※この作品はR-18です。

対魔忍アサギ 苦労人奮闘記   作:HK416

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『突然の助っ人で吹き出る疑問と不満を黙らせるのも苦労人の仕事のウチ』

 

 

 

 

「という訳で、オレの遠い親戚兼桐生 美琴の被害者だった死霊魔術師のワイト・ドラウグルだ。よろしくやってくれ」

 

「よろしく」

 

『……………………』

 

 

 吸血鬼対策協議まで残り15日。

 助っ人を呼んだ明くる日、屍の王からの襲撃もなく、ワイトは何の問題もなく仮設本部へと辿り着いた。

 

 任務に当たる全員が集う中での虎太郎の紹介に、ワイトはにこやかに微笑しながら頭を下げた。

 その様を、紫は何とも言えない微妙な表情で眺めており、生徒や同僚達は困惑の表情を隠しきれずにいた。 

 

 死霊魔術師(ネクロマンサー)

 道を外れた魔術師の中であっても、更に道を外れた者達の総称。

 死体や霊魂を操る魔術に長け、人魔の見境なく死体に仮初の命を吹き込んで使役する。生と死の間を見据え、その淵を歩き続ける異端者。

 

 実際に、死霊魔術師と死霊騎士が死体を操る過程(プロセス)はほぼ同じと言っても過言ではない。

 死霊魔術師は魔力と高度な術式を死体に吹き込むことで操る。死霊騎士は屍の王から賜った瘴気を死体に吹き込むことで操る。

 死霊騎士の恐ろしさは、死霊魔術師が長年の研究と修練によって身につけた外法を、いとも簡単に成立させること。

 それほどの外法を簡略化させられる屍の王が、どれほど図抜けた存在か、分かろうというものだ。

 

 無論、そんなものはワイトが死霊騎士としての力を行使するために用意した表向きの設定。

 過程が同じであれば、死霊魔術や死霊騎士に造詣の深い者でなければ見分けが付かない。

 屍の王との接触が少ない対魔忍の勢力では、まず見破ることなど出来ず、これを見破れると断言できるのは、あらゆる魔術に長け、魔界の事情に精通しているノイ・イーズレーンくらいのもの。

 死霊騎士を知る魔族であっても、ワイトは死霊騎士であり不死者でもある第三の存在、死霊騎士とは一線を画している故に違和感を覚えはしても、見破ることはまず不可能だ。

 

 

「…………あのぅ、こういうのは、アリ、なんですか?」

 

「アリだろ。なぁ、紫?」

 

「……………………不本意ではあるがな。事実、魔族、米蓮に比べて我々の総戦力は劣っている。私も、一部の魔族を見逃す見返りとして情報を受け取ることもある。現場レベルの判断で手を組むことも少なくはない」

 

 

 当然の疑問を口にしたのは桃子だった。

 虎太郎のからかうような言葉に、紫は大きな溜め息を吐きながら事実を口にした。

 

 残念ながら対魔忍の諜報能力は、米蓮に比べて大きく劣る。

 諜報の専門家が少なすぎるというのもあったが、それ以上に戦闘の専門家が多過ぎることも問題であった。

 まだ人魔が分かたれていた時代であれば、人界に存在する魔族の数は少なかったが、エドウィン・ブラックの台頭と各地に点在する魔界都市の存在によって、魔族の数は爆発的に増した。

 かつてであれば、対魔族戦闘の専門家さえ作っておけば、後手に回ったとしても対処は容易であったが、今現在では状況も戦力図も大きく変わっており、常に先手を突いて起きたいのが実情。

 

 全てはアサギ以前の各対魔忍当主の楽観視と時代の流れについていけなかった柔軟性の低さが原因である。

 時代の変遷期に頭目となったアサギは犠牲者の側だ。尤も、アサギ自身も頭目として立たされるまでは、気付かなかった事実であるが。

 

 そのような経緯から、アサギも魔族や米蓮と手を組む行為は基本的に黙認する。

 相手が一時であっても信頼・信用に値する相手であれば、推奨するほどだ。それほどまでに苦労しているのだ。

 

 生徒達以外の反応は、まちまちだった。

 黒百合や碧などは、潜入を中心とした諜報活動を主とするだけあって涼しい表情だ。その心は兎も角として、魔族との付き合いは否応無しに体験している。

 また変遷期の諜報部門の人手が更に少ない生き地獄を潜り抜けてきただけあって、この程度で難色を示さない。

 

 対し、あさつきや燐と言った戦闘専門の対魔忍は明らかな難色を示しているものの、口には出さない。

 此方も、遠目ではあるがカーラなどの姿を見ているが故に、自陣の戦力不足を痛感していたからだ。

 

 厄介だったのは、虎太郎の実力に勘付いている花蓮と翡翠だった。

 

 

「…………助けた相手が遠い親戚で、死霊魔術師なんて、都合のいい話ですね」

 

「同意、します」

 

「お前らみたいな勘のいいガキは嫌いだよ」

 

「……私も偶然にしては出来過ぎと思っているけれど」

 

「事実なんだから仕方ない。オレも、何代か前の当主殿の兄弟が後継者争いに破れた腹癒せに海外に渡って死霊魔術師やってた上、吸血鬼相手に戦っていたなんて知りようがないわ」

 

 

 明らかな疑惑の視線を向ける二人に、いけしゃあしゃあと嘘を付くワイトと虎太郎。

 

 ワイトは元々、瘴気を使って対象の記憶と容姿を奪い、成り代わる変化の能力を有していただけあって演技派だ。

 虎太郎など多くの対魔忍を騙し続け、元ふうまの跡取りという過去を隠し通している。

 紫は二人の打ち合わせ無しのアドリブ合戦に、呆れから口を開けてしまったほどである。

 

 加えて、嘘の内容もまた巧い。

 海外での活動を主にしていたことで、ワイトについて自国内で調査を行ったとしても、何の情報も出てこないとしても不思議ではない。

 また弐曲輪家は、表向きはふうまの傍系も傍系の家系。ふうま粛清の際にいち早く井河・甲河に下り、まだ幼い虎太郎の命だけは、と自刃した設定である。此方も架空の家系であり、家系図などは存在していない。

 

 地味に嘘の中へ事実を混ぜているが、その事実も見方を変えれば嘘になる類のもの。

 どれだけ後を追おうとも、ワイトが死霊騎士であったという事実、虎太郎がふうまの跡取りであった事実を前提としなければ、不可能だった。

 

 花蓮も翡翠も、違和感と疑問以外の情報も持ち得ない故に不承不承と口を閉ざす。

 

 

「私は、それで構わん。だが、どうするつもりだ。相手は仮にも吸血鬼の女王とその側近、日本の狩人の最高峰。戦力的に、まだ足りんだろう」

 

「だから、もう一人呼んでいる。オレが個人的に貸しのある相手だ」

 

「何? 誰だ?」

 

「もう来てる」

 

 

 生徒達ですら感じていた不安と疑問を、零子が口にする。

 彼女の口振りに不安こそなかったものの、仮にも虎太郎の正体を知っている一人。甘い戦力分析をする男ではないと分かっているからこその疑問であった。

 

 しかし、虎太郎も指摘されるのを見越して、既に準備を整えていた。

 彼が親指で指し示した先。ホワイトスクリーンを見易くするために暗くした部屋の片隅に、誰かが立っていた。

 

 特徴的な尖った鉄兜。

 身体を覆う黒革のベストの下にはチェインが隠れており、その上からボロきれのような赤い外套を纏っている。

 左腕のみに手甲で覆われ、膝までを覆う鉄の具足は、彼等の使う剣技に由来してのもの。

 背中には巨大な両刃の大剣を背負い、右の脇腹には軛のような短剣を備えられていた。

 

 薄闇の中に溶け込むように、幽鬼の如く佇む誰かに、誰もが戦慄し、思わず武器に手をかけたほどだ。

 それほどまでに完璧な隠行だったのだ。誰かがその気なれば、もう既に自身達の首が胴体から切り離されていたと確信するほどに。

 

 何せ、こうして相対しているというのに、未だに気配というものが全く感じられない。

 少しでも目を離せば、そのまま消え去ってしまいそうなほどに存在感というものが希薄だ。

 

 

「な、何者だ……?」

 

「数年前、アミダハラが崩壊しかけたのは知っているか?」

 

「あ、あぁ。噂でしかないが……アミダハラの全ての組織がかなりの被害を被ったそうだが」

 

「そう、それ。それの原因が、コイツの正気を失ったお仲間でな。コイツはそれを止めるためにアミダハラを訪れたわけだが、偶々その場に居合わせたオレと協力して、何とかお仲間を討ち取ったわけだ」

 

 

 今より数年前、対魔忍全体――どころか、日本中の闇の組織に激震が奔った。

 

 アミダハラなどの魔界都市の深奥には、魔界へ繋がる穴があると噂されている。

 誰もが見たことがなく、誰もが馬鹿馬鹿しいとする与太話ではあるものの、増え続ける魔族の存在と確認され始めた数々の上位魔族によって、何の確たる情報もないままに事実であると判断せざるを得ない噂。

 

 彼の仲間は、その穴からある日、突然にやってきた。

 

 その瞬間から、アミダハラは地獄へと変わった。

 違法建築を繰り返した建物は倒壊して粉塵が舞い、普段は決して相容れない闇の住人達は、これはマズいと手を組んで諸共に惨殺された。

 老若男女の区別なく、人魔の見境すらなく、あらゆる者の悲鳴と怒号が飛び交う掛け値なしの地獄。

 

 何よりも困ったのは、アミダハラの外に居る様々な組織であった。無論、対魔忍もその一つ。

 世界の均衡がギリギリのところで保たれているのは、皮肉にも世界の均衡を崩した魔界都市が存在していることなのだ。

 

 今現在、魔界技術というものは魔界都市内部に集約されている状態なのだ。

 対魔忍にせよ、米蓮にせよ、組織の誰かが命懸けでそれらを持ち帰る、或いは闇へと葬るからこそ、混沌は一定の段階で一進一退を繰り返している。

 しかし、魔界都市という枠組みが一つでも破壊されれば、細々と流出していた魔界技術も拡散して止まらなくなる。そうなれば、世界の混沌と混迷は、最早、歯止めが効かなくなる。

 

 こればかりは、どの組織にも歓迎する事態ではない。

 対魔忍と米蓮の排斥派としては絶対に引き起こせない現実であり、米蓮の結託派であっても魔族に対して自分達の立場を築いていない現状では早過ぎる。

 

 結局、事は対魔忍や米蓮の秘密部隊がアミダハラの周囲を結託して包囲している間に終わり、最悪の結末だけは避けられた。

 アミダハラは今日も今日とて平常運転。大半の者は、その地獄のことすら忘れ、その日限りの享楽に耽っている。

 

 

「お前らが、コイツの名前を知る必要はない。何者かであるかも知る必要もない。今回限りの共闘だ。もっとも、共闘するのは紫とワイトだがな」

 

「…………それは、いくらなんでも」

 

「人界に何の興味もないのにコイツがアミダハラに残ったのは、オレへの借りがあるからだ。元々、魔界からコッチに来たのは正気を失った仲間を止めるためだけだったからな。それも最後の一人だった。この後は魔界に帰って、もう二度とこっちには来ないよ」

 

「それを信じろと言うのか、お前は……!」

 

「そんな保証が何処にある……!」

 

「だったら、お前が止めろよ。オレには無理。下手すりゃ、上位魔族でもぶった斬る本物だぞ、コイツは」

 

 

 虎太郎の語る言葉が真実だったにせよ、燐とあさつきは魔族の言葉など信じられないと声を荒げた。

 他の皆も、言葉にこそしなかったが同様であったのか、表情は険しい。

 

 幽鬼の態度は、本当に人間になど興味がないと感じ取れるほどに無反応であった。

 誰に悪意や殺意を向けられようとも何処吹く風。罵られようとも、疑惑を突きつけられようとも黙して語らない。

 余りにも興味のない素振りに、逆に裏切りなど連想できなくなってしまったほどだ。

 

 真実、彼は虎太郎への借りを返しに来ただけであり、今直ぐにでも魔界に戻り、失った仲間の鎮魂を行いたいのだろうと感じてしまう。

 

 結局の所、最終的に彼女達は幽鬼の助力を受け入れた。納得していたわけでも、信じたわけでもない。

 全ては虎太郎の口先三寸で、最後まで噛み付いてきた燐とあさつきを丸め込んだからであり、カーラ達の危険性を解き続けたからに他ならない。

 

 こうして、二人目の“この手の案件に精通した専門家”が集ったわけではあるが――――それは中身のないものだった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「全く、下手な芝居を打たせるな」

 

「完全に同意するわ」

 

 

 ワイトと幽鬼の紹介が終わった後、部屋に残ったのは虎太郎と紫、ワイト、黒百合、碧、零子の六人であった。

 同時に、ワイトの事情を正しく把握している人物達でもある。そして、幽鬼の正体についても。

 

 猿芝居に付き合わされた不満を漏らす零子と黒百合であったが、虎太郎は取り合わずに立ち尽くす幽鬼を間近で眺め続けているだけだった。

 

 昨日、ワイトが到着すると同時に黒百合、碧、零子はワイトの正体を明かされた。

 虎太郎がこうも簡単に事実を明かしたのは、三名が対魔忍になった当初からアサギ閥を貫いているからに他ならない。

 また忍の家系であるものの、加藤家、百田家、佐久家などのように既に一線を退いている先代が大きな力を持つ家系でもない。

 

 端的に言えば、三名は虎太郎に巻き込まれたのである。

 もし、ワイトの正体がバレた場合、アサギの失脚に巻き込まれ、虎太郎と共に粛清の憂き目に合うことだろう。

 実力は折り紙付きであるものの、家の後ろ盾がない故に、知らなかった、関係なかったを通せない。

 寧ろ、アサギ閥であることが長い故に、老人の暴走と妄執から自分の据えたアサギの後釜という自分の後釜の地位を盤石とするために命を狙われる可能性が非常に高い。

 

 とんでもない秘密をにこやかな微笑みと共に明かす虎太郎に、三人は頭を抱えたのは言うまでもない。

 こうなっては三人も、自分の身や自分の周囲を守るために是が非でも秘密を守らねばならない。

 

 もっとも、三人は不安ではあったものの、不満はない。

 黒百合と碧は彼女達の身に降り掛かった不幸から、何かとアサギに便宜を図って貰っている恩があり、また変遷期を血反吐を吐きながら潜り抜けた友情が生きている。

 零子は変遷期の後に対魔忍となった比較的新参に当たるものの、アサギへは深い尊敬を持つ。立ち位置的には紫に似ている。そもそも、アサギを裏切るという思考そのものがあるかも疑問だ。

 

 

「用意したマネキンに鎧まで着せて、其処までする必要が……?」

 

「単純な話ですよ、峰麻先生。オレはオレの正体を極力隠しておきたい。しかし、今回の件はオレが自ら動かなければならない。その為に必要な隠れ蓑だ」

 

 

 虎太郎が動かない幽鬼の兜を外すと、ツルリとした目も鼻も口もないマネキンの頭部が顕になる。

 

 幽鬼の正体は、単なるマネキンに過ぎない。この鎧を纏って戦い続けた魔族は、既にこの世にも魔界にも存在しない。

 虎太郎がある魔族から奪った“人形劇場”と命名した能力で操っていただけのこと。

 

 人形劇場はその性質上、操る数を増やすほどに人形は単純な命令しか受け付けなくなるものの、操る数を減らすほどに人形は虎太郎の思考のままに動くようになる。対象を一つに絞れば、人の癖までも再現可能となる。

 

 全ては自分が動き易くするための下準備に過ぎない。

 二人目の協力者と事情を知らない者に説明することで、作戦決行時に虎太郎の姿が見えずとも、まさか二人目の協力者として彼が戦っているなどと夢にも思わないだろう。

 自身の表向きの仮面を守りつつ、己を戦力として投入するために、回りくどい手を打ったのである。

 

 

「……でも、驚きました。まさか、旦那様が『不死隊』と戦ったことがあるなんて」

 

「不死、隊? お前は、これについて何か知っているのか?」

 

「知っている、というほどではないわ。魔界では有名だもの。もっとも、此処数百年はその名を聞いたことはなかったけれど……」

 

 

 ワイトの呟きを聞き漏らさなかった紫は、返ってきた言葉に目を丸くした。他の三名も同様だ。

 

 

 『不死隊』或いは『監視者』とも呼ばれる集団が、魔界には居た。

 

 その結成は遥か昔、魔界でも御伽噺の時代にまで遡る。

 

 魔界には“深淵”と呼ばれる勢力が居た。

 今となっては深淵の正体が何であるかを知る者は一人として存在しない。

 書物にも口伝にも残せないほどに悍ましい何かであったのか。魔族ですら忌避する何かであったことだけは間違いない。

 

 深淵は多くの魔族の勇者や英雄の犠牲、魔術師の命を賭した魔術によって封印され、魔界の奥底へと消え去った。

 しかし、深淵の力が弱まったわけではない。施された封印は完璧であり、決して内側からは解除することは出来なかったものの、深淵の特性こそが厄介であった。

 

 深淵はただ其処に存在するだけで生ある者を狂わせる。

 “深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ”。その言葉を体現するかの如く。

 深淵は封印の外にいるものを狂気に陥らせ、封印を解かせようという動きを見せた。

 

 その為に結成されたのが不死隊だ。

 深淵を封印した者の一人である天狼族が、結成に立ち会ったとも言われている。

 

 

「天狼族? 聞いたことがないが……」

 

「一説じゃ、人狼どもの始祖らしい。既に滅んだ、或いは魔界を去った種族だ。…………奴等はその狼の血を分け合って不死になったのさ」

 

 

 天狼族の血を分け合った不死隊は、その使命を全うし続けた。

 深淵の脅威を二度と地上へと顕現させぬために、時に神話級の魔族すら討ち果たし、時に一国をも滅ぼしたとされる。 

 ある種の呪いに突き動かされるかの如き姿に、特殊な能力ではなくその狼の如き剣技によって強大な敵を討ち果たす姿に、魔界の住人は恐怖した。

 支配階級の魔族であっても、彼等の行為を見て見ぬ振りを繰り返し、狙いだと分かれば絶望から自ら命を断ったとも言われている。

 

 だが、永き時は、彼等の魂を腐らせた。

 本物の不死を有する存在は、魔界でも稀だ。元より不死ではなかった彼等に耐えられずはずもなく、また相手をしていた深淵の狂気は彼等にも手を伸ばす。

 

 一人、また一人と正気を失っていき、仲間によって討たれる日々。

 彼等は徐々に仲間を失い、また自らも狂気に陥り、仲間へ討たれていく。

 何時の間にか、不死隊は徐々に忘れ去られ、伝説へとなっていた。

 

 アミダハラへ現れた二人が、最後の生き残りだった。

 

 

「アミダハラの話は概ね事実だ。正気を失った仲間を眠らせた最後の一人も、正気を失ってオレが終わらせた」

 

「…………よくもまあ、殺せたものだ」

 

「オレの方が圧倒的に弱かったが、やりようなんていくらでもあるもんだ。それに、オレも短い間だが奴等の剣技を叩き込まれた。身に付かなくても、動きを予測するのには一役買うとな」

 

 

 一体、虎太郎と最後の一人にどのようなやり取りがあったのかは、聞くだけの彼女達には分からない。

 ただ、彼にしてみれば珍しく、柔らかい笑みを浮かべている。それだけで、余人が立ち入るべきではないと分かるだろう。

 

 虎太郎は不死隊の大剣と特徴的な短剣を手に取る。

 大剣を握った右手を前に突き出し、短剣を握った左手を右肩の付近へと持ってくる。

 

 これが不死隊の儀礼。

 虎太郎は彼等の使命も理念も受け継がなかったが、その技だけは託された。

 

 

剣技(これ)だけは、託す誰かを見つけてくれ。何時か、必要になる時が来る。それに、約束なんだ』

 

 

 最後の一人は、自らの破滅を受け入れた上で、そう語った。

 誰との約束だったのかは、虎太郎は問わなかった故に分からない。それを知る者は、最早、この世の何処にもいない。

 

 不死隊は既に存在はせず、その理念も使命も無駄になった。

 だが、その技は残したかったのだろう。自分達が生きた証ではなく、これから深淵の脅威に晒されるであろう誰かを守るために。

 

 その精神にこそ、虎太郎は敬意を払った。

 彼等が終わった後も鍛錬を続け、僅かではあるものの剣技を己のものとしたのは、そうでなければ説明がつかない。

 

 

「じゃあ、黒百合と峰麻先生は、昼間は街の監視を、夜はねぐらの監視についてくれ」

 

「了解。暫くは睡眠不足が続くわね」

 

「まあまあ、眠れないわけではないですから」

 

「そうだよ! オレみたいに不眠不休じゃないだけマシだよ!」

 

「アンタみたいになれないわよ、私も碧も……」

 

 

 黒百合と碧は虎太郎の台詞聞いて、彼が馬車馬の如く働いている事実に、顔を引き攣らせた。

 

 これから二人は一般人を装って街へと向かう。この街の闇で蠢いている組織を探るためだ。

 隼人学園のお膝元である街とあれば、闇の組織もそう簡単には近寄らないようにも思える。

 しかし、隼人学園の監視も、人が行っている以上は穴がある。どれだけ監視をしようとも、ゴキブリのように入り込むのが闇の組織というものだ。

 

 グラムとそれらが結託している可能性も否定できなかったために、こうして探らせている。

 とは言え、それほど大きな組織は絡んでいない。ノマドの影も形も見えず、あるのは組織とも呼べない麻薬の売人と奴隷商の寄り合いどころだけだ。

 

 

(さて、と。これで後は、作戦決行の日時まで何事もないことを祈って準備を整えるだけだが……そうも行かねぇんだろうなぁ、これが)

 

 





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