ランキングに大分余裕が出来てきたので、コツコツ本編を書きました。
ふふふ、これならば凜子カードゲットできるはず(慢心)
じゃけん、御館様には苦労してもらおうねぇ(ねっとり)
『出来る男って、人の倍くらいは苦労してるよね? 苦労してるって言って(震え声)』
「もう、ちょっと、もうちょっと…………あ゛ー!」
五車学園の地下深く、極々一部の者しか知らない救出班のミーティングルームに音が鳴り響く。
まるでクイズで不正解の解答をしてしまったかのようなブザー音だ。その音にゆきかぜは頭を抱えて、叫び声を上げた。
『残念でしたね。では、再度挑戦しましょう』
「もー、やだよー、もーやだよー」
「泣き言ぬかすな。この程度、出来るようにならなけりゃ話にならねぇ」
『口は悪いですが、こればかりは虎太郎と同意見です。何事も、トライ&エラーですから。千里の道も一歩からと言うでしょう?』
正式に救出班へと配属されたゆきかぜは、虎太郎の考えた訓練メニューを熟していた。
対魔忍の発現する異能系忍法は大半が陰陽五行、五大元素を代表するように5つの属性に分けられる。
即ち、火遁、水遁、木遁、土遁、金遁である。
それ以外にも、ゆきかぜの雷遁、凜子の空遁、さくらの影遁等に加え、どれにも分類できない不死覚醒、
特に陰陽五行に分類される忍法は、それぞれの得意とする分野がハッキリとしている。
火遁は極めて高い攻撃能力が売りであり、大抵が殲滅・破壊工作などが専門となる。
水遁・木遁は応用範囲が広く、搦め手や不意討ちに向いており、諜報や情報収集系の任務を言い渡されることが大半だ。
土遁・金遁は防御能力に秀でており、前線を支える盾。撤退などにおいて殿を務める場合が多い。
ゆきかぜの雷遁は火遁をも超える火力が売りだ。
反面、強大過ぎる力は使用者の制御を受け付けなくなる場合も少なくない。
ゆきかぜの専用武器であるライトニングシューターも強大過ぎる彼女の力を制限する
それ故、虎太郎はゆきかぜを火力方面で成長させることはしなかった。
伸びる部分は放っておいても伸びる。ならば、当人が気にしていない方面を伸ばす。
即ち、制御と応用範囲の幅を広げること。今も続けている訓練も、その一環であった。
「ちょっと、凜子ちゃん!?」
「あーもう、凜花、いい加減に勘弁してくれ」
その時、ミーティングルームのロックが外れ、対魔忍の二凜が入ってくる。
普段から仲の良い二人であったが、今日は様子が違った。
凜花は凜子に噛みつくような勢いで喰ってかかり、凜子は呆れた様子で凜花をあしらっている。
「………………いや、あの、え? 凜花が、どうしてここに入れんの?」
「ああ、それね。私と凜子先輩がアルに頼んだの。凜花先輩だって、もう虎太兄の女の子でしょ?」
『ええ。虎太郎の魔の手にかかった哀れな犠牲者です。仲間外れはどうかと思いましたので』
「オレに許可なく勝手なことするの止めてくれませんかねぇ?!」
自分の城への入場許可証を勝手に発行され、虎太郎は堪らずに絶叫を上げた。
情報は漏れないに越したことはない。この部屋を知る人間が増えるということは、同時に情報が漏れる可能性が高くなるということなのだ。
アルフレッド、ゆきかぜとて、考えなしに凜花を招き入れた訳ではない。
己の慕う人間が貶されれば、直情傾向の凜花の性格上、虎太郎の本来の姿を口にしてしまいかねない。
虎太郎の傍に居させることで感情を押し殺す重要性、ゆきかぜや凜子の隣で仮面の被り方を学ばせるつもりなのだ。
万が一、ゆきかぜや凜子、凜花、不知火が敵の手に堕ちたとしても、苛烈な拷問と調教の末に虎太郎の情報を漏らしてしまうよりも、虎太郎の救出の方が速い、という計算もあった。
とは言え、虎太郎もそれ以上の言及はしなかった。
凜花の表情が暗く落ち込み、捨てられた子犬の表情をしていた。力なく垂れ下がった犬の耳と尻尾まで見えてきそうだった――――からでは断じてなく、単純にアルフレッド、ゆきかぜと同じことを考えていたからだ。
咎めたかったのは一言も連絡せずに行動に移したことであって、行動自体に問題を見出した訳ではない。
「……で、何があった?」
「998勝1036敗……これが何の数字か、お分かりになりますか?」
「知らねーよ。どっかの球団の戦績かなんか?」
質問に質問で返され、虎太郎は困惑気味に返した。推察するには余りに情報が少なすぎる。
凜花の話は、こうだ。
凜花と凜子の二名は、よく模擬戦を行うらしい。互いの実力を高めるためのものだ。その通算が、凜花の語った数字の正体である。
ついこの間までは、ほぼ拮抗した数字だったのに、ここ最近は凜花の負けが込んでいる。
唐突な変化に、凜花は戸惑いを隠せなかったものの、ある事実に行き当った。
――この数字に変化が起き始めたのは、凜子がヨミハラから帰ってきた辺りだ。
そうなれば、変化をもたらしたのは虎太郎と考えるのは当然だろう。
凜花の推察は正しい。ゆきかぜ同様に虎太郎は凜子に指導を行っている。
逸刀流の元締めにして飛び抜けた才を生まれ持った凜子に、何を今更と考える者もいるだろうが、虎太郎には数多の死線と修羅場を潜り抜けた経験値があった。
虎太郎が鍛えたのは、思考の瞬発力、戦闘における考察力。
既に飛び抜けた才能、飛び抜けた実力を持っていた凜子は、これまでの戦いは何も考えずに鍛え抜いた力と技だけで潜り抜けてきたと言っても過言ではない。
それはそれで恐ろしい話であるが、彼に言わせれば、無駄が多すぎる。折角の才能も、実力も無駄使いしているようにしか見えなかった。
戦いの中、初見の敵に対しても能力から何が可能であり、何が不可能なのか。何が強味であり、何が弱味となるのか。窮地に立たされてなお立て直しが可能なほどの看破と推察。
ただの力押しでは実力の拮抗した者、単純に自身よりも強い者には対抗できない。しかし、思考速度の差と相手よりも高い考察能力は立場を逆転させかねない。
相手よりも強くなることは重要だ。それが最も手っ取り早く勝つ方法と言えよう。
けれど、人生は常に準備不足の連続である。どうしようもない強敵、どうしようもない状況というものが降りかかってくる。それを潜り抜けるための武器を、虎太郎は凜子に与えたのだ。
もっとも彼に言わせれば、凜子は卵から孵ったばかりの雛鳥に過ぎない。今後も経験を積ませる必要がある。
しかし、結果は出ているようだ。凜花との訓練が、それを物語っている。
「ズルいです! 凜子ちゃんやゆきかぜちゃんばっかり!」
「そうは言ってもな。正式にオレの部下になった二人は育てなきゃ、自分の首を絞めかねないんでな。お前は、オレの部下じゃないし。勝手なことしてもなぁ」
「そんなことを言って……貴方のことだ、面倒なだけだろう?」
「それ以外の何があるって言うんだ、お前は。これ以上、仕事が増えてみろ。オレ、死んじゃうぞ?」
とんでもなく軽い口調であったものの、内容はとんでもなく重い。
虎太郎の実情を知る三人は、曇りのない虎太郎の目を見て、さっと目を逸らした。流石にこれ以上、虎太郎の仕事を増やすのはヤバいと感じ取っている風ではある。
「うぅ……うぅ~~~~~~~ッ」
「そんな顔をされてもなぁ……」
涙目になりながら、くぅんと鳴き声が聞こえてくる子犬の表情になった凜花に、虎太郎は頭を掻く。
別段、指導や指南は問題ではない。既に仕事は限界ギリギリだが、ゆきかぜや凜子に回す時間を凜花にも回せばいいだけだ。
ゆきかぜも凜子も、虎太郎が考えていた以上に優秀だった。少なくとも才能という面に関しては、彼自身を大きく凌駕している。つまり、二人を育てるのに、余裕は生まれ始めているのである。
問題があるとするならば、凜花に目を掛けている連中が存在している点か。
凜花は優秀な若者だけあって、一部の上忍からの信頼は非常に厚い。そんな彼女が急激な成長や変化を見せれば、下手な勘繰りをされかねない。
そこから自身への繋がりを見つければ、何を言われることやら。ただでさえ組織内で蛇蝎の如く嫌われていると言うのに、これ以上の軋轢など御免被りたいのが本心であった。
「全く、仕方がないな。…………ほら、虎太郎」
「これは…………まさかっ!?」
「ふふ、私達三人で頑張ってみたんだ。まあ、ご希望に沿うほどの成果ではないだろうが、無いよりはマシだろう?」
「なん……だと……?」
凜子が手渡してきたのは、書類の束だった。
虎太郎が、本日中に片付けなければならない書類の一つであったのだ。
間違いはあるが、初めてにしては上出来だ。
本来、学生の身分では任される書類は報告書程度のものなのだが、明らかに毛色の違う仕事だと言うのに、よく頑張ったものだ。
「……凜子」
「ん? ……ひゃあん! だ、抱きしめてくれるのは嬉しいが、尻を撫でるなぁ!」
「……凜花」
「あ、は、はい。うぅ、あの、乳首を弄りながら腰に手を回すのは……」
「ゆきかぜ」
「あー、はいはい! 今度は! 今度は私の番だよね!」
「お前等――――好き!」
「あ、こ、虎太兄、苦しいよ……」
虎太郎は、凜子を抱きしめながらスカートの上から尻を撫で、凜花の腰に手を回しながら制服とブラの上から乳首を弄り、ゆきかぜを力の限り抱き締めながら額にキスをした。
今、虎太郎の胸中にあるのは、対魔忍になってから初めて自分の仕事が楽になったという感動だけである。三人に対する感謝ではない辺りが彼らしい。
「凜子。今度、お前の好きなアナルでひんひん泣かせてやるからな」
「いや、その……好きはぁ、好きだぞ? ……し、しかし」
「凜花。お前の乳首をもっと成長させて恥ずかしい形にしてやるからな」
「えぇぇ……今の時点で、ブラに擦れて……」
「ゆきかぜ。立派なY豚ちゃんにしてやるぞ」
「私、虎太兄とはイチャイチャしてる方が好きなんだけどなぁ……」
『最低のご褒美ですね。まあ、三人が喜ばれるなら、私から言うことはありませんが』
「「「う、嬉しくなんて……」」」
凜子は俯き、凜花は頬に手を当て、ゆきかぜはニヤけようとする表情を必死に抑えながら。
三者三様の反応を見せながらも、一様に頬を染めている。もう、すっかり虎太郎の女っぷりが板についている。
「ありがとう……本当に……本当に、「ありがとう」……それしか、言葉が見つからない……」
「虎太兄が、これからラスボスに最後の一撃を加える主人公みたいな科白を……!」
「しかもこれは、私達は死んだことになってるレベルで感謝されているぞ?!」
「虎太郎さん、そこまで……!」
「だってー! 今までこういうことしてくれた奴いないんだもんー! でも、それはそれとして間違ってる所がある。書類は提出する前にちゃんと確認しようね? 金の桁、間違えるとエライことになっちゃったりするからね?」
「「「あっ、ハイ」」」
感謝を伝えつつも指摘すべきところは指摘する。
急転直下で変わる虎太郎の表情と態度に戸惑いながらも、辛うじて返事だけはした。
もう、その後は酷いものだった。
三人の完成させた書類を机の上に置くと、両手を合わせて拝む。このまま神棚にでも飾りかねない勢いだ。
――――しかし、幸せな時間というものは、得てして長く続かないものである。
『あっ…………………………虎太郎。まことに言い難いのですが、アサギ様から呼び出しです』
「…………………………」
(((あっ、表情筋と目が一瞬で死んだ)))
彼にしては大層なハシャギようであったのだが、アサギからの呼び出しという言葉を耳にした時点で、虎太郎からあらゆる感情が消えていた。
またしても厄介事である。しかも、アサギからの呼び出しである以上、急を要する実働の任務で、ほぼ間違いない。
最早、虎太郎は何も言う事もせずに、トボトボとミーティングルームの出入り口へと向かっていく。
「こ、虎太兄、大丈夫!?」
「助力は得た。大丈夫だよ、ゆきかぜ。オレも、これから頑張っていくから」
「な、何だか今から消えてしまいそうな漢の笑みを浮かべているが、本当に大丈夫か!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「本当?! 本当に帰ってきますか!?」
「I'll be back」
「こ、こた、虎太兄! 虎太兄ィィイイイイィィイイィイイっ――――!!」
―――――
――――
―――
――
―
「あ……え? んん? ……虎太、郎……?」
呼び出しにて向かった会議室は多くの中忍、上忍が集っていた。
無言のまま会議室に入った虎太郎は、最後列に立つ。最前列には椅子が並び、名うての上忍たちが腰を下ろしている。その中には、神村や佐久の姿があった。
隣に立っていた女性は、虎太郎の姿を見ると声を掛けようとしたが、驚きの余りに戸惑い気味であった。
彼女の名は文月。
暗殺部隊に属する対魔忍であり、人前に現れること自体が稀でもある。
そして、とある理由から対魔忍内部においてはみ出し者、嫌われ者でもあり、似たような境遇にある虎太郎とは多少の交流があった。
対魔忍装束の上から外套を羽織り、左腕を隠した彼女は“隻腕の闇鬼”と恐れられている。
「ん? なんだ、文月か? どうした?」
「ッ!? …………いや、な、何でもない」
「そうか? おかしな奴だなぁ、ははは」
(え? あれ? アレが人の顔……?)
口調は普段と変化はなかったものの、虎太郎の顔は文月が人の顔と認識できない程、顔面崩壊状態だった。
何と言えばいいのか。最早、子供のラグガキのような有り様である。円の中に点を三つ打って、人の顔! と言い張っているかのような顔だ。
これでは誰かも認識できない、どころか魔族の方がまだ人間に近い。
それからアサギが来るまでの間、文月の心中は穏やかではなかった。
時折、文月と虎太郎に侮蔑の視線を向けてくる輩もいた――からではない。そんな輩は虎太郎の顔を見るなり、ビクぅっと身体を震わせてそそくさと奥へと向かっていくだけだ。
歴戦の対魔忍ですら恐怖を覚える状態の虎太郎の隣で立っているからこそ穏やかではないのだった。
チラチラと虎太郎を横目で確認しては、身体をビクつかせて目を逸らすを繰り返し続ける。
「さて、皆、揃っているな。では、緊急会議を始める」
最後に入ってきたアサギ、さくら、紫の三名が入室し、会議が始まった。
内容は下忍の死亡率についてだった。
ここ最近、魔族・米連との小競り合いが激化の一途を辿り、下忍の死亡率が跳ね上がっている。その要因の一つとして、下忍の酷使も問題に上げられた。
任務への出動率の高さは、下忍、中忍、上忍の順で下がっていく。
通常の会社でもそうであるように、階級や肩書きが高くなるにつれて、仕事の内容が難しくなる反面、直接熟す数は減っていく。対魔忍でもそれに変わりはない。
その為、過労から負傷率、死亡率の上昇傾向が見受けられたのである。
一応、この一連の小競り合いも終息には向かいつつあるものの、魔族・米連との闘争が完全に終わるわけではない。
「そこで、現在任務中にある下忍を除いて、一週間の休暇を与える。任務中の者も戻り次第、休養を取らせようと思う」
「…………アサギ様。失礼ですが、その間の下忍の任務等は」
「貴方達に行ってもらう」
その言葉を聞いた瞬間に、会議室全体がどよめきで揺れる。
今更、下忍の任務など、と考えてはいたようであるが、不満を口から漏らす気はないようだった。
実際に部下や仲間、目を掛けている者の疲労は著しいのだ。任務の際にも精細さに欠き、本来の彼等なら在り得ないミスが目についている。
対魔忍の厳しい台所事情は現場で動いている者の方が理解できている。各々、不満はあれど、口を挟むつもりはないらしい。
「それからもう一点、問題がある」
アサギが上げた問題点とは、政府からの指令だった。
その数、何と40件。何処でどう命令が止められていたのか。馬鹿げた数の指令が、一気に流れてきたことである。
幸いなことに1件1件の任務は軽い。
ただ、全ての任務が1週間後が期限というふざけた状態であった。
明らかに、対魔忍という組織の足を引っ張ろうとする何者かの意志が働いているかのようだ。
「虎太郎、これは……罠じゃ」
「ああ、かもなー」
「そんな気軽に、言う、こと……」
余りにも軽い調子で応えた虎太郎を咎めようとした文月であったが、口調は尻窄みになっていく。
当然である。今まで一度足りとて見たこともない、彼の満面の笑みを見れば。
(あ、これ駄目だ。もう完全に関与する気ない)
(ふ……勝った)
1週間の休暇を何もしないまま勝ち取った虎太郎は、会議室で会議中だと言うのに煙草を加え、火を付け始める。
周囲の対魔忍たちは咎めるように彼を見たが、何の効果もなかった。
(しかし、こんなにオレにとって都合の良い事ばかりが起きるものか? これは……)
既に休暇の予定を立てつつあった虎太郎であったものの、一抹の不安を覚え、一時思考を中断する。
如何にアサギとは言え、これだけの大勢の前で口にした言葉を反故にするとは思えない。
思えないが、あの任務から何から甘えてくるアサギが、オレを遊ばせておくなどありえるか? という考えは拭えない。
(いや、そんな、まさか…………ハっ!?)
その時、ある人物と目が合った。
――――それは、自身と同様にアサギに甘えられている水城 不知火その人である。
彼女の目は、それはもう凄まじい勢いで死んでいた。正に死んだ魚のような目だ。
その死んだ魚のような目で、気の毒そうでありながらも、獲物を狙う捕食者の執念が見て取れる。
(ま、まさか、そんな馬鹿な……!)
『貴方だけは、逃がさない。道連れよ。生き地獄へ、ねぇ!!』
(と言う事か!? バ、馬鹿なぁぁぁああぁぁぁぁぁあああっっっ!!!!)
実際に、そんなことを不知火が考えていたかは分からない。
彼女の性格を考えれば、むしろ巻き込まれようとしている虎太郎に対する哀れみしかないだろう。
だが、既に虎太郎は被害妄想の塊となっている。彼の視点では、不知火の表情は死んだ魚の目のまま悪女そのものに表情を歪めていた。
「それから、本日付けで弐曲輪 虎太郎を下忍から中忍へと昇格する」
(ヤッダバァァァァアアァァアァァァ!?!?)
「それは……」
(おお、いいぞ!! そこだ! 不満を露わにしろ! オレの事嫌いなヤツ! 噛みついてやれ!)
「不知火、蘇我、由利、穂村、峰麻、蓮魔等からの推薦及び彼自身の功績もある。何か問題でも?」
「………………」
(どうしてそこで諦めんだよぉぉぉ!! 諦めんなよぉぉぉ!!!)
不知火を筆頭とした数多くの推薦とあっては、虎太郎を欠片も認めていない者たちであったとしても易々とは噛みつけないようである。
それに加えて、実力を認められたというよりも寧ろ、長年仕えた故の御義理程度にしか思われていないのだろう。それ以上、何も言及するものは居なかった。
「弐曲輪、貴様からも何かあるか?」
「はわ……はわわ……」
「何 か あ る か ?」
アサギに凄まれ、虎太郎の目は情けないほどに泳ぎまくる。
決してアサギを怖れているのではない。休暇がなくなること、中忍になって実働任務の難易度が上がることが、死ぬほど嫌なのである。過労死に近づくから。
こうなれば、自身を中忍に推薦した者達から、推薦を取り消させるしかない。
虎太郎は、さきほど名前の上がった者に対して必死で視線を送る。
蘇我を見れば、いい笑顔で、ぐっと親指を立てて返されて、親指をへし折りたくなり。
由利を見れば、無表情ながらも頷いており、その顎にアッパーカットを叩き込みたくなり。
穂村を見れば、両手を合わせながらにっこりと微笑まれ、彼女の作成した書類に火を放ちたくなる衝動に駆られ。
蓮魔を見れば、不承不承といった表情ながらも口元に浮かんだ笑みに、殺意すら抱き。
不知火、峰麻に至っては目を合わせようとしていない。
逃げ道など完全に塞がれていた。
「ふ、ふぐぅ……は、ハハ、中忍拝命、つ、謹んで御受け致しますぅ……ふぐぐぅぅぅぅーー!!」
(弐曲輪め。これは名誉なことだと言うのに……全く!)
(うっわぁ……ガチ泣きだよ、アレ。コタ君ェ……)
彼が中忍となった瞬間、彼の表情は涙に濡れ、声は大層震えていたそうであった。
―――――
――――
―――
――
―
「あ、虎太兄――――の目が死んでる! ……のは何時ものことだけど、お母さんまで?!」
「おばさまに、一体何が……!?」
「不知火さんが、そんな……!」
「ふっ、お前等がオレをどういう評価をしているのか、よく分かるぜ」
ミーティングルームに戻ってきた虎太郎と不知火の姿に、三人は悲鳴のような声を上げた。
誰一人として虎太郎の心配はしていない。まーた厄介事押し付けられたんだ、と分かり切っているからだろう。
会議が終了し、虎太郎と不知火は会議室に残るように言い渡された。
そこでのアサギ、紫、さくらの三名からの話は、一週間後に控える40件に及ぶ任務についてだった。
下忍を使えず、難度もそれほどではない任務と言えど数だけは多い――――が、これはチャンスでもあった。
実戦経験の少ない学生たちを投入するにはいい機会であり、中忍上忍を投入し過ぎて五車学園をがら空きにする危険性も最小限に抑えられる。
アサギたちは学生二名、中忍上忍二名からなる
学生には実戦の空気を、中忍上忍には普段組むことのない相手との連携を高める為だ。
そして、不知火と虎太郎に与えられたのは、その際の人員編成と任務の裏取りである。
「……え? えっ?! お母さんと虎太兄だけで40件!?」
「それは、アレだな?! 私達も手伝って構わないんだな!?」
「1週間で40件の裏取り、もう今日はあと10時間くらいですから、ええと、1件辺り……3時間弱?!」
『他の人員は使って良いのですか?』
「使ってもいいけど、オレのスピードについて来れる奴が一人も居ねぇし! 罠だった場合、どうにもならないので結局オレと不知火さんだけだってさ! あははははははは!!」
「ふふ、うふふ、ふふふふふふ」
「「「……っ!?」」」
「しかも、これから人員編成もしなきゃならんのよ! ば~~~~~~っかじゃねぇのぉ!?」
「「「っ?!?!」」」
ケタケタと笑う虎太郎と、もう今にも死んでしまいそうな笑みを浮かべる不知火の姿に、さしもの三人娘も戦慄を禁じ得ない。
「…………アル、対魔忍のリストを用意してくれ。不知火さんに人員編成を任せる」
「そんな?! 虎太兄一人で情報の裏取りするの!? 無茶だよ!!」
「為せば成る為さねば成らぬ何事も! オレとアルならいける! 気がする……!」
「ならせめて、私達を連れて行ってくれ!」
「そうしたいのは山々だが、オレは半人前をオレの手の届かないところに置くつもりはない」
「……うぅっ」
「不知火さんは復帰して日が浅い。実戦にはまだ早いし、新しい対魔忍の人柄までは分からん。リストに能力は纏めてあるが、お前たちにはサポートを任せるぞ」
オロオロとするばかりの三人に反して、虎太郎は必要な道具をバッグに詰めていく。
これからは時間との勝負だ。己の情報収集能力とアルフレッドの情報処理能力をフルに活用すれば、何とか熟せる。
書類などの仕事に関しては、虎太郎が実働任務に入れば自動的に任せられる人物へと配られるようになっている。
普段からそうしないのは、多くの人材を使うよりも虎太郎が一人で終わらせた方が速いからである。
「あ~、つれーわー! 出来る男はつれーわー! ここが違うとつれーわー!!」
自分の腕をバシバシと叩きながら、対魔忍装束へと着替えていく様は完全に錯乱状態であるが、彼にとっては毎度の事である。
「アル、行くゾォォォ!! オレ達の戦いは、これからだぁぁぁぁ!!」
「こ、こた、虎太兄、虎太兄ィィイイイィィィィイィィっっっ!!」
御館様「(錯乱)or(発狂)or(狂気)」
ゆきかぜ「こ、こた、虎太兄! 虎太兄ぃぃぃぃぃ!」
これを今後のテンプレにしていこう!
何だか最近、御館様を暴走させて、ゆきかぜにツッコませるのが楽しくてしゃーないです。
じゃけん、御館様にはズンドコ苦労してもらわなきゃ!(使命感)