「………………疲れた」
今日も今日とて、肉体そのものに傷は負わなかったものの、体力的にも精神的にも追い詰められる一日だった。
本日の
神村 舞華。
言動から態度からヤンキーそのものだが、対魔忍との誇りとやらを持っているらしく、弱きを助け強きを挫くタイプだ。
よく言えば古き良き番長か。もっとも、ヤンキーだろうが番長だろうが、チンピラと大差はない。オレからすれば、この女はチンピラよりも少しマシと言う程度だ。
とは言え、火遁使いの中でも最高クラスの炎を放つ上忍だ。コイツとタメを張れるのは火遁使いの名門・百田家であっても一握りである。
あと、姉がいるとかいないとか。神村家は忍というよりかは、魔を祓う陰陽師と武士のハイブリットだとも聞いている。
佐久 春馬。
普段は男物のスーツに身を包み、戦闘中は対魔殻と呼ばれる甲冑を身に纏う男装の麗人。
女の癖に、自分を男だと言い張る姿は滑稽であると同時に哀れみすら覚える。お家のために本来の性別すら捨てなければないなど、時代錯誤の笑い話だ。
対魔殻は対魔粒子によって皮膚を硬質化させる忍法。纏ってしまえば刃も火も雷も通さない無双の鎧である。
佐久家は対魔殻使いの三名門の一つであり、お家に拘るのも理解できるが、オレからすれば馬鹿馬鹿しい。だってオレ、自分のために一族郎党売り払ってるし。
火遁衆は火遁の力に目覚めた対魔忍で編成されており、殲滅戦によく投入される。
対魔殻部隊は佐久家の対魔殻使いで編成されており、アサギの部下というよりかは佐久直属の部隊。
戦闘要員としては極めて優秀。襲撃任務はお手の物の両名、両部隊であったが、オレの頭痛の種が一つ。
――神村と佐久の仲が、すげー悪いことだ……!
正義感は強いものの、チンピラ同然かつ対魔忍の中でも外れ者から支持を得ている神村。
男として育てられ、紳士然とした立ち居振る舞いで、女生徒から人気を得ている佐久。
そんな二人の折り合いがいい筈もない。
顔を突き合せれば、売り言葉に買い言葉。殺し合いとは言わないが、一歩間違えれば大怪我を負いかねない喧嘩には至る。
その上、火遁衆は神村に似たり寄ったりのヤンキー気質。
対魔殻部隊は意識高い系のエリート集団。
相性は最悪も最悪だ。もうお前等、夕日をバックに殴り合いでもしててくれないかな?
この両名、両部隊に首輪を付けられるのは圧倒的な強さを誇るアサギ、コンビネーションに秀でたさくらと紫、アサギの右腕として対魔忍の誰からも一目置かれる九郎、経験豊富で知略に通ずる不知火。そして、甚だ不本意だがオレである。
何故、表向きは下忍でしかないオレが二人に首輪を付けられるのか。単純な話だ。オレには話術と立場がある。
一つの集団を纏めるには苛めてもいい個人を用意してやればいい。
ある魚の群れが、群れの内の一匹を攻撃するのと同じ理屈。
何が面白いって、誇りや正義を口にしている連中が、誇りや正義を持っているからこそ、そういったものとは程遠い行為を平然とやってのけるのが一番面白くて下らない。
人間、そんなもんである。皆は気を付けようね。オレは知らん。
神村からは怒鳴られ、佐久からは貶されつつも、二人に何とか共同戦線を張らせた。
何? 辛くないかって?
全然。一本筋の通った正義漢、性根の底の底まで腐った悪党に言われれば、何らかの感慨も浮かんでこようが、こんな半端者共に何を言われても何一つ心に響かない。
いや、正義漢でも悪党でも心に響かんな。自分の女だったら、多少は感じることもあるかもしれんが。
ともあれ上手い事、此方の指示を進言と言う形で二人に伝え、良いように操り人形にしてやったのだが――――ここでアクシデントが一つ。
何をどう嗅ぎつけたのか、装甲車を引っ提げた米連の戦闘部隊が両集団の背面から接近しつつあったのである。ホント碌なことしねーな、米連!
何が最悪だったって、神村と佐久の奴、役割としては部隊長だってのに、一番前に出て忍法ぶっぱしてるわ、敵を撲殺してるわ。
流石、アサギの後進ですわ。何の為に部隊を出したのか何一つ分かってねぇ! お前らが気持ちよく敵をぶっ殺すためじゃないんですけどねぇ!!
『おい、神村、佐久。緊急事態だ、背後から――――』
『おらおらおらぁぁ!! テメェら、気合入れてぶっ放せ! 佐久の連中に負けんじゃねぇぞ!』
『私に続け! このまま押し潰す! 神村の火遊びになど後れを取るな!』
わー、すげー、何コイツ等。戦線を俯瞰して把握する必要性とか、自分の部隊の何処が一番弱いとか絶対に理解してないぞぉ。
先に標的を殲滅していたら、背後から思い切り強襲を喰らう。米連に対応するには最前線にいる神村、佐久の二人が後ろに下がらねば指示を出せない。どっちにしろ、部隊は崩壊して
という訳で、米連の部隊、三台の歩兵戦闘車および30名余りの随伴歩兵に一人で強襲開始。
手始めに随伴歩兵の5名くらいをぱぱっと殺し、敵に発見される前に装甲車の一台の中に奪った手榴弾を投げ込んで爆破。
混乱に乗じて、更にもう一台も同じ方法で爆破。最後に残った一台は自らの手で中の人間を殺して奪い、あとは面倒だったので全員轢き殺した。
無論、後方支援もあるだろうし、監視衛星がこっちを見ている恐れがあったので、顔を隠して五分間の虐殺タイムであった。
はー、やれやれ一仕事終わった、と神村、佐久の元に戻って見れば――
『何処に行ってやがった、この玉ナシ野郎』
『また逃げたのか、この恥知らずめ』
――仲間に向ける、この暖かいお言葉である。
オレが玉ナシの恥知らずなら、お前等は能ナシの恩知らずなんですがねぇ。
こういう扱いは毎度のことなので、安定のスルー。
一生、効率の悪い方法で敵をぶっ殺したり、ぶっ殺されたりしててくれ。捕まりさえしなきゃ文句なんてない。
大体、お互い様だ。
神村や佐久はオレを見下しているが、オレだって奴等に何の期待もしていなければ、興味関心もない。
どちらがより酷い人間なのか、という結論は、それこそ人によるというものだろう。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心とも言うし。
で、事後処理だの後始末だのを一人で――恐るべきことに、あの二人と部隊は全部俺にぶん投げて帰りやがった。アイツ等にとって、オレはこういったことをするくらいしか能がないらしい。信じらんねぇ――で済ませて帰って見れば、日が昇るどころか日が暮れていた。
その後、五車学園に帰ってきてからは凜子への特別授業だ。いやらしい意味ではない。
魔族と米連。毛色の違いと厄介さ、危険性を説明してやった。知識は一切重みにならない武器であり、宝だ。こちらとしても、くれてやったとしても痛手にはならない。手を抜く要素はなかった。
ゆきかぜや凜子、後は氷室なんかはいい。他の連中と違って、聞く耳を持っているからだ。癒されはしないが、時間を取られたとしても苦にも無駄にもならない。
口先ばかりで行動が伴っていない半端者よりは、お頭の出来が――と言うよりかは、
一つの才能に秀でた者よりも、何に対しても真摯に努力する者の方が有用性は高い。最終的な用途の幅に差が出るからだ。
ナイフか、十徳ナイフかの違いである。オレの携わる任務においては、十徳ナイフの方がいい。戦闘しかできませんじゃ、どんな強者でもオレの任務では有用性は極めて低い。
あーあ、アルフレッドくらいに使える奴が、そこら辺に転がっていないものか。
………………無理だな。使えるとしても、こっちの言うことを聞くとは限らんし。
うーむ、悩み所である。使える奴か、こっちの指示を聞く奴か。
……オレは、まだ指示を聞く奴の方がいいかな。能力の無さなど、いくらでも補える。
最大の悩み所は、指示を聞く奴が対魔忍全体において0.01%にも満たないところかな。
つーか、政府や組織の命令どころか、アサギの指示すら現場の判断と称して従わん奴もいるんだが、どうなんだ対魔忍。
これは流石に、アサギばっかりが悪いとは言い難い。どいつもこいつも自分が一番正しいと思ってる我の強い連中だからね。
正義だ、誇りだなんて言葉に酔い過ぎだ。
それらの言葉を本当の意味で理解しているのであれば、本当の意味で胸に抱えているのであれば、敵に堕とされるなど在り得ない。
逸らすことのできない快感、堪えようのない痛み、どうしようもない絶望を前にした時にこそ、当人の本質が現れる。
その本質ですら凌駕する意志こそが正義であり、誇りだとオレは考える。
はてさて、対魔忍の中に本物の正義と誇りを持っている者が何人いるのやら。
本物の愛を持っている者ならいるようではあるが……忍には、取り立てて必要のないものなのが困りものなんだよなぁ。
まあ、正義や誇りも必要かも疑問だが。対魔忍の総大将が言っているのだから、対魔忍には必要なんだろ、多分な。オレは必要ないけど。
「…………………………」
五車町の外れも外れに位置する我が家へと向かう何時もの帰路。
1キロ地点に近づいた時点で、何らかの気配が我が家に待ち構えているのを感じた。
人であろうが、魔族であろうが、獣であろうが、蟲であろうが、機械であろうが、其処に存在している以上は気配を発する。
大半の連中は敵意や殺意には過敏に反応するだろうが、存在そのものに気を配る奴はそうそういない。そこまで認識しようとすれば情報量の過多から発狂する。
しかし、オレから言わせれば、膨大な情報量の中から必要なものを抜き取ればいいだけで、そう難しくは感じない。
そんなことを昔、半人前だったさくらと紫に言ったら、信じられないものを見る表情で、イカれていると言われた。
まあ、大抵の人間の価値観から言えばそうだろう。オレはイカれている。けど、それがオレなので仕方がない。甘んじて受け入れよう。
武器を何時でも取り出せる位置に手を置きながら、帰路を進む。
歩調は変えない。気付いている気配も漏らさない。相手が何であれ、誰であれ、此方が気付いていないと判断すれば油断する。事は簡単に済むだろう。
我が家に近づけば近づくほど、相手の存在は明確になっていく。
身長、体重、性別、武器の所持、実力差まで。警戒は色々な意味で無意味だったとは思ったが、相手を見て、心の底の底まで読み切らぬまでは油断は出来ない。此方が気付いていない伏兵が潜んでいる可能性もある。
「………………おい、紫藤。何やってんだ、お前は」
「ひゃ、ひゃいぃ……!?」
生垣で囲まれた我が家の陰で、紫藤 凜花が立っていた。
声を掛けられて驚いた間抜けな声。学校帰りにそのまま来たらしい制服姿。手にしている買い物袋。
……どうやら、杞憂だったようだ。こんな格好で殺しに来る間抜けはいない。
此方を油断させる罠という線もあるにはあるが、目を見れば分かる。他人を陥れようとしている者の目は腐ったドブ川のような色をしているものだ。
「え、えっと、その、今日はぁ……お礼を、と思いまして……」
「礼? なんのだ……?」
「そ、それは…………あの件以外の、何があると言うんですかっ?!」
やめて。お願い。声を張り上げないで。
近所迷惑とかじゃなくて、オレん家にお前が来てる事実を誰かに知られたくないから。
オレについての全てを口にすることは、禁じられている。アサギからの命令という形で伝わっている。
アサギよりも強くなる、と公言して憚らない紫藤ではあるが、アサギの立場が欲しい訳ではない。単純に強さでアサギを越えたいだけなのだ。その為、命令に逆らうことはない。
だが、ゆきかぜや凜子ほど、仮面を被り慣れていないのだろう。ふとした瞬間、カッとなった瞬間には、顔にも口にも出してしまう。
咎める為に睨みつけたが、ハッとした表情で自己の失態を悟った紫藤は、次の瞬間には、しゅんと肩を落とす。
どうにも調子が狂う態度だ。普段の態度が好きだった訳ではなく、ひたすらにうっとおしいだけだったが、これはこれで面倒である。
「で、何をするつもりだったんだ。お前は」
「り、凜子ちゃんに、虎太郎先生は家事はできるが嫌いだと聞いたので……」
「…………………………ふーん」
アイツ等、いよいよ本気というわけか。そして、紫藤の手にしている買い物袋は料理の食材か。
正直、アイツ等の不安は理解できる。アサギやさくらにも、『任務に出たら、そのまま帰ってこないんじゃないか』、なんて言われたこともあるくらいだ。
確かに、何もかも面倒になったら、戻ってこないだろう。
所詮、対魔忍はオレにとって借宿か、借家に過ぎない。オレに帰るべき場所などない。ふうまを捨てた時点で、生粋の根無し草になったのだ。
それをゆきかぜと凜子は情で絡め取ろうとしている。この程度なら、可愛げで済ませてやる度量はある。
「まあ、いい。入るか?」
「よ、よろしいんですか……?」
「よろしいも何も、その為に来たんだろ?」
断られるとでも思ったのか、驚きと安堵を
別段、オレは紫藤を嫌ってはいない。ただ、うっとおしいだけ。そもそも、オレが本気で嫌う奴など、そうそういないのだ。ムカつく奴は腐るほどいるが。
そういう訳で、楽を出来るのならば、此方としても万々歳で不満は一切ない。
――不安は、紫藤の料理の腕前だ。ゆきかぜレベルか、凜子や不知火レベルなのか。
開けてビックリ玉手箱。自分の命に関わらないのであれば、そういうのも悪くないか。
―――――
――――
―――
――
―
「……これは、また」
「よ、洋食は、お気に召しませんでしたか?」
「いや、全然。期待以上だったんでな、少し驚いた」
「普段はお転婆かもしれませんけど、これでも女としても腕を磨いているんですよ?」
凜花は、大きい乳房の下で腕を組み、ぷくりと頬をふくらませて拗ねてみせた。
年相応の様子に、虎太郎はすまんすまんと謝りながらも、食卓に並んだ料理を眺める。
本人曰く、手は込んでいませんけど、とのことだったが、家事嫌いの虎太郎にしてみれば、十二分に手の込んだ料理の数々であった。
副菜にはトマトとキュウリのサラダ、トマトと生ハムのオムレツ。メインはビーフシチューとガーリックブレッド。
凜子と不知火は和食がメインのさっぱり系だが、凜花は洋食を楽しめるガッツリ系だ。
「そんじゃ、ま、失礼して――――頂きます」
「はい、お召し上がり下さい」
まず、虎太郎が手につけたのはオムレツだ。
フォークを刺し込んだだけで分かる卵のふんわりとした触感でだけで食欲を刺激してくる。
口に放り込むと濃厚なチーズの味と風味が一気に広がり、黒コショウのピリリとした辛味と生ハムの塩気が後押しを加える。
ややしつこさを感じさせる味だが、トマトの酸味がさっぱりと洗い流し、後味も大変よろしい。
次に手を付けたのは、トマトとキュウリのサラダ。
角切りにしたトマトとキュウリは、噛む度に野菜の水分が口に広まり、酸味の効いたドレッシングとの相性も抜群である。
味の濃い料理が多い中、この酸味あるサラダは口休めに大変嬉しい一品であった。
ガーリックブレッドもまたいい。
縦に切ったフランスパンに、刻んだニンニクを混ぜ合わせたバターを塗り、その上にトマトの輪切りとモッツァレラチーズを乗せて、オーブンで焼いたピザ風だ。
ガーリックとバターの風味が食欲を促進させ、チーズとトマトの味を倍にさせる。フランスパンの歯応えもあり、噛み締める度に味と風味が一体となって舌と鼻を楽しませる。
そして、メインのビーフシチュー。
市販のルーを使わずに、作り置きしてあった凜花お手製ビーフブイヨンとデミグラスソース、トマトのたっぷりと入ったイタリア風だ。
濃厚なデミグラスソースの味の中で確かに生きる牛肉の味と風味。噛めば味の染み出て、蕩けていく牛肉もいい。ほくほくとしたニンジンとジャガイモもよく合っている。
圧力鍋を使って手早く作ったもので、凜花自身は余り納得のいく出来ではなかったようであるが、虎太郎の舌は蕩けそうだ。
虎太郎は、一通り料理を口にすると手に持っていたフォークとスプーンを置き、一言。
「――認めよう、お前の力を。今この瞬間から、お前はオレ専属の晩飯係だ」
「あの、褒めてくれるのは嬉しいですけど、それは、ちょっとぉ。任務もありますし……」
「そうか。それも、そうだな……くっ」
珍しく残念そうな顔をすると、悔しげに握り拳を作る虎太郎。
彼女の料理は、不知火、凜子の腕前と並ぶものだった。和食と洋食では同列には語れないものの、味にそれほど執着を見せない虎太郎をも唸らせるほどだ。
凜花はにっこりと微笑みながらも、ぐっとテーブルの下で握り拳を作る。此方はガッツポーズと同じ意図である。
「御馳走様でした。はぁ~、大変ヒンナでした」
「ヒンナ? どういう意味ですか?」
「ん? ああ、アイヌの言葉だ。昔、知り合いがよく言っていてな」
「珍しいお知り合いが、いらっしゃるのですね」
「長く対魔忍なんてやってりゃ、知り合いも多くなる。おかしな連中ばかりだがな」
「………………」
ヒンナとは、簡単に言えばアイヌが食事へ感謝する言葉だ。彼等は、食べながらヒンナと口にしたらしい。
既に、アイヌと呼ばれる民族はほぼ日本人の中に取り込まれて久しく、文明や文化は殆ど残っていない。彼等の血を引いた子孫が、失われていく文化の名残りを細々と守っている程度だ。
そんなアイヌ独自の文化を知っている辺り、その知り合いとやらは、相当に色濃くアイヌの血を引いていたのだろう。
食後の一服を楽しみながら、虎太郎はまたも普段の無表情を崩した。何か、懐かしむような、遠い日に思いを馳せるような笑みを浮かべている。
その笑みに、一瞬見惚れてしまった凜花であったが、頭を振って食器を片付け始めた。
暫らくの間、凜花が食器を洗う音、虎太郎の眺めているニュースの音だけが、居間の中に響いていた。
「終わったか? なら、送っていくが、どうする?」
「いえ、必要ありません」
凜花は食器を洗い終えると、タオルで手を拭い、虎太郎の隣の椅子に腰を下した。
胡乱な眼差しを向ける虎太郎を物ともせず、けれど頬を真っ赤に染めた凜花は何度か胸に手を当てて深呼吸を繰り返すと、意を決したように目を閉じて顔を近づけていく。
虎太郎は、この展開をある程度予期していたのか、抵抗はしなかったが――――
――ガチッ
凜花の勢い任せの行動では、歯と歯がぶつかり合うのも無理はなかった。
「………………いたひ」
「オレだって痛いっての。全く、何なんだ、お前は」
凜花は、痛みよりも寧ろ、こんな筈ではなかったのに、という気恥ずかしさから口元を抑えて涙目になっていた。
そんな姿を眺めて、虎太郎は頭を掻きながら呆れている。それがまた、彼女の羞恥を更に大きいものにしていく。
「凜子だな、おかしなことを吹き込んだのは……」
「そ、それは、……凜子ちゃんは悪くありません。全て、私の選択です」
凜花は凜子を庇う発言をしたものの、虎太郎の向ける何の感情も感じられない視線に心を折られ、ボソボソと消え入りそうな声で話し始めた。
『そうだな。料理でも作ってあげろ。虎太郎が一番手っ取り早く喜んでくれる方法だ』
『…………そう』
『そわそわして遠くから眺めているだけでは何も変わらないぞ?』
『…………』
『それから、お前は自分がはしたない女だと自己嫌悪しているようだが、すっきりする方法はある』
『それは……?』
『簡単だ。あの人の女になってしまえばいいだけだ。惚れた男の前では、どれだけ乱れても恥ではないからな』
『…………ッ』
『兎に角、一度会って話してみろ。全ては、それから決めたらいいさ』
そんな会話があったらしい。
またぞろ面倒な展開に、虎太郎は頭を抱えそうだった。これではゆきかぜや凜子の思惑通りの展開なので、当然と言えば当然だ。
――けれど、本心を晒す凜花は、彼の想像以上に重症だった。
視界の端に虎太郎が移っただけで、胸が高鳴る。
自分以外の女と話しているだけで、不安に陥る。
自分の手料理を振る舞うというだけで、緊張で身体が強張り、指先が震える。
緊張して作った料理を褒められただけで、今まで感じたことのない喜びを覚える。
余りにも赤裸々な、聞いている方が恥ずかしくなりそうな告白に、虎太郎から伝える言葉はない。
「本気、というのはよく分かった。だが、一時の気の迷いから生まれる本気もあるってのは、理解しているのか?」
「……している、つもりです。それに虎太郎先生のことは、凜子ちゃんから聞き及んでいます。大層な外道だと」
「ヒデェが、事実だぞ。お前、後悔しなきゃいいけどな?」
「ふふ。それこそ、杞憂でしょう? ゆきかぜちゃんや凜子ちゃんを見れば分かります。たっぷり、愛してくれるって」
「まあ、お前らがトチ狂っている間は、な」
虎太郎は、諦めたような、新たな女が出来て喜んでいるような、絶妙な加減の笑みを浮かべる。
そのまま椅子を立ち上がり、凜花の唇を頂こうと顎を掴み、顔を近づけていった。
「ん………………あぁっ!?」
「おぶっ………………何だよ」
――のだが、凜花はある事実に気付き、両手で虎太郎の顔を押し退けた。
虎太郎にしては頑張った方だ。
女を貪るように手籠めにするのではなく、凜花が好みそうな雰囲気作りにも力を入れていた。
これ以上、何が不満だ、とばかりに不満そうな視線を向ける。
視線を向けられた本人は、誤解を解こうと慌てて口を開く。
「ち、違います! 嫌だったんじゃなくて! 虎太郎先生が悪かったんじゃなくて! 私が悪くて!」
「あー、分かった。分かったから落ち着け。此処まで来て、臍を曲げるほど、オレはガキじゃない。どうした、言ってみろ」
「……きょ、今日は、戦闘訓練がありまして」
「そういや、そうだったな」
「その後、考え事や凜子ちゃんと話していたり、料理の為に買い物をして、汗を流す時間が……」
「…………分かった。浴びてこい。風呂は、廊下の向かい側だ」
「ご、ごごご、ごめんなさい! すみません!」
目をぐるぐると回しながら、転びそうな勢いで風呂場へと向かっていく凜花。
覚悟を決めた女のものとは思えない何とも不様な姿に、虎太郎は無言で首と振り、感想を一言。
「…………
正直な感想は、新たな火をつけた煙草を吸って吐き出した紫煙と共に、誰の耳に届くこともなく消えていった。
―――――
――――
―――
――
―
「ふーん、ふん♪ …………ふう」
鼻歌を歌いながら髪を洗い終えた凜花は、大きく息をついてシャワーを止める。
正直な所、彼女も虎太郎の下を訪れた時には、自身の気持ちがどういったものなのか判断がつかないでいた。
あるのは不安と緊張ばかりで、胸の高鳴りの正体は、それではないかと疑うほどだった。覚悟が決まったのは、食後に見せた彼の笑みだ。
自分以外の誰かを思い出しての笑みに覚えたのは、明確な嫉妬だった。
誰かに嫉妬したことはある。
いけないこと、意味のないことだとは分かっても、自分よりも恵まれた者、自分よりも才気に満ちた者、自分よりも強い者を見ると、どうしても黒い感情が湧き出てきた。
凜子から、お前よりも優しくしてもらったと聞いた時も同じく嫉妬を抱いていた。
あの時は、まさか、程度のものだったが、虎太郎が笑みを向けた顔も名前も分からない誰かに嫉妬を向けてしまう時点で、どう取り繕おうが惚れてしまっているのは明白だ。
(我ながら、チョロい女。凜子ちゃんも、女は現金なんて言っていたけど、本当ね)
「……身体も、こんなに」
自分の身体を見下ろし、恥じ入るような口調で呟く。
凜子に揶揄された長い乳首は、限界まで勃起し、包皮で覆われた淫核も同様だった。
期待で口を開いている秘所からは、明らかにお湯とは異なる液体を流し、その最奥にある子宮はどうしても抑えることのできない疼きを発している。
今すぐにでも身体を慰めてしまいたかったが、凜花はぐっと堪え、鏡に映った自分をチェックしていく。
ムダ毛の処理、陰毛の手入れも済ませた。
キスに備えて、歯に何かついていないか、口臭に問題ないかも確認済み。
身体に痣やシミはないかも、入念なチェックを繰り返す。
下着も、自分の持っているものの中で、一番大人っぽく、一番可愛らしい、お気に入りを選んだ。
正に完璧だ。少なくとも今現在、凜花が見せられる最高の状態で、虎太郎の前に立てる。
「………………けど、本当に広いわね」
最後のチェックを済ませた凜花は、ふと虎太郎宅の浴室を見回した。
兎に角、広い。
親友である凜子、その後輩であるゆきかぜに誘われ、秋山家、水城家を訪れたことがあった。
金持ちではないものの、忍の名門である両家は広く、昔ながらの豪勢な造りであったのを、よく覚えている。
だが、この浴室はそれ以上だった。浴槽は勿論のこと、床や壁まで総檜。
浴槽など、大人が五人は足を伸ばして入れるほどで、ちょっとした旅館では到底及ばない豪華さだ。外観からは想像もできない、一般家屋には不釣り合いな浴室であった。
虎太郎が、癒されたーい、と泣き叫びながら自宅風呂場を解体している姿。
絶叫を上げながら、自分で切り倒した檜を担いで山から現れる姿。
リフォームの完成した自宅の前で、両腕を組んで大きく頷いた瞬間、その場に崩れ落ち、オレは何をやっているんだ、と呟く姿。
等々が、関係者に目撃されている。何時ものように、努力の方向音痴が発動したのだろうが、凜花には知り得ぬ事実であった。
凜花は、最後にもう一度だけ、と壁一面を覆う鏡の前で自分自身をチェックしようとした瞬間――
「いい加減にしろォォオオォォォォッッ!!」
「ひひゃぁぁああああああぁぁぁっ!?!?」
――スパーンと浴室の扉を勢いよく開け放ち、虎太郎が侵入してきた。全裸で。
「な、なな、何をぉっ!?」
「オメー、二時間とか風呂長過ぎるんだよ!? 何ィっ?! オレのこと焦らしてんのぉ!?」
「えぇっ?! そ、そんなに長く入ってましたぁ?!」
身体を隠す余裕もなく、虎太郎の勢いに負けた凜花は咎めることも忘れ、驚きの声を上げる。
人間は幸福の最中にあるよりも、確実に訪れる幸福を持つ時間にこそ、喜びを覚えるものだ。時間を忘れてしまうのも無理はない。
それから、苛立った虎太郎と謝り続ける凜花の滑稽な姿が、浴室に展開された。
「ったく………………おい、何でそんなに離れてんだ」
「うぅ、放っておいて下さい」
それから落ち着いた二人は、広い浴槽の中に入って身体を温めていたが、距離が遠い。人が二人は間に入れるほどだ。
どうして上手くいかないの、と落ち込んでいる凜花に、虎太郎は呆れ返っていた。
そこまで落ち込むことではないだろうに、というのが虎太郎の感想だ。
彼とて初めの内は成功よりも失敗の数の方が多かった。失敗の度に何が悪かったのかを考え、改善してきた。
あとは慣れだ。自身が思い描いた通りに行動し、事を運ぶには、どうしても慣れが必要になる。
もっとも彼の場合は、失敗したとしてもリカバリーが巧い。
最低限、他人が納得するだけの成果と理由を用意する。自己の限界を把握し、なおかつ成果を上げるバランス感覚が、群を抜いて高い。
ただただ無茶と無謀を繰り返すだけの猪武者。ただただ逃げ回るだけの臆病者とは訳が違う。彼と同じ苦労人である九郎ですら、舌を巻くほどだ。
「ほら、こっちに来いよ」
「きゃ、ん…………もう」
凜花は、虎太郎に腕を掴まれ、強引に引き寄せられた。
互いの身体が密着するだけではなく、肩に腕を回され、緊張と疼きと期待と安堵が堰を切ったかのように全身へと広がっていく。
それでも何とか態度だけは不機嫌を装ったものの、口元が緩んでしまって台無しだ。
「しかし、もう色々と限界らしいな。ほら、ここも」
「やぁ、ん♪ ……ち、乳首、コリコリぃ、しないでぇ♪」
「何でだ? こんなに悦んでいるじゃないか?」
「だ、だって、そんなにっ、強くされたら、もっと、大きく、いやらしい形に、なっちゃいます♡」
親指と人差し指で、長い乳首をやわやわと弄ばれる。
刺激と呼ぶには余りにも微弱な、けれど脳髄を直接触られているような愛撫に、凜花は堪えきれずに掠れた声で媚びを売った。
その様に気を良くしたのか、虎太郎は一層笑みを深めた。
「何なら、ピアスや刺青でもしてみるか? もっといやらしくなるぞ? 二度とオレの前以外では裸になれなくなるがな」
「……あぁ、あ、そんなっ、そんなぁ♡」
二度と元には戻らないであろう肉体の変形は、紛れもなく虎太郎の女である証明だ。
紛れもない被虐と隷属の証を想像して、ゾクゾクとした悦びが背筋を這い回るのを感じた。
「まあ、性急すぎるか。なら、マグネット式のとシールでも買ってきてやろうか? お試しってとこだな」
「もし、本当にそんなことをしたら、虎太郎先生がずっと、面倒をみてくれるんですね?」
「馬鹿を言うな。そんな真似せんでもオレの女だ、面倒くらいはみてやるさ。お前が望む限り、な」
そう言うと虎太郎は立ち上がり、凜花を浴槽の縁に座らせた。
「さあ、其処で足を開け」
「ここ、するん、ですか?」
「ああ。この程度で恥ずかしがるなよ。これからは、何処で抱かれてもおかしくないんだぜ」
凜花が、虎太郎を望めば。
虎太郎が、凜花を望めば。
何処であろうと関係はない。そのまま、互いの欲望の赴くままに交わる。
そんな身勝手でありながらも、何処までも凜花の欲望に付き合おうとする宣言に、またも彼女の興奮は高まっていく。
興奮に身を任せるように、けれど恥じらいは残したまま、ゆっくりと凜花は両脚を控えめに開いた。
健康さを残しながらも透き通った白い肌が、ほんのりと桜色に染まっているのは、何も檜風呂に張られた湯のせいばかりでないのは明白だ。
「まだだ。もっと開け、よく見せろ」
「は、恥ずかしいです……」
「気にするな。綺麗に手入れされてるじゃないか。そうだ、自分のマンコがどうなっているか、自分で説明してみろ」
あぁ、と絶望でもしているかのような声を漏らすが、吐き出された吐息には隠しきれない期待が含まれている。
羞恥を煽られる度に、凜花の全身には鳥肌が立ち、誤魔化しようのない被虐の快楽を帯びていた。
凜花、余りの羞恥に涙を流しながらも、口元には媚びを含んだ笑みを刻み、愛液を垂れ流す秘裂を自らの両手で割り開く。
「これが、凜花の、いやらしいおまんこ、ですっ。虎太郎先生の逞しいおチンポに、たった一回、抱かれただけで、虎太郎先生専用になっちゃい、ました」
「そうかそうか、気に入ってくれて何よりだ」
「お礼とお詫びに、先生の女として、一生懸命、尽くしますから……凜花の男として、一生面倒を見て下さい。凜子ちゃんやゆきかぜちゃんのように、愛してください」
「構わないぞ。あの二人のように、頭がおかしくなるくらい可愛がってやる――――が、お詫びって何の話だ?」
好色そのものの笑みを浮かべていた虎太郎であったが、疑問から怪訝な表情をする。
凜花は、彼の自分自身に対する無関心な様に、呆れ返ると同時に悲しくなり、罪悪感から心情を吐露してしまう。
「だ、だって、私は、いくら知らなかったとは言え、何度も酷いことを……」
「気にするな。オレがそういう風に装っていたんだ」
「だからと言って……」
「五月蝿い口だ、塞いでやる」
「うぅん、むぅ……ぇれ、んれ、……ちゅぷ…………んぶっ!? ンンンっーーーー!!」
虎太郎にとっては下らない慚愧の言葉は聞くに堪えなかったのか、文字通り無理やり口を塞いだ。
木の幹に絡まる寄生植物のように侵入してきた舌を、凜花は後悔すら一瞬で忘れ、自らの舌と絡ませて受け入れた。
だが、それだけでは済まなかった。
凜花は自身の女そのものに押し当てられた灼熱の肉棒に、全身をビクつかせてしまう。
意識的にも、無意識的にも彼女は腰をくねらせる。男を自ら迎え入れるのではなく、男を
年季の感じられない処女の拙い腰の動きであったが、虎太郎の剛直は嬉しげに跳ねまわり、先走りを漏らしていた。
「ふふ、いいぞ、紫藤。下手だが、悪くない動きだ。それに、匂いも酷いな」
「ひ、ひかたないれふぅ……ん、ひっ、んれろ、雄と雌の、えっひなにほい、興奮するに、気まってるぅ、んちゅ♪」
虎太郎に対する謝罪の気持ちすら蕩けさせられ、ぬちゃぬちゃと粘着質な音を立てて愛液と先走りを混ぜ合わせる。
立ち上る雄と雌の欲望を煮詰めた精臭は互いの興奮を高めるアクセントにしかなるまい。
虎太郎は存分に凜花を鳴かせ、凜花は惨めなほど虎太郎に泣かされると、唾液の橋を作りながら唇を放していく。
「んえぇ、んん~~~っ♪」
凜花は、まだ足りないと舌を突き出してねだる。
自身のはしたなさ、淫らさ、情けなさなど、もう頭にはない。湯の熱と発情の熱に浮かされ、完全に思考が茹だっている。
「お前は何度でも虐めてやるからな。焦らして焦らして、泣きながら懇願させてやるし、逆に死ぬほどイカせて許しを請わせてやるのもいいかもな」
「先生のお好きなように、してください」
「まあ、今日の所は優しく、だ。壊れられても困る。まだまだ慣らしの段階だからな」
それだけ言うと、虎太郎は軽く触れ合うだけのキスを何度もする。
互いに貪り合うディープキスは女の興奮を誘うものだが、バードキスは女の心が満たされるものだと熟知していた。
何度も何度も飽きることなく降るキスの雨に、凜花も必死になって応える。
その時、凜花は子宮から電流のように脳髄へと昇ってきた感覚に、キスを自分から中断し、真っ直ぐに虎太郎と目を合わせる。
「どうした?」
「ふぅ……、ふぅ……、じゅ、準備、整いました。い、今のキスで、子宮口っ、完全に開いちゃいました♪」
「そうか。それが分かるなんて、SEXでも優秀だな」
「虎太郎先生が、教え込んだんです♡」
「なに、まだまだこれからさ」
「あっ、その前に……」
いよいよ腰を前に突き出し、凜花の女全てを征服しようとした虎太郎の動きが止まる。
ここまで来て、というタイミングであったが、女を征服するということは、自らも征服されることと彼は考えている。何にせよ、独り善がりになるつもりは毛頭なかった。
「名前で、呼んでください。苗字のままなんて、他人行儀で嫌、ですから」
「分かった。なら凜花も先生は止めろ。こんな時まで教師と呼ばれるつもりはないからな」
「は、はい♪ 虎太郎さんと呼ばせて♪」
「好きに呼んでいいぞ、ほれ」
「あっ、あっあっ、あぁぁっ、ぁぁぁっ……!」
不意討ち気味の挿入であったが、前に進む男根は、あくまでもゆっくりと奥へ奥へと進んでいく。
凜花の媚肉は悦びを蠕動として示し、雄の象徴は襞の一枚一枚を丁寧に、丹念に、入念に、念入りに、けれど容赦なく自分の味を覚えさせていた。
「んんっ、おぉっ、す、すごっ、おチンポのっ、んほぉっ、出っ張ってるところで、おほぉっ、オマンコ、かき、掻き毟られてるぅっ!」
「そこはな、カリと言うんだ。本来なら他の雄の精液を掻きだすためのものだが……、これじゃあ女を満足させるだけだな」
「んおぉっ! か、カリ、すごいっ、凜花のオマンコ、すごく喜んで、スケベ汁、止まらないぃぃいっ!!」
「はは、下品な言葉を覚えたもんだ。自分で調べたのか? いいぞ、もっと鳴いてみろっ」
「ひゃぁぁあんっ! チンポっ、カリっ、また、おっきくっ、んひぃっ、ビクンビクンって、悦んで、ひひぃっ、くれてるぅぅっ!!」
まだ最奥にも至ってないと言うのに、凜花は泣きながら悦んでいた。
怒張が痙攣して膣道による雌奉仕を楽しんでいる確信を得ると、膣道もまた怒張から与えられる快感に愛液を流しながら喰い締める。
十分かつたっぷりと、自分自身の味を覚えさせたメス穴を、更に躾け、屈服させる。
当の昔に降参してしまっている牝だというのに、情け容赦なく雄の逞しさを叩き込んでいく。
「さて、次はここだぞ」
「ひぐぅぅっ! はっ、はぁっ、うぅ、子宮口、舐るみたいにっ、ひぃ、ひぃぃ、ひゃひぃぃっ!」
「物足りんかもしれんが、我慢しろ。こうして掠めるように嬲ってやると、ほら」
子宮口に敢えて直撃させず、わざと掠めるに怒張が嬲り続ける。
凜花は望んでいる快楽には今一歩届かないもどかしさに為す術はなく、手足を震わせて膣を締め上げ、虎太郎をその気にさせるしかなかった。
言葉にする余裕はなく、泣きながら目だけで必死に懇願するが、虎太郎は笑うばかりで腰使いに変化はない。
「――――あ、ひっ、?」
「くっ、来たな。自分から吸い付いてきたぞ」
「ふひぃぃぃぃいいいぃぃんんんっっ♪」
だが、凜花の意志に応じるように、下がり切っていたと思っていた子宮は更に下がり、子宮口は自分から亀頭に吸い付いた。
もうこれ以上焦らさないで、とでも言いだけに。
精一杯気持ち良くしますから、とでも懇願するように。
もう子宮も貴方のものです、と宣言するように。
凜花が快楽の中で言葉に出来なかった全てを表現する子宮口からのキス。
剛直は興奮し過ぎた牝を宥めるように我慢汁を吐き出すが、何の慰めにもならない。更なる興奮へのスパイスにしかならないだろう。
絶頂に達した凜花は、手足に力を入らなくなり、虎太郎に上体を支えられる形で、びゅーびゅーと潮を噴いていた。
「あっ……かっ……ひあ……へあ……あ……はひゃぁ……」
「意識は、まだあるな。本番はここからだぞ? そろそろ子宮の中に入れてやる」
「う、うふふ、……
「そうだな。だが、孕むまではオレのもの、だろ?」
「は、はい♡ 何も知らなかった癖に、生意気だった凜花を、子宮まで完全に屈服させて、虎太郎さんの女にして下さい♡」
「オレの女には勿論するが、これからも言いたいことはハッキリと言えよ。うっとうしくはあったが、お前の美点だとは思っていたからな」
「……ん、んんっ♪ も、もう、虎太郎さん、御世辞も、上手なんだから♪ 嬉しくて、軽くイっちゃいました♪」
「御世辞じゃねーよ」
「ンンっ、ンひぃぃぃいぃぃーーーーっっ!!!!」
虎太郎の紛れもない本心からの言葉に、凜花の心は蕩けてしまった。
惚れた男に自分自身を認められていた。その事実に喜びを覚え――――その隙を見逃す様な生温い男ではない。
本気汁と我慢汁で塗れた怒張はあっさりと子宮内部へと侵入してしまう。
元より子宮は求めていたものを与えられ、悦びを電流として全身に発したが、隙だらけだった凜花にとっては、どうしようもない不意討ちだった。
「ふぅぅ、ふぅぅぅぅ、ふふうぅぅううぅぅんんんんっ!!」
歯を喰いしばり、必死で絶頂を受け流そうとする我慢の表情。
「イク、イクぅ! そんなっ、熱いの、出されたら、イクゥゥゥウウウゥっっ!!」
必死の我慢をカウパーの迸りによって、あっさりと崩壊させられた敗北の表情。
「う゛う゛うぅぅううぅっ、イグの、止まらないっ! あ゛あぁぁあぁっ!!」
抗いようのない絶頂と快楽の波に、性の何たるかを心得た雄に翻弄される表情。
子宮の壁から天井から、悉くを優しく嬲られた凜花は、ありとあらゆる快楽の百面相で虎太郎を楽しませる。
アクメに抗いきれず、痙攣を抑えようと強張った手足であったが、腰は嬉しい嬉しいと戦慄きを抑えきれず、握り丸まった手足の指は深い絶頂を男に知らせていた。
「も、もう、む、ムリっ! もうダメっ、イクっ! イクイクっ! イクの止まらないぃぃいぃいいっ!!」
「トドメだ。子宮でキッチリ受け止めて、アヘ顔でアクメ晒しちまえっ」
「は、はひぃぃ! 凜花の生意気マンコっ! 虎太郎しゃんの、
「…………っ!」
「あぐぅっ、きた、きたぁっ! 種付けザーメン、きたぁぁああぁぁぁああっ!!」
処女喪失の時とは比較にならない深い絶頂と精液の量に、凜花の精神はぐずぐずに崩れてしまいそうだった。
「イっでるぅ! イッでるイっでるぅっ! アクメェっ! オルガァっ! キメでるぅぅぅっ! あ゛ぁ゛ああぁ゛ぁぁんっ!!」
「まだまだイかせてやるぞ」
「あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、
「駄目だなんて、おかしなことを。凜花の子宮とマンコは悦んでるぞ?」
「こ、壊れ、壊れるぅぅ! もう、私の女、ボロボロ、ですぅっ!! ゆるし、許して、ひぃぃっ、あ゛ぁ゛っ、ザーメンでまたイクゥゥゥっ!!」
「壊れても面倒見てやるから安心しな」
「んぶっ!? んちゅっ! じゅるりゅ、んれら、んんんんンっっーーーーー!!」
虎太郎の大量のザーメンに、完全に屈服、征服させられ、子宮から身体全体を専用に書き換えられる恐怖と悦びを掻き消すように、自分から舌を突き出し絡め合う。
獣のような喘ぎ声に唾液の混ぜ合う音を交じらせ、何度も何度もアクメを叩き込まれた。
ようやく射精と痙攣を終えた剛直は、自らの体液を凜花のメス穴に塗りたくり、自身の征服した証を刻み込みながら引き抜かれていく。
それだけで、またも絶頂に達した凜花であったが、喘ぎ声を上げる余裕すらない。完全に忘我の状態に堕ち込んでいた。
空気に晒された怒張は濃厚さを物語る精液の糸が途切れず繋がり、開き切った秘裂からは、ごぷりと音を立てて精液が溢れ、凜花の尻を伝い、浴槽の壁を伝い、湯の中に流れていく。
「さて……」
「はぁ、はあ……ふぅ……ひっ……はひっ…………あ、あぁっ……♪」
虎太郎は、まだ絶頂の余韻から立ち直れない凜花の身体を支えながら、その顔の前で精液と愛液に塗れた肉槍を見せつける。
全く萎えない、絶倫そのものを具現化したかのような一物は、絶頂に翻弄された凜花に存在を認識させるには十分過ぎる威力を秘めていた。
凜花は差し出された怒張をぼんやりとした表情で眺めていたが、漏らした吐息はうっとりと蕩けていた。
虎太郎の逞しさ、彼を興奮させられる彼の雌としての自信、何よりも、心が蕩けるような、魂が砕け散るような快楽がまだまだ待ち構えている現実に瞳を潤ませた。
「凜花、今日が何曜日か、分かるか?」
「はへ……?」
唐突な、全く意図の読めない質問に、凜花は怒張に釘付けになっていた視線を外し、虎太郎に目を向けるが、くつくつと笑うばかりで答えはくれない。
アクメでぐずぐずになった思考で、凜花は必死に考えたが、一向に答えは出てこない。
たっぷりと時間を掛けて、曜日だけは思い出したが、それ以上はまともな思考など不可能だった。
「……きん、ようび、れふ」
「そうだ。そして、五車学園も基本は土日休みだ。まあ、お前のように自主訓練で登校する奴もいるし、オレのように終わらん仕事をしに行く奴もいるし、任務で行かなきゃならん場合もある」
「……?」
「だから、ちょいとばかり無理をすれば二日は休めるってことさ」
「……っ」
虎太郎が何を言いたいのか理解し、凜花の身体は恐怖か期待によって震えた。
「どうする? お前が望むなら、二日は互いに楽しめるぞ?」
「でも、虎太郎さんに、迷惑が……」
ようやく冷静になりつつあった思考で、凜花は後ろめたさから口ごもる。
正直に言えば、二日の時間で思う存分、自分を楽しんで貰いたかったが、わざわざ仕事を溜めさせてまで、という遠慮があった。
「気にしなくてもいい――――それにお前、負けず嫌いだったよな?」
「た、確かに、そうですけれど……、そこまで我が儘ではないです」
「いいのか? ゆきかぜや凜子に負けて?」
きゅっ、と凜花は唇を噛み締める。
ゆきかぜや凜子に負けるつもりなんてない。そもそも、惚れた相手は虎太郎だ。勝ちも負けもない。彼の女として、三人で愛してもらうだけだ。
だが、凜花も理解している。女として負けておらずとも、性の経験も、技も劣っている。つい先日まで処女だった自分に勝ち目などない。
「オレなら二日もあれば、ゆきかぜと凜子に負けにない程度には、仕込んでやれるがな」
「…………ゴク」
凜花は、凜子から聞いていた。それも今日だ。記憶に新しい。
奴隷娼婦として捕まり、どんなものを見て。どれだけのものを味合わされたかを。
どのような性技も身に付け、どのような性癖にも応え、どのような下衆であっても快楽として受け入れる魔界の高級娼婦。
その過程。一ヵ月の間、訓練と称して二人の身に降り注いだ凌辱は、話として聞くだけで、どれほど苛烈で屈辱だったのかを。
凌辱を乗り越え、教え込まれた性技すら虎太郎への奉仕として使用する、女として成熟した二人に負けない程度に仕込むなど、何をされると言うのか。
恐怖か、期待か。生唾を飲み込む音だけが浴室に響き渡る。
「さて、答えはどっちだ?」
「………………き、決まってます。虎太郎さん専用に相応しい、ドスケベで、床上手な女に仕込んで下さい♡」
「決まりだな。まずは口の使い方から教えてやる」
凜花は、瞳の奥にハートマークを浮かべながら、完全に屈服したメスの表情で我が儘を口にする。
虎太郎もまた、女を征服した満足げなオスの表情を浮かべて、凜花の頭を撫で、肉棒を震わせた。
暫らくして、じゅるじゅる、ぴちゃぴちゃと控えめな水音が響いたが、虎太郎の手腕によるものか、僅かな時間で娼婦顔負けの恥知らずで熱の籠った口奉仕の音へと変化していった。
週末の虎太郎宅には、女を自分専用に仕込む男の愉悦と、男の専用になる女の悦楽で満たされた。
唯一の問題は、週明けの学園で虎太郎の、仕事を溜めるんじゃなかった、という悲鳴が響き渡る訳だが、自業自得の別の話である。
―――――
――――
―――
――
―
魔都・東京。
人魔を問わない様々な個人、集団の入り混じる都内において、最も近代的な行動を取れる組織は何処か。
闇の世界の住人に問えば、一様にこう返すだろう。
――――米連以外に在り得ない、と。
米連は数十年前の半島紛争と呼ばれる中華連合との代理戦争の頃から、魔界技術に注目していた。
多くの魔界都市が点在し、多くの魔界技術を獲得している日本にも、技術簒奪のための拠点となる支部や基地をいくつも所有している。
東京郊外にも、米連の拠点は存在する。
オレンジインダストリー日本支部。
表向きは米連に本社を持つ最先端技術を取り扱う企業であるが、実態は米連のDSO――防衛科学研究室の略称である――に属する国防総省の息のかかった機関である。
但し、オレンジインダストリーはDSOに所属していながら独自の運営を続けており、その思惑を知る者は極々一部に限られている。
日本支部の地下十階。
最新機器のメンテナンス、独自技術の研究を目的とした地下は縦に吹き抜けられて作られており、空中には幾本もの通路が繋がっている。
ただでさえ厳重なセキリティの敷かれた施設の中にあって、更に様々な防衛対策の施された一室は、部屋の主の警戒心を現しているかのようだ。
「………………」
空間ディスプレイから漏れる光だけで照らされた薄暗い部屋の中で、主は椅子に腰かけて足を組み、何事か思案しているようだ。
対魔忍装束と似て非なるコート型の戦闘装束。米連が開発した特殊繊維で編み込まれたそれは、切断、銃撃、衝撃による攻撃に対して高い防御性能を発揮するものだ。
その時、壁越しに部屋へと近づいてくる気配に、主は思考を中断する。
「お久しぶりです、所長!」
「失礼します」
「久し振りね、アスカ、麒麟」
部屋に入ってきたのは二人の少女だった。
主が今まで引き締めていた表情が緩む辺り、主にとって二人は身内に相当する人物のようだ。
アスカと呼ばれた少女は背が高く、麒麟と呼ばれた少女はやや小柄だ。部屋が薄暗過ぎて、それ以上の人物像は見えてこない。
「所長ったら、久し振りに帰ってきたと思ったら、挨拶もなしに部屋へ引きこもっちゃうんですもん。心配しましたよ」
「ごめんなさいね。ニューヨークから急ぎで帰ってきたものだから、ね」
「急ぎで……? 何かあったんですか?」
麒麟の疑問に、主は僅かながらに思案を見せたが、まあいいでしょうと部屋の中にあったモニターに、今し方まで眺めていた情報を映し出した。
「これって、ミラベル・ベル?! 何でストームキャット部隊の隊長の情報が? しかも、専用機の弱点まで……!」
「こっちは、確か雇われ魔族のアルベルタさん、ですね。これは一体……?」
「数週間前に、米連のあらゆる機関に一斉送信された情報よ。しかも、ある特務機関の行っていた計画内容と一緒に、ね」
恐るべきことに、この情報は数百を超えるIPアドレスを経由しており、差出人は不明のままらしい。
今や、この情報のお陰で、米連内部は大荒れに荒れている。
国務省と国防総省は互いの責任追及に躍起になっており、大統領とそのシンパも巻き込んで真っ二つに割れている現状のようだ。
どうやら、虎太郎の思惑通りに事は展開しているようだ。
「責任追及と同時に、犯人探しにも躍起になっているわ」
「米連の方の計画は日本で行われたわけですから、犯人も日本に……?」
「てことは、犯人探しも私達に……?」
「その可能性は高いわね。面倒な話だわ。私達は私達で、目的があるというのにね」
三人には米連とはまた違った思惑があるらしい。
アスカと呼ばれた少女は犯人に対する怒りから忌々しげに表情を歪め、麒麟は姿を現そうとしない犯人に難しい表情を浮かべていた。
「じゃあ、私はまた暫らく留守にするわ。よろしく頼むわね?」
「ちょ、ちょちょ、もう行っちゃうんですか、折角、会えたのに……」
「悪いわね。次に戻ってきた時には、三人で食事でもしましょう?」
「もう、そんなこと言って、食事の途中でいなくなっちゃうんでしょう?」
主は駄々を捏ねる娘を見守る母親のような笑みを浮かべ、麒麟は癇癪を起した姉を窘めるようにアスカの腕を引く。
二人も主の忙しさを知っているのだろう。それ以上は何も言わず、部屋から立ち去る主をただただ見送るだけだった。
(こんな手段、あのアサギやさくら、紫が思いつくわけがない。そうなると限られてくるのは、九郎か不知火辺りでしょうけど……)
主は対魔忍とどういった関係にあるのか。
首領であるアサギ、その脇を固めるさくら、紫。最古参である九郎や不知火についても知っているようだ。
しかし、彼女の知る人物と、今回行われた手段では、どうしても結びつかない。
九郎ならば非常時にはこの程度の手段を実行するであろうが、今現在は日本国内でその存在は確認されておらず、海外での活動が中心と予測されている。
不知火に関しても、ここ数年、その勇名も一切音沙汰はなく、一部では魔族側の手に堕ちていたのではないか、と推測されている。
どちらにせよ、今回の一件の犯人からは外れるだろう。
なら、一体誰が。そこまで考えた瞬間、彼女の脚が止まり、サーっと顔から血の気が引いていく。
――彼女の脳裏に浮かんだのは、かつて自身とアサギを囮に使い、己はあっさりと標的の暗殺を成功させた少年の顔である。
忘れよう筈もない。
大量の敵に囲まれ、不本意ながらアサギと背を預け合い、辛くも窮地を脱した自分達を、斬り落とした標的の首を振り回しながら凄く良い笑顔で迎えた、ある意味でエドウィン・ブラックにすら勝る外道少年を……!
因みに、彼女とアサギが敵に見つかったのは、いがみ合っていた二人に嫌気が差して、少年が打ち上げた照明弾のせいである。
言わずもがな、その後、事実を知った二人に少年がリンチにされたのは言うまでもない。その折、少年はオレは悪くねぇ、オレは悪くぬぇぇ、と叫んでいたが二人の耳に届く筈もなかったが。
(頭、痛くなってきたわね…………)
少なくとも、主にとって少年は絶対に敵に回してはならない存在であったものの、少年の本性を知らないアスカや麒麟は単なる捕縛対象か殺害対象としか見做さないだろう。
娘同然の二人であったものの、自分とは違う脳筋具合と少年との相性の悪さを思い、頭痛は酷くなる一方だった。
(けど、これは好機よ。あの坊やを味方に引き入れるか、利用できれば……でき……できれば、……でき、できるの?)
一抹の不安が頭脳を過ったものの、ぶんぶんと頭を振って、振り払う。
珍しい彼女の仕草に、廊下を行く研究員たちは挨拶すら忘れて、茫然と擦れ違うだけだった。
彼女の顔には虎太郎と同様に、自らの素性を隠す仮面で覆われていた。
後に、仮面の対魔忍と呼ばれる女傑である。