎太郎、意外にもこれをスルー。
(誰にとて性欲はある。オレも自慰くらいは…………あれ、訓練くらいでしかないな。いつまでも我慢したり、いつでも射精したりとかの訓練。完全なプライベートでしたこと一回もねーな、そういえば)
凜子の自慰姿を見ていながら、思考が別方向へと飛んでいる。
人が生まれ持つ三大欲求が完全に理性と乖離している。任務中であれば、この男は簡単に即身仏へとなれるだろう。
「ハ、あぁ……い、いつもより敏感に、なってる……こ、こん――――」
「………………」
「――――うぅ、うぅぅ~~~~~~~~~~~~っ」
「待て、待て待て。泣くな、泣くなよ」
全く別の事柄を考えていた虎太郎と自慰の最中だった凜子の目が合った。
虎太郎は全く平静のまま、凜子は欲情とは別の赤に顔を染めて、互いの顔を見合わせる。
声にならない悲鳴を上げながら、開いていた脚を閉じ、両腕で身体を抱き、目の端に涙を浮かべる凜子。
「何だ、媚薬でも飲まされたのか?」
「ち、違う。ぐす、そうじゃなくて……」
「じゃあ、どうした?」
「に、匂いで、上着からした貴方の匂いで、堪らなくなってしまって、その……」
思いもよらぬ凜子の性癖に、虎太郎も反応に迷う。
匂いフェチ自体などそう珍しいものでもない。だが、どの性癖にも共通する事柄だが、嗜好が深くなるほどに通常の性癖とはかけ離れたものとなっていく。
加虐嗜好とてそう珍しくはないが、度が過ぎれば相手に一生涯に渡る傷を残す結果となるだろう。
その点で言えば、凜子はまだ他人からの共感を得やすいだろう。
ただ、発端となった出来事は10年前の救出劇。その後、安堵の中で虎太郎の汗の匂いを嗅いでから、というのだから些か以上に愛らしい。
「そうか。そりゃあ、何というか、悪かったな……?」
「あ、謝らないでくれ。私が勝手に目覚めてしまっただけなんだ」
凜子はそう言ったものの恥ずかしそうに目を逸らす。自慰行為など、他人に最も見られたくない情けない姿なのだから当然だ。
「じゃあ、折角だ。これからお前を抱くか」
「そのようなもののついでの用に言うな! どうせ仕事だからなのだろう?!」
「怒るなよ。まあ、オレがお前等の女心とやらに共感していないのは確かだがな。けど、自慰までしてオレを求めたんだろ? なら、応えてやるさ」
返事も聞かず虎太郎はベッドの上で座り込んでいる凜子の背後に回り込む。そのままこれはもう必要ないとばかりに上着を剥ぎ取り投げ捨てた。
凜子は非難の声を上げようとしたが、背中に触れ胴に巻き付いた男の熱と全身を包む匂いに、見苦しいほどに媚びた吐息を漏らし、くたりと身体を預けてしまう。
後ろから抱きすくめられる。たったそれだけの行為で、虎太郎のデリカシーの無さに抱いた怒りを理性諸共に溶かされてしまった。
「や、やめ……て、駄目だ。も、もう、私は、ひぅ、好きでもない男に抱き締められる、はぁっ、だけで、発情してしまうんだぞぉ……」
「ほら、こういうのはどうだ」
「はふぅぅぅん……♪」
虎太郎は凜子の肩に顎を置き、更に密着するように腕に力を込める。
凜子は女を女たらしめている最も大事な器官から、甘く甘くねだるような疼きを感じた。堪えるという思考すらなく、雄を誘う発情しきった雌声を上げてしまう。
「さあ、こっちもお前の要求で完全にプライベートだ。そっちにもこっちの要求を聞いて貰おうか」
「な、何を……」
「そうだな。…………こうするか」
「あっ、やめ……! あ、ぁあ……」
凜子の膝を掴むと、思い切り両脚を開かせる。
抵抗の言葉はあれど、抵抗の力はない。赤子の手を捻るよう簡単に、限界まで開かれた股間の中心では、既に蕾を開き、濡れそぼった秘裂が激しい羞恥と切ない期待でヒクついていた。
はしたない。いやらしい。情けない。恥ずかしい。
様々な思考が弾け、混じり合い、噴き出しながらも凜子は身悶えしそうな興奮を覚える。
これから虎太郎の女にされる。その事実だけで、絶頂に達してしまいそうだった。
「さっきの続きをしてみせろ。自分をどう慰めるのか、オレに晒せ」
「あ、あぁ……そ、そんな……女に恥を掻かせるような……」
「そんな言葉は聞いていない。返事はどうした?」
「はあっ、はあっ……ぅふっ……ふぅっ……うぅ……は、はい」
相手が誰であれ、凜子は男から命じられれば奴隷娼婦として従わねばならず、嫌でも従ってしまう。
同じように興奮もした。同じように羞恥を糧に疼きも得た。なのに……なのに――――
(嫌悪感がないだけで、愛した男に命じられるだけで、こうも、こうも違うのかぁ……♪)
まるで質も桁も違う興奮と悦楽。
愛した男に女としての自分を全て捧げる。愛人気質である凜子は、それだけで女としての矜持全てが満たされてしまいそうだ。
虎太郎に薄く小さい、隠すという役割を一切果たさない、男を誘うためだけの小道具を、ぬちゃりと粘着質な音と共に剥ぎ取られる。
下着と女陰を繋ぐ本気汁の糸は、奴隷娼婦として改造され、無数の男にあらゆるプレイで応じてきた凜子であっても、初めて見る光景であった。
ひくひくと蠢き、情けないほどに虎太郎を求めている女の象徴は、文字通りの恥部だ。
震える指を伸ばし、向かったのは包皮で覆われた淫核だった。
「へぇ、凜子はクリ派か」
「ふぅっ、はあぁん、はっ、はい……ここを、ひっ……優しく、擦って……ゆっくり、あっふぅ、時間をかけて……イく、んだぁ……」
「頻度はどれくらい?」
「うぅん、そんなことまで……あっ、くぅぅ……週に、2回くらい……ひゃふぅ、普段は、訓練ばかり、だから……」
「訓練がなければ、もっとしたいと。くく、クールを気取っておいて実はオナニー狂いとはまた」
「た、ただの言葉の、ほほぉ、……綾だ……い、イジめないで、くれぇ……」
「駄目だ、全部聞かせて貰おうか。で、オカズは?」
「……うぅ……ひんっ……ゆ、ゆきかぜを、はぁっ……犯した貴方が……その、後に、こく、私も、犯してもらう妄想だぁ……!」
「筋金入りだな」
凜子は自身の愛人気質を揶揄され、ただでさえ赤かった顔は更に赤くなり、目の端に涙を溜めた。
それでもクリトリスを責める指は止まらない。全身は汗で濡れて肌の上を這い滴い、求める絶頂に向けて一歩また一歩と上がっていく。
全身をびくびくと痙攣させ、虎太郎の前だと言うのに――いや、虎太郎の前だからこそ、ただのオナニーとは比較にならない快楽であると伝える。
(もう、イく、イッてしまう。虎太郎には何もされてないのに、恥ずかしいオナニーアクメ、くるぅぅぅ!!)
肉芽を擦り上げる速度に変化はなく、とことんまで焦らす。
少しでも長くはしたない姿を晒せるように、少しでも長く自分自身を見てもらえるように。
命じられるがままに披露した自慰行為であったが、凜子にとっては決して見せてはならない羞恥の極みを晒し、感じたこともない快楽と虎太郎の
「――――待て」
「な……なんれぇ……」
普段の冷徹な声とは違う楽しげな声であったが、明らかな静止の命令に凜子はピタリと手を止める。
こぼれる涙は羞恥によるものではない。そもそも凜子にとって羞恥など既により強い快楽を得るための一要素に過ぎない。
ただ、もう少しで絶頂へと至り、虎太郎を少しでも楽しませられたのに、という完全に雄へと服従した雌の思考からだ。
「何、手伝おうと思ってな……?」
背後を振り返れば、虎太郎が嗜虐的な笑みを浮かべギラついた獣欲の剥き出しにした眼差しを向けている。
愛する男の生のままの欲望に、凜子はキュンと子宮が戦慄いたのを自覚し、虎太郎が指示するがままの体勢を取った。
「いい格好だぞ、凜子」
「あ、あぁぁぁ、……何てみっともない格好なんだ…………ゴクリ」
裸でベッドに寝そべった虎太郎の身体の上で、大きくM字に開脚し、両手で左右の肘を持ち頭の後ろで組む。
およそ女がするものと思えない、惨めで下品で卑猥なポーズ。
しかし、凜子は知っていた。これは服従のポーズだ、と。リーアルに教え込まれ、客にも散々要求された。
男どもの下衆な欲望に激しい屈辱と情けない発情を示してしまったが、相手が虎太郎と言うだけで全てが悦びと変わってしまう。
何よりも露わになった肉棒ははち切れんばかりの興奮を報せ、目の前の雌に今すぐぶち込んでしまいたいと主張している。
立ち上る余りにも濃い精臭に、凜子の表情は自然と蕩けていく。元より愛人気質の上に匂いに興奮する性質である。それだけで女としての全てを捧げたくなってしまう。
「チンポを貸してやる。これでオナニーしてみろ。但し、挿れるなよ」
「は、はい、分かりました……んくっ、はっ、はぁっ、ふぅ、くっひぃいいいぃいいぃいいんっ!」
自然と男を認めて傅くような口調で応じ、何度も呼吸を繰り返し、何度も唾を飲み込んで、意を決してヴァギナを剛直に押しつけて擦り上げる。
その瞬間、凜子は喘ぎ声を上げて歓喜を告げた。何度も何度も白い火花が目の前で散り、快楽で思考が蕩けていく。
快楽によって全身が痙攣し、大きな乳房と乳首はぶるぶると震えて男の視界を楽しませ、雌穴はぷちゅぷちゅと音を立てて本気汁を怒張に塗り込んでいく。
とても乙女のモノとは思えない下品で卑猥な腰振りは、チンポを使ってのオナニーを許してくれた虎太郎へのせめてもの礼だった。
「はっ、あひっ、はあっ、いいっ、あっへぇ、こ、こひゃっ、こひゃろう、こひゃろうぅぅっ」
「どうした?」
「これ、無理らっ、これむりぃ! あ、アクメ、ひやぁ、我慢きかないっ! んひっ、アクメ、頂いても、よろしいですかっ?」
「好きにしていいぞ。いや、手伝ってやるか、ほら」
「ンなぁっ、あっへぇぇえええええぇぇええっ!!」
虎太郎からは動いてはくれないと思っていた凜子は立て続けに秘裂とクリトリスを滑った裏筋の刺激にあっさりと絶頂に達してしまう。
今まで経験したことのない絶頂に限界まで背中を反らし、自分を絶頂に導いたチンポに潮を吹き掛けながら、くたりと虎太郎の身体へと倒れ込んだ。
舌をだらしなく垂れ下げ、涎と涙で塗れて全てが蕩けたアクメ顔を自分の男に晒した凜子は、どうしようもない多幸感で包まれていた。
「あ……あひ……くぅう……ふぅぅン……ひふぅ……ぅ……はぁ……」
「ほら、休憩してる暇なんかないぞ、凜子。今度はお前が女としてオレを楽しませる番だ」
「はひぃぃいいいいいいぃぃいいいいっっ!!」
身体を重ねたままの状態で、手も使わずに簡単に挿入されてしまう。
一気に最奥まで貫く挿入だったにも拘わらず、襞の一枚一枚からGスポット、子宮口までを亀頭とカリ首で抉られ、何回アクメに達したのか分からないほどだ。
(なんだこれなんだこれなんだこれぇぇぇぇ! 全然、違う。今までのチンポなんかと比べ物にならない! 気持ちいいしかない! アクメ、するしかないぃぃ!)
呼吸すら忘れ、挿入だけの連続アクメに獣そのものの嬌声を上げる。
ただでさえ改造によって敏感になっているというのに虎太郎の手腕か、凜子の性癖故にか、更に敏感になった雌肉は男根の脈動すら糧として更なるアクメを楽しんだ。
「かっはぁ……あへ……はひっ……へあ……ぇぅ……はひゃぁ……」
「そろそろ、戻ってきたか?」
「んひ、……まだ、くぅっ、軽くイキっぱなし、ぅん、だ。……はぁっ、凄く、気持ちいいな。うぅ、嬉しく、て、ふぅ、セックスで、ぁっ、満たされる日がくる、なんて……」
虎太郎の胸板に顔を押し付け、凜子は脈動の音と汗の匂いを楽しむ。それだけでまた軽い絶頂に達してしまう。
リーアルや客共にアクメに押し上げられる度、吐き気を覚えるほどの自己嫌悪に死にたくなったというのに、今は健全な充足感しかない。
「あ、貴方は気持ちいいか? 私、ばかり……んンンっ」
「これで、気持ち良くないと思うか?」
「あっ、あっ、ビクン、ビクンって跳ねて、これ、ひんっ、いい、オマンコもチンポを悦んでるぅ♪」
「分かるか、凜子。こうやって舐って、子宮口を説得してるのが」
「分かるぅ、こんなの分かるだろぉ、んあぁっ、自分から吸い付いてる子宮口、ひぃぃん、こね回して……お、ほぉ、チンポ、子宮まで犯す気だぁ!」
「そういうこと」
「ひあっ♡ あへぁっ♡ ひゃぁあああぁぁんッ♡」
経産婦ではないにも拘わらず、興奮と発情、虎太郎の技術によって子宮口は緩み、大きすぎる一物をあっさりと飲み込んで子宮まで迎え入れる。
本来であれば子供を育む為の器官まで差し出し、子宮の天井を擦り上げられながらのアクメは、奴隷娼婦として経験を積んだ凜子であっても初めての体験だった。
膣は蠕動して幹を扱き、子宮口は何度も収縮を繰り返して男性器に射精を促す。
子宮から何から女としての全てを味わわれている感覚、手足どころか肛門まできゅうと筋肉が縮んで戦く。
反面、尿道は緩んで虎太郎とベッドを汚す。無意識で自分の男に対して自分の匂いを残そうとしているかのようだ。
「もっ、ダメ……あぁあン……オマンコ、頭、ひぃぁぁ、バカになってう、くぅぅうう!」
「じゃあ、イクぞ。凜子もイっていいぞ」
「はひ、はひぃぃ! あっ、あっ、あっ、ぁぁっ、ああぁぁぁあっ!! イグ、オマンコ、イッでる! ィィイッぐぅぅううううぅぅぅぅうううっっ!!」
子宮内の灼熱から更なる灼熱を吐き出され、中出しアクメを貪る。
口をわなわなと震わせながら、今度は女としての快楽と幸せを表現する絶頂そのものを吐き出すような絶叫を響かせる。
「あ゛ぁぁあっ、あぁぁっ、ア゛ァァっ、あ゛ああぁっ、んああ゛っ、んあ゛あああぁぁあああっ!!」
「ちゃんとイッてるか、凜子」
「イ゛っでるぅ! すごいっ、すごいでてるぅぅっっ、熱いザーメンっ、びゅくびゅく、熱くてすごいのっ、ねっとり塗りたくられてるぅぅ!」
子宮の壁に精液を掛けられる度に、絶頂の数が増えていく。
粘性の強すぎる特濃ザーメンがべちゃべちゃと張り付いていき、アクメは何時までも終わらない。
「と、止め、こんなすごいザーメンっ、頭、おかしくなっちゃぅ、妊娠っ、赤ちゃんできるぅぅ!」
「ま、その時はその時だな」
「おぉ……おひぃ♪ 精液、ザーメン♪ オマンコに塗り込みながら引き抜くなぁ♪ またイッぐぅうぅぅ♪」
たっぷりと中出し射精を楽しんだチンポは、子宮に入りきらなかった精液、子宮からこぼれ落ちた精液を容赦なく塗り込んで凜子のオマンコに精液の味を覚えさせる。
「こ、こんなセックス覚えたら、もう他のチンポでイけるものかぁっ……わ、私は、……奴隷娼婦、じゃないぃ。これで……私は、貴方の女だぁ♪」
「元々こっちはそうするつもりだからな」
「……あな、たぁ♡」
最後は単なる二人称ではなく、最愛の夫に告げる妻の呼び方で虎太郎を呼び、凜子はクタリと身体を重ね、意識を手放すのだった。
―――――
――――
―――
――
―
「お痒いところはございませんか? ――――ふふ、なんてな」
「あ゛ぁ゛~~~~~、凜子、シャンプー上手いな」
「そうかそうか、気に入ってくれて何よりだ」
凜子が意識を取り戻すと二人は一緒に風呂で互いの汗を流していた。凜子だけは長い髪が湯船に入らぬように纏めていた。
部屋に備え付けられたバスはソーププレイにも対応できるよう、それなりの広さがある。
洋式らしい浅く広い造りの浴槽の縁に虎太郎は頭を預け、凜子はその上から身体を重ね、厚い胸板に豊満な胸を潰しながら押し付けている。
その体勢のまま凜子は虎太郎の髪を洗っていた。丁寧に頭皮をマッサージし、汚れなど一つも残さぬような洗髪だ。
「ほら、流すぞ」
手にしたシャワーからお湯をかけ、残ったシャンプーで頭皮が炎症を起こさないように洗い流す。
ゆきかぜもそうであったが、凜子の甲斐甲斐しさも中々のものだ。
ゆきかぜが虎太郎の尻を叩いて歩かせるような甲斐甲斐しさならば、凜子は自分の全てを捧げて奉仕するような甲斐甲斐しさ。
虎太郎も悪い気はしない。任せられるものは他人に任せたい性質である。
気が済むまで世話を焼いた凜子はにっこりと微笑む。ゆきかぜが事後に見せた笑みと同質のものに、女という生き物の愚かしさと同時に手に負えなさを再度痛感し、小さく溜め息をついた。
「お前らは本当に物好きだよなぁ」
「ふふ、自覚はあるさ。貴方に惚れてしまったのだ、仕方ない」
「それで子供を孕んでもいいとは恐れ入る」
「まあ、貴方のことだから何か妊娠でもしない仕掛けがありそうだがな」
凜子の言葉にガックリと虎太郎は項垂れた。ズバリ、凜子の女の勘が当たっていたからである。
房中術を学ぶ過程で、気を用いて精子の活動を停止させる技も学んでいた。
子供なんてものに興味はなかった。対魔忍の仕事をする上で家庭も子供も邪魔にしかならない。人生という過程を歩む上では重荷など少ない方がいいというのが彼の持論だ。
「その様子では、当たっていたのか……?」
「何だ。安心するなら兎も角、不満そうな顔すんな」
「ふん、貴方のような薄情者には分かるまい」
「……お前等はどこまで考えなしなんだ」
妊娠は、女にとっても男にとっても一大事。
その先が幸か不幸かは分からないが、何らかのターニングポイントになるのは間違いない。
わざわざどう転ぶかも分からない博打を打つなど、虎太郎には任務だけで充分だ。
だと言うのに、凜子は拗ねてしまう。
愛した男の子を孕みたいという気持ちは理解できるが、些か以上に軽挙が過ぎる。対魔忍としての任務もある、今後の人生や人間関係もあるだろうに。
それだけ愛しているという凜子なりの気持ちの表れなのだろうが、虎太郎は共感しない。
「それなら、その時はその時だというのも嘘か」
「まさか。いくら何でも子供孕ませて責任も取らんで逃げるのはどうかと思うわ。結婚は一人としか出来んでも、子供を育てるくらいするわ。まあ、オレにまともな教育など出来るとは思えんがね」
「そ、そうか。多少の甲斐性はあるようで安心した」
緩もうとする口元を必死で抑えながら凜子は皮肉を返してくる。
妊娠、出産、子育てなど虎太郎にとって面倒以外の何物でもないが、己の行動の結果だというのなら責任くらいは取る。
もうそこは使える使えないかの問題ではないが故に逃げることもしない。ただ、男としてのプライドの問題だ。
出産か堕胎の選択肢を迫り、育てるのにも協力しよう。ただ、仕事が最優先になってしまうが故、夫や父親らしい行動などしてやれるかどうか。
雄として優れている自覚はある。だが、男として優れてもいないし、夫としても褒められたものでもなく、父親としても最低になる自覚もあった。
何せ、あのふうま弾正の種から生まれたのだ。どう考えた所で、良い男、良い夫、良い父親にもなれるわけもなく、自分自身も生き残ることばかり考えてきたのだから当然だろう。
――最大限努力はするが、余り期待はするな。碌な結果にはならんから。
そう言外に、雰囲気だけ虎太郎は語る。
「そう、自分を卑下しなくていい」
「卑下じゃなくて事実だろうよ。少なくとも一夫多妻も、複数の女に子供を孕ませるのも一般じゃありえんぞ」
「どう取り繕った所で我々もマトモではない。それは適応されないさ。何より――――私の愛した男であっても、私の愛した男を貶すのは許さないぞ」
「ふーん」
「……いや、そこは、感動とは言わないが、こう感じ入っているような反応を、だな」
「オレが他人を理解しても共感しないドライモンスターって知ってたろ?」
「知っているさ。知っているが……はあ」
「だが、そこまで言われて何も思わんわけではない」
「…………ん」
顎を持ち上げられ、迫る唇を抵抗せずに受け入れる。
凜子は頬を染め、唇を撫でてキスの意図について虎太郎を見るが、彼は肩を竦めるだけだった。
彼は他人を理解はするが、共感はしない。凄まじい速度で決断を下し、物事を引き摺らずに簡単に割り切ってしまう。
だが、決して感情がないわけではない。何の邪念もなく一心に己へと向けられた言葉であるのなら、受け入れる度量も感謝を向ける礼儀も弁えている。
これはそれを行動で示しただけの話だ。
「う、……接吻はいいな。セックスよりも満たされてしまう部分がある。その、凄くドキドキする」
「時間も余ってる。折角だ、今からキスをしながらしてみるか?」
「そうやって、物のついでのように……」
「――嫌か?」
「そ、その聞き方はズルいではないか………………する♡」
唇を尖らせながらへそを曲げる凜子であったが、結局は虎太郎の提案を受け入れた。
一度抱かれ、愛されてしまった以上、彼女の胸の内には期待と悦びしかない。拒める筈もなければ、理由もない。
――湯の跳ねる音と乙女と呼ぶには余りに艶めかしい嬌声と卑猥な言葉がバスルームに響くのに、それほど時間はかからなかった。
―――――
――――
―――
――
―
「おや、ご客人。本日もお楽しみ頂けましたかな」
「え、ええ。それはもう……その、凄くて」
「ははは、それは何よりですなぁ」
女を好き放題にするどころか好き放題にされていそうな赤面に、リーアルは言葉だけは優しげに本心では雄として劣っている虎太郎の滑稽さを嘲笑っていた。
その赤面ですらが被った仮面であると知る者であれば、どちらが滑稽かなど考えるまでもないだろう。
その後、互いに仮面を被り本性を隠したままの談笑が続く。
客商売や自分が安全な立場でしか被れない仮面とどんな時であったとしても敵の前であってすら被り通せる仮面。
経験も精神性も本性の苛烈さすら劣っているリーアルには、虎太郎の本心を看破するなど夢のまた夢。寧ろ、リーアルに看破しろなど、それこそ無慈悲も甚だしい。
「へへっ、リーアルの旦那」
「ゾクトか。今は客人と話している。弁えろ」
と、その時、二人の会話に割って入ってくる男がいた。
潰れた片目に尖った耳、浅黒いを通り越して土色の肌は明らかに人間ではない。体型はリーアルと似たり寄ったりの肥満体型。肩にはショットガンを掛けている。
虎太郎は怯えた演技を忘れずに、瞳の奥の冷めた光すら隠し通して、男――ゆきかぜと凜子をこの生き地獄へ導いた奴隷商人ゾクトを見た。
抱いた感想はリーアルの時と全く同一。肥え太るほど余裕があるのに、まだ足りないと欲望を露わにする典型的な闇の住人だ。
「今回の商品は中々のもんですぜ」
「ああ、もういい。番頭へ話を通しておけ。私は忙しいのだ」
「へ、へぇ、申し訳ありやせん」
リーアルは不機嫌さを隠そうともせず、ゾクトは恐縮と引き下がる。
すごすごと引き下がっていくゾクトであったが、虎太郎の演技を見て鼻で笑うと薄気味の悪い笑みを浮かべてから去っていく。
この様である。敵も味方も大抵はこの調子なので、頭痛は収まらない。
仮にも客の前で苛立ちを見せるリーアルにせよ、わざわざ葱どころか鍋やら出汁まで背負ってきた鴨を前にして不安や不信感を募らせる笑みを見せるゾクトにせよ、誰彼構わず舐め過ぎだ。
「ところでお客人、実はお耳に入れておきたいお話が。明日はお暇ですかな?」
「は、はぁ、……何でしょう」
あからさまに話題を変えようとするリーアルに対して抱いた虎太郎は、来たな、であった。
「アンダーエデンでは毎月、イベントを開催しております。勿論、常連客を中心に、いわゆる人生の勝利者を招いてのパーティーです」
「……はぁ、それが、何か」
(前置きなんてどうでもいいんだよ、本題に入れ本題に。あとその前置き止めろ。こちとら負け犬人生継続中だ、ボケェ……!)
【自業自得ですね。負け犬人生を何とかしたいのであれば、まずはドライモンスターを脱却しては?】
(もう無理ぃ! 三つ子の魂百までもって言うよなぁ!)
リーアルの話は掻い摘んで説明するのなら、月一で開催されるパーティーがある。
その内容は乱交パーティーのようなものだ。奴隷娼婦は自身のパトロンとなるVIPに自分を売り込む場であり、同時にパトロンとなったVIPは自身の奴隷娼婦が如何に淫らで優秀かを見せびらかす場でもある。
虎太郎には全く共感できない嗜好ではあったものの、理解はできる。要は自分が凄いと褒めてもらいたい子供と変わらない。
対魔忍にせよ、魔族にせよ、米連にせよ、全く子供過ぎて慎重に慎重を期している自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
自分に出来ないことはないと本気で信じ、その癖失敗でもしようものなら決して自分の責任と受け入れずに当たり散らす。特に魔族やそれに組する人間は顕著過ぎて敵対すら避けたいほどだ。
「し、しかし、僕のような中間管理職では分不相応ですよ。……それに、そういうのに一人で参加するのも不安ですし」
「ならばご友人をお連れすれば、どうでしょう?」
「い、いや、それは、うぅ~ん……………………ああ、そうだ。あの二人、ゆきかぜちゃんと凜子ちゃんを僕に着けてくれませんか? 見知った相手なら不安も緊張もしませんし」
「ふむ。それは……」
内心で悪辣な笑みを浮かべながら、虎太郎は参加の条件を提示する。
リーアルはこの条件には、流石に判断に迷ったようだ。
そのパーティーは基本的に売り上げが上位の奴隷娼婦を参加させるのが通例である。
万が一、奴隷娼婦が客に粗相をしようものならば、そのままリーアルの名と権力に傷がつく。故に、いくら性技を仕込まれようとも新人を出すべき場ではない。
「分かりました。ですが、残念ながら凜子のみですな。ゆきかぜは他に執心しているお客様がおりますので」
「そう、ですか。残念ですが、まあ凜子ちゃんがいるなら、いいかな」
「ええ、そうなさるといい。アンダーエデンは地の底の楽園ですので、存分にお楽しみください」
これはリーアルにとって先行投資だ。
目の前の男が友人や上司を連れてくれば彼の懐はより潤う。限りなく、終わりのない欲望も多少は満たすことが出来る。
その為には多少の傷は覚悟せねばならない。正に英断である。リーアルの判断は何処までも正しい。人生の勝利者、成功者は常に危ない橋を渡り、自身の人生そのものをかけている。
――最もリーアルがここまでの成長を遂げたのはひとえに、その背後に潜んでいる“あのお方”とやらの力であり、彼は自身に傷を負った経験などただの一度もない。
滑稽を通り越して哀れですらある。彼の人生において初めて自身を天秤にかける行為が、弐曲輪 虎太郎に唆されてのものなど、悪夢を通り越して地獄の門を自ら潜ったようなものだ。
そして、何よりも恐ろしいのは、一切の違和感も悪意も感じ取らせず、地獄の底の底まで導いている虎太郎の手腕である。
(さて、ゆきかぜと凜子が一か所に集まる。場所は十中八九、一階の大広間)
【そして、ゆきかぜ様に執心している客は矢崎 宗一で間違いありませんね】
(あとは――――)
リーアルと別れ、アンダーエデンを後にした虎太郎は僅かに歩調を落とし、背後から迫る気配を待つ。
「クソ、リーアルの野郎、足元見やがって――――邪魔だ、どけ!」
背後からの衝撃に、伊達眼鏡を落とす虎太郎。
突き飛ばすような勢いで押し退けてアンダーエデンから去っていこうとするのは、奴隷商人のゾクトである。
恐らくは、手に入れた奴隷が思うような値段で売れなかったのだろう。彼はリーアルへの悪態をつき、他人に当たり散らしながら足早にヨミハラ内部の拠点へと向かっていく。
(“導火線”をゲットするとしましょうか)
【もう一度言わせてください。貴方は本当に酷い人です。このドライモンスター】
落とした伊達眼鏡を拾い上げ、今一度気弱の仮面を被ってゾクトの後を追う。最後の仕上げに至る為に。
最早、虎太郎が偽りの身分でアンダーエデンを訪れることはない。
明日は顔もなく、名前もなく、誰も知らず、誰でもなく、存在すらしていない誰かとして訪れる。
その作戦、その過程は虎太郎とアルフレッドにしか分からない。
ただ一つだけ言えるのはことがある。
不知火もゆきかぜも凜子も正常な判断が下せるか分からないほどの衝撃を受け、ゾクトもリーアルも矢崎も地獄で待ち受ける閻魔の元へと送り届けられることだけは確かである。