※この作品はR-18です。

対魔忍アサギ 苦労人奮闘記   作:HK416

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『続け様の、ご褒美、だと……? これはもう、苦労すんの確定ですわ(にっこり)』

「――――はぁ」

 

 

 五車町を一望できる小高い丘の上に位置する蓮華畑。

 すっかりお気に入りとなった場所で、ワイトは地面に腰を下ろして、大きく溜め息を吐いていた。

 

 その溜め息の原因は、他ならぬ虎太郎であった。

 

 

(仲が良いとは思ったけれど、まさか、旦那様とゆきかぜちゃんが、あんな関係だったなんて……)

 

 

 虎太郎とゆきかぜが交わった晩、部屋の外にはワイトが居た。

 夜中、奇妙な物音と獣の雄叫びのような声に、何事かと目を覚ましたワイトは、光に集まる蛾の如く音源へと向かっていた。

 

 始めは、単に家の中に誰かが侵入したのかと疑った。

 次いで、虎太郎の安否を確認しようと寝室へと向かった。

 最後は、覗き込んだ寝室で行われている性交に、腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 

 普段は決して見せない楽しげな笑みを刻む虎太郎。

 天真爛漫を絵に描いたような、優しげな少女からは想像も出来ない淫蕩な表情を浮かべるゆきかぜ。

 

 寝室を覗き込んだ瞬間は、何が行われているのか分からなかった。

 ただ、聞いている者の性感を刺激するようなゆきかぜの喘ぎ声と、見ているものの生殖本能を刺激するような虎太郎の腰使いに、男女の営みであるとようやく理解した。

 

 後はもう、ただただ魅入るばかりだった。

 自らの性癖と性欲を満たす虎太郎。女の悦びを一心に享受するゆきかぜ。

 

 そんな二人の姿を見て、ワイトは知らず知らずの内に、既に蕩け始めていた秘所に指を伸ばしていた。

 

 ワイトにとて性欲はある。あんな姿を見れば、興奮も覚えよう。

 ゆきかぜに対する嫉妬、虎太郎への忠誠と言う名の恋慕から、自慰行為に耽るのも無理はない。

 

 虎太郎の腰の動きに合わせ、ゆきかぜの嬌声に合わせ、蕩けた自らの膣を掻き回し、絶頂に至った。

 

 

(…………み、惨めだわ)

 

 

 余りにも不様な自慰行為だった。

 虎太郎はワイトを求めていない。彼女自身、それは理解している。けれど、彼女には理解できない理由によって、虎太郎を主人と認識している。

 例え、何一つ求められておらずとも、虎太郎に仕えることを望んでいる。もっとも、その始まりは、美琴が施した洗脳改造によるものだと、ワイトは知る由もないのだが。

 

 ――そんな自分が、ゆきかぜに嫉妬し、ゆきかぜの立場に自分が立ったことを想像して、自慰に耽るなど惨め以外の何物でもない。

 

 虎太郎に求められれば、一も二もなく頷き、自分の全てを捧げられたが、当の虎太郎は欠片も求めていない。

 ただでさえ、迷惑をかけていると言うのに、自分から求めて手を煩わせるなど、ワイトに出来よう筈もなく。

 そんなものは、仕えるでもなく、奉仕でもなく、愛ですらない。独り善がりの自慰行為とどれだけの差異があるというのか。 

 

 しかし、虎太郎とゆきかぜは違っていた。

 初めに相手を求めたのが、どちらであったのかは分からない。しかし、確かに求め合い、愛し合っていた。

 どれだけ奴隷娼婦だの、メス豚だの、玩具だのと、女にとってこれ以上ない屈辱的な言葉で飾り立てようとも、根底にあるものは愛だった。少なくともワイトはそう感じている。

 

 

(しかも、ゆきかぜちゃんばかりでなく、凜子ちゃんや不知火さんまで……)

 

 

 ゆきかぜの次の晩は凜子を、凜子の次の晩は不知火を。虎太郎は、それぞれを抱いていた。

 

 夜に虎太郎宅を訪れてきた時は、まさか、と思った。

 食事を済ませ、自分が風呂に入っても帰らない姿に、よもや、と思った。

 そして、夜中にひっそりと虎太郎の寝室を覗いた時に、やっぱり、と思った。

 

 凛子はベットにべったりと寝そべり、その上から虎太郎に覆い被られて菊門を犯されていた。

 肩を押さえつけられ、自分で腰を振る事さえ許されず、ただただ肉棒を扱き、射精するためだけの穴として扱われていたにも拘わらず、表情は恍惚そのもの。

 たっぷりとアナルに射精された後、自分で尻を割り開き、聞かれれば恥で死んでしまいそうな音と共に、腸内の精液を排泄している様は、卑猥かつ下品と言わざるを得なかった。

 

 不知火は、初めの内は嫌、駄目、と拒絶していたが、虎太郎にキスをされる度、優しく愛撫される度に、身体を震わせて隠しきれない喜びが見せた。

 最後には、ベットに寝た虎太郎の上に自ら跨り、男根を自ら受け入れる始末。

 年下の男にはしたなく媚び、泣いて懇願しながら膣内射精を望む姿は、熟れた身体を持て余した牝年増そのものであった。

 

 あんな姿はみっともない、と思いつつも、羨ましいと嫉妬して自慰に耽ってしまった自分は、もっと惨めな何かだ、と認めざるを得ない。

 

 

「…………はぁ」

 

「ワイトお姉ちゃん、どうしたの?」

 

「ひぅ……!?」

 

 

 自分の惨めさに、もう一度大きく溜め息をついて俯いたワイトであったが、下から覗き込んで声を掛けてきた萌音の姿に、上半身を仰け反らせて仰天する。

 驚いたのは、萌音も同じであった。心配して声を掛けたのだが、予想外の反応に目を白黒させている。

 

 ワイトと萌音は、すっかりと仲が良くなっていた。

 萌音は子供特有の無邪気と無知で、ワイトの抱えている問題や運命など知らぬと慕っている。

 ワイトもその無邪気さに当てられたのか、記憶の有無や正体の分からない嫌悪感すら忘れて、暇な時間があれば、萌音の遊びに付き合っていた。

 

 萌音の両親も知り合いであった不知火の言葉、何よりもワイトと接することで本来の明るさを取り戻した娘の姿に、ワイトに信頼を寄せ、訓練を減らして萌音の世話を任せていた。

 最近では任務で家に帰らないこともある虎太郎やゆきかぜ達よりも、萌音と接する時間の方が増えてきたほどだ。

 

 今日もこうして、お気に入りの場所で萌音の遊ぶ姿を見守り、はしゃぐ萌音と会話を楽しんでいた。

 萌音の友人を交えることもあり、ワイトはすっかり近所の優しいお姉さんで通っている。

 

 

「ワイトお姉ちゃん、お腹痛いの?」

 

「ち、違うわ。ちょっと、その、考え事を、ね?」

 

「でも、元気ないよ? 何処か痛くない?」

 

 

 まさか、子供に自分の惨めさや性の悩みを打ち明けるわけにも行かず、ワイトは慌てふためきながら誤魔化した。

 

 しかし、萌音は元より聡い少女なのだろう。

 悩みの正体が何なのかは掴めていないようではあるが、しつこくも心配そうな声で問い質してくる。

 

 流石のワイトも辟易としてきた時、萌音は暫らく悩んだ末にポシェットから何かを取り出して、差し出した。

 

 

「じゃあ、これ上げるね」

 

「これは……?」

 

「萌音のねー、お気に入り」

 

 

 にっこりと笑いながら萌音が手渡したのは、一枚の栞だ。

 片面には蓮華草の押し花がフィルムで張り付けられている。台紙の切り方が甘い所を見ると、どうやら萌音お手製の一品のようだ。

 

 萌音は花を集めるのが好きだ。その延長線上にあるのが、押し花でもある。

 ただ花を摘むだけでは、いずれは枯れ落ちるだけ。ただでさえ次の種を撒き、新たな花を咲かせる循環を断っているのだ。

 

 ――それでは余りに残酷で、必死に生きている花達に忍びない、と萌音は幼心にそう感じていた。

 

 年の割に聡明で優しい考え方だ。

 大抵の子供は無邪気な残酷さを発揮し、花もまた一つの命という事実に目を向けず、好きなだけ集めてしまいそうなものだが、萌音はそうではなく、またその優しさを両親は誇りに思っていた。

 

 よって、花集めにも萌音なりのルールがある。

 どんな花でも摘むのは一輪だけ。一度でも摘んだ花は、もう二度とは摘まない。そして、そのルールを守る為に、押し花にして残しておくのだ。

 そうすれば、後から眺めて楽しむのもいいし、花本来の姿を思い出せる。花の名前を調べるのもいい。萌音なりの楽しみ方であった。

 

 

「お母さんが言ってた。れんげそうの花言葉は、……えっと、う~んと、あっ、心がわらやぐ?」

 

「ふふ、それを言うなら、“心が和らぐ”ね」

 

「そう! それ! お姉ちゃん、これで元気でそう?」

 

「ええ、とても。ありがとう、萌音」

 

 

 死霊騎士であり、また記憶を失ったワイトに花言葉など知り得ない文化であった。

 しかし、不安そうな表情で自分を見上げてくる萌音の優しさに、ワイトは先程までの陰鬱とした気分は消し飛んで、何時の間にか笑みを浮かべていた。

 

 その表情に、萌音もまた笑みを浮かべる。

 大好きな誰かが辛い表情をしていれば、自分もまた辛い。大好きな誰かが笑っていれば、自分もまた嬉しい。

 余りにも無邪気で眩しく、何処までも人間的に正しく、真っ当な在り様は、ワイトにとって間違いなく――――

 

 

「さあ、そろそろ帰りましょう。私も、旦那様の家で家事をしなくちゃいかないから」

 

「…………お姉ちゃん、大丈夫? 萌音、あの人なんか怖い」

 

「あら、旦那様は優しい――とは言い切れないけれど、心配することはないわ」

 

 

 かつてのゆきかぜのように、無表情の下に隠された虎太郎の本性を感じ取ったのだろう。

 萌音は心配そうにワイトを見上げたが、当の本人は笑うばかりだ。

 ワイトとて、馬鹿ではない。薄らとではあるが、虎太郎の本性に気付き始めている。

 

 彼は面倒事を嫌い、情に流されることも絆されることもないが、決して自らの責務や義務を投げ出すこともない。

 

 だから、安心している。

 この生活が続くのであれば、受けた恩を返せるようになればいい。

 もし、記憶を取り戻したのなら、その時は――――

 

 記憶を失う以前の自分に強い不安を覚えていたワイトには、虎太郎のような冷酷で情に流されぬ存在は、過去の無いワイトにとっては支えであった。

 自分が何者であったにせよ、自分が過去に何をしてきたにせよ―――自分が記憶を取り戻したとしても、虎太郎は速やかに()()()()()()()だろう。

 

 

「また明日も遊んでちょうだいね?」

 

「うん! 一緒に遊んで、お家に帰ろう!」

 

 

 何処にでもありふれた、特別なものなど何もない、人間的な優しさに満ちた少女。

 

 萌音は、ワイトにとっての蓮華草だ。

 野に咲き、誰の手入れもなく生まれ、命の循環の中で他の命を生かし、誰に看取られることもなく枯れ、次なる花を咲かせる命。

 然したる価値はないが、弱々しくも確かに生きる野の花。

 

 蓮華草の花言葉は、心を和らげる、だけではない。大抵の花がそうであるように、複数の花言葉を持つ。

 

 感化、私の幸福、あなたは幸福です、私の苦しみを和らげる、あなたは私の苦痛を和らげる。それらが、蓮華草の花言葉。

 

 この丘の上に咲き誇る蓮華草に、ワイトが心を魅かれたのと同様に、萌音の存在は確かにワイトを勇気づけ、抱えた不安と苦痛を和らげていた。

 

 

(――――あぁ、なんて小さい、手なのかしら)

 

 

 二人は手を繋いで丘を下りていく。

 手から伝わる温もりと儚さも、また蓮華草のようだ。

 

 ワイトは自分でも分からない心の中に浮かぶ、黒々とした何かが、暖かな光で塗りつぶされていくのを感じていた。

 抗うことの出来ない甘い光に困惑を覚えながらも、身を任せるしかない。彼女の行為が、どのような結果を招くのかも知らずに……。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

(萌音にはああ言ったけれど――――うぅ、なんて弱いの、私は……)

 

 

 その日の晩、ワイトはまたも虎太郎の部屋の前に来ると、扉の隙間から中を覗き込む。

 誰が居るかなど分かり切っている。家主である虎太郎と、本日の夕飯を作りに来た凜花だ。

 

 

「お前、それ、シテいい奴なの……?」

 

「もう、そんなにドン引きしないで下さい。私だって、私なりの考えがあって、こうしているんですから」

 

 

 凜花は制服でもなければ、普段着でもなかった。

 ワイトは知り得ぬ所であるが、凜花が任務中に纏う対魔忍装束である。

 手足は網目の入った手袋とソックスに覆われていたが、腹部や背中、肩を大胆に露出したセパレートタイプだ。

 ゆきかぜや凜子のタイプに比べて露出が激しいが、これでも露出がマシな方なのだから恐ろしい。

 

 因みに、対魔忍の中で最も露出が激しいと思われるのは大島 雫である。

 

 

「対魔忍としての私を犯す、と言うのも楽しそうでしょう?」

 

「あの、対魔忍の誇りとか正義とかは、どこ行っちゃったんですかねぇ……?」

 

「あら、おかしなことを言いますね。虎太郎さんの女であることと、対魔忍であることは、何も矛盾していないでしょう?」

 

「まあ、そうなんですけどね。…………いいや、お互い楽しむとしようか」

 

「はい♪ 凜花を、思い切り楽しんで下さい♪」

 

 

 凜花にしてみれば、対魔忍としての自分を捧げるのも、また一つの悦びだ。

 人には様々な側面がある。自分の側面を一つ捧げる度に、虎太郎の女としての自分が確固なモノとなっていく感覚が、凜花は堪らなく好きだった。

 

 

「ん? 何だ、このチョーカー、そんなに気に入ったのか?」

 

 

 凜花の首を飾り立てていたハートのチャームの取り付けられた革製のチョーカーを触りながら、虎太郎は言った。

 以前、ワイトの服を買いに行った時、凜花がチラチラと眺めていたから買ってやったものだ。

 

 

「だって、虎太郎さんに初めて買って貰ったものなんですから、当然です。ゆきかぜちゃんや凜子ちゃんだって、一生大事にします」

 

「…………お前等、重いよぉ? それ凄い安物だよぉ?」

 

「知ってます。虎太郎さんは、もう少し“初めて”とか、“一番最初に”とかを気にする乙女心を理解してほしいですけど……」

 

「理屈は分かった。理論も何となくだが分かる。でも共感は出来んわ。ドライモンスターで済まんな!」

 

「もう、酷い(ひと)

 

 

 凜花は頬を膨らませ、乙女心に共感を示さない虎太郎をジト目で睨んだ。

 

 しかし、虎太郎は微笑むばかりである。

 初めてや一番になど興味はない。初めての相手だろうが、最後の相手だろうが、処女だろうが、非処女だろうが、彼には等しく女だ。

 女が拘るのは可愛げで済むが、男が拘るなどみっともない上に情けないとすら考えている。

 他人の手垢が付いているのは我慢ならないが、そんなものは己自身が洗い流し、己自身の色に染め上げてしまえばいいだけの話。

 男としての自分に自信がないから、下らない瑣事に拘る。過去にあった出来事すら受け入れ、愛してやるのが男の務めと結論していた。

 

 何よりも、凜花がチョーカーを気に入った理由は共感こそしないものの理解できている。

 

 凜花の腰に手を回し、壊れものを扱う繊細さで抱き寄せた。

 

 

「可愛いなぁ。そのチョーカーが好きなのも、オレのものになった証みたいだからだろ? 本当に可愛い奴め」

 

「ん、んもぅ、何でもお見通しの癖に、共感だけはしてくれないんだから……」

 

「共感は誰にもしないね、オレは。だけど、普段からピアスとか刺青とか首輪とか、そういう言葉に、お前はいい反応をするからな」

 

「だって……」

 

 

 不知火ほど、女と成熟している訳ではなく、男を誘い魅了する術も知らない。

 ゆきかぜや凜子ほど、虎太郎との思い出も、積年の思いも持っていない。

 

 だからこそ、虎太郎の女としての証を目に見える形で持って置きたい。凜花の、女としての自信の無さと不安の裏返しであった。

 

 

「ハ。いやなに、そんなに心配する必要はないぞ。まだまだオレ好みに仕込んでやるからさ」

 

「はぁ……本当、馬鹿みたい。そんな台詞で頭を撫でられただけで、嬉しくなってしまうなんて」

 

 

 心音を確かめるように虎太郎の胸に耳を当て、身体を預ける。

 優しく、慈しみながらも宥めるような手付きで頭を撫でられ、抱きしめられただけで、悩みも全て吹き飛んでしまう。

 余りにも単純で短絡的な自分を馬鹿馬鹿しいと罵りながら、腕を振り解くこともせず、女が満たされていく感覚に身を委ねる。 

 

 暫らく、虎太郎は凜花の撫で心地や抱き心地を楽しんでいた。

 対魔忍として練り上げられた凜花の手足は既に鈍器と化しており、掛け値なしの全身凶器だ。

 

 だが、女らしい肉付きが失われた訳ではない。

 胸や尻は凜子にも劣らず、若々しくも瑞々しい、まだ熟れていない脂肪がたっぷりと乗っている。

 鈍器である手足にも、雄を楽しませるために、喰い千切りたくなるような柔らかな脂肪と筋肉しかない。

 凶器でありながら女体。相反する要素を有する身体は、虎太郎の獣欲を溜まらなく刺激してくる。

 

 凜花も、また欲情を滾らせていた。

 厚い胸板と太い腕と手足。女のものとは明らかに異なる武骨さを有した、牝を征服する牡の身体。

 虎太郎の逞しい肉体に包まれ、そのまま手折られるように抱き締められると、全身が粟立った。

 

 何度、抱きしめられても不思議に思う。

 鍛え過ぎて、すっかり人間らしさなど失っていると言うのに、どうしてああも繊細な動きが出来るのか。

 

 

(……あぁ、旦那様、あんなに楽しそうな顔をして、凜花ちゃんも、あんなに嬉しそうに)

 

 

 息を顰めながらも何度となく生唾を飲み込み、ワイトは事の推移を見守っていた。

 既に床に両膝を突き、自分自身の惨めさと嫉妬、目の前の光景をオカズに、自慰に耽ろうとしている。

 

 虎太郎と凜花はキスを交わそうとし、ワイトが秘所に指を伸ばし始めた時――

 

 

「…………ふふ」

 

「――――ッ!」

 

 

 ――一瞬だけ、凜花とワイトは目が合った。

 

 

「あっ、おい」

 

「あら、いいじゃありませんか。一人だけ仲間外れなんて、そんな子供染みた真似はどうかと思いますけれど」

 

(ただ遊ぶだけならそうだが、今からするのは別の事なんですけどねぇ……)

 

「――――え? あ、あぁっ!」

 

 

 虎太郎の静止すら聞かず、凜花は動いていた。

 右腕の手首から肘までかけて煙に変えると、伸ばした右手で寝室の扉を開け放つ。

 扉の向こうに居たワイトは、驚きの声を上げて蒼褪めた。

 

 扉の角度と視線から、ワイトには勝手に扉が開いたようにしか見えなかったものの、重要なのは其処ではない。

 虎太郎の寝室で行われようとしていた秘め事を覗いていた事の方が、よほど重要だ。

 少なくとも真っ当な感性に従えば、何事であれ覗きなどされて気分の良い人間など居らず、況してや性交ともなれば尚の事である。

 

 

「ほら、ワイトさんもこっちに来て」

 

「えっ、あ、えぇっ! ま、待って、凜花ちゃん!」

 

(やっぱ、こうなるかー…………なるよなー、ノリノリだったもんなぁ)

 

 

 凜花は、ワイトの手を引いて廊下から寝室へと連れ込んだ。

 ワイトの方は驚きと混乱から立ち直れておらず、抵抗など出来よう筈もなかった。

 

 虎太郎はゆきかぜの思惑通りに付き合った事から。

 凛子や不知火も口では何のかんのと言いつつも、他人(ワイト)に自らの痴態を見られて悦んでいた事から。

 

 いずれはこうなるとは踏んでいた。

 こうやって、なし崩し的に此方側(ハーレム)へと引き入れてしまうのが、ゆきかぜの狙いだった。

 虎太郎としては、なるべくなら狙い通りに事が進まない方が喜ばしかったが、なってしまった以上は仕方がない。

 

 

「ゆきかぜちゃんや凜子ちゃんにも、聞きましたよ? ふふ、ワイトさんたら、私達のSEXを覗いてた、って」

 

「………………ッ」

 

 

 ベッドに腰を下ろした虎太郎の前にまで連れてこられたワイトは、凜花の一言に顔を真っ赤にして俯いた。

 自分の不様な嫉妬と惨めな恋慕からの覗き見を知られていた。もしかしたら、自慰をしていた事すらも知られているかもしれない。

 

 ワイトはそこまで考え、怒りの表情をしているであろう虎太郎を恐る恐る見れば、どういう訳か、困った表情をしていた。

 

 虎太郎の表情は、よりワイトを追い詰めた。

 怒りをぶつけられるのなら、まだいい。当然だ。見てはいけないものは往々にして存在し、見られたくないものは誰にとて存在している。

 けれど困った顔をされては、自分の何がいけなかったのか、まるで分からない。

 

 

「だ、旦那様……も、申し訳、ありません。お二人の邪魔を……」

 

「別に、気にしなくていい。それにオレは機嫌が悪いんじゃなくてだな。ただ、なんだ、あー……」

 

 

 必死で言葉を選ぶ虎太郎の姿に、ワイトは涙を滲ませる。

 虎太郎を主人と認識し、絶対の存在としている――いや、正確には“された”か――彼女にとっては、自分が主人を困らせる事実など、死にたくなるほど気分を重くさせる。

 

 ごめんなさい。すみません。申し訳ありません。

 自分の何が悪かったのかも分からないが故に謝罪するしか手段はなく、追い詰められたワイトは言葉としてすら発せずに項垂れるばかりだ。

 ただでさえ、主人に迷惑をかけている。その上で、この様だ。彼女の追い詰められようも分かろうというモノ。

 

 その時、助け舟を出す(地獄への道行きを示す)ように、凜花はワイトの後ろに回り込んで両肩に手を置くと悪魔の如く囁いた。

 

 

「ワイトさん、愛しい旦那様にご迷惑をかけるのが、そんなに嫌ですか?」

 

「……………………」

 

 

 その言葉に、ワイトは無言で頷いた。

 

 

「なら、簡単です。虎太郎さんに迷惑をかけずに、この場を収めるには――――虎太郎さんの女になってしまえばいいのよ」

 

「いや、あの、凜花さん? それ、何の解決にもなってねーですよねぇ……?」

 

「あら、何処がです? 虎太郎さんは自分の女を同時に愛す。私達は二人同時に愛してもらう。当然の営みです」

 

(当然でもねーし、迷惑もなくなってないんですが凜花さんんんんん!!!)

 

 

 どう考えても、詭弁暴論の類だ。

 ワイトが虎太郎の女になったところで、覗いていた事実が、虎太郎に迷惑をかけている事実が消える訳でもない。

 

 ただ、理論や倫理を差し引いてみれば、決して間違ってもいない。

 虎太郎の女となれば、嫉妬から他の女との情事を覗き見ても良いことになり、迷惑をかけても良い存在となる。事実は消えないが、事実が変わるのだ。

 

 

「地獄への道行きは善意で舗装されているってのは本当だったんだなぁ……」

 

「ふふ、それを言うなら、地獄ではなく天国でしょう?」

 

 

 にっこりと悪魔染みた囁きに似合わない、何の迷いも悪意もない笑みを浮かべる凜花。

 その様子に虎太郎は片手で顔を覆った。分かってはいたが、女という生き物は、手に負える生き物ではないと改めて思い知っていた。

 

 

「…………………………す」

 

「ふふ。ワイトさん、そういう時は、はっきり言わないと相手に伝わらないわ」

 

「だ、旦那様の女になります、…………して、下さい」

 

「おぉ、もう……」

 

 

 ワイトは涙を浮かべながらも、自らの欲望を満たしつつ、主人を悦ばせる道を選んだ。

 凜花は、よく出来ましたとばかりに祝福の笑みと共に手を叩き、虎太郎は懐に飛び込んできた厄ネタに頭を抱えた。

 しかし、これはこれでワイトの選択には違いない。彼としても、その選択を否定はしたくはなかった。

 

 

 

「じゃあ、早速♪」

 

「もう、好きにしてくれ。ワイトも後悔するなよ」

 

「し、しません。私が選んだ、事ですから……」

 

 

 些か以上に、他者の思惑が挟まれた選択が彼にしてみれば面白くない。

 始まりは桐生 美琴が。道程はゆきかぜを筆頭とした自分の女が。最後の決定だけがワイトによるもの。

 

 虎太郎も、全てが全てワイトが望んでいたのであれば、こうも抵抗しなかっただろう。

 だが、桐生 美琴がいなければ、そもそも出会っていたかも分からず。ゆきかぜ達が道を示してやらねば、この結果には至らなかっただろう。

 

 そうこうしている間にも、凜花はワイトを虎太郎の前に座らせ、自身は虎太郎のズボンと下着を丁寧にずり下ろし、準備を整える。

 

 

「――――ひぃっ」

 

「初々しい反応。とってもキュートですね」

 

「可愛いかは兎も角、そりゃそうだろ」

 

 

 露わになった男性器に、ワイトは息を飲むような悲鳴を上げた。

 既に臍まで反り返り、いきり立っていた剛直は、亀頭はぶくりと膨らみ、幾本もの血管が浮かび上がり、別の生き物のように脈動している。

 

 目の前に現れた怒張は、ワイトの女としての本能を刺激してくる。

 今から組み伏せられ、屈服させられるであろう現実に明らかな恐怖と隠しきれない期待が見て取れた。

 

 

「では、まず、ご奉仕をしましょう?」

 

「……ご、奉仕」

 

「ええ。愛しい旦那様のモノよ。ワイトさんなら出来るわ」

 

 

 凜花は、既にワイトの気質や性癖を見抜いていた。

 彼女自身とよく似ている。愛しい相手に奉仕する事自体に悦びを見出し、牡に組み伏せられるのを望む雌犬気質。

 だからこそ、ワイトを自分の意志で引き込んだ。身体をいくら慰めても、悶々としたワイトの気質と心は満たされない。その辛さ、その苦しみを理解しての行動だ。

 

 

「まずは、舌で全体を舐めてあげて。涎をたぁっぷり塗してね」

 

「舌で……」

 

「それから虎太郎さんの反応を見ながら。何処が気持ちいいのか、何処で悦んでくれるのか、一つ一つ覚えるの」

 

「は、はい……♪」

 

 

 虎太郎を悦ばせる。

 その一言でワイトの目の色が変わった。例え、記憶を失って何をしていいか分からずとも、主人への奉仕であれば躊躇はなかった。

 

 ビクビクと脈打つ牡槍の根元を、両手でそっと掴む。

 手から伝わってくる焼けた鉄棒のような熱、柔らかさと硬さが同居した奇妙な熱、漂ってくる牡の匂いに、キュンと子宮が戦慄くのを感じた。

 

 

「んれぇ……ちゅ、ちゅぅ……ぴちゃ……んぷっ……レロ……」

 

 

 まずは亀頭から。

 舌に唾液をたっぷりと乗せ、満遍なく塗りたくっていく。

 口と鼻から脳を直接貫く牡の臭気に、ワイトは全身が熱くなるのを感じ、ぶるりと震える。

 頬を染めた表情は明らかに発情した雌犬のそれであったが、それ以上に虎太郎への奉仕の喜びで満ち溢れてた。

 

 

「そう、上手。そうしたら、カリや裏筋――色んなところに出っ張りや溝があるでしょう? そこに舌を這わせるの、凄く敏感だから優しく、丁寧に」

 

「それから、舌を尖らせろ。そっちの方が気持ちいい」

 

「ふ、ふぁい、こうでふかぁ……? ん、んれぇ……ちゅっぱぁ……ん、レろ、んれぇぇ……」

 

 

 二人の指示通り、舌を尖らせ、剛直のあらゆる部分に這い回らせる。

 カリ首の溝をナメクジのように這い、裏筋を擦るように上下し、鈴口を舌先でぐりぐりと押し開く。

 その度に、虎太郎の微細な表情の変化を読み取り、ワイトは舌を這わせると力加減、どの方向からが好みなのかを覚えていった。

 

 決して目を逸らさずにの口奉仕に、虎太郎はワイトの頭を撫でた。まるでよく出来た飼い犬を褒める手付きだ。

 頭を撫でられる度に、ワイト自身も驚く程に奉仕は熱が籠り、淫らさが増していく。

 

 唾液塗れの剛直に頬擦りをし、舌の動きを見せつけ、必死になって虎太郎の弱点を探る。

 記憶喪失だと言うのに、稚拙な舌使いだと言うのに、奉仕で覚える悦びと見せる淫靡さは娼婦も顔負けであった。

 

 

「じゃあ、そろそろおしゃぶりをしてあげて。歯を当てないように気を付けて、唇でチンポを扱いて、口の中では見つけた気持ち良くなってくれる場所を刺激してあげると、もっと悦んでくれるわ」

 

「わふぁりまひぃたぁ……んぁんむ♪」

 

 

 ギリギリの所で形を整えていたワイトの顔が崩れた。

 亀頭の先を唇で包むとおしょぼ口で、根元に向かって飲み込んでいく。

 

 

「初めの内は、あまり無理をしないで。無理をして戻してしまったら、虎太郎さんが心配するから」

 

「ん、んうんう……ジュル、んぷっ……うぷっ……んじゅじゅ……」

 

 

 更に濃厚になった雄の匂いに蕩けながらも、凜花の言葉にワイトは頷いた。

 先程、舌で覚えた亀頭とカリ首の弱点を中心に、口全体を使って奉仕する。

 

 余りにも熱すぎる肉棒の熱。余りにも濃厚過ぎる雄の精臭。

 どちらもワイトを興奮させるには十分すぎる威力を秘めていたが、それ以上に虎太郎に対して奉仕を行っている事実がワイトを昂らせる。

 

 

(あ、あぁ、旦那様、あんなに笑って……チンポもビクビク震わせて……嬉しい、ワイトのお口でもっと気持ちよくなってぇ♪) 

 

「ンボ……んぶっ、じゅるるっ、ぢゅぅぅぅううっ、じゅぶぅぅうぅっ」

 

 

 記憶を失い処女同然でありながら、些か以上に熱の籠った熱奉仕。

 その浅ましさ、その少女の無知と娼婦の妖艶さを合わせたギャップに、虎太郎は笑みを浮かべ、凜花は嫉妬から爪を噛んだ。

 

 ワイトの両目は既に凜花も映っておらず、どのようにして剛直と虎太郎を悦ばせるかしか頭になかった。

 

 

「いいぞ、ワイト。無理はしなくていいが、咽喉も使って扱いてみろ」

 

「じじゅぶ……ぢゅ、ぽんっ…………ふぁい、旦那しゃま、お任しぇ、下さぁい……んぁぁ、んぐぐぐっ!」

 

 

 一息に根元まで。

 ワイトは虎太郎の言葉通りに、舌と口だけでなく、咽喉まで使って奉仕を開始する。

 

 明らかな異物を飲み込んだ咽喉は大きく膨れ、何処まで飲み込んでいるか分かるほどだ。

 窒息と嘔吐(えず)きに、ワイトは涙を浮かべるが、決して奉仕を止めようとはしない。

 

 挟んだ口の間から唾液と共に舌が見え隠れした。口の中では舌がどれほど肉棒を這い回り、悦ばせているか分かろうというものだ。

 

 

(あはぁ♪ 旦那様のおチンポ、咽喉でキュッキュすると、ビクビクって震えて、ぴゅっぴゅってぇ……♪)

 

「んぶぶっ、ぢゅぱぁ、んぐぅっ、んぼっ、ぶむっ、んむぅぅっ~~~~!」

 

 

 どう考えた所で苦しみしかない行為であったが、ワイトはうっとりと目尻を垂れ下げ、奉仕の悦びを享受していた。

 

 しかし、その瞳は酸欠の影響か、次第に虚ろになっていく。

 虎太郎は呆れ、凜花が心配になるほど口奉仕に熱中していたが、限界は近いようだ。

 

 

「そろそろ出すぞ。無理はするなよ」

 

「ん゛ぅううぅぅうぶぶぅ、ぢゅぶちゅぅぅぅううううぅぅぅっ!!」

 

「…………っ」

 

「ごぶぅうぅううっ、うぅっ、ぐむむぅぅううっ!!」

 

(出てる! チンポからびゅくびゅく! 熱いの、濃いの、出てるぅぅぅううぅ!!)

 

 

 涙を流しながら、大きく目を見開きながらも、弾けた剛直から迸る精液を受け入れて飲み下す。

 ゴクゴクと咽喉を鳴らし、咽喉に直接吐き出された雄汁を胃へと収めるも、余りにも量が多過ぎた。

 飲み切れなかったザーマンは逆流し、口だけではなく、鼻からも垂れ、ボタボタと床に落ちていく。

 

 途方もない苦しみであろうが、ワイトはこれ以上無駄には済まいと懸命に飲み込み、同時に咽喉で締め付け、更なる射精を促す。

 虎太郎に従う悦びと伴う絶頂が、苦しみを大きく勝っている。死霊騎士の本能、桐生 美琴に施された洗脳改造が思う存分に効果を発揮していた。

 

 

「げぶっ、んぐぅぅっ、んじゅるるるるるる、ぽん♪」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「けぷっ……ひゃひっ、らいじょうぶっ、れす……うぶぅっ、旦那しゃまぁ♡」

 

 

 最後の一滴まで射精させた怒張から残った精液を吸い出したワイトは、恍惚とした一言と共にくるんと瞳を上に向け、虎太郎の股間に顔を埋めて気を失った。

 酸欠と嘔吐感。無理をしたツケだ。並みの肉棒と射精であればいくらでも耐えられようが、類を見ない巨根と絶倫である虎太郎の前では無理もない。

 

 

「頑張りましたね、ワイトさん。虎太郎さんも労ってあげてください」

 

「ったく、お前が唆すから、こうなったんだぞ?」

 

「だって、辛いですもの。自分でもよく分からない気持ちを抱えて、一人で悶々とするなんて。私だって、そうだったんですから」

 

「そのよく分からない気持ちがお前と違ったら、大惨事以外の何物でもねーんですが」

 

「その時は、虎太郎さんの魅力でメロメロにしてあげてください」

 

「めんどくせー」

 

 

 にっこりと、自分の判断が間違いであったなど微塵も疑っていない笑みを浮かべる凜花に、虎太郎はやる気のない悪態で返した。

 しかし、気を失ったワイトにベッドに引き上げ、精液で汚れた顔を丁寧に拭う姿は、自らの女の優しさに満ちている。

 

 凜花も分かっている。

 起点が何であれ、虎太郎が自身に向けられる好意を無下に踏み躙ることは決してないと。

 だからこそ、嫉妬を抱えながらも、安心してワイトを自分と同じ場所に引き入れたのだ。

 

 ありがたくもない。世間一般で見れば歪んですらいる信頼に、虎太郎は辟易としながらも、迷いはない。

 

 

「じゃあ、ワイトを部屋に運んでくる。よく我慢したな。次はお待ちかねのお前の番だ」

 

「うふふ、凄い絶倫。我慢なんて、もう限界。虎太郎さんが仕込んだお口マンコで、たっぷりご奉仕します」

 

 

 ワイトをお姫様抱っこの形で抱え、何一つ身に着けずに虎太郎は立ち上がる。

 彼の宣言に、凜花は妖艶な笑みを浮かべると、虎太郎の逸物がどうすれば悦ぶのかを覚えた舌と口を見せつけた。

 

 

「ソイツぁ、楽しみだ」

 

 

 虎太郎は笑みを深め、いきり立った肉勃起をビクリと脈動させるとワイトを抱えて、彼女に宛がった部屋へと運んでいく。

 

 暫らくして、深い嫉妬と耐え難い我慢を耐えた雌犬の激しい奉仕の水音と組み伏せられる屈服の悦びからなる嬌声が、明け方まで寝室に響き渡ったのは言うまでもない事だ。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 時は僅かに遡る。虎太郎がワイトと出会って一週間が経った深夜。

 場所は八王子は高尾山のほど近く、美琴が研究施設にしていた洋館である。

 美琴の作動させた自爆装置によって洋館も地下の研究施設も、原型を留めずに崩れてしまった。

 政府の後始末部隊も、虎太郎が量産した死体だけ回収し、それ以上の情報は得られないと一時的に放置する運びとなっている。 

 

 誰も居らず、地面には焼け跡と血痕が残るのみの、その場は些か以上におどろおどろしい。

 種類の分からぬ虫の泣き声だけが響き、誰一人として近寄ろうとしない土地に、二つの人影が現れる。

 

 どちらも美女と呼ぶに相応しい風貌であった。

 月光に晒された美貌は、まるで作り物のよう。感情や表情は分かるのに、生気というものがまるで感じられない。

 

 片や胸元と臍、背中を露出したドレス。片やシースルーのベビードール。

 どちらも人前に出る女の格好ではない。それもその筈、両者ともに人間ではなかった。

 

 血の気の通わぬ、人とは異なる青い肌。 

 ドレスの女は黒い眼球に緑の瞳と光彩を持ち、ベビードールの女は首を断たれたかのような傷跡があった。どちらも人間的な特徴とは言い難いだろう。

 

 

「――――此処、ですね」

 

「今の今まで行方知れずだと思えば、このような場所とはな。一体、何があった?」

 

「さあ? でも、彼女の瘴気がこの場に残っている。何があったかはいざ知らず、彼女が能力(ちから)を行使したのは、間違いないでしょうね」

 

 

 彼女、瘴気、能力。

 これだけのワードがあれば、この場で起こった出来事を知る者ならば、気付くだろう。

 

 彼女とは、ワイト。

 瘴気とは、死霊騎士の力の源。

 能力とは、死者を蘇らせるレイスの持つ種族としての力。

 

 そう、この二人もまたワイトと同じく、屍の王に仕え、屍の王を全ての頂点と信ずる死霊騎士である。

 

 

「ふん、まあいい。本人に直接問い質せば済むことだ。奴の瘴気を辿る」

 

「ええ、勿論。彼女の能力は、この下賤な世界でも、我々の目的にとっても、とても有用ですからね」

 

「「我等が主、“屍の王(レイスロード)”の命の下――――“不死の王(エドウィン・ブラック)”に死の制裁を」」

 

 

 死霊騎士ウィスプ、死霊騎士デュラハン。

 人の形をした災厄。歩く生物災害(バイオハザード)。屍の王の動く玩具(お気に入り)

 

 不死の王に挑む為、姿を消した仲間(ワイト)を求め、ゆっくりと、だが確実に、虎太郎とワイトへと忍びよろうとしていた。

 

 





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