※この作品はR-18です。

対魔忍アサギ 苦労人奮闘記   作:HK416

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『彼の苦労は年季が入っている。つまり、ご褒美の方も年季が入ったものもあるということだ!』

 桐生 佐馬斗。

 かつてはカオス・アリーナの専属であった魔界医師であり、アサギ、さくら、紫などに身体改造を施した張本人。

 現存する魔界医師の中でも10本――いや、間違いなく5本の指に入る凄腕である。

 

 性格は傲岸にして尊大。極端に利己的で、他人の話を殆ど聴かない。言葉は通じているが、会話が成立していない状態だ。

 対魔忍がその存在を確認した当初には、ブラック、ひいては朧の部下であったが、利益目的からノマドを裏切る。

 紆余曲折を経て、現在では対魔忍組織の専属医師兼魔界技術研究者でもあった。

 

 とは言え、性格が性格なだけに、ほぼ制御が効かない。

 勝手な医療行為――もう殆ど改造に近い――を施そうとしたり、意図不明の研究を繰り返したり、と元ノマドだけあって倫理観、協調性の欠如は甚だしい。

 

 そんな桐生であっても、唯一、話を聞く人物は対魔忍の中に二人存在する。

 

 一人は紫だ。

 出会った当初から、桐生は紫に並々ならぬ執着を見せていた。

 現在では執着はより一層深いものとなり、桐生本人曰く、愛とのことであるが、真っ当な人間のそれではなくストーカーのそれであった。

 

 そして、もう一人は――――

 

 

「ク、フフ、フハハハハハハハハ――――っっ!!」

 

「――――うっさい」

 

「あっ、ががぁぁ~~~~ッ!!??」

 

 

 ――――たった今、桐生の両膝を銃で撃ち抜いた弐曲輪 虎太郎その人である。

 

 弾丸は関節を壊し、膝裏から抜ける。

 膝関節を破壊されれば、当然立っていられるはずもなく、桐生は顔から地面に倒れ伏して悲鳴を上げる。

 

 

「き、貴様あぁぁぁっっ!! 何をするかぁぁぁっ!!」

 

「あ? 膝撃っただけだけど? ええやん。いつも愛しの(ハニー)に壁の染みにされてるだろ? すぐに傷とか治るだろ?」

 

「ふざけるな! ハニーの折檻には愛がある! お前の無関心な攻撃を喰らって、いいはずがあるかぁぁぁっっ!!」

 

 

 床を血で染めながらのたうち回る桐生に視線すら向けず、虎太郎は煙草に火をつけた。

 断っておくが桐生の言葉は単なる妄言だ。紫の折檻と呼ぶには生温い制裁は、愛に起因するものではなく嫌悪と怒りによるものである。

 

 そうこうしている間にも、桐生の両膝は見る見る内に回復していく。人間ならざる回復力である。

 元々、桐生は純然たる人間であったが、紫の細胞を使って不死覚醒にも似た不死性を得るに至った。

 僅か30秒足らずで桐生の両膝は完治したものの、如何に不死と言えども痛みはある。顔を顰めながら虎太郎を睨みつけるが、視線を向けられた当人は何処吹く風だ。

 

 

「それで、寄生蟲について何か分かったか?」

 

「ふん、貴様から採取した死骸から分かることなど高が知れているが、中々面白い着想のようだな」

 

「…………分かったことだけ話せ」

 

 

 グラムが品種改良を施した寄生蟲は、やはり単なる奴隷調教用の寄生蟲とは一線を画すものであった。

 人の体液に入り込むと強烈な神経支配を開始し、女の場合は強烈な発情を引き起こす。ここまでは従来の寄生蟲と大差はない。

 

 問題は、その後だ。

 虎太郎の体内で見つかった死骸は、神経と癒着した状態で発見された。

 

 まるでアンコウの一種のようだ。

 特定のアンコウはメスの身体にオスが融合し、脳や内臓は退化して最終的には肥大化した生殖器のみとなる。

 もっとも、アンコウの特異な生態は雌雄が出会う可能性が低い深海での環境に適応したもの。寄生蟲のように他者を支配するのが目的ではない。

 

 癒着が進行するにつれて寄生蟲はその身体を変化させ、第二の脳のような役割を果たす。

 肉体、人格に変容を齎して宿主を完全に支配する。宿主は自分が支配されているなど気付きもしないだろう。

 

 

「で、完全に癒着した状態から除去の手段はあるか?」

 

「所詮は蟲だ。仮に補助脳と同じ状態になったところで薬品で殺せばいい。生命力自体に変化はないからな」

 

「宿主に影響は?」

 

「ある筈がない。オレを誰だと思っている」

 

 

 当然だ、とばかりに鼻を鳴らす桐生に、流石の天才ぶりに虎太郎も舌を巻く。

 この天才は、性格は壊滅的だが、魔界医療の腕だけは確か。虎太郎であっても、その点に関しては敵わないと認めている。

 

 

「その薬、早めに作っておけ」

 

「ふざけるな。オレが何故、対魔忍のメス豚オス豚どものために働かなければならん。そもそも、今回の件は終わったのだろう? 何の意味がある」

 

「死んだかどうかは死体を確認できていないから油断はできない。何より、この寄生蟲、他人を支配するだけで終わる程度のもんか?」

 

「――――何だと?」

 

「お前、補助脳と同じ状態になると言ったな。寄生蟲との共生に成功した奴は()()をいくらでも作れるって可能性もあるんじゃないか?」

 

 

 虎太郎の言葉に唖然としながらも、桐生の脳細胞は高速で回転していった。

 

 回収したタブレット端末から回収できた情報に関しては、桐生の解析通りのものだった。

 手にした情報にせよ、桐生の言葉にせよ、どちらか一つのみで済ませない辺りに、凄まじい猜疑心だ。

 

 ただ、虎太郎が気になったのは、コンテナ内に保存されていた食屍鬼の存在だ。

 人でも吸血鬼でもなく、よりにもよって食屍鬼に寄生蟲を使った理由が分からなかった。

 

 食屍鬼は食欲に支配されただけの死体だ。

 理由は定かではないものの、食屍鬼は吸血鬼を襲うことはなく、吸血鬼側も食屍鬼になど気を遣わない。

 元より支配できるものを、わざわざ寄生蟲を使って支配する必要性が何処にあるのか。

 

 行きついたのが、寄生蟲による吸血鬼化、寄生蟲との共生――つまり、グラムの複製を作り出すこと。

 

 食屍鬼をに寄生蟲を宿らせたのではなく、人間に寄生蟲を宿らせた結果、食屍鬼になったのだとしたら。

 そして、寄生蟲の特性を最大限引き出した結果、複製を作れるとしたのなら。

 

 辻褄は、合ってくる。

 

 

「不可能、ではないかもしれん。完全な共生関係を築けば、寄生蟲にも変化が現れる可能性も十二分にある。宿主の体内で寄生蟲が増殖し、補助脳としての機能と吸血鬼の能力が合わされば、或いは……」

 

「どちらにせよ、想像の域は出ないわけだ。実証するにはサンプルを集めるしかないな」

 

「しかし、何故そんなことに気付いた。このオレですら思いつきもしなかったというのに……」

 

「決まってる。そういう輩と殺し合ったことがあるってだけだ」

 

 

 不死、と一言によっても、その不死性は様々だ。

 紫の不死覚醒、ひいては桐生の不死性に関して言えば、単純に死ににくいというだけ。

 吸血鬼の不死性は、生き物として次元違いの再生能力故に、人間から見れば不死に等しいと言うだけ。

 アンデッドやゾンビ、食屍鬼のように、元々死んでいるものの動けるのならば、それはそれで不死と言えるだろう。

 

 虎太郎は、様々な不死の怪物と殺し合った経験の持ち主である。

 そういった連中は、自らの命をストックしたり、或いは肉体を複製したり、或いは他者の肉体を奪うことで不死を実現したり、と発想も実現方法も多種多様であった。

 

 彼からすれば、そんなに死にたくないのかと呆れ返るばかりの連中であったが、人の事は言えないだろう。

 肉体的には死んだというのに、精神力だけで蘇ってきたこの男も、十二分に不死身だ。

 

 もっとも、この男の恐ろしい所は、そういった不死の怪物を、単なる知恵と対策、不死殺しの発想と手段を用意し、鏖殺してきたところであるのだが。

 

 

「………………お前は、いくつ手段を持っている」

 

「さぁな、正確に数えた覚えがないから分からん。それにほら、アレだ。千の手段を用意して、その中で一つでも通用すれば上等だよな」

 

「この、偏執狂め……!」

 

「何をビビってるんだ、桐生ちゃん? だって、殺し合いだぞ? 敗けたら死ぬ。死なない為に死ぬほど準備をするなんざ、誰だってやってることだろうが」

 

「オレは井河 アサギだろうがエドウィン・ブラックだろうが、必要とあらば敵に回す。だが、貴様だけは何があっても敵に回さん!」

 

「そうか。ソイツは重畳。手間が減るのは良い事だ。薬の方は頼むぜー。これからも良い関係でいような、桐生ちゃん」

 

 

 虎太郎は研究室の奥へと逃げるように消えていく桐生を眺め、届いていないのを理解しながら彼の背中に言葉を投げかけた。

 

 誰であっても尊大な態度を崩さない桐生からは考えられない怯えた表情であったが、無理もない。

 桐生もまた虎太郎によって徹底的に叩きのめされた者の一人だからだ。

 彼もまた理解している。自分が生かされたのは、あくまでも魔界医師としての腕を買われたからに過ぎない、と。

 生じる利益と不利益が逆転した時が、桐生の最期なのである。対魔忍との協力関係を築いてはいるが、虎太郎との敵対関係が解除されたわけではない。

 

 

「しっかし、面倒な事だ、全く。こんなことなら、記憶失ったままの方が……いや、そっちの方がもっと面倒事に発展するな、うん」

 

 

 ガリガリと片手で頭を掻きながら、桐生の研究室を後にした虎太郎は大きな溜め息をつく。

 

 死から生還した折り、すっぽりと抜け落ちていた一週間分の記憶は、身体が回復すると同時に戻ってきた。

 其処からの推察、吹き飛ばした自身のセーフハウスからグラムの死体だけが見つからなかった点から、虎太郎は既に次の戦いに目を向けている。

 

 あの自分以外の全てを見下している吸血鬼が、自分を虚仮にされたまま黙っている筈もない。

 奴が来日した目的は不明だが、最悪の場合は本来の目的すら投げ捨てて、対魔忍と敵対しかねないと踏んでいた。

 その際には、寄生蟲の存在は脅威となる。今の内に対策を用意し、凡百の吸血鬼と同じく駆逐するのが理想だ。

 

 

「さて、準備はするだけ、しておくか」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「対象に動きはあったか?」

 

「いや、何もない………………こんな任務に、何の意味が」

 

「言うな。オレも同じ気持ちだ」

 

 

 虎太郎と桐生が寄生蟲について会話をした日の深夜。

 五車町の闇の中で、二人の忍が内心の不満を露わにしながらも一つの任務についていた。

 

 任務の内容は、ある対魔忍の監視。

 ここから推察できるのは、アサギの命によって対魔忍内部の不穏分子を監視だろうが、現実は違っていた。

 

 ――彼等の任務は、他ならぬ井河 アサギの監視であった。

 

 対魔忍は決して一枚岩ではない。

 それぞれの家系、派閥、集団が存在しており、任務の内容が異なるのは当然として、独自の行動を起こす場合もある。

 己自身の正義の実行。組織内部における権力拡大。もっと単純に金銭の為――――理由は様々だ。

 アサギ自身の強さとカリスマによって組織としての対面は保っているが、完全な意思統一は、まだまだ先の話。

 アサギによる意思統一を嫌い、表向きには恭順を示しながら、裏では虎視眈々とアサギの座る椅子を狙う輩も少なくはない。

 

 二人は、そうした者の一人である加藤家に名を連ねる忍であった。

 

 加藤家は代々優秀な金遁使いを輩出してきた名門であると同時に、かつては井河家と敵対していた忍の家系でもある。

 現頭首は今は亡きアサギの祖父と同世代であり、対立を繰り返していた。人一倍、対魔忍を統べるべきは我々という認識が強い。

 その娘である加藤 ひとみは五車学園で教鞭を振るっているものの、アサギと対立することもしばしばである。

 

 不幸中の幸いは、アサギ・ひとみ世代は魔族・米連の横行が激しくなってきた世代であるが故に、対立はしても協力は惜しまない。

 互いの力は、日本を守る為に必要不可欠という認識が強く、それ以降の世代も頭首同士の対立はあっても、個人では何の問題もない付き合いをしている。

 

 問題は、それ以前の世代だ。

 アサギの祖父、加藤家現頭首、ふうま弾正などの世代は、魔族や米連との抗争はあったものの、現在ほどではなかった。

 また政府公認の組織でもなく、対魔忍がそれぞれの家系のやり方で、世に潜む魔や悪人を狩っていた時代の生き残り。

 かつての時代のまま時が止まり、現在の在り方に対応しきれないのは無理はないものの、今現在、現役の対魔忍からすれば、鬱陶しい事この上ない。

 

 正に老害、老醜と言ったところか。

 老い先短いが故に判断能力が鈍り、権力や立場に縋るのも致し方ないが、半端に権力を持っているが故に、下の世代も逆らえないのである。

 

 こうして、二人もまた不本意な任務を強いられていた。

 

 

「アサギ様を追い落とした所で何になる。確かに、加藤家が対魔忍を統べるべきだとオレも思うが、状況が状況だぞ」

 

「分かってる。ひとみ様も、そうお考えだろうよ。だが、頭首殿の命だ。下っ端は下っ端らしく――――」

 

「なん――――ぐっ」

 

 

 今の現状を理解せず、かつての確執と立場に縛られている頭首に対して悪態を吐くことに意識を持っていかれていた二人は、首筋への衝撃にあっさりと昏倒した。

 

 

「お仕事ご苦労さん。……はぁ、佐久に百田、弓走の次は加藤かよ。何でこう、現実が見えてない連中ばっかなのかね。毎度毎度、面倒だ。あの爺様ども死んでくれねーかなぁ」

 

 

 此処に来るまでの間、似たような任務を仰せつかったであろう忍たちを倒してきたらしく、虎太郎は自分の苦労を増やしてる元凶の一つに諦めにも似た呟きを漏らす。

 

 しかし、この程度なら可愛いもの。

 何処かの誰か(アサギの祖父)など、アサギの情報を魔族に流したこともある。かつて、アサギが妖魔として復活した朧の手に堕ちた原因だ。

 度し難い裏切りではないが、現実の見えていない傍迷惑な行為。溜め息の一つもつきたくなるだろう。

 

 哀れな下っ端二人が朝まで目を覚まさないであろうことを確認すると、虎太郎はそれ以上は何もせずにアサギの家へと向かう。

 

 彼は毎回、アサギを監視する者を倒しているわけではない。

 そもそも、こうした監視はアサギも黙認しているし、この程度の監視でボロを出すほどに間抜けな女でもなかった。

 

 ただ、自分とアサギが秘密裏に会う場合にのみ、面倒事を避けるため監視の目を奪う。

 頭首たちは虎太郎がふうまの跡取りであった事実を知っている。そんな彼がアサギと秘密裏に会うなど、厄介事を招くだけだ。

 

 監視を完全に排除した虎太郎は、何の緊張もなくアサギ宅の扉の前に立つとチャイムを鳴らす。

 暫らくして、パタパタとスリッパの音が扉を通して耳朶を打ち、扉が開いた。

 

 

「あら、来たのね」

 

「オメェが呼んだんだろうがよ、オメェがよぉ」

 

「それでも来るのは虎太郎に任せているんだから、驚きもするわ」

 

「嘘つけ。気配で気付いてただろうが」

 

 

 悪戯っぽい表情を浮かべるアサギに、虎太郎は心底嫌そうな顔をする。

 虎太郎に関しては普段通りだったが、アサギは対魔忍としても、その頭領としての仮面も被ってはおらず、井河 アサギ個人としての柔らかな表情を見せていた。

 彼女がこんな表情を見せるのは極々一部に限られているのだが、彼には喜びなど欠片もないらしい。

 

 上がって、と促すアサギに言われるがまま、虎太郎は後に続く。

 

 彼女は学園長としての正装でもなく、対魔忍としての装束でもない、薄い橙色のニットワンピースに黒いストッキングを履いた部屋着姿。

 恐らく、妹のさくらしか見た事のない、気を張っていないアサギ本来の姿だ。

 

 

「取り敢えず、夕食にしましょう。少し時間は遅いけれど、いいでしょう?」

 

「いいけどよぉ。……またぁ? またこれなのぉ~?」

 

「好きでしょ? ハンバーグ」

 

「嫌いじゃないけどさぁ。お前に食事をご馳走されると常にこれなのが不満」

 

「小さい頃は、美味い美味いって喜んでくれたのに、時間は残酷ね」 

 

「10年以上も前の話だろ。好みも味覚も変わるにゃ充分だと思うんですがねぇ」

 

 

 虎太郎は不満を漏らしながらも、ダイニングの椅子に腰かけた。アサギは彼の正面に陣取る。

 テーブルの上にはメインのハンバーグ。付け合わせは、新鮮野菜のサラダ、ホウレン草とベーコンのソテー、玉ねぎとジャガイモの味噌汁。

 白米が主食である日本に合わせた洋食といった趣きのメニュー。

 

 頂きます、と両手を合わせ、食材と調理した本人への感謝を込めての一言に、アサギは小さく頷くと頬杖をついて、食事の様子を眺める。

 味は悪くない。不知火や凜子、凜花ほどではないものの、ゆきかぜほど下手という訳ではない。敢えて言うのなら、何処にでもありふれた家庭の味といったところだ。

 

 

「今日は佐久と加藤、おまけに百田と弓走の連中がお前を監視してた」

 

「そう。佐久家と加藤家は野心が強いから当然ね。百田家と弓走家は跡取りが優秀だもの。良からぬ妄想に取り憑かれるのも頷けるけれど、困ったものだわ」

 

「どいつもこいつも分相応って奴を知らないねぇ」

 

「何? 嫌味のつもり?」

 

「さぁて、何の事やら。心当たりがあるのはいいことだ」

 

 

 これまでの意趣返しと言わんばかりの嫌味に、アサギの目に鋭い光が灯ったものの、すぐに掻き消えた。

 

 アサギの至らなさは彼女自身がよく理解しているのだ。人を率いるカリスマはあるが、組織運営とは全く関係がない。

 アサギも自らの器は精々が部隊長クラスであり、魔族や米連に対抗する組織の長としては分不相応だと理解している。

 それでもなお自ら座を降りないのは、現状、自分以外に対魔忍を纏め上げられる人物がいないからだ。

 

 対魔忍は正義と誇りを旗と掲げる集団である。

 だが、正義や誇りは人によって変わるもの。対魔忍であっても変わりはしない。

 それぞれの正義の色、それぞれの誇りの差異が、日本を闇の勢力から守るという意思統一を阻害しているのだ。

 アサギの正義と誇りを最も理解し、最も近くあるのが、正義や誇りを持たない虎太郎という辺り、皮肉が効いている。

 

 

「ご馳走さん。それで、こっちの話から始めていいか?」

 

「御粗末様。少し待って、洗い物を済ませるから」

 

 

 そんなものは後にしてくれ、と言葉にしかけた虎太郎だったが招待された身であることは弁えている。不満を飲み込み、食後の一服と洒落込んだ。

 アサギが鼻歌混じりで食器を洗う背中を眺めて紫煙を味わいながらも、これから何をすべきなのかを考え続けている。

 

 睡眠か、失神か。

 意識を喪失した時以外、虎太郎の思考は、五歳の時から止まったことなど一度もなかった。

 

 

「はい、お仕舞い。さあ、こっちに来て」

 

「おい、お前なぁ……」

 

「……ん!」

 

 

 アサギは手早く洗い物を済ませると、三人掛けのソファに腰を下ろし、自分の膝をポンポンと叩く。

 その手には耳かきが握られている。何を待っているのかは明白だった。

 呆れながら頭を掻く虎太郎に、アサギは譲るつもりは毛頭ないらしく、もう一度膝を叩いて促した。

 

 虎太郎は渋々ながらも指示に従い、ソファに身体を横たえると頭を膝に乗せ、後の流れはアサギに任せた。

 

 

「それで、このまま話してもいいか?」

 

「ええ、構わないわよ」

 

「――――九郎は海外だな? 今、何処にいる?」

 

「あちこち飛び回って貰ってるわ。報告の為に、そろそろ戻ってきて貰う予定だけど、それが?」

 

 

 明確な国名を出さない辺り、相当危険な任務か、秘匿性が優先される任務なのだろう。

 虎太郎も無理に聞き出すつもりはないし、アサギも答えるつもりはない。重要なのは、九郎を動かせるかどうかだ。

 

 

「グラムについて探らせろ。奴は、早めに処理しておかないと後々面倒になりそうなんでな」

 

「貴方の推察では、自分の複製を作れるんだったわね」

 

「あの手の手合いは一度で潰さなけりゃイタチごっこになる。どうやらあの輸送方法じゃ、金もそんなにないようだしな。日本に用がある内にケリを付けたい」

 

 

 自分自身の記憶と意識、能力を継承した完全な複製を作り出す。

 どのような過程を経るかは不明であるものの、複製のストックがある限りは死なない。

 グラムの動向と目的を探り、準備が整う前に叩き潰さねば、殺しては複製が作られ、作られた複製を殺す羽目になる。兎に角、楽をしたい虎太郎にしてみれば、最悪の手合いだ。

 

 

「分かったわ。九郎には伝えておく。勿論、無理のない範囲でね」

 

「もう十分に無理させてるだろ」

 

「それは言わないで。私だって分かってるんだから」

 

「……アルにも情報を探らせる。二人に任せれば、背景くらいは見えてくる。その目的もな」

 

「ええ。……はい、今度は逆側よ。綺麗過ぎて物足りないわ」

 

「あのね。オレは面倒嫌いだが、ものぐさじゃないの」

 

 

 九郎による情報収集を取り付け、虎太郎は思考を巡らせる。

 グラムの背景が見えてくれば、日本にやってきた目的も見えてくる。後は、目的を果たそうと戦力や手段を集中させたグラムに横槍を入れる腹積もりだ。

 敵が勝利を確信した瞬間こそ最も無防備であるが、同時に敵が獲物を狙い攻撃を仕掛ける瞬間も、獲物に気を取られるが故に無防備になるのを理解していた。

 

 

「こうするのも久し振りね。最近は、私も貴方も忙しいから……」

 

 

 昔を懐かしんでいるのか、アサギは僅かばかりに寂寥を感じさせる声色で言った。

 虎太郎を井河に引き入れたのは、他ならぬアサギだ。引き入れた当初は監視の名目もあり、虎太郎の世話も彼女の役割だった。

 当時から冷徹かつ冷酷。今よりも、もっとずっと酷いド外道ぶりの彼には随分と悩まされたものだが、対魔忍として致命的な甘さを持つ彼女には、見捨てるなど出来よう筈もない。

 

 ――いや、アサギには、初めからそんなつもりはなかった。

 

 

「誰のせいだ――と言いたい所だが、こればっかりはお前ばかりを責められん。お前は、よくやってる方だよ」

 

「ふふ。そうやって、私をありのままに評価してくれるのは、虎太郎くらいよ」

 

「まあ、お前がオレを生き地獄に叩き落としている事実は忘れちゃいないがなぁ!」

 

「もう、嫌な子ね。人を喜ばせておいて、そんなことを言うなんて」

 

「上げて落とすのは基本」

 

 

 何の基本なのかはアサギには理解不能だったが、馬鹿にされていることだけは分かったらしく、パシリと虎太郎の頭をはたいた。

 

 

「そんなことを言うなら、あの件もなかったことにしようかしら……?」

 

「あ? あの件? 何かあったっけ?」

 

「今、書類仕事の大部分が虎太郎持ちでしょう? その負担を減らそうと思っていたのだけれど……」

 

「はぁ?! マジでぇ!!?」

 

「ちょっとぉ、危ないわよ」

 

 

 アサギの科白に、耳掃除の最中にも拘わらず虎太郎は驚きの余り上体を跳ね上げた。

 咄嗟に耳の中から耳かきを引き抜いたアサギの反応速度も大したものである。

 

 

「本当は、もっと早くこうしてあげたかったのだけれど。虎太郎のせいでもあるのよ? 誰も彼も貴方と一緒に仕事をしたくないって」

 

「ああ。オレも一緒に仕事したくない。そういう奴に限ってこっちの足引っ張るから。いや、それよりも誰を寄越すつもりなのぉ!?」

 

「全く……紅羽に翡翠、奏、零子、碧。皆、貴方を中忍に推薦したメンバーよ」

 

「あわ、あわわ、はわー!? あばば、おおお願いしますアサギ様ぁーっ! その話をなかったことにするのをなかったことにしてしゃいぃ!! ボクもう色々と限界なんです!! 仕事量がキャリーオーバーしちゃってるんでェェェっす!!!」

 

(分かってはいたし、私のせいでもあるけど……哀れね)

 

 

 自身の最速でアサギの前に正座すると、床をぶち抜く勢いで額を叩き付ける。

 もっと深く! 斬り込むように! 抉り込むように! これ以上ないほどに綺麗なフォームで! 土下座とは究極の命への執着!

 そう言わんばかりの綺麗なフォームの土下座であった。このまま書類仕事が減らないのであれば、虎太郎にしても本気で過労死しかねない状況であったようだ。

 

 何よりも、メンバーが嬉しい。

 紅羽、翡翠、奏の三名は上忍になった折り、何かと面倒を見ており、虎太郎の持つ技能の一部分を学んでいる。

 書類仕事のノウハウに関しても同様。一から教える必要がないのである。

 

 そして、零子、碧の二名は虎太郎本来の役割と本性を知っているベテランだ。

 零子はベテランの中では若い方であるが、あらゆる分野に対して向上心が強く、放っておいても成長する。

 碧は不知火と同年代であり、対魔忍が政府公認の非公式組織になったばかりの経験もなく、人手もない変遷期(いきじごく)を経験していた。

 

 何よりも、虎太郎の話に耳を傾ける。

 それさえあれば如何様にでも出来る男だ。人を育てるのも、人を使うのにも長けた男である。そもそも、苦手な分野があるのかすら疑わしい。

 

 アサギもこれまで、幾度となく構想は練っていたのだが、虎太郎の悪評ばかりが先行して、必要な人員を配置できなかったのだ。

 有能無能に関わらず、彼の下で、彼と共に、彼と協力することすら拒絶され、構想は構想のまま、いつまでも先送りとなっていた。

 

 

「安心なさい。私だって、虎太郎には感謝してるし、申し訳なく思っているのよ」

 

「そういうのいいんで。言葉だけの感謝とか謝罪とか、クソの役にも立たないんで。誠意はな、金だよ、実益だよぉ!!」

 

「はいはい。その五人には了承を得ているの。今更反故には出来ないから安心なさい」

 

「うぉお……おぉお……、だらっしゃぁあぁぁぁあああぁぁっっっ!!」

 

(……見たことないぐらい号泣してる)

 

 

 試合終了間際、逆転ゴールを決めたサッカー選手のように、虎太郎は泣きながら床に両膝をついて天を仰いでのガッツポーズを見せる。 

 

 虎太郎が苦労に喘ぎ、泣く姿は何度となく見ているが、歓喜の号泣は初めてみる。

 それだけ苦労をかけていたということなのだが、正直な所、アサギもドン引きする喜びようである。こんな虎太郎は20年近い付き合いになるのだが、初めてみる。

 

 

「よし! よしよし! 蘇我と由利には報告書関係、穂村には金銭関係、蓮魔と峰麻先生には任務関係の回せばいいな! あとオールマイティにオレ!」

 

「ちょっと、虎太郎……」

 

「楽になってくるぅ! 楽になってきたぞぉ! 用は済んだし、良い事聞いたし、今日は帰ってクソして寝る!」

 

 

 虎太郎は意気揚々と立ち上がり、楽になるであろう書類仕事に歓喜してアサギ邸を去ろうとする。

 アサギに礼を言わない辺り、まだ冷静なようだ。そもそも、彼が書類地獄に喘いでいたのはアサギの責任とも言える。マッチポンプにひっかかる――アサギにそのつもりは全くないが――ほど、甘い男ではない。

 

 その時、虎太郎は服の袖を引かれ、立ち止まる。無論、引き止めるのはアサギしかいない。

 

 

「……も、もう、……帰る、の?」 

 

「………………ん~? なにぃ? 何か問題あるぅ?」

 

 

 必要以上に引き止める気はないのだろう。

 本当に軽く袖を抓んだだけで、振り払おうと思えば――いや、下手をすれば気付かないほどの力加減だ。

 

 アサギは頬を朱に染め、決して視線を合わせようとはしなかったが、袖を放そうともしない。

 その様子に、虎太郎は笑みを浮かべる。不知火とゆきかぜ、凜子や凜花も見た、女を弄んで自分の牝にする悪辣な男の笑みだ。

 

 

「問題は、その、ないけれど……」

 

「そいつは失礼。こちとら性癖歪んでるもんで。女が形だけ嫌がって、実際は悦んでいるところを見るのは正直楽しい」

 

「本当、嫌な子…………そうやって、不知火も、ゆきかぜも、凜子も、凜花も堕としたのね」

 

「あー……まあ、アイツ等が望んだところもあるし、男として応えたくなった部分もある。つーか、やっぱり分かるか」

 

「分かるわよ。ゆきかぜも凜子も凜花も、すっかり顔が変わってるし。不知火も上手く隠してはいるけど…………皆、私と同じ顔をしてるわ」

 

 

 想像すら越える鋭敏な女の勘に辟易としながらも、虎太郎の笑みは深まるばかり。

 

 一方のアサギは呆れを含みながらも、目尻は垂れ下がり、口の端が歪み、明らかな媚びと嫉妬を孕んだ表情に変化している。

 4人が、この顔と同じであるのなら、確かに気付かぬ筈がないだろう。

 虎太郎はソファに座ったままのアサギに顔を寄せ、こつんと額を合わせる。まるでお前のことを忘れていたわけではないと言わんばかりだ。

 

 男の目には愉悦の光が、女の目には嫉妬と情愛の光が灯り、どちらともなく唇を重ね合わせる。

 舌は出さず、唾液の交換もない。ただただ互いの愛情を確認し合うようなキス。

 

 アサギは積極的に虎太郎の唇に吸い付き、虎太郎も積極さを見せるアサギに合わせていた。

 それだけで二人の関係が分かるというものだろう。もっとも、彼は自らは愛さず、愛されれば愛し返すのみ。

 アサギであろうと、ゆきかぜであろうと、凜子であろうと、凜花であろうと、不知火であろうと愛情表現は変わらない。

 

 

「…………あ」

 

「はは、こいつはまた」

 

 

 キスに夢中になっていたアサギは、虎太郎が裾から手を入れたことに気付きもせず、ニットワンピースを簡単に脱がされてしまう。 

 

 抵抗らしい抵抗すら見せずに晒された肢体は、淫靡な下着で飾り立てられていた。

 黒いガーターストッキングに、黒と赤のシースルーブラとショーツ。花柄の刺繍の下から薄らと肌を透けさせている。

 何よりもパックリと縦に入ったスリットが、最も隠しておかなければならない乳頭と秘所を解放してしまっている。

 

 アサギの肢体は元より女体として完成されていた。

 しかし、芸術や女体の黄金比よりも淫靡さが先に立つ。見る者を魅了する美しさよりも、雌の淫らな本性が形になったかのよう。

 それが、更に淫らな衣装で飾り立てられる。虎太郎以外の男であれば、人魔を問わずに襲い掛かっていたはずだ。

 

 

「いいな。アサギのSEXしたくて堪らないって内心が滲み出てるところが特に……」

 

「も、もう、そんな事…………あるけれど、わざわざ言葉にしないで……」

 

「いいじゃないか。事実だろ? それにお前は、こんなものまで付けられたのに、抵抗なんてしなかったじゃないか」

 

「ひぃ、いんっ……♪」

 

 

 虎太郎はストッキングに包まれた両脚を掴むと、彼女自身に抱えさせた。股を大きくV字に開かれ、女陰はより露わとなる。

 

 彼が“こんなもの”と称した物体を指で弾かれ、アサギは切なげな、嬉しげな喘ぎ声を漏らした。

 指で弾いたのは何の変哲もない金色のリング。それが両の乳首と淫核に嵌め込まれている。

 嵌めた当初よりも性感帯は大きく成長しているのだろう。もう、切除でもしなければ外れる様子は見受けられない。

 

 

「こ、虎太郎が、嵌めたんじゃない。独占欲丸出しにして、乳首も、クリトリスも、何度も何度も苛め抜いて、外れないように大きくしたくせにぃ……」

 

「そうだったっけぇ……?」

 

「そ、それに、自分の女にしたのを良い事に、性技の練習させろって。泣いて懇願しても許さずに、数えきれないくらいイカせて自分専用にしたじゃないっ」

 

「そうだったな。懐かしいくらいだな」

 

「10年以上もねっとり、みっちり仕込んで、自分好みの女にしたのは、虎太郎、でしょう?」

 

「責任は取るって言ってるだろ?」

 

「もう、いやぁ……虎太郎にオマンコ見られるだけで……あァ」

 

「くく、出てきたな。アサギのドスケベ刻印」

 

 

 虎太郎が自分の仕立てた女を無遠慮に眺める視線を受けただけで、アサギの身体と頭は媚薬でも遠く及ばない発情で満ちていく。

 元々大きかった乳首とクリトリスは小指の先を連想させるほどに勃起し、リングによってくびれを作るほどだった。

 

 更には、下腹部――ちょうど、子宮の上あたりにじわじわと刺青のような跡が浮かび上がる。

 ハート型のそれは、かつてアサギに施された悍ましい刻印の名残だ。

 

 催眠刻印。

 ノマドに寝返った裏切りの対魔忍。一度は死に妖魔として蘇り、二度目の死はブラックの手によって吸血鬼として蘇った稀代の悪女、朧の忍法だ。

 呪術の施されたアクセサリーを媒介にして発動し、対象がアクセサリーを身に着けたまま忍法を発動すると、身体に溶け込み刻印へと変化する。

 催眠刻印が浮かび上がれば、対象は本来の意識を保ちながらも抵抗の出来ない催眠状態に陥り、朧の操り人形と化す。

 

 カオス・アリーナでの一件でアサギへと施された催眠刻印は、仕掛けた張本人である朧を殺害したことにより解呪されており、桐生の診察からも問題は発見されなかったものの、ある条件を満たすと刻印が姿を現す。

 

 それはアサギが身も心も明け渡し、本気で発情を示した時にのみ、刻印が浮かび上がる。

 かつてのような催眠状態に陥らないが、アサギに向けられる朧の並々ならぬ執念が、自分が如何に屈辱を味合わせたか、どれだけの凌辱によってアサギを追い詰めたのか、を忘れさせまいとしているかのようだ。

 

 ――もっとも、当のアサギにとっては、自分を女として虜にした、自分の最愛の男になった虎太郎を楽しませるだけのアクセントにしかなっていない。 

 

 何よりも、かつての忌々しい刻印は形を変え、意味も変わっている。

 ハートの下には茨のような意匠が加わっており、虎太郎の女になった証そのものだった。

 

 哀れ、朧。

 彼女にとってアサギは終わらない復讐の対象であっても、アサギにとっては憎んでこそいるが、単なる打倒すべき敵に過ぎない。

 朧は何時でもアサギに尋常ならざる思いを抱いたとて、アサギは今この瞬間、虎太郎のことしか考えていない。滑稽さも極まれば哀れとなる。

 

 

「最近は、ゆきかぜ達ばかり構って……」

 

「何だ、アサギ。ゆきかぜみたいな若い連中に、みっともなく嫉妬か」

 

「うぅ……嫉妬も、するわよ。私だって、虎太郎の女なんだからぁ!」

 

 

 怒りと嫉妬で泣きそうな顔になりながら、アサギは虎太郎の女だと主張する。

 あらゆる魔を討つことを目的とする最強の対魔忍が、女として自分を求めている。

 男としては堪らぬシチュエーションだ。虎太郎はいきり立った剛直を空気に晒し、全ての服を脱いで全裸になる。

 

 それを見ただけで、アサギはうっとりと目を細め、極まった発情を吐き出すような吐息を漏らした。

 既に秘裂は左右に割れ広がり、その下の菊門もポッカリと開いている。ひくひくと期待で震える両穴を白濁した本気汁で塗れさせながら、慣れ親しんだ男根を待ち望んでいた。

 

 

「も、もう、我慢できないわ。早く、早くちょうだい。ね? ね?」

 

「おいおい、どうした? いつもなら口や手でメチャクチャにイカされてからの方が好きだろ?」

 

「だ、だって……」

 

「……? まあ、いいが。それより、ほら」

 

「も、もう…………い、淫紋まで浮かび上がらせて、虎太郎の硬くて太いカリ高チンポをおねだりしてる淫乱おまんこ、ぐっちゃぐちゃに掻き回してぇ?」

 

 

 普段とは様子の違うアサギに怪訝な表情をしながらも、虎太郎は女のはしたない懇願に従い、太く長い怒張を最奥まで押し込んだ。

 

 

「んお♪ お、ォお♪ んっほぉぉおおおぉおぉおおおぉっっ♪」

 

「……ぐっ、おっ」

 

 

 勢いよく逸物を飲み込んだ女の象徴は、子宮口は何もしないまま緩みきり、子宮まであっさりと明け渡して絶頂に至る。

 襞の一枚一枚がうぞうぞと蠢き、幹を必死で扱き上げ、精をねだった。

 

 アサギの女陰は虎太郎が仕込んだ。

 元より女の淫らさを体現したかのような名器であったが、虎太郎が十年以上もかけて教え込んだ技によって、更に磨きがかかってる。

 性の技と知識に長け、他種族を堕落させる淫魔族であっても、数分と持たずに射精に至り、干からびるまで精を絞ろうとする。虎太郎しか楽しめない専用穴。

 

 しかし、今日に限って、虎太郎ですら薄ら寒くなるほどの快楽が男根から脳へと駆け上ってくる。

 

 

「ほぉ……おぉ……ん、ひっ……くぅぅぅ、ん♪」

 

「っ……おい、今日はやけに具合が、」

 

「あひっ!? 今、動かしたら、れ、れちゃ、いひぃぃぃいいんんっ♡」

 

 

 ほんの僅かに、子宮の壁に亀頭が擦りつけられただけであっさりと絶頂に押し上げられ、緩んだ尿道から勢いよく小便を漏らす。

 びちゃびちゃと己の身体が小水で濡らしていく間も、アサギの牝穴は精をねだり続け、絶え間のない快感を与え、自らもまた快楽を貪る。

 

 

「どうした、何時もよりも感じやすくなってるじゃないか。お前が、挿入だけで嬉ションとは、な」

 

「ひぇぁ、あふぅ、ひゃへぇぁんっ♪」

 

「おい、何とか言えよ」

 

「らっへぇ……とひを考えてよぉ、もう子宮が、急かひれるのぉ……抑えが効かないんだから♡?」

 

 

 アサギも、そろそろ30に至ろうという時期だ。

 世間では当に行き遅れと呼ばれる年齢。子を孕む適齢期も過ぎ去っている。これから待っているのは衰えだけ。

 虎太郎にせよ、他の男にせよ。そうなれば、見向きもされなくなるだろう。そうなる前に、身体が――子宮がアサギを急かしても、不思議ではないだろう。

 

 

「別に、年増だろうが構わんがな。オレが歳喰った程度で女を捨てるほど生易しくはないぞ。それはそれで楽しみようはある」

 

「んんっ、そんなこと言ってぇっ、最近はゆきかぜ達ばかりじゃないのぉっ」

 

「アイツ等が若いのは認めるが、お前だって十分若いだろ。肌の張りも、胸も尻も三十路の女のもんじゃないだろ」

 

「そ、それは、虎太郎が何時も何時も発情させて、私が女なんだって意識させるから……」

 

「オレを悦ばせるために頑張って若さを保ってるのか。お前、本当に可愛いなぁ」

 

 

 ニヤつきながらの虎太郎の発言に、アサギは今まで以上に真っ赤になった。リップサービスなどではない。呆れを含みながらの発言が、間違いなく本心の吐露であることを告げていた。

 身体もまた正直だ。膣道はきゅんきゅんと剛直を締めつけ、子宮口と子宮は亀頭に吸い付いて離さない。

 

 自分よりも年下の男に弄ばれるこれ以上ない羞恥。そんな男に女としての自分を真っ直ぐに褒められる歓喜。

 ぐらぐらと脳髄が沸騰しそうなほどの羞恥を感じながらも、アサギは優秀な男から一心に求められる女の悦びを熱い雌潮を噴いて表現した。

 

 

「何なら、今ここで孕んでみるか? オレは構わないぜ?」 

 

「ひぃん、……やめっ、やめてっ。虎太郎だって、分かってるでしょう?」

 

「ああ、今お前が孕んで、出産だの子育てだので時間が取られたら、対魔忍はどうなることやら」

 

「いぃんっ、分かっているならぁっ、ぐりぐり子宮を押さないでぇっ!」

 

「――だったら、脚をほどいてくれよ」

 

「あっ……あぁ、そんな、そんなぁ……」

 

 

 何時の間にか、アサギの両脚はしっかりと虎太郎の腰に回され、意志とは裏腹に身体は子を孕む為に動いている。

 指でぐりぐりと淫紋の上から子宮を押され、内部に侵入した亀頭に天井から壁から撫で回され、マグマのような生殖欲求は高まるばかり。

 

 いくらアサギでも、如何にもならない。身体の欲求には抗えないのである。

 

 

「今は、駄目ぇ。全部、終わったら、好きにしていいから。お願いよぉ」

 

 

 それでも泣きながら懇願し、なおもアサギは対魔忍としての意志を手放さない。

 女としての自分、対魔忍としての自分の狭間で揺れながら、アサギは意志だけで拒絶を示してみせた。

 

 一見すれば無意味な懇願にしか映らないだろう。

 だが、虎太郎にしてみれば、これこそが井河 アサギだ。どのような窮地でも諦めずに戦い抜くための、対魔忍そのものと言える強靭な意志。

 

 ――最後の一線だけは、何があっても踏み越えない。

 

 

「お前のそういうところを、一番気に入ってるんだ」

 

「んぐっ――――んぶちゅ、んれぇ、れろ、じゅりゅ、りゅ、んんむ♪」

 

「分かった。今はまだ駄目なんだな。だが、お前が納得するところまで行ったら、必ず孕ませる。閉経する前に終わらせろよ?」

 

「が、頑張るっ♡ 頑張ってっ、虎太郎に、思い切り孕ませて貰うっ♡ んおっ♡ おっオっ♡ おっほぉぉぉぉ♡」

 

 

 ビキビキと音を立てて、更なる硬度を得る怒張に、アサギは獣そのものの牝声を上げる。

 

 抽送――と言うよりかは、アサギの意志に反して子をねだる子宮を宥めるように、亀頭を使って壁や天井を擦り上げた。

 さしもの虎太郎も、自分の仕上げた牝穴と子宮の及ぼす快感に、意志に反して何度となく我慢汁を吐き出し続ける。

 

 

「これぇ、コレぇ、好きなのォっ、先汁、子宮に塗りたくられながらイクの、好きィィっ♪」

 

「流石に、これはちょっと、オレも持ちそうにないなッ」

 

「イってぇっ、イッでェェっ、ワタシ、ずっとイキっぱなしなんだからぁン♡」

 

 

 仕事であれば、任務であればいくらでも耐えるが、そもそもその必要など何処にもない。

 既に臨界に達していた肉棒は更に太さを増し、ひっきりなしに震えている。

 

 鋭敏に限界を感じ取った牝肉はより一層強く締めつけと蠕動を繰り返し、牡が最大の快楽を得られるように膣奉仕を終始する。

 

 

「くる、くるくるっ、射精っ♪ ザーメンっ♪ もう、トドメ、さしてぇぇええぇぇっっ♪」

 

「避妊に関しては任せろ。お前は安心して、アクメと射精を味わえ」

 

「ひああっ、チンポ、やっ、膨らんで、ああっ、射精ひちゃう、精液でるぅっ」

 

「ぐ、うぅ、おっ……!」

 

「んほぉぉおおぉオオっぉぉっおっぉ、うおおおほぉおおおおおおっっ♡」

 

 

 子宮にぐりぐりと擦り虐めていた亀頭から怒涛の勢いで精液が噴き出した。

 

 

「ゥゥゥ、イィィイイイイィィっ――――いぐぅぅうううううううううぅぅうううっ!!」

 

 

 甲高い牝の絶叫と共に、アサギの瞳がクルンと裏返る。

 舌をでろりと垂らし、涙も涎も流すアクメ顔を晒し、潮を噴き出して悦びを表現していた。

 脚はがっちりと腰で組まれ、注がれた精液を一滴も逃すまいとしているようだが、余りの量に虎太郎専用となったはずの子宮も膣も飲み切れず、その隙間から溢れ出る。

 

 

「あっつ゛いっ! 子宮ぅっ、おまんこぉっ、やけりゅぅぅぅううぅうううぅっ!!」

 

 

 アサギに妊娠に対する忌避はなく、牝アクメを堪能し、牡の射精を促すことしか頭にない。

 

 

「く、おぉっ、また、いつも以上に絞りにきてるなっ……!」

 

「んひぃい゛いいぃいっ! すごいすごいっっ、ザーメンびちゃびちゃすごひぃぃいいいんんっっ!!」

 

「こりゃ、負けてられんな、っとぉ」

 

「らめらめらめェェえええぇっ!! 射精しながらズコズコしちゃっ、おまんこイギまくる゛のぉっ、お゛ぉっおおお゛っっ、いぐいぐひぐぅぅぅうううぅっっ!!」

 

 

 射精の度にピストンを続け、少しでも新鮮な精液の味を楽しめるように古い精液を掻き出し、更に射精を続ける。

 

 白濁液で満たされた、掻き出される極大の悦楽。

 膣全体に白濁液が滑り、塗り込まれる極上の快感。

 

 その全てから人格を守るためにか、或いはより一層深いアクメを味わうために、アサギは両手両脚で虎太郎に抱き着き、身体を密着させた。

 ひっきりなしに痙攣する身体によって、押し付けた勃起乳首と淫核が擦れ、潮も吹けなくなった尿道から黄金水を垂れ流しながら絶頂へと登り詰める。

 本気汁と潮と小水、精液をソファに染み込ませ、更には混合液の沼まで作り、後始末のことなど頭にないのは明白だった。

 

 

「イグぅっ、アクメとまらない゛ぃ゛ぃぃんっ!! 子宮っ、いっぱいなのにっ、射精もらめぇぇぇぇぇっ!!」

 

「これで、最後だ」

 

「いぃっぐぅ♡ いぐゥウゥっ♡ イグイグイグぅゥゥううぅゥぅウウううっっっ♡」

 

 

 5分以上も続いた射精が終わるまでの間に、アサギは何度絶頂を味わったことか。

 手足は硬直してしまったかのように、虎太郎に抱き着いたまま硬直していた。

 

 荒く短い呼吸を続け、少しでも酸素を取り込もうとしていたが、虎太郎が顔を寄せると、酸欠すら気にせずに舌を絡め合わせる。

 まるで自分を天上知らずのオルガスムスを体験させてくれた雄に対して、必死に礼をしているかのようだ。

 

 

「んふぁう……♪ んちゅ、ぢゅちゅるぅ♪ るれろ、んれぇぇ、ちゅるる――――――ふおォォぉおんっ?!」

 

 

 その時、何の予告もなしに虎太郎の抽送が再開された。

 アクメの余韻から立ち直るよりも速い、逞し過ぎる剛直に、アサギは知っていながらも衝撃を隠しきれない。

 

「ま、まっへぇ……! まだ、イッテるんだからっ、おっ、おぉん、少ひは加減してぇ……」 

 

「こんなもんじゃ、オレが満足しないのは知ってるだろ? ほら、失神しようがアクメさせてやるからな、覚悟しろよ」

 

「あぁ、逞し、すぎるわよぉ♡ あっあっあっ、ダメ、イクイク、またイクから、らめぇぇぇっっ♡」

 

 

 泣き言を吐きながらも、その唇は確かな笑みを象っている。

 牡と牝の結合部から響く、ぐちゅぐちゅと聞いた者は赤面せずにはいられない卑猥な音が再会の合図であった。

 

 勿論、二回程度でも終わりはしない。

 アサギの女の悦びは、空が白み始めるまで続き、アクメの媚声が鳴り止むことは決してなかった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「ん、ふ…………」

 

「お? 起きたか? おはよう」

 

「く、ふぁぁ……もう、相変わらず、容赦ないんだから」

 

 

 快楽によって失神と覚醒を繰り返したアサギは、明け方によると糸の切れた人形のようにプッツリと意識を取り戻すことはなくなり、そこで二人の情交はようやく終わった。

 激しく責め立ててきた虎太郎を非難する科白ではあったものの、目を覚ましたアサギの声色は甘えるような響きがあった。

 

 二人は、勝手知ったる人の家とばかりに虎太郎が持ち出してきた毛布に包まり、互いの体温を確かめ合うようにソファに寄り添っている。

 

 

「風呂でも入るか?」

 

「もう少し、このままでいさせて。まだ腰が抜けてるみたい」

 

「――――そうか」

 

 

 カーテンから差し込む光が、時間帯が既に昼に近いことを告げている。

 こうなることは予期していたのだろう。二人とも、今日の仕事は昨日の内に済ませてあった。

 

 アサギは虎太郎の胸板に頭を預け、一定のリズムを刻む鼓動を確かめる耳を傾ける。

 

 

「生きてる、わよね……?」

 

「当たり前だろ。そうでなけりゃ、とっくに墓の下だ」

 

「心配していたのよ? ゆきかぜ達も、もちろん私達も」

 

「…………ふーん」

 

「昔、言ったわよね。私は、貴方と一緒にいるわ……」

 

 

 だから、貴方も――――

 

 二人の間に何があったのか。それは二人にしか分からない。けれど、アサギが最も伝えたかった言葉を飲み込んだ。

 どれだけ言葉を重ねたところで、虎太郎には届かない。それほどまでの隔たりがあるのを重々承知していたからであり、同時に深く信頼しているからこそ、言葉にしなかった。

 

 

「信じているからね」

 

「ああ、そうかい。好きにしろ。だが、期待はするな」

 

「その言葉を聞いて安心したわ。じゃあ、シャワーを浴びてから遅目の朝食に――――ちょっとぉ」

 

「いや、済まん。雰囲気的に正直言い出し難くてね。タイミングを逃した」

 

 

 何処かしんみりとした空気は、アサギが毛布を剥ぎ取ると霧散する。

 

 そこで目を引いたのは、勃起を維持したままの男根だった。

 

 これでは色々と台無しである。アサギが非難の目を向けるのも無理はない。

 虎太郎も自覚はあったらしく、片手で顔を覆い隠して謝罪する。

 

 

「もう、本当に底なしの性欲なんだから」

 

「いやぁ、はは、性技を身に着ける過程でこんなんになってしまいまして。真に申し訳ありましぇぇん」

 

「知ってるわよ。誰が、この性欲に付き合ってきたと――――いえ、付き合って貰ったのは私の方かしら、ね」

 

「どっちもどっちだな、この場合は。それより続き、いいか? 久々に、加減しなくていいんでね」

 

「嘘ばっかりなんだから。私にだって、手加減してる癖に」

 

 

 そう呆れを露わにしながらも、アサギは大きくM字にまたを開いて、剛直の上に陣取った。

 開かれた膣からは濃厚な精液が、卑猥な音を立てて溢れてくる。

 

 

「今日は一日中、しましょう? 寂しがり屋の上に甘えん坊の面倒な女を慰めて?」

 

「なら、一緒に楽しもうか」

 

「――――――あっ♡」

 

 

 さくらは任務で、数日は家に帰ってこない。

 仕事に関しても、たまの休日と気遣って、紫が全面的に引き受けてくれている。何の杞憂もないということだ。

 

 暫らくして、牡に組み伏せられた喜びに満ちた牝の媚声が家の中にだけ響き始める。

 部屋一杯に発情した牝の匂いが満ちるまで、牡の精臭が満ちるまで、鳴り止むことは決してなかった。

 

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