救出任務の成功、救出対象を無事確保した虎太郎と凜子はアサギ、山本両名に連絡。
回収部隊を要請し、回収地点へと向かう山道をひた走っていた。
虎太郎は凜花を抱え、凜子は後に続く。
木から木へと飛び移り、崖の岩肌を足場に下ったかと思えば、今度は逆に駆け上る。
静止など一度もない。常人では不可能な、障害物など存在しないかのような最短距離を最高速で駆け抜ける走法。
人ひとり分の
(やはり、速い! 基礎となる能力が段違いだ……!)
凜子もヨミハラの一件から気付いていたが、改めて目の当たりにすれば虎太郎の凄まじさに驚嘆せざるを得なかった。
凜子に合わせているだろうに、
羽毛のように軽やかで、重さを一切感じさせない重力から解放されたかのような身のこなし。
既に20kmも一定の速度で移動し続けているにも拘わらず、呼吸の乱れの現れない体力。
どれをとっても対魔忍でもトップクラス。身体能力に優れる魔族と比較しても引けを取らない。
虎太郎に抱かれた時は期待と興奮で頭が回らなかったが、冷静に思い返してみれば凄まじい肉体だった。
徹底的に無駄な筋肉と脂肪を排除し、使えるもの、必要なものだけを残した鋭利な肉体は、刃を連想させた。
剣士として多くの鍛錬を越えてきた凜子であってすら、何をどうすれば虎太郎の肉体が完成するのか、想像すらできない。
恐らく、骨格や内臓の位置が正常な人体とズレが生じているほどだろう。
全身くまなく調べてみれば、骨に折れていない箇所などなく、断裂を経験していない筋肉はなく、ダメージを受けなかった内臓も存在しまい。
何よりも恐ろしいのは、相対しても比類なき強さを全く感じさせないところだ。虎太郎の強さは、戦ってみなければ分からない。
「…………止まれ」
「――――っ!?」
地面に降り立った虎太郎は如何なる歩法を用いたのか、速度は最速からゼロとなる。
余りに急激な変化に対応できず、凜子は地面を滑りながら何とか静止したものの、足を痛めてしまいそうだった。
その言葉に敵襲と判断した凜子は“夜霧”に手を掛けたが、気を失ったままの凜花を地面に下ろした虎太郎の姿に杞憂であったと息をついて緊張を解す。
「どうした……?」
「紫藤の様子が可笑しい。急激に心拍も体温も上がっている。アル、紫藤の身体をスキャンしろ」
「待て、外道鍼とかいうものは、貴方が……」
「正しい手順は踏んだ。だが――――」
虎太郎は凜花の首筋に指を当て、脈拍を測る。
心拍数も体温も上昇する一方。呼吸も荒くなり、凜花は頬を赤く染め上げていた。
『呪術は専門外ですので何とも言えませんが、凜花様の状況は把握できました』
「結果は……?」
『どうやら、あの外道鍼は通常のものよりも強力な呪術が込められていたようです。それも複数』
「………………奴等はどうして、オレに迷惑ばかり掛けるんだ」
『さあ? 貴方の日頃の行いのせいではないですか?』
肩を落とす虎太郎にアルフレッドは皮肉で返したものの、彼が反省することはないだろう。
呪術は、魔術同様に魔界産の技術だ。
何も知らない者にとっては不可思議な力にしか見えないだろうが、呪術を知る者、行使する者からすれば、膨大な学問である。
正しい道具を用意し、正しい手順を踏み、正しい匙加減によって行わなければ呪いは成立しない。
万が一、成立したとしても、正しい手法から外れれば、呪術をかけた本人ですら、どのような効果を発揮するのか予測も出来ないのだ。
――だからこそ、あの狂気に染まった議員の方法は、最悪以外の何物でもなかった。
呪術は重ねた所で加法にも乗法にもならない。
それぞれが独立して効果を発揮するだけ。それも相当高位の呪術師でなければ成立は不可能だ。呪術が互いに干渉しては、何が起こるか分からない。
『どうやら呪術が相互に干渉し合い、凜花様の身体と魂を蝕んでいる模様です。このままでは……』
「……ア、アルフレッド、どうなるんだ?」
『問題なのは肉体や意志に作用する呪いではなく、魂を縛るものです。如何に対魔忍と言えど、魂は赤子同然に無防備ですから。何らかの手を打たねば、凜花様の魂は千々に砕けるでしょう。その影響が肉体にどのように現れるかは不明ですが、死は避けられません』
「そんな……」
凜花の苦しみ様は、呪術に詳しくない凜子には何らかの媚薬を投与されたようにしか見えなかった。
しかし、魔界技術に詳しいアルフレッドの言である。世迷言と断ずるには凜子に知識はなく、余りに重い。
「アル、手立ては?」
『ありますが…………』
いつもの調子と一切変わらない口調で問う虎太郎。
問われたアルフレッドは既に状況を解決する手段は導き出している様子だったが僅かに戸惑いを見せながらも、意を決して口にする。
『恐らく、呪いが暴走状態にあるのは主人の設定がないから、だと思われます』
「主人の設定……?」
「この手の行動や思考を束縛するタイプの呪いは、大抵が奴隷の反抗と逃亡を防ぐ為に用いられる。逆らえない相手をあらかじめ設定しておいた方が何かと楽だからな」
『主人の設定が為されれば呪いは安定し、この危機は去ります。後はドクター桐生の領分です』
「それで、その設定の方法はどうするんだ?」
「…………外道鍼は力ある“
「勿体ぶるな! 一大事なんだぞ!」
珍しく言いにくそうに本題へと入らない虎太郎に焦れ、凜子は声を張り上げる。
凜子にしてみれば、親友の危機の前に何をすればいいか分かっているのに行動を起こそうとしないようにしか見えないだろう。当然の怒りである。
けれど、虎太郎とアルフレッドにしてみれば、凜花――――だけではなく、凜子自身の気持ちを思い、慎重に言葉と行動を選んでいるのだ。
「性行為だ。元々、奴隷娼婦に仕立てるためのものだからな」
大きく溜め息をつきながら、虎太郎は解決方法を嫌々口にする。
性行は魔界技術が流出してしまった現代において、快楽を追求するための行為に堕ちてしまっている。だが、本来は次代の生命を生み出す神聖な行為だ。
古くは聖娼婦と呼ばれ、神の力を授ける為に売春を行った巫女もおり、日本においても男根信仰や女陰信仰といった命を生み出す器官や行為そのものに神性を見出し、信仰の対象としたことも珍しくはない。
恐らく、人間の社会が繁栄により自然から離れていく以前。命の誕生が無条件に喜ばれた時代だからこそ、古き時代の人々は性行為に不可思議な“何か”を感じ取っていたのだろう。
時代が下り、様々な価値観を増やす余裕が生まれ、性行為は命の誕生よりも快楽を追求したものとなっている。
既に神性は失われ、性行為そのものが穢らわしいものと扱われているが――古の人々が感じ取った“何か”は消え去ってはいない。
その“何か”を利用して、呪いに割り込む。元より性に根差した呪いだ。特段、不思議はないだろう。
アルフレッドが言いあぐねていたのは行為が不可能であるから、難しいから、ではなく寧ろ、凜花と凜子の気持ちを慮ってのことだった。
凜花が生娘であるにせよ、そうでないにせよ、この場で男は虎太郎一人。好きでもない男に抱かれるなど、断固拒否して当然である。
虎太郎も仕事で抱く以上は仕方がないと割り切ってはいるが、極力避けたい行為ではあった。
かつて抱いた女のように、自らの失態を受け入れられるほど、事態を割り切れるほど、凜花は大人ではない。
ここで無事に事が終わっても、後から何を言われるか……要は、面倒なだけだった。
「何だ、そんなことか。アルフレッド、近くにホテルはあるか?」
『は、はあ、此処から2kmほどの場所にありますが』
「なら、そこで決まりだな」
「いやいやいや、待て待て待て。お前な、それでいいのか……?」
確かに、凜子は愛人気質である。
ゆきかぜや不知火と、虎太郎を共有し、同時に愛されることを良しとしている。それでも今回の件は、また別の括りだろう。
不知火はその身と心に残った凌辱の爪痕を癒す為の一環と割り切れる。
ゆきかぜは幼い頃より同じ思いを共有してきた同士と諦めもつく。
だが、凜花は完全に無関係だ。
それ以外に手はないとは言え、こうもあっさり即決し、凜花との行為を許容するなど傍目から見ても異常だ。
「何を躊躇するんだ、らしくもない。それにこういうのは、貴方の最も得意とする分野だろう?」
不敵な笑みを浮かべて宣った凜子に、虎太郎は仮面の下であんぐりと口を開くしかない。
「…………はぁぁ、どうしてこうなる。後な、オレが得意なのは其処だけじゃねぇよ」
色々と問い質したいことは山ほどあったが、虎太郎が漏らせたのは負け惜しみじみた不平不満だけだった。
―――――
――――
―――
――
―
「ほら、観念して服を脱げ」
「分かった。分かったから急かすな。どうしてそんなにノリノリなんだ、お前は」
アルフレッドの言葉通りの地点――ちょうど県境、県道沿いにホテルはあった。城のような外観をド派手なライトで照らしたラブホテルである。
虎太郎と凜子は戦闘用の服から着替え、凜花にも予備の服を着せてから脚を踏み入れた。
幸い、ホテルはフロントと顔を合わせる必要のないパネルタッチ式。
監視カメラ、他の客にさえ気を使えば、人目を気にする必要もないのは幸いだった。
部屋の内部にも監視カメラがないのは確認済み。アルフレッドは万が一、敵が戦力を隠し持っていた場合に備えてホテル周辺を警戒していた。
回収部隊にも連絡を入れ、合流は朝方へと変更してある。時間に余裕はあった。
「ノリノリの筈があるか。これはあくまでも幼馴染の窮地を救うための緊急措置だ」
「そですねー、今度は嘘をついても顔に出ないようにしようなー。…………やべーよ。凜子の奴、オレとSEXしすぎて頭おかしくなっちまっ――――いてぇ」
「ふん、本当に失礼な人だ、貴方は」
既に凜子は一糸纏わぬ姿になり、虎太郎は上半身だけ裸となっていた。
凜子は虎太郎の余りにも失礼な呟きに、臍を曲げながら脇腹を抓る。
抓りは皮膚への攻撃だ。大の男であろうとも、無垢な赤子であろうとも平等に痛い。
もっとも虎太郎の場合は痛がっての反応というよりかは、そうされたら痛くて当然だから
痛みに耐性があり過ぎて、痛みに対しての人間的な反応をまるきりこそぎ落としてしまったかのような様に、凜子は憂いを覚えざるをえない。余りにも痛まし過ぎる。
「…………そろそろ、凜花も目を覚ますだろう。出来るだけ優しくしてやってくれ」
「あー、仕事中だからな。優しくするのも作業の内作業の内」
「駄目だ。これから凜花を抱くのはプライベートだ。乙女の処女を散らすんだ、真心を込めてくれ」
「お前、本当にムチャクチャ言ってるよなぁ……!」
「安心してくれ、自覚はある」
真心もクソもない。これから行われるのは凜花に対する凌辱も同然だ。
愛してもいない男による処女喪失が乙女にとって価値などある筈もなく、残るのは悲しみだけだろう。
勿論、凜子にも考えはある。
長く対魔忍を続けていれば、今回のような危険に晒される可能性は極めて高い。
何よりも自分自身が下衆な男によって処女を散らされたのだ。親友にして幼馴染の凜花には同じ体験をして欲しくはなかった。
ならばいっそのこと、今回の危機に
虎太郎自身が他者に共感するつもりはなくとも、他者を理解する力には長けている。
凜花の心を蕩けさせ、望むようにとはいかずとも傷を残さないやり方というのが出来る男だと言う判断もあった。
それから、もう一つ――――
「ほら、行くぞ。もうそろそろ凜花が目を覚ましそうだ」
「そうかよ。オレとしては
「それは無理だ。恋する乙女は盲目というだろう? 恋した時点で
手を引いて急かす凜子に虎太郎は皮肉で返したものの、何の効果も得られなかった。
凜子が何を企んでいるのかは気付いていたが、抵抗する気はない。
そもそも虎太郎はゆきかぜと凜子を自分の女とは認めているが、支配するつもりは毛頭ない。彼女らがどのような行動に出ようとも基本は黙認する。
あれやこれやと口出しするのは任務の時と互いにとって不利益にしかならない時だけである。
「ん……うぅ…………は……っ!? ……凜子、ちゃん……?」
「ああ、そうだ。意識はハッキリとしているようだな。良かった。本当に、良かった」
「あっ……」
発条仕掛けの人形のように跳ね起きると、凜花はベットの傍らに腰掛けた凜子の姿に目を丸くした。
気を失う直前に確かに凜子の姿を確認していたが、意識は朦朧とした状態だった。追い詰められた自分が見た妄想と判断しても可笑しくはない。
一瞬、何が起きているのか理解できなかった凜花であったが、凜子に抱きすくめられてようやく地獄の中から解放されたのだと分かったようだ。
涙を流すことはなかったものの、安堵と再会の喜びに瞳を潤ませた。
「でも、どうやって私を……」
「あの人のお陰だ」
凜子の視線を追って発見した虎太郎の姿に、凜花は再び目を丸くした。
無理はない。虎太郎の裏の顔、実際の強さと恐ろしさを何一つ知らなかった。
凜花にとって虎太郎はうだつの上がらない下忍であり、後進を育てる気もない駄目教師。その上、親友の脚を引っ張る存在に過ぎなかった。
普段は疎んじ、見下していた虎太郎に助けられた凜花であったが、不満はない。
全ては自分の不徳とするところと理解している。普段どれだけ馬鹿にしていた相手であろうとも、己を助ける為に尽力してくれた者を罵るほど凜花は恥知らずではなかった。
凜花の心にあるのは嘘偽りのない二人に対する感謝と己自身に対する不甲斐無さのみ。
相手が正体不明の敵だったとは言え、力量と相性を推し量り間違えたのは他ならぬ凜花自身のミス。例え、自身にとって最悪の相性である相手だったとて、それは変わらない。
当たりがきつくはあるが、凜花は素直だ。
いや、自分の感性や考えに素直であるからこそ、自身の認めていない者には当たりがきついというべきだろう。
それ故、一度でも認めれば態度は軟化する。普段、毛嫌いしていた虎太郎に対する態度からは考えられないしおらしさなのは、そういった理由だ。
「弐曲輪先生、今回のけ――――って、何なのですか!? この格好はーーーーッ!?!?」
「ああ、これから説明するから安心しろ」
「せ、説明……良かっ――――当の凜子ちゃんまで裸ッ!?」
ようやく自分の格好と置かれている状況の異様さに気が付いたのか、凜花は目をぐるぐると回しながら混乱を示す。
当然の反応だ。助けられたと思ったら、自分だけではなく助けてくれた相手まで裸だった。訳が分からない状況だ。混乱しない方がどうかしている。
凜子は格好に反して落ち着いた口調で現状と経緯を語っていく。
その内容に凜花は顔を青くし、かと思えば赤く染め、自分の置かれた立場に上へ下へと気持ちを揺さぶられる。
青天霹靂な事態であったが、何とか冷静さを取り戻した凜花が感じたのは違和感だった。
違和感は事態に対するものではなく、自分自身の肉体に関することだ。
何かが自分の身体を這い回り、締め上げている感覚はあると言うのに、身体には何ら異常は見られない。
その感覚は、ときおり呼吸が困難になるほどだ。これが、魂を縛り上げられる証左なのだろうと凜花は納得する。
今まで訓練や戦いの中で感じてきたものと近くはあるが根本的に異なる苦しみに、否が応にも自身の状況を理解せざるを得なかった。
「私に施された呪術を安定させる為には、その……」
「男に抱かれる必要があるということだ。この場合は虎太郎だな」
凜子の言葉に、凜花はかぁと顔を赤く染め上げる。
別段、彼女は虎太郎を好いている訳ではなく、好いている男もいない。単純に恥ずかしさで震えているだけだ。
処女を大切にしてきたわけではない。強くなること、対魔忍として一人前になることに日々邁進してきた彼女は、それほど恋愛や色事を意識してこなかった。
ましてや狂気に陥った男の欲望に曝され、純潔を喪う直前までいった。
それだけで済めばまだ良かったが、
そこに自らの命が絡んでくれば、覚悟をしなければならない。即ち――
――純潔を守り、乙女として死ぬか。
純潔を散らし、対魔忍として生きるか――
――二つに一つ。
「紫藤、お前の好きにしろ。オレは強要しないし、凜子のように唆すつもりもない。今回の一件が無駄な労力になるだけだ」
「私が唆すなどと、人聞きの悪い」
「
ヨミハラでの一件とは異なり、今回は既に仕事を終えている。
仕事の上で必要だったからこそ不知火を抱いた。ゆきかぜと凜子は二人が望んだから抱いた。
凜花はそのどちらでもない。
自分の仕事は終わっている。彼女自身も望んでいない。ならば無理に抱く必要など何処にもないと言うことだ。
任務の後に救出対象が死んだとしても虎太郎に責任はなく、自分を好いてもいない相手を抱くほど情にも欲にも溢れていない。
だから、どちらでもいいのだ。
乙女として死にたい。対魔忍として生きたい。どちらも紛うことなき本人の選択だ。それが凜花自身の身からこぼれ落ちたものだというのなら、どちらであっても尊重する。
彼は後悔と苦労ばかりの人生だったが、己自身の意志で全てを選択し、判断を下してきた。
それが虎太郎にとって数少ない誇りであり、また限られた自由でもあったが故に、他人の選択を笑うつもりはなく、自らの選択と同じように扱う。
尤も、自分自身の利益と選択に絡まねば――という言葉が大前提である辺り、彼のドライモンスターぶりを如実に表している訳ではあるが。
「………………私は、」
「――――…………」
「こんなところで、死ぬつもりはありません。どれだけ汚辱に塗れようとも、生き抜いてみせます。それが、対魔忍ですから」
「――――だろうな。はあ、どいつもこいつも。…………まあ、よく言ったと褒めてやるがな」
恐怖を抱きながらも、諦念とは無縁の真っ直ぐな凜花の視線を受け、うんざりと肩を落とし、期待とは全く違った返答に虎太郎は大きく溜め息をついた。
それでも長年、彼を見続けてきた凜子にだけは分かる小さな笑みを浮かべている。その笑みの意味は諦めだったのか、優しさだったのか。
「さて、嫌なことは――――……」
「――――…………」
「いや、紫藤にとっては、だからな? そんな目で睨むな」
失言を咎めているのだろう。凜子はジロリと虎太郎を睨みつけた。
別段、失言のつもりもなければ気圧されてもいないが、此処で不機嫌になられても面倒だとばかりに彼は頭を掻いた。
「た、助けられる身で不躾ですが、私は、初めて、なので、だから、えっと……、そ、その……」
「それくらい見れば分かる。安心しろ、処女相手に優しくしてやるくらいの甲斐性はある」
「え、あっ、ま、待っ――――」
持ち上げられた顎に何をされるか察した凜花は慌てて虎太郎を止めようとしたが、もう遅い。
鳶が油揚げをさらうように、せめて残しておきたかったファーストキスを奪われる。
驚愕と緊張から咄嗟に瞼と唇を固く閉じ、身体を強張らせる初々しく可愛らしい姿に、凜子は含み笑いを浮かべた。
「ひゃ、ぅ―――――んんんーーっ!」
殻に閉じこもった貝を連想させる頑なな唇であったが、やんわりと舐め上げる虎太郎の舌に驚きから緩みを見せ、口内への侵入を許してしまう。
全く体験したことのない未知の感覚に凜花は身体を震わせ、反射的に侵入してきた舌を噛もうとしたが必死に堪えた。
これは自分を辱めようとしているのではなく、あくまでも救出の一環であると理解している。
拒めば自分の首を締め、また虎太郎と凜子の努力も無駄になってしまう。
凜子は勿論のこと、既に虎太郎についても自身の目が曇っていたと認めている。抵抗などする筈もなく、多少の羞恥も痛みも耐える覚悟であった。
けれど、全く予期していなかった事態に、困惑を禁じ得なかった。
(な、なに、これぇ!? く、口と舌が、と、とけっ……キスって、こんなにぃ……っ)
日常生活を送る上で大抵の人間は意識しないが、口は立派な性感帯である。
食材に隠された小さな骨や異物まで感知する器官が敏感でないはずがない。
ましてや虎太郎の
口内の何処も彼処も優しく舐め回され、快感に締まりのなくなった唇から唾液が零れていく。
凜花は未体験の快楽に全身の毛穴が広がっていく感覚を覚え、未知への恐怖から虎太郎から離れようとしたものの、抱く女を逃がすような間抜けな男ではない。
「ぅふ……っ、んん、ふむぅ、んれ、ちゅ……」
(ひうぅっ! 抱き締められて……! これっ、これ駄目っ、絶対駄目っ、頭、おかしくなるぅぅぅ)
瞼の作り出す暗闇の中、温もりとザラついた質感が背に生じ、身体をビクつかせた。
背中に回された手は、多くの命を奪ってきたものとは思えない繊細さで凜花の背中を這う。
紛れもない愛撫であったが、性感を高めるためのものと言うよりかは、怯える少女を安堵させるような余りにも優しいものだった。
華奢な身体を決して傷つけぬように、それでいて己の体温を確かに伝える抱擁と愛撫に凜花から緊張が抜けていく。
緊張が抜けていくのに応じて、虎太郎のキスにも無意識の内に応えていた。
虎太郎が舌を引けば、お返しとばかりに舌を突き出して自らも拙い口内愛撫をする。
唾液を流し込まれれば味わい、見よう見まねで自身の唾液を送り込む。
既に凜花に恐怖と緊張はなくなっている。後に残るのは不安と興奮。
しかも不安もまた快楽によって流されてしまう程度のものに過ぎない。恐るべきは、虎太郎の手腕か性技か。
「ぷ、ぁあ……、ふぅーっ、ふぅーっ、はぁぁぁ……」
「それがキスだ。気持ちいいだろう? 凜花も興奮しているようじゃないか。乳首も、こんなに勃起して」
「ふぇ……? あっ、やぁっ……!」
淫蕩な笑みを浮かべた凜子の指摘に、凜花は自分の胸を見下ろして咄嗟に両腕で覆ったが、もう全てが手遅れだった。凜子にも、虎太郎にも見られている。
「ふふ、私も乳首は大きい方だが、凜花のは
「り、凜子ちゃん、言わないで……うぅ」
決して他人に知られたくなかったコンプレックスを指摘され、凜花は林檎のように顔を赤くした。
恋愛や性に関しての知識はほぼ持ち合わせていない凜花であったが、その肢体は凜子同様に女として成熟している。
であれば、性欲を持て余すことはあった。同年代に比べれば少ないものの、自慰の経験くらいはある。その折に、自分の身体についても知っていた。
「おい、オレに優しくしろと言っておいて、お前はそれか。余り苛めるなよ」
「おや、済まない。私も嫉妬しているようだ」
「二人は、恋人同士なんですか? な、なら、こんなこと……」
「…………私も思う所がないわけではないが、この人の女には違いない」
「それはどういう……」
「まあ、気にするな。私の決めた事だ」
(これ以上、話をややこしくするのは止めてくんねーかなぁ)
凜花と凜子の会話に、虎太郎はまた面倒になっていきそうな人間関係に内心で辟易としたが、辛うじて顔には出さなかった。
余計なことはするな、と凜子に視線で釘を刺すが当の本人は肩を竦めるだけ。彼女も愛しい男に似てきていた。
「これくらい、気にすることでもないと思うがな。ほら、凜子、手伝え」
「ふむ、仕方がないな」
「ま、待って、そんなりん――――んあぁっ!? く、ひっ、ち、乳首ぃ……っ!」
虎太郎に右を、凜子に左を。
それぞれ乳房の頂点で屹立する熱い肉の芽に吸い付き、凜花を責め立てる。
体験したことのない二つの感覚に凜花は身をくねらせるが、蜂に蜜を啜られる花同然の彼女に逃げる術などない。
虎太郎は乳輪ごと口に含み、乳房自体にも手で刺激を与えて、あくまでも優しく性感を高めていく。
凜子はフェラでもするように下品な音を立てて、激しい快感を与えていた。
人界で生まれながら効果は魔界のそれに劣らない虎太郎の性技。
女として虎太郎によって本当の快楽を教え込まされた凜子。
二人の前では、何も知らない処女に過ぎない凜花では、何もできる筈もない。
「ひあっ! あっ、あひっ! ち、乳首に吸い付くの、ダメェェェっ!!」
「この程度で、んれぇぇ、根を上げては、駄目だぞ? ふふ、ほら――――」
「ふぇぅっ!? な、中、入ってぇっ、ひ、ひぃぃぃっ!!」
くなりくなりと煽情的に揺れる腰に虎太郎の手が這い、閉じられていた両脚の隙間を抜け、一番の性急所に向かって指が差し込まれた。
親指で包皮の上からクリトリスを絶妙な力加減で押し潰し、人差し指と中指が膣道に侵入する。
凜花は目を白黒とさせながら、悦楽に翻弄されていく。自慰とは比較にならない快楽の波に、無意識に両脚を広げて腰を持ち上げてしまう。
元より媚薬も投与されていたのかもしれない。或いは虎太郎の性技故なのか。
トロトロに蕩けた膣は、白く濁った本気汁を尻にまで垂れ流し、ベッドのシーツを汚していく。
「あ、かっ!? いやぁっ!? いやらしい音っ、たてちゃ、やだぁぁぁぁっ!」
子供のような言葉と涙を流しながらも、快楽に翻弄される身体から放たれ始めた香りは発情した雌のもの、その動きは女体のいやらしさと美しさそのものを現しているようだ。
膣を掻き回す指は激しさを増していくが、暴虐さとは程遠い。
あくまでも優しさを損なわず、凜花の膣を性交に適した形に整え、同時により強い快感を得られるように変えていく。
指はまだ
凜子も凜花の切なさに気付いたのだろう。子宮を外から撫で回すように手が這い回り、時折掌で押し付ける。子宮の疼きを少しでも和らげてやるためか、それともより強い快楽で翻弄するためか、どちらとも取れる手の動きだ。
「く、くぅぅっ! あっ、そこだめ!? んんんぅぅううううっ!?」
「こら、凜花。そことか抽象的な言葉は駄目だ。もっといやらしい下品な言葉を使え。女性器はおまんこ、だ。男はその方が悦ぶんだから」
(どう考えても人によるんだよなぁ。いや、オレはそっちの方が好きだが……)
虎太郎が頭の片隅でそんなことを考えていると、凜花の快感で揺れる瞳とかち合った。
涙を流し、トロ顔を晒しながらも、何処か意を決したような光を灯す。
「…………お、おまんこ、気持ち、いいぃっ♡」
「ふふふ、そうだ。上出来だぞ、凜花」
満足げに頷く凜子に、虎太郎は頭を抱えそうになった。
感付いてはいたが、目の前で起こっている調教を思わせるやり取りに、凜子の思惑と自身の予想が同一であると認めざるを得ない。
女の理不尽な部分は何度となく見てきたが、今回は最大級の理不尽だった。
とは言え、口にするつもりも邪魔をするつもりもない。そもそも、理不尽なのは外道たる自分も同じだと言う自覚があるからだろう。
「だから、ご褒美だ」
「えひぃっ!? 乳首っ、噛まっ! あっああぁぁんんんっっっ!!!」
虎太郎と目を合わせた凜子は、二人同時にビンビンに勃起した乳首を甘噛みする。
痛みを感じさせない絶妙な加減に、凜花はおこりを起こしたかのように身体を震わせた。
更には噛んだ乳首を吸いながら、舌の腹で舐め回す。
四方八方に押し倒され、ザラついた感覚まで分かるほど鋭敏になった乳頭からの刺激に、シーツを掴んで快感を逃がそうとする。
「ほら、今度はGスポットだぞ」
「じぃ、すぽ……? んんっ!? んひぃぃぃいいいいいっ!?!?」
膣内でぷっくりと充血した女の弱点を二本の指で責められ、腰は更に高く跳ね上がる。
処女でありながら潮を噴くまで蕩けた膣は、魔界医療によって改造されたかのようだが、凜花に気にしている余裕はない。
虎太郎の愛撫は巧みの一言に尽きた。
乳首も、膣も、Gスポットも、クリトリスも、覚悟を決める間もなく責め立てる。
その上、凜花の裏を掻いていた。覚悟を決めても、より強く刺激される部位を外され、別の部位で簡単に絶頂へと至ってしまう。
もう、凜花は秘裂だけではなく頭の中までぐちゃぐちゃだ。
「へあっ……ひっ……ふぁあ、……うぅ……へぁぁっ……」
1時間のあいだ虎太郎と凜子に愛撫された凜花はアクメによってアヘ顔を晒していた。
舌をだらしなく突き出し、涙と涎で顔を汚して、瞳はくるんと上を向いて口元は笑みを浮かべていた。正に女の悦びを教えられた顔だ。
身体も同様だ。強すぎる快感に全身は汗で濡れて上気し、乳首もクリトリスも限界まで勃起して、膣口はヒクつき新たな愛液を流している。
「根を上げるのは、まだ早いぞ。ほら、ここからが本番だ」
「ふぇぇ? ………やぁぁんっ」
横から凜子が凜花の脚を割り開く。
ぐぱぁ、と粘着質な音を立てて開いた最奥では、女の象徴が紛れもなく男を求めてた。
「さあ、凜花、して欲しいことがあれば、今の内に頼んでおくんだ。挿入されてしまえば、後はどうにもならないからな」
「で、でもぉ……」
「いいんだ、今は。虎太郎は、お前の男でもあるんだからな」
恋人――と呼べるほど単純な仲でもないが――である凜子に気を遣ってか、凜花は言い淀む。
理想はあった。愛した男に抱かれながら、どう処女を奪って貰うのか。明確ではなかったものの、想像したことはくらいある。もっとも彼女自身、自分がそこまで惚れ込む相手が現れるなど、信じてはいなかったが。
虎太郎は愛した男ではないものの、恩人ではある。
ましてや、ここまで自分を優しく蕩けさせてくれた相手でもある。緊張と不安はあったが、嫌悪感はない。
凜花にとって理想の相手ではなかったものの、甘えてもいい相手にはなりつつあった。
「……………………………………さい」
「聞こえないぞ。もっとはっきり言うんだ」
「……き、キスをしながらして下さい」
「ああ、分かった」
凜花は理想の処女喪失を自分から口にした羞恥から、更に頬を赤く染めた。
虎太郎は余りにも乙女らしい願いを笑わず、真摯に受け止める。
凜花の両手を掴むと指同士を絡め合わせた。それだけで凜花は膣と子宮が震え、ぷちゅりと新たな愛液を流し出す。
「んぅぅ……んぅ、あうぅ……うぅん……あぁん、うんぅ……♪」
ぴちゃぴちゃと犬がミルクを舐める時と同じ音を発しながら、舌同士を絡ませ合う。
舌と舌を擦り合わせる度に、互いの唾液を交換し合う度に、咽喉を鳴らして飲み合う度に、凜花の子宮はもう我慢ができないと粘性の高い本気汁を吐き出す。彼女自身も自覚できるほどの量と勢いだった。
虎太郎はキスを中断せず、凜花の女性器に手を触れもせず、腰の動きだけで最奥まで一息に貫いた。
「んぐぅんぅうううううううううっっっ!」
明らかな破瓜の血を流しながらも、僅かな痛みすらなかった。
あるのは膣奥の子宮口まで届いた剛直の硬さと熱さ、挿入に伴った総毛立つほどの快感だけ。
目の前で火花がバチバチと散る幻覚に凜花の瞳は大きく見開かれ、自分の初めてを奪った男の瞳が視界一杯に写っていた。
「あ、……あぁ……かはっ」
「どうだ? 痛くはないと思うんだが、こればっかりは紫藤の感覚だからな」
「は、はい……すっご、く、気持ち、いい、です……あ、はぁん」
「良かったな、凜花。こんなに優しく処女を貰ってくれる男など、他にはいないぞ?」
甘えるような吐息を漏らす凜花の頬を撫でながら凜子は羨ましげに呟く。
自分は経験できなかった体験に対する僅かな嫉妬、親友に対する心からの安堵があった。
けれど、凜子の変化に気付ける余裕など、凜花にはなかった。
「あっ、あぁっ、だめっ、らめぇっ!」
「駄目と言われてもな。動かさなきゃ終わらんだろう?」
「ひっ、ひぃぃっ、ひぃぃいいっ! ら、らってぇ、こ、こんな、優しく教え込ませるみたいにぃいっ!!」
「それが女の悦びだ。しっかりと教えて貰うといい」
ゆっくりとした、細心の注意を払った抽送に、凜花は喘ぐことしかできない。
子宮口に達していた亀頭は傘を開きながら、のろのろと引き抜かれていく。
愛液を掻き出しながらも痛みは決して与えずに、それでいて襞の一枚一枚をこそぎ落してしまいそうだった。
亀頭が抜ける寸前まで引き抜かれると今度は最奥に向かっていく。
そのまま奥まで達するかに思われたが、途中でGスポットをカリ首で丁寧に前後させて潮を噴かせてみせた。
処女である凜花には堪えようがなく、ただただ翻弄されるだけ。
だが、身体は膣を締めて子宮口で吸い付き、男に対する奉仕を弁えていた。
「ひやあっ、あっあっ、ああぁっ、ゆっくりっ、チンポっ、出し入れ、やめれぇぇぇっ!!」
「だそうだが、どうする?」
「さてな……こうしてみるか」
「あ、ひっ……ふっあぁぁああぁあああ」
虎太郎は膣全体を責めるのを止め、子宮口周辺で小刻みな抽送へと移行する。俗にポルチオと言われる部分だ。
ポルチオはGスポットに並ぶ膣の性感帯であるが、大抵の女性は感じない。Gスポットとは異なり、開発が必要だからだ。
もっとも、それは一般人に限った話。そこいらの素人や調教師では媚薬や改造にでも頼らねば処女をポルチオで感じさせるなど不可能である。
けれど、人界のものでありながら、殆ど人に許された領域を越えた虎太郎の性技は、秒単位で凜花の膣を開発してしまう。
「んっ……? お、ほぉ……んぉおっ、ぉぉおおぉっ!?」
全身に電流が迸るような激しい快楽から、全身が溶けていくようなもどかしさと多幸感を伴った快感に、凜花は発情した女そのものの嬌声を上げる。
強烈で激しいだけならばまだ拒絶も出来ただろうが、こうまで優しくもどかしくては思考が瞬く間に蕩けるのは無理はない。
ぎゅっぎゅと男根を締めつける膣と亀頭に熱烈なキスをする子宮口、くなりくなりと揺れる腰は快楽を与えてくれる雄への礼を兼ねた雌の本能なのだろうか。
「何度見ても凄いな、あなたのSEXは。こんなにもとろとろに蕩けて、羨ましい。凜花、ちゃんとおまんこだけじゃなく、言葉でも礼を言うんだ」
「は、はへぇっ……はひぃ、こひゃろうせぇんしぇい、ありがひょう、ごじゃいまひゅぅ……♪」
「ふふ、感想も言ってあげるんだ。男も悦んでくれるからな」
「あぅうぅ、キスも、乳首も、クリひゃんも、おまんこも、最高に気持ちいいですぅぅぅぅぅっ♪」
「凜子、お前な…………まあ、オレも嫌いじゃないが、なっ」
「あひゃっ、びっく、チンポっ、びくびくして、悦んでくれてるぅぅっっ♪」
破瓜の血など疾うに洗い流され、白く濁った本気汁が凜花の尻どころかシーツにまで大きなシミを作っていた。
ポルチオ特有の深い絶頂と多幸感に包まれた凜花は、全身を更に汗で濡らし、尿まで勢いなく垂れ流している。誰の目から見ても、もう限界は明らかだった。
「そろそろ、終わりだな」
「らしいぞ。それから、次にアクメする時はイクと言うんだ。名前もだぞ? 自分も気持ちよくなって、男も満足してくれるからな」
「ひゃひぃ、はいぃっ! 分かっひゃ、分かっひゃからぁぁんんんっっ!」
「別に気にするほどでもないんだが、好きにしろよ、っと」
「イク、イグゥッ――――あへぇっ☆」
子宮口にぐっと亀頭を押し付け、虎太郎は堪えていたものを解き放つ。
「凜花っ、イッグゥゥゥゥゥぅうぅんっ!!」
「……っ」
「びゅくびゅく熱いのっ、れてるぅぅぅぅぅっ!!」
「あぁ、何て射精とアクメだ。腹の上からでも分かるぞ、これ以上ない深イキだろう?」
「ふ、ふか、イキっ! すご、すごいぃぃん! あっひぃぃぃいいんんっ! あ゛ああっ、んア゛ああぁああっ、あ゛ぁ゛ぁああぁぁあっ!」
凜花は限界まで身体を反らせ、白い足指が更に白くなるまで丸めて絶頂を告げる。
一度ではない、何度も何度もオーガズムを味わい、終わらないアクメを楽しむように舌を突き出してアクメ笑みまで浮かべていた。
子宮で粘つく精液の感覚も、終わりがないのではないかと思えるほどの射精も、震えて精を吐き出しながらも子宮口を突く怒張も、全てがより深い絶頂へと誘う。
確かに優しくはあったが、その分容赦がない。
完全にプライベートの腰使いだ。男が相手を自分の女にしてしまう、とても処女相手にするものではなかった。
それでも凜子は満足げであった。まるで、凜花が虎太郎の女になることを望んでいるかのようだ。
「――――おひぃん☆」
「ご苦労様でした―――んちゅ、んれぇぁあ」
射精の終わった男根を引き抜くと、凜子は処女ではなくなった凜花の穴を眺めながら、性交の後を舐め清める。
血と本気汁と精液の味に、無意識に腰を振りながら、お掃除フェラにも熱が籠っていた。
根元から先端まで、精液と愛液を一滴も残さぬように舌を這わせ、最後に大きく口を開いて剛直を飲み込むと尿道に残った精液までも吸い出していく。
「んぷ、んじゅぅるるるぅ……ぷあぁっ♪」
音を立てて口から引き抜くと、ぶんと勢いよく怒張が反り返る。まだまだ満足していない証拠だ。
凜子は口で舐め取り、吸い出した精液と本気汁を大きく口を開いて見せつけ、ぐちゅぐちゅと自らの唾液と混ぜ合わせる。
歯で噛み潰し、舌で攪拌して、少しでも長く味わえるよう、大好物だとでも言いたげにうっとりと目を細めると、大きく咽喉を鳴らして飲み下す。
たったそれだけの行為で軽い絶頂に達したのか、震える身体を抑えようと身体を抱き締めたが、豊満に育った乳房も尻も官能的に揺れていた。
最後にペロリと唇を舐めると、凜子は大きく息をついて、気を失った凜花の頬を労うように撫でると布団をかけてやる。
「……シャワーを浴びよう。綺麗に隅々まで洗ってやるからな」
「お前が身体を洗ってくれるのは嬉しいね。丁寧だし、力加減も完璧だからな」
「貴方の女、だからな。ほら、行こう」
「ああ――――だが、その前に」
「――――んんっ」
手を引く凜子を振り解き、後ろから優しく両腕で身体を包み込んだ。
二人の性行を見て昂っていた凜子は、身体を軽く痙攣させて悦びを表現した。
「ど、どうしたんだ、急に?」
「いやなに、らしくもないと思ってな。親友だとしても、些か以上にやり過ぎだ」
「そ、それは……」
最中における調教じみた言葉と行為の数々。
虎太郎が己に対して行うのならば、凜子はどんな行為であっても悦びと共に受け入れるだろう。
だが、他人へ調教を行うなど、ヨミハラで地獄を見た凜子にとっては許容を越えている。ましてや、自分自身が行うなど。
「…………私とて、自分の考えくらいあるさ」
「まあ、そうだろうな。そんな程度は分かっている。お前等の考え付くことだ、オレにだって考え付く。同じ人間だ、不思議じゃない。だが、オレが聞きたいのはそこじゃない」
「ふふ、何でもお見通しだな――――――けれど、一番にあったのは、嫉妬、なんだと思う」
自身の考えも見透かされてなお、凜子は笑みを浮かべた。それだけ虎太郎が自分を理解してくれているということなのだ。純粋に喜びしか沸いてこない。
しかし、隠していた本心を晒すと彼女の表情は苦々しく歪んだ。
私は下衆な男に望まぬまま奪われたのに――――どうしてお前は、私の愛した男に奪って貰えている。
余りにも自分勝手な嫉妬。
決して親友に向けるものではなく、凜花とて意図していた状況ではなかった。
……感情とは、とかく厄介なものだ。
本来、愛情と憎悪は別のものにも拘わらず、狂気によって繋がれコインの裏表として語られるように。
望んでいたはずの展開を、何時しか望まなくなってしまうように。
人であれ、魔族であれ、完璧にコントロールするなど不可能に近い。虎太郎とて完璧に近くはあるが、決して完璧には手に届かないだろう。
「――嫌な、女だろう?」
「気にするほどのことじゃない。人間なんてそんなもんだ。お前は自分が聖人君子のつもりかよ」
「そんなつもりはないが……」
「全く、可愛い奴め」
「ひゃあっ!?」
凜子の自己嫌悪を鼻で笑いながら、虎太郎は背中と膝裏に手を回して簡単に抱き上げる。
驚きの声を上げながらも、咎めの言葉はない。彼女はただただ、目まぐるしく変化する状況に振り回されるばかりだった。
「オレの為の嫉妬だろ? 全く、オレの為に処女を捧げたかったなんて、どうしようもない可愛げだ。オレはそんなもんを気にしないってのに」
「女にとっては、少なくとも私にとっては重要な問題なんだ!」
苦悩と醜さを一笑に付され、流石に凜子は腕の中で拗ねてしまう。
誰とて自身の悩みを、そんな態度で笑い飛ばされれば、腹も立って当然だが、当の虎太郎は拗ねた凜子を前に謝罪もせず、笑みを浮かべるばかり。
「まあ、その嫉妬にも可愛げにも応えてやるから安心しろ」
「ふん、初めてはもう戻ってこないぞ。壊れたものは元には戻れないんだろう」
「ああ、その通り――――だがな」
今晩、議員へと向けられた無残な真実を口にし、そっぽを向く凜子であったが、虎太郎はさして気にせず笑みを深める。
「初めてがどうだとか些末に思えるほど、オレの女にしてやることは出来るぞ。今日、紫藤にしてやったよりも、今までお前にしてやったよりも優しくな」
「……ごくっ。も、もう、私は貴方の女になったはずだが?」
「だからなんだ。オレの女になっていようが何度だってできるぞ。方法なんていくらでもある。オレにかかれば、奴隷娼婦になりかけたお前だって生娘と変わらんさ」
「うぅ、貴方はそうやって…………私に何度惚れ直させれば気が済むんだ?」
「まー、そうやって点数稼がないとな。ほら、こちとら人類史上類を見ないドライモンスターでド外道ですし?」
凜子は顔を赤くして、虎太郎を見上げる。
決して与えられる快楽を期待してではなく、あの冷血で冷酷な男が、自分の嫉妬に対して報いようとしてくれている事実がたまらなく嬉しかった。
飴と鞭とはよく言ったものだ。普段が厳しく容赦がなければ、ふとした優しさも大きく映る。
虎太郎の掌で踊らされていると理解していながらも、凜子には抗う術もつもりもなかった。
彼の言葉の根元にあったものが、紛れもなく自身を気遣ってのものだと知っていたからだろう。
「回収部隊が来るまで、まだ時間がある。仕事中だが、オレも
「い、いや、我慢するぞ? 我慢すればするほど、気持ちいいと貴方が教えてくれたから……」
「そうか、そりゃ残念」
肩を竦めてそう告げた虎太郎だったが、五車学園に戻り任務の報告を終えるまで御預けを喰らったのはどちらであったか。
風呂へと二人が消えると、すぐさまシャワーの音が一室の中に静かに響いた。
その合間に、堪え性のない女の喘ぎ声が交じるのは、そう時間はかからなかった。