スキルはバリバリの防御型。最近のスキルは属性とか関係なしですなー。
よくよく見るとステータスも半端ねぇ。防御力だけ見れば、ほぼほぼLRクラスって言うね。このインフレは何処まで続くのか……!
そして、今回はエロと言ったな。アレはウソだ……!
いや、本当に済みません。思った以上に筆が乗らなかったんだよぉ!
エロはね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだと思うんだ。という訳で、エロは持ち越し持ち越し~!
では、どぞー!
「…………ぅ、……く……」
深海から浅瀬へと急速に引き上げるかのように、東は意識を覚醒させた。
酷い眠気と吐き気、痺れる手足に困惑するものの、それも一瞬のこと。
意識を失う直前に見た光景を思い出し、自身が誘拐された事実を自認した。
周囲を見回せば、薄汚れたコンクリートの壁に覆われており、剥き出しのパイプが乱雑に繋ぎ合わされている。天井からは裸の電球が光を灯しながら揺れている。
湿気の多さと部屋の造り、水道から建物全体に水を送り込むためのポンプが置かれた地下室だったと言うのが分かる。
積もった埃や壁や天井の汚れから、かなりの年月放置されていたのも察せられた。
自分が椅子に座らされた状態で眠らされていたことに気づき、立ち上がろうとするも両手は後ろ手に、両足首は椅子の足に手錠で繋がれていた。
手錠を鳴らして脱出を試みようとするも簡単に抜け出せる類のものではなく、無駄な体力の消耗を避けるために一旦は諦める。
(最後に飯を喰ったのは学園を出る前だから、9時くらいか? 腹具合からして、ちょうど次の日の10時ってとこか)
努めて冷静に、東は自身の置かれた状況を把握していった。
こうして窮地に立たされるのは、一度や二度ではない。自身の慢心や不注意から、仲間に迷惑をかけたこともある。
だが、今回ばかりは救助を期待できない。
北絵の様子は何やらおかしかった上に、同僚達には何も言わずに出てきてしまった。
この状況から自身の居所を探り当てて救出するのは至難。是が非でも、自分だけの力で脱出せねばならない。
活路はあった。
こうして殺されずに放置されている以上、誘拐した人物にとって自身に何らかの価値があるのは想像に難くない。
交渉で時間を稼いでもいいし、だんまりを決め込んで油断を誘う手もある。そして、何よりも――――
いや、目下最大の心配事は、吸血鬼に操られていた生徒達の安否だ。
自身に価値があったとしても、生徒達に同じように価値があると考えるのは安直に過ぎる。
彼等の安否に対して、祈ることしかできない自分に歯痒さを覚えながらも、ふつふつと湧き上がる怒りを糧として自身を奮い立たせた。
それから、どれほどの時間が立っただろうか。
扉の向こうから、何者かの足音と気配が近づいてくるのを悟り、東は部屋の扉を睨みつける。
足音は階段を下っているらしく、扉の向こう側は長い廊下という訳ではなく、地上へと続く階段であるらしい。
東が活路はあると判断した最大の理由は、扉の向こうから現れた男にこそあった。
「よぉ、久し振りだな、クソ対魔忍。弐曲輪 虎太郎……!」
「あらら、バレてた。流石の勘の良さだ」
意識を失う直前に聞いた声の主が、学園を訪れた対魔忍の一人であることには思い至っていた。
ただ、その理由が東には思いつかなかった。同盟を結ぶ運びとなっているにも拘らず、自ら同盟を破綻させるような真似をする理由が分からない。
吸血鬼と繋がって甘い汁を啜りたいというのならば納得であったが、自身を手土産にするのなら疾うの昔に引き渡しは終わっているはず。
何より、吸血鬼共の襲撃に合わせるのは頂けない。アレでは邪魔をしたも同然であり、自分ならもっと上手くやれると示すはいいが、反感を買っては意味が無いだろう。
虎太郎は悪びれた様子を見せることなく、部屋の隅にあった椅子を引きずって来ると東の前に陣取り腰を下ろす。
その傍らには、一輪の花の如き女が――東は顔も名前も知らなかったが、言うまでもなくワイトである――控えていた。
「さて、何から話したもんか……」
「何もクソもあるか。生徒達は無事なんだろうなぁ……!」
「まあ、当然そうなるな。勿論、無事だ。ワイト、手錠を外してやれ」
「分かりました」
あらゆる嘘を許さぬ泰山府君の如き形相で問い質す東に、虎太郎は肩を竦めるばかり。
見上げたものだ。教師としての心構えが彼などとは比べ物にならない。自分の安全よりも、まずは生徒達の安全が確認できなければ、会話にすらならないだろう。
仕方ないと溜め息を付き、ワイトに鍵を投げ渡して外すように促す。
このままでは話にならないと判断してのものであったが、今この状況下でも教師であろうとする東に対しての敬意でもあった。
ワイトも同じ判断であったのか、鍵を受け取ると先に両脚を、次に後ろ手に拘束していた手錠を外していく。
其処からの東の行動は、迅速であった。
「ちょっと……」
「そうするだろうな」
「おかしな真似はするんじゃねえ! すれば、コイツがどうなるか、分かってるだろうな!」
後ろ手の拘束を片手だけ外された瞬間、東はワイトの背後に回り込んだ。
油断――いや、こうなることを予見していた二人ですらが対応できない速度は、流石に世界有数の狩人と称されるに相応しいものだ。
ワイトの首に片手を回した東は、もう一方の手に繋がれたままの手錠のストッパーと噛み合う返しの先端を首筋に押し当てる。
完全に追い詰められて人質をとった強盗の図であったが、東にしてみれば最後の手段だ。
問題なのは、虎太郎がこの程度で動揺するような精神の持ち主でなく、ワイトがこの程度で万が一にも死ぬ存在ではなかったことか。
ワイトは呆れ顔、虎太郎は納得の表情で頷いていたが、東は歯を剥いて威嚇していた。
「コイツの命が惜しけりゃ、生徒達はどうなってるかを答えろ! テメェ等の目的は何だ!」
「………………」
「うぉぉぉい!! 何処行こうとしてんだテメェ!!」
「え? いや、生徒達の安否を確認したいんだろ? オレがどうこう言うよりも、直接見た方が納得するだろう。付いてこい」
自らの問い掛けに何一つ答えることなく、そのまま部屋を出ようとする虎太郎に、東は驚きの余り目を剥いて叫び声を上げる。
返ってきたのは緊張感というものが全く欠如した言葉と声であり、こうも簡単に自分の意見が通るなどと考えていなかったのだろう。完全に肩透かしを食らっている。
会話と行動が噛み合わないのは当然のこと。
東と虎太郎では、今回の一件に対して持っている視点が違い過ぎる。
より俯瞰的に全体像を把握しているのは、虎太郎の方であり、大した会話をしていないのであれば、彼の行動が突飛なものに映るのも無理はない。
「ああ、そうそう。ソイツを人質に取るのは勝手だが、手を出すな。どの道、殺せはしないだろうが、手を出されれば、こっちも手を出さなきゃならねぇからな」
「………………っ」
部屋を出ようとする直前、槍のように鋭い視線と忠告の言葉で貫かれた東は引き攣った笑みを浮かべる。
初対面の折、こんな男に何の脅威も覚えなかった自分の間抜けさを痛感したからだ。
未だに強さは判断しかねるが、直感はこの男を敵に回すべきではないと告げていた。
「ほら、行くわよ。旦那様の後を付いていって。それから、腕の力を緩めてくれると嬉しいのだけれど……」
「…………えぇい、クソっ!!」
脅迫で重要なのは、勢いだ。
勢いさえあれば、
しかし、この場においてアドバンテージを握っているのは間違いなく虎太郎なのは誰の目から見ても明らかだ。
どういう理由かは不明であるが、ワイトを人質に取ったのは失策であったと虎太郎の態度、人質の落ち着きぶりからも明白だ。
ワイトに人質としての価値がないのか。それともワイトが死なない理由があるのか。ワイトが死霊騎士であり、不死者であると知らない東には困惑と動揺しか浮かんでこなかった。
盛大な舌打ちと共に、虎太郎に開け放たれたまま扉を、
予想通りに扉の直ぐ向こう側は階段となっており、先に部屋を出た虎太郎が両手をポケットに突っ込んだまま登っていた。
階段に電灯の類はなかったが、階上から入ってくる太陽光によって足元に気を使う必要はない。
二人に対しての警戒を緩めずに、階上へと登れば左右へと廊下が伸びており、階段側には壁と部屋への扉が、反対側には無数の窓が並んでいた。
太陽の眩しさに目を細めた東だが、チラリと窓の外の光景に視線を飛ばした。
(太陽の位置的に時間はほぼ合ってるが……周りは森か。国道沿いにあった潰れた工場だな)
錆塗れになった外壁の工場とフェンス。その向こうには生い茂る森林が見て取れた。
建物の外観には見覚えが有り、すぐに国道に面した廃工場であることは分かったが、見えてくるのは嬉しくない事実。
生徒を解放できたとしても、此処から数キロに渡って民家や街はない。解放したばかりの生徒を伴っては逃げ切ることは不可能だ。
これまでの虎太郎の立ち回りを鑑みるに、見えてくるのは慎重で冷徹な精神性だ。
万が一、生徒達を解放できたにせよ、自分一人で助けを求めに出ても、戻ってきた頃には既に撤収しているに違いない。
(何か、手を考えねぇとな。ったく、こういうのは苦手なんだよぉ、あたしはよぉ……!)
こういった頭脳労働や作戦立案は、基本的に北絵や他の同僚の仕事だった。
東の担当は現場指揮や肉体労働が中心で、後は現実に沿った行動と勘による補佐が殆ど。
真っ当な方法など思いつかず、頭に浮かんでくるのは鬼切を取り戻しての大立ち回りばかり。到底、上手くいくとは思えない。
相手の力量が分からない以上、本当に最後の手段にしなければならない。生徒達を確保できたとしても、無事に帰せるかどうかはまた別の問題だ。
兎に角、今は自身の置かれた立場と現状を把握するのが最優先と割り切り、虎太郎の後に続いていった。
「此処だ」
内装からして、事務所と研究棟が一体となった雑居ビルの内部と見られた。
暫く廊下を進んだ先にあった一室へと足を踏み入れる。
恐らくは社員用の仮眠室だったのだろう。穴の空いた遮光カーテンから漏れる木漏れ日が、淡く部屋を照らしている。
複数並べられたベッドには、生徒達が寝息を立てて眠っていた。腕からは点滴の針とチューブが伸びていたが、それ以外に目を引くようなところは皆無だった。
虎太郎は壁により掛かり、どうぞ、とでも促すように生徒に向かって手を差し出す。
自分が彼の想定通りに動かされていることを理解して、苛立ちを覚えながらもワイトを解放せずに生徒へと向かい、その首筋に指を伸ばす。
暖かに一定のリズムで伸縮を繰り返す脈の感触に、東は其処でようやく大きく息を吐いた。
取り敢えず、生徒の安全こそ確保できていないが、生徒の無事だけは確認できた。教師たる彼女にとってこれ以上に安堵できるものはない。
「全員無事だ。吸血鬼どもにどんな暗示や洗脳が施されているか分からんから眠らせてはいるがな。それから、ほらよ」
「おぁっ!? …………テメェ、何が目的だ」
この部屋に置いていたであろう鬼切を投げて寄越された東は、驚きの声を上げながらも受け取った手に馴染む己の得物に困惑を隠せずにいた。
生徒達は完全に無事。寧ろ、保護されていたと考えてよい状態。また触れた感触からして幻術やダミーの類ではないのは明らか。挙句、無警戒にも得物を投げて返す始末。
これで吸血鬼や魔族と繋がりがあり、自身の実力に絶対の自信のあったとしても只の馬鹿でしかない。
いよいよもって、あの手荒い方法が、保護を目的としたものとしか判断できなくなってしまった。
「オレは敵じゃない。あの場でお前とゴタつきたくはなかっただけでな。まあ、手荒くなったことは謝罪するが…………そろそろ、ワイトを離して貰えるか?」
「……チッ」
「ワイト、お前も余計な真似はするなよ」
「もう、此処で腹立ち紛れに襲いかかるほど、私は子供ではありません」
東にしてみれば腸が煮えくり返る思いであったが、それ以上に虎太郎の目的を知る必要性を感じていた。
舌打ちをしながらワイトの首に回していた手を解くと、人質は虎太郎のからかうような言葉に唇を尖らせて離れていった。
三者三様の表情であったが、互いの動きを警戒し、一挙一投足に注意を払っているのは明白。
ピンと空気が張り詰めていく中、目的を話し出すまでは口を開くつもりのない東の沈黙に、虎太郎が口を開いた。
「先にも言ったが、オレは敵じゃない。明確に味方とも言えんがな。オレが動いているのは、アンタが薄々察していることだ」
「…………何の事だ?」
「疾うに理解していることを
「………………」
確かに、北絵からは
まるで敵を前にした時のような、背筋に虫でも這い回っているかの如き不快感。
数週間前は気の所為としか思えなかったものではあったが、昨日のそれは露骨ですらあった。東自身、僅かな隙も見せられないと考える程に。
それに加えて、己の体調もあった。ここ数日の体調は最悪の一言に尽きる。
身体は否応なしに熱くなり、衣服の擦れですらが官能を呼び起こす。叫び出したくなるような劣情に、何度他人に八つ当たりしそうになったことか。
十分な睡眠時間を取っているにも拘らず、身体は倦怠感と眠気で思うように動かない。生徒達への授業に身が入らないほどだ。
対魔忍の調査能力は、同盟の席で十二分に理解してはいたものの、こうまでピタリと言い当てられては東の目が丸くなるのも無理はなかった。
「アンタ等がおかしなことになってるのはな、隼人学園に潜り込んだグラムが原因だ」
「ハっ。馬鹿か、テメェ。奴ならもう――――」
「死んでいる、か? これを見ても、同じ台詞を吐けるかな……?」
「……ッ…………ハっ……」
当然、そのような台詞が返ってくると分かりきっていた虎太郎は、素早く手持ちの端末を操作する。
すると、無数の空間ウインドウが部屋中に展開され、その全てに凄惨な映像が映し出された。
死んだはずのグラムに跪き、蕩けた表情で奉仕を繰り返す北絵。
グラムの部下であろう吸血鬼に囲まれ、便器のように扱われるマリカ。
そして、全く身に覚えのない、生徒達に陵辱される自分自身の姿。
グラムが生きていたのはまだいい。
如何に傍系と言えども吸血鬼の王家の血を引く輩。自身の知らぬ異能によって生き延びていたとて驚きはあるが不思議はない。
隼人学園に吸血鬼が侵入しているのはまだいい。
人界の技など、魔界の者共には殆どが通用しない。のさばる吸血鬼どもも元は魔界から生まれ落ちた魑魅魍魎。人には知り得ぬ秘術を以て潜り込むことは不可能ではない。
目の前の陵辱も許容しよう。
北絵にせよ、マリカにせよ、己にせよ、所詮は闇の住人。
幸せな結末に至れるのならば良し。だが、凄惨な結末とて可能性の一つとして覚悟はしていた。
だが――――だが、陵辱に、生徒を加担させたことだけは許せない。
「――――っ!!」
「旦那様っ!」
ふつふつと湧き上がる赫怒に、東は気がつけば地を蹴っていた。
向かう先は、言うまでもなく虎太郎だ。
これだけの映像を手にしているということは、この陵辱を看過したも同然。
止めようとすれば出来たものを、手出しどころか警告すらしなかったのであれば、彼もグラムと同じく生徒を利用したことになる。
自分達の甘さによって引き起こされた事態であろうとも、グラムの狡猾さに自身達が及ばなかった事態であろうとも、許せる筈もない。
ワイトは獣の如く吠えながら襲いかかる東と動こうとしない虎太郎の間に割って入ろうとするが、虎太郎に片手で制される。
振り上げられた鬼切は一直線に頭部へと振り下ろされ――――
「ふっ……! ふっ……! ふぅーっ!」
「……よく我慢したじゃないか。正直、頭を割られるくらいは覚悟してたんだがな」
「うるせえっ……!!」
――――直前に、背後の壁へと叩きつけられたことで、頭へと至ることはなかった。
コンクリート製の壁には無数の罅が奔り、大きく凹んでいる。
壁に埋まっている鉄筋すらも拉げているのだろう。壁に直撃した瞬間、建物全体が揺れた程だ。打ち込む場所が壁ではなく、大黒柱であれば間違いなく倒壊していたに違いない。
そんなものが間近で止まったにも拘らず虎太郎の顔色一つ変えていない。寧ろ、顔を蒼くしていたのはワイトの方だ。
彼に殺されない確信があったのではなく、殺される覚悟を決めていただけのこと。
誰であれ、自らや属する組織の利益を優先するのは当然。心情としても、同じだろう。
事実、虎太郎は自らの利益のために隼人学園での出来事を黙認した。彼とて東の立場であれば怒りを覚えるに違いない。
故に、敢えて怒りを受ける道を選んだ。
受けていれば頭蓋が砕けて脳漿を撒き散らす悲惨な事態になっていたであろうが、ワイトに告げることなく不死者としての能力を既に奪っている。
痛みと脳漿が掻き回される不快感にさえ耐えれれば、死ぬことだけはなかった。
「……詳しくだ! もっと詳しく話せ! 洗い浚いな!」
「勿論、そのつもりだ。話が早くて助かるよ」
怒りは完全に治まっていなかったが、話を聞くだけの冷静さを取り戻したのか。
東は怒鳴り声を上げながらも、手近にあった椅子を掴むと音を立てて腰を下ろす。
歯を剥き出しにした威嚇の表情をしていたものの、鬼切を手放して壁に立てかけたのは、虎太郎の話に乗るという意思表明でもあった。
其処から虎太郎は順序立ててこれまでの経緯と進めてきた準備を説明する。
グラムとは隼人学園を訪れる以前に対面を果たしていたおり、寄生蟲の存在も既知であったこと。
隼人学園を訪れた時点でグラムの存在に気付いており、また北絵も既に敵に取り込まれていたこと。
多くの陵辱を見逃したのは、グラムの存在と寄生蟲の拡大を防ぐための措置であったこと。
学園で孤立無援の状態となったカーラは、他の三人と同様に陵辱と調教を受けていること。
更には、カーラを狙った米連の一部隊が隼人学園付近の工場に潜伏していること。
全てを包み隠さずに語った上で、自らの作戦をも伝える頃には、東の怒りも静まっていた。
それは自分達を一度は見捨てた張本人が、最も命を賭けねばならない作戦だったからだろう。
「…………成程な。
「特にないな。殺されそうだったから助けたまでだ。あわよくば戦力に、とも思ったが、先刻の一撃でそれも無理なことも分かったしな」
虎太郎の率直な物言いに、東はまたしても大きく舌打ちする。彼女自身、先の一撃で痛感していたようだ。
度重なる陵辱によって進行した寄生蟲の癒着。更にはアムリタの投与による禁断症状。
どちらか一方であれば、まだ抑えようも堪えようもあったが、二つとなれば如何ともし難い。
寄生蟲は霊力の発露を阻害し、禁断症状は身体の動きを妨げる。
呆れた話ではあるが、先の一撃は純粋に鍛え上げられた身体能力だけで生み出されていたらしい。
とは言え、それでもなお、カーラ、マリカ、北絵、グラムとその部下を相手にするには十分とは言えない。
「それじゃあ、アンタの血を飲めば、どうだ?」
「無理だな。量も時間も足りない。オレの体液に潜むウイルスが馴染んで寄生蟲を除去するまでには時間がかかり過ぎる。今回の作戦で戦力として数えられるようになる頃には全てが手遅れになってるだろうよ」
「クソっ、駄目か……」
「素直に、此処の生徒のお守りでもしていてくれ――――」
生憎と時間も血の量も足りなかった。
ウイルスが寄生蟲を死滅させるまでの時間の長短は、体内に取り入れたウイルスの数による。
ウイルスは自己増殖を繰り返すものの、宿主の免疫機能に対応するまでの間は潜伏状態を維持する。
対応した後は増殖し、一定数に達した時点で寄生蟲への攻撃を開始する仕様なのだ。
作戦決行まで残り三日。
東が戦闘可能状態にまで復帰するには、アルフレッドの計算では3ℓもの血液を必要と目されている。
作戦内容上、虎太郎の不参加は許されず、それだけの血をいま抜いてしまえば戦闘など不可能だ。
かと言って、今までに溜めてきた血を使う訳にも行かない。それでは生徒と教師に投与する必要量が足りなくなり、グラムを取り逃がす可能性が発生してしまう。
「――――と思ったが、そうだな。方法がないわけじゃない。もっとも、アンタには面白くない方法だろうがな」
「何だよ、勿体ぶらずに言えって」
「これから、アンタを抱く」
「……………………………………………………お前、頭おかしいんじゃねぇの?」
何を言ってるんだ、お前は状態になった東は顔を引き攣らせたまま率直な感想を漏らした。
記憶は思い出せないが、映像では間違いなく己は陵辱されていた。そんな相手に向けて、身体を差し出せと宣言するなどどう考えてもキ○ガイ沙汰である。
少なくとも東にとっては全く話が繋がっていない。
虎太郎が桐生の作成したウイルスについて説明したのは、あくまでも血液の中に潜むとだけ。唾液や精液の中にも潜み、精液の中により多くが潜むとは語っていなかった。
「何でだよ! 意味分からねぇよ! どういうことだ! どうしてそんな仕様にした! 言えっ!!」
「知るかぁああぁあぁあぁぁぁあぁぁ!! こっちが聞きてぇよぉぉおぉぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉっっっ!!!」
「だ、旦那様! 落ち着いて!!」
東の憤慨は仕方がない。
男に抱かれるのは初めてではないが、碌に知らない男へ簡単に身体を開くような尻軽女ではない。はい、そうですかとすんなりと納得する筈もなかった。
だが、それ以上に憤慨したのは、改めて訳の分からない仕様を指摘された虎太郎であった。
仮設本部で見せたような狂乱ぶりと変わらない狂態。絶叫と共に椅子から勢いよく飛び上がると、天井に激突した。
今回は年月によって風化していたが故にか、頭だけが天井を突き破り、首吊り死体のような有り様になってしまっている。
ワイトは慌てて虎太郎の足を掴んで引き摺り下ろしたが、本人は受け身も取れぬままに床へと叩きつけられた。
虎太郎は顔を茹蛸のように真っ赤にすると、嫌だ嫌だとその場でゴロゴロと身体を転がし始める。
「ふざけんなふざけんなふざけんな! いいじゃねぇか、普通のワクチンとかでさぁ! こんな訳の分からねぇ仕様にする意味が分からねぇ! 無駄に手の込んだ仕様にしやがって、嫌がらせも大概にしとけや桐生ぅぅぅぅうぅぅぅううぅぅっっっ!!!」
「お、落ち着けよ」
「――――で、どうする?」
「うわぁ!? 急に落ち着くなぁっ!!」
余りの切り替えの速さに、東も思わず悲鳴を上げた。
恐るべき速さである。先程まで真っ赤だった顔が平常時にまで戻っているのだから大したものだ。
精神力が訳の分からない方向に突き抜けてしまうと、これも当然なのだろうか。傍目から見れば、情緒不安定にしか見えないが。
困ったのは東だ。
こんな相手に抱かれるなど御免被りたかったが、学園の助けになりたかった。
此処で四人の生徒達を守る必要性は理解していたが、グラムが手を出してくるとは考え難い。
今、グラムはカーラに掛かりきり。米連の手によって行方不明になったと思われる東と生徒をわざわざ探し出すとは思えない。ちょうどよいタイミングで処分してくれたと思っていることだろう。
ならば、これは間違いなく好機だ。
自分が恥辱に耐えることで、生徒の助かる可能性が跳ね上がるのなら迷いはなかった。
「分かった。お前に身を任せる。もう何度も犯されてるんだ。今更、一人や二人増えたところで変わりゃしない」
「その思い切りの良さは嫌いじゃないぜ?」
「ハっ、お前みたいなクソ野郎に褒められても嬉しくねぇよ…………そ、それでよ」
「「…………?」」
腹を括った筈の東の顔が、僅かばかりに朱に染まる。
何事かと虎太郎とワイトは顔を見合わせたものの、思い当たる節などなく、首を傾げるばかり。
「だ、だから、シャワーくらい、浴びさせろよ。昨日から風呂に入ってねぇから、クセェだろうし……」
「此処、廃墟だぞ。そんなもんねぇよ」
「じゃあ、代わりのもんを寄越せ! 水とタオルくらいはあるだろうが!!」
ぐあ、と大口を広げての怒鳴り声にワイトと虎太郎は呆れ顔だ。
それこそ今更だろう。気にするところを間違えていた。どの道、これから先の行為に体臭など殆ど気にならなくなる。
(ワイトさんワイトさん、これは一体……!)
(旦那様、これは女としての勘ですけど、この女、昔の恋人にでも体臭を指摘されたことがあるんじゃ? 女を磨いている様子もないですし)
(うーん、ガサツなのに心は乙女といった所でしょうか、ワイトさん?)
(見たところ、そのガサツな所を気にしているようですからね。その分、チョロそうですね。可愛いとか綺麗とか言われるとコロっといっちゃいそうです)
(女の勘ってすげー、其処まで分かるもんなの……?)
(その上、捕まるのは軽薄で碌でもない男ばかりでしょうね。そういった男に限って、口ばかりは達者ですから。都合の良い女扱いばかりされていそう……)
「聞こえてんだよ、お前らぁ……!」
ワイトの言葉は的を射ていたのか、真っ赤な顔は羞恥と言うよりも怒りによって染め上がっている様子。
顔の前で握られた拳と額に立っている青筋が、何よりの証拠であった。
ともあれ、東の腹は決っている。自らの発言を翻す真似はしない。
ワイトの勘が正しかったどうかは、東が語らなかった以上、永遠に闇の中である。
はい、と言う訳で、ヤンキー先生目覚める&ヤンキー先生仲間になる&ワイトと御館様が勝手に過去を推察する、の回でした。
次こそエロや。今度こそエロなんや……!
こう若干以上にご都合主義だが、これくらいの前振りがないとエロに持っていけんのや!
では、次回はワイトも交えて東先生とエロ! お楽しみに!