魔都・東京。
秩序の均衡が崩れ、混沌に覆われた街。
日中はかつて存在した表向きの秩序が残っているものの、その陰、或いは闇の中では対魔忍、魔族、米連の血塗られた闘争が繰り広げられる首都。
その一角に、ノマドの下位組織が運営する歓楽街があった。
カジノやバーは勿論のこと、同時に人魔問わない美女の性サービスを主とした風俗店が乱立する。勿論、美女の殆どが人身売買や奴隷契約によって集められた非合法店である。
人と魔の欲望を煮詰めたヘドロのような匂いが漂う中にあって、行き交う者は顔を顰めず、寧ろ自らの欲望を肯定するように崩れた笑みを浮かべていた。
「あ、ぎぃっ! ふ、ふぁぁぁっ……!」
その匂いの中心、下位組織の本部が存在する雑居ビルの地下室で、うら若き対魔忍――常森 蓮華は、天井から両手を鎖で繋がれ、豊満な胸を前に差し出す格好で犯されていた。
「く、くそ、……術、術さえ、使えれば、貴様らなんてぇ、ぁああっ! やめっ……! 子宮、ゴリゴリする、なぁ……」
「げへへ、自称・最強の対魔忍が聞いて呆れるぜ。噂には聞いてたが、対魔忍てのが皆淫乱だってのはマジらしいな」
「ち、ちが、ぁぁっ!」
否定の言葉を口にしようとした瞬間、オークの剛直で膣襞をこそぎ落とされ、子宮を押し潰される快感に蓮華の表情は意志諸共に蕩け崩れた。
魔界の最下級種族であるオークは、生存競争を生き抜くために、体液に媚薬の成分が含まれている。その成分を以て、攫った女を飼い慣らす。
闇社会で流通している媚薬も投与され、常人ならばオーバードーズを起こしかねない状態ではあるが、悲しいかな、対魔忍としての強靭な肉体故に、死ぬこともままならない。
「ほれほれ、これが淫乱でなくてなんだ!」
「お、おひぃ……ひ、ひぃ、くちゅくちゅ、音、立てないでぇ」
「ああ? なら、こっちの方がいいのか!?」
「ひっぐ!? が、ぶぅ……! ひああぁぁぁああ!!」
より悲惨だったのは、蓮華を囲むオークどもが力任せに女を犯すだけではなかったことだ。
稚拙極まりない性技であったが、媚薬で全身が性感帯と化し、処女を散らしたばかりの彼女は快楽を受け流すこともできずただただ享受するしかない。
敵に捕まり、犯されてから既に三日。
地下室故に時間の感覚は失われ、凌辱と屈辱の中で蓮華の心は折れかけていた。
挫折を知らず、成功ばかりの人生を送っていた彼女にとっては、無限に等しい時間を犯され続けているも同然だ。
「おら、喘いでばかりいねぇで、しっかり奉仕しろ!」
「ふ、ふざけ……! いや、臭いの近づけ、うぶぅ!?」
「ヘタクソなガキだが、ヒヒ、これから仕込んでやることを考えりゃ、いきり立つってもんだ」
「だなぁ。う、ぐ、それに上の口に突っ込んでやったら、こっちの方もキュンキュン締め付けて喜んでやがる立派なメス豚だ」
下卑た快感に下卑た笑みを浮かべ、好き放題に罵るオークに蓮華は為す術もない。
肉棒を咥えさせられ、咽喉を突かれる度に
それ以上に不安を煽ったのは、咽喉と膣に先走りを擦り込まれる度に、苦痛よりも快楽が強くなっていくこと。否が応にも、身体をオーク専用の肉便器に作り替えられているのを理解させられる。
「んぶぶ、げぶ、ん! んん、ぅんー! んんんんんんっ!!」
「おいおい、咽喉突かれてイキやがったぜ。もう立派な口マンコだな」
「ほれ、これで書き込んどけ。何回イったか数えて、どれくらいメス豚になったか教えてやらなきゃな」
後ろから膣を犯すオークから渡されたマジックで、口を開発し始めたオークは愉悦混じりに蓮華の頬に正の字を書き込む。
見れば、彼女の剥き出しの尻には無数の正の字と、トイレの壁に書かれた落書きのような下品なマークが描かれている。
蓮華は絶え間なく押し寄せている窒息を伴った快楽に意識を手放しかけながらも、周囲に視線を向ける。
自分の周囲ではまだまだ多くのオークがいきり立った一物を扱いており、今か今かと自分の番を待ち侘びている。
今からどれだけの時間を犯されるというのか。一週間か、一ヶ月か。何にせよ、ただの三日で心身ともボロボロの状態では、持ちはすまい。そう遠くない未来、常森 蓮華は闇の魔の手に堕ちるだろう。
「……ん? 何――――?」
その時、電子ロックによって固く閉ざされた鉄扉が音もなくゆっくりと開いた――ように見えたが、すぐに閉じられた。
それを見咎めたオークは不審そうに眺めたが、扉が閉められる直前に投げ入れられた物体に身体を硬直させる。
コロコロと部屋を転がる円筒形の物体は、人間界の兵器に疎い彼にもすぐに分かった。
「しゅ――――ガッ!!!」
手榴弾、と叫ぶ暇も与えず、部屋全体に200万カンデラ以上の閃光と250デシベルの爆音が炸裂した。
オークは元より、蓮華の網膜をも焼き、難聴を引き起こさせる兵器は、殺傷を目的とした
視覚と聴覚を奪われた蓮華は、口と膣から引き抜かれた剛直の感覚と空気を震わせる何かを感じられるだけで、何が起こっているのかを知る術はない。
続いて全身を襲った衝撃と自由になった手足に、自分が解放されたのを理解した。
ゆっくりと視覚と聴覚が回復していき、何とか固まった関節を叱咤して顔を上げた蓮華の見たものは、自分の記憶にはない正体不明の男の姿と、額に叩き込まれる
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――
―――
――――
―――――
『何もそこまでしなくても。消耗した彼女を更に気絶させるなんて酷い人ですね』
「うるっさいんだよ! オレに余裕がないの分かってるぅ!?」
『まあ、気持ちは分かりますが……』
かつて米連の連中から奪い取った自動小銃で邪魔なオークどもを皆殺しにし、常森 蓮華を気絶させ、アルと口論をしながら地下室の入り口にまで引き摺っていく。
任務それ自体は難しくなかった。ノマドに組すると言えど、所詮は下部の弱小組織。
戦闘になるのは傭兵や下位魔族の連中とだけ、と判断していたのだが、予想外のアクシデントというのは、どんな時にでも起こりうるものだ。
作戦の全てが崩れ去ったのは決行の直前。
アルに建物内部の機械類をハックさせ、侵入者用のセンサーから監視カメラ、電灯の制御に至るまでを奪った──まではよかった。
さあこれから悠々と潜入して、さっさと仕事を終えようとした時――アルが建物入り口の監視カメラで
「やってられ――――あ」
『残念ながら
地下室の扉を僅かに開け、気配と共に周囲の状況を探ろうとした瞬間――――“あの女”と目が合った。
「ま、マダム、これは……」
「ふん、これだけ見てもまだ分からないのかい? 鈍いねぇ。……そっちの方も顔を見せたらどうだい? かくれんぼを楽しめる状態じゃないだろう?」
確かに、あの女の言う通りだ。地下室に籠ったところで袋小路──文字通りの袋の鼠。殺されるのは目に見えていた。
大きな溜め息をつき、気を失った常森を引き摺りながら、自動小銃を腰だめで女にポイントしつつ廊下に出る。
彼我の距離は10メートル。通路には地下室以外の部屋はなく、逃げるにはどうしても正面から突破するしかない。
オレの姿を見た瞬間、女と男は訝しげな表情と視線を送った。
「敵対する魔族、じゃないねぇ。かといって対魔忍でもなさそうだ。となると武装もあるから米連に見えるけど……アンタ、何者だい?」
『答えてやる義理はない』
姿形から何処の組織か判別できなかったオレに女は問いを投げかけてくるが、中国語で返してやる。
「なるほどなるほど、龍門の連中か――――なんて、言うと思った?」
くすくすと笑い声を漏らす口元とは対照的に、その両目は嗜虐的な眼光で満ちていく。
吸血鬼の王エドウィン・ブラックを頂点とする多国籍複合企業「ノマド」。その大幹部にしてブラックの側近。更にはアサギの宿敵でもある女の名は朧。
かつては甲河一族の当主候補の一人であったにも拘らず、ブラックに一族を滅ぼされると転身。以後は闇の手先としてその両手を血で染め上げ、挙句の果てに己の死を契機に吸血鬼へと成り果てた。
直接的な戦闘能力で言えばアサギに軍配が上がるが、決して弱い訳ではない。アサギに次ぐ対魔忍の実力者、さくらや紫が二人掛かりでも倒せるかどうか。
何よりも警戒に値するのは、あらゆる手段を良しとし、卑怯卑劣、悪辣外道であることに何の疑問も恥も覚えないところだ。
「クソみたいな対魔忍を捕まえたからと来てみれば……ふん、楽しめそうじゃないか」
いくら朧の対魔忍嫌いは有名とはいえだ。アサギに何度となく辛酸を舐めさせられたが故か、元々の生理的な性質なのかは知らないが、まさかこんな下位組織にまでわざわざ顔を出すなんぞ想定できるか……!
「だんまりかい。まあいいさ。そこの小娘と一緒に手足を斬り落としてから聞いて――――チッ!」
『戦闘開始。プランBに移行しますか?』
「いや、まだだ。合図を待て」
朧の思考が、在り得もしない未来を夢想して加虐嗜好を満たそうとした瞬間、引き金を引く。
初弾で朧の隣にいた男――恐らくは、この組織の頭だろう――にヘッドショットを叩き込む。狙い通りだ。ここで奴に兵を動かされ、周辺を包囲されたら目も当てられない。
続いて、朧に無数の銃弾を浴びせる。
しかし、悲しいかな。単なる銃弾では朧には届かない。余程の不意を突くか、米連が開発中の特殊弾頭でも使わねば不可能だ。
銃弾を躱し、或いは両手に装備した鉤爪付きの手甲で弾きながら、凄まじい速度で距離を詰めてくる。
「あははははは! そんな程度であたしをどうにかしようって? ツイてないにもほどがあるねぇ……!」
その点に関しては全く同意だ。意見が合うねオレ達――――だが、オレに遊びはないぞ。
何の油断もなく、一切の躊躇なく、欠片の容赦もなく、オレは二つ目の閃光手榴弾を床に転がすように投げつけた。
「ッ――――甘いんだよ!」
オレを痛めつけて遊ぶつもりだったのだろう朧であったが、流石に幾多の死線を潜り抜け、実際に地獄に落ちた訳ではない。
床を転がる何かを目にするとそれが何かを確認するよりも早くオレに向かって蹴り返してきた。この手の投擲物に関しては、有効な手段である。
――尤も、安全ピンは抜いていない訳だが。
蹴り返された閃光手榴弾を安全ピンを見せつけるようにキャッチすると、朧の瞳が憎悪に染まる。
これから加虐心を満たす為に思う存分遊ぶ相手に遊ばれている。その一瞬の判断が思考能力を怒りに染め上げた。
「ガキィ……!」
「今だ、やれ……!」
完全にオレにのみ意識を向けた朧を確認し、アルへと合図を下し、常森を抱えて走り出す。
銃を、ましてや慣れぬ得物を手に間合いを詰める愚行。一瞬、朧の瞳は不審の色を見せたが、すぐ様殺意に満ち満ちた。何にせよ、奴にとって今は最大の好機だ。
『了解。逃走経路、確保開始』
「―――――ガっ!?!?」
耳に取り付けたイヤホンからアルの無慈悲な電子音声が開始の号砲を告げる。
次の瞬間、爆音と共に天井が崩れ、朧は落下する瓦礫の下敷きになった。
何らかの作戦を開始する時には、作戦の失敗に対するカバープランを用意しておくのは基本中の基本だ。
特に逃走経路の確保は最重要課題。今回は地下室が袋小路になっていることもあって、壁や天井を爆破できるように始めから爆発物をセットしておいた。
本来の朧であればオレの落ち着きように違和感の一つも覚えたかもしれないが、ああまで殺意に満ちていればまともな思考は叶うまい。
「このォ、ガキが……、しまっ――!?」
天井に開いた穴から階上へと登り、瓦礫の下から這い出してきた朧に閃光手榴弾をプレゼントする。無論、今度はピンを抜いて。
背後から響いてくる爆発音と怨嗟の声を無視し、逃走を再開する。僅か数十秒に満たない時間だったが、一歩間違えれば死にかねない掛け値なしの死闘だった。
想定外の事態はあったが、何とか任務を遂行し、事なきを得るのだった。毎度毎度、オレの任務はどうしてこう綱渡りになるんだか……。
―
――
―――
――――
―――――
『何か、お考えですか?』
「いや、少しな」
用意していた逃走用の車両の中で、アルが声を掛けてきた。
隣の助手席では、常森が完全に意識を失った状態でピクリとも動かない。これならばアルの存在が余計な人物に漏れることもないと判断したのだろう。
既に東京を離れ、神奈川県の山中へと差し掛かり、追っ手の可能性もゼロに近づいた時点で速度を緩めて、僅かばかり考え事をしていたところだ。
『何でしょう? 想定外ではありましたが、不審な点はなかったと思いますが』
「それはオレもお前と共通の見解だよ。ただ、朧については別だ」
『――ああ、そう言えば、貴方は甲河朧と顔見知りでしたね』
「ああ、甲河一族が存在していた時からな。カオスアリーナ、東京キングダムであった件でオレも動いた。その折に遠目で朧を見た時から違和感があったが、今回直接対面してみるとどうにも腑に落ちない」
『と、申されますと?』
「とても同一人物には思えん」
甲河 朧。
甲河の分家出身でありながら、一時は当主候補にまで上り詰めた才女。
かつて出会ったあの女は、実に有能で慎重かつ疑り深い性格をしていた。戦闘、作戦の立案能力に関しても申し分ない。
狡猾でこそあったが、悪辣ではない。善人ではないが、悪人でもない。外道ではあったが、下衆ではなかった。そのお陰で、当時からアサギとは犬猿の仲だったが。
アサギは朧を対魔忍の風上にも置けない女と嫌い、朧はアサギを弄ばれるだけの哀れな女と嫌っていた。
しかし、第三者であったオレから見れば、あの二人はそれなりにいいコンビだった。
何せ、根は同じなのだ。情を捨てきれず、互いに任務に徹しても付き纏う苦悩から解き放たれることがない辺りが特に。
アサギはより情に寄り、朧はより任務に寄る。似たり寄ったりの同族嫌悪が嫌い合っていた原因だろう。
その上、互いの能力はガッチリと噛み合っていた。絶大な戦闘力を誇るアサギに、奸智に長けた朧。正直、アルと組んでいる現在でも相手にしたくないコンビだ。
『甲河一族が滅ぼされた折に寝返った、と。それだけのことがあれば人格に変調をきたしても不思議ではないと思いますが』
「資質だけならアサギに並ぶ女だぞ。諦めの悪さもな。一族郎党皆殺しにされた程度で変わるほど柔な人格をしているものか。オレは特別何も思わなかったんだが」
『それは貴方がふうま一族を売ったからです、このドライモンスター。……では、調教によってという線は』
「調教は人格に変容をきたさない。今まであった価値観が崩壊するだけ、物事の優先順位が入れ替わるだけだ。そう考えると過去の朧と現在の朧では連続性がなさすぎる」
『考えられる可能性は、我々の知らない魔界の技術によるものか。あるいは――』
「別人が成り代わっている、か」
『その必要性があるのか疑問です。いずれにせよ、推察の域を出ません。これ以上は無意味でしょう』
アルの言葉も一理ある。
著名人に入れ替わるのならば分かるが、わざわざ日陰者の忍と入れ替わる理由などないだろう。
まあ、どうでもいいと言えばどうでもいい。アサギと朧の間を取り持ったこともあるが、特段の感情を抱いていない。
気掛かりなのはただ一点。もし朧に本物と偽物がいた場合、本物の方がオレを利用しようと動かないかだけだ。
『そろそろ回収ポイントです』
「さて、と。これで学園に戻って報告書を書いたら仕事は終わりだ。今回も何とか生き残れたか」
『お疲れでしょう。報告書は私がまとめておきますので、そのままお休み下さい』
「ク、オレの事を気遣ってくれるのはお前だけだよ」
『アサギ様も貴方に相当気を遣っているとは思いますが』
「気を遣っても実際の行動に反映されなきゃ何の意味もないがな」
『………………』
オレの正論にフォロー虚しくアルは押し黙る。流石に、コイツもアサギには色々と思う所があるのだろう。
山頂付近に存在する巨大な駐車場に車を停車させる。昼日中なら物好きな連中が山頂からの景色を眺めようと訪れるだろうが、夜半を越えた明け方の時間帯であれば、主要な道路から外れ、人里からも離れた此処に人は一人もいない。
常森を残し車を降りたオレは、懐から取り出した煙草に火を付け、星空を眺めながら紫煙を
色々なストレス軽減方法を模索した結果の一つがコレだ。もう仕事終わりには欠かせない一本となっている。
後は回収部隊が近づいてくるのを確認してから、この場を離脱する。対魔忍内部でオレの存在を知っているのは極々少数のベテランのみ。
その方が何かと都合がいいからというのがアサギに対して述べた結論だが、本音は別の所にある。
オレの存在が何処からか漏れるのを防ぐためでもあるし、何よりも他の連中に、必ず救出してもらえるからなどという理由で命令違反や無茶苦茶な作戦を決行させないためだ。
安全弁や安全装置があれば、自ずと人は無理をする。無理をして自分でケツを拭くなら兎も角、オレに拭かせるなぞ冗談じゃない。
いくら仕事とはいえ、こちらにも我慢の限界や可能な範囲というものがある。これ以上気苦労と苛立ちが増したら、確実に脳の血管がブチ切れるだろう。
あー、いやだいやだ、と星空を眺めていると流れ星を発見する。何の期待も抱かず流れ星に願いを込める。
願掛けやお百度参りなど何度となくやってきたが、効果を得られたことは一度もない。それでも、こう願わずにはいられない。
――どうか次の任務までに、対魔忍が油断とか慢心とは無縁の集団になって、オレへのストレスが減りますように。